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MEDICALLY REVIEWED BEAUTY & HEALTH
からだの変化

更年期、我慢しなくていい
——HRT・漢方という選択肢を知る

このサイトでは、これまで何度も「つらいときは我慢せず受診を」と書いてきました。でも、こう思われた方も多いはずです。「受診して、いったい何をしてもらえるの?」——今回はその答えです。更年期の不調には、実はいくつもの治療の選択肢があります。ただ、正しく知られていないために「怖い」「大げさ」と敬遠されがちでもあります。宣伝でも脅しでもなく、学会の情報にもとづいて、フラットに整理します。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年7月31日 読了:約11分

1. 先に結論

論点 この記事で言えること
受診したら何ができる? 日本産科婦人科学会は治療として①ホルモン補充療法(HRT)②漢方薬 ③向精神薬を挙げています。「様子を見ましょう」だけではありません。
HRTは何に効く? ほてり・のぼせ・発汗といった症状に特に有効とされています。
HRTは危険? 同学会は、乳がんのリスクは飲酒など生活習慣によるリスクと同程度かそれ以下と説明しています。ゼロではないが、過度に恐れる水準でもありません。
誰でも受けられる? 🚨 いいえ。乳がんの既往がある方など、受けられない場合があります。必ず診察のうえで判断されます。
漢方は? 当帰芍薬散・加味逍遥散・桂枝茯苓丸などが体質や症状に応じて使われます。HRTが使えない場合の選択肢にもなります。

この記事は、特定の治療をおすすめするものではありません。「選べる道がいくつかある」と知っていただくことが目的です。実際に何を選ぶかは、診察を受けたうえで医師と決めてください。

2. なぜ「我慢するもの」になってしまうのか

診察室で更年期の相談を受けていて、いつも感じることがあります。多くの方が、ずいぶん長く我慢してから来られるのです。「もっと早く相談してよかったのに」と思うことが、本当によくあります。

なぜ、そうなってしまうのか。理由はいくつかあると思います。

もう一つ、見過ごせないのが周囲の理解の問題です。更年期の不調は外から見えません。だから「気分屋」「体調管理ができていない」と受け取られてしまうことがある。そして本人も、そう見られるのが嫌で「大丈夫」と言ってしまう。この積み重ねが、受診をさらに遠ざけます。ですが、体の中で実際に起きている変化に対して、我慢で対抗する必要はないのです。

どれも自然な感覚です。ただ、ここで一つ整理しておきたいことがあります。更年期という変化そのものは病気ではありません。けれど、その変化によって日常生活に支障が出るほどつらい状態は「更年期障害」と呼ばれ、医療の対象になります。「自然な変化だから我慢する」と「つらさに対して手を打つ」は、両立するのです。

更年期そのものの仕組み——エストロゲンが「減る」より先に「揺れる」こと、症状が人によって大きく違うこと——については40代からの体の変化 完全ガイドで詳しく整理しています。この記事は、その先にある「では、どうするか」を扱います。

3. 治療の全体像——3つの柱

まず地図を示します。日本産科婦人科学会は、更年期障害の治療として次の3つを挙げています。

治療 どんなもの 向きやすい場面
ホルモン補充療法
(HRT)
減ったエストロゲンを少量補う ほてり・のぼせ・発汗といった症状が中心のとき
漢方薬 体質や症状に合わせて処方 症状が多彩なとき、HRTが使えない・使いたくないとき
向精神薬 気分の落ち込みや不安、不眠などに対して 心の症状が前面に出ているとき

大切なのは、これらは択一ではないということです。症状の出方によって組み合わせることもありますし、まず生活の見直しから始めることもあります。そして、どれを選ぶかは症状の種類と強さ、体の状態、ご本人の希望によって変わります。だからこそ、診察が必要なのです。

もう一つ。同学会のページには、症状によっては他科への受診をすすめることがあるとも書かれています。更年期の症状に似た不調は、甲状腺の病気や貧血などでも起こるためです(→その疲れ、甲状腺かも鉄不足(フェリチン))。「更年期だと思っていたら別の原因だった」を見つけられるのも、受診の価値の一つです。

4. HRTとは、何をする治療か

3つのなかで、いちばん誤解が多いのがHRTです。ここは丁寧に見ていきます。

減ったぶんを、少量補う

更年期の不調の背景には、エストロゲンという女性ホルモンの揺らぎと減少があります。HRTは、その減ってしまったエストロゲンを少量補う治療です。日本産科婦人科学会は、ほてり・のぼせ・ホットフラッシュ・発汗といった、血管が開いて熱を放出するときの症状に対してHRTは特に有効と説明しています。

ここは押さえておく価値があります。HRTは「更年期のすべての症状に等しく効く万能薬」ではなく、とくに得意な症状があるということです。ですから「ほてりや汗がつらくて生活に支障が出ている」という方には、有力な選択肢になり得ます。

なぜ2種類のホルモンを使うのか

HRTの説明を読むと、「エストロゲンと黄体ホルモンを組み合わせる」と出てきます。なぜ2種類なのでしょうか。

同学会は理由を明確に述べています。エストロゲン投与による、子宮内膜増殖症や子宮内膜がんのリスクを減らすためです。エストロゲンだけを補うと子宮の内膜が厚くなりやすく、そこにリスクが生じます。そこで黄体ホルモンを併せて使い、それを抑えるわけです。

つまりこの組み合わせ自体が、安全性への配慮だということです。「わざわざ2種類も薬を使うなんて」ではなく、「リスクを下げるために設計されている」と理解すると、印象が変わるのではないでしょうか。なお、子宮を摘出された方ではエストロゲン単独が用いられることもあり、こうした判断も診察のうえで行われます。

投与のかたちはいくつかあります。飲み薬のほか、皮膚に貼るパッチ、皮膚に塗るジェルなど、複数の方法があります。体質や持病、生活スタイルによって適したものが変わります。「薬を飲むのは抵抗がある」という方でも、別のかたちなら選択肢になることがあるので、その希望も遠慮なく医師に伝えてください。

5. HRTのリスクを、正確な大きさで知る

ここが、この記事でいちばん大切な部分です。HRTを避ける最大の理由が「乳がんが怖い」だからです。

「同程度かそれ以下」という表現

かつて、HRTと乳がんのリスクが大きく報道された時期がありました。その影響は今も残っていて、「ホルモン補充=がんのリスク」というイメージを持つ方は少なくありません。

では、現在はどう説明されているか。日本産科婦人科学会のページには、こう書かれています。以前HRTによる乳がんのリスクが強調された時期があったが、今ではHRTによる乳がんのリスクは、飲酒など生活習慣による乳がんのリスクと同程度かそれ以下であることが分かっている——と。

この表現を、どう受け取るか

大切なのは、「リスクはゼロ」とは書かれていないことです。同時に、「特別に大きなリスク」だとも書かれていません。飲酒という、多くの人が日常的に受け入れているリスクと同じくらいか、それ以下。これが現在の位置づけです。

つまり判断すべきは「危険か安全か」ではなく、「そのリスクを引き受けるだけの利益が、自分にあるか」です。毎日つらいほてりで眠れず、仕事にも支障が出ているなら、天秤の傾きは変わってきます。逆に症状が軽ければ、無理に選ぶ必要もありません。これはあなたの生活の質と天秤にかける判断であり、だからこそ医師と一緒に決めるのです。

このサイトでは、②の飲むコラーゲンの記事のように、根拠が乏しいものには「乏しい」と書いてきました。同じ姿勢で言えば——HRTには根拠があり、リスクも把握されており、それが数字として示されている。これは、根拠のはっきりしないサプリメントとは、まったく性格の違うものです。

🚨 受けられない人・注意が必要な人がいます

ただし、HRTは誰でも受けられる治療ではありません。ここは正確にお伝えする必要があります。

HRTが行えない、または慎重な判断が必要な場合があります

たとえば乳がんの既往がある方は、HRTの対象になりません。ほかにも、血栓症の既往、一部の子宮体がんなど、治療を行えない、あるいは慎重な検討が必要とされる状態があります。持病や既往、服用中の薬によっても判断は変わります。

だからこそ、HRTを始める前には問診・診察・必要な検査が行われます。「合うかどうか」を確かめる手順が、治療の一部として組み込まれているのです。乳がんの既往などでHRTが行えない場合にも、漢方薬や、症状によっては別の薬など、他の選択肢が検討されます。「HRTがだめなら打つ手なし」ではありません。

そして何より避けていただきたいのが、個人輸入などで自己判断でホルモン剤を使うことです。合うかどうかの確認も、開始後の経過を診る仕組みもないまま使うのは、この治療のいちばん大事な部分を捨てることになります。ホルモンに作用する薬は、体質や既往によって向き不向きがはっきり分かれます。「同じ症状の人が使っていたから」で選べるものではありません。

また、HRTを続ける間は定期的な受診と検診が組み合わされます。乳がん検診や子宮の検査を受けながら経過を見ていくのが基本です。「始めたら放置」ではなく、見守られながら続ける治療だと考えてください。

「一度始めたら、やめられない」わけではない

もう一つ、よく聞かれる不安があります。「始めたら一生続けることになるのでは」というものです。

そんなことはありません。更年期の症状は、体が低いホルモン水準に慣れてくるにつれて和らいでいくことが多く、症状の経過を見ながら、続けるかどうかを見直していきます。合わないと感じれば相談して変更・中止もできますし、投与のかたち(飲み薬・貼り薬・塗り薬)を変えるという選択もあります。

また、費用を心配される方もいますが、更年期障害の治療は保険診療で行われるのが基本です(美容目的など、内容によっては例外もあります)。「高額な自由診療を延々と続けることになるのでは」という心配は、まず当てはまりません。気になる場合は、診察のときに費用の見通しも尋ねてみてください。それも遠慮のいらない質問です。

6. 漢方という選択肢

もう一つの柱が漢方薬です。HRTが使えない方、ホルモンに抵抗がある方、症状が多彩な方にとって、現実的な選択肢になります。

日本産科婦人科学会によれば、更年期障害に主に処方される漢方薬は当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)・加味逍遥散(かみしょうようさん)・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の3種類で、患者さんの体質や症状に応じて選択されるとされています。

漢方薬 特徴(あくまで一般的な傾向)
当帰芍薬散比較的体力が低めで、冷えやむくみ、疲れやすさがある方に用いられることが多い
加味逍遥散いらいらや気分の揺れ、不安、不眠など心の症状が目立つ方に用いられることが多い
桂枝茯苓丸比較的体力があり、のぼせやほてり、肩こりなどがある方に用いられることが多い

漢方の面白いところは、「同じ症状でも、体質によって選ぶ薬が変わる」点です。西洋薬のように「この症状にはこの薬」と一対一で決まるのではなく、その人の状態全体を見て選びます。ですから、この表を見て自分で選ぶことはできません。あくまで「そういう考え方で処方される」という理解にとどめてください。

市販の漢方薬について。薬局でも同じ名前の漢方薬が買えます。手軽なぶん、自己判断で長く続けてしまいがちですが、漢方薬にも副作用はあり、体質に合わないまま続けても効果は期待しにくいものです。ある程度試して変化がない、あるいは症状がつらい場合は、市販品を重ねるより医療機関で相談したほうが近道です。ほかに飲んでいる薬がある方は、飲み合わせの確認も含めて薬剤師や医師に伝えてください。

効き方についても、期待値を整えておきましょう。漢方薬は、鎮痛薬のようにその場で切れ味を感じる種類の薬ではないことが多く、ある程度の期間続けて様子を見るのが一般的です。数日で「効かない」と判断するより、医師と決めた期間を試してから振り返るほうが適切です。逆に、合っていないまま漫然と続けるのも避けたいので、「いつ頃、どう判断するか」を最初に確認しておくと安心です。

なお、漢方とHRTは併用されることもあります。「どちらか一方を選ばなければ」と考える必要はありません。それぞれの得意分野を組み合わせて、症状全体をならしていく——そんな使い方ができるのも、選択肢が複数あることの利点です。

7. 受診の準備と、伝えるとよいこと

最後に、実際に受診するときの実務です。ここを知っておくと、ぐっとハードルが下がります。

どこへ行けばよいか

伝えるとよいこと

限られた診察時間で、うまく伝えられるか不安な方も多いと思います。次のことをメモしていくと、話がスムーズです。

項目 ポイント
いつ頃から、どんな症状か「半年前から、ほてりと汗が1日に何度も」など具体的に
生活のどこが困っているかここが最重要。「夜中に何度も起きる」「会議中に汗で集中できない」など
月経の状況周期の乱れ、量の変化、最後の月経がいつか
持病・服用中の薬・既往とくに乳がん・血栓症・肝臓の病気の既往は必ず伝える
家族の病歴乳がんなどの家族歴があれば伝える
希望と不安「ホルモン剤には抵抗がある」「まず漢方から試したい」も立派な情報です

とくに「生活のどこが困っているか」は、治療の要否を判断する軸になります。症状の激しさそのものより、それが生活をどれだけ妨げているか。ここを遠慮せずに伝えてください。「これくらいで受診していいのかな」と思う必要はありません。困っているなら、それが理由として十分です。

そして、断ってもいい。受診したからといって、その場で治療を始めなければならないわけではありません。「説明を聞いて、いったん持ち帰って考えます」で構いません。選択肢を知ったうえで「今は様子を見る」と決めるのは、何も知らずに我慢し続けるのとは、まったく違います。知ったうえで選ぶ——それがこの記事の目指すところです。

8. よくある質問

更年期の治療には、どんな選択肢がありますか?

日本産科婦人科学会は、更年期障害の治療として、ホルモン補充療法(HRT)、漢方薬、向精神薬を挙げています。症状の種類や強さ、体の状態、ご本人の希望によって選ばれ、組み合わせて使うこともあります。どれが合うかは診察のうえで医師と相談して決めるものなので、自己判断せず、まず受診してください。

HRT(ホルモン補充療法)は、どんな症状に効くのですか?

日本産科婦人科学会の説明では、ほてり・のぼせ・ホットフラッシュ・発汗といった、血管が開いて熱を放出するときの症状に対してHRTは特に有効とされています。減ってしまったエストロゲンを少量補う治療で、通常はエストロゲンと黄体ホルモンを組み合わせて使います。これはエストロゲン単独投与による子宮内膜増殖症や子宮内膜がんのリスクを減らすためです。

HRTは乳がんのリスクが高くなると聞きました。危険ではありませんか?

以前リスクが強調された時期がありましたが、日本産科婦人科学会は現在、HRTによる乳がんのリスクは飲酒など生活習慣による乳がんのリスクと同程度かそれ以下であることが分かっている、と説明しています。つまりリスクはゼロではないものの、過度に恐れる必要はない水準ということです。ただし乳がんの既往がある方などは受けられません。定期的な検診を受けながら、医師と相談して判断してください。

漢方薬はどのように使われるのですか?

日本産科婦人科学会によると、更年期障害に主に処方される漢方薬は当帰芍薬散・加味逍遥散・桂枝茯苓丸の3種類で、患者さんの体質や症状に応じて選択されます。同じ症状でも体質によって選ばれる薬が変わるのが特徴です。HRTが使えない場合の選択肢にもなり、HRTと併用されることもあります。市販品もありますが、自己判断で続けず医師・薬剤師に相談してください。

何科を受診すればよいですか?

更年期の症状が中心なら婦人科が専門です。日本女性医学学会は、更年期を含む女性のヘルスケアを専門とする医師の制度を設けており、学会のサイトから地域別に探すことができます。一方、疲れや体重の変化など全身の症状が強い場合は、内科で鉄や甲状腺などを確認してもらうところから始めても構いません。迷ったら、ふだんかかっている医療機関に相談してみてください。

この記事のまとめ。更年期の不調がつらいとき、選べる道はいくつもあります。日本産科婦人科学会が挙げるのはHRT・漢方薬・向精神薬の3つ。HRTはほてりや発汗にとくに有効とされ、気になる乳がんリスクについては「飲酒など生活習慣によるリスクと同程度かそれ以下」と説明されています。ゼロではないけれど、過度に恐れる水準でもない。ただし乳がんの既往がある方など受けられない場合があり、必ず診察のうえで判断されます。漢方は体質に応じて選ばれ、HRTが使えないときの選択肢にもなります。受診しても、その場で決めなくていい。まずは選択肢を知り、自分の生活の困りごとを伝えるところから始めてみてください。我慢を続けることだけは、選ばなくていい道です。

参考にした主な資料

なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。また、特定の治療法をおすすめするものでもありません。治療の適否は、症状・既往歴・持病・服用中の薬などをふまえて医師が判断します。ホルモン剤や漢方薬を自己判断で使用したり、個人輸入で入手したりすることは避けてください。乳がん・血栓症などの既往がある方は、必ず医師にお伝えください。掲載内容は公開時点の情報にもとづいており、内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。