1. 先に結論
| よくある思い込み | ガイドラインの記述 |
|---|---|
| 手荒れは体質・季節のもの | 「原因との接触を断つことができれば根治できる疾患」 |
| 高いハンドクリームがいい | 二重盲検試験で普通の油性ハンドローションのほうが有意に優れた |
| ステロイドは塗り続ける | 「漫然とした外用を避ける」。効かないときは薬ではなく原因を探す |
| ステロイドは1日2回 | 1日1回+保湿剤の維持療法のほうが高い有効性を示した試験があります |
| 手袋をすれば安心 | 「保護手袋の装着自体が刺激反応を誘発することもある」。綿手袋を内側に |
| 手袋は手を守るもの | ゴム手袋の加硫促進剤がアレルギーの原因になることがあります |
| 市販薬で様子を見る | 片手だけなら手白癬かもしれません。ステロイドで悪化します |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
手湿疹は、「何を塗るか」より「何に触れているか」で決まる病気です。
だからクリームを高いものに変える前に、原因を1つ減らすほうが効きます。そしてそれは、ガイドラインが「根治できる」と書いている理由でもあります。
2. 【核心】職業性皮膚疾患の8割以上が「手」です
まず、この病気の広がり方から。ガイドラインの疫学の章には、こう書かれています。
『手湿疹診療ガイドライン』8. 疫学の記述より作成。
数字を並べます。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 生涯有病率 | 15%(年間罹患率10%、罹患率およそ4%) |
| 発症率 | 1,000人に5.5人(女性9.6人/男性4.0人) |
| 韓国の調査 | 生涯有病率31.2%。主婦・若年層・医療従事者に多く、発症季節は冬季 |
| 10〜20代の年間罹患率 | 15.8%(女性20.3%/男性10.0%) |
| 子ども | 12〜16歳で約7%、16〜19歳で10%。手湿疹の3分の1は20歳より前に発症 |
ガイドラインが挙げる発症要因は「女性、接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ウェットワーク(水仕事)」の4つ。そして「手湿疹が誘発される女性は20歳代〜30歳代前半の若年層に多い」とされています。
女性に多い理由も、はっきり書かれています。
ガイドラインは「この現象は遺伝的な要因ではなく環境的な要因が関与している」とし、その中身を2つ挙げています——「女性は業務以外でも家事などにより皮膚炎を発症しやすい状況であること」、そして「理・美容師、看護師など皮膚炎を発症しやすい職業に女性の割合が多いこと」。
体質ではなく、手が置かれている環境の問題だということです。だからこそ、環境を変えれば結果が変わります。
それを裏づける数字もあります。ある調査では1983年に12%だった有病率が、1996年には10%に低下していました。著者らはその理由を「ハイリスクの職業における適切な防御の介入が有病率の低下に寄与した」と推察しています。
3. ガイドラインの、最初の一文
この記事を書こうと思ったのは、ガイドラインの書き出しを読んだからです。
「手湿疹は皮膚科医が診療する頻度の高い疾患であり、原因を確定し、その原因との接触を断つことができれば根治できる疾患である。しかしながら、原因が明らかにできない場合や、適切な防御方法がとられていない場合には難治となり治療に苦慮することが多い。」
——日本皮膚科学会・日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会『手湿疹診療ガイドライン』1. ガイドラインの背景より
「根治できる疾患である」——学会がこう言い切る病気は、そう多くありません。
そして、その条件が同じ文に書かれています。「原因を確定し、その原因との接触を断つことができれば」。逆に言えば「原因が明らかにできない場合」「適切な防御方法がとられていない場合」には難治になる。
つまりこの病気の勝負どころは、薬ではなく、原因の特定と遮断にあります。この記事の構成も、その順番に沿っています。
疫学の章の結びも、同じことを言っています——「適切な予防対策や治療を受けることにより発症や重症化を避けられることが明らかとなっている」。
4. 5つの型——あなたのはどれですか
ガイドラインは手湿疹を、まず刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎(接触蕁麻疹を含む)に分け、さらに形態から5つに分類しています。
『手湿疹診療ガイドライン』5. 分類および7. 臨床症状の記述より作成。
とくに知っておいてほしいのが、季節が逆の2つです。
- 再発性水疱型(汗疱型)は夏に悪化——小さな水ぶくれが出て、乾くと皮がむけます。足の裏にも同じものが出ることが多く、ガイドラインはニッケルなど金属アレルギーを伴うこともあるとしています。汗との関連が深い型です(→多汗症の記事)
- 乾燥・亀裂型は冬に悪化——手のひらと指全体が乾いてひび割れます。水ぶくれは出ません。皮膚バリア機能の低下が誘因とされています
「毎年この季節になると」という方は、自分がどちらの型なのかを考えてみてください。季節が違えば、対策も変わります。
そしてアトピー型について。ガイドラインは「アトピー性皮膚炎の患者はフィラグリンの発現低下など皮膚バリア機能が低下しやすい素因があるため、刺激性の手湿疹をおこしやすい」としています。アトピーの既往がある方は、同じ仕事量でも手が荒れやすい体質的な背景があるということです(→アトピー性皮膚炎の記事)。
5. 【重要】それは、本当に手湿疹ですか
ここは安全に関わる章です。ガイドラインは鑑別を要する疾患を表にまとめています。5つあります。
| 病気 | ガイドラインが挙げる鑑別ポイント |
|---|---|
| 手白癬 (手の水虫) | 「片側性のことが多い」。直接鏡検で菌糸が検出される |
| 疥癬 | 手掌、指間や手首屈側に丘疹や線状の鱗屑(疥癬トンネル)。たいてい他部位にも症状。直接鏡検で虫体や虫卵 |
| 乾癬 | 爪に症状が限局するときに鑑別を要する。爪甲の点状陥凹、剝離、黄濁肥厚など多彩な変化 |
| 掌蹠膿疱症 | 手のひら・足の裏に膿疱が多発。長期に経過し、鎖骨や胸骨に関節炎を合併することがある |
| 皮膚筋炎 | 手の甲の関節部のゴットロン徴候(角化性紅斑)。手指側縁の角化性紅斑はmechanic's hand |
いちばん実害が出やすいのが、手白癬です。
手湿疹だと思ってステロイドを塗ると、真菌が広がります。逆に、湿疹に抗真菌薬を塗っても良くなりません。方向が逆になると、時間だけが過ぎていきます。
手がかりは「片側性のことが多い」という一点です。両手ではなく片手だけ——これは疑う理由になります。足に水虫がある方は、そちらから移ることもあります(→足白癬・爪白癬の記事)。
皮膚科ならその場で顕微鏡で確かめられます。数分で、保険が使えます。
皮膚筋炎が入っていることにも触れておきます。これは全身の病気で、手の所見がきっかけで見つかることがあります。手の甲や指の関節の上に、ざらついた赤みが続くという場合は、皮膚科で相談してください。
6. 【核心】治療を、推奨度で並べる
ガイドラインは推奨度をA・B・C1・C2・Dの5段階でつけています。
| 推奨度 | 意味 |
|---|---|
| A | 行うよう強く勧められる |
| B | 行うよう勧められる |
| C1 | 行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない |
| C2 | 根拠がないので勧められない |
| D | 行わないよう勧められる |
『手湿疹診療ガイドライン』CQ1〜CQ9の推奨度より作成。
この図で気づいてほしいこと。
保湿剤も手袋も、推奨度はC1です。——毎日いちばん頑張っている2つが、いちばん高い評価ではありません。
これは「やらなくていい」という意味ではありません。後の章で見るとおり、両方とも理由があってC1なのです。そしてやり方によって結果が変わるのも、この2つです。
7. ステロイドは「漫然と塗らない」薬です
手湿疹の治療の柱は、ステロイド外用薬です。ただし使い方に、はっきりした条件がついています。
CQ2a:難治性の手湿疹にステロイド外用薬は勧められるか?
推奨文「アレルギー性手湿疹、アトピー性手湿疹にステロイド外用薬を勧める。ステロイド外用薬の連日の使用によって改善しない難治例/重症例は手湿疹の原因検索を行い、漫然とした外用を避ける」
推奨度:B〜C1、エビデンスレベルII
解説には、さらに踏み込んだ記述があります。
「ステロイド外用に対して治療抵抗性を示す、または外用継続中も寛解が得られず慢性に経過する場合は、漫然と継続する事なく原因検索を行う。」
効かないときに増やすべきなのは、薬ではなく、原因を探す努力のほうだ——ガイドラインはそう言っています。
理由は3章に戻ります。手湿疹は接触するものが原因で起きる病気です。その接触が続いているかぎり、塗り薬だけでは追いつきません。蛇口を開けたままバケツの水をかき出しているようなものです。
もうひとつ、興味深い記述があります。ガイドラインは「中等〜重症の手湿疹患者を対象とした症状の改善をアウトカムとしたプラセボとの効果比較においてステロイド外用薬に優位性は認められていない」とも書いています。ステロイドの推奨度がAではなくB〜C1にとどまっているのは、このためです。
一方で、治療の道筋(14章)のなかでは「ストロング程度の強さのステロイド外用(推奨度A)にて4週間経過を観察し」とされています。使うべき場面では、しっかり使う薬でもあるということです。
整理すると、こうなります。
①原因を探して減らす ②そのうえでステロイドを4週間 ③良くなれば減らす ④良くならなければ、薬を増やす前に原因をもう一度探す
自己判断で中止するのも、逆に何か月も塗り続けるのも、どちらも道から外れています。4週間を目安に、医師と経過を確認してください。
8. 【決定的な比較】1日2回より、1日1回+保湿剤
ガイドラインが引用している試験のなかに、実務を変えるものがあります。
『手湿疹診療ガイドライン』CQ2aの解説で引用されている試験より作成。
2つのことが読み取れます。
1つめ。急性期は「回数を増やす」より「保湿剤と組む」。ステロイドを1日2回塗る群と、1日1回+尿素含有保湿剤で維持する群を比べたところ、後者のほうが高い有効性を示しました。
2つめ。良くなったあとも、完全にはやめない。寛解したあと36週間の比較では、週3回>週2回>保湿剤のみの順で改善効果がありました。保湿剤だけに切り替えるのがいちばん成績が悪かったということです。
ちなみに、ステロイドの強さ(力価)を変えた比較では治療効果に違いが認められませんでした。「もっと強い薬を」と考える前に、塗り方と保湿剤の併用を見直すほうが理にかなっています。
9. ハンドクリームに、どこまで期待できるか
ここが、この記事でいちばん正直に書きたい章です。
CQ1:保湿剤、バリアクリームは勧められるか?
推奨文「保湿剤、バリアクリームが本疾患に有効かどうかを検証した十分なエビデンスは存在しない。しかし、それはその疫学研究における対照(コントロール)の選び方の難しさなどに起因しているためであり、手湿疹に対してこれらの使用は十分に考慮しても良い」
推奨度:C1
「十分なエビデンスは存在しない」。——毎日ハンドクリームを塗っている方には、意外かもしれません。
ただし、その理由が丁寧に説明されています。そしてその説明のなかに、いちばん役に立つ情報がありました。
高機能クリーム vs 普通のハンドローション(McCormickら・エビデンスレベルII)
著明な手湿疹をもつヘルスケアワーカー54名を対象に、米国で市販されているバリアクリームと、広く用いられている普通の油性ハンドローションを、二重盲検ランダム化比較試験で4週間比較しました。
結果——両群とも著明に軽快し、とくに鱗屑・亀裂・疼痛で効果がみられました。ただし「対照群の方が有意差をもって優れた臨床効果を示した」。つまり普通のハンドローションのほうが良かったのです。そして手洗いできる回数が50%ほど増加しました。
ガイドラインは、この結果をこう総括しています。
「この結果からは少なくともバリアクリームの優越性は証明されず、どんな外用薬でもしっかり規則的に外用することこそ重要であるということになりそうである。」
理由の推測も書かれています。試験では最低でも1日4回以上塗ることが義務づけられていたのですが、ガイドラインは「その外用剤の使いやすさが外用回数の違いに反映されて、このような結果になった可能性が否定出来ない」としています。
塗りやすいから、塗る回数が増えた。だから結果が良かった。——そういうことかもしれない、という読み方です。
日本のデータについても、正直に書かれています。
「我が国においては、専ら尿素軟膏やヘパリン類似物質を用いた一般臨床試験が行われている。(中略)いずれの臨床試験も、保湿剤の有用性を示しているが、何らかの対照をおいていないものが殆どである点に問題が残る」。
また、疑似セラミドを5%含む保湿クリームが対照(疑似セラミド不含)より高い有効率を示した報告もありますが、エビデンスレベルはV(低い)とされています。
10. 選ぶときに見るところ、塗るときのこと
前章をふまえて、実際にどう選び、どう使うか。ガイドラインから読み取れることだけを書きます。
| ポイント | ガイドラインの根拠 |
|---|---|
| 「塗りやすさ」で選ぶ | 「どんな外用薬でもしっかり規則的に外用することこそ重要」。高機能さより、続けられるかどうか |
| 回数を確保する | 比較試験では1日4回以上が義務づけられていました。手を洗うたびに、が現実的な目安です |
| 成分は決め手ではない | 日本では尿素・ヘパリン類似物質の試験が主。ただし対照を置いていないものが大半。疑似セラミドはエビデンスレベルV |
| ステロイドと組み合わせる | 1日1回のステロイド+尿素含有保湿剤の維持療法が、1日2回のステロイド単独より高い有効性を示しました(8章) |
| 覆うと効果が上がる | 「ヘパリン類似物質外用後ラップあるいは手袋を装着し、それを2週間以上継続すれば、著明な効果が得られる」(エビデンスレベルVI) |
このサイトとして、はっきり書いておきます。
高価なハンドクリームを勧める根拠は、ガイドラインにはありません。むしろ二重盲検試験では、高機能なバリアクリームより普通の油性ハンドローションのほうが良い結果でした。
選ぶ基準は「1日に何度でも塗る気になるかどうか」です。べたつきが苦手なら、さらっとしたものを。乾燥がひどいなら、こってりしたものを寝る前に。あなたが続けられるものが、いちばん良いものです。
そしてクリームは薬の代わりではありません。推奨度はC1で、ステロイド外用(治療アルゴリズム内で推奨度A)とは位置づけが違います。順番は、①原因を減らす ②必要なら薬 ③それを続けるための保湿です。
ひとつ、注意点があります。
ガイドラインは難治性手湿疹の原因として「ゴム手袋や外用薬、クリームなどによるアレルギー性接触皮膚炎」を挙げています。塗っているクリームそのものが原因になることがあるということです。
塗ると、しみる。塗った範囲が赤くなる。塗るほど悪くなる気がする——そういう場合は、いったん止めて皮膚科に相談してください。12章でくわしく書きます。
9章・10章で書いたハンドクリームです。ガイドラインが引用する二重盲検試験では、高機能なバリアクリームより普通の油性ハンドローションのほうが有意に優れた結果でした。ガイドラインの総括は「どんな外用薬でもしっかり規則的に外用することこそ重要」です。
つまり選ぶ基準は成分の高機能さではなく、1日に何度でも塗り直せる使用感かどうか。べたつきが残らないものは、それだけ塗る回数を確保しやすくなります。
※ 当サイトは、記事のなかで根拠を示したうえで推奨したものに限り広告を掲載しています。すぐ上に書いたとおり、塗っているクリームそのものが原因になることがあります。しみる・赤くなる・塗るほど悪くなる場合は使用を中止し、皮膚科にご相談ください。
11. 手袋は「つければいい」ではありません
水仕事のときの手袋。これもガイドラインに具体的な使い方が書かれています。
CQ8:手袋などは勧められるか?
A. ウェットワークを行う時は保護手袋を使用する。
推奨文「ウェットワークを行うときは保護手袋を考慮してもよい」
推奨度:C1、エビデンスレベルIV
まず、必要性のほうから。ガイドラインは「保護手袋などの防御なしにウェットワークを行うことは皮膚の刺激反応を生じる大きなリスクファクターとなり、皮疹が遷延化すればアレルギー性接触皮膚炎を誘発する可能性が生じる」としています。そして保護手袋は「手指の皮膚を水、ほこり、洗剤、シャンプー、そして食品から保護することにおいて不可欠である」。
ところが、同じ解説がすぐに但し書きを置きます。
「しかしながら、保護手袋の装着自体が刺激反応を誘発することもある。特に洗浄剤などを頻回に使用している場合に保護手袋を長時間使用すると更なる皮膚バリアの障害を生じる。」
手袋のなかは蒸れます。長時間つけっぱなしにすると、かえって悪化しうるということです。「手袋をしているのに良くならない」という方は、ここに理由があるかもしれません。
そして、解決策が具体的に示されています。
「保護手袋を長時間にわたり使用する際はコットン手袋を保護手袋の下に装着する。」
「保護手袋の使用時間を最小限にし、コットン手袋を下に装着するような使用方法を推奨すれば皮膚の刺激反応や皮膚バリア機能障害を防ぐことが可能となる。」
| ガイドラインがすすめる使い方 | 理由 |
|---|---|
| 綿の手袋を内側に | 汗を吸い、ゴムが直接皮膚に触れるのを防ぎます |
| ゴム/ポリ塩化ビニル製を外側に | ガイドラインは家事用として「ゴム製もしくはポリ塩化ビニル製の家事用手袋」を挙げています |
| 使用時間は最小限に | 長時間の装着自体がバリア機能を損ないます |
| 職場では物質に応じて選ぶ | 「職場において使用する手袋は使用(接触)物質により選択する」 |
綿手袋を1組足すだけで、同じゴム手袋の意味が変わります。ここは今日から変えられる部分です。
12. 【意外】ゴム手袋そのものが原因のことがあります
前章の続きですが、独立させます。知らないと堂々巡りになる話だからです。
ガイドラインは、難治性手湿疹の原因として「ゴム手袋や外用薬、クリームなどによるアレルギー性接触皮膚炎」を挙げ、ゴム手袋について具体的に説明しています。
「ゴム手袋には、その製造過程で加硫剤、加硫促進剤、加硫の二次促進剤、補強材、粘着剤、老化防止剤、接着増進剤などが含まれており、特に加硫促進剤(チウラム系、ジチオカーバメート系、メルカプトベンゾチアゾール系など)はアレルギー性接触皮膚炎の原因となりやすい物質として知られている。」
手を守るために着けている手袋の材料が、原因になっている。——これが起こります。
同じことは、良かれと思って塗っている外用薬やクリームにも起こりえます。ガイドラインが「クリームなどによるアレルギー性接触皮膚炎」と明記しているとおりです。
こんなときは、守っているつもりのものを疑ってください。
- 手袋をきちんと使っているのに、良くならない・むしろ悪化する
- クリームを塗るとしみる、塗った範囲が赤くなる
- ステロイドを塗っても4週間で改善しない
次の章のパッチテストが、これを確かめる検査です。
13. 原因を突き止める——パッチテスト
3章で見たとおり、この病気は原因を断てば根治できるとされています。その「原因を確定する」ための検査が、パッチテストです。
ガイドラインは「手湿疹にはパッチテストもしくはプリックテストを行う」とし、パッチテストは「遅延型アレルギーであるアレルギー性接触皮膚炎が疑われる場合に行う」としています。
| 検査 | 調べるもの |
|---|---|
| パッチテスト | 遅延型アレルギー。背中などに試薬を貼り、数日かけて反応を見ます。金属、ゴム手袋の成分、外用薬やクリームの成分などが対象 |
| プリックテスト | 即時型の反応。触れてすぐに膨疹やかゆみが出るタイプ(接触蕁麻疹)が疑われるとき |
受診前の準備が、結果を左右します。
ガイドラインは、重症例では「再度の詳細な問診が必要」とし、聞くべき項目を挙げています——発症時期、発症部位、増悪や緩解の時期と自宅・職場・発汗との関連性、職業歴、趣味、化粧、家事、家族歴、薬物の摂取歴。
診察室でこれを一から思い出すのは大変です。受診前に、1週間ほど手帳やスマホにメモしておくと、話が一気に進みます。「金曜の夕方に悪化する」「連休明けは良い」といった記録が、原因を指し示すことがあります。
14. 治療の道筋——4つのステップ
ガイドラインは治療を段階に分けています。自分がいまどこにいるかを知るために、整理しておきます。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| STEP 1 | 原因となる接触アレルゲン・接触刺激因子を見つけ出し除去する(詳細な問診・職業歴)。細菌、真菌、疥癬などの感染症の検索も。保湿剤・手袋を含む生活指導のうえで、ストロング程度の強さのステロイド外用(推奨度A)を4週間 |
| 軽快したら | ステロイドの減量・ランクを下げて断続的に使用、またはタクロリムス軟膏に変更 |
| STEP 2 | 軽快しないとき——まずスキンケア・保湿剤・ステロイド外用を守れているか確認。そのうえでステロイドを増量、ランクをベリーストロングまで上げ、抗ヒスタミン薬の内服を追加 |
| 第二段階へ | 4週間以内に軽快しないときは重症として、皮膚科専門医による治療へ。再度の詳細な問診、パッチテスト、RAST、プリックテストを行い、個人に合わせたテーラーメード療法 |
| STEP 3 | 紫外線療法——「最も推奨度が高く試みてよい治療法」。保険適用で算定可能 |
| STEP 4 | 紫外線療法ができない、または効かないとき——短期のステロイド内服(プレドニゾロン20mg/日)や免疫抑制薬内服を4週間程度、短期間 |
STEP 2の書き方に注目してください。
薬を強くする前に、「スキンケア、保湿剤、ステロイド外用を遵守しているか確認」とあります。やることをやったうえで、それでも足りないときに次へ進む。この順番が、ガイドラインには明記されています。
逆に言えば——塗り忘れが多い状態で「効かない」と判断するのは、まだ早いということでもあります。
なお、抗ヒスタミン薬(CQ4・推奨度B)の位置づけも正確に書いておきます。ガイドラインは「抗ヒスタミン薬の内服は手湿疹の炎症反応を抑制できないが、痒みに対する補助療法として勧める」としています。かゆみを抑える薬であって、湿疹そのものを抑える薬ではありません。
15. 🚨 受診の目安と、上手なかかり方
| こんなとき | おすすめの行動 |
|---|---|
| 片手だけに症状がある | 手白癬かもしれません。ステロイドで悪化します。顕微鏡でその場で確かめられます |
| 市販薬を1か月使って変わらない | 皮膚科へ。薬が弱いのではなく、原因が残っている可能性があります |
| ステロイドを塗っても4週間で改善しない | ガイドラインが「原因検索を行う」としている段階です。パッチテストを相談してください |
| 手袋やクリームで、しみる・赤くなる | それ自体が原因かもしれません(12章) |
| 爪にも変化がある | 乾癬や掌蹠膿疱症の可能性。点状のくぼみ、剝離、黄濁肥厚など |
| 他の部位にも症状が出ている | 疥癬など、全身に及ぶ病気の可能性 |
| 手の甲や指の関節にざらついた赤み | 皮膚筋炎の所見のことがあります。早めに受診を |
| 仕事が原因だと思う | 受診してください。職業性皮膚疾患の8割以上が手です。職場の対策につながることがあります |
診察室で伝えると話が早いこと、5つ。
- いつ悪化して、いつ良くなるか(平日と休日、季節、連休明け。ここに原因が出ます)
- 仕事の内容と、手が触れるもの(洗剤、消毒、食品、薬剤、機械油、髪の薬剤など)
- 使っている手袋の種類(できれば現物か写真を。ゴムの種類が手がかりになります)
- 塗っているもの全部(市販薬・ハンドクリーム・処方薬。これ自体が原因のことがあります)
- アトピーの既往と家族歴/子どものころに手荒れがあったか(最も重要な危険因子とされています)
最後に、この記事の要点を3つだけ。
1. 手湿疹は「根治できる疾患」だと学会が書いています。ただし条件つきで——原因を確定し、接触を断てれば。
2. 高いクリームより、塗り続けられるクリームです。二重盲検試験では、高機能なバリアクリームより普通のハンドローションのほうが良い結果でした。
3. 効かないときに増やすのは、薬ではなく原因探しです。ガイドラインは「漫然とした外用を避ける」と書いています。
16. よくある質問
高いハンドクリームのほうが、手荒れには良いのでしょうか?
それを正面から調べた試験があり、結果は意外なものでした。
ガイドラインが引用しているMcCormickらの二重盲検ランダム化比較試験では、著明な手湿疹のあるヘルスケアワーカー54名を対象に、米国で市販されている高機能なバリアクリームと、広く使われている普通の油性ハンドローションを4週間比較しました。
結果は、両群とも著明に軽快したものの、鱗屑・亀裂・痛みの点で対照群、つまり普通のハンドローションのほうが有意に優れた効果を示しました。
ガイドラインはこの結果について「少なくともバリアクリームの優越性は証明されず、どんな外用薬でもしっかり規則的に外用することこそ重要であるということになりそうである」と書いています。試験では最低でも1日4回以上塗ることが義務づけられていましたが、ガイドラインは「その外用剤の使いやすさが外用回数の違いに反映されて、このような結果になった可能性が否定出来ない」とも述べています。
つまり大事なのは成分の高機能さではなく、塗りやすくて塗り続けられるかどうかだ、ということです。なお保湿剤全体の推奨度はC1で、ガイドラインは「有効かどうかを検証した十分なエビデンスは存在しない」としつつ「手湿疹に対してこれらの使用は十分に考慮しても良い」と結論しています。
ステロイドの塗り薬は、ずっと塗り続けていいのですか?
いいえ、漫然と続ける薬ではありません。
CQ2aは推奨度B〜C1で、推奨文は「アレルギー性手湿疹、アトピー性手湿疹にステロイド外用薬を勧める。ステロイド外用薬の連日の使用によって改善しない難治例・重症例は手湿疹の原因検索を行い、漫然とした外用を避ける」です。
解説にはさらに踏み込んだ記述があり、「ステロイド外用に対して治療抵抗性を示す、または外用継続中も寛解が得られず慢性に経過する場合は、漫然と継続する事なく原因検索を行う」とされています。ステロイドを塗っても良くならないときに増やすべきなのは、薬ではなく原因を探す努力のほうだということです。
手湿疹は接触するものが原因で起きるため、その接触が続いているかぎり薬だけでは追いつきません。
一方で、治療アルゴリズムのなかではストロング程度の強さのステロイド外用が推奨度Aとされており、必要な場面ではしっかり使う薬でもあります。使うべきときに使い、効かないときは原因を探す。この2つがセットです。自己判断で中止したり、逆に長く塗り続けたりせず、4週間を目安に医師と経過を確認してください。
水仕事のとき、ゴム手袋をすれば防げますか?
基本的には有効ですが、使い方に条件があります。
CQ8は推奨度C1で「ウェットワークを行うときは保護手袋を考慮してもよい」としています。保護手袋は手指の皮膚を水、ほこり、洗剤、シャンプー、そして食品から保護するうえで不可欠だと書かれています。
ただし同じ解説に注意点があります。「保護手袋の装着自体が刺激反応を誘発することもある」「特に洗浄剤などを頻回に使用している場合に保護手袋を長時間使用すると更なる皮膚バリアの障害を生じる」。手袋のなかは蒸れるため、長時間つけっぱなしにするとかえって悪化しうるということです。
ガイドラインが示す解決策は具体的です。「保護手袋を長時間にわたり使用する際はコットン手袋を保護手袋の下に装着する」。そして「保護手袋の使用時間を最小限にし、コットン手袋を下に装着するような使用方法を推奨すれば皮膚の刺激反応や皮膚バリア機能障害を防ぐことが可能となる」としています。
つまり綿の手袋を内側に、ゴムやポリ塩化ビニルの手袋を外側に、そして必要な時間だけ。これが学会のすすめる使い方です。家事には一般的な家事用手袋、職場では接触する物質に応じて手袋を選ぶ、とも書かれています。
手袋をしているのに悪くなります。なぜでしょうか?
手袋そのものが原因になっている可能性があります。
ガイドラインは難治性手湿疹の原因として、ゴム手袋や外用薬、クリームなどによるアレルギー性接触皮膚炎を挙げています。そしてゴム手袋については具体的に説明しています。
「ゴム手袋には、その製造過程で加硫剤、加硫促進剤、加硫の二次促進剤、補強材、粘着剤、老化防止剤、接着増進剤などが含まれており、特に加硫促進剤(チウラム系、ジチオカーバメート系、メルカプトベンゾチアゾール系など)はアレルギー性接触皮膚炎の原因となりやすい物質として知られている」。
つまり手を守るために着けている手袋の材料が、アレルギーの原因になることがあるということです。同じことは、良かれと思って塗っている外用薬やクリームにも起こりえます。
こうした遅延型アレルギーを調べる検査がパッチテストで、ガイドラインはアレルギー性接触皮膚炎が疑われる場合に行うとしています。「手袋をしても、クリームを塗っても良くならない」という状態が続くときは、守っているつもりのものを一度疑ってみる価値があります。皮膚科でパッチテストについて相談してみてください。
これは手湿疹でしょうか。ほかの病気ということはありますか?
あります。ガイドラインは形態的に鑑別を要する疾患として5つを表にまとめています。
1つめは手白癬、いわゆる手の水虫で、片側性のことが多く、直接鏡検で菌糸が検出されます。両手ではなく片手だけという場合は、これを疑う理由になります。2つめは疥癬で、手掌、指の間や手首の内側に丘疹や線状の鱗屑(疥癬トンネル)がみられ、たいてい他の部位にも症状が出ます。3つめは乾癬で、爪甲の点状陥凹、剝離、黄濁肥厚など爪に多彩な変化がみられます。4つめは掌蹠膿疱症で、手のひらや足の裏に膿疱が多発し、長期に経過することや鎖骨・胸骨に関節炎を合併することがあります。5つめは皮膚筋炎で、手の甲の関節部にゴットロン徴候という角化性紅斑がみられ、手指の側縁の角化性紅斑はmechanic's handと呼ばれます。
とくに手白癬は重要です。手湿疹だと思ってステロイドを塗ると、真菌が広がってしまいます。逆に湿疹に抗真菌薬を塗っても良くなりません。皮膚科では顕微鏡でその場で確かめられます。
片手だけ、爪にも変化がある、他の部位にも症状がある——こうした場合は、自己判断で市販薬を続けず受診してください。
参考資料
- 日本皮膚科学会・日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会「手湿疹診療ガイドライン」日本皮膚科学会雑誌 128(3): 367-386, 2018(本記事の推奨度・推奨文・分類・数値は、すべてこの資料にもとづいています)
- 公益社団法人日本皮膚科学会「一般公開ガイドライン」