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検査と数値

コレステロールと
家族性高コレステロール血症
——300人に1人、見逃されている病気があります

健診で「コレステロールが高い」と言われ続けている方のなかに、治療の必要な遺伝性の病気が混じっています。
家族性高コレステロール血症(FH)。かつて500人に1人とされていましたが、ガイドライン2022は「一般人口の300人に1人程度」に上方修正しました。冠動脈疾患のリスクは非FHの10〜20倍です。
ところが診断の手がかりは3つだけで、そのひとつはアキレス腱の厚さ。特別な遺伝子検査から始まるわけではありません。
あわせて、健診の紙とガイドラインで数字が違う理由もご説明します。同じ「LDL 130」でも、人によって意味が変わるからです。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年8月16日 読了:約17分

1. 先に結論

論点ガイドライン2022の記述
FHは珍しい?一般人口の300人に1人。従来の「500人に1人」から上方修正されました
心筋梗塞との関係は?冠動脈疾患のオッズ比は非FHの10〜20倍
どう見つける?手がかりは3つだけ。LDL値・アキレス腱や黄色腫・家族歴
LDLはいくつから?診断基準は140mg/dL以上で高LDL-C血症。FHを疑うのは180mg/dL以上
目標値は誰でも同じ?いいえ。リスクによって160/140/120/100mg/dL未満と変わります
治療すると?スタチン登場前後で、FHの方の死亡年齢が平均63歳→76歳に延びました

この記事でいちばんお伝えしたいこと。

「毎年コレステロールが高いと言われるが、様子見のまま何年も経っている」——その方に読んでいただきたくて書きました。

必要なのは、アキレス腱を診てもらうことと、家族の病歴を伝えること。この2つを次の診察で持ち出すだけで、道が変わることがあります。

2. まず、4つの数字を読み分ける

健診の紙にある脂質の項目は、主に4つです。ガイドライン2022の脂質異常症診断基準を、そのまま整理します。

項目基準診断名
LDLコレステロール140mg/dL以上高LDLコレステロール血症
120〜139mg/dL境界域高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール40mg/dL未満低HDLコレステロール血症
トリグリセライド
(中性脂肪)
150mg/dL以上(空腹時)
175mg/dL以上(随時)
高トリグリセライド血症
non-HDLコレステロール170mg/dL以上高non-HDLコレステロール血症
150〜169mg/dL境界域高non-HDLコレステロール血症

ここで2つ、知っておくと役に立つことがあります。

① 中性脂肪は「空腹かどうか」で基準が違います

2022年版から、随時採血(空腹でないとき)の基準175mg/dL以上が加わりました。空腹時は150mg/dL以上です。ガイドラインは「基本的に10時間以上の絶食を『空腹時』とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可」としています。

健診前に食事をとってしまった場合、中性脂肪の数字は高めに出ます。「いつ食べたか」を伝えてください。

② non-HDLコレステロールという項目

あまり見慣れないかもしれませんが、総コレステロールからHDLを引いた値です。悪玉になりうるものを全部まとめた数字、と考えてください。

ガイドラインは「まずLDL-Cの管理目標値を達成し、次にnon-HDL-Cの達成を目指す」としています。LDLが目標に届いているのにnon-HDLが高い場合は、中性脂肪が高いことが多く、そちらの管理が重要になります。

HDLについて。ガイドラインには、あっさりした一文があります——「HDL-Cは単独では薬物介入の対象とはならない」
そして管理目標のところでも「低HDL-Cについては基本的には生活習慣の改善で対処すべきである」とされています。HDLを上げる薬を飲む、という話ではないということです。

3. 【重要】健診の紙と、ガイドラインの数字が違う理由

ここで、多くの方が混乱するところに触れます。

このサイトの健診結果の読み方ガイドでは、人間ドック学会の基準範囲としてLDLコレステロール60〜119mg/dLという数字を紹介しました。

ところが今回のガイドラインでは、140mg/dL以上が高LDLコレステロール血症です。

なぜ違うのか。目的が違うからです。

同じLDLの数字でも、3つの意味があります ① 基準範囲(人間ドック学会など) LDL 60〜119 健康な人を大勢調べたときに、大多数が収まる範囲 =「分布」の話。外れたからといって病気とは限らない ② 診断基準(動脈硬化性疾患予防GL2022) LDL 140以上 将来の病気のリスクから引かれた線 =「高LDLコレステロール血症」という診断がつく水準 ③ 管理目標値 160/140/120/100 と、人によって違う その人のリスクの高さによって決まる、治療のゴール
日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」表2-1・表3-2、および日本人間ドック・予防医療学会の基準範囲より作成。

健診結果の記事で書いたことを、もう一度お伝えします——基準値は病気の線であって、調子の線ではありません。そして今回はさらに、「病気の線」と「治療のゴール」も別だということです。

4. 同じ「LDL 130」でも、意味が変わります

ガイドライン2022のリスク区分別脂質管理目標値を見てください。

管理区分LDL-Cnon-HDL-C
一次予防・低リスク160mg/dL未満190mg/dL未満
一次予防・中リスク140mg/dL未満170mg/dL未満
一次予防・高リスク120mg/dL未満
(糖尿病で末梢動脈疾患・細小血管症の合併または喫煙ありの場合は100未満を考慮)
150mg/dL未満
(同 130未満)
二次予防
(冠動脈疾患やアテローム血栓性脳梗塞の既往)
100mg/dL未満
(急性冠症候群・FH・糖尿病などの合併では70未満を考慮)
130mg/dL未満
(同 100未満)

つまりLDL 130という同じ数字が、

——となります。数字だけを見て安心も心配もしすぎないのは、このためです。

ただし、共通の線もあります。ガイドラインは注意書きで、こう書いています。

「一次予防における管理目標達成の手段は非薬物療法が基本であるが、いずれの管理区分においてもLDL-Cが180mg/dL以上の場合は薬物治療を考慮する。家族性高コレステロール血症の可能性も念頭に置いておく。」

180——この数字を覚えておいてください。次章からの主役です。

5. 【核心】300人に1人の病気

ここからが、この記事の本題です。

BQ27 わが国において家族性高コレステロール血症(FH)の有病率はどの程度か?
総じて、一般人口の300人に1人程度、冠動脈疾患の30人に1人程度、早発性冠動脈疾患や重症高LDLコレステロール血症の15人に1人程度認められる。(エビデンスレベル:E-2)

——動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版

そして、この数字は近年になって上方修正されたものです。

従来、FHの有病率は500人に1人とされていたが、近年、横断研究やコホート研究から、それよりも明らかに高頻度であるとする報告が欧米から相次いで発表されている。

家族性高コレステロール血症(FH)は、どのくらいいるか 一般の人のなかで 300人に1人 冠動脈疾患の人のなかで 30人に1人 若くして発症した人のなかで 15人に1人 かつては「500人に1人」とされていました。 近年の研究で「それよりも明らかに高頻度」と分かり、上方修正されました。 ※日本からも北陸地方の分子疫学的検討で208人に1人という報告があります
日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」BQ27より作成。

300人に1人。日本全体では40万人以上という計算になります。学校の全校生徒に1〜2人、大きな職場なら何人か。

そして心筋梗塞などを起こした人のなかでは30人に1人、若くして起こした人のなかでは15人に1人。ここが重要です。FHは「起きてから」見つかることが多いということを、この数字が示しています。

6. 診断の手がかりは、3つだけ

意外に思われるかもしれませんが、FHの診断はとてもシンプルです。ガイドラインの表4-1「成人(15歳以上)FHの診断基準」を、そのままお見せします。

成人(15歳以上)FHの診断基準 1. 高LDLコレステロール血症 未治療時のLDL-C値が 180mg/dL以上 2. 腱黄色腫あるいは皮膚結節性黄色腫 手背・肘・膝などの腱黄色腫、または アキレス腱肥厚 3. FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴 第一度近親者(親・子・兄弟姉妹)に 2項目以上を満たす場合に、FHと診断します ※満たさなくても、LDL-C 250以上/または2か3を満たしLDL-C 160以上なら「強く疑う」
日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」表4-1より作成。他の原発性・続発性脂質異常症を除外したうえで診断します。

ここで気づいていただきたいのは、3つのうち2つは、血液検査ではないということです。

だから患者さんの側から情報を出すことに、意味があります。次の2章で、その2つを詳しく見ます。

すでに薬を飲んでいる方へ。診断基準は「未治療時のLDL-C値」で見ます。ガイドラインは「すでに薬物治療中の場合、治療のきっかけとなった脂質値を参考にする」としています。
薬を始める前の数値が分かると、診断に役立ちます。古い健診結果が手元にあれば、持っていってください。

7. アキレス腱を、触ってみてください

FHでは、コレステロールが腱に沈着してアキレス腱が厚くなることがあります。これが診断の柱のひとつです。

基準は2022年の改訂で変わりました。

測定法男性女性
X線撮影8.0mm以上7.5mm以上
超音波(2022年から診断基準に追加)6.0mm以上5.5mm以上

ガイドラインの説明です。

今までの診断基準はX線(軟線)撮影にて9mm以上としていたが、今回の改訂で男性8mm以上、女性7.5mm以上となった。〔…〕外来診察室で簡便かつ正確に計測できる手法が模索された。その結果2018年、日本動脈硬化学会と日本超音波医学会より〔…〕「超音波法によるアキレス腱厚測定」の標準的評価法が公示された。

基準が引き下げられ、測り方も増えた。つまり以前より見つけやすくなっているということです。

ご自身で確かめられること。

正確な判定には検査が必要ですが、気づくきっかけにはなります。くるぶしの少し上、アキレス腱のあたりを指でつまんでみてください。

思い当たったら、次の受診で「アキレス腱を診てもらえますか」と伝えてみてください。それだけで十分です。

なお手の甲、肘、膝の腱にも黄色い盛り上がり(腱黄色腫)ができることがあります。ガイドラインは「皮膚結節性黄色腫に眼瞼黄色腫は含まない」としています。まぶたの黄色い斑(眼瞼黄色腫)は、それだけでは診断項目に入りません。

8. 家族歴の聞き方——「早発性」という物差し

3つ目の手がかりが家族歴です。ここにははっきりした定義があります。

早発性冠動脈疾患は、男性55歳未満、女性65歳未満で発症した冠動脈疾患と定義する。

そして対象は第一度近親者——親、子、兄弟姉妹です。

つまり、こういう情報が診断に直結します。

こんな家族歴意味
父親が50代前半で心筋梗塞男性55歳未満 → 早発性に当たります
母親が60代前半で狭心症女性65歳未満 → 早発性に当たります
兄弟がコレステロールの薬を飲んでいるFHの家族歴の手がかりになります
祖父が80代で心筋梗塞第一度近親者ではなく、年齢も早発性に当たりません

診察の前に、思い出しておいてください。

「父が何歳のときに倒れたか」——正確でなくても構いません。「50代だった」「還暦前だった」で十分に意味があります。

これはあなたにしか出せない情報です。血液検査からは出てきません。

9. 放っておくとどうなるか

ガイドラインが挙げているリスクです。

BQ28 FH患者の予後・主たる合併症にはどのようなものがあるか?
冠動脈疾患:オッズ比は非FHと比較し10〜20倍
末梢動脈疾患:オッズ比は非FHと比較し5〜10倍
◦脳卒中:影響は明確でない
◦大動脈弁狭窄症・腹部大動脈瘤:疫学的な関連は示されていないが、合併するFHの症例報告がある

10〜20倍。これが、この病気を見つける意味です。

そして興味深いことに、脳卒中については「影響は明確でない」とされています。全部が上がるわけではなく、心臓と足の血管に集中するという性質があります。

10. 【希望の話】治療で、予後は変わりました

ここは、ぜひ知っていただきたい部分です。

ガイドラインは、日本からの報告(Mabuchiら)を紹介しています。スタチンという薬が登場する前と後で、FHの方の予後を比較したものです。

スタチン登場の前と後で、何が変わったか(日本からの報告) FHヘテロ接合体(300人に1人のタイプ)の死亡年齢 スタチン登場前 平均63歳 登場後 76歳 (13年の延長) ※登場前は男性の73%、女性の64%が心臓が原因で亡くなっていました FHホモ接合体(より重症のタイプ)の死亡年齢 スタチン登場前 平均28歳 登場後 59歳 FHは、見つかりさえすれば手立てのある病気です。 ※ガイドラインはFHヘテロ接合体の治療について「スタチンを第一選択薬とする  厳格な脂質管理を推奨する」(推奨レベルA)としています
日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」BQ28に引用されたMabuchiらの報告より作成。

13年。薬が使えるようになったことで、これだけ変わりました。

だからこの記事の主題は「怖い病気がある」ではなく、「見つければ手が打てる」です。300人に1人という数字も、10〜20倍というリスクも、見つけるための材料としてお伝えしています。

FHは専門医の領域です。ガイドラインは「FH患者の治療は困難で将来の冠動脈疾患合併のリスクもきわめて高いため、専門医への紹介が勧められる」としています。
かかりつけの先生に「FHの可能性はありますか」と聞いてみてください。必要なら紹介してもらえます。

11. 見つかったら、家族も調べます

診断基準の注意書きに、こう書かれています。

FHと診断した場合、家族についても調べることが強く推奨される。

FHは遺伝性の病気なので、親・子・兄弟姉妹にも同じ体質の方がいる可能性があります。ヘテロ接合体の場合、確率は理論上50%です。

そして小児にも基準があります。15歳未満では、未治療時のLDL-C値140mg/dL以上が高LDL-C血症の項目です。ガイドラインは「FHと診断されれば、できるだけ早期に食事や運動などの生活習慣の指導を行い、LDL-Cの低下を含めた動脈硬化のリスクの低減に努める」としています。

ご自身がFHと診断された方へ。

お子さんやご兄弟に伝えるのは、気が重いかもしれません。「不安にさせるだけでは」と迷われるのも当然です。

ただ、10章の数字を思い出してください。この病気は、見つかれば手が打てます。そして早く分かるほど、打てる手は多くなります。伝えることは、心配をうつすことではありません。

12. FHでない場合の、ふつうの脂質異常症

もちろん、コレステロールが高い方の大多数はFHではありません。その場合の考え方です。

ガイドライン2022の治療方針の原則は、こうです。

区分原則
一次予防
(まだ起きていない)
まず生活習慣の改善を行った後、薬物療法の適用を考慮する
二次予防
(冠動脈疾患などの既往がある)
生活習慣の是正とともに、薬物治療を考慮する

順番が違います。まだ起きていない段階では、まず生活習慣。すでに起きた後なら、生活習慣と薬を同時に。

そして目標についても、現実的な記述があります。

これらの値はあくまでも到達努力目標であり、一次予防(低・中リスク)においてはLDL-C低下率20〜30%も目標値としてなり得る。

〔…〕スタチンを用いた無作為化比較対照試験のメタ解析の結果、LDL-Cの20%〜30%低下により、約30%の冠動脈疾患発症率の低下が認められている

「140未満」に届かなくても、2〜3割下げれば意味がある。これは、目標が遠く感じる方にとって大事な情報だと思います。

13. 食事と運動で、どこまで変わるか

一次予防の基本は生活習慣です。ただし正直にお伝えしておくべきことがあります。

FHの場合、生活習慣だけでLDLを十分に下げることはできません。遺伝的にコレステロールの処理の仕組みが違うためで、これは努力の問題ではありません。ガイドラインがFHについて薬物治療(スタチン第一選択・推奨レベルA)を明記しているのは、そのためです。

一方、FHでない脂質異常症では、生活習慣の改善が土台になります。ガイドラインが治療方針の原則で「まず生活習慣の改善を行った後、薬物療法の適用を考慮する」としているとおりです。

そして、このサイトで繰り返しお伝えしてきたことが、ここでも当てはまります。

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サプリメントで下げるガイドラインの治療体系に、その選択肢はありません(→サプリメントの選び方

ガイドラインが挙げる危険因子。治療開始前に確認すべきものとして、次の8つが示されています。
①喫煙 ②高血圧 ③糖尿病(耐糖能異常を含む)④脂質異常症 ⑤慢性腎臓病 ⑥肥満(特に内臓脂肪型肥満)⑦加齢・性別(男性または閉経後女性)⑧家族歴
そして「危険因子の重複状態は厳格な管理を要することを常に念頭に置くべき」とされています。コレステロールだけを見ない——これがガイドライン全体を貫く考え方です。

14. 🚨 受診の目安と、上手なかかり方

相談する価値があるとき

状況理由
🚨 LDLコレステロールが180mg/dL以上ガイドラインが「家族性高コレステロール血症の可能性も念頭に置いておく」とする水準。区分にかかわらず薬物治療を考慮
🚨 LDLが250mg/dL以上他の項目を満たさなくてもFHを強く疑うとされています
親・子・兄弟姉妹が若くして心筋梗塞や狭心症男性55歳未満・女性65歳未満なら早発性。診断項目のひとつです
アキレス腱が左右とも太い診断項目のひとつ。診てもらう価値があります
手の甲・肘・膝に黄色い盛り上がり腱黄色腫の可能性
何年も「高い」と言われて様子見のままリスク区分によって目標値が違います。自分がどの区分かを確認する価値があります
他の危険因子がある(喫煙・高血圧・糖尿病・CKDなど)重複するほど厳格な管理が必要になります

診察で伝えること

聞いてよい質問

最後に。

健診で「コレステロールが高い」と言われることは、めずらしくありません。だから、つい流してしまいます。

ただ300人に1人——そのなかに、放っておくと心臓の血管のリスクが10〜20倍になる体質の方が混じっています。そしてその人を見つける手がかりは、血液検査だけではありません。

アキレス腱と、家族の話。この2つは、あなたの側から差し出せるものです。次の受診で、思い出してみてください。

15. よくある質問

家族性高コレステロール血症は、どのくらい珍しい病気ですか?

思われているほど珍しくありません。ガイドライン2022は「総じて、一般人口の300人に1人程度、冠動脈疾患の30人に1人程度、早発性冠動脈疾患や重症高LDLコレステロール血症の15人に1人程度認められる」としています。

注目すべきは、この数字が上方修正されたことです。ガイドラインは「従来、FHの有病率は500人に1人とされていたが、近年、横断研究やコホート研究から、それよりも明らかに高頻度であるとする報告が欧米から相次いで発表されている」と説明しています。日本からも北陸地方の分子疫学的検討で208人に1人という報告があります。

300人に1人ということは、日本全体で40万人以上という計算になります。そして冠動脈疾患を起こした人のなかでは30人に1人、若くして心筋梗塞などを起こした人やLDLが著しく高い人のなかでは15人に1人です。決して例外的な病気ではありません。

どうすれば見つかりますか?

成人の診断基準は3つだけで、このうち2つを満たせば診断されます。

1つ目は高LDLコレステロール血症で、未治療時のLDL-C値が180mg/dL以上。2つ目は腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱の黄色腫、またはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫。3つ目はFHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(第一度近親者=親・子・兄弟姉妹)です。ここでいう早発性冠動脈疾患とは、男性55歳未満、女性65歳未満で発症した冠動脈疾患を指します。

2つを満たさない場合でも、LDL-Cが250mg/dL以上なら、あるいは2番目か3番目を満たしてLDL-Cが160mg/dL以上ならFHを強く疑う、とされています。

つまり必要なのは、血液検査の数値と、アキレス腱を診てもらうことと、家族の病歴を医師に伝えることの3つです。特別な遺伝子検査から始まるわけではありません。

アキレス腱が厚いかどうかは、自分でわかりますか?

正確な判定は検査が必要ですが、気づくきっかけにはなります。ガイドライン2022の基準は、X線撮影で男性8.0mm以上、女性7.5mm以上、超音波で男性6.0mm以上、女性5.5mm以上です。

この基準は2022年の改訂で変更されました。従来はX線で9mm以上とされていたものが引き下げられ、さらに超音波による測定が新たに診断基準へ組み込まれました。ガイドラインは「外来診察室で簡便かつ正確に計測できる手法が模索された」結果だと説明しており、2018年に日本動脈硬化学会と日本超音波医学会から標準的評価法が公示されています。

自分でくるぶしの上あたりを触ってみて、左右とも太いと感じる、靴の履き口が当たる、家族にも同じ特徴がある——そうした場合は、健診でLDLが高いと言われたときに「アキレス腱を診てもらえますか」と伝えてみてください。

健診の紙とガイドラインで、基準の数字が違うのはなぜですか?

目的が違うからです。

人間ドックなどで使われる「基準範囲」は、健康な人を大勢調べたときに大多数が収まる範囲を示したもので、LDLコレステロールなら60〜119mg/dLといった数字になります。一方、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022の脂質異常症診断基準は、LDLコレステロール140mg/dL以上を高LDLコレステロール血症、120〜139mg/dLを境界域としています。前者は分布の話、後者は将来の病気のリスクから引かれた線です。

さらにややこしいのは、治療の目標値がまた別だということです。ガイドラインはリスクの高さで管理目標を分けており、一次予防の低リスクなら160mg/dL未満、中リスクなら140mg/dL未満、高リスクなら120mg/dL未満、二次予防なら100mg/dL未満とされています。

つまり同じ「LDL 130」でも、人によって意味が変わります。数字だけを見て安心も心配もしすぎないでください。

治療すれば、どのくらい変わりますか?

日本からの報告が、変化の大きさを示しています。ガイドラインが紹介しているMabuchiらの検討では、スタチンという薬が登場する前と後で、FHの方の予後が比較されました。

スタチン登場前は、FHヘテロ接合体の男性の73%、女性の64%が心臓が原因で亡くなっていました。そして死亡年齢は平均63歳でしたが、スタチン登場後には76歳まで延びています。より重症のFHホモ接合体では、平均28歳だった死亡年齢が59歳まで延びました。

ガイドラインはFHヘテロ接合体の治療について「スタチンを第一選択薬とする厳格な脂質管理を推奨する」(推奨レベルA)としています。

FHは、見つかりさえすれば手立てのある病気だということです。だからこそガイドラインは「FHと診断した場合、家族についても調べることが強く推奨される」と書いています。

健診の数値には、もうひとつ「線が3本ある」項目があります。

尿酸値です。7.0を超えたら高尿酸血症ですが、薬物治療の検討ラインは合併症ありで8.0、なしで9.0と分かれます。
そしてコレステロールと同じく、学会が「まだ言えない」と書いている部分があります——高血圧を合併した人への尿酸降下薬は「実施しない」ことを条件つきで推奨・エビデンスD。一方で腎臓については条件つきで推奨されています(→尿酸値と痛風の記事)。

参考資料

なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。家族性高コレステロール血症の診断は、他の原発性・続発性脂質異常症を除外したうえで医師が行うものであり、本記事の内容だけで判断することはできません。本文で紹介した診断基準・管理目標値は日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」にもとづくもので、個々の患者さんに適した目標値や治療は診察のうえで決まります。処方されている薬を自己判断で中止・変更しないでください。掲載内容は公開時点の情報にもとづいており、ガイドラインは改訂されることがあります。内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。