1. 先に結論
| よくある判断 | 一次資料の記述 |
|---|---|
| かゆかったけど治まったから大丈夫 | 「一旦症状が治まっても、再度使用すれば発症し、次第に症状が重くなり、全身症状を呈することもある」 |
| 何年も使っているから私は平気 | 「これまでに毛染めで異常を感じたことのない人であっても、継続的に毛染めを行ううちに」発症します |
| パッチテストは最初だけでいい | 外箱には「毎回必ず染毛の48時間前に」と記載。実際に毎回している人は2.3% |
| テストは絆創膏で留めておく | 覆ってはいけません。感作を促したり過度の反応を起こすおそれがあります |
| かぶれたけどまたテストすればいい | 一度症状が出た人はテスト自体が危険。実施前に医師へ相談してください |
| もう染められない | 4種類あります。報告書は代替として「染毛料等」を挙げています |
| ヘナなら植物だから安全 | かつら用ヘナ製品すべてにパラフェニレンジアミン等の酸化染料が含まれていました |
| 美容室に任せておけば安心 | 2025年、美容室でかつら用製品が使われアナフィラキシーショックで救急搬送 |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
毛染めのかぶれは、知らないから起きているのではありません。
アレルギーの可能性を知っている人は62.1%います。それでも毎回テストする人は2.3%で、異常を感じても6割は何もしない。国の調査が明らかにしたのは、この差でした。
そして症状は、繰り返すたびに重くなります。「治まったから大丈夫」——その判断こそが、いちばん危ないところです。
2. 【核心】国が事故調査をした案件です
まず、この記事が何にもとづいているかをお伝えします。
毛染めによる皮膚障害は、消費者安全法第23条第1項の規定にもとづく「事故等原因調査」の対象になりました。調査したのは消費者庁の消費者安全調査委員会で、報告書は平成27年10月23日に公表されています。委員長は畑村洋太郎氏です。
この委員会は、運輸安全委員会が扱う事故を除く、生命または身体の被害に関わる消費者事故を調査する組織です。身近な製品で、国が正式に事故調査を行った——それ自体が、この問題の位置づけを表しています。
報告書は、調査に至った理由をこう書いています。
「毛染めによる皮膚障害の多くは接触皮膚炎であり、その直接的な原因はヘアカラーリング剤である。ヘアカラーリング剤の中でも酸化染毛剤は、特にアレルギー性接触皮膚炎を引き起こしやすく、このことは、理美容師や皮膚科医の間ではよく知られている。以上のように、毛染めによる皮膚障害は、直接的な原因は明らかであるにもかかわらず継続的に発生している状況にある」
原因は分かっている。それなのに減らない。だから調べた、ということです。
この記事では、この報告書を軸に、日本皮膚科学会の接触皮膚炎診療ガイドライン2020と、国民生活センターが2026年5月20日に出した最新の報道発表を合わせて整理します。すべて無料で読める公開資料です。
3. 被害の実態——毎年200件、5年で約1,000件
減っていません。そして被害者の年代は、白髪染めが始まる時期と重なります。
数字を確認します。消費者庁の事故情報データバンクには、過去5年間で約1,000件の毛染めによる皮膚障害が登録されていました。そのうち傷病の程度が1か月以上で登録されている事例は166件です。
報告書は、注意喚起すべき事項のひとつとして「治療に30日以上を要する症例が見られるなど、人によっては、アレルギー性接触皮膚炎が日常生活に支障を来すほど重篤化することがある」と書いています。
被害者の内訳も特徴的です。
- 男女比は1:7で女性が多い
- 40歳代から60歳代までが全体の62.6%
白髪染めが生活に入ってくる年代と、重なっています。長く続けている人ほど、接触回数が積み上がっているということでもあります。
4. 【衝撃】3,000人調査が示したこと
報告書は、3,000人を対象にしたインターネット調査も行っています。ここが、この問題の核心でした。
知識がないのではなく、知っていても行動に結びついていない、という構図です。
ひとつずつ見ます。
毎回セルフテストを実施している人は2.3%。そしてセルフテストを実施したことがない人が7割以上を占めました。製品の外箱には「毎回必ず染毛の48時間前に」と書かれています。
異常を感じたあとの対処。「しばらくすると症状が治まったので特に何もしなかった」が、美容室での毛染めで62.7%、自宅での毛染めで52.8%。一方で医療機関を受診したのは、美容室で3.6%、自宅で9.7%でした。
使用説明書。「読まない」が20.4%。「使用方法」を読む人は59.5%いましたが、「使用前の注意」「次の方は使用しないでください」といった安全に関する部分を読む人は、いずれも半数に達しませんでした。全部読む人は6.8%です。
そして——アレルギーになる可能性を知っている人は62.1%。知識はある程度あるのです。
報告書の原因評価は、率直です。
「毛染めによるアレルギーのリスクに関して正しい知識が伝わっておらず、消費者の適切な行動に結び付いていない」
そして、こう続きます。「毛染めによるアレルギーの可能性を知っていたにもかかわらず、軽微なかゆみや痛みを無視して毛染めを続けるうちに重篤な症状が現れた事例が患者への聴取りの中で散見される」。
次の章が、その理由です。
5. 2種類のかぶれ——症状では見分けられません
毛染めで起きるかぶれには、2つの種類があります。
| 種類 | 性質 |
|---|---|
| アレルギー性接触皮膚炎 (遅延型アレルギー) | 体がその物質を「敵」と覚えてしまった状態。一度なると、次からも起きます |
| 刺激性接触皮膚炎 (非アレルギー) | 物質そのものの刺激による炎症。アレルギーの仕組みは関与しません |
そして、ここが重要です。報告書は、はっきり書いています。
「アレルギー性接触皮膚炎の主な症状は、かゆみ、発赤、水疱、腫れ、痛み等で、刺激性接触皮膚炎と共通しており、症状から刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎を見分けることはできない」
自分では区別できない。これが、判断を難しくしています。「たいしたことない刺激だろう」と思ったものが、アレルギーの始まりかもしれない。
もうひとつ、きっかけについての記述もあります。「いずれの接触皮膚炎も、乾燥や頭皮の傷、爪等で引っかくことにより製品の成分が皮膚に浸透しやすくなることがきっかけとなる」。頭を掻いた翌日に染める、というのは避けたい組み合わせです。
6. 【決定的】続けるほど、重くなります
この記事でいちばん知っていただきたいのが、この章です。
「治まった」のは治ったからではなく、次の接触までの間があいただけです。
報告書の記述を、順に引用します。
「一旦アレルギー性接触皮膚炎になったら、皮膚炎の症状が治癒しても、再度原因物質(アレルゲン)に接触すればアレルギーが現れる」
「症状の重篤度には個人差があり、症状が軽い場合はわずかなかゆみや痛みを感じたり、皮膚に赤みが生じる程度だが、アレルゲンとの接触を続けていると、次第にアレルゲンと接触した部位を越えて皮膚症状が広がって症状が重くなっていく」
重くなると、どうなるか。ここも具体的に書かれています。
「重い炎症が生じると皮膚の組織が脆弱になるため浸出液がにじみ出てくる。適切な処置がされないと眼が開かなくなるほど顔面が腫れて首や体にまで症状が広がったり、浸出液が大量ににじみ出たりしてくることもある。症状が重い場合は外貌が著しく損なわれるため、身体的な苦痛だけでなく、精神的な苦痛を感じたり、仕事や日常生活に支障を来したりし得る」
そして、まれにアナフィラキシー——急激な全身のアレルギー反応——に至ることがあります。報告書は「アレルギー性接触皮膚炎が重篤化することで、アナフィラキシーが現れる場合もある」としています。
報告書に載っている実際の聞き取りは、多くの方に思い当たるものだと思います。
報告書が記録した経過。
「毛染めでかゆみ等の異常を感じたが数日で治まるのでそのまま特に何もせずに何年間も毛染めを続けていたところ、症状がひどくなり我慢できなくなって医療機関を受診した」
——こうした事例が、複数記録されています。
4章で見たとおり、異常を感じても6割は「何もしなかった」と答えています。それは特別に不注意な人たちではなく、多数派の判断です。だからこそ、この構造を知っておく意味があります。
7. 原因物質——アレルゲン陽性率で4位
何が原因なのか。酸化染毛剤の主成分である酸化染料です。
報告書が代表的な物質として挙げているのは、パラフェニレンジアミン、メタアミノフェノール、パラアミノフェノール、トルエン-2,5-ジアミンなど。そして「これらの物質は、アレルギー性接触皮膚炎を引き起こしやすい物質でもある」としています。
とくにパラフェニレンジアミン(PPD)です。報告書は「特に、パラフェニレンジアミンやトルエン-2,5-ジアミン、パラアミノフェノール等において顕著で、これらの物質によってアレルギー性接触皮膚炎になった場合は症状が重篤になりやすいと考えられている」と書いています。
皮膚科学会の側からも裏づけがあります。接触皮膚炎診療ガイドライン2020には、日本で標準的に使われるアレルゲン(ジャパニーズスタンダードアレルゲン2015)の陽性率ランキングが載っています。1,390件の登録症例での結果です。
| 順位 | アレルゲン |
|---|---|
| 1位 | 硫酸ニッケル |
| 2位 | 金チオ硫酸ナトリウム |
| 3位 | ウルシオール |
| 4位 | パラフェニレンジアミン(毛染めの酸化染料) |
金属とウルシに次ぐ4番目です。そして同ガイドラインは、化粧品による接触皮膚炎の原因製品として最も多いのが染毛剤だとしています(次いでシャンプー、化粧下地、化粧水)。
部位についての記述もあります。「ヘアダイ(主な原因物質はパラフェニレンジアミン)では接触皮膚炎症候群を惹起することがある」。頭皮だけでなく、離れた部位にまで症状が及びうるということです。
8. 【核心】「代替可能な成分が他に存在しない」
ではメーカーが成分を変えればいい——そう思われるかもしれません。報告書は、そこにはっきり答えています。
「酸化染毛剤の主成分である酸化染料は、アレルギーを引き起こしやすい性質を有するが、現時点では、代替可能な成分が他に存在しないため、残念ながら、製品の改良によって直ちにリスクの低減を図ることは困難である。そのため、症状の重篤化を防ぐためには、いち早く異常に気付くこと、異常を感じたら適切な対応をとることが〔重要である〕」
「残念ながら」という言葉が、国の報告書に入っています。
理由は、酸化染料が優れているからです。報告書は「毛髪内部まで染めることができることから、最も広く使用されている。これらの優れた効果は、酸化染毛剤の主成分である酸化染料によるものである」と説明しています。よく染まる仕組みと、アレルギーを起こす仕組みが同じものだということです。
だから、対策の形が決まります。
製品が安全になるのを待つことはできません。できるのは「早く気づく」「気づいたら適切に対応する」の2つだけ——これが報告書の立場です。
次の2つの章が、その具体的な中身になります。
9. セルフテストの正しいやり方と、2つの注意
酸化染毛剤の外箱には、法律と業界の自主基準にもとづいて、こう書かれています。
「ご使用の際には使用説明書にしたがい、毎回必ず染毛の48時間前に皮膚アレルギー試験(パッチテスト)をして下さい」
なぜ毎回なのか。これまで何ともなかった人が、突然なるからです。報告書は注意喚起事項として「これまでに毛染めで異常を感じたことのない人であっても、継続的に毛染めを行ううちにアレルギー性接触皮膚炎になることがある」と明記しています。
やり方について、報告書は2つの注意を挙げています。
| 注意点 | 理由 |
|---|---|
| 塗った直後から30分程度の間と、48時間後の両方を観察する | アレルギー性接触皮膚炎の場合、翌日以降に反応が現れる可能性が高いため、48時間後の観察も必要 |
| 絆創膏等で覆ってはならない | 感作を促したり、過度のアレルギー反応を引き起こしたりするおそれがあるため |
2つめは、あまり知られていないと思います。「しっかり密着させたほうが正確」と考えて覆うのは、逆効果どころか危険だということです。
用語についても補足しておきます。報告書は、消費者や理美容師が行うこのテストを「セルフテスト」と呼び、皮膚科医が行う「クローズドパッチテスト(閉鎖貼布試験)」とは区別しています。名前は似ていますが、別のものです。原因物質を特定する検査が必要な場合は、皮膚科で行います。
10. 🚨 一度でも症状が出た人は、テストもしてはいけません
ここは、独立した章にしておきたい内容です。
国民生活センターは2026年5月の報道発表で、こう書いています。
「酸化染料等にアレルギーの経験がある方は、少量の使用や、消費者自身が行う皮膚アレルギー検査(パッチテスト)であっても重いアレルギー症状が出ることがあります。そのため、このような方は実施する前に医師へ相談しましょう」
テストのつもりの少量でも、重い反応が出ることがある。
これは理屈のうえでも当然で、アレルギーはすでに体が覚えてしまった反応です。「もう一度試して確かめる」という発想が、そもそも当てはまりません。
整理すると、こうなります。
これまで一度も異常がない人——毎回、染毛の48時間前にセルフテストを。覆わず、30分後と48時間後の両方を見る。
一度でもかゆみ・赤み・痛みが出た人——その製品の使用をやめ、自分でテストをせずに、まず皮膚科へ。
境目は「症状の重さ」ではありません。「一度でも出たかどうか」です。
11. ではどうするか——4つの分類を知る
「もう染められないのか」と思われたかもしれません。そうではありません。
ひとくちにヘアカラーリング剤と言いますが、報告書はこれを4種類に分けています。アレルギーを起こしやすいのは、そのうちのひとつです。
「染毛剤」は医薬部外品、「染毛料」は化粧品。法律上の区分が違います。
報告書の説明を、それぞれ引用します。
半永久染毛料(ヘアマニキュア、酸性カラー、カラーリンス、カラートリートメント)——「染料が毛髪の表層部に吸着することによって毛髪を染める」「脱色を行わないため、酸化染毛剤と比べると髪を傷めにくい」「酸化染毛剤と比較すると、アレルギー性接触皮膚炎を引き起こすことは少ない」。
ただし制約も明記されています。「毛髪内にメラニン色素が残っているので、極端に明るい色にすることはできない」「表面に着色した色素が次第に流出するため、色持ちは染毛剤に比べて短い」。
一時染毛料(ヘアマスカラ、ヘアファンデーション、ヘアカラースプレー、カラースティック)——「洗髪によって簡単に色を落とすことができる」「アレルギー性接触皮膚炎になったり、髪を傷めたりする可能性はほとんどない」。こちらも「黒色の髪を明るくするのには向かず、また、汗や雨等でも色が落ちるため衣服を汚すことがある」とされています。
そして報告書は、理美容師の役割としてこう書いています。
「酸化染毛剤を用いた施術が適さない顧客に対しては、リスクを丁寧に説明するとともに、酸化染毛剤以外のヘアカラーリング剤(例えば染毛料等)を用いた施術等の代替案を提案すること等により、酸化染毛剤を使用しない」
実際、報告書に収録された患者さんの事例でも、医師から「今後はヘアマニキュアを使用するよう指導」された方や、「酸化染毛剤での毛染めをやめて染毛料に変更するように言われた」方が記録されています。
12. ⚠️「ヘナだから安全」ではありません
染毛料に切り替えるときに、必ず知っておいていただきたいことがあります。
国民生活センターは2026年5月20日、こういう表題の報道発表を出しました。
「酸化染料を含むヘナ製品によるアナフィラキシーが発生 ‐かつら用の製品を頭髪に使ってはいけません‐」
何が起きたのか。2025年、美容室で毛染め施術を受けた際に、頭髪用ではない「かつら用」のヘナ製品が使われ、そこに含まれていた酸化染料が原因でアナフィラキシーショックを発症し、救急搬送された——という事故情報が、医師から寄せられました。同じ年に、ヘナ製品による施術でアレルギー症状が出たという情報が他に3件。PIO-NETにはヘナ製品に関する危害情報が49件寄せられています。
そして商品テストの結果が、決定的です。
「今回テストした、『黒く染まる』とされるかつら用のヘナ製品すべてに、アレルギー性接触皮膚炎・アナフィラキシーの原因となるパラフェニレンジアミン等の酸化染料が含まれていました」
「ヘナ」という名前でも、中身に酸化染料が入っていることがある。植物由来という言葉だけでは、判断できないということです。
背景には、製品の区分の問題があります。市場には人体への使用を前提とせず、かつら用等として販売されている「雑貨扱い」の製品があり、これらは医薬部外品でも化粧品でもありません。
国民生活センターのアドバイスは3つです。
① かつら用のヘナ製品は絶対に頭髪に使用しない。「広告等で、頭髪に使用できるかのような記載があったとしても」使わない。頭髪には医薬部外品や化粧品であることが明確な、承認を受けたものを使う
② 美容室・理容室で施術を受けるときは、使われる製品が「頭髪用」であることを施術者に必ず確認する
③ 酸化染料にアレルギーの経験がある方は、自分でパッチテストを行う前に医師へ相談する
なお、この報道発表は業界に対しても要望を出しています。「雑貨扱いの製品が美容所や理容所で人体に対して使用されることのないよう、施術に使用するヘアカラーリング製品の用途と成分の事前確認の徹底を要望します」。お店の側でも起きうる取り違えだということです。
13. 美容室で、伝えること・確認すること
自宅で染める場合は、説明書を読んでセルフテストをする——それに尽きます。ここでは美容室でお願いするときにできることを整理します。
| 伝える・確認する | 根拠 |
|---|---|
| 過去に毛染めで異常が出たことがあるか、正直に伝える | 報告書は、施術が適するかの事前確認を美容師の役割としています |
| 使う製品が「頭髪用」かを確認する | 2025年にかつら用製品でアナフィラキシーショックの事例(12章) |
| 酸化染毛剤か染毛料かを聞く | アレルギーの起こしやすさが種類で大きく違います(11章) |
| 不明な点は説明を求める | 国民生活センターが消費者へのアドバイスとして明記しています |
ひとつ、注意も必要です。PIO-NETには「酸化染料にアレルギーがあることを伝えた上で施術を受けたにもかかわらず、アレルギー症状が出た」という相談も寄せられています。国民生活センターは、これを受けて美容師・理容師に対する教育・研修体制の強化を業界に要望しました。
伝えれば必ず防げる、というわけではない。だからこそ「何を使うか」まで確認することに意味があります。
14. 🚨 受診の目安と、困ったときの相談先
こんなときは、皮膚科へ
- 毛染めのあと、かゆみ・赤み・痛みが出た——たとえ軽くても、たとえ治まっても。報告書は「アレルゲンと考えられる酸化染毛剤の使用をやめる、医療機関を受診する等の適切な対応をとるべき」としています
- 顔やまぶたが腫れてきた、首や体にも症状が広がった——重症化のサインです。早めに受診してください
- じくじくした浸出液が出る、水ぶくれができた
- 過去にかぶれたことがあり、今後どうすればいいか分からない——原因物質を調べる検査(クローズドパッチテスト)が皮膚科でできます
🚨 すぐに救急受診が必要な症状
息苦しい、声がかすれる、のどが締めつけられる、めまい、意識がもうろうとする、全身のじんましん——アナフィラキシーの可能性があります。毛染めの最中や直後にこうした症状が出たら、ただちに救急要請してください。
2025年には、美容室での施術中にアナフィラキシーショックで救急搬送された事例が実際に報告されています。
相談したいとき
製品や施術についての苦情・相談は、消費者ホットライン「188(いやや!)」から、お住まいの地域の消費生活センターにつながります。
医療機関での対応に関する相談は、都道府県等が設置している医療安全支援センターが窓口です。
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 症状は繰り返すたびに重くなります。「治まったから大丈夫」は、いちばん危ない判断です
② これまで何ともなかった人でも、続けるうちに突然なります。だから毎回テストなのです
③ 一度でも症状が出たら、自分でテストをせずに皮膚科へ
④ 染めること自体はあきらめなくて構いません。4つの分類のうち、リスクが高いのは酸化染毛剤です
⑤ ただし「ヘナ・植物由来だから安全」ではありません。頭髪用の承認された製品かを確認してください
髪そのものへのダメージやカラーの仕組みについてはヘアケアの正解——シャンプー・紫外線・カラーは髪に何をしているかに、白髪そのものについては女性の薄毛・白髪——原因と、根拠のある対策に書いています。手や体のかぶれについては手湿疹(手荒れ)もあわせてどうぞ。
15. よくある質問
毛染めのあと少しかゆくなりますが、すぐ治まります。続けて大丈夫ですか?
それが、この記事でいちばんお伝えしたい場面です。国の事故調査報告書は、はっきり書いています。「一旦アレルギー性接触皮膚炎になったら、皮膚炎の症状が治癒しても、再度原因物質に接触すればアレルギーが現れる」「アレルゲンとの接触を続けていると、次第にアレルゲンと接触した部位を越えて皮膚症状が広がって症状が重くなっていく」。つまり治まったのは治ったからではなく、次の接触までの間があいただけです。そして次はもっと重くなります。報告書には、実際にそうなった方の聞き取りが載っています。かゆみなどの異常を感じたが数日で治まるのでそのまま何年間も毛染めを続けたところ、症状がひどくなり我慢できなくなって医療機関を受診した、という事例です。重くなるとどうなるかも書かれています。「適切な処置がされないと眼が開かなくなるほど顔面が腫れて首や体にまで症状が広がったり、浸出液が大量ににじみ出たりしてくることもある」。まれにアナフィラキシーに至ることもあります。3,000人を対象にした調査では、異常を感じた後に「しばらくすると症状が治まったので特に何もしなかった」と答えた人が、美容室での毛染めで62.7%、自宅での毛染めで52.8%でした。多くの方が同じ判断をしています。ですが報告書の立場は明確です。異常を感じたら、その製品の使用をやめて医療機関を受診してください。
パッチテスト(セルフテスト)は、毎回やらないといけないのですか?
はい。酸化染毛剤の外箱には、医薬品医療機器等法と業界の自主基準にもとづいて「毎回必ず染毛の48時間前に皮膚アレルギー試験(パッチテスト)をして下さい」と記載されています。理由は、これまで何ともなかった人でも、繰り返すうちに突然アレルギーになるからです。報告書は「これまでに毛染めで異常を感じたことのない人であっても、継続的に毛染めを行ううちにアレルギー性接触皮膚炎になることがある」と明記しています。ところが実際にやっている人はごくわずかです。3,000人を対象にしたインターネット調査では、毎回セルフテストを実施している人は2.3%、セルフテストを実施したことがない人が7割以上を占めました。やり方にも注意点があります。報告書が挙げているのは2つです。ひとつは、テスト液を塗った直後から30分程度の間と、48時間後の両方を観察すること。アレルギー性接触皮膚炎は翌日以降に反応が出ることが多いため、48時間後の観察が欠かせません。もうひとつは、絆創膏などで覆ってはいけないということ。覆うと感作を促したり、過度のアレルギー反応を引き起こしたりするおそれがあるためです。なお、消費者が行うこのテストと、皮膚科医が行うクローズドパッチテスト(閉鎖貼布試験)は別のものです。報告書も両者を区別して、前者を「セルフテスト」と呼んでいます。
一度かぶれました。もうヘアカラーはできないのでしょうか?
酸化染毛剤については、その通りです。そして大切な注意がひとつあります。一度でも症状が出た方は、セルフテストもしてはいけません。国民生活センターは2026年5月の報道発表で「酸化染料等にアレルギーの経験がある方は、少量の使用や、消費者自身が行う皮膚アレルギー検査(パッチテスト)であっても重いアレルギー症状が出ることがあります。そのため、このような方は実施する前に医師へ相談しましょう」としています。テストのつもりの少量でも、重い反応が出ることがあるということです。ただし、髪を染めること自体をあきらめる必要はありません。ヘアカラーリング剤は4種類あり、アレルギーを起こしやすいのはそのうちの酸化染毛剤です。事故調査報告書は、酸化染毛剤が適さない人への対応として「染毛料等を用いた施術等の代替案を提案すること等により、酸化染毛剤を使用しない」ことを美容師の役割として挙げています。実際、報告書に載っている患者さんの事例でも、医師から「今後はヘアマニキュアを使用するよう指導」された方や「染毛料に変更するように言われた」方がいます。半永久染毛料(ヘアマニキュア、酸性カラー、カラートリートメントなど)は、報告書によれば「酸化染毛剤と比較すると、アレルギー性接触皮膚炎を引き起こすことは少ない」とされています。ただし少ないのであってゼロではありません。まずは皮膚科で相談してください。
ヘナや「植物由来」なら安全ですか?
そうとは限りません。国民生活センターは2026年5月20日に「酸化染料を含むヘナ製品によるアナフィラキシーが発生 ‐かつら用の製品を頭髪に使ってはいけません‐」という報道発表を出しています。2025年、美容室で毛染め施術を受けた際に、頭髪用ではないかつら用のヘナ製品が使われ、含まれていた酸化染料が原因でアナフィラキシーショックを発症して救急搬送された、という事故情報が寄せられました。同じ年にヘナ製品による施術でアレルギー症状が出たという情報が他に3件、PIO-NETにはヘナ製品に関する危害情報が49件寄せられています。テスト結果も報告されています。「黒く染まる」とされるかつら用のヘナ製品すべてに、アレルギー性接触皮膚炎やアナフィラキシーの原因となるパラフェニレンジアミン等の酸化染料が含まれていました。つまり「ヘナ」という名前でも、中身に酸化染料が入っていることがあるということです。国民生活センターのアドバイスは3つです。かつら用のヘナ製品は絶対に頭髪に使用しないこと。美容室で施術を受けるときは、使われる製品が頭髪用であることを施術者に必ず確認すること。そして酸化染料にアレルギーの経験がある方は、自分でパッチテストを行う前に医師へ相談すること。頭髪には、医薬部外品や化粧品であることが明確な、承認を受けたものを使ってください。
子どもや若いうちから染めるのは、よくないのでしょうか?
事故調査報告書は、消費者への注意喚起として伝えるべき事項のひとつに、こう挙げています。「低年齢のうちに酸化染毛剤で毛染めを行い、酸化染料との接触回数が増加すると、アレルギーになるリスクが高まる可能性があると考えられる」。アレルギーは、接触を繰り返すうちに成立します。早く始めればそれだけ生涯の接触回数が増えるため、リスクが高まりうる、という考え方です。実際の状況も調査されています。3,000人のうち子どもがいる1,833人に聞いたところ、毛染め経験のある子を持つ543人のなかで、子が中学生のときに毛染めをしたと答えた人が6.3%、小学生以下のときと答えた人が3.5%でした。禁止されているわけではありません。ただ、始める時期が早いほど接触回数が積み上がるという構造は知っておく価値があります。もしお子さんが染めたいと言ったときは、一時染毛料という選択肢があります。ヘアマスカラやカラースプレーの類で、洗髪で簡単に落とせるものです。報告書は「アレルギー性接触皮膚炎になったり、髪を傷めたりする可能性はほとんどない」としています。ただし黒い髪を明るくするのには向かず、汗や雨で色が落ちて衣服を汚すことがある、という制約も併記されています。
参考にした主な資料
- 消費者安全調査委員会「消費者安全法第23条第1項の規定に基づく 事故等原因調査報告書 毛染めによる皮膚障害」平成27年10月23日(本記事の件数・属性・3,000人調査・症状の経過・セルフテストの注意・ヘアカラーリング剤の分類は、すべてこの報告書にもとづいています)
- 独立行政法人国民生活センター「酸化染料を含むヘナ製品によるアナフィラキシーが発生 ‐かつら用の製品を頭髪に使ってはいけません‐」2026年5月20日 報道発表
- 日本皮膚科学会 接触皮膚炎診療ガイドライン委員会「接触皮膚炎診療ガイドライン2020」日本皮膚科学会雑誌 130(4): 523-567, 2020(アレルゲン陽性率、化粧品皮膚炎の原因製品、ヘアダイと接触皮膚炎症候群)
- 厚生労働省「毛染めによる皮膚障害」