1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| 量を減らせば飲んでもよい | ここまでなら飲んでもよいというお酒の安全な量はない。病気の進行を防ぐには断酒が必要 |
| 痛みが軽くなったら良くなった証拠 | 膵臓の働きが失われていく時期には腹痛はしだいに軽くなるが、消化不良や糖尿病が起こってくる |
| 慢性膵炎なら脂肪はずっと控える | 痛みなどの症状がない場合は、今では脂肪をとるように推奨されている。長期の過剰な脂肪制限は低栄養になる |
| 糖尿病になったらカロリー制限 | 慢性膵炎の糖尿病は一般の2型糖尿病と原因が違い、一律なカロリー制限は行われない。低血糖を繰り返すことがある |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
お酒を飲んだあとや脂っこい食事のあとのお腹や背中の痛み、便に油が浮く、体重が減るといった症状は、消化器内科で相談してください。慢性膵炎と言われたら、断酒と禁煙が治療の柱で、通院を途切らせないことが大切です。
2. 慢性膵炎とは——膵臓の2つの働きが衰える
膵臓には、消化酵素を含む膵液を作って十二指腸に送る働きと、インスリンなどのホルモンを血液中に出して血糖を調節する働きがあります。日本消化器病学会によると、慢性膵炎は、長い期間にわたって膵臓の炎症が続き、この2つの働きが徐々に衰えてしまう病気です。
- 膵液が膵臓自身を溶かす急性膵炎を繰り返すことで正常な細胞が壊れ、膵臓が硬くなったり(線維化)、膵石ができたりする
- 原因は長期間の多量の飲酒が最多。男性の8割、女性の4割近くがアルコール性。次に多いのは原因がよくわからないもので、女性では半数以上
- 2016年の1年間に治療を受けた患者さんは全国で約5万7千人と推計されている
- 徐々に進行する病気で、基本的に元には戻らない。ただし早期(潜在期)のうちに適切な治療を受ければ、進行が止まったり改善したりすることがある
お酒の量の目安についてはお酒とγ-GTPの記事で書いています。
3.【核心】痛みの時期から、消化不良と糖尿病の時期へ
はじめから痛みをまったく感じないまま進み、消化吸収障害や糖尿病が出てはじめてわかる人もいます。
- 症状はお腹や背中の痛み、お腹の上のほうを押されると痛いなど。痛みはお酒を飲んだあとや脂肪分をとりすぎたときに起こりやすい
- 発症すると5〜10年程度、頑固なお腹や背中の痛み、ときに急性膵炎の発作を繰り返す
- その後、痛みは軽くなるかなくなるが、食べ物をうまく消化吸収できず、栄養障害・体重減少・下痢や脂肪便(便器の中に油が浮くような便)、糖尿病が起こる
- 進行すると膵臓がんになる確率が増える
4. 検査
お腹や背中の痛み・違和感、消化不良などから慢性膵炎が疑われたら、問診と血液検査に加え、画像検査を行います。
| 検査 | 資料の記述 |
|---|---|
| 腹部レントゲン | 苦痛がなく低費用。約3分の2の膵石が見つかる。ただし進行した慢性膵炎の診断しかできない |
| 腹部エコー | 体への負担はほとんどない。胃腸のガスや内臓脂肪で膵臓が見えにくい場合がある |
| CT | 膵臓の大きさや形を詳しく確認でき、合併しやすい膵臓がんの診断にも有用 |
| MRCP(MRI) | 検査による合併症はほとんどない。早期慢性膵炎の診断にも用いられる |
| 超音波内視鏡(EUS) | 胃や十二指腸の壁から膵臓を詳しく見る。早期(軽症)の慢性膵炎や小さな膵がんの発見にも有用 |
5. 治療——時期によって違う
| 時期 | 治療(資料の記述) |
|---|---|
| 代償期(痛み) | 腹痛・背部痛に非ステロイド性消炎鎮痛薬、良くならなければ弱オピオイド鎮痛薬。炎症を抑える蛋白分解酵素阻害薬。食事でお腹が痛くなったり急性膵炎を繰り返す場合は短期的に脂肪制限食。それでも良くならなければ内視鏡治療や体外衝撃波結石破砕療法(ESWL)、手術 |
| 非代償期(消化不良) | 消化を助ける高力価膵消化酵素薬を食直後に飲む。脂肪制限はせず、健康な人と同程度のカロリー・脂肪・蛋白質をとる |
| 非代償期(糖尿病) | 糖尿病の薬やインスリン注射。一律なカロリー制限は行わない。グルカゴンの働きも弱く、低血糖が長引きやすいので注意 |
「断酒と禁煙は腹痛消失に有効で、予後改善のためにも勧められます。」(日本消化器病学会「患者さんとご家族のための慢性膵炎ガイド2023」Q4)
6. 食事——脂肪の量は痛みの有無で変わる
- 大切なのは栄養価が高く、お腹の痛みが出にくい食べ物を選ぶこと
- 基本的にカロリー制限は必要ない。目安は1日あたり30〜35kcal×標準体重(標準体重60kgなら1,800〜2,100kcal)
- 注意するのは脂肪。お腹の痛みなどの症状がある場合はしっかり制限する。症状がなければ、とりすぎないよう気をつければよい(1日あたり40〜70g)
- 湯引きなどの調理の工夫や、植物性脂肪や魚から適切な量の脂肪をとることはできる
- 管理栄養士による栄養指導を受けるのもよい
ガイドは、進行を防ぐために気をつけてほしい9つのことを挙げています。
| # | 気をつけること(資料の記述) |
|---|---|
| 1〜3 | 油ものをとりすぎない/辛いものをとりすぎない/便秘にさせない |
| 4〜6 | 脱水に気をつける/よくかんでゆっくり食べる/ストレスを避ける |
| 7〜9 | お酒を飲まない/タバコを吸わない/規則正しい生活を心がける |
7. 断酒と禁煙
「残念ながら、ここまでなら飲んでもよいというお酒の安全な量はありません。病気の進行を防ぐにはお酒を一切飲まない「断酒」が必要です。」(日本消化器病学会「患者さんとご家族のための慢性膵炎ガイド2023」Q5)
- 断酒に成功した患者さんでは、痛みの程度や回数が弱まり、病気の進行が遅くなる
- 糖尿病を発症した患者さんの飲酒は、低血糖などにつながり危険
- 断酒にはアルコール依存症と同じ治療が必要。自分で断酒できない場合は、アルコール依存症の専門病院への紹介も考える。抗酒薬や断酒補助薬、断酒会などの自助グループも
- 喫煙は慢性膵炎の進行を早めるだけでなく、膵臓がんのリスクを高める。禁煙は断酒と同じように、とても重要な治療
- 喫煙者の7割はニコチン依存症といわれ、条件を満たせば禁煙外来でニコチン製剤や離脱症状をやわらげる薬を使った治療を受けられる
この章で扱った禁煙を手助けする市販薬です。日本消化器病学会の患者さん向けガイドは、慢性膵炎について、断酒と禁煙を、お腹の痛みをなくすためにも、その後の経過のためにも勧めています。この市販薬は、資料に名前の出ている製品ではありません。
※ 当サイトは、記事のなかで根拠を示したうえで推奨したものに限り広告を掲載しています。ここで紹介しているのは、ニコチンを皮膚から補う禁煙補助薬ニコチネル パッチ20(第1類医薬品・販売元 佐藤製薬)です。添付文書に書かれた使い道(効能)は、禁煙時のイライラ・集中困難・落ち着かないなどの症状の緩和で、慢性膵炎の治療薬ではありません。購入時には薬剤師による確認があります。添付文書では、妊娠中・授乳中の人、3か月以内に心筋梗塞を起こした人、重い狭心症や重い不整脈と診断された人、急性期の脳梗塞・脳出血と診断された人、うつ病と診断されたことのある人などは使用しないこととされています。使い方は、最初の6週間はパッチ20、次の2週間はパッチ10を1日1枚で、連続して8週間を超えて使用しないこととされています。使用中の喫煙はしないでください。慢性膵炎で治療中の方は、使う前に主治医または薬剤師に相談するか、禁煙外来を利用してください。
8.【内科医の視点】痛みが軽くなっても、良くなったとは限らない
内科医として、ここはぜひ知っておいてほしいところです。資料によると、慢性膵炎は進行すると痛みがかえってなくなることが多い一方で、膵臓の働きが失われ、消化不良や糖尿病が起こってきます。痛みが落ち着いたからといって通院をやめると、気づかないうちに糖尿病を発症したり、栄養状態が悪くなったりすることがあるため、ガイドは通院・治療を途切らせずに続けることが重要だとしています。
もう一つは、慢性膵炎の糖尿病は一般の2型糖尿病とは食事療法が違うことです。やせている方が一律にカロリーを減らすと、栄養状態がさらに悪くなり、低血糖を繰り返すことがあるとされています。食事は主治医や管理栄養士と相談して決めてください。一般の糖尿病予備軍の考え方は糖尿病予備軍の記事で書いています。
9. 受診したいとき
消化器内科を受診・相談したいとき
・お酒を飲んだあとや脂っこい食事のあとに、お腹や背中が痛むことを繰り返す
・便に油が浮く(脂肪便)、下痢が続く、体重が減ってきた
・お酒をよく飲む人で、糖尿病と言われた
・自分でお酒をやめられない(アルコール依存症の専門病院の紹介も)
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 慢性膵炎は男性の8割、女性の4割近くがアルコール性。40〜50歳代で発症が多い
② 痛みを繰り返す時期のあと、消化不良・脂肪便・糖尿病の時期へ。5〜15年かけて進行
③ 安全な飲酒量はない。断酒で痛みが弱まり、進行が遅くなる
④ 禁煙も断酒と同じくらい重要。喫煙は膵臓がんのリスクも高める
⑤ 脂肪の量は痛みの有無で変わる。通院を途切らせない
10. よくある質問
慢性膵炎の原因は何ですか?
日本消化器病学会の患者さん向けガイドによると、原因として最も多いのは長期間にわたる多量の飲酒で、男性では8割、女性でも4割近くがアルコール性です。次に多いのは原因がよくわからないもので、女性では半数以上を占めます。慢性膵炎が多発する家系(遺伝性膵炎)もあります。
お酒を減らせば大丈夫ですか?
日本消化器病学会の患者さん向けガイドは、ここまでなら飲んでもよいというお酒の安全な量はなく、病気の進行を防ぐにはお酒を一切飲まない断酒が必要だとしています。断酒に成功した患者さんでは、痛みの程度や回数が弱まり、病気の進行が遅くなるとされています。
慢性膵炎ではどんな症状が出ますか?
日本消化器病学会の患者さん向けガイドによると、お腹や背中の痛みが多く、お酒を飲んだあとや脂肪分をとりすぎたときに起こりやすいとされています。進行すると痛みは軽くなるかなくなりますが、消化吸収がうまくいかず、下痢や脂肪便、体重減少、糖尿病が起こります。痛みを感じないまま進行する人もいます。
脂っこいものは一切食べてはいけませんか?
日本消化器病学会の患者さん向けガイドによると、お腹に痛みなどの症状がある場合はしっかり脂肪を制限しますが、症状がなければとりすぎないよう気をつければよく(1日あたり40〜70g)、今では脂肪をとるように推奨しています。長期の過剰な脂肪制限は低栄養になるため注意が必要とされています。
タバコも関係ありますか?
日本消化器病学会の患者さん向けガイドによると、喫煙は慢性膵炎の進行を早めるだけでなく、膵臓がんの発生リスクを高めます。禁煙は断酒と同じように、とても重要な治療とされています。条件を満たせば、禁煙外来でニコチン製剤などを使った治療を受けることができます。
参考にした主な資料
- 日本消化器病学会「患者さんとご家族のための慢性膵炎ガイド2023」(協力学会:日本膵臓学会)