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からだの変化

過敏性腸症候群(IBS)
——約10人に1人、女性は1.6倍。乳酸菌と「水に溶ける食物繊維」は強い推奨でした

大事な会議の前になるとお腹が痛くなる。通勤電車の途中でトイレに駆け込む。下痢と便秘をくり返す。——それなのに、検査では「異常なし」。
こうした症状の代表が過敏性腸症候群(IBS)です。有病率は約10%、女性は男性の1.6倍とされ、日本では消化器内科を受診する患者のおよそ30%を占めるという報告もあります。
ガイドラインは、乳酸菌などのプロバイオティクスと食物繊維を「強い推奨」としています。ただし食物繊維には「水に溶けるものに限る」という大事な条件がありました。
診断の基準、まず確かめたい警告症状、ストレスや胃腸炎との関係、食事と市販薬の注意まで、日本消化器病学会のガイドラインから整理します。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年9月15日 読了:約17分

1. 先に結論

よくある思い込みガイドラインの記述
検査で異常がないなら、気のせいそれがIBSの定義そのもの。治療の選択肢があります
ストレスのせいだから、我慢するしかないストレスは脳腸相関として腸に現れる。心理療法は強い推奨
食物繊維なら何でも体にいい有用なのは水に溶ける繊維。小麦ふすまは腹痛を悪化させた報告も
乳酸菌なら何でもいい強い推奨だが、はっきり効いたのは複数の菌の組み合わせ
市販の下剤を毎日飲めばいい刺激性下剤は原則として頓用
IBSだと思うから、検査はいらない血便・体重減少・50歳以上で発症などがあれば、大腸の検査を

この記事でいちばんお伝えしたいこと。

IBSは「異常なし」と言われるのに、確かに存在する病気です。まず警告症状がないかを確かめ、そのうえで水に溶ける食物繊維、乳酸菌・ビフィズス菌、食事の工夫から始めてください。

2. 約10人に1人——女性に多い病気

日本消化器病学会の「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020—過敏性腸症候群(IBS)」によれば、世界中の研究をまとめたシステマティックレビューで、IBSの有病率はこの数十年、およそ10%で推移しています。日本の報告でも、一般の人を対象にした調査で6.1%、健診受診者の調査で13.5〜14.2%、インターネット調査で13.1%でした。

そして、女性に多い病気です。

「男性と女性の有病率は,平均8.9と14.0で,女性のほうが1.6倍多い

日本の報告でも、女性は男性の1.2〜1.7倍でした(アジアでは男女差がないというレビューもあります)。年齢とともに有病率は下がる傾向があり、日本の調査では男女とも40代以降に減っていく傾向が報告されています。

ガイドラインは、日本ではIBSが消化器内科を受診する患者のおよそ30%を占めるという結果にも触れています。「自分だけ」ではなく、医療機関でもっとも多く出会う病気のひとつなのです。

3. 診断の基準と、4つの型

IBSの診断には、国際的な基準であるRomeⅣ(ローマ・フォー)が使われます。ガイドラインも、わが国でも積極的にRomeⅣを使うべきだとしています。

過敏性腸症候群の診断基準(RomeⅣ) 腹痛が、最近3か月のなかで 1週間につき少なくとも1日以上ある そして、次の3つのうち2つ以上に当てはまる 排便に関連する 排便の回数が変わる 便の形が変わる ・症状は、診断の少なくとも6か月以上前から始まっていること ・通常の検査で見つかる大腸の病気(大腸がん・炎症性腸疾患など)によるものではないこと 出典:「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020—過敏性腸症候群(IBS)」フローチャート・BQ2-1

腹痛の頻度は、以前の基準(月3日以上)より高い「週1日以上」になりました。

IBSは、便の形によって便秘型(IBS-C)・下痢型(IBS-D)・混合型(IBS-M)・分類不能型(IBS-U)の4つの型に分けられます。型によって病院で使う薬が変わるので、自分の型を知っておくことが大切です。

ただし、型は固定されたものではありません。女性のIBS患者を15か月追跡した研究では、約75%が少なくとも1回は別の型に移行していました。「以前は下痢型だったのに、最近は便秘がち」ということも珍しくないのです。

またガイドラインは、自分の体の感覚を言葉にするのが苦手な人もいるため、「腹痛がなければIBSではない」として最初から除外するやり方は推奨されないとも書いています。

4. 🚨 まず確かめること——警告症状

IBSは「ほかの病気がない」ことが前提です。ガイドラインは、次のいずれかがあれば、大腸内視鏡検査(または大腸造影検査)を行うとしています。

🚨 大腸の検査が必要なサイン(ガイドラインの診断のフローチャートより)

警告症状・徴候——発熱、関節痛、血便、6か月以内の予期せぬ3kg以上の体重減少、お腹のしこりなど

危険因子——50歳以上での発症、大腸の病気の既往歴や家族歴

通常の検査の異常——便潜血陽性、貧血、低たんぱく血症、炎症反応の陽性など

そのうえでガイドラインは、IBSの診断に大腸内視鏡を「行うことを提案する」としています(弱い推奨・エビデンスレベルB)。興味深いのは、日本の研究で、RomeⅢの基準に合う人と合わない人で、大腸内視鏡で見つかった器質的な病気の割合がほとんど変わらなかった(10.3%と8.5%)ことです。症状の基準だけでは、ほかの病気を除外しきれないということです。

とくに40代以降で初めて症状が出た方、大腸がんの検診をしばらく受けていない方は、一度確かめておくと安心です。大腸がん検診についてはがん検診の記事に書いています。

5. お腹と脳はつながっている——ストレスと脳腸相関

「緊張するとお腹が痛くなる」。これは多くの人が経験することですが、IBSではその反応が強く出ます。ガイドラインは、はっきりこう書いています。

「IBSの病態にはストレスが関与する

ガイドラインは、こうした脳と消化管の機能的な関連を脳腸相関と呼び、「IBS患者の病態生理の重要部分を占めている」と書いています。検査室でIBSの方に心理的なストレスを加えると、大腸の運動が実際に高まり、ストレス応答に関わる脳の部位が過剰に働くことが確かめられています。また、人生の早い時期に受けたつらい体験がIBSのリスクを高めることも、64万人を超える人を含むメタ解析で示されています(オッズ比2.8)。

つまり、「ストレスが原因」は「気の持ちよう」という意味ではありません。ストレスが体の反応として腸に現れているのです。だからこそガイドラインは、認知行動療法やリラクセーション、催眠療法などの心理療法を「実施することを推奨する」としています(強い推奨・エビデンスレベルB)。

6. 胃腸炎のあとに始まることがある

「ひどい食あたりのあとから、お腹の調子がずっとおかしい」——これにも名前があります。感染性腸炎後IBSです。

「感染性腸炎後に発症するPI-IBSの頻度は感染性腸炎の10%に発症すること,リスク因子としては女性,若年,心理的問題,胃腸炎の程度が強いことが関与する」

メタ解析では、感染性腸炎のあとにIBSになった人は9.8%で、そうでない人(1.2%)に比べてオッズ比は7.3でした。細菌による胃腸炎だけでなく、ノロウイルスなどのウイルス性胃腸炎のあとにも起こることが報告されています。そして、胃腸炎のあと少なくとも2〜3年は発症のリスクが高いと考えられています。

胃腸炎のあとから続く不調は、「まだ治りきっていない」のではなく、IBSとして治療できる状態かもしれません。

7. 治療の第一歩——食事と生活

ガイドラインの治療の流れは、型を問わず食事と生活習慣の改善から始まります。

CQ3-1「IBSに食事指導・食事療法は有用か?」
推奨:「IBS症状を誘発しやすい食品(脂質,カフェイン類,香辛料を多く含む食品やミルク,乳製品など)を控えることは有用であり,提案する」(弱い推奨・エビデンスレベルB)

ガイドラインは、すべての人に共通することとして「間食や欠食を慎み、規則的な食事習慣を心がける」ことを挙げています。一方で、どの食品で症状が出るかは人によって違うため、自分の症状を助長させる食品を見つけて控えることは、一人ひとりで対応する項目としています。

「低FODMAP(フォドマップ)食」について

最近よく聞く「低FODMAP食」にも、ガイドラインは触れています。FODMAPとは、小腸で吸収されにくく、大腸で発酵してガスや水分を増やしやすい糖類の総称で、小麦、タマネギ、ひよこ豆、レンズ豆、リンゴ、トウモロコシ、牛乳、ヨーグルト、はちみつなどに多く含まれます。欧米の複数のランダム化比較試験で、低FODMAP食がIBSの症状を軽くすることが示されています。

ただしガイドラインは、日本での受け入れやすさや有効性はさらなる検討が必要だとしています。食べられるものが大きく減ってしまう方法なので、自己流で長く続けるより、症状の出る食品を記録して、自分に合わないものを見つける手がかりにするのが現実的です。

運動と、そのほかの生活習慣

ガイドラインは、運動療法は有用であり行うよう提案するとしています(弱い推奨・エビデンスレベルB)。専門スタッフの助言のもとで適度な運動をしたグループでは、IBSの症状スコアが有意に改善しました。一方、喫煙・飲酒・睡眠の改善については、IBSの症状が良くなるという明瞭なエビデンスはないとされています。

8.【核心】食物繊維は「水に溶ける」ものを

この記事でいちばん知っていただきたいのが、この章です。ガイドラインは食物繊維を強く推奨しています。

CQ3-3「IBSに高分子重合体,食物繊維は有用か?」
推奨:「IBSの治療に高分子重合体,食物繊維は有用である.IBS患者に高分子重合体,食物繊維を投与することを推奨する」(強い推奨・合意率100%・エビデンスレベルA)

ところが、解説を読むと大事な条件が書かれています。食物繊維には、水に溶ける繊維(可溶性)水に溶けない繊維(不溶性)があり、IBSへの効き方が違ったのです。

同じ「食物繊維」でも、IBSへの効き方が違う 水に溶ける繊維(可溶性) オオバコ(サイリウム) IBSの症状全般を改善 便秘の症状も改善 相対危険度 1.55 水に溶けない繊維(不溶性) 小麦ふすま 便秘の症状には有効 症状全般や腹痛は悪化の報告 腹痛のある人は注意 ガイドライン:「IBSに対する繊維の有用性は可溶性繊維に限定的」 出典:「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020—過敏性腸症候群(IBS)」CQ3-3

「繊維をたくさん」ではなく「水に溶ける繊維を」が、ガイドラインの記述に沿った選び方です。

ガイドラインが紹介する275人のランダム化比較試験では、1日10gのオオバコ、1日10gの小麦ふすま、プラセボの3つを12週間比べました。オオバコでは、開始1か月目と2か月目に腹痛や腹部不快感の改善率がプラセボより有意に高く、3か月目にはIBSの重症度スコアも有意に下がりました。小麦ふすまは改善傾向はあったものの、有意な差にはなりませんでした。

そして最新のメタ解析をもとに、ガイドラインは「可溶性繊維のIBSに対する有用性は確認されたが,不溶性繊維に関しては明瞭な有用性は確認されず,IBSに対する繊維の有用性は可溶性繊維に限定的であると報じられた」とまとめています。

病院では、高分子重合体のポリカルボフィルカルシウムという薬も使われます。水分を吸って膨らむ性質があり、下痢型では便を固め、便秘型では便を柔らかくするという、両方向に働くのが特徴です。

便秘そのものについての食物繊維の話は、便秘の記事でも書いています。

9. 乳酸菌・ビフィズス菌——強い推奨、ただし中身を知って

「腸活」の中心にある乳酸菌やビフィズス菌。ガイドラインは、IBSに対してこう推奨しています。

CQ3-6「IBSにプロバイオティクスは有用か?」
推奨:「IBSにプロバイオティクスは有用で,IBSの治療法として用いることを推奨する(強い推奨・合意率100%・エビデンスレベルA)

プロバイオティクスとは、腸内細菌のバランスを整えることで体に良い働きをする生きた菌、またはそれを含む薬や食品のことです。薬には乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌などの製剤があります。ガイドラインは、有効性、安全性、そしてコストの負担が少ないことをあわせて、治療として有用だとしています。

ただし、ガイドラインは正直に書いています。試験の結果はさまざまで、有効性を示したものもあれば、有意な効果が見られなかったものもある。菌の種類も、量も、期間も、評価の方法もばらばらだからです。ガイドラインが示すメタ解析の図を、菌の種類ごとに見ると、次のようになっていました。

菌の種類ごとに見ると、結果は違っていた ガイドラインCQ3-6 図1(IBSの症状に対するメタ解析)の菌の種類別の結果 複数の菌の組み合わせ 19試験 有意な効果あり ビフィズス菌 3試験 境界線上 乳酸菌(ラクトバチルス)のみ 9の比較 有意差なし 酵母(サッカロミセス) 4試験 有意差なし 総合すると有効、というのがガイドラインの結論。ただし菌の種類で結果に差がある 出典:「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020—過敏性腸症候群(IBS)」CQ3-6 図1

「乳酸菌なら何でも」ではなく、複数の菌を組み合わせたものが、もっともはっきりした結果でした。

ガイドラインは、多くのメタ解析が総合的にはプロバイオティクスはIBSに有効と結論づけているとしています。そのうえで、菌の種類によって結果が違うことは知っておいてください。1つの製品を試して合わなければ、別の組み合わせを試すくらいの気持ちで構いません。ガイドラインの治療の流れでは、こうした治療を4〜8週間続けて効果を見ます。

なお、ヨーグルトなどの乳製品は、7章で見たように症状を誘発しやすい食品にも挙げられています。乳糖で下痢をしやすい方は、乳製品以外の形でとる方法もあります。腸内細菌全般については腸内細菌の話にまとめています。

10. 病院の治療——型に合わせて、段階的に

ガイドラインは、IBSの治療を3つの段階で組み立てています。

段階内容(ガイドラインの治療の流れ)
第1段階病気の仕組みを説明し、納得を得る。食事と生活習慣の改善。消化管運動機能調節薬、プロバイオティクス、高分子重合体から始め、型に合わせて薬を加える。4〜8週間続けて効果を見る
第2段階第1段階で改善がなければ、ストレスや心理的な要因の関わりを評価し、抗うつ薬などを使う。必要に応じて精密検査
第3段階それでも改善がなければ、認知行動療法・催眠療法・リラクセーションなどの専門的な心理療法

型ごとに使われる主な薬と、ガイドラインの評価です。

薬・治療ガイドラインの評価
下痢型:5-HT3拮抗薬(ラモセトロン)日本で有効性が証明されている。女性では2.5μgという用量で有効性が確認された
便秘型:粘膜上皮機能変容薬便を柔らかくし排便を促す薬(リナクロチドなど)
漢方薬一部の漢方薬は有用で提案(弱い推奨・C)。桂枝加芍薬湯は下痢型の腹痛で有意な改善
ペパーミントオイル有用であり使用を提案(弱い推奨・A)。試験は腸溶性カプセル
心理療法実施することを推奨(強い推奨・B

治療の目標について、ガイドラインは「患者自身の評価による症状改善」と書いています。検査の数値ではなく、あなた自身がどれだけ楽になったか。それが治療のものさしです。

11. 市販の下痢止め・便秘薬との付き合い方

通勤前に下痢止めを飲む、便秘のたびに市販の下剤を使う——IBSの方にはよくある対処です。ガイドラインには、それぞれ注意が書かれています。

下痢止め

「一部のIBS-D患者に止痢薬は有用であり,投与することを提案する」(弱い推奨・エビデンスレベルC)
ロペラミド塩酸塩について:「便回数,便形状を改善する効果は認められるものの,腹痛などの消化器症状を改善するかについて相反する結果が得られており」「過度の使用により重篤な心疾患有害事象が警鐘されている

下痢止めは便の回数を減らしますが、IBSの腹痛そのものを良くするかははっきりしません。そして、使いすぎには注意が必要です。

便秘薬(刺激性下剤)

「IBS-Cに刺激性下剤を投与する場合,原則として頓用で用いることを提案する」(弱い推奨・エビデンスレベルD)

センナや大黄、ビサコジル、ピコスルファートなどが刺激性下剤です。ガイドラインは、長期投与の安全性が示されていないことや、高齢者の薬物療法のガイドラインが連用・濫用による習慣性を避けるよう提言していることを紹介しています。

サプリや民間療法を使っているなら

ガイドラインによれば、IBS患者の30〜50%が補完代替医療を利用しており、その約半数は医師に伝えていないそうです。使っているものがあれば、受診のときに伝えてください。飲み合わせや、治療の効果を正しく判断するために必要な情報です。

12.「放置しない」ほうがいい理由

IBSは命に関わる病気ではない、と思われがちです。ガイドラインも、IBSが生命予後に影響するかについて明確なエビデンスはないとしています。それでもガイドラインは、こう提案しています。

CQ3-22「IBSの症状を有する者を放置しないこともしくは治療中断しないことは有用か?」
推奨:「IBSの症状を有するものは,自殺行為やIBD,認知症,パーキンソン病の発症リスクがあり,放置しないことを提案する」(弱い推奨・エビデンスレベルC)

IBSでは生活の質(QOL)が大きく低下しており、米国の調査では、受診していないIBSの人でも生活の質のすべての項目で低下が見られ、項目によっては胃食道逆流症や重い腎臓病と比べても低下していました。お腹の症状とあわせて、気分の落ち込みや強い不安が続くことも少なくありません。

一方で、明るい面もあります。米国で住民を12年追跡した研究では、最初にIBSの症状があった人の約30%は12年後に症状が消えていました。デンマークの研究では、3年間で約半数が診断基準を満たさなくなっていました。IBSは、年単位でみると自然に良くなることも少なくないのです。

だからこそ、つらい時期をひとりで我慢せず、治療を受けながら乗り切ることに意味があります。気持ちのつらさが強いときは、心療内科や精神科に相談することも治療の一部です。

13. 受診のしかた——何を伝えればいいか

IBSは、消化器内科や内科で相談できます。ストレスとの関わりが強い場合は、心療内科も選択肢です。

受診のときには、次のことを伝えると診断が早くなります。

1〜2週間、便の状態と腹痛、食べたものを簡単に記録しておくと、自分の型や、合わない食品が見えてきます。

最後に、この記事の要点をもう一度。

IBSは約10人に1人、女性は1.6倍。「異常なし」でも確かに存在する病気です

血便・体重減少・発熱・50歳以上で発症などがあれば、まず大腸の検査を

食物繊維は水に溶けるもの(オオバコ)を。小麦ふすまは腹痛を悪化させることがあります

乳酸菌・ビフィズス菌は強い推奨。はっきり効いたのは複数の菌の組み合わせ

ストレスは脳腸相関として腸に現れる。心理療法も強い推奨です

刺激性の下剤は頓用で。市販薬が手放せないなら受診を

14. よくある質問

検査で「異常なし」と言われたのに、お腹の不調が続きます。

それこそが、過敏性腸症候群(IBS)の特徴です。IBSは、大腸がんや炎症性腸疾患のような、通常の検査で見つかる病気がないのに、腹痛と便通の異常が続く状態です。ガイドラインが採用している国際的な診断基準(RomeⅣ)では、腹痛が最近3か月のなかで1週間に1日以上あり、それが排便・排便回数の変化・便の形の変化のうち2つ以上と関連していることが条件です。気のせいではなく、ガイドラインがまるごと1冊を割いている病気で、治療の選択肢もあります。ただし、発熱、血便、6か月以内の予期せぬ3kg以上の体重減少といった警告症状がある場合や、50歳以上で始まった場合、大腸の病気の家族歴がある場合は、大腸内視鏡検査で他の病気がないかを確かめることが勧められています。

乳酸菌やビフィズス菌をとれば、良くなりますか?

ガイドラインは、プロバイオティクス(乳酸菌・ビフィズス菌・酪酸菌などの有用な菌)を「IBSの治療法として用いることを推奨する」(強い推奨・エビデンスレベルA)としています。有効性、安全性、そしてコストの負担が少ないことが理由です。ただし中身を知っておいてください。菌の種類、量、期間は試験ごとにさまざまで、ガイドラインが示すメタ解析の図では、複数の菌を組み合わせたものではっきりした効果が見られた一方、乳酸菌だけの試験では有意な差は出ていませんでした。また、ヨーグルトなどの乳製品は、乳糖で下痢をしやすい方ではかえって症状を招くことがあります。ガイドラインの治療の流れでは、こうした治療を4〜8週間続けて効果を見ます。合わなければ別の方法に進めばよいので、一つの製品に長くこだわる必要はありません。

食物繊維をたくさんとればいいのですか?

種類が大事です。ガイドラインは食物繊維を「強い推奨・エビデンスレベルA」としていますが、解説では「IBSに対する繊維の有用性は可溶性繊維に限定的」とまとめています。水に溶ける繊維のオオバコ(サイリウム)は、IBSの症状全般を改善しました(相対危険度1.55)。一方、水に溶けない繊維の小麦ふすまは、便秘の症状には有効だったものの、IBSの症状全般や腹痛を悪化させたという報告があります。275人を対象にした試験でも、オオバコでは腹痛や不快感の改善率がプラセボより有意に高かったのに対し、小麦ふすまでは有意な差が出ませんでした。お腹の痛みがある方は、まず水に溶ける繊維から試すのが、ガイドラインの記述に沿った順番です。

市販の下痢止めや便秘薬を使ってもいいですか?

一時的に使うことはありますが、注意点があります。下痢止めについてガイドラインは「一部のIBS-D患者に止痢薬は有用であり,投与することを提案する」(弱い推奨・エビデンスレベルC)とする一方、ロペラミドについて「過度の使用により重篤な心疾患有害事象が警鐘されている」と書いています。便秘薬のうち、センナや大黄、ビサコジルなどの刺激性下剤は「原則として頓用で用いることを提案する」とされ、連用による習慣性を避けるよう提言されています。市販薬で症状をしのぐ日が続いている方は、一度受診してください。IBSには、型(下痢型・便秘型・混合型)に合わせた処方薬があります。

「ストレスが原因」と言われました。気の持ちようなのでしょうか?

気の持ちようではありません。ガイドラインは「IBSの病態にはストレスが関与する」とし、その仕組みを脳腸相関として説明しています。IBSの方にストレスを加えると大腸の運動が実際に高まり、ストレスに反応する脳の部位が過剰に働くことが、検査で確かめられています。つまり、ストレスが体の反応として腸に現れているのであって、我慢や気合いで解決するものではありません。そのためガイドラインは、認知行動療法やリラクセーション、催眠療法などの心理療法を「実施することを推奨する」(強い推奨・エビデンスレベルB)としています。お腹の症状とあわせて気分の落ち込みや強い不安が続くときは、心療内科や精神科に相談することも治療の一部です。

参考にした主な資料

なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。本文で紹介した有病率・診断基準・推奨の強さは、日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020—過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版)」にもとづくもので、公開時点の情報です。過敏性腸症候群の診断には、ほかの病気がないことを医師が確かめる必要があります。血便、発熱、意図しない体重減少がある場合や、50歳以上で症状が始まった場合は、早めに医療機関を受診してください。服用中の薬を自己判断で中止・変更せず、医師・薬剤師にご相談ください。気分の落ち込みや強い不安が続くときは、心療内科や精神科にもご相談ください。掲載内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。