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MEDICALLY REVIEWED BEAUTY & HEALTH
検査と数値

脂肪肝とALT
——30を超えたら受診を。見るべきは脂肪の量ではなく、線維化でした

健診で「脂肪肝」「肝機能が少し高め」と言われて、そのままにしている方は多いと思います。症状がないからです。
日本肝臓学会は2023年、その状況に対してひとつの数字を示しました。ALTが30を超えていたら、まずかかりつけ医を受診してください——「奈良宣言2023」です。健診の基準値は40や45のこともありますから、基準値内でも受診の対象になるということになります。
さらに2026年、この病気は名前そのものが変わりました。NAFLD・NASHから、MASLD・MASHへ。同じ年に、国内で初めて治療薬が承認されています。
そして、いちばん大事な視点の転換。予後を決めるのは、たまった脂肪の量ではありません。肝臓が硬くなっていく「線維化」です。その線維化を、健診の紙の数字だけで推し量る方法があります。順に見ていきます。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年9月28日 読了:約18分

1. 先に結論

一次資料から読み取れることを、先にまとめます。

よく聞く話資料が書いていること
基準値内なら大丈夫日本肝臓学会はALT 30超で受診を勧めています。健診の基準値は40や45のことも
数値が正常なら進んでいない「肝機能の数値が基準内でも、肝炎が進行しているかもしれません。」
脂肪肝は太った人の病気「非肥満者におけるNAFLD有病率は7〜20%と報告されており」
脂肪がどれだけ溜まったかが問題「NAFLD/NASHの予後には肝線維化ステージが最も関与する」
症状が出たら考える「NAFLD/NASHに特徴的な症状や身体症状はない」
肝臓の病気だから肝臓だけ注意「NAFLDでは全死亡率,肝関連死亡率,心血管イベントのリスクが増加する.」
サプリでなんとかするいわゆる肝臓サプリはガイドラインに記載そのものがありません

この記事でいちばんお伝えしたいこと。

脂肪肝は、「脂肪がついた状態」ではなく「肝臓が硬くなっていく過程の入口」として見ると、やるべきことがはっきりします。そして進み具合は、健診の紙にある4つの数字(AST・ALT・血小板数・年齢)だけで、ある程度あたりがつけられます。7章をご覧ください。

2.【核心】ALTが30を超えていたら

2023年6月、奈良市で開かれた第59回日本肝臓学会総会で、学会として初めて一般の方に向けた宣言が出されました。「奈良宣言2023」です。

「特に一般的な健康診断でも肝機能検査として血液検査で広く測定されているALT値が30を超えていた場合、まずかかりつけ医等を受診することを勧めています。」

なぜALTなのか。リーフレットはこう説明しています。「肝細胞が傷つくと細胞内のAST、ALTが漏れ出して、血管内に移行して数値が上昇します。」そして「特にALTは他の臓器にあまり含まれていないため、その血液中の高さは肝障害を反映します。」

ASTは心臓や筋肉にも含まれているので、運動のあとでも上がります。ALTのほうが、肝臓に特化した数字だということです。

受診したあとの流れも示されています。「かかりつけ医による採血や腹部超音波検査などを受け、必要と判断されれば、さらに消化器内科におけるより詳しい検査を受けることで、肝疾患の早期発見・早期治療に繋げるためです。」——いきなり大きな病院ではなく、まずかかりつけ医、という順番です。

そして、ALTが高いときに何を疑うか。奈良宣言は4つに振り分けています。

ALTが30を超えていたら、まずかかりつけ医へ 日本肝臓学会「奈良宣言2023」。そのあと4つの原因に振り分けます ALT > 30 U/L ウイルス性肝炎 B型・C型の検査が 陽性のとき (HBs抗原・HCV抗体) アルコール性 男性 60g/日以上 女性 40g/日以上 かつASTやγGTPが 異常値のとき 線維化を伴う脂肪肝 脂肪肝がある 肥満・糖尿病・脂質 異常症・高血圧の合併 血小板20万未満/ FIB-4 1.3以上 その他 薬物性肝障害の疑い 自己免疫性肝疾患 (自己免疫性肝炎・ 原発性胆汁性胆管炎) 原因不明 リーフレットには「肝機能の数値が基準内でも、肝炎が進行しているかもしれません。」とあります。

「奈良宣言2023」リーフレットの診療連携図をもとに作成。数値はいずれも受診・精査を考える目安です

この図で、ぜひ覚えていただきたいところが2つあります。

① アルコールの線引き。アルコール性肝障害を疑う目安として男性60g/日以上、女性40g/日以上が挙げられています。日本酒に換算すると男性で3合、女性で2合ほど。女性のほうが少ない量で線が引かれている点に注意してください。

② 血小板数とFIB-4 index。脂肪肝の枝に「血小板数20万/mm3未満」「FIB-4 index 1.3以上」が並んでいます。どちらも肝臓が硬くなってきたサインです。7章で詳しく扱います。

3.「基準値内」でも、安心とは限りません

奈良宣言のリーフレットには、太字でこう書かれた一文があります。

「肝機能の数値が基準内でも、肝炎が進行しているかもしれません。」

肝臓が「沈黙の臓器」と呼ばれる理由は、症状が出ないことだけではありません。数値も必ずしも、進み具合を映さないのです。

リーフレットは、こうも書いています。「肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、肝炎が進行していても自覚症状がないことが珍しくありません。また、高齢になると病状の進行が早くなります。」そして「場合によっては、慢性肝炎から突然肝がんを発症することもあります。」

日本消化器病学会のガイドラインも、症状についてはっきり書いています。「NAFLD/NASHに特徴的な症状や身体症状はない」。

では何を見ればよいか。3つあります。

見るものなぜ
ALTが30を超えているか基準値ではなく、学会が示した線で判断する
年ごとの変化同じ35でも、去年25だったのか、ずっと35なのかで意味が違います
血小板数とFIB-4 indexALTが正常でも、線維化が進んでいることがあります

健診結果はぜひ捨てずに取っておいてください。受診するときに数年分を持っていくと、たった1枚より何倍も多くのことが分かります。健診の紙の読み方については健診結果の読み方ガイドでも整理しました。

4. 2026年、病名が変わりました

この分野は、いま大きく動いています。2026年4月、日本消化器病学会のガイドラインが改訂され、病名そのものが変わりました。

これまで2026年から
NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)
NASH(非アルコール性脂肪肝炎)MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)

何が変わったのか。「アルコールではない」という引き算の定義から、「代謝の問題と関係がある」という足し算の定義へ変わりました。肥満・糖尿病・脂質異常症・高血圧といった代謝の異常と結びつけて捉える、という考え方です。

これは、脂肪肝を肝臓だけの病気ではなく、全身の問題として扱うという宣言でもあります。実際、ガイドラインは「NAFLDでは全死亡率,肝関連死亡率,心血管イベントのリスクが増加する.」としています。脂肪肝で亡くなる方の死因は、肝臓の病気だけではないということです。

この記事で使っている資料について

2026年版のガイドライン本体は学会員限定で公開されています。一般に読めるのは、2020年版(NAFLD/NASH診療ガイドライン 改訂第2版)と、2026年版のAnnual Review版です。この記事では、どちらの版の記述かを都度お示しします。病名と新しい薬については2026年版、診断と生活習慣については2020年版にもとづいています。

5. 痩せていても、脂肪肝になります

「脂肪肝=太っている人の病気」という理解は、正確ではありません。ガイドラインの回答はこうです。

「非肥満者におけるNAFLD有病率は7〜20%と報告されており,アジアでの有病率が高い傾向である.」

太っていない人でも、10人に1人前後。しかもアジアで多い傾向です。

性差についても記載があります。「NAFLDの有病率の性差に一定の見解は得られていないが,本邦を含めアジア諸国では男性が女性よりも高頻度の傾向である.」。ただし、これは「女性は関係ない」という意味ではありません。女性は更年期以降に増えていきます。

体重が同じでも、年齢とともに体の中身は変わります。筋肉が減って脂肪が増えれば、体重計の数字は動かなくても代謝の面では不利になります。この点は40代からの「痩せにくい」の正体で詳しく扱いました。

それから、脂肪肝と隣り合っている数値がいくつもあります。血糖については糖尿病予備軍、コレステロールについてはコレステロールと家族性高コレステロール血症で整理しています。ガイドラインが病名を「代謝機能障害関連」に変えたのは、まさにこれらが束になって動くからです。

6.【重要】見るべきは脂肪の量ではなく、線維化

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい視点の転換です。ガイドラインは、こう書いています。

「NAFLD/NASHの予後には肝線維化ステージが最も関与するため,肝線維化ステージ診断は重要である」

予後を決めるのは、脂肪がどれだけ溜まっているかではありません。肝臓がどれだけ硬くなっているか(線維化)です。

肝臓は、炎症が続くと傷を修復しようとして線維を増やします。それが積み重なって硬くなっていくのが線維化で、行き着く先が肝硬変です。エコーで「脂肪肝ですね」と言われても、脂肪の多さと線維化の進み具合は、必ずしも一致しません。

肝がんになる頻度も、段階によって大きく違います。

段階肝発癌率(1,000人・年あたり)
NAFLD(脂肪肝)0.44
NASH(脂肪肝炎)5.29
肝硬変0.45〜22.6

ガイドラインの表現は「NAFLDからの肝発癌率は低率(0.44/1,000人・年)であるが肝病態の進展とともにリスクは上昇し」というものです。脂肪肝そのものの発癌率は高くない。問題は、そこから進んだ場合です。

では、その線維化をどう知るのか。いちばん確実なのは肝生検ですが、全員には行えません。ガイドラインもこう書いています。「全症例にエラストグラフィや肝生検を行うことは不可能であり,血液学的検査を用いたバイオマーカーやスコアリングシステムを活用する必要がある.」

そこで登場するのが、次の章です。

7. FIB-4 index——健診の紙から計算できます

ガイドラインは、線維化を推し量るスコアについて推奨の強さ「強」・合意率100%・エビデンスレベルAという、最も高い評価を与えています。

「NAFLD/NASH患者の肝線維化進行度の評価に血液学的バイオマーカーやスコアリングシステムは有用であり,それらを用いて線維化進展症例の予測や肝生検の適応症例の絞り込みを行うことを推奨する.」

なかでも「FIB-4 indexとNFSは日常臨床で測定可能な因子を組み合せており,線維化進行症例の診断能も高い.」

FIB-4 indexが優れているのは、特別な検査がいらないことです。

FIB-4 index は、健診の紙の数字だけで出せます 使うのは AST・ALT・血小板数・年齢 の4つだけ 年齢 × AST ÷(血小板数 × √ALT) 1.30 未満 低リスク 陰性的中率 99% 1.30 〜 2.67 中間域 さらに調べる対象 2.67 以上 高リスク 専門医の評価を ガイドラインはFIB-4 indexとNFSの使用を推奨の強さ「強」・合意率100%・エビデンスAとしています。 計算式に年齢が入るため、高齢の方では高めに出やすいと報告されています。 この数値は診断ではなく、詳しく調べる対象を絞り込むための道具です。

血小板数は健診の血液検査に含まれています(単位が10⁹/Lの表記になっている点にご注意ください)

使うのはAST・ALT・血小板数・年齢の4つだけ。どれも一般的な健診の結果に載っています。ガイドラインは「FIB-4 indexはAST,ALT,血小板数,年齢で計算できるため一般診療で評価可能であり,カットオフ値を低閾値1.30未満,中間域1.30〜2.67,高閾値2.67以上と設定する.」としています。

とくに心強いのが低いほうの意味です。「わが国の報告では,1.30未満では高度線維化診断の陰性的中率は99%である」。1.30未満なら、高度な線維化がある可能性はかなり低いということです。

診断能についても数字があります。64の論文・13,046人を解析したメタアナリシスで、高度線維化を見分ける能力はFIB-4 indexとNFSがAUROC 0.84。APRIの0.77、BARD scoreの0.76より高い結果でした。

注意点も書かれています。「FIB-4 indexは計算式に年齢の因子が含まれるため年齢に応じて診断率が変わることが報告されている」。高齢の方では高めに出やすいということです。ですからこの数字は診断ではなく、「詳しく調べる必要があるかどうか」を絞り込む道具だと考えてください。

受診したときに「FIB-4はいくつでしたか」と聞いてみるのも一つの方法です。計算してもらえば、その場で分かります。

8. どれだけ減らせばいいのか——5%・7%・10%

治療の土台は、食事と運動による減量です。ガイドラインの回答はシンプルです。「食事や運動療法による体重減少はNAFLD/NASHの肝機能および組織像を改善する.」

そして、目標がキロではなくパーセントで示されています。

何キロではなく、何パーセントで示されています かっこ内は体重60kgの方の目安。右は、実際に達成できた人の割合 5% 減 (3.0kg) 生活の質が改善 達成率 30% 7% 減 (4.2kg) 肝臓の組織が改善 達成率 18% 10% 減 (6.0kg) 線維化も改善 達成率 10% 10%減らせた人は10人に1人。まず5%を目指すのが現実的です。 ガイドラインは「5%,7%,10%減量の達成率はそれぞれ30%,18%,10%と低く」としています。 引用された研究はいずれも海外のもので、日本人での検証が必要とも書かれています。

「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)」BQ4-1の解説をもとに作成

ガイドラインの表現は「5%の減量によりQOLが,7〜10%以上の減量により組織学的改善が期待できる.」です。さらに「特に10%以上の減量で肝線維化も改善することが示されている」——6章で見たとおり、線維化こそが予後を決める要素ですから、ここが動くのは大きな意味を持ちます。

ただし、同じ段落に厳しい数字も並んでいます。

「しかし,5%,7%,10%減量の達成率はそれぞれ30%,18%,10%と低く,生活習慣への介入は目標達成率やアドヒアランスの維持が課題である.」

10%減らせた人は、10人に1人でした。

この数字をどう受け取るか。私は「まず5%を目指してください」とお伝えしたいと思います。達成率3割は、現実的に届く範囲です。そして5%でも生活の質の改善が報告されています。10%を目標にして挫折するより、5%を達成するほうが、肝臓にとってはずっと良いはずです。

なお、ガイドラインはこれらの研究について「こられはすべて海外の成績であり,日本人での検証も必要である.」とも付け加えています(原文ママ)。

9. 唯一の「強く推奨」は、運動療法でした

生活習慣に関する推奨のなかで、推奨の強さ「強」がついているのは運動療法だけです。

項目推奨の強さ合意率エビデンス
運動療法強100%B
食事内容(炭水化物または脂質の制限)弱100%C
少量から中等度の飲酒の影響なし100%C

運動療法の推奨文は、こうです。「運動による肝の組織学的変化は明らかになっていないが,運動療法単独でもNAFLD患者の肝機能,肝脂肪化は改善するため行うことを推奨する.」

前半の但し書きに注目してください。組織がどうなるかは分かっていない。でも肝機能と脂肪の量は改善する。だから勧める。——分かっていることと分かっていないことを、きちんと分けて書いています。

そして重要なのは「単独でも」という部分です。体重が減らなくても、運動そのものに効果があるということ。減量がうまくいかない方にとって、これは希望のある一文だと思います。

種目については、有酸素運動の効果が広く受け入れられているうえで、「最近レジスタンス運動も有用と報告された」とされています。歩く・泳ぐといった運動に加えて、筋トレも選択肢に入ります。

10. 食事とお酒——2つの線引き

食事については、推奨の強さは「弱」、エビデンスレベルはCです。

「カロリー制限による体重の減少は,NAFLD患者の肝機能,肝脂肪化を改善させる.NAFLD/NASHの改善にはエネルギー摂取量の適正化を優先し,栄養素摂取比率では炭水化物もしくは脂質を制限することを提案する.」

読み方のポイントは「エネルギー摂取量の適正化を優先し」です。解説でも「減量にはカロリー制限がより重要であることは明白である」と書かれています。糖質を抜くか脂質を抜くかより、まず総量。どちらを減らすかは、続けやすいほうで構わない、という整理です。

解説にはいくつか具体的な話も出てきます。地中海式の食事(低炭水化物+不飽和脂肪酸)で肝脂肪化が改善したという報告、「果糖の摂取とNAFLD/NASHの進展との関連を示す報告」があり「高果糖含有食品の適正摂取について議論する必要がある」という指摘。そして「コーヒーの摂取がNAFLDの発症や線維化の進展,肝発癌を抑制するとした疫学研究が複数みられ,メタアナリシスの結果からもこのことが示唆された」という記述もあります。ただしコーヒーは推奨文には入っていません。解説のなかで触れられているだけ、という位置づけです。

お酒については、線引きが2つあることを知っておいてください。ここは混同されやすいところです。

何の線か量出典
NAFLDと定義する飲酒量の上限エタノール換算で男性30g/日未満、女性20g/日未満ガイドライン2020(BQ3-2)
アルコール性肝障害を疑う目安男性60g/日以上、女性40g/日以上(かつASTやγGTPが異常値)奈良宣言2023

前者を超えると「アルコールも関与している脂肪肝」として扱いが変わり、後者を超えると「アルコール性肝障害」が前面に出てきます。どちらも女性のほうが少ない量で線が引かれています。

では「少しなら体にいい」は本当か。ガイドラインは明確です。「少量飲酒の影響は患者個人によって異なり,一定の見解が得られていない.」推奨の強さは「なし」。勧めることも、やめろと言うこともできない、というのが現在地です。

11. 薬の話——エビデンスAなのに保険が使えないもの

薬については、知っておくと役に立つことが2つあります。

① ビタミンE——推奨は強いが、条件が重い

ガイドラインの推奨文はこうです。「ビタミンEはNASHの血液生化学検査および肝組織像を改善させるため投与することを推奨する.なおビタミンEはNAFLD/NASHに対する保険適用はない.」推奨の強さ「強」、合意率100%、エビデンスレベルA。

エビデンスAで強く推奨されているのに、保険が使えない。この組み合わせは珍しく、そして重要です。保険で処方できないので、患者さん側がサプリメントに向かいやすい構造があります。

ですが、同じ解説に警告が並んでいます。「ビタミンEの過剰投与は出血傾向をきたす危険性があり,厚生労働省の食事摂取基準では健常男性成人において800mg/日に定められている.」そして「冠動脈疾患を対象とした介入試験では長期のビタミンE投与がかえって死亡率を増加させたという報告もあり注意が必要である」。

🚨 ビタミンEを自己判断で飲み続けないでください。

推奨の対象はNASH——肝生検などで脂肪肝炎と診断された状態です。健診でALTが高いというだけの段階とは違います。そして長期の安全性については、ガイドライン自身が「今後長期の有用性,安全性の検証が必要と考えられる」としています。飲むなら主治医と相談のうえで、という薬です。

② 2026年、国内で初めて治療薬が承認されました

2026年版のAnnual Review版に、新しい記述があります。

「本邦においても2026年6月19日にセマグルチド(販売名:ウゴービ®皮下注)が,「肝硬変を伴わない代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH).ただし,中等度又は高度の線維化を有する場合に限る」を効能または効果として承認された.」

セマグルチドは、いわゆるGLP-1受容体作動薬です。推奨も更新されました。「MASLDに対して,GLP-1受容体作動薬は有用な選択肢である.なかでも,肝硬変を伴わないMASHで中等度または高度の線維化を有する患者に対しては,セマグルチドの使用を推奨する.」推奨の強さ「強」(合意率100%)、エビデンスレベルA。

第Ⅲ相のESSENCE試験では、線維化ステージ2〜3のMASH患者にセマグルチド2.4mgを72週投与したところ、MASHが消失した症例が62.9%、線維化が1段階以上改善した症例が36.8%で、プラセボとの差はそれぞれ28.7%、14.4%でした。

ただし、適応は厳密に限定されています。「肝硬変を伴わない」「中等度または高度の線維化を有する」MASH。健診で脂肪肝と言われた段階の方が対象になる薬ではありません。体重を減らす目的で使われている問題についてはGLP-1「やせ薬」の実際で扱いました。

12. 🚨 受診の目安と、聞いておきたいこと

整理します。

受診をおすすめしたい状態

① ALTが30を超えている(基準値内でも。これが奈良宣言の線です)

② ALTが基準値内でも、年々じわじわ上がっている

③ 血小板数が20万/mm³を下回っている

④ エコーで脂肪肝と言われ、肥満・糖尿病・脂質異常症・高血圧のどれかがある

⑤ B型・C型肝炎の検査を、一度も受けたことがない

⑥ ALTが高いまま、健康食品やサプリを飲み続けている(薬物性肝障害の可能性)

⑤について補足します。奈良宣言の4分岐の一つがウイルス性肝炎です。B型・C型肝炎は治療法が大きく進歩していて、リーフレットも「治療方法は進歩し、高い可能性で肝臓病から命を守ることができる時代となりました。」と書いています。一度も検査を受けていない方は、その一回に大きな意味があります。多くの自治体で無料の肝炎ウイルス検査が受けられます。

受診したときに聞いておくとよいことを挙げます。

「FIB-4 indexはいくつですか」——その場で計算できます
「肝炎ウイルスの検査はしましたか」——していなければ、まずここから
「エコーで線維化の所見はありますか」——脂肪の量だけでなく硬さを
「次はいつ測ればいいですか」——経過を追うことが診断より大事な段階があります

最後に、経過観察についてのガイドラインの推奨を紹介します。推奨の強さ「強」、合意率100%。「肝線維化の程度に応じて,肝硬変・肝癌などの肝関連疾患だけでなく心血管イベントや他臓器癌などの非肝関連疾患も考慮した」経過観察を行うこと、とされています。

肝臓だけを見ていては足りない——これが、病名が「代謝機能障害関連」に変わったことの意味でもあります。

この記事のまとめ

① 日本肝臓学会はALT 30超で受診を勧めています(健診の基準値より厳しい線です)

② 「数値が基準内でも、肝炎が進行しているかもしれません」

③ 2026年、病名がNAFLD/NASHからMASLD/MASHへ変わりました

④ 痩せていても脂肪肝になります(非肥満者で7〜20%)

⑤ 予後を決めるのは脂肪の量ではなく線維化。FIB-4 indexで絞り込めます

⑥ 減量は5%でQOL、7〜10%で組織、10%で線維化。ただし達成率は30%・18%・10%

⑦ 生活習慣で唯一の「強く推奨」は運動療法。しかも「単独でも」効きます

13. よくある質問

健診でALTが35でした。基準値内なのですが、受診したほうがいいですか?

受診をおすすめします。日本肝臓学会が2023年に出した「奈良宣言2023」は、はっきりこう書いています。「特に一般的な健康診断でも肝機能検査として血液検査で広く測定されているALT値が30を超えていた場合、まずかかりつけ医等を受診することを勧めています。」。健診の基準値は施設によって違い、40や45までを正常とすることもあります。ですが学会が示した線は30です。35は基準値内でも、この線は超えています。目的も書かれています。「かかりつけ医による採血や腹部超音波検査などを受け、必要と判断されれば、さらに消化器内科におけるより詳しい検査を受けることで、肝疾患の早期発見・早期治療に繋げるためです。」。いきなり大きな病院ではなく、まずかかりつけ医、という順番です。受診のときは、できれば過去数年分の健診結果を持っていってください。ALTが少しずつ上がっているのか、去年だけ高いのかで、意味がまったく違います。

ALTは基準値内です。それなら肝臓は大丈夫ということですか?

残念ながら、そうとは言い切れません。奈良宣言のリーフレットには「肝機能の数値が基準内でも、肝炎が進行しているかもしれません。」という一文が入っています。肝臓が「沈黙の臓器」と呼ばれるのは、痛みなどの症状が出ないからだけではなく、血液検査の数値も必ずしも病気の進み具合を反映しないからです。実際、日本消化器病学会のガイドラインも「NAFLD/NASHに特徴的な症状や身体症状はない」としています。ではどうすればよいか。ひとつは、ALTの数値そのものより年ごとの変化を見ることです。もうひとつが、本文7章で紹介したFIB-4 indexです。AST・ALT・血小板数・年齢という、健診の紙に載っている数字だけで計算できます。とくに血小板数は見落とされがちですが、肝臓が硬くなってくると下がってくる数字で、奈良宣言も「血小板数20万/mm3未満」を受診の目安のひとつに挙げています。

痩せているのに脂肪肝と言われました。なぜですか?

珍しいことではありません。ガイドラインは「非肥満者におけるNAFLD有病率は7〜20%と報告されており、アジアでの有病率が高い傾向である。」としています。太っていなくても、10人に1人前後という頻度です。背景として、日本人を含むアジア人は欧米人より少ない体重でも内臓脂肪がつきやすく、インスリンの効きが落ちやすいことが知られています。また、極端な食事制限や運動不足で筋肉が減ると、体重は変わらなくても代謝の面では不利になります。ですから「痩せているから大丈夫」ではなく、ALTと血小板の数字を見てください。なお、ガイドラインは有病率の性差について「本邦を含めアジア諸国では男性が女性よりも高頻度の傾向である。」としていますが、女性でも更年期以降は増えていきます。体重が同じでも体の中身は変わるという点は、40代からの体の変化を扱った記事でも触れました。

何キロ痩せればいいのでしょうか?

パーセントで示されています。ガイドラインの解説はこうです。「5%の減量によりQOLが、7〜10%以上の減量により組織学的改善が期待できる。」。体重60kgの方なら、5%は3kg、7%は約4.2kg、10%は6kgです。とくに「10%以上の減量で肝線維化も改善することが示されている」というのが大きな点で、線維化は予後を決める要素なので、ここが動くかどうかは重要です。ただし、同じ段落に正直な数字も並んでいます。「5%,7%,10%減量の達成率はそれぞれ30%,18%,10%と低く」。10%減らせた人は10人に1人です。ですから最初から10%を目指すより、まず5%をおすすめします。5%でも生活の質の改善が報告されていますし、達成率が3割ということは、現実的に届く範囲だということです。そして減らし方について、ガイドラインは食事内容より総量を重視していて、「減量にはカロリー制限がより重要であることは明白である」としています。

肝臓のサプリを飲んでいます。続けてよいですか?

商品によります。まず、しじみ・オルニチン・ウコンといったいわゆる肝臓サプリについては、日本消化器病学会のガイドラインに記載そのものがありません。推奨も否定もされていない、評価の対象外という位置づけです。むしろ注意していただきたいのは、奈良宣言がALT高値の原因のひとつとして薬物性肝障害の疑いを挙げていることです。健康食品が原因で肝障害が起きることがあります。ALTが高いまま何かを飲み続けているなら、その「何か」が原因という可能性も含めて、医師に伝えてください。一方、ビタミンEについてはガイドラインが推奨の強さ「強」、エビデンスレベルAで評価しています。ただし条件が重く、対象は肝生検などで診断されたNASHであること、「ビタミンEはNAFLD/NASHに対する保険適用はない」こと、そして「ビタミンEの過剰投与は出血傾向をきたす危険性があり」「長期のビタミンE投与がかえって死亡率を増加させたという報告もあり注意が必要である」と書かれています。自己判断でサプリとして高用量を飲み続けるのではなく、必ず主治医と相談してください。

参考にした主な資料

凪
なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。本文で紹介した推奨の強さ・合意率・エビデンスレベル・数値は、日本肝臓学会「奈良宣言2023」、日本消化器病学会「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)」および「MASLD診療ガイドライン2026(改訂第3版)Annual Review版」にもとづくもので、公開時点の情報です。2026年版のガイドライン本体は学会員限定で公開されており、本記事は一般に公開されている2020年版とAnnual Review版を用いています。診断・治療の内容は今後変わる可能性があります。ALTの基準値は健診機関によって異なります。奈良宣言が示す30という値は受診を考える目安であり、診断の基準ではありません。FIB-4 indexは線維化の可能性を絞り込むための指標で、診断を確定するものではなく、とくに高齢の方では高めに出やすいことが報告されています。減量の目標値は集団に対する研究にもとづくもので、個々の方に最適な目標とは限りません。摂食障害の既往がある方、妊娠中・授乳中の方、高齢で筋肉量の低下が気になる方は、減量を始める前に医師にご相談ください。ビタミンEはNAFLD/NASHに対する保険適用がなく、過剰摂取により出血傾向を生じるおそれがあります。自己判断で高用量を継続せず、必ず医師にご相談ください。セマグルチドのMASHに対する適応は、肝硬変を伴わず、中等度または高度の線維化を有する場合に限られており、健診で脂肪肝を指摘された段階の方が対象となる薬ではありません。ALTが高い状態が続く場合は自己判断で様子を見ず、医療機関を受診してください。掲載内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。