1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| 胃潰瘍はストレスでなる | 一般的な生活でのストレスや喫煙で潰瘍の原因になるという根拠はない。ただしピロリ菌に感染している人では、喫煙やストレスで潰瘍になりやすくなる |
| 痛みがなくなったら薬はやめていい | 潰瘍がよくなるまで通常6〜8週間。症状がよくなっても自己判断で薬をやめるのは危険 |
| 除菌はうまくいかないことが多い | 1回目の成功率は70〜90%程度、2回目は約90%。2回で97〜99%程度が成功 |
| 一度除菌しても、またすぐ感染する | 除菌後に再び陽性になるのは年間2%以下とされ、再感染はまれ |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
ピロリ菌が見つかったら、適切なタイミングで除菌治療を受けること。痛み止めやアスピリンを飲んでいる人は主治医と相談すること。そして、吐血・黒い便・激しい腹痛は、昼夜を問わずすぐに受診してください。
2. 消化性潰瘍とは、どんな病気か
消化性潰瘍は、食べ物を分解する胃酸や消化酵素が、胃や十二指腸の壁を深く傷つけてしまうことで起こる病気です。粘膜が削れて、穴が開きそうな状態になったのが潰瘍です。
- お腹の上やみぞおちのあたりの鈍い痛み、吐き気・嘔吐、胸やけ
- 胃潰瘍では食後に、十二指腸潰瘍では夜間に痛みを感じることがある
- ときに自覚症状がまったくない場合もある
- 潰瘍から出血すると、血液が混じった黒い便や吐血。出血が長引くと貧血
患者数は、胃潰瘍がおよそ2万人、十二指腸潰瘍がおよそ3,300人と推定されています(2017年度)。ピロリ菌の感染者が減り、除菌治療が普及したことで、最も多かった1984年ごろと比べて胃潰瘍は約5分の1、十二指腸潰瘍は約10分の1に減っています。それでも、出血や穿孔(穴があくこと)などで、2017年には2,513人が亡くなっています。
3.【核心】原因はピロリ菌と痛み止め
「消化性潰瘍の原因は、その多くがピロリ菌の感染によるもので、次に多いのが痛み止めの薬(非ステロイド性抗炎症薬)によるものです。」(日本消化器病学会「患者さんとご家族のための消化性潰瘍ガイド2023」)
大規模災害のときなどの強いストレスでは、潰瘍の報告もあるとされています。
ガイドは、高齢化が進み、非ステロイド性抗炎症薬を痛み止めや脳・心臓の病気の予防として飲む人が増えたことで、薬による潰瘍の割合が高まっていると書いています。非ステロイド性抗炎症薬は、胃の粘膜を守る物質(プロスタグランジン)を抑えるはたらきがあるため、胃の粘膜を守る力を弱めてしまいます。
4. 検査:内視鏡とピロリ菌の診断
潰瘍が疑われたら、まず内視鏡検査(胃カメラ)やバリウム検査で潰瘍があるかを確認します。最近は内視鏡検査が多く、とくに出血が疑われる場合は緊急に内視鏡検査を行い、必要に応じて止血します。鼻から入れる細い内視鏡は嘔吐反射が少なく負担が軽いとされますが、止血処置はできません。バリウム検査で異常があったときは、後日、内視鏡で詳しく調べる必要があります。
ピロリ菌については、ガイドは次のように説明しています。
| 項目 | 資料の記述 |
|---|---|
| 保険で受ける条件 | 内視鏡やバリウム検査で「ピロリ感染胃炎」と診断し、ピロリ菌の感染が疑われた場合に限り、感染の診断が認められている |
| 除菌前の検査 | 血液や尿の抗体検査、内視鏡のときのウレアーゼ試験が簡便で、健診でもよく使われる |
| 除菌後の確認 | 尿素呼気試験や便中抗原検査が正確で推奨される。除菌治療から4週間以上たってから行う |
| 注意 | 胃酸を抑える薬や抗菌薬を検査の2週間以内に飲んでいると、正しく診断できない場合がある。主治医に飲んでいる薬を確認してもらう |
5. 治療:飲み薬と、ピロリ菌の除菌
消化性潰瘍の基本的な治療は、胃酸の分泌を抑えたり、胃の粘膜を守ったりする飲み薬です。ふつうは飲み始めて6〜8週間で潰瘍がよくなります。あわせて、暴飲暴食を避ける、喫煙やアルコールを控える、ストレス解消に努めるなど、日常生活の見直しも大切だとされています。
「ピロリ菌の除菌に成功すると潰瘍の再発が抑えられることが明らかとなり、保険診療によって除菌治療を行うことが可能です。」(同ガイド)
| 使う薬 | 成功率 | |
|---|---|---|
| 1回目(一次除菌) | 胃酸を抑える薬(PPIまたはP-CAB)+抗生物質2種類(アモキシシリン、クラリスロマイシン)を7日間 | 70〜90%程度 |
| 2回目(二次除菌) | 胃酸を抑える薬+アモキシシリン+メトロニダゾールを7日間。服用中はお酒禁止 | 約90% |
| 合計 | 2回とも保険診療で受けられる | 97〜99%程度 |
失敗の理由は、きちんと薬を飲めていない場合と、抗生物質が効きにくい菌(耐性菌)の場合です。3種類の薬が1回分ずつパックになった製剤もあり、飲み忘れを防ぐのに役立ちます。副作用の多くは軽い軟便程度ですが、薬疹や重い下痢があれば速やかに主治医に相談してください。そして、除菌がうまくいったかを必ず確認することが重要です。
ガイドは、ピロリ菌に感染していると、潰瘍が再発しやすいことに加えてがんの原因になることも知られているとしています。胃がん検診についてはがん検診の記事で書いています。
6. 痛み止め・アスピリンを飲んでいる人へ
頭痛や腰痛、関節の痛みで痛み止めを飲む機会は少なくありません。また、脳卒中や心筋梗塞の再発予防のために、少量のアスピリンを長く飲んでいる人もいます。ガイドは、アスピリンも非ステロイド性抗炎症薬の1種なので、潰瘍のある人や、潰瘍になったことのある人は注意が必要で、当てはまる人は主治医に相談するよう勧めています。
- 痛み止めを飲み続ける必要がある場合は、胃酸を抑える薬(PPI、P-CAB)や、粘膜を守る薬を一緒に使って再発を防ぐ
- 痛み止めの種類をCOX-2選択的阻害薬に変えることも、潰瘍の予防に有効といわれている
- 以前に潰瘍になったことがあり、少量のアスピリンを長く飲んでいる人は、再発のリスクが高い。胃酸を抑える薬の併用が再発予防に有効とされる
頭痛の薬については片頭痛の記事、腰痛の薬については腰痛の記事で書いています。自己判断で薬をやめたり増やしたりせず、主治医と相談してください。
7.【内科医の視点】黒い便と貧血を見逃さない
内科医として、ここはぜひ知っておいてほしいところです。ガイドは、消化性潰瘍は自覚症状がまったくない場合もあること、少量の出血が長引くと貧血が進むことを書いています。
潰瘍から多量に出血すると、吐血や黒い便(下血)のほか、めまいや動悸といった貧血の症状が出ます。黒い便や、めまい・動悸がある場合は、潰瘍からの出血の可能性があります。健診で貧血を指摘された方は、フェリチンと鉄欠乏の記事も参考にしてください。
8. すぐに受診すべき症状
昼夜を問わず、すぐに受診してほしいとき
・血を吐いた(吐血)
・黒い便が出た、めまいや動悸を伴う
・激しい腹痛がある(穿孔の可能性。緊急の処置が必要)
相談したいとき
・みぞおちの痛み(食後や夜間)、吐き気が続く
・健診でピロリ菌を指摘された、除菌を受けたことがない
・痛み止めやアスピリンを飲んでいて、胃の症状がある、潰瘍になったことがある
・除菌治療中に薬疹や重い下痢が出た
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 2大原因はピロリ菌と痛み止めの薬。ふつうの生活のストレスや喫煙だけでは根拠がない
② 治療は飲み薬で、潰瘍がよくなるまで6〜8週間。自己判断でやめない
③ 除菌に成功すると再発が抑えられる。2回で97〜99%程度が成功
④ 痛み止め・アスピリンを飲む人は、主治医と相談
⑤ 吐血・黒い便・激しい腹痛は、昼夜を問わずすぐ受診
9. よくある質問
胃潰瘍はストレスが原因ですか?
日本消化器病学会の患者さん向けガイドによると、消化性潰瘍の原因の多くはピロリ菌の感染で、次に多いのが痛み止めの薬(非ステロイド性抗炎症薬)です。一般的な生活でのストレスや喫煙で潰瘍の原因となるという根拠はないとされています。ただし、ピロリ菌に感染している人では、喫煙やストレスにより潰瘍になりやすくなることがわかっています。
ピロリ菌の除菌は、どのくらい成功しますか?
ガイドによると、1回目の除菌は胃酸を抑える薬と2種類の抗生物質を7日間飲み、成功率は70〜90%程度です。うまくいかなかった場合は薬を少し変えて2回目の除菌を行い、成功率は約90%です。2回の除菌治療で97〜99%程度の人が除菌に成功し、どちらも保険診療で受けられます。
除菌がうまくいったかは、どうやって確かめますか?
ガイドによると、除菌後の判定には尿素呼気試験や便中抗原検査が正確で推奨されており、除菌治療の薬を飲み終えてから4週間以降に行います。ピロリ菌が残っているといずれ潰瘍が再発するおそれがあるため、除菌の成否を確認することが重要とされています。
痛み止めをよく飲みます。胃潰瘍に気をつけたほうがいいですか?
ガイドによると、非ステロイド性抗炎症薬は胃の粘膜を守る物質を抑えるため、胃の粘膜を守る力を弱め、潰瘍が起きやすい状態になります。アスピリンもその1種です。潰瘍のある人や潰瘍になったことのある人は注意が必要で、飲み続ける必要がある場合は胃酸を抑える薬の併用などで再発を防ぎます。主治医に相談してください。
どんな症状のときに、すぐ受診すべきですか?
ガイドは、潰瘍から多量に出血すると吐血や黒い便のほか、めまいや動悸といった貧血の症状があらわれ、潰瘍が深くなって穴があくと激しい腹痛を感じるとしています。このような症状が出たときは緊急入院が必要なため、昼夜を問わずすぐに受診するよう勧めています。
参考にした主な資料
- 日本消化器病学会「患者さんとご家族のための消化性潰瘍ガイド2023」(Q1〜Q10)