1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| 症状がなくなったら薬はやめていい | 寛解のときでも再燃しないように治療を続けることが大切。飲み忘れや自己判断の中断は再燃の原因になる |
| 食事は厳しく制限しないといけない | 一般的に生活面で過度な制限をする必要はない。症状が落ち着いていれば、潰瘍性大腸炎には食事はほとんど影響しない |
| IBDだと仕事や運動は無理 | 寛解期では就学・就労は健康な人と変わりなく可能。病状が落ち着いていれば適度な運動も行ってよい |
| IBDの人は妊娠・出産をあきらめるべき | 妊娠・出産は可能。寛解期の妊娠が望ましく、IBDの薬のほとんどは妊娠・出産・授乳の時期も続けられる |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
下痢・血便・腹痛・体重減少・発熱が続くときは、医療機関で早めに診断を受けてください。IBDと言われたら、症状が落ち着いても治療を続けること、市販の痛み止めやかぜ薬は主治医に相談してから、クローン病では禁煙が大切です。
2. 炎症性腸疾患とは
- 原因はまだはっきりわかっていないが、遺伝や環境、腸内細菌の異常などが関わって免疫の異常が起こり、発症すると考えられている
- 衛生状態の整った先進国に多く、欧米型の食生活も関与していると考えられている
- 潰瘍性大腸炎は20万人(米国に次いで世界で2番目に多い)、クローン病は7万人を超える
- どちらも医療費の一部を国が補助する特定疾患(いわゆる難病)に指定されている
- IBDの患者さんの寿命は一般の方と差はないとされている
3.【核心】潰瘍性大腸炎とクローン病の違い
どちらの病気でも、発熱やだるさ、口内炎、目や皮膚の炎症、関節の痛みなど、腸以外の症状が出ることがあります。
4. 検査
- 潰瘍性大腸炎:血便や下痢、腹痛が慢性的に続き、血液・便の検査の異常も続く場合に疑い、大腸の内視鏡検査で炎症の状態や範囲を調べて診断する
- クローン病:大腸や小腸の内視鏡検査やバリウムのX線検査。カプセル内視鏡やバルーン内視鏡で小腸を見ることもある。狭窄や瘻孔などが疑われれば超音波・CT・MRI
- ほかの病気との区別:食中毒の細菌や結核、アメーバ赤痢などの感染による腸炎と区別するため、便の細菌検査などを行う。解熱鎮痛薬など、薬でもIBDに似た腸炎が起こるため、飲んでいる薬を聞かれる
同じように下痢や便秘が続く病気でも、腸に炎症がない過敏性腸症候群については過敏性腸症候群(IBS)の記事で書いています。
5. 治療
| 病気 | 治療(資料の記述) |
|---|---|
| 潰瘍性大腸炎 | 中心は5-ASA製剤(ほとんどの患者さんが服用)。効果が不十分ならステロイド(期間を限定)。ステロイドを減らすと悪化する場合は免疫調節薬。さらに免疫抑制薬、生物学的製剤(抗TNF-α抗体薬など)、血球成分除去療法、JAK阻害薬など。内科治療で十分に良くならなければ手術(全大腸の摘出) |
| クローン病 | 栄養療法(脂質の多い食事を避ける、成分栄養剤)は補助的。中心は薬物療法(5-ASA製剤、ステロイド、免疫調節薬、生物学的製剤の注射など)。高度な狭窄や瘻孔があれば手術。手術後も再燃を防ぐ治療を続ける |
6. 落ち着いても治療を続ける理由
「症状がない寛解期でも、きちんと治療を続けることによって再燃を予防し、長期にわたって寛解を維持することを目指します。」(日本消化器病学会「患者さんとご家族のための炎症性腸疾患(IBD)ガイド2023」Q7)
- 潰瘍性大腸炎では、寛解を保つことで再燃を防ぐだけでなく、合併する大腸がんの発症リスクも下がる
- 再燃の大きな原因の一つが薬の飲み忘れ。飲み忘れが多いときは、1日1回など服用回数をまとめる方法もあるので主治医に相談
- ステロイドには寛解を維持する効果はなく、長期の内服では副作用のリスクが上がる
- クローン病では、コントロールしきれないと狭窄や瘻孔などで手術が必要になることがあるため、寛解を長く保つことが重要
- 病気になってからの期間が長い人では、炎症に関連したがんが発生することがあるため、定期的な内視鏡検査が大事
7. 食事と日常生活、仕事と運動
| 時期 | 資料の記述 |
|---|---|
| 症状がある(活動期) | 十分な睡眠・休養。低脂肪・低残渣で刺激物の少ない食事。消化のよくない繊維質の多い食品、脂肪や油の多い食品、香辛料、アルコールは避けたほうがよい |
| 落ち着いている(寛解期) | ストレスや疲労をため過ぎない、暴飲暴食をしない。潰瘍性大腸炎には食事はほとんど影響しない。クローン病は脂質を制限したほうがよいが、強い制限は不要 |
| クローン病で腸が細い | 不溶性食物繊維(きのこ類、ごぼう、れんこん、こんにゃく、もやしなど)が詰まることがあるので避けたほうがよい |
寛解期には、就学や就労は健康な人と変わりなく行うことが可能です。学校や職場には、定期的な通院が必要なことなどを前もって伝えておくとよいとされています。働きづらさがある場合は、両立支援制度や難病相談支援センターなどに相談できます。病状が落ち着いていて、貧血や栄養状態の悪化がなければ適度な運動も行ってよく、プロスポーツ選手やオリンピックメダリストにも患者さんがいるとされています。
8. 妊娠・出産
- IBDの治療を続けながらでも、妊娠・出産は可能
- 妊娠は病気が落ち着いている時期(寛解期)が望ましい。活動期の妊娠では流産や早産などのリスクがやや高くなるといわれる
- IBDの薬のほとんどは妊娠・出産・授乳の時期も続けられる。自己判断で中断しない。調節や中止を考えたほうがよい薬もあるので、妊娠を考えたら早めに主治医に相談
- 男性では、5-ASA製剤の1つ(サラゾスルファピリジン)で精子の数や運動能が下がることが報告されているが、薬を変えれば回復する
- 親がIBDの場合、子どもが発症する確率は一般より少し高いものの、発症しない子どものほうがはるかに多い
9.【内科医の視点】市販の痛み止めとタバコに注意
内科医として、ここはぜひ知っておいてほしいところです。資料は、頭痛や生理痛の痛み止めや、解熱作用のあるかぜ薬が原因で再燃する場合もあるとし、これらを続けて飲む必要がある場合は主治医に相談するよう勧めています。診断の際にも、解熱鎮痛薬などでIBDに似た腸炎が起こることがあるとされています。痛み止めと胃の関係については胃潰瘍とピロリ菌の記事でも書いています。
もう一つはタバコです。資料によると、クローン病では喫煙が入院や手術のリスクを高めることがわかっており、また治療効果を弱め、再燃の原因になるといわれています。
「なお、クローン病では喫煙が入院や手術のリスクを高めることがわかっており、禁煙が強く勧められます。」(日本消化器病学会「患者さんとご家族のための炎症性腸疾患(IBD)ガイド2023」Q4)
この章で扱った禁煙を手助けする市販薬です。日本消化器病学会の患者さん向けガイドは、「クローン病では喫煙が入院や手術のリスクを高めることがわかっており、禁煙が強く勧められます。」としています。この市販薬は、資料に名前の出ている製品ではありません。
※ 当サイトは、記事のなかで根拠を示したうえで推奨したものに限り広告を掲載しています。ここで紹介しているのは、ニコチンを皮膚から補う禁煙補助薬ニコチネル パッチ20(第1類医薬品・販売元 佐藤製薬)です。添付文書に書かれた使い道(効能)は、禁煙時のイライラ・集中困難・落ち着かないなどの症状の緩和で、炎症性腸疾患の治療薬ではありません。購入時には薬剤師による確認があります。添付文書では、妊娠中・授乳中の人、3か月以内に心筋梗塞を起こした人、重い狭心症や重い不整脈と診断された人、急性期の脳梗塞・脳出血と診断された人、うつ病と診断されたことのある人などは使用しないこととされています。使い方は、最初の6週間はパッチ20、次の2週間はパッチ10を1日1枚で、連続して8週間を超えて使用しないこととされています。使用中の喫煙はしないでください。IBDで治療中の方は、使う前に主治医または薬剤師に相談するか、禁煙外来を利用してください。
10. 受診したいとき
医療機関を受診したいとき
・下痢、血便、腹痛、体重減少、発熱などが続く
・すぐトイレに行かないと間に合わない、便が出たあとも残便感が続く
・肛門のまわりから膿が出る、痛む(痔ろう)
主治医に相談したいとき(IBDと診断されている方)
・症状が落ち着いて、薬をやめたいと思った(自己判断で中断しない)
・痛み止めやかぜ薬を続けて飲む必要がある
・薬の飲み忘れが多い
・妊娠・出産を考えている、妊娠がわかった
最後に、この記事の要点をもう一度。
① IBDは潰瘍性大腸炎(20万人超)とクローン病(7万人超)。若い人に多い
② 潰瘍性大腸炎は大腸だけで血便・下痢、クローン病は消化管のどこにでも起こり下痢・腹痛・痔ろう
③ 薬の進歩で多くの人が症状をコントロールできる。落ち着いても治療を続ける
④ 市販の痛み止めやかぜ薬で再燃することがある。クローン病は禁煙が強く勧められる
⑤ 寛解期は仕事も運動も可能。妊娠・出産もできる(寛解期が望ましい)
11. よくある質問
潰瘍性大腸炎とクローン病はどう違いますか?
日本消化器病学会の患者さん向けガイドによると、潰瘍性大腸炎は原則として大腸にだけ起こり、血便や下痢が多いのが特徴です。クローン病は口から肛門まで消化管のどこにでも起こり(とくに小腸と大腸)、下痢や腹痛が多く、肛門の痔ろうを伴うことがよくあります。
症状が落ち着いたら薬をやめてもいいですか?
日本消化器病学会の患者さん向けガイドによると、症状がない寛解期でもきちんと治療を続けることで再燃を予防し、寛解を長く維持することを目指します。薬の飲み忘れや自己判断での中断は再燃の原因になることがわかっているため、一般的に薬は長期間続けることになるとされています。
市販の痛み止めを飲んでも大丈夫ですか?
日本消化器病学会の患者さん向けガイドによると、頭痛や生理痛の痛み止めや、解熱作用のあるかぜ薬が原因で再燃する場合もあるため、これらを続けて飲む必要がある場合は主治医に相談するよう勧められています。
食事はどうすればいいですか?
日本消化器病学会の患者さん向けガイドによると、症状があるときは低脂肪・低残渣で刺激物の少ない食事を心がけ、繊維質の多い食品や脂肪の多い食品、香辛料、アルコールは避けたほうがよいとされています。症状が落ち着いていれば、潰瘍性大腸炎には食事はほとんど影響せず、一般的に過度な制限は必要ありません。
IBDでも妊娠・出産はできますか?
日本消化器病学会の患者さん向けガイドによると、IBDの治療を続けながらでも妊娠・出産は可能です。妊娠は病気が落ち着いている寛解期が望ましく、IBDの薬のほとんどは妊娠・出産・授乳の時期も続けられるため、自己判断で中断しないよう勧められています。妊娠を考えたら早めに主治医に相談してください。
参考にした主な資料
- 日本消化器病学会「患者さんとご家族のための炎症性腸疾患(IBD)ガイド2023」