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MEDICALLY REVIEWED BEAUTY & HEALTH
検査と数値

女性のためのがん検診ガイド
——何を、何歳から、何年ごとに受けるのか

国が推奨するがん検診は、5つだけです。子宮頸がんは20歳から2年ごと、乳がんは40歳から2年ごと、大腸がんは40歳から毎年。
そして、この記事でお伝えしたいのはもう一つあります。人間ドックでよく勧められる乳房超音波・腫瘍マーカー・PET検査には、「がん検診としては推奨しない」という公式の評価がついています。高いお金を払っているのに、です。
何を受けるべきかと同じくらい、何を受けなくていいかを知ることに意味があります。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年8月8日 読了:約20分

1. 先に結論

論点 この記事で言えること
受けるべき検診 5つだけ。子宮頸がん(20歳〜・2年ごと)/乳がん(40歳〜・2年ごと)/大腸がん(40歳〜・毎年)/肺がん(40歳〜・毎年)/胃がん(50歳〜・2年ごと)
会社の健診との関係 定期健康診断・特定健診だけでは、がん検診を受けたことになりません(国立がん研究センターが明記)
乳房超音波(エコー) 推奨グレードI=死亡率を下げる効果を検討した研究がない。対策型検診としては推奨されていない
腫瘍マーカー・PET・CT がん検診としての効果は認められていない。再発・転移を調べる検査としては重要だが、健康な人の検診とは別。ただし「禁止」ではなく、任意型では「個人の判断に委ねる」——心配が強いなら、5つを受けたうえで追加するのは合理的
家族にがんの方がいる オプションを足すより先に、相談窓口があります。若くしての発症、何度もがんになる、家系内に同じがんが多い——当てはまるなら、がん相談支援センターやかかりつけ医へ
たくさん受ければいい? いいえ。「必要以上に間隔を詰めて多く受診しても、利益はあまり増えないものの、不利益はどんどん大きくなります」
人間ドック vs 住民検診 精度管理の仕組みが明示されているのは住民検診だけ。高額であることと、死亡率を下げる仕組みがあることは別
いちばん多い / いちばん亡くなる 女性がいちばんかかるのは乳がん(年10万2,592例)。でもいちばん亡くなるのは大腸がん(年2万5,590人)
この記事でいちばん伝えたいこと

がん検診は「受ければ受けるほどいい」ものではありません。国が5つに絞っているのには理由があり、対象年齢と間隔が決まっているのにも理由があります。
そして——いちばん確実なものは、たいてい、いちばん安いところにあります。自治体の住民検診がそれです。オプションを足すより先に、この5つを決められた間隔で受け続けること。それが、いまの科学でいちばん割に合う選択です。
この記事は、不安を煽るためではなく、余計な不安と余計な出費を減らすために書きました。

2. まず、女性のがんの全体像

どこに力を入れるべきかを決めるために、まず全体を見ます。国立がん研究センターの最新統計です。

がんの種類診断される数(2023年・女性)死亡数(2024年・女性)5年相対生存率
乳がん102,592例(女性の罹患1位)15,869人89.7%
大腸がん68,830例25,590人(女性の死亡1位)69.9%
子宮頸がん10,457例(男女計)2,751人(男女計)73.1%

ここに、この記事でいちばん覚えて帰っていただきたい対比があります。

女性の「かかる数」と「亡くなる数」は、順位が違います 診断される数(2023年・女性) 乳がん 102,592例 大腸がん 68,830例 死亡数(2024年・女性) 大腸がん 25,590人 乳がん 15,869人 乳がんの5年相対生存率は89.7%、大腸がんは69.9%。この差が順位の逆転を生んでいます
国立がん研究センター がん統計(全国がん登録罹患データ/人口動態統計死亡データ/全国がん登録生存率データ)より作成。

いちばんかかるのは乳がん。でも、いちばん亡くなるのは大腸がんです。

理由は生存率にあります。乳がんの5年相対生存率は89.7%。大腸がんは69.9%。かかる人数が乳がんの3分の2でも、亡くなる人数は逆転します。

「女性のがん=乳がんと子宮のがん」というイメージは、実態と少しずれています。便秘の記事でも書きましたが、大腸がん検診は、女性にとって最優先級のがん検診です。そして便潜血検査は、5つのなかでいちばん手軽で、いちばん安く、いちばん評価が高い検査でもあります。

3. 国が推奨する5つのがん検診

厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」で定められた内容です。市区町村の住民検診は、この指針に沿って行われています。

国が推奨するがん検診(女性が対象になるもの) がんの種類 検査 対象年齢 間隔 子宮頸がん 子宮頸部の細胞診 20歳以上 2年に1回 乳がん マンモグラフィ 40歳以上 2年に1回 大腸がん 便潜血検査(2日法) 40歳以上 1年に1回 肺がん 胸部X線検査 40歳以上 1年に1回 胃がん X線または内視鏡(選択) 50歳以上 2年に1回 ※胃X線は当分の間、40歳以上・年1回でも可。子宮頸がんはHPV検査単独法(30歳以上・5年ごと)を  選ぶ自治体もあります。乳がんの視触診の単独実施は推奨されていません
厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」、国立がん研究センター「がん検診について」より作成。

年齢について、大事な注意

「若いうちから受けたほうが安心では」と思われるかもしれません。ですが、国立がん研究センターははっきり否定しています。

表1より若い年代ではがんにかかる人が少なく、有効性も確認されていないため、がん検診の利益より不利益が大きくなります。必ず表1の年齢に達してからがん検診を受診してください。また、健康診断の検査項目にがん検診が入っていても、自分の年齢に合っていなければ、受診をよく検討してください。がん検診を受けないからといって健康診断全体がキャンセルされたり、不当な扱いを受けることはありません。

——国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診について」

とくに40歳未満のマンモグラフィは、乳がん検診ガイドラインで推奨グレードIとされています。「40歳未満の乳がん罹患率は低く、死亡率減少効果を検討した研究もほとんどありません」というのが理由です。

ただし、子宮頸がん検診だけは20歳からです。ここは間違えないでください。20代のうちから始める、数少ないがん検診です。

間隔についても同じです

「必要以上に間隔を詰めて多く受診しても、検診の利益はあまり増えないものの、検診回数の増加とともに不利益はどんどん大きくなります」——これも同センターの記述です。毎年マンモグラフィを受けたほうが安心、ということにはなりません。

なお、豊胸術を受けている場合は、この検診の前提が変わることがあります。注入されたものがマンモグラフィに写り込んで診断を妨げるためで、美容医療診療指針には「対策型乳癌検診を断る市区町村もある」と書かれています——バストの悩み|「行わないことを強く推奨する」と書かれた施術が2つありますで詳しく整理しました。

4. 【重要】会社の健康診断=がん検診ではありません

この章は、実用的にいちばん役に立つかもしれません。

国立がん研究センターの記述(そのまま)

「事業者には「定期健康診断」、保険者には「特定健康診査」の年1回の実施がそれぞれ義務づけられていますが、がん検診の実施は任意です。職域によっては『定期健康診断』や『特定健康診査』などに付加する形でがん検診が行われることもありますが、『定期健康診断』と『特定健康診査』のみでは必ずしも『がん検診』を受けたことになりませんので、ご注意ください。

「職場でがん検診を受けられない場合、また検診内容がこのページで紹介するものと異なる場合は、お住まいの市区町村の住民検診を受診しましょう。基本的に住民検診は規定年齢で対象となる人はどなたでも受診可能です」

「毎年会社の健診を受けているから大丈夫」——これは、非常に多い誤解です。会社の定期健康診断の必須項目に、がん検診は入っていません。

やることは簡単です。

  1. 職場の健診案内が届いたら、3章の5つが含まれているかを確認する
  2. 入っていなければ、市区町村の住民検診を調べる(「お住まいの自治体名+がん検診」で見つかります)
  3. 専業主婦の方、退職された方、自営業の方は、最初から住民検診が主な窓口です

国立がん研究センターは「お勤め先を退職された方は、積極的に住民検診を受診しましょう」とも書いています。退職を境に、がん検診から抜け落ちてしまう方が多いのです。ご家族にも声をかけてあげてください。

5. 【核心】推奨グレードで並べてみる

ここからが、この記事の本題です。

国立がん研究センターは、がん検診の各検査方法に推奨グレードという評価をつけています。睡眠の記事でも同じ手法を使いましたが、専門家集団が公式に付けた評価を並べると、宣伝ではなく事実で判断できます。

グレードの意味

グレード評価対策型検診(住民検診)
A利益はあり、不利益が中等度以下推奨
B利益が不利益を上回るが、その差はAより小さい(2019年度版までの区分)推奨
C利益はあるが不利益が大きい、または証拠の信頼性が低い実施しないことを推奨
I利益は不明だが不利益あり実施しないことを推奨
D利益はなく不利益あり実施しないことを推奨

※AとBは「実施を推奨する」という点で同等の扱いです。2019年度版からはBが廃止され、推奨するものはAのみになりました。がん種によってガイドラインの改訂年が違うため、古い区分と新しい区分が混在しています。

並べてみます

がん検診の推奨グレード(国立がん研究センター) 子宮頸がん:細胞診(20〜69歳・2年ごと) A 子宮頸がん:HPV検査単独法(30〜60歳・5年ごと) A 大腸がん:便潜血検査(免疫法) A 肺がん:胸部X線検査(40〜79歳・年1回) A 乳がん:マンモグラフィ(40〜74歳) B 胃がん:X線検査/内視鏡検査(50歳以上) B 大腸がん:全大腸内視鏡検査(検診として) C 乳がん:超音波(エコー)検査 I 乳がん:マンモグラフィ(40歳未満)/視触診単独 I 胃がん:ペプシノゲン法・ピロリ抗体 I 肺がん:喀痰細胞診の上乗せ(重喫煙者) D
国立がん研究センター「有効性評価に基づくがん検診ガイドライン」(乳がん2013年度版/子宮頸がん2019年度版/胃がん2014年度版/大腸がん2024年度版/肺がん2025年度版)の各推奨より作成。

下半分を見てください。人間ドックや自治体のオプションでよく勧められるものが並んでいます。

乳房超音波(エコー)——推奨グレードI

いちばん多く相談を受けるのがこれです。乳がん検診ガイドラインの記述を引用します。

「超音波検査(単独法・マンモグラフィ併用法):推奨グレード I
死亡率減少効果を検討した研究はありませんでした。このため、超音波検査(単独法・マンモグラフィ併用法)による死亡率減少効果を判断することはできません。従って、推奨グレードIと判断し、対策型検診としての実施は推奨しません。任意型検診として実施する場合には、死亡率減少効果が不明であることと不利益について適切な説明を行うべきです。」

——有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン 2013年度版

誤解のないように書きます。超音波は、悪い検査ではありません。しこりなど症状があるときの診断や、マンモグラフィで異常が見つかったあとの精密検査では、非常に重要な検査です。

問題は「症状のない人全員に、検診として勧められるか」という別の問いです。そこについては、まだ答えが出ていない——それが推奨グレードIの意味です。

ペプシノゲン法・ピロリ抗体——推奨グレードI

「胃がんリスク検診」「ABC検診」という名前で、自治体や職場で広く行われています。ですが胃がん検診ガイドラインの評価はIです。「死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診として実施することは勧められません」とされています。

これも誤解しないでください。ピロリ菌の検査と除菌そのものには、胃がん予防としての意味があります。ここで「推奨されない」とされているのは、これらを「胃がん検診の代わり」に使うことです。リスク検診で「異常なし」と言われても、胃がん検診(X線または内視鏡)を受けない理由にはなりません。

6. 「早く見つかった」だけでは、効果の証明にならない

ここは少し理屈っぽくなりますが、宣伝に惑わされないための最強の道具なので、お付き合いください。

新しい検査の宣伝で、こういう言い方をよく見かけます。「この検査を受けた人は、がんの発見率が高い」「この検査で見つかった人は、生存率が高い」。

どちらも、検診が効いている証拠にはなりません。国立がん研究センターが理由を説明しています。

「発見率」がだめな理由

「『発見率』はスクリーニング方法の精度だけでなく、対象となる集団の有病率の影響を受けます。(中略)発見率の差は、がん検診の方法の精度や診断能力の差よりも対象集団の年齢や性別に影響を受けます。従って、『発見率』の高い検診機関が必ずしも診断精度が高い優良施設とは限りません。

——国立がん研究センター「なぜ『発見率』ではだめなのか」

高齢の受診者が多い施設は、それだけでがんが多く見つかります。腕がいいからではありません。

「生存率」がだめな理由——2つのバイアス

こちらのほうが、もっと重要です。

バイアスどういうことか
リードタイム・バイアス 検診で見つかった人は、症状が出て受診した人よりもがんの発見が早い。そのため「診断からの生存期間」が見かけ上のびる。実際には亡くなる時期が同じでも、生存率だけが上がって見える
レングス・バイアス 検診は成長のゆっくりしたがんを見つけやすい。ゆっくりしたがんはもともと予後がよいので、検診で見つかった人の集団は最初から予後のよい人に偏る

だから、がん検診の効果を測る唯一の物差しは「その集団のがん死亡率が下がったかどうか」です。発見率でも生存率でもありません。

この考え方を持っていると、新しい検査の宣伝を見たときに、たった一つの質問ができるようになります。——「それで、がんで亡くなる人は減ったんですか?」

減ったという証拠があるなら推奨グレードAかBがつきます。まだないなら、Iです。サプリメントの記事で書いた物差しと、構造は同じです。

7. がん検診の「不利益」——4つあります

がん検診に「不利益」がある、と聞いて驚かれるかもしれません。ですが、これを知らないまま受けるほうが、結果的につらい思いをします。

不利益内容
偽陰性 実際にはがんがあるのに「異常なし」とされること。がんは一定の大きさになるまで発見できないため、1回の検診で確実に見つかるとは限りません。だから定期的に受け続けることが大事です
偽陽性 がんがないのに「精密検査が必要」とされること。不要な精密検査の負担と、結果が出るまでの不安な日々が生じます。検診は「疑いのある人を広く拾い上げる」仕組みなので、偽陽性をゼロにすることはできません
過剰診断 命に別条のないがん(成長が極めて遅く、治療しなくても命を脅かさないもの)を見つけてしまうこと。本当に治療しなくてよいかを正確に見分けることは難しいため、結果的に治療が行われます。身体的・心理的・経済的な負担がかかります
偶発症 検査そのものによる合併症。内視鏡による出血や穿孔、バリウムの誤嚥や腸閉塞、放射線被曝など。出血や穿孔により、極めてまれですが死亡に至ることがあります

過剰診断について、もう少し

「命に別条のないがんを見つけること」が不利益だ、というのは直感に反するかもしれません。でも、こう考えてみてください。

見つかった以上、放置はできません。手術を受け、場合によっては臓器の一部を失い、「がん経験者」として生きることになる。もしそのがんが、一生なにもしなくても症状を出さなかったとしたら——受けた負担は、まるごと余分だったことになります。

そして厄介なのは、個人のレベルでは「自分が過剰診断だったか」を知る方法がないことです。だから過剰診断は、集団としてしか語れません。

これが、国が検診を5つに絞り、年齢と間隔を決めている理由です。利益が不利益を上回る条件が、そこにしかないからです。

誤解しないでいただきたいこと

ここまで読んで「じゃあ検診は受けないほうがいいのか」と思われたなら、それは違います。5つの検診は、不利益を差し引いてもなお利益が上回ると判断されたからこそ推奨されています。
お伝えしたいのは「決められた年齢に、決められた間隔で、決められた検査を受ける」のがいちばん割に合うということです。増やすほど得をするわけでも、減らすほど安全なわけでもありません。

8. 人間ドックのオプションについて——受けてはいけない、ではありません

職場の健診や人間ドックで、追加のオプションを勧められることがあります。CT、PET、腫瘍マーカー、そして最近は血液や尿による「がんリスク検査」。

国立がん研究センターの記述を、そのまま引用します。

「職場によっては定期健康診断等に人間ドックが付加され、オプション項目として、高性能の検査機器や最先端の技術(CT、PET、腫瘍マーカーなど)を使った検査が選べるようになっています。これらはがんの再発や転移を調べるための検査としては大変重要ですが、がん検診としての効果(がん死亡を減らす効果が確実、かつ、利益が不利益を上まわる)は認められていません。最近では、血液や尿からがんのリスクを調べる新たな検査法も開発されていますが、がん検診としての効果はまだ十分に検証されていません。また、これらの検査が異常値となったあとにどう行動すればよいかの流れが明確に示されていません。

「以上の理由から、『表1 国が推奨するがん検診の一覧』の5つのがん検診以外の受診はお勧めできません。

——国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診について」

「異常値が出たあと、どうすればいいかの流れが示されていない」——ここが本質だと思います。

検査には、必ずその後の道筋が要ります。便潜血が陽性なら大腸内視鏡へ、マンモグラフィで異常なら精密検査へ。この道筋が用意されているから、検査に意味があるのです。

「がんリスクが高いと出ました」と言われて、その先に何をすればいいか誰も決めていない検査は、不安だけを増やして終わることがあります。実際、そういう結果を持って受診される方は少なくありません。

では、受けてはいけないのか——そうではありません

ここは、はっきり書いておきたいところです。「推奨されない」は「禁止」ではありません。

推奨グレードの定義を、もう一度見てください。グレードIやCの検査について、ガイドラインはこう定めています。

対策型検診(住民検診):実施しないことを推奨
任意型検診(人間ドック型)利益と不利益に関する適切な情報を提供し、個人の判断に委ねる

——国立がん研究センターがん対策研究所「推奨グレードの定義」

つまり——公費を使う住民検診では勧められないけれど、自分のお金と判断で受けることは、はじめから想定されているのです。「個人の判断に委ねる」というのは、ガイドラインが公式に用意している選択肢です。

ですから、次のような方が追加のオプションを選ぶことは、私は否定しません。

不安というのは、それ自体が生活の質を下げます。納得のために追加でお金を払うという選択は、じゅうぶん合理的です。大切なのは、「がん死亡を減らす効果は証明されていない」と知ったうえで選ぶこと。それだけです。

そして——すでにこれらの検査を受けてこられた方へ。この章は「無駄なことをしていましたね」という話ではありません。ご自身の体を気にかけて行動してこられたこと自体に、意味がなかったはずはありません。ここでお伝えしたいのは、次に選ぶときの判断材料です。

ただし、順番はあります

オプションを足すこと自体は個人の自由ですが、順番だけは間違えないでください。

① まず、国が推奨する5つを、決められた年齢と間隔で欠かさず受ける(ここに死亡率を下げる根拠があります)
② 「要精密検査」と言われたら、必ず精密検査を受ける(ここで止まると、①の意味がなくなります)
③ そのうえで、納得のために追加したいものを選ぶ

よくないのは、①を飛ばして③だけを手厚くすることです。腫瘍マーカーは受けているのに便潜血は出していない、PETは撮ったのにマンモグラフィは何年も受けていない——これは、いちばん確実なものを外して、確実でないものにお金を払っている状態になります。
なお多くの自治体では、住民検診は無料または数百円〜数千円です。歯周疾患検診の記事でも書きましたが、いちばん確実なものが、いちばん安いところにある——公的な検診には、そういう構造があります。

家族にがんの方がいる場合——先に相談すべき窓口があります

ここは、この章でいちばんお伝えしたい実務です。

ご家族にがんの方がいるという理由でオプションを足すより、先にすべきことがある場合があります。

国立がん研究センターは、遺伝性腫瘍について次のような特徴を挙げています。

「遺伝性腫瘍は、若くしてがんになったり、異なる臓器や同じ臓器に何度もがんができたり、家系内で同じ種類のがんを発症している人が多いなどの特徴があります。
自分や家族がこれまでにかかった病気(既往歴・家族歴)から遺伝ではないかと心配になり、遺伝カウンセリングや遺伝子検査を受けることを検討する人もいます。

「がんの種類により異なりますが、がんになった人のおよそ5-10%は、がんの発症と関係する生まれつきの遺伝子の変化をもっていると言われています。」

——国立がん研究センター がん情報サービス「遺伝性腫瘍」

もし当てはまるものがあるなら、人間ドックにオプションを1つ足すことでは、その心配に応えられません。必要なのは、その方の家系に合わせて検診の年齢や間隔そのものを組み直すことだからです。腫瘍マーカーを1項目追加しても、そこには届きません。

こういうときの相談先

なお、ここで念のため書き添えます。遺伝子に生まれつきの変化があるからといって、必ずがんを発症するわけではありません(国立がん研究センター)。調べること=宣告されること、ではありません。

逆に言えば——「なんとなく心配」の段階なら、5つの検診を欠かさず受けることが、いちばん確実な備えです。不安の中身が「家系」であるなら、向かうべきは検査のオプション欄ではなく、相談窓口のほうです。

9. 日本の実状——受診率と、知られていない格差

受診率は目標に届いていません

国の「がん対策推進基本計画(令和5年、第4期)」は、受診率60%以上を目標に掲げています。実際はどうか。令和4年国民生活基礎調査の結果です。

がん検診受診率(令和4年)と国の目標60% 目標60% 乳がん(女性) 47.4% 肺がん(女性) 46.4% 子宮頸がん 43.6% 胃がん(女性) 43.5% 大腸がん(女性) 42.8% ※男性は肺53.2%・大腸49.1%・胃47.5%で、いずれの検診でも女性を上回ります ※対象は40〜69歳(子宮頸がんは20〜69歳、胃がんは50〜69歳・過去2年間)
厚生労働省「令和4年 国民生活基礎調査の概況」より作成。回答にもとづく推計値。

すべて目標の60%に届いていません。そして注目していただきたいのは、女性のほうが、どの検診でも男性より受診率が低いことです。肺がんは男53.2%に対し女46.4%、大腸がんは男49.1%に対し女42.8%。

おそらく、時間の問題です。仕事、家事、育児、介護——予定が入り込む余地がいちばん小さいのが、この世代の女性です。だからこそ、「思い出したときに、その場で予約する」ことをお勧めします。

意外に知られていない、検診の「質」の格差

そしてもう一つ。これは、あまり知られていない事実です。

「わが国のがん検診には、自治体で受けるがん検診(住民検診)、職場で受ける検診(職域検診)、人間ドックなどさまざまな種類の検診がありますが、現時点では国の対策に沿って精度管理の仕組みを整備すべきことが明示されているのは住民検診だけです。他の検診では検診機会の提供までにとどまっていることが多く、そのあとの死亡率減少にまで結びつけるための精度管理の仕組みは、通常整備されていないのが現状です。

——国立がん研究センター「がん検診の都道府県別プロセス指標」

住民検診には、精検受診率・要精検率・がん発見率などの指標を毎年国に報告し、水準に満たなければ改善を求められる仕組みがあります。職域検診や人間ドックには、通常それがありません。

「人間ドックのほうが高いから、きっと精度も高いはず」——この直感は、少なくとも仕組みの面では成り立ちません。高額であることと、死亡率を下げるところまで管理されていることは、別のことです。

そして、いちばん大事なこと——精密検査を必ず受ける

便秘の記事でも書きましたが、繰り返します。

「要精密検査」と言われたら、必ず精密検査を受けてください。そして、同じ検診をもう一度受けることは、精密検査の代わりになりません。

便潜血検査が1回目陽性、2回目陰性だったから大丈夫——これは通用しません。がんは常に出血しているわけではないからです。検診は「疑いを拾い上げる」ところまでが仕事で、白黒つけるのは精密検査の役目です。

10. 子宮頸がん検診——いま変わりつつあります

5つのなかで、いま最も動いているのが子宮頸がん検診です。

2つの方法があります

方法グレード対象・間隔と、注意点
細胞診
(従来法・液状検体法)
A 20〜69歳・2年ごと。「30〜64歳での浸潤がん罹患率減少効果の確実なエビデンスがあり、65〜69歳でのエビデンスも担保できる」検体は医師採取のみとし、自己採取は認めない
HPV検査単独法 A 30〜60歳・5年ごと。検診間隔を2〜3倍に延ばせる。ただし細胞診より偽陽性が大幅に増える(1,000人あたり42人増)。陽性ならその検体で細胞診(トリアージ)を行う

HPV検査単独法は、国の指針で住民検診のみ・要件を満たす自治体に限り実施可能とされています。どちらになるかは自治体が決め、受診者は選べません。お住まいの自治体からの案内を確認してください。

自己採取キットについて

通販などで「自宅でできる子宮頸がん検査」を見かけることがあります。ここは、ガイドラインの記述をそのままお伝えします。

細胞診について、ガイドラインは「検体は医師採取のみとし、自己採取は認めない」と明記しています。HPV検査単独法についても「検体は医師採取を原則とする」とされ、自己採取法は「国内でのエビデンスが不足しており、受診率向上につながるか、精密検査以降のプロセスにつながるかなどのfeasibility研究が必要である」という段階です。

受診のハードルが高いのは、よく分かります。それでも現時点では、自己採取キットは公的な検診の代わりにはなりません。

HPVワクチンについて(簡単に)

子宮頸がんは、ワクチンで予防を狙える数少ないがんです。厚生労働省によれば、HPVワクチンの定期接種の対象は小学6年〜高校1年相当の女子で、平成25年6月から差し控えられていた積極的な勧奨は、令和4年4月から他の定期接種と同様に個別の勧奨が行われています

お子さんがいらっしゃる方は、対象年齢と手続きをお住まいの自治体で確認されるとよいと思います。なお、国の指針は子宮頸がん検診の対象を「20歳以上の女性」としており、接種の有無で対象を分けてはいません。この記事の主題は検診なので、ワクチンについてはここまでにしますが、判断材料が必要な方は厚生労働省のページをご覧ください。

11. 乳がん検診と「ブレスト・アウェアネス」

視触診は、いま推奨されていません

国の指針は、乳がん検診について「視診及び触診(視触診)は推奨しないが、仮に実施する場合は、乳房エックス線検査と併せて実施すること」としています。検診の中心はマンモグラフィです。

「昔は触診があったのに」と思われるかもしれません。評価が変わったのです。

では、自己触診は無意味なのか——そうではありません

ここで、国の指針が使っているブレスト・アウェアネスという言葉を紹介します。

「乳がんは、日常の健康管理としてのブレスト・アウェアネスを通じて、しこり(腫瘤)に触れるなどの自覚症状を認めることにより発見される場合があります。このため、検診の場で受診者に対し、乳がん検診を定期的に受診することの重要性だけでなく、ブレスト・アウェアネスや、気になる症状がある場合の速やかな医療機関への受診、その際の乳房疾患を専門とする医療機関の選択等について啓発普及を図るよう努める。」

——がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針

ブレスト・アウェアネスとは、ひとことで言えば「自分の乳房の、普段の状態を知っておくこと」です。決まった手順で毎月調べる「自己検診」とは少し違います。入浴や着替えのときに、いつもの感触・見た目を知っておく。だから「いつもと違う」に気づける——そういう日常の習慣です。

そして、これは検診の代わりではなく、検診と組み合わせるものです。2年に1回のマンモグラフィの「あいだ」を埋める役割があります。

30代の方へ

国の指針は、30歳代は乳がん検診の対象にならないものの、罹患率が上昇傾向にあることを踏まえ、ブレスト・アウェアネスの重要性と、異常がある場合の専門医療機関への早期受診について指導するとしています。

つまり——30代は「検診を受ける年代」ではないけれど、「気づく力を持っておく年代」です。しこりに触れる、乳頭から血性の分泌がある、乳頭の湿疹やただれがある。こうしたときは、検診の年齢を待たずに医療機関へ行ってください。

12. 🚨 症状があるときは、検診ではなく受診を

この症状があるときは、がん検診ではなく医療機関へ

国立がん研究センターは「がん検診はがんの症状が出ないうちに受けることに意義があります。症状が出てからでは、検診は役に立たない場合があるからです」としています。以下は同センターが挙げている症状です。

これらは「検診を待つ」のではなく、診断のための検査を受けるべき状態です。窓口も違います。検診は健康な人のための仕組み、診療は症状のある人のための仕組みです。

もうひとつ。現在がんや前がん病変で治療中の方は、そのがん検診の対象にはなりません。再開の時期は主治医とご相談ください。

今日からできること

  1. 自分の年齢で、どの検診が対象かを確認する。3章の図をそのまま使ってください
  2. 職場の健診案内に、5つが含まれているかを見る。入っていなければ住民検診へ
  3. 「自治体名+がん検診」で検索して、受け方と費用を確認する。無料や数百円のことが多いです
  4. 要精密検査と言われたら、必ず精密検査へ。同じ検診をもう一度受けるのは代わりになりません
  5. オプションを勧められたら、「がん死亡を減らす証拠はありますか」と聞いてみる。それが、この記事でお渡ししたい唯一の質問です
  6. ご家族に声をかける。とくに退職された方、専業主婦の方は、案内が届きにくい立場にあります

13. よくある質問

会社の健康診断を受けていれば、がん検診も受けたことになりますか?

なりません。国立がん研究センターは「『定期健康診断』と『特定健康診査』のみでは必ずしも『がん検診』を受けたことになりませんので、ご注意ください」と明記しています。事業者には定期健康診断、保険者には特定健康診査の年1回の実施が義務づけられていますが、がん検診の実施は任意です。
職場の健診案内が届いたら、国が推奨する5つのがん検診(胃・大腸・肺・乳・子宮頸)の項目が含まれているかを確認してください。含まれていない場合は、お住まいの市区町村の住民検診を受けることができます

乳がん検診で超音波(エコー)を勧められました。受けたほうがいいですか?

国立がん研究センターの「有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン」では、超音波検査(単独法・マンモグラフィ併用法)の推奨グレードはIです。「死亡率減少効果を検討した研究はありませんでした」とされ、対策型検診としての実施は推奨されていません。任意型検診として受ける場合は、死亡率減少効果が不明であることと不利益について適切な説明を受けるべきだとされています。国が推奨しているのはマンモグラフィ(40〜74歳、推奨グレードB)です。
ただし、超音波は乳房のしこりなど症状がある場合の診断や、マンモグラフィで異常が見つかったあとの精密検査では重要な検査です。「検診として全員に勧められるか」と「診断に使えるか」は別の話だとご理解ください。

腫瘍マーカーやPET検査は受けたほうがいいですか?

国が推奨するがん検診には入っていません。国立がん研究センターは、CT・PET・腫瘍マーカーなどについて「がんの再発や転移を調べるための検査としては大変重要ですが、がん検診としての効果(がん死亡を減らす効果が確実、かつ、利益が不利益を上まわる)は認められていません」としています。血液や尿からがんのリスクを調べる新しい検査についても「がん検診としての効果はまだ十分に検証されていません」「これらの検査が異常値となったあとにどう行動すればよいかの流れが明確に示されていません」と指摘されています。
ただし「推奨されない」は「禁止」ではありません。推奨グレードの定義では、任意型検診(人間ドック型)については「利益と不利益に関する適切な情報を提供し、個人の判断に委ねる」とされています。心配が強い方が、効果は証明されていないと知ったうえで納得のために追加で受けることは、合理的な選択です。
大切なのは順番です。まず国が推奨する5つを決められた間隔で欠かさず受けること。そのうえで追加を考えてください。なお、ご家族にがんの方が多いことが心配の理由なら、オプションを足すより先に、がん相談支援センターやかかりつけ医にご相談ください。

がん検診に「不利益」があるとはどういうことですか?

主な不利益は4つです。偽陰性(がんがあるのに見つからない)、偽陽性(がんがないのに疑いありとされ、不要な精密検査と不安が生じる)、過剰診断(治療しなくても命を脅かさないがんを見つけてしまい、結果として不要な治療を受ける)、偶発症(内視鏡による出血や穿孔、バリウムの誤嚥、放射線被曝など。極めてまれですが死亡に至ることもあります)。
だからこそ「たくさん受けるほどよい」ではありません。国立がん研究センターは「必要以上に間隔を詰めて多く受診しても、検診の利益はあまり増えないものの、検診回数の増加とともに不利益はどんどん大きくなります」としています。決められた年齢・決められた間隔で受けることが、いちばん割に合います。

人間ドックのほうが、自治体の検診より精度が高いのではないですか?

必ずしもそうではありません。むしろ仕組みの面では逆のことが言えます。国立がん研究センターは「現時点では国の対策に沿って精度管理の仕組みを整備すべきことが明示されているのは住民検診だけです。他の検診では検診機会の提供までにとどまっていることが多く、そのあとの死亡率減少にまで結びつけるための精度管理の仕組みは、通常整備されていないのが現状です」と述べています。
住民検診には、精検受診率や要精検率といったプロセス指標を毎年国に報告し、水準に満たなければ改善する仕組みがあります。高額であることと、死亡率を下げる仕組みが整っていることは、別のことです。

この記事のまとめ。国が推奨するがん検診は5つだけ。子宮頸がん(20歳〜・2年ごと)、乳がん(40歳〜・2年ごと)、大腸がん(40歳〜・毎年)、肺がん(40歳〜・毎年)、胃がん(50歳〜・2年ごと)。
会社の健康診断だけでは、がん検診を受けたことになりません。案内が届いたら、この5つが入っているかを見てください。入っていなければ住民検診へ。
女性がいちばんかかるのは乳がん、いちばん亡くなるのは大腸がん。便潜血検査は、いちばん手軽で、いちばん安く、推奨グレードもAです。
そして——人間ドックでよく勧められる乳房超音波は推奨グレードI、腫瘍マーカーやPETは「がん検診としての効果は認められていない」。「がんリスク検査」は、異常が出たあとの道筋すら決まっていません。いちばん確実なものは、いちばん安いところにあります。
ただし「推奨されない」は「禁止」ではありません。任意型検診については、ガイドライン自身が「個人の判断に委ねる」としています。心配が強い方が、効果は証明されていないと知ったうえで追加するのは合理的な選択です。間違えてはいけないのは順番だけ——まず5つを欠かさず、そのうえで追加を。
そしてご家族にがんの方が多いことが心配の理由なら、オプション欄ではなく相談窓口へ。必要なのは検査を1項目足すことではなく、検診の年齢や間隔そのものを組み直すことだからです。
がん検診には偽陰性・偽陽性・過剰診断・偶発症という不利益があり、増やすほど大きくなります。だから「決められた年齢に、決められた間隔で」がいちばん割に合う。
新しい検査を勧められたら、質問はひとつで足ります——「それで、がんで亡くなる人は減ったんですか?」
この記事は、あなたを怖がらせるためではなく、余計な不安と余計な出費を減らすために書きました。

参考にした主な資料

なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。がん検診の内容・対象年齢・費用・実施方法は市区町村によって異なりますので、必ずお住まいの自治体の案内をご確認ください。しこり、不正出血、血便、血痰、体重減少など気になる症状がある場合は、がん検診を待たずに医療機関を受診してください。現在がんや前がん病変で治療中の方は、検診の対象や再開時期について主治医にご相談ください。検診結果で「要精密検査」とされた場合は、必ず精密検査を受けてください。掲載内容は公開時点の情報にもとづいており、内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。