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MEDICALLY REVIEWED BEAUTY & HEALTH
髪と頭皮

円形脱毛症
——「ストレスのせい」ではありません。そして、かつらは「強い推奨」です

2024年に改訂された円形脱毛症診療ガイドラインは、25の治療法すべてに推奨度をつけました。「強い推奨」はわずか4つ。そして11が「推奨しない」に分類されています。
この記事では、その一覧をそのままお見せします。あわせて、多くの方が長く自分を責めてきた「ストレスのせい」という説が、ガイドラインではどう書かれているかもお伝えします。
そして「強い推奨」4つのうちの1つは、かつらです。理由まで、きちんとご説明します。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年8月13日 読了:約17分

1. 先に結論

長い記事なので、先に要点をまとめます。

よく言われることガイドラインの記述
ストレスが原因「その程度や詳しい機序は不明」「誘因としての精神的ストレスはごく一部であるとされてきている」。心理療法は脱毛への効果としては推奨度3(推奨しない)
放っておけば治る範囲が狭ければ80%程度が1年以内に回復。ただし広い範囲に及ぶと回復率は5%まで下がる
とりあえず育毛剤やサロン25項目中11項目が「推奨しない」。PRP、LED・レーザー、ミノキシジル内服、漢方薬などが含まれる
かつらは最後の手段推奨度1(強い推奨)。「使用する希望がある患者には勧める」
重症だと打つ手がない2022年以降、重症例にJAK阻害薬が保険適用に。ただし条件は厳格

この記事でいちばんお伝えしたいこと。
円形脱毛症は自己免疫の病気であって、あなたの心の弱さや、我慢が足りなかったことの結果ではありません。
そして、やるべきことには順番があります。まず皮膚科で診断と範囲の評価を受け、保険診療の治療から始める。高額な自費の施術は、その後です。

2. 【核心】「ストレスが原因」は、どこまで本当か

円形脱毛症について、いちばん広く信じられているのがこの説です。そして、いちばん多くの方を苦しめてきた説でもあります。

「あのとき無理をしたから」「性格がまじめすぎるから」「もっと気楽に構えていれば」——診察室で、本当によく聞く言葉です。

ガイドラインの記述を、そのまま引用します。

HLA遺伝子タイプのアリルや免疫に関わる分子の遺伝子多型などの遺伝的素因を背景にして、疲労やウイルス感染症、ワクチン接種、出産や精神的あるいは身体的なストレスなどの環境因子が引き金となると推察されるが、明らかな誘因がないことも多い
精神的ストレスについては〔…〕発症・増悪に与える影響が示唆されているが、その程度や詳しい機序は不明である

——円形脱毛症診療ガイドライン2024

さらに、合併症を扱った項ではこう書かれています。

近年、誘因としての精神的ストレスはごく一部であるとされてきているが、Leeらによるシステマティックレビューでは、精神疾患を抱えた患者が49.4%と半数近く存在することが報告されている。

この2つの文が並んでいることの意味

「ストレスが引き金になるのはごく一部」。けれど「患者さんの半数近くが精神的な問題を抱えている」。一見矛盾するようですが、そうではありません。順序が逆なのです。

これを裏づける記述が、もう一つあります。ガイドラインは、生活の質について「脱毛の程度に限らずHRQoL(健康関連の生活の質)が低下することが知られ」ていると書いています。

範囲が狭くても、つらさは軽くない。「そのくらい気にしなくていいよ」という励ましが、ときに人を追い詰めるのは、このためです。

そして、治療としての心理療法は

ガイドラインは催眠療法・心理療法を推奨度3(推奨しない)としています。

脱毛症状の改善には十分な根拠のある研究はなく推奨しない。ただし、疾患が原因である精神的葛藤等やQOLの低下に関しては低いレベルでの有用性が示されており、実施を妨げるものではない

——CQ23

読み間違えないでいただきたいのは、これは「心のケアは要らない」という意味ではないということです。同じ解説文の中で、ガイドラインはこうも書いています——「担当医が患者の心理社会的サポートに配慮し発症後の苦痛などを傾聴することや心身医学的に介入することの重要性に異論はないであろう」

言われているのは、「心を整えれば髪が生えてくる」という因果は証明されていない、ということです。

もし今、ご自身を責めている方へ。
「ストレスのせい」と聞かされて、原因を探して過去を振り返り続けてきた方は少なくないと思います。
ガイドラインは、遺伝的な素因を背景に免疫のしくみが誤って毛根を攻撃する病気だと位置づけています。そして「明らかな誘因がないことも多い」
原因が見つからないのは、あなたの探し方が足りないからではありません。

ちなみにガイドラインは、この2024年改訂そのものの理由として、こう書いています。

インターネット、ソーシャルメディアなどの発達の影響を受け、疾患の病態あるいは治療法に関して正しい理解・エビデンスに基づいていないと思われる情報もみられる

学会自身が、ネット上の情報の状態を改訂理由に挙げているのです。この記事を書いている理由も、まったく同じです。

3. 髪の毛に、何が起きているのか

しくみを短く説明します。

髪にはヘアサイクルがあり、伸びている時期を成長期といいます。円形脱毛症で攻撃されるのは、この成長期にある毛包(毛を作る器官)です。

本来、毛包は免疫から攻撃されないように守られています(免疫寛容)。この守りが破れると、細胞傷害性T細胞という免疫細胞が毛包に集まり、毛を作る細胞を攻撃します。結果として毛が抜け落ちます。

ここで大事な点が2つあります。

そして、生命に関わる病気ではありません。ガイドラインは「本症の病変は毛包と爪甲に限られ、その生命予後は良好である」と明記しています。ただし同じ文の続きで、こうも書いています——「しかし、特に重症例では、患者の身体イメージが損なわれ、精神的苦痛となるばかりか、その学校・社会生活を困難にし、生活の質を低下させうるため治療への切実なニーズが存在する」

命に関わらないことと、深刻でないことは、別です。

4. 誰に、どれくらい起きるのか

まず年齢です。ガイドラインの一文が、すべてを言い表しています。

円形脱毛症は乳幼児期から高齢期まで幅広い年齢層に発症し、後天性に非瘢痕性の脱毛を生じる。

頻度については、ガイドライン自身が「確かな頻度は不明である」と正直に書いています。報告によって幅があるためです。

調べ方結果
米国の保険データ(2019年)有病率 0.222%
オーストラリアの診療記録(2020年末)有病率 0.13%(1,000人に1.26人)
米国ミネソタ州の15年間の追跡生涯発症リスク 1.7%
日本の多施設横断研究皮膚科を受診した患者の2.5%が円形脱毛症
日本のウェブ調査(45,006人)有病率 1.45〜2.18%
※ガイドライン自身が「調査の手法の限界による影響が大きく、実際の有病率より高い数値が算出された可能性がある」と注記

数字はばらつきますが、生涯発症リスク1.7%という推計を採るなら、およそ60人に1人が一生のうちに経験する計算になります。学校のクラスに、職場のフロアに、必ず何人かいる。それくらいの病気です。

「自分だけがなぜ」と思われている方に、まずこの数字をお伝えしたいと思いました。

もう一つ、あまり知られていない数字

2021年に日本で行われた調査から、ガイドラインは経済的な負担を紹介しています。

個人の悩みとして抱え込まれがちですが、社会全体で見れば、これだけの規模の問題です。

5. どこまで広がるか——分類と重症度

治療の選択は、「どの型か」と「どれくらいの範囲か」で決まります。ここを知っておくと、診察室での説明がぐっとわかりやすくなります。

特徴
単発型脱毛斑が1か所
多発型脱毛斑が複数。融合して広がることもある
全頭型脱毛が頭部全体に拡大したもの
汎発型全頭部の脱毛に加え、脱毛が全身に拡大するもの
蛇行型頭髪の生え際が帯状に脱毛するもの
びまん型境界のはっきりした脱毛斑を作らず、頭部全体が薄くなるもの

範囲は、頭部のうち何%が抜けているかでS0〜S5に分けます。

頭部の脱毛面積による重症度(S分類) S0 脱毛がみられない S1 頭部全体の 25%未満 ▼ ここから下が「重症症例」(S2以上) S2 25〜49% S3 50〜74% S4 75〜99% S5 100%(全頭)脱毛 ※このほか、頭部以外の脱毛の範囲をB0(なし)/B1(部分的)/B2(全身すべて)で表します
日本皮膚科学会「円形脱毛症診療ガイドライン2024」の重症度分類より作成。ガイドラインは「重症度と疾患の活動性に基づき、Bに関係なくS2以上を重症症例とした」としています。

このS2(25%)が一つの分かれ目です。治療の選び方が変わります。

診察で受ける検査について。
皮膚科ではヘアプルテストという検査をすることがあります。50〜60本ほどの毛の束を頭皮に近いところでつまみ、強い力を加えず優しく引く検査です。健康な頭皮なら抜けるのは2本以下で、10%以上抜ければ陽性=今まさに抜けやすい状態、と判断します。
ご自宅で強く引っぱって確かめる必要はありません。強制的に抜くのは別の検査で、目的が違います。
このほか、拡大鏡で頭皮を観察するトリコスコピーという検査もあり、他の脱毛症との区別に役立ちます。

6. どのくらいで戻るのか——回復率の数字

おそらく、いちばん知りたいところだと思います。ガイドラインの「予後」の項から、そのままお伝えします。

アトピー性疾患や内分泌疾患の既往のない、個々の脱毛斑の最長存続時間が1年以内である少数の脱毛斑の場合、80%程度の患者において1年以内に毛髪が回復することが本邦で報告されている。

ほかの報告もあわせると、こうなります。

そして、範囲と回復率の関係を示した長期の追跡研究があります。平均17.7年という、非常に長い観察です。

脱毛面積と、その後の回復率(平均17.7年の追跡) 脱毛面積 25%未満 68% 脱毛面積 50%未満 32% それより広い範囲 5% 読み取ること: 「治るかどうか」ではなく「今どのくらいの範囲か」で、見通しが変わる
日本皮膚科学会「円形脱毛症診療ガイドライン2024」予後の項に引用された長期追跡研究(191例)より作成。

この図が伝えているのは、「早いうちに、範囲を評価してもらう意味がある」ということです。

なお、15歳以下で発症した場合や蛇行型は、回復率が低いことも報告されています。一方で、急速に進んだのに急速に回復する型(acute diffuse and total alopecia)もあり、その一部は無治療で自然に回復します。経過は本当に人それぞれだということも、あわせてお伝えしておきます。

7. 爪を見てください。そして、隠れた合併症

爪という手がかり

先ほど「病変は毛包と爪甲に限られ」という一文を引用しました。爪、です。

慢性の重症例では点状陥凹などの爪甲変形がみられることが多く、発症時や再燃時期に一致して横一列線状に並ぶこともある。

点状陥凹とは、爪の表面に小さなくぼみが点々とできる変化です。針でつついたような、ごく小さなへこみです。

これはご自身で見られるサインです。爪のくぼみが横一列に並んでいれば、その線ができた時期に病気が動いていた可能性がある。診察のときに手を見せるだけで、医師に伝わる情報が増えます。

一緒に起きていることがある病気

円形脱毛症は自己免疫の病気なので、ほかの自己免疫の病気と重なることがあります。ガイドラインが挙げているものです。

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甲状腺疾患(橋本病など)疲れ・むくみ・体重変化があれば → 甲状腺の記事
鉄欠乏性貧血だるさ・動悸・抜け毛全般に関わります → フェリチンの記事
尋常性白斑、関節リウマチ、1型糖尿病、SLE、重症筋無力症
アトピー性疾患(喘息・アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎)
メタボリック症候群、ビタミンD不足、聴力・眼球の異常 ほか健診で拾えるものもあります → 健診結果の読み方

ガイドラインは「これらの合併症の有無を確認するために必要に応じて血液検査などを行ってもよい」としています。「円形脱毛症だから皮膚科だけ」ではなく、全身を一度見ておく機会だと考えてください。

アトピー素因との関係は、知っておく価値があります

日本の200例の報告では、本人や家族にアトピー素因があるものが54%、本人にアトピー素因があるものが41%でした。そして病型が重いほど、合併率が上がります。

病型アトピー素因の合併率
単発型13%
多発型33%
全頭型44%
汎発型50%
蛇行型57%

アトピーがあるから必ず重くなる、という話ではありません。ただ「アトピーがあります」と医師に伝えることには意味がある——そう理解していただければ十分です。

8. 【重要】治療の全体像を、推奨度で並べる

ここがこの記事の中心です。

2024年版のガイドラインは、25の治療法すべてに推奨度をつけました。しかも分類がとても明快です。

推奨度ガイドラインの定義
1:強い推奨推奨された治療により得られる利益が大きく、かつ、それによる負担を上回るため行うよう勧める
2:弱い推奨利益の大きさや有効性・安全性は不確実である、あるいは治療によって生じうる害や負担と拮抗していると考えられる
3:推奨しない判断の根拠となる情報の普遍性に乏しい、あるいは治療法が本邦の医療体制にそぐわないなどの理由から、現時点では勧められない

この物差しで25項目を並べると、こうなります。

円形脱毛症診療ガイドライン2024が評価した25の治療 推奨度 1 / 強い推奨 —— 4つ ・ステロイド外用(単発型〜融合しない多発型。12歳までの小児は重症度を問わず) ・ステロイド局所注射(成人・S1以下の限られた脱毛斑) ・JAK阻害薬など(広範囲・難治。3つの条件をすべて満たす場合に限る) ・かつらの使用 推奨度 2 / 弱い推奨 —— 10 局所免疫療法(S2以上に。ただし保険適用なし)/ステロイド内服・点滴パルス/ 抗ヒスタミン薬/セファランチン/グリチルリチン配合錠/カルプロニウム外用/ ミノキシジル外用/冷却療法/紫外線療法(PUVA・エキシマ・narrow-band UVB) 推奨度 3 / 推奨しない —— 11 ミノキシジル内服(未承認)/光線療法のうちLED・低出力レーザー・ スーパーライザー/シクロスポリン内服/メトトレキサート内服/ 生物学的製剤(デュピルマブを含む)/漢方薬内服/抗うつ薬・抗不安薬/ 免疫抑制剤外用/プロスタグランジン製剤外用/催眠療法・心理療法/ PRP(自己多血小板血漿)療法 お金をかけている順番と、評価の順番は、一致していますか。 ※「推奨しない」は「禁止」ではありません。根拠が足りない、または  日本の医療体制に合わない、という意味です
日本皮膚科学会「円形脱毛症診療ガイドライン2024」表1「CQ一覧と推奨度」(CQ1〜CQ25)より作成。推奨度の定義もガイドラインの記述にもとづきます。

推奨度1に並んだ4つを、もう少し

治療ガイドラインの推奨文
ステロイド外用「単発型から融合傾向のない多発型に対しては、1日1〜2回のstrong、very strong、strongestクラスのステロイド外用療法を行うよう勧める」。12歳までの小児には重症度を問わず推奨
ステロイド局所注射「単発型および多発型の成人症例に行うよう勧める」。原則S1以下。皮膚萎縮・疼痛・出血の副作用があり、小児には基本的に行わない
JAK阻害薬など「3つの条件をすべて満たす場合に限り勧める」(→10章で詳しく)
かつらの使用「使用する希望がある患者には勧める」(→11章で詳しく)

推奨度2で、知っておく価値が高いもの——局所免疫療法。
かぶれを起こす薬剤をわざと頭皮に塗り、免疫の反応をそらす治療です。範囲が広い場合(S2以上)に、年齢を問わず行ってもよいとされています。
システマティックレビューでの有効率は65.5%(斑状型74.6%、全頭型・汎発型54.5%)、完全に生えそろったのは32.3%。一方で再発率は48〜62%とも報告されています。
ただし保険適用がなく、薬剤は医薬品として定義されていないため、実施施設で試薬を調製し、承認手続きと同意を経て行う必要があります。行っている施設は限られます。
「かぶれるのは失敗」ではなく、軽度のかゆみが数日続く程度に濃度を調整していくのが、この治療の設計です。

9. 「推奨しない」に並んだ11——お金をかける前に

ここは、このサイトが最も書きたかった章です。

まず誤解のないように。「推奨しない=インチキ」ではありません。ガイドラインの定義どおり、「判断の根拠となる情報の普遍性に乏しい、あるいは治療法が本邦の医療体制にそぐわない」という意味です。

そのうえで、11のうち、街の広告でよく見かけるものを取り上げます。

治療推奨度ガイドラインの記述
PRP療法
(自己多血小板血漿)
3「推奨しない」。自費で高額になりやすい施術です
LED・低出力レーザー
スーパーライザー
3紫外線療法「以外」の光線療法として、まとめて推奨しないに分類
ミノキシジル内服3「十分なエビデンスがなく、副作用の出現が懸念され、さらに未承認薬であることから推奨しない」。動悸、頻脈、浮腫、顔面の多毛などが起こりうる
漢方薬の内服3「現時点では十分な根拠がないので推奨しない」。報告が「漢方薬」と一括りで、個々の薬剤の効果を判断できないため
抗うつ薬・抗不安薬3「現時点では十分な根拠がないので推奨しない」(脱毛への効果として)
催眠療法・心理療法3脱毛への効果としては推奨しない。ただし「実施を妨げるものではない」。なお「専門的トレーニングを受けていない者が実施することは避けるべき」とも明記

最後の一文——「専門的トレーニングを受けていない者が実施することは避けるべきである」——は、ガイドラインの中でも珍しく強い書き方です。カウンセリングを売りにした高額なコースをすすめられたときに、思い出していただきたい一文です。

市販の育毛剤について

ミノキシジル外用は推奨度2で、「併用療法の1つとして行ってもよい」とされています。ただし2点、押さえてください。

ドラッグストアの棚の前で迷っている方には、「その前に皮膚科へ」とお伝えしたいと思います。円形脱毛症のステロイド外用は保険診療で、費用の桁が違います。

順番の話をさせてください。

すでに自費の施術やサプリにお金を使ってこられた方を、責める意図はまったくありません。情報がなければ、目に入るものから試すのは当然のことです。

ただ、これから始める方には順番があります。

  1. 皮膚科で診断を確定する(円形脱毛症に似た別の病気がいくつもあります)
  2. 範囲を評価してもらう(S1以下か、S2以上かで治療が変わります)
  3. 推奨度1・2の、保険が使える治療から始める
  4. それでも難しいときに、次の選択肢を主治医と相談する

診断の確定が最初に来る理由。
ガイドラインは、区別すべき病気として、先天性三角形脱毛症、トリコチロマニア(自分で抜いてしまう癖。とくに小児で合併しやすい)、男性型・女性型脱毛症、休止期脱毛症、頭部白癬(かびの感染症。→頭部白癬の記事ステロイド外用が事態を悪くする点で、円形脱毛症とは治療が正反対です)、瘢痕性脱毛症、圧迫性・牽引性脱毛症、腫瘍性脱毛、梅毒性脱毛などを挙げています。
それぞれ治療がまったく違います。「円形に抜けている=円形脱毛症」とは限らないのです。

10. 重症のとき——JAK阻害薬という新しい選択肢

「重症だと打つ手がない」と言われた時代が、変わりました。

この治療はガイドラインで推奨度1、エビデンスレベルAです。25項目の中でエビデンスレベルAはここだけ——つまり、最も質の高い研究に支えられています。

効果の数字です。

試験結果(脱毛範囲が頭部の20%以下になった割合)
BRAVE-AA2(日本人を含む)
バリシチニブ・36週
4mg群 35.9%/2mg群 19.4%
(プラセボ群 3.3%)
ALLEGRO
リトレシチニブ・24週
50mg群 23.4%/30mg群 14.3%
(プラセボ群 1.5%)

プラセボとの差は明らかです。ただし、数字をそのまま希望と読み替えないでいただきたいので、ガイドラインが並べている注意点も、同じ重さでお伝えします。

(1) 本症は精神や気分へ深刻な影響を与えることがあるが、原則的には生命予後に影響を与えないこと
(2) 高価な治療で、しかも効果判定に半年程度の内服期間を要すること
(3) 免疫抑制等の有害事象を生じうること
(4) 長期投与の安全性は定まっておらず、心血管イベントや生命予後に影響する可能性があり、また悪性腫瘍の発生も報告されていること
(5) 疾病を完治させる薬剤ではなく、治療中止で再発例がみられること

——CQ6の解説より

そのうえでガイドラインは、3つの条件をすべて満たす場合に限り勧める、としています。

  1. 円形脱毛症の診断・治療に熟練した医師が在籍し、JAK阻害薬等を用いた治療環境が整った施設であること
  2. 添付文書に明記された適応をすべて満たし、治療上の有益性が危険性を上回ると判断されること
  3. 治療の開始・継続・中止について、患者自身と繰り返し共有できる状況を維持できること

適応の主な条件は、頭部全体のおおむね50%以上に脱毛があり、過去6か月程度、毛髪の自然再生が認められないこと。年齢はバリシチニブが15歳以上、リトレシチニブが12歳以上です。妊娠中・妊娠の可能性がある方は対象になりません。

該当しそうな方は、「JAK阻害薬の適応になりますか」と皮膚科で聞いてみてください。使用できる施設は届出が必要なため限られており、紹介が必要なこともあります。

11. かつらは「強い推奨」です

ここを、いちばん知っていただきたいと思って書いています。

かつらは「隠すもの」「治療をあきらめた人が使うもの」——そんなふうに感じている方が、少なくありません。ガイドラインの記述は、まったく違います。

CQ25 かつらの使用は有用か
推奨度 1(エビデンスレベル C)
使用する希望がある患者には勧める。

かつらを使用することは円形脱毛症の病勢に対する悪影響はなく、紫外線や外傷防御の点で推奨される

3つのことが書かれています。

そしてガイドラインは、最後にこう書いています。

海外ではかつらが医療用具として健康保険の対象となっている国もある。本邦においても病的脱毛症に対してのかつらは、医療法上認知されるべきであろう。

学会が、制度の遅れを名指ししているのです。「治療の一部として認められるべきものが、まだ全額自己負担になっている」——これが今の日本の状況です。

だからこそ、次の章が要ります。

12. ウィッグ購入費の助成——自治体で対象も金額も違う

健康保険は使えませんが、お住まいの市区町村が独自に助成している場合があります。そして、この制度はほとんど知られていません。

ただし——ここが最も大事な注意点です。

多くの自治体の制度は「がん治療による脱毛」に限定されており、円形脱毛症は対象外です。
一方で、対象を脱毛症全般に広げている自治体もあります。お住まいの自治体がどちらかで、結果がまったく変わります。

実際に、同じ首都圏の2つの自治体を比べてみます。どちらも自治体の公式ページに書かれている内容です。

横浜市練馬区
対象「抗がん剤治療等の副作用による脱毛症状等に対処するためにウィッグを購入した方」
→ 円形脱毛症は対象外
がん治療のほか「脱毛症(加齢・男性型・女性型除く)」、その他疾病・外傷も対象
→ 円形脱毛症は対象
上限1万円10万円(一人あたり・2回まで)
主な必要書類申請書/領収書のコピー/治療を証明する書類のコピー(お薬手帳、診療明細書など)申請書兼請求書/治療状況がわかる書類の写し/領収書等の写し/本人確認書類の写し
期限申請日から2年以内の治療購入日の翌日から1年以内に申請

対象になるかどうかも、金額も、10倍違います。制度を知らないまま全額を負担している方が、どれだけいるだろうかと思います。

調べ方——3ステップ

  1. 「お住まいの自治体名+ウィッグ 助成」で検索する。制度があれば、市区町村の公式ページが出てきます
  2. 窓口に電話して、こう聞く。「ウィッグ購入費の助成はありますか。円形脱毛症は対象になりますか」。窓口の名称は健康推進課・健康づくり係といった名前のことが多く、がん対策の担当部署が兼ねている場合もあります
  3. 買う前に確認する。多くは購入後の申請ですが、領収書治療がわかる書類が必要です。捨ててしまうと申請できません。上限額や対象品目(フルウィッグのみか、部分ウィッグや帽子も含むか)も、先に確認しておくと安心です

東京都にお住まいの方へ。
東京都はアピアランスケア支援事業として、ウィッグなどの購入費を助成する区市町村の取り組みを支援しています。実施主体はあくまで区市町村で、都のページも「助成の内容は区市町村によって異なりますので、お住いの区市町村にお問い合わせください」と案内しています。
都のがんポータルサイトに区市町村の一覧が掲載されていますので、そこから確認するのが早道です。

制度は年度ごとに変わります。この記事の内容も公開時点のものですので、必ず最新の情報をお住まいの窓口で確認してください。

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11章で書いたかつら(ウィッグ)です。円形脱毛症診療ガイドライン2024はCQ25で推奨度1(強い推奨)とし、「使用する希望がある患者には勧める」「病勢に対する悪影響はなく、紫外線や外傷防御の点で推奨される」と明記しています。
選ぶときは、医療用ウィッグのJIS規格(JIS S 9623)に適合しているかを目安にしてください。皮膚刺激性や遊離ホルムアルデヒドなどの試験に合格し、日本毛髪工業協同組合の認証を受けた製品には「M.Wig」マークが表示されています。

※ 当サイトは、記事のなかで根拠を示したうえで推奨したものに限り広告を掲載しています。購入の前に、12章のとおりお住まいの自治体の助成制度をご確認ください。健康保険は使えませんが、市区町村が独自に助成している場合があります。

13. お子さんに起きたとき

円形脱毛症は乳幼児期から起こります。お子さんの頭に脱毛斑を見つけたとき、どうすればよいか。

治療の考え方が、大人とは違います

治療小児での扱い
ステロイド外用12歳までの小児には、重症度を問わず推奨(ファーストライン)
ステロイド局所注射長期経過をみた症例が少なく、局所の痛みを伴うことから基本的に行わない
ステロイド点滴パルス小児には行わない方がよい
局所免疫療法年齢を問わずS2以上に行ってもよい(小児重症例での有効率53.8%との報告)
JAK阻害薬リトレシチニブは12歳以上、バリシチニブは15歳以上が対象

まず皮膚科へ。大人向けの市販品を使う場面ではありません。

親御さんに、お伝えしたいこと

15歳以下の発症は回復率が低めであることが報告されており、正直にお伝えしておく必要があります。ただし同時に、こうも言えます。

そして——「甘やかしたから」「厳しくしすぎたから」ではありません。この記事の2章に戻りますが、ガイドラインは「明らかな誘因がないことも多い」と書いています。
ご家庭の育て方を原因として探す必要は、ありません。

14. 🚨 受診の目安と、上手なかかり方

こんなときは、早めに皮膚科へ

サイン理由
境界のはっきりした円形の脱毛斑がある円形脱毛症の典型。範囲が狭いうちのほうが見通しがよい
脱毛斑が増えている/広がっている活動期の可能性。S2(25%)を超えると治療の選び方が変わる
急速に進んでいる急速進行型という型があり、評価と対応を急ぐ必要がある
眉毛・まつ毛も抜けてきた頭部以外への広がり。重症度の評価が変わる
爪に点状のくぼみがある慢性の重症例でみられる変化。医師に伝える価値がある
疲れ・むくみ・体重変化を伴う甲状腺疾患や貧血の合併の可能性(→甲状腺フェリチン
気分が沈む・人に会うのがつらい脱毛の程度に関係なく生活の質は下がります。相談してよいことです

診察で、これを伝えると話が早い

聞いてよい質問

最後に、もう一度。

円形脱毛症は、命に関わる病気ではありません。けれど、つらさは範囲では測れません。ガイドライン自身が「脱毛の程度に限らず生活の質が低下する」と書いています。

「このくらいで受診してもいいのだろうか」と迷ったら、行っていいと思ってください。範囲が狭いうちのほうが、見通しはよいのです。

15. よくある質問

円形脱毛症はストレスが原因ですか?

「ストレスだけが原因」ではありません。ガイドラインは成長期の毛包を標的とする自己免疫疾患と位置づけたうえで、精神的ストレスについて「その程度や詳しい機序は不明である」と書いています。さらに「近年、誘因としての精神的ストレスはごく一部であるとされてきている」とも述べています。実際、催眠療法・心理療法は脱毛そのものへの効果としては推奨度3(推奨しない)に分類されました。

一方で、患者さんに精神的な問題が多いことは事実で、システマティックレビューでは49.4%という報告があります。ただしこれは「ストレスで抜けた」ではなく「抜けたことがつらい」という順序である可能性が高いと考えられています。ご自身の性格や我慢が足りなかったせいだと責める必要はありません。

円形脱毛症は自然に治りますか?

範囲が狭ければ、多くは戻ります。ガイドラインは日本からの報告として「少数の脱毛斑の場合、80%程度の患者において1年以内に毛髪が回復する」と紹介しています(アトピー性疾患や内分泌疾患の既往がなく、個々の脱毛斑の最長存続時間が1年以内の場合)。別の報告では単発型の40%が半年以内に、多発型の27%が1年以内に治癒したとされます。

一方、広い範囲に及ぶと様子が変わります。平均17.7年の追跡では、脱毛面積が25%未満なら68%、50%未満なら32%が回復しましたが、それより広い場合の回復率はわずか5%でした。また14〜25%は全頭型・汎発型へ移行し、その場合の回復率は10%以下と考えられています。「放っておけば治る」でも「絶対に戻らない」でもなく、今どのくらいの範囲かで見通しが変わります。だからこそ早めに範囲を評価してもらう意味があります。

育毛サロンやサプリ、PRP療法は効きますか?

ガイドラインが評価した25項目のうち、11項目が「推奨しない」(推奨度3)に分類されています。そこにはPRP(自己多血小板血漿)療法、LED・低出力レーザー・スーパーライザーなどの光線療法、ミノキシジル内服、漢方薬、抗うつ薬・抗不安薬、催眠療法・心理療法などが含まれます。

「推奨しない」は「禁止」という意味ではなく、判断の根拠となる情報の普遍性に乏しい、あるいは日本の医療体制にそぐわないという意味です。ただしこれらは自費で高額になりやすいものが多く、順番としては、まず皮膚科で診断を確定し、推奨度1に並ぶ保険診療の治療を試すことをおすすめします。なお市販の育毛剤に配合されるミノキシジル外用は「併用療法の一つとして行ってもよい」(推奨度2)ですが、円形脱毛症は適用外です。

かつら・ウィッグを使うと、治りが悪くなりませんか?

そうした心配は不要です。ガイドラインはかつらの使用を推奨度1(強い推奨)とし、「使用する希望がある患者には勧める」と明記しています。解説では「かつらを使用することは円形脱毛症の病勢に対する悪影響はなく、紫外線や外傷防御の点で推奨される」とされています。治療の妨げになるどころか、頭皮を紫外線やけがから守る利点があるということです。

さらに、かつらを使った患者さんでは生活の質の指標が有意に改善したという報告が複数あります。ガイドラインは「本邦においても病的脱毛症に対してのかつらは、医療法上認知されるべきであろう」とまで書いています。隠すための後ろめたい道具ではなく、ガイドラインが正面から勧めている選択肢です。

ウィッグの購入費に助成はありますか?

お住まいの自治体によります。そして重要なのですが、多くの自治体の制度は「がん治療による脱毛」に限定されており、円形脱毛症は対象外です。たとえば横浜市は「抗がん剤治療等の副作用による脱毛症状等に対処するために、ウィッグを購入した方」が対象で、上限は1万円です。

一方、練馬区は対象を「がん治療」だけでなく「脱毛症(加齢・男性型・女性型を除く)」「その他疾病・外傷」にも広げており、上限10万円・2回までとしています。同じ首都圏でも、対象になるかどうかも金額も大きく違います。

東京都はこうした区市町村の取り組みを支援する立場で、内容は区市町村ごとに異なるため住民は自分の区市町村に問い合わせるよう案内しています。窓口は健康推進課・健康づくり係といった名称のことが多く、「ウィッグ購入費の助成はありますか。円形脱毛症は対象になりますか」と尋ねるのが確実です。多くは購入後の申請で、領収書と治療がわかる書類が必要になります。制度は年度ごとに変わりますので、最新の内容は必ず窓口でご確認ください。

参考資料

なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。円形脱毛症に似た脱毛はほかにも複数あり、診断には皮膚科での診察が必要です。本文で紹介した推奨度は日本皮膚科学会「円形脱毛症診療ガイドライン2024」にもとづくもので、個々の患者さんに適した治療は診察のうえで決まります。処方されている薬を自己判断で中止・変更しないでください。ウィッグ購入費の助成制度は自治体ごとに対象・金額・要件が異なり、年度によって変わります。掲載内容は公開時点の情報にもとづいており、申請前に必ずお住まいの自治体の窓口でご確認ください。内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。