1. 先に結論
| よくある思い込み | ガイドライン第3版の記述 |
|---|---|
| 7.0を超えたら薬 | 分岐は3つ。痛風の既往・合併症の有無で8.0/9.0に分かれます |
| ビールがいちばん悪い | ビール1杯1.5倍に対し、ソフトドリンクをよく飲む集団は1.9倍 |
| プリン体を減らせばいい | 果糖にも尿酸を上げる経路があります |
| 尿酸を下げれば心臓が守れる | 高血圧合併への尿酸降下薬は「実施しない」ことを条件つきで推奨・エビデンスD |
| 薬で発作が出たら失敗 | 「開始後数か月は急性痛風関節炎出現のリスクが増加する」——想定内です |
| 痛くなければ問題ない | 血清尿酸値1mg/dLの上昇でCKD発症1.22倍 |
| 食事指導は気休め | 7CQのうち無条件で「実施する」ことを推奨されたのは2つだけ。その1つが食事指導です |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
尿酸値は、単独で読む数値ではありません。同じ7.5でも、痛風の既往があるか、腎臓や血圧に問題があるかで、意味がまったく変わります。
そして——学会が「まだ言えない」と書いていることが、いくつもあります。そこも含めてお伝えします。
2. 男性の20%、患者100万人。それでも痛くない病気
まず広がり方から。ガイドラインの数字を並べます。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 高尿酸血症の頻度 | 全人口の男性で20%、女性で5%(近年は成人男性の30%前後という報告も) |
| 痛風の有病率 | 成人男性の1〜1.5%。30歳以上の男性では1%超 |
| 痛風の患者数 | 国民生活基礎調査からの推定で、2016年時点で全国100万人超。増加傾向 |
| 患者の年齢分布 | 60歳代が最多、次いで50歳代と70歳代がほぼ同数 |
| 初発年齢 | 30歳代が最も多く、次いで40歳代、50歳代 |
| 合併症 | 高尿酸血症の方のおよそ80%に高血圧・肥満・耐糖能異常・脂質異常症が合併 |
注目してほしいのは「初発年齢は30歳代が最も多い」のに「患者の年齢分布は60歳代が最多」という点です。30代で始まって、何十年も付き合う病気だということです。
そして、この病気の性質。
ガイドラインは「高尿酸血症は、それ自体による自覚症状は認めず、健康診断等で偶然指摘されることも多い」と書いています。
痛風発作という強烈な症状があるため見つかりやすい病気に思えますが、発作が来るまでは何も起きません。そして発作が来た時点では、すでに関節に結晶がたまっています。健診の紙が、唯一の手がかりです(→健診結果の読み方ガイド)。
ちなみにガイドラインには「明治時代初期には痛風患者はほとんどみられなかった」という一文があります。増えた理由は環境の変化で、双生児を対象とした検討でも遺伝要因よりも環境要因の影響が大きいことが示されています。変えられる部分が大きい病気だということでもあります。
3. 7.0という数字——男女で同じです
高尿酸血症の定義から確認します。
「高尿酸血症は、尿酸塩沈着症(痛風関節炎、腎障害など)の病因であり、性別、年齢を問わず、血清尿酸値が7.0mg/dLを超えるものと定義する」
この7.0という数字には根拠があります。ガイドラインは「高尿酸血症の定義は尿酸の溶解度から決められており」と説明しています。血液に尿酸が溶けきれなくなる濃度です。だから男女で変わりません。
溶けきれなくなると何が起きるか。「高尿酸血症が続くと体内の尿酸プールが増加し、関節や腎尿路系にMSU(尿酸一ナトリウム)が結晶として析出する」。そして「関節に析出したMSU結晶を白血球が貪食し炎症を惹起するサイトカインが分泌されると関節炎が起こる」——これが痛風関節炎です。
尿酸はどこから来て、どこへ行くのか。
体内の尿酸プールは成人男性でおよそ1,200mg、成人女性でおよそ600mg。1日あたり700〜800mgの尿酸が入ってきて、ほぼ同量が出ていきます。
出口の内訳が意外です——約3分の2は腎臓から、残りのほとんどは腸管から排泄されます。腸からも出ているというのが、次の12章の遺伝子の話につながります。
4. 【核心】7.0・8.0・9.0——治療の分かれ道
ここが、この記事でいちばん実用的なところです。ガイドラインの治療アルゴリズムは、驚くほどはっきりしています。
『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版』の治療指針(アルゴリズム)より作成。
この図の使い方。
健診の紙を見ながら、上から順に自分を当てはめてください。
①7.0を超えているか ②痛風の発作や結節があったか ③合併症があるか ④8.0(または9.0)を超えているか
同じ7.5mg/dLでも、発作の既往がある人は薬物治療の対象、合併症のない人は生活指導が中心——まったく違う道になります。
そして、図のいちばん下の注記に目を留めてください。ガイドライン自身が書いていることです。
「(腎障害と尿路結石以外は尿酸値を低下させてイベント抑制を検討した大規模介入試験は未施行である。このエビデンスを得るための今後の検討が必要となる。)」
合併症として高血圧・虚血性心疾患・糖尿病・メタボが挙げられているにもかかわらず、「尿酸値を下げればそれらのイベントが減る」ことを示した大規模試験は、まだない——学会がそう明記しています。ここは7章でくわしく扱います。
5. 【核心】7つの疑問を、推奨の強さで並べる
ガイドライン第3版はGRADE方式を採用しています。推奨は方向(実施する/しない)と強さ(無条件/条件つき)の組み合わせで、4段階です。
| 推奨の強さ | 意味 |
|---|---|
| ①「実施する」ことを推奨する | いちばん強い(無条件) |
| ②「実施する」ことを条件つきで推奨する | 条件しだいで実施 |
| ③「実施しない」ことを条件つきで推奨する | 条件しだいで実施しない |
| ④「実施しない」ことを推奨する | いちばん強い否定 |
エビデンスの強さはA(強)・B(中)・C(弱)・D(非常に弱い)の4段階。この2つは別物で、ガイドラインは「『エビデンスの強さ』のみで推奨の強さは決まりません。『益と害のバランス』『患者の価値観や希望』『コストや資源』を加味して総合的に判定します」と説明しています。
では、7つの答えです。
『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版』第2章 クリニカルクエスチョンと推奨より作成。
この図でいちばん驚いたところ。
7つのうち、無条件で「実施する」と推奨されたのは2つだけ。そしてその1つが「食事指導」でした。
薬の話が5つあるなかで、いちばん強い推奨を得たものの半分が、食事だということです。ガイドラインも「生活習慣病である高尿酸血症・痛風において、生活指導は治療の根幹を成すもの」と書いています。
6. 【意外】「実施しない」が2つあります
7つのうち2つが「実施しない」ことを条件つきで推奨するでした。ここは丁寧に見ておきます。
| CQ | 推奨文 | エビデンス |
|---|---|---|
| CQ3 | 高尿酸血症合併高血圧患者に対して、生命予後ならびに心血管病発症リスクの軽減を目的とした尿酸降下薬の使用は積極的には推奨できない | D(非常に弱い) |
| CQ5 | 高尿酸血症合併心不全患者に対して、生命予後改善を目的とした尿酸降下薬の投与は積極的には推奨できない | C(弱) |
それぞれの根拠も読んでおきます。
CQ3(高血圧)について。ガイドラインは「高尿酸血症合併高血圧患者を対象とした前向き介入試験は現在までのところ報告されていない」としています。つまり介入試験そのものが存在しない。あるのは観察研究で、アロプリノール使用者で心血管病の発症リスクが低かったという2件をメタアナリシスしたところ有意な関連が出ましたが、「以上より尿酸降下薬の有益性に関するエビデンスの強さはD(非常に弱い)と判断した」。
CQ5(心不全)について。採用されたRCTは2件(OPT-CHF研究とEXACT-HF研究)のみで、「いずれも薬物介入とプラセボ群間で、心血管死亡に有意な差を認めなかった」。エントリー患者総数も200〜400例程度、観察期間も24週と短い、とされています。
7. 【通説の検証】尿酸を下げれば、心臓が守れるのか
前の章の続きです。ここは、このサイトが必ず確かめる種類の話なので、独立させます。
「尿酸値が高いと血管に悪い」「心臓の負担になる」——よく聞く説明です。実際、ガイドラインも「高尿酸血症は動脈硬化、脳卒中、虚血性心臓病、心不全などの臓器障害とも密接な関連をもつ」と書いています。関連はあります。
けれど「関連がある」と「下げれば防げる」は、別の話です。そしてガイドラインは、その区別をきちんとつけています。
関連はある。けれど、下げて防げるかは、まだ示されていない。
治療アルゴリズムの注記——「腎障害と尿路結石以外は尿酸値を低下させてイベント抑制を検討した大規模介入試験は未施行である。このエビデンスを得るための今後の検討が必要となる」
一方で、腎臓については話が違います。
CQ2の推奨文は「腎障害を有する高尿酸血症の患者に対して、腎機能低下を抑制する目的に尿酸降下薬を用いることを条件つきで推奨する」、エビデンスの強さはB(中)。そしてガイドラインは、こう添えています——「今回の結果は、薬物介入を条件付きで推奨したはじめてのガイドラインである」。
メタアナリシスの数字も示されています。eGFRの変化量の差は4.12mL/分/1.73m²(95%信頼区間3.69〜4.56)で有意、腎イベント発症のリスク比は0.51(95%信頼区間0.35〜0.76)で有意。有害事象のリスク比は1.10(0.48〜2.56)で有意ではありませんでした。
整理すると、こうなります。
守れることが示されている臓器=腎臓(条件つき・エビデンスB)
まだ言えない臓器=心臓・血管(高血圧はエビデンスD、心不全はC。どちらも「積極的には推奨できない」)
「尿酸を下げて心臓を守りましょう」という説明を受けたら、それはまだ確かめられていない話だと知っておいてください。逆に腎臓の数値(eGFR)が下がってきている方には、意味が違ってきます(→健診結果の読み方ガイド)。
8. 【通説の検証】ビールが、いちばん悪いのか
「痛風=ビール」は、日本でいちばん定着した健康知識のひとつかもしれません。数字を並べてみます。
『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版』第3章A 痛風の環境要因の記述より作成。
ビールは1.5倍。それに対してソフトドリンクをよく飲む集団は1.9倍。——お酒ではないものが上に来ています。
理由も書かれています。「ソフトドリンクの摂取が多い集団では1.9倍リスクが増大し、特に果糖摂取の関与が強い。果糖はリン酸化に際してATPを消費し、プリン分解が亢進する結果尿酸産生が増加し、果糖の代謝産物の乳酸による尿酸排泄低下も関与する」。
ここが誤解されやすいところです。
果糖には、プリン体が含まれているわけではありません。それでも尿酸が上がります。果糖を代謝するときにATPを大量に使い、その分解過程で尿酸ができるからです。さらに副産物の乳酸が、尿酸の排泄を妨げます。
つまり「プリン体オフ」にしても、糖がそのままなら別の経路が残っているということです。
アルコールについても、機序が説明されています。「アルコールの代謝によりATP分解が促進され、その結果尿酸の産生亢進が起こる。またアルコール摂取は乳酸増加をきたし、乳酸はURAT1で尿酸と交換に排泄され、尿酸の再吸収が増加する」。
アルコールそのものが尿酸を上げます。プリン体の量だけの問題ではない、ということです。ワインでリスク上昇が認められなかったことも、この文脈で読むと理解しやすくなります。
ただし、ワインについては注意が必要です。
いま見たのは「長期的に痛風を発症するリスク」の話でした。「いま起きている発作の引き金」となると、話が変わります。
ガイドラインは、24時間以内のアルコール摂取が用量依存性に急性痛風関節炎のリスクを上げるとしたうえで、「この場合はワインであってもビールと同様にリスクが上昇した」と書いています。
ワインなら安心、ではありません。とくに発作を経験したことがある方は。
9. 上げるもの、下げるもの——食事の4分類
CQ7(食事指導)は、7つのうち無条件で「実施する」ことを推奨された2つのうちの1つでした。その中身を見ます。
ガイドラインは、食事内容と血清尿酸値・痛風との関係を4つに整理しています。
| 何に作用するか | ガイドラインの記述 | |
|---|---|---|
| ① | 尿酸値を上げる | 「アルコール、糖質」の摂取過剰 |
| ② | 痛風の発症を増やす | 「アルコール、糖質、肉類、魚介類」の摂取過剰 |
| ③ | 尿酸値を下げる | 「ビタミンC、DASH食、地中海食、果物・大豆食」の摂取 |
| ④ | 痛風の発症を減らす | 「乳製品、コーヒー」の摂取 |
③と④に注目してください。
減らす話ばかりではありません。ガイドラインは増やすとよいものも挙げています——ビタミンC、果物、大豆、乳製品、そしてコーヒー。
「痛風だから何も食べられない」ではなく、置き換える先があるということです。
そして食事指導の第一の目的が明記されています。
「肥満、特に内臓脂肪蓄積は血清尿酸値と正の相関関係、尿酸クリアランスとは負の相関関係が示され、体重減少に伴い尿酸クリアランスが増加し、血清尿酸値が低下することが示されている。そのため、無症候性高尿酸血症の食事指導の大きな目的の1つは肥満・過体重の解消であり、摂取エネルギーの適正化が食事指導の第一にあげられる。」
個々の食品より先に、まず摂取エネルギー。これがガイドラインの優先順位です。そして「強力な尿酸降下薬が開発され、血清尿酸値のコントロールが容易になった現在においても、食事指導の重要性は、これまでのガイドラインの方針と変わりはない」とも書かれています。
正直な限界も添えられています。「食事内容に関する多くの研究は、無症候性高尿酸血症患者のみを対象としたものではなく、また多くの研究がわが国以外で行われたものであった」——だからエビデンスの強さはC(弱)です。それでも推奨は無条件、というのがこのCQの位置づけです。
体重と代謝の話は、別の記事にまとめています(→40代からの「痩せにくい」の正体/腸内細菌の記事)。
10. 発作が起きやすいのは、深夜と暑い日
ガイドラインには、発作の「短期的な引き金」についても具体的な数字があります。実生活に直結するので、まとめておきます。
『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版』第3章A 短期的な環境要因の記述より作成。
いくつか、実生活で役に立つ読み方を添えます。
- 「高温時に40%増加」——夏と、脱水が起きやすい状況が重なります。ガイドラインも「過食・過飲、脱水は一時的に血清尿酸値をさらに上昇させ、関節内でのMSU結晶析出につながる」としています。暑い日の飲酒は、2つの引き金が重なります
- 「利尿薬でリスク3.6倍」——血圧やむくみの薬に含まれていることがあります。「利尿薬、テオフィリン、ピラジナミド、シクロスポリン、ミゾリビンなどの薬物により血清尿酸値が上昇し、痛風のリスクが上昇する」とも書かれています。お薬手帳を診察に持参してください
- 「長距離の歩行や捻挫・打撲」——関節への物理的な負荷が「微小痛風結節から結晶の剝落を招き、急性痛風関節炎の誘因となる」。旅行やスポーツのあとに来ることがあります
11. 【重要】薬を始めた直後に、発作が増えます
知らないと、いちばん誤解しやすい場面です。
「尿酸降下治療の開始後数か月は、急性痛風関節炎出現のリスクが増加する。これは血清尿酸値の低下により関節内微小痛風結節が表面から溶け出すことで結節の構造が弛緩し、MSU結晶が関節液中に剝落するためと考えられており、血清尿酸値の低下の程度が大きいほど治療開始当初は急性痛風関節炎の頻度が増す。」
薬が効いていないのではありません。効いているからこそ起きる現象です。関節にたまっていた結晶が溶け出す過程で、かえって発作が誘発されます。
だからガイドラインは、こう指示しています——「尿酸降下治療開始にあたって、急激な血清尿酸値の低下が痛風発作のリスクを上げるので、血清尿酸値を確認しながら漸増法で目標値を目指す」。少量から、少しずつ。
そして、この時期の発作を抑えるための手がCQ6です。
CQ6:尿酸降下薬投与開始後の痛風患者に対して、痛風発作予防のためのコルヒチン長期投与は短期投与に比して推奨できるか?
推奨文「コルヒチン長期投与は条件つきで推奨できる」/推奨の強さ「実施する」ことを条件つきで推奨する/エビデンスの強さ C(弱)
| 項目 | 短期投与群 | 長期投与群(6か月) |
|---|---|---|
| 痛風発作の頻度 | 1,886人中645人(34.2%) | 2,330人中107人(4.6%) |
| 有害事象 | — | 長期投与群が2.93倍高頻度(1,869人中145人=7.8%) |
発作は大きく減る。ただし副作用は増える。——だから「条件つき」なのだと分かります。この判断は主治医と相談する部分です。
この章でお伝えしたいのは、ひとつだけ。
薬を始めた直後に発作が起きても、そこで自己判断でやめないでください。
いちばんもったいない場面です。「薬を飲み始めたら発作が出た」と主治医に伝えてください。用量の調整や、コルヒチンの併用という手があります。
12. 放置した先にあるもの——腎臓のこと
7章で見たとおり、尿酸値を下げて守れることが示されている臓器は、いまのところ腎臓です。その根拠になっているデータを見ておきます。
| 報告 | 内容 |
|---|---|
| Zhuら(2014年) 15コホート研究のメタアナリシス | 血清尿酸値1mg/dLの上昇は、CKD(慢性腎臓病)の発症を1.22倍上昇させる |
| Liら(2014年) 13観察研究のメタアナリシス | 血清尿酸値の上昇はCKDの新規発症と有意に関連。非CKD患者において高尿酸血症はCKD新規発症の独立した予測因子 |
| CQ2のメタアナリシス | 尿酸降下薬によりeGFRの変化量の差 4.12mL/分/1.73m²(有意)、腎イベント発症のリスク比 0.51(有意) |
そして、尿酸がたまることで起きるもうひとつのことが結石です。ガイドラインは「MSU結晶により尿路結石ならびに慢性間質性腎炎による腎不全などの高尿酸血症および高尿酸尿症による重篤な合併症も起こりうる」としています。
「痛くないから大丈夫」の、いちばん確かな反論がここです。
痛風発作は、たしかに痛い。けれど腎臓は痛みません。尿酸値が高い状態が続くあいだ、腎臓は静かに影響を受けています。
健診で尿酸値を見るときは、eGFRとクレアチニンを一緒に見てください。この2つが並んで動いているなら、それは放置しない理由になります。
13. 日本人の痛風患者の8割が持つ遺伝子
「生活習慣が悪いから」と言われがちな病気ですが、ガイドラインには体質の話もはっきり書かれています。
3章で触れたとおり、尿酸は約3分の2が腎臓から、残りのほとんどが腸管から排泄されます。この腸管からの排泄に関わるのがABCG2という遺伝子です。
| 変異 | 日本人での頻度 | 影響 |
|---|---|---|
| Q126X | 3% | 機能が消失する |
| Q141K | 32% | 機能が半減する |
| 両者の組み合わせで尿酸排泄機能が1/4以下になると、痛風発症リスクが約26倍 | ||
| 日本人の痛風患者の80%に、これらABCG2遺伝子変異のいずれかを認める | ||
これは、責める話ではありません。
ガイドラインは、これまで「産生過剰型」と考えられていた高尿酸血症の多くが、実は腸管からの排泄が落ちているタイプ(腎負荷型)だったと説明しています。第3版で「腎外排泄低下型(腎負荷型)」という病型が新たに明記されたのは、このためです。
「食べすぎ・飲みすぎのせい」だけでは説明がつかないということです。同じ生活をしていても、出せる量が人によって違います。
ただし——環境要因の影響のほうが大きいことも同時に示されています。双生児の検討で、遺伝より環境の影響が大きいという結果でした。体質はあるが、変えられる部分のほうが大きい。これがバランスの取れた読み方だと思います。
なお、家族歴についても「多くの痛風患者で、家族内に高尿酸血症の集積がみられ、痛風は他の生活習慣病と同様に多数の遺伝子が関連する多因子遺伝性疾患である」とされています。親や兄弟に痛風の人がいる場合は、診察で伝える価値のある情報です。
14. 女性の場合——7.0以下でも意味があります
「痛風は男性の病気」——これも半分正しく、半分そうではありません。
頻度としては、高尿酸血症は全人口の男性で20%、女性で5%。たしかに男性が多い病気です。
けれど、ガイドラインには女性について特記された一文があります。
「女性では、血清尿酸値が7.0mg/dL以下であっても、血清尿酸値の上昇とともに生活習慣病のリスクが高くなる。潜在する疾患の検査と生活指導を行う対象となりうるが、尿酸降下薬の適応はない。」
読み取れることが2つあります。
1つめ。7.0を超えていなくても、意味があります。女性の場合、尿酸値が上がってきていること自体が生活習慣病のサインになりうる、ということです。健診で「基準内だけれど、年々上がっている」という方は、血圧・血糖・脂質・腹囲と並べて見る価値があります。
2つめ。それでも、薬の対象にはなりません。「潜在する疾患の検査と生活指導を行う対象となりうるが、尿酸降下薬の適応はない」——ここははっきり書かれています。調べて整える対象ではあっても、薬で下げる対象ではないということです。
そもそも尿酸値は、単独で読む数値ではありません。
ガイドラインは「高尿酸血症患者のおよそ80%には高血圧、肥満、耐糖能異常や脂質異常症といった生活習慣病が合併し、1人の高尿酸血症患者に複数の生活習慣病が重複することが多い。その背景には内臓脂肪蓄積やインスリン抵抗性が関与することが示唆されている」としています。
尿酸値が上がってきたということは、その裏で他の数値も動いている可能性が高いということです。健診の紙は、1行ずつではなく全体で読んでください(→健診結果の読み方ガイド/コレステロールとFHの記事)。
15. 🚨 受診の目安と、上手なかかり方
| こんなとき | おすすめの行動 |
|---|---|
| 足の親指の付け根が、突然激しく痛む | 受診してください。痛風発作の典型です。自己判断で市販の痛み止めを選ぶ前に、診断をつけてもらうのが先です |
| 尿酸値が9.0以上 | 合併症がなくても薬物治療の検討対象です(4章) |
| 尿酸値が8.0以上+高血圧や糖尿病などがある | 同じく薬物治療の検討対象です |
| eGFRが下がってきている | 腎臓は、尿酸を下げて守れることが示されている臓器です(7章・12章)。相談する価値があります |
| 過去に発作を起こしたことがある | いまの尿酸値に関係なく薬物治療の対象になります |
| 薬を始めてから発作が出た | やめずに主治医へ。想定内の現象で、対処法があります(11章) |
| 血圧やむくみの薬を飲んでいる | 利尿薬が含まれていると尿酸値が上がることがあります。お薬手帳を持参してください |
| 女性で、尿酸値が年々上がっている | 7.0以下でも生活習慣病のサインになりえます(14章) |
診察室で伝えると話が早いこと、5つ。
- 過去に痛風発作を起こしたことがあるか(いつ、どこが。ここで治療方針が変わります)
- 尿酸値の推移(今年の数値だけでなく、去年・一昨年も。上がり方が分かります)
- 健診の他の項目(血圧・血糖・脂質・腹囲・eGFRとクレアチニン)
- 飲んでいる薬すべて(お薬手帳を。利尿薬は尿酸値を上げます)
- お酒と甘い飲み物の量(種類と量を正直に。ソフトドリンクも忘れずに)
最後に、この記事の要点を3つだけ。
1. 分かれ道は3つ。7.0を超えたか、痛風の既往や合併症があるか、8.0(または9.0)を超えたか。同じ数値でも意味が変わります。
2. 「ビールがいちばん」ではありません。ソフトドリンクをよく飲む集団のほうが数字は上でした。プリン体だけの問題ではありません。
3. 学会が「まだ言えない」と書いていることがあります。心血管については尿酸を下げて防げるかが示されていません。一方、腎臓については条件つきで推奨されています。
16. よくある質問
尿酸値が高いと言われました。すぐ薬が必要ですか?
数値だけでは決まりません。ガイドラインの治療アルゴリズムは、3つの分岐で構成されています。
まず高尿酸血症の定義が血清尿酸値7.0mg/dLを超える状態です。そのうえで、痛風関節炎か痛風結節がすでにある場合は、それだけで薬物治療の対象になります。次に、それらがない場合は合併症の有無で分かれます。腎障害、尿路結石、高血圧、虚血性心疾患、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの合併症がある場合は8.0mg/dL以上で薬物治療、ない場合は9.0mg/dL以上で薬物治療が検討されます。それぞれ下回る場合は、生活指導が中心になります。
つまり同じ7.5mg/dLでも、痛風発作の既往があるか、合併症があるかで対応がまったく変わります。健診の紙に書かれた数値だけを見て「高いから薬」でも「まだ低いから放置」でもありません。過去の発作、腎臓の状態、血圧や血糖と合わせて判断します。
なおガイドラインは、合併症のうち腎障害と尿路結石以外について、尿酸値を下げてイベントを抑制できるかを検討した大規模介入試験はまだ行われていないと明記しています。
痛風にはビールがいちばん悪いのでしょうか?
ビールは確かにリスクですが、いちばんではありません。
ガイドラインが挙げている痛風発症リスクの数字を並べると、順番が見えてきます。アルコールでは摂取量が50g/日以上で2.5倍。種類別ではビール1サービング(355mL)あたり1.5倍、蒸留酒1サービング(44mL)あたり1.2倍で、ワインではリスクの上昇が認められませんでした。
一方、食品では肉類の摂取が多い集団で1.4倍、魚介類が多い集団で1.5倍、そしてソフトドリンクの摂取が多い集団では1.9倍と、ここが最も高い数字です。
ガイドラインは特に果糖の関与が強いとしています。「果糖はリン酸化に際してATPを消費し、プリン分解が亢進する結果尿酸産生が増加し、果糖の代謝産物の乳酸による尿酸排泄低下も関与する」。つまり「プリン体が多いから」ではなく、糖そのものが尿酸を上げる経路があるということです。
プリン体オフのビールに切り替えても、甘い飲み物を毎日飲んでいるなら、そちらのほうが数字は大きいかもしれません。なお下げる方向のデータもあり、乳製品の摂取が多い集団では0.6倍でした。
尿酸値を下げれば、心臓や血管の病気を防げますか?
そこは、ガイドラインが最も慎重に書いている部分です。
CQ3「高尿酸血症合併高血圧患者に対して、尿酸降下薬は非投薬に比して推奨できるか?」の推奨文は「生命予後ならびに心血管病発症リスクの軽減を目的とした尿酸降下薬の使用は積極的には推奨できない」で、推奨の強さは「実施しない」ことを条件つきで推奨する、エビデンスの強さはD(非常に弱い)です。CQ5の心不全についても同様で「生命予後改善を目的とした尿酸降下薬の投与は積極的には推奨できない」、エビデンスの強さはC(弱)でした。
さらに治療アルゴリズムの注釈には、合併症のうち「腎障害と尿路結石以外は尿酸値を低下させてイベント抑制を検討した大規模介入試験は未施行である」と明記されています。つまり「尿酸値が高いと心臓に悪いから薬で下げましょう」という説明は、現時点のエビデンスに支えられていません。
一方で、腎障害については話が別です。CQ2は「腎機能低下を抑制する目的に尿酸降下薬を用いることを条件つきで推奨する」で、エビデンスの強さはB(中)。ガイドラインは「薬物介入を条件付きで推奨したはじめてのガイドラインである」と述べています。
守れる臓器と、まだ言えない臓器がある——それが正確なところです。
薬を飲み始めたら発作が起きました。効いていないのでしょうか?
効いていないのではなく、むしろ薬が働き始めたことによる現象です。
ガイドラインは「尿酸降下治療の開始後数か月は、急性痛風関節炎出現のリスクが増加する」と明記しています。理由も説明されています。「血清尿酸値の低下により関節内微小痛風結節が表面から溶け出すことで結節の構造が弛緩し、MSU結晶が関節液中に剝落するためと考えられており、血清尿酸値の低下の程度が大きいほど治療開始当初は急性痛風関節炎の頻度が増す」。
だからガイドラインは「急激な血清尿酸値の低下が痛風発作のリスクを上げるので、血清尿酸値を確認しながら漸増法で目標値を目指す」としています。少しずつ増やすのが原則です。
またこの時期の発作を防ぐため、コルヒチンを予防的に併用する方法があります。CQ6では長期投与(6か月)と短期投与を比べ、発作の頻度が短期投与群34.2%に対し長期投与群4.6%でした。ただし有害事象は長期投与群で2.93倍多かったことも同時に示されています。
いずれにせよ、ここで自己判断で薬をやめてしまうのがいちばんもったいない場面です。主治医に発作が起きたことを伝えてください。
女性ですが、尿酸値が高めと言われました。関係あるのでしょうか?
あります。まず基準について。ガイドラインは高尿酸血症を「性別、年齢を問わず、血清尿酸値が7.0mg/dLを超えるもの」と定義しています。尿酸の溶解度から決められた値なので、男女で基準は変わりません。頻度としては、高尿酸血症は全人口の男性で20%、女性で5%と報告されています。
そのうえで、女性について特記された一文があります。「女性では、血清尿酸値が7.0mg/dL以下であっても、血清尿酸値の上昇とともに生活習慣病のリスクが高くなる。潜在する疾患の検査と生活指導を行う対象となりうるが、尿酸降下薬の適応はない」。
読み方が2つあります。1つは、7.0を超えていなくても、女性では尿酸値が上がってきていること自体が生活習慣病のサインになりうるということ。健診で「基準内だけれど年々上がっている」という場合は、血圧・血糖・脂質・腹囲と合わせて見る価値があります。
もう1つは、それでも薬の対象にはならないということ。つまり調べて生活を整える対象ではあっても、薬で下げる対象ではありません。
なお、高尿酸血症の方のおよそ80%に高血圧、肥満、耐糖能異常、脂質異常症のいずれかが合併するとされています。尿酸値は単独の数値というより、他の数値と一緒に読むものだと考えてください。
参考資料
- 日本痛風・尿酸核酸学会「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版」(Minds ガイドラインライブラリ。本記事の推奨文・推奨の強さ・エビデンスの強さ・数値は、公開されているダイジェスト・ポケット版および2022年追補版にもとづいています)
- 公益財団法人日本医療機能評価機構「Minds ガイドラインライブラリ」
- 一般社団法人日本痛風・尿酸核酸学会「診療ガイドライン」