1. 先に結論
日本糖尿病学会のガイドラインと、国の調査から読み取れることを先にまとめます。
| よく聞く話 | 資料が書いていること |
|---|---|
| 予備軍も糖尿病も1,000万人ずつ | それは平成28年の数字です。令和6年は糖尿病 約1,100万人/予備軍 約700万人 |
| 糖尿病になってから対策すればいい | 血糖値とHbA1cは発症の10年前から上がり始めます。動脈硬化の危険は境界型から増えます |
| 少し高いだけなら大丈夫 | 空腹時100〜125とHbA1c 5.7〜6.4%の両方を満たすと、発症リスクが約30倍という報告があります |
| 10kgくらい痩せないと | 日本人の研究では2kg。米国の目標は7%減ですが、日本の試験は2kg前後で効果を出しています |
| 運動していれば座っていても平気 | 「余暇時の運動では打ち消すことができない強固な関連がある」 |
| ゼロカロリーなら安心 | 人工甘味料も相対リスク1.29。甘い糖類(1.28)とほぼ同じです |
| 薬を飲めば予防できる | 効果は36%減で生活習慣(39%減)とほぼ同じ。ただし「内服終了後の効果持続は認められていない」 |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
境界型・正常高値は、「まだ病気ではない」時期ではなく「いちばん動く価値のある」時期です。生活習慣への介入は、日本人を対象とした質の高い試験で発症を抑え、しかもやめたあとも効果が7年以上続きます。薬にはそれがありません。
2.「予備軍」は、2つの意味で使われています
まず言葉の整理から。「糖尿病予備軍」は正式な医学用語ではありません。そして、実際には2つの違うものを指して使われています。
| 国の統計での呼び方 | 学会の分類 | |
|---|---|---|
| 名前 | 糖尿病の可能性を否定できない者 | 境界型(および正常高値) |
| 基準 | HbA1c 6.0%以上6.5%未満 | 空腹時血糖値と、ブドウ糖負荷試験の2時間値 |
| 使われる場面 | 国民健康・栄養調査などの人数推計 | 診療・治療方針の決定 |
ものさしが違うので、同じ人が片方では「予備軍」、もう片方では「正常高値」になることもあります。混乱のもとですが、どちらも「今後の発症リスクが高い」という点では一致しています。
学会の分類を見ておきましょう。
リスクが最も高いのは、IFGとIGTの両方に当てはまる群です。
ポイントは2つあります。
ひとつめ。境界型には2つのタイプがあります。空腹時の血糖が高いIFG(空腹時血糖異常)と、食後の戻りが悪いIGT(耐糖能異常)です。健診でわかるのは通常IFGだけで、IGTはブドウ糖負荷試験をしないと見つかりません。そしてガイドラインによれば、糖尿病型へ悪化するリスクは「IFG/IGT群のリスクが最も高く,次いでIGT,IFG」の順です。つまり健診だけでは、いちばん危ない層を取りこぼすことがあります。
ふたつめ。空腹時100〜109 mg/dLは「正常域」ですが、区別されています。ガイドラインはその理由をこう書いています。
「空腹時血糖値100〜109 mg/dL の群でも糖尿病型への悪化リスク上昇が認められ,この群でOGTT を行うと耐糖能異常を認める率が高いため,正常域のなかでも,正常高値として区別されている」
日本人の大規模コホートでも、空腹時血糖値100 mg/dL程度からリスクが上昇し始めることが示されています。久山町研究では、平均11.8年の追跡で新規発症を予測するカットオフ値は101 mg/dLで、BMIの区分は関連しなかったと報告されています。痩せていても、この数字は意味を持ちます。
3. 予備軍は減り、糖尿病は増えています
人数の話に移ります。厚生労働省の「令和6年 国民健康・栄養調査」(2025年12月公表)が、最新の推計です。
よく引かれる「1,000万人と1,000万人」は、平成28年の数字です。
| 推計人数 | 割合(20歳以上) | |
|---|---|---|
| 糖尿病が強く疑われる者 | 約1,100万人(平成9年以降ずっと増加) | 12.9%(男性17.7%・女性9.3%) |
| 糖尿病の可能性を否定できない者 | 約700万人(平成19年の1,320万人から減少) | 8.2%(男女とも8.2%) |
「予備軍が減った」のは、よい知らせにも見えます。ただし合計は2,000万人から1,800万人へ減ったのに対し、糖尿病そのものは1,000万人から1,100万人へ増えています。予備軍だった人の一部が、糖尿病の側へ移っていった——そう読むこともできます。
もうひとつ、見逃せない数字があります。糖尿病を指摘されたことがある人のうち、現在治療を受けているのは67.4%(男性73.1%・女性60.5%)。そして——
「年齢階級別にみると,30〜40 歳代では治療を受けていない者の割合が他の年代よりも高い」
実際の数字を見ると、指摘されたことがある人のうち治療を受けている割合は、40代男性で33.7%、40代女性で20.6%。働き盛りほど、指摘されても動いていないという構図です。国の目標(健康日本21・第三次)は治療継続者75%ですから、まだ距離があります。
4.【核心】2つがそろうと、約30倍
ここが、この記事でいちばん知っていただきたい部分です。
ガイドラインの21章は、まず「誰が高リスクか」から始まります。そして、こう書かれています。
「血糖値とHbA1c は2 型糖尿病の発症予測において最も優れた因子である.血糖値やHbA1c はともに発症の10 年前から非発症者よりも高値を示すようになり,空腹時血糖値が100〜125 mg/dL とHbA1c 5.7〜6.4%の両方を満たす群では両方とも正常な群と比べ,発症リスクが約30 倍にも上昇するとの報告がある」
3つのことが書かれています。順に見ていきます。
① 予測に最も優れているのは、血糖値とHbA1c。体重でも腹囲でもなく、すでに健診で測っている2つです。
② 10年前から上がり始める。だから「急に糖尿病になった」ということは、実はほとんどありません。10年かけて上がってきた結果を、ある年の健診で見ているだけです。そして逆に言えば、10年という猶予があるということでもあります。
③ 両方そろうと約30倍。ここが重要です。空腹時血糖だけ、HbA1cだけ、ではありません。2つが同時に引っかかっているかどうかを見てください。日本人の報告でも、片方のみを満たした場合より両方を満たした場合に将来の糖尿病発症率が高かったとされています。
健診結果を出して、この2つを並べてみてください。
健診結果で、まず確かめる2つ
空腹時血糖値 100〜125 mg/dL に入っていませんか
HbA1c 5.7〜6.4% に入っていませんか
両方に当てはまる場合、それは「少し高い」ではなく、受診して相談する段階です。
そして、もうひとつ。ガイドラインの1章には、こう書かれています。
「動脈硬化性合併症のリスクはより血糖値の低い境界型の時点から増加することが知られており,境界型への介入も重要である」
糖尿病の合併症というと、目・腎臓・神経が知られています。これらは血糖が高い状態が続いてから起こります。ところが血管(心筋梗塞や脳梗塞)のほうは、糖尿病と診断される前から進み始める——そう書かれているわけです。「まだ糖尿病じゃないから」という理由で待つことに、医学的な根拠はありません。
ほかに高リスクとされるものも挙げておきます。肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病の家族歴、血圧や脂質の異常、座位行動時間、肝酵素の上昇、脂肪肝、尿酸高値。そして——
妊娠糖尿病の既往がある方へ。ガイドラインによれば、既往のない女性と比べた相対リスクは9.51。産後の年数別では、3年未満で5.37、3〜6年で16.55、6〜10年で8.20、15年以上でも7.88と、長期にわたって高いままです。
そのためガイドラインは、「妊娠糖尿病の既往者は,生涯にわたり少なくとも3 年毎に血糖検査を受けることが推奨されている」としています。出産のときに言われたきりになっていませんか。
5. 体重の目標は「2kg」でした
ここから対策に入ります。最初は体重です。
ダイエットの話になると、たいてい数字が大きくなります。ところがガイドラインの記述は、拍子抜けするほど控えめです。
「減量効果をみると,アメリカでは2 型糖尿病の予防のために7%の減量が目標とされているが,日本人の研究では生活習慣の改善とともに2 kg 減量することができれば,発症抑制に大きな効果がある」
実際、日本で行われた3つの介入試験では、繰り返し面接を行って生活習慣に介入した結果、介入群は平均2kg前後の減量に成功し、糖尿病への進行が有意に抑制されました。相対リスクは、小坂らの研究で0.33、川原らで0.73、斎藤らで0.56です。
70kgの人なら、68kg。1年かけてでかまいません。「10kg痩せないと意味がない」という思い込みのほうが、行動を止めてしまいます。
体重に関して、ガイドラインが挙げている事実をいくつか。
- BMIと発症リスクには強固な正の関係があり、アジア人は欧米人よりカットオフ値が大幅に低い(米国はアジア系に対しBMI 23以上でスクリーニングを推奨)
- 現在のBMIだけでなく、20歳時から生涯最大までのBMIの変化量が発症リスクと強く関連する(日本の研究)
- ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比、腹囲身長比の増加、サルコペニア肥満も危険因子
- 小児期から成人早期の過体重がリスクを上げ、特に17〜26歳ごろの過体重との関連が強い。ただし7歳時の過体重は、13歳時に過体重でなければリスク増加と関連しない
「20歳のときから何kg増えたか」。これが、いまのBMIと同じくらい意味を持つ数字です。
6. 食事——白米の量、玄米、そして飲みもの
Q21-4は、栄養素から個別の食品まで、かなり細かく書かれています。実行できる形に整理します。
| リスクを下げると書かれているもの | リスクを上げると書かれているもの |
|---|---|
| 全粒穀物(未精製穀類)・玄米 | 白米(1日450g以上。150g未満と比べて) |
| 食物繊維・食事性マグネシウム | じゃがいも(特にフライドポテト) |
| 大豆・大豆イソフラボン | 豚肉・牛肉・加工肉、肉に関連する鉄 |
| 乳製品(特にヨーグルト)・カルシウム | 超加工食品(スナック菓子やインスタント食品) |
| 果物・野菜・ポリフェノール類 | 高温での肉の調理(グリル焼きなど) |
| ナッツ・オリーブ油・魚介類由来のn-3系脂肪酸 | 動物由来の脂肪 |
| 亜鉛・マンガン | 鉄・銅 |
三大栄養素については、意外な記述があります。炭水化物の割合と発症リスクにはJカーブがあり、総エネルギーの45〜65%で最もリスクが低く、70%以上で増加します。減らしすぎも、この曲線の外へ出ます。
たんぱく質は少し複雑です。総たんぱくと動物性たんぱくは、摂取エネルギーの5%増加ごとに発症リスクがそれぞれ9%・12%増加。一方で植物性たんぱくはU字で、総エネルギーの6%程度で最も低くなります。「動物性タンパク質を植物性タンパク質に置き換えると炎症反応を軽減し発症リスクも減る」とも書かれています。
脂質は「量よりも質が重要」。動物由来の脂肪はリスクを上げ、植物由来の脂肪は下げるとされています。
食べ方も、書かれています
Q21-4の後半には、食品ではなく食べ方についての記述があります。
「食習慣では,早食いは2 型糖尿病の発症リスクを上昇させる.朝食を摂らない食生活も発症リスクを高め,1 日の食事回数が増えるほどリスクを低下させる.朝食を午前8 時までにとる場合と比べ,午前9 時以降にとると発症リスクは上昇する.長期の飢餓を経験すると発症リスクは増加することが明らかとなり,近年流行する断続的断食に警鐘を鳴らす」
短い一段落ですが、世間で人気のある方法にいくつも触れています。断続的断食(いわゆるファスティング)に警鐘、朝食抜きはリスク増、そして朝食の時刻まで関係する。「食べない」方向の工夫は、この分野では推されていません。
飲みものの話
ここは数字がはっきりしています。
| 飲みもの | 相対リスク |
|---|---|
| 甘い糖類を加えたジュース | 1.28(肥満と独立して上昇) |
| 人工甘味料入りの飲料 | 1.29(肥満と独立して上昇) |
| 果物ジュース | 1.10(ただし甘味糖類を加えたものでのみ有意) |
| コーヒー・ココア・茶・水 | いずれもリスクを下げる方向 |
ゼロカロリーのほうが、砂糖入りよりわずかに高い——この結果は多くの方にとって意外だと思います。ガイドラインは、サッカリン・スクラロース・アスパルテームが腸内細菌叢を乱すことでリスクを増やす可能性を指摘しています。そして甘い糖類と人工甘味料のどちらを加えたジュースについても、2型糖尿病だけでなく心血管病・癌・総死亡のリスクを上げるとしたうえで、「習慣的な摂取は控えるべきである」と結んでいます。
果物については、はっきり分かれます。「果物をそのまま食べると2 型糖尿病の発症リスクは減るが,ジュースで飲むとリスクが反対に増加する」。同じ果物でも、形が変わると逆になります。
コーヒーは摂取量が増えるほどリスクが下がる(負の量反応関係)とされ、日本人での研究でも確認されています。そして「この関連はカフェイン含有の有無には無関係」。カフェインレスでも同じ、ということです。緑茶の摂取とリスク低下も、日本の研究で示されています。
お酒については、慎重な書き方です。「適量なら体にいい」というJ字型の関係は、アジア人では議論があり、ガイドラインは「リスク軽減のための飲酒は推奨されない」としています。日本では痩せ型男性(BMI 22以下)の中等量以上の飲酒や、1回あたりの量が多い飲酒がリスクを上げると報告されています。
7. 運動——座っている時間は、運動で打ち消せません
運動の章には、行動を変える力のある一文があります。
「座位行動時間と2 型糖尿病発症には線形の関連があり,座位が1 時間増加毎に5%,テレビの視聴が1 時間増加毎に8%,それぞれリスクが増加する.これらの関連は身体活動量と独立しており,余暇時の運動では打ち消すことができない強固な関連がある」
週末にジムへ行っている、だから平日は座りっぱなしでいい——それは成り立たない、ということです。座位行動は「座位,半臥位および臥位におけるエネルギー消費量が1.5メッツ以下のすべての覚醒行動」と定義されています。デスクワークも、通勤電車も、ソファも含まれます。
ではどうするか。ガイドラインが挙げているのは、こういうことです。
| 書かれていること | 実行の形 |
|---|---|
| 1日の歩数が増えるにつれリスクは低下し、速歩の割合が多いとリスク減少はさらに大きい | 歩数を増やす。そのうち何分かを速歩に |
| 低強度から高強度のあらゆる運動が有効で、ストレッチのような低強度運動もリスク減少に寄与 | 「運動らしい運動」でなくてよい |
| 有酸素運動のみならず筋力トレーニングも関連し、両者を組み合わせるとリスクを大幅に減少 | 歩く+筋トレの組み合わせが最も強い |
| 勤務中の活動量増加も低下と関連。徒歩や自転車で通勤する者は発症リスクが低い | 通勤を運動の時間に変える |
| 余暇時の運動は量に応じて低下し、過度な運動によるリスク上昇はみられない | やりすぎの心配は不要(ただし筋トレは別途、総死亡などで適量あり) |
もうひとつ、興味深い記述があります。握力は多くの研究で発症リスクと負の関連が示されている一方、CTやDEXAで測った筋肉「量」は発症リスクとの関連が認められていない。ガイドラインは「筋肉は量のみならず質も考慮する必要性を示唆する」と書いています。「何kgの筋肉がついたか」より「どれだけ使えるか」ということです。
8. 眠り、たばこ、そしてストレス
21章は、生活のほかの側面もカバーしています。
睡眠は7時間が底
睡眠時間と発症リスクにはU字型の関係があり、7〜8時間でリスクが最も低くなります。7時間を基準として1時間減るごとに相対リスク1.09、1時間増えるごとに1.14。日本人労働者の研究でも7.0〜7.5時間の群で最も低く、6.5時間未満で上昇しました。
ほかに挙げられているのは、昼寝が1日1時間以上になると相対リスク1.31、睡眠時無呼吸症候群があると相対リスク2.15、そして就寝時間が20〜23時の群と比べ、午前1〜6時の群でリスクが高いこと。いびきもリスク増加と関連するとされています。
ガイドラインは最後にこう添えています。「日本人の睡眠時間は,OECD 加盟国のなかで最下位で,世界で最も短いと推測される」。眠ることは、この国では対策になり得ます。詳しくは睡眠の真実と睡眠時無呼吸で扱いました。
たばこ——禁煙直後は、いったん上がります
喫煙は2型糖尿病の独立した危険因子で、相対リスクは1.37(日本人の研究では1.38)。量との関係もはっきりしています。
| 1日の喫煙本数 | 非喫煙者と比べたリスク増加 |
|---|---|
| 10本未満 | 21% |
| 10〜19本 | 34% |
| 20本以上 | 57% |
受動喫煙も相対リスク1.22で、リスクを高めます。
禁煙については、知っておいたほうがよい経過があります。喫煙を続けた場合のリスク増加は37%ですが、禁煙成功後5年以内は54%と一時的にむしろ高くなり、禁煙後10年以降には11%の増加まで下がります。
つまり禁煙してしばらくは数値が動かない、あるいは悪くなることがある。ここで「禁煙は無意味だった」と判断しないでください。長期的には、続けた場合よりはっきり低くなります。
ストレスと、環境
うつ傾向のある人は発症リスクが高く(相対リスク1.38)、逆に2型糖尿病の人はうつ病の発症リスクが高い(相対リスク1.25)。ガイドラインは「うつ病と2型糖尿病との間には双方向の因果関係がある」としています。
労働環境についての記述は、少し考えさせられます。長時間労働と発症リスクの関係は全対象者では見られず、社会経済的に地位が低い群でのみリスクが上昇していました。職場でのいじめや暴力、雇用不安はリスクを上げ、一方で「同僚や上司からの支持・支援はリスクを低下させる」と書かれています。
さらに、個人ではどうにもならない要素も挙げられています。PM2.5の増加、過度な交通騒音、環境ホルモンへの曝露。そして「住居を貧困率の高い地域から低い地域へ転居すると,発症リスクが減少するとの報告がある」。
この病気は、意志の問題だけではない——ガイドラインは、そう示しています。
9. 生活習慣39%、薬36%。違いは「やめたあと」
21章には、CQ(クリニカルクエスチョン)がひとつだけあります。それがCQ21-9です。
CQ21-9:生活習慣介入によって2型糖尿病の発症は抑止できるか?
「食事や運動習慣の是正を中心とした生活習慣介入は,2 型糖尿病の発症を減少させ,その効果は介入終了後も持続するため生活習慣の改善が推奨される」
【推奨グレードA】(合意率100%)
推奨グレードAで、合意率100%。投票20名、賛成20名、反対0名です。これは日本、中国、インド、アメリカ、フィンランドと、人種を問わず示されてきた結果にもとづいています。
そして、この記事の締めくくりになる比較がここにあります。
薬をやめると、効果も一緒に終わります。
| 発症リスクの減少 | やめたあと | |
|---|---|---|
| 生活習慣への介入 | 39%減 | 介入終了後も平均7.2年にわたり28%減 |
| 薬による介入 | 36%減 | 「内服終了後の効果持続は認められていない」 |
効果の大きさは、ほとんど変わりません。違うのは、終わったあとに何が残るかです。生活習慣介入の効果持続は、インドの研究で3年、フィンランドで7年、アメリカで12年、中国のDa-Qing研究では24年にわたって確認されています。
薬について補足しておきます。日本ではボグリボース0.2mg錠が耐糖能異常(IGT)に保険適用となっています(相対リスク0.60)。海外ではメトホルミンが予防に推奨されており、厳格な食事運動療法と同等の効果(相対リスク0.50)が報告されていますが、日本では予防目的の適応はありません。ピオグリタゾンは効果が大きい(0.40)一方で体重増加と浮腫を伴い、GLP-1受容体作動薬のリラグルチドは0.21と大幅な減少を示したものの中止・脱落が約50%あり「研究の質はよくない」と評価されています。
ほかの薬との関係も書かれています。サイアザイド系利尿薬は発症リスクを上げ(1.40)、ARB(0.77)やACE阻害薬(0.82)は下げます。スタチンは発症リスクを上げます(1.09)が、ガイドラインは「同薬による不利益は心血管イベントの抑制効果を上回るほどではない」としています。コレステロールの薬を自己判断でやめる理由にはなりません(→コレステロールとFH)。
10. 🚨 健診結果の、どこを見るか
最後に、実際に何をすればよいかをまとめます。
ガイドラインは、どういう人が経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を受けるべきかを具体的に示しています。これがそのまま「受診して相談する目安」になります。
| 強く推奨される場合 | 行うことが望ましい場合 |
|---|---|
| 空腹時血糖値 110〜125 mg/dL | 空腹時血糖値 100〜109 mg/dL |
| 随時血糖値 140〜199 mg/dL | HbA1c 5.6〜5.9% |
| HbA1c 6.0〜6.4% | 濃厚な糖尿病の家族歴や肥満がある |
健診で測っているのは通常、空腹時血糖とHbA1cだけです。この表に当てはまるなら、ブドウ糖負荷試験の対象になり得ます。「健診では要経過観察止まりだった」という方も、この基準に当てはまれば、内科で相談する意味があります。
受診をおすすめする目安
① 空腹時血糖100〜125とHbA1c 5.7〜6.4%の両方に当てはまる(約30倍の報告)
② 上の表の「強く推奨される場合」に当てはまる
③ 妊娠糖尿病の既往がある(生涯にわたり3年ごとの血糖検査が推奨されています)
④ 親やきょうだいに糖尿病がいる(家族歴は独立した危険因子です)
⑤ 健診で肝酵素の上昇・脂肪肝・尿酸高値を指摘された
⑥ 糖尿病を指摘されたのに、治療を受けていない
健診の数値全体の読み方は健診結果の読み方に、HbA1cという数値そのものの意味は糖化とHbA1cにまとめています。腎臓の数値についてはeGFRと尿蛋白をご覧ください。
この記事のまとめ
① 最新は糖尿病 約1,100万人/予備軍 約700万人。「1,000万人ずつ」は平成28年の数字です
② 血糖値とHbA1cは発症の10年前から上がり始めます
③ 空腹時100〜125とHbA1c 5.7〜6.4%の両方で約30倍。片方ずつ見ないでください
④ 動脈硬化の危険は、境界型の時点から増えています
⑤ 減量目標は日本人では2kg。10kgではありません
⑥ 座っている時間は、運動では打ち消せません
⑦ 生活習慣39%・薬36%。やめたあとに残るのは、生活習慣のほうだけです
11. よくある質問
健診で「要経過観察」と言われました。何もしなくていいですか?
いいえ、いちばん動く価値がある時期です。ガイドラインによれば、血糖値とHbA1cは発症の10年前から非発症者よりも高い値を示すようになります。そして空腹時血糖値100〜125 mg/dLとHbA1c 5.7〜6.4%の両方を満たす群では、両方とも正常な群と比べて発症リスクが約30倍という報告があります。さらに重要なのは、動脈硬化性合併症のリスクは、より血糖値の低い境界型の時点から増加すると書かれていることです。「糖尿病になってから対策する」では、血管の方が先に進みます。なおガイドラインは、空腹時血糖値110〜125 mg/dLの人、HbA1c 6.0〜6.4%の人には経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を強く推奨し、空腹時100〜109 mg/dL、HbA1c 5.6〜5.9%の人にも「行うことが望ましい」としています。受診の際に相談してみてください。
何キロ痩せればいいですか?
日本人の研究では2kgです。アメリカでは7%の減量が目標とされていますが、ガイドラインは「日本人の研究では生活習慣の改善とともに2 kg減量することができれば,発症抑制に大きな効果がある」と書いています。実際、日本で行われた3つの試験では、介入群は平均2kg前後の減量に成功し、糖尿病への進行が有意に抑えられました(相対リスクは小坂らの研究で0.33、川原らで0.73、斎藤らで0.56)。70kgの人なら68kg。半年から1年かけてで十分です。「10kg痩せないと意味がない」という思い込みが、いちばんの障害かもしれません。なお体重そのものだけでなく、20歳時から生涯最大までのBMIの変化量も発症リスクと強く関連すると報告されています。
運動していれば、座っている時間は気にしなくていいですか?
残念ながら、そうではありません。ガイドラインははっきり書いています。座位行動時間と発症には線形の関連があり、座位が1時間増加毎に5%、テレビの視聴が1時間増加毎に8%、それぞれリスクが増加します。そして——「これらの関連は身体活動量と独立しており,余暇時の運動では打ち消すことができない強固な関連がある」。つまり週末に運動しても、平日8時間座り続けている分は帳消しにできないということです。一方で朗報もあります。「低強度から高強度のあらゆる運動が2型糖尿病の予防に有効で,ストレッチのような低強度運動もリスク減少に寄与する」「有酸素運動のみならず筋力トレーニングも発症リスク低下と関連し,両者を組み合わせた運動はリスクを大幅に減少させる」。1時間に1回立つことから始めてください。
白米を食べてはいけませんか?
量の問題です。ガイドラインは「白米量1日150 g未満と比べ,450 g以上の摂取は発症リスクを増加させる」としています。450gはご飯約3杯分です。一方で、全粒穀物(未精製穀類)、玄米、それらに含まれる食物繊維やマグネシウムの摂取はリスクを下げると書かれています。炭水化物そのものについてはJカーブで、総エネルギーの45〜65%で最もリスクが低く、70%以上で増加します。減らしすぎもよくありません。ほかに挙げられているのは、早食いはリスク上昇、朝食を抜くとリスク上昇、朝食を午前8時までにとる場合と比べ午前9時以降にとるとリスク上昇、そして「長期の飢餓を経験すると発症リスクは増加することが明らかとなり,近年流行する断続的断食に警鐘を鳴らす」という一文です。
ゼロカロリーの飲み物なら大丈夫ですか?
ガイドラインの評価は、期待とは逆です。甘い糖類を加えたジュースは肥満と独立して発症リスクを上げますが(相対リスク1.28)、人工甘味料も「カロリーが極めて低いにもかかわらず,甘味糖類のジュースと同様に肥満と独立してリスクを増加させる」(相対リスク1.29)とされています。サッカリン、スクラロース、アスパルテームが腸内細菌叢を乱すことでリスクを増やす可能性も指摘されています。ガイドラインは、甘い糖類と人工甘味料のどちらを加えたジュースについても、2型糖尿病だけでなく心血管病・癌・総死亡のリスクを上げるとしたうえで、「習慣的な摂取は控えるべきである」と結んでいます。逆に勧められているのはコーヒー、ココア製品、茶類、そして水です。コーヒーはカフェインの有無に関係なくリスクを下げると報告されています。
参考にした主な資料
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024 第21章 2型糖尿病の発症予防」(発症リスクの評価、肥満と体重変化、身体活動、栄養素と食品、飲料、喫煙、睡眠、心理社会的要因、CQ21-9 生活習慣介入、Q21-10 薬物)
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024 第1章 糖尿病診断の指針」(診断のフローチャート、正常型・正常高値・境界型・糖尿病型の判定区分、経口ブドウ糖負荷試験の適応)
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024(章別ダウンロード)」
- 厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要」2025年12月公表(第2章 糖尿病に関する状況:推計人数の年次推移、割合、治療の状況)