1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| 1年たつまでは様子を見る | 排卵がない、子宮内膜症がある、骨盤腹膜炎にかかったことがある場合は、1年待たずに検査や治療を始めたほうがよいとされる |
| 不妊は女性の問題 | 原因は男性側と女性側がほぼ半々。2人で一緒に検査を受けることが大切 |
| 30代なら、まだ急がなくていい | 女性は30歳を過ぎると妊娠する力が低下し始め、35歳を過ぎると加速する。男性も35歳を過ぎると精子の質が徐々に低下 |
| 不妊治療は自費で高額 | 2022年4月から基本的な治療は保険適用(基本的に3割負担)。ただし生殖補助医療には年齢と回数の条件がある |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
「不妊症かも」と気になったら、いまの健康状態を確かめ、これからの人生プランを考えるためにも、産婦人科に相談してください。原因は男女ほぼ半々なので、パートナーと一緒に検査を受けるのが出発点です。年齢が上がるほど妊娠しづらくなるため、すぐに治療を始めたほうがよい場合もあります。
2. 不妊症とは——1年待たずに相談したい人
日本産科婦人科学会は、日本では、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交していたにもかかわらず、1年間妊娠しない場合を不妊症というと説明しています。
ただし、次のような場合は妊娠しにくいことが分かっているため、「不妊かもしれない」と考えて、1年間も待たずに検査や治療を始めたほうがよいとされています。
- 女性に排卵がない
- 子宮内膜症を合併している
- 過去に骨盤腹膜炎にかかったことがある
- 年齢が上がると男女ともに妊娠しづらくなるので、すぐに治療を始めたほうがよい場合もある
日本では、夫婦の4.4組に1組が不妊で悩んでいるといわれています(国立社会保障・人口問題研究所 第16回出生動向基本調査)。こども家庭庁の不妊症・不育症の情報サイトも、不妊の検査や治療を受けたことのあるカップルは年々増えていて、不妊は特別なことではないとしています。
3.【核心】年齢と、妊娠する力
日本産科婦人科学会によると、女性は30歳を過ぎると妊娠する力(妊孕性)が低下し始め、35歳を過ぎるとその低下が加速します。主な原因は、卵巣で卵子の数と質が低下することと、子宮筋腫や子宮内膜症などの病気が増えることだと考えられています。
| 年齢と妊娠する力(資料の記述) | |
|---|---|
| 女性 | 30歳を過ぎると低下し始め、35歳を過ぎると加速(日本産科婦人科学会) とくに30代後半からは妊娠する力が急降下するだけでなく、流産する確率も高くなる(こども家庭庁) |
| 卵子の数 | 出生時に約200万個あった卵子は、初潮のころには約30万個まで減り、生涯に排卵できるのは400〜500個ほど(こども家庭庁) |
| 男性 | 女性よりペースはゆっくりだが、35歳を過ぎると精子の質が徐々に低下するといわれる(日本産科婦人科学会) |
こども家庭庁のサイトは、年齢と妊娠の関係を正しく理解し、2人のライフプランを立てることが大切だとしています。
4. 原因——女性側と男性側は、ほぼ半々
日本産科婦人科学会によると、不妊症には男性側、女性側、もしくは男女両方に原因がある場合と、まったく原因が分からない場合があり、男性側に理由がある割合と女性側に理由がある割合はほぼ半々といわれています。こども家庭庁のサイトでは、WHO(世界保健機関)の調査で、男女ともに原因がある割合が24%、男性のみに原因がある割合が24%だったと紹介しています。
| 女性側の原因 | 資料の記述 |
|---|---|
| 排卵の異常 | 月経が不順な女性では、月経のような出血があっても排卵していないことがある。原因は肥満や極端なやせ、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺の機能異常、プロラクチンの分泌異常、心身のストレスなどさまざま。まったく月経がない場合は早発卵巣不全(早発閉経)のこともある |
| 卵管の異常 | 卵管が詰まると卵子と精子が出会えない。クラミジアに感染したことがあると、気づかないうちに炎症が起こって詰まることがある。月経痛が強い方は子宮内膜症が潜んでいて、癒着で詰まることも |
| 子宮頸管の異常 | 排卵が近づくと子宮頸管は粘液で満たされ精子が通りやすくなるが、粘液をうまく分泌できないと精子が届きにくい |
| 子宮の異常 | 子宮内膜ポリープ、子宮筋腫、子宮腺筋症、先天的な形の異常、手術や炎症による癒着などで、胚が着床しにくくなる |
| 男性側の原因 | 資料の記述 |
|---|---|
| 精子をつくる力の低下 | 精子の数が少ない、運動性が低いと妊娠しにくい。こども家庭庁のサイトでは、男性不妊全体の約8割にあたるとされる。精索静脈瘤で精巣内の温度が高くなると、精子をつくる力は低下する |
| 精子の通り道の障害 | 精管が詰まっていると、射精できても精子が出てこられない |
| 性交の障害 | 勃起障害(ED)や射精障害。妊娠へのプレッシャーなどのストレスが原因と考えられ、糖尿病などの病気が潜んでいることもある |
月経不順や無月経については、ダイエットで生理が止まったらの記事、子宮内膜症については子宮内膜症の記事でも書いています。
5. 基礎体温で、排卵の見当をつける
日本産科婦人科学会によると、月経が規則的な女性では、月経の開始日から約2週間後に排卵するといわれています。一方、月経が不順な女性では、月経のような出血があっても排卵していないことがあります。そして学会は、次のように書いています。
「ご自身で基礎体温をつけてみると、排卵しているかどうか、おおよその見当が付きます。」(日本産科婦人科学会「不妊症」)
あくまで「おおよその見当」です。排卵日を正確に推定するタイミング性交の指導では、卵胞の大きさや尿中のホルモンを測りながら数回通院するとされています。
この章で扱った基礎体温をつけるための婦人体温計です。日本産科婦人科学会は「ご自身で基礎体温をつけてみると、排卵しているかどうか、おおよその見当が付きます。」としています。
※ 当サイトは、記事のなかで根拠を示したうえで推奨したものに限り広告を掲載しています。ここで紹介しているのは、テルモの婦人体温計(基礎体温計)です。販売ページの表示では、実測+予測式で、スピード検温は平均約20秒、水で洗えて、暗くても見えるバックライト付きです。基礎体温でわかるのは排卵しているかどうかのおおよその見当です。月経不順がある、1年たっても妊娠しない、気になることがある場合は、産婦人科に相談してください。
6. 検査——2人で一緒に受ける
こども家庭庁のサイトは、「もしかして不妊かも」と気になったら、まず不妊の原因が隠れていないかを探ることから始め、2人で足並みをそろえ、一緒に検査を受けることが大切だとしています。日本産科婦人科学会が挙げている検査は次のとおりです。
| 検査 | 内容 |
|---|---|
| 内診・経腟超音波 | 子宮筋腫、子宮内膜症、子宮内膜ポリープ、クラミジア感染症などがないかを調べる。疑いがあればMRIや子宮鏡、腹腔鏡を追加することも |
| 子宮卵管造影 | 造影剤で、卵管が詰まっていないか、子宮の中の形に異常がないかを調べる |
| ホルモン検査 | FSH・LH・エストロゲン・プロゲステロン、甲状腺ホルモン、プロラクチンなどを、月経の周期にあわせて測る |
| AMH(抗ミュラー管ホルモン) | 卵巣に残っている卵子の数を反映するといわれる。ただし卵子の質は推測できない |
| 精液検査(男性) | 精子の数や運動率などを調べる。不妊症を診ている産婦人科や泌尿器科で受けられる。状態が悪ければ泌尿器科の専門医が精索静脈瘤などを診察する |
こども家庭庁のサイトは、精液検査の結果は値のばらつきが大きいため、数値に一喜一憂せず、複数回受けてみることも大切だとしています。日を改めて再検査すると、異常がないこともあるそうです。
7. 治療——ステップアップしていく
日本産科婦人科学会によると、不妊治療の中心は、排卵を促すことと、卵子と精子の受精をサポートすることです。一般的には、数周期おきに次の治療法へステップアップしていきます。
原因に応じて、いくつかの治療法を組み合わせます。
- タイミング性交:最も妊娠しやすいとされる排卵の直前(排卵の1〜2日前から排卵当日)に性交するよう指導する。卵胞の大きさや尿中のホルモンを測って排卵日を推定するので、数回の通院が必要
- 排卵誘発:内服薬や注射薬で排卵を促す。排卵がある方でも、人工授精の妊娠率を上げる目的で行うことがある
- 人工授精:採取した精液から良好な運動精子を集め、排卵の直前に子宮内へ注入する
- 体外受精・顕微授精(生殖補助医療):排卵誘発剤で複数の卵胞を育てて採卵し、体外受精か顕微授精で受精させ、培養した胚を子宮に移植する。採卵した周期に移植する方法と、いったん凍結保存して後で移植する方法がある。日本では年間50万件近く行われている
原因別には、卵管の通りを良くする手術、子宮内膜症の病巣を取る手術(卵巣の機能へのダメージに注意)、男性側の治療、精巣の中から精子を探す精巣内精子採取術なども行われます。卵管の異常では、最近は卵管での受精を必要としない体外受精や顕微授精に進むことが多いとされています。
8. 保険適用の条件と、高額療養費制度
こども家庭庁のサイトによると、これまで自由診療だった不妊治療は、2022年4月から、日本生殖医学会のガイドラインの考え方などを踏まえ、有効性や安全性が確認された基本的な治療が保険適用になり、基本的に3割負担になりました。
| 項目 | こども家庭庁のサイトの記述 |
|---|---|
| 対象になる治療 | 一般不妊治療(タイミング法・人工授精)、生殖補助医療(体外受精・顕微授精の採卵・採精から胚移植までの基本的な治療)、男性不妊治療(精巣内精子採取術など) |
| 年齢の条件 | 生殖補助医療は、女性の年齢が治療開始日に43歳未満 |
| 回数の条件 | 初めての胚移植の治療計画を作った日の年齢が40歳未満なら1子ごとに6回まで、40歳以上43歳未満なら3回まで |
| 先進医療 | 保険外の一部の技術は「先進医療」として保険診療と併用できる。詳細は医療機関に確認 |
| 高額療養費制度 | 保険が適用されたことで、ひと月の窓口負担が上限額を超えた分が支給される制度も使えるようになった。加入している医療保険者への申請が必要 |
サイトは、保険適用で治療を受けるには条件があるので、治療を始める前に条件を確認するよう勧めています。
9.【内科医の視点】男性の生活習慣と、相談できる場所
内科医として強調したいのは、原因の半分は男性側にもあるという点です。こども家庭庁のサイトは、肥満や喫煙、睡眠不足やストレスなどがあると、精子の数が減ったり運動率が下がったりする可能性があるとして、栄養バランスのいい食事、十分な睡眠、適度な運動を勧めています。また精子は熱に弱いため、サウナや長時間の入浴、ひざの上でのパソコン作業など、精巣を高温の環境に長く置くことは避けるよう書いています。
もう一つは心の負担です。サイトは、通院を続けても結果が出ない苦しさは2人だけで背負うには重すぎるとして、気持ちを話せる場所をもつことを勧めています。不妊症や不育症を含め、妊娠・出産をとりまく悩みは、「性と健康の相談センター事業」の性と健康の相談センターで相談を受けることができます。
10. 相談・受診したいとき
産婦人科に相談したいとき(資料にあるもの)
・避妊をせずに1年たっても妊娠しない
・排卵がない(月経が不順、まったく来ない)、子宮内膜症がある、骨盤腹膜炎にかかったことがある(1年待たずに)
・年齢が気になる(すぐに治療を始めたほうがよい場合もある)
・男性は、不妊症を診ている産婦人科や泌尿器科で精液検査を受けられる
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 不妊症は1年間妊娠しない状態。夫婦の4.4組に1組が悩んでいる
② 排卵がない・子宮内膜症・骨盤腹膜炎の既往があれば1年待たずに相談
③ 女性は30歳を過ぎると妊娠する力が下がり始め、35歳を過ぎると加速。男性も35歳を過ぎると精子の質が低下
④ 原因は男女ほぼ半々。2人で一緒に検査を
⑤ 治療はタイミング性交から体外受精へステップアップ。2022年4月から保険適用(年齢・回数の条件あり)
11. よくある質問
不妊症とは、どういう状態ですか?
日本産科婦人科学会によると、日本では、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交していたにもかかわらず、1年間妊娠しない場合を不妊症といいます。日本では夫婦の4.4組に1組が不妊で悩んでいるといわれています。
1年たっていなくても、相談してよいですか?
はい。女性に排卵がない、子宮内膜症を合併している、過去に骨盤腹膜炎にかかったことがある場合は妊娠しにくいことが分かっているため、1年間も待たずに検査や治療を始めたほうがよいとされています。年齢が上がると男女ともに妊娠しづらくなるので、すぐに治療を始めたほうがよい場合もあります。
不妊の原因は女性にあることが多いのですか?
いいえ。日本産科婦人科学会によると、男性側に理由がある割合と女性側に理由がある割合は、ほぼ半々といわれています。こども家庭庁のサイトでは、WHOの調査で男女ともに原因がある割合が24%、男性のみに原因がある割合が24%だったと紹介しています。2人で一緒に検査を受けることが大切です。
基礎体温をつける意味はありますか?
日本産科婦人科学会は、自分で基礎体温をつけてみると、排卵しているかどうか、おおよその見当が付くとしています。月経が不順な女性では、月経のような出血があっても排卵していないことがあります。ただし、あくまでおおよその見当なので、気になる場合は産婦人科に相談してください。
不妊治療は保険が使えますか?
こども家庭庁のサイトによると、2022年4月から、タイミング法や人工授精、体外受精・顕微授精の基本的な治療などが保険適用となり、基本的に3割負担になりました。体外受精・顕微授精には、女性の年齢が治療開始日に43歳未満であること、40歳未満なら1子ごとに6回まで、40歳以上43歳未満なら3回までという条件があります。高額療養費制度も利用できます。
男性が気をつけることはありますか?
こども家庭庁のサイトは、肥満や喫煙、睡眠不足やストレスは精子の数や運動率に影響する可能性があるとして、栄養バランスのいい食事、十分な睡眠、適度な運動を勧めています。精子は熱に弱いため、サウナや長時間の入浴、ひざの上でのパソコン作業などで精巣を高温に長く置かないようにとしています。精液検査は値のばらつきが大きいので、複数回受けることも大切です。
参考にした主な資料
- 日本産科婦人科学会「不妊症」(2025年7月28日更新)
- こども家庭庁「みんなで知ろう、不妊症・不育症のこと」(妊娠・不妊の基礎知識/男性不妊について/保険適用について/相談窓口)