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MEDICALLY REVIEWED BEAUTY & HEALTH
体型と代謝

腰痛
——男女とも訴えの1位。「安静」は、もう第一選択ではありません

2025年の国民生活基礎調査で、男女とも訴えのいちばん多い症状は「腰痛」でした。それだけ多いのに、対処の仕方は驚くほど知られていません。
日本整形外科学会と日本腰痛学会の「腰痛診療ガイドライン2019」は、103ページ全文が無料で読めます。開いてみると、常識だと思っていたことがいくつも覆ります。
急性腰痛では、安静より動いているほうが有用。神経症状がなければ、初診でレントゲンを撮る必要は必ずしもない。コルセットに予防効果はない。そして唯一「強く推奨する」がついた治療は、運動療法でした。
一方で、ガイドライン自身がこうも書いています。「腰痛診療は,いまだ「発展途上」といっても過言ではない.」分かっていることと、分かっていないこと。その線引きから整理します。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年9月28日 読了:約19分

1. 先に結論

ガイドラインから読み取れることを、先にまとめます。

よく聞く話ガイドラインが書いていること
腰が痛いときは安静に「急性腰痛に対しては,安静よりも活動性維持のほうが有用である.」
まずレントゲンを撮ってもらう「神経症状を伴わない非特異的腰痛患者に対する初診時の撮影は必ずしも行う必要はない.」
コルセットで腰痛を予防する「コルセットには,腰痛に対する直接的な予防効果はない.」
強い痛み止めほど効く慢性腰痛では強オピオイドが推奨度3(行わないことを弱く推奨する)
胃にやさしい薬が安心アセトアミノフェンは急性でも慢性でもエビデンスの強さD
整体や鍼で治す「本邦での代替療法のエビデンスは確立されていない.」推奨度はつけられていません
運動は痛みが引いてから治療でも予防でも、唯一の推奨度1は運動療法です

この記事でいちばんお伝えしたいこと。

腰痛は「何を買うか」より「どう動くか」の問題だというのが、このガイドラインの全体像です。そしてもうひとつ——4章の危険信号だけは、覚えて帰ってください。ほとんどの腰痛は心配のないものですが、そこに混じっている数%を見分けるための目印です。

2.【核心】男女とも、訴えの1位は腰痛でした

厚生労働省が3年ごとに行っている国民生活基礎調査の、2025年(令和7年)の結果です。

「症状別にみると、男女とも「腰痛」での有訴者率が最も高く、次いで男では「頻尿(尿の出る回数が多い)」、「肩こり」、女では「肩こり」、「手足の関節が痛む」となっている」

数字にすると、人口千人あたり女性100.8人、男性85.9人。女性では肩こり(89.2)を、男性では頻尿(50.1)を上回って、どちらも1位です。

順位女性男性
1位腰痛 100.8腰痛 85.9
2位肩こり 89.2頻尿 50.1
3位手足の関節が痛む 64.2肩こり 48.3

ガイドラインも、この状況をふまえて作られました。冒頭にはこう書かれています。「腰痛は,運動器疾患のなかでも,診療の道標となるガイドラインが最も必要とされる分野のひとつである.」

そして、率直な一文が続きます。「運動器疾患・外傷の治療を専門としている整形外科医でも腰痛の病態特定が困難な場合もあり,診断や治療は担当医の経験論に基づくことも多い.腰痛診療は,いまだ「発展途上」といっても過言ではない.」

専門家でも原因が特定できないことがある。これを最初に知っておくと、このあとの話が読みやすくなります。

3. 腰痛は「症状」であって、病名ではありません

ガイドラインの一文目は、これです。「腰痛は単一の疾患単位ではなく,「症状」である.その背景には多くの病態や疾患が存在する.」

「腰痛症」という診断名を聞いたことがあるかもしれませんが、それは原因が特定できていないという意味に近いものです。ガイドラインは腰痛を3つの軸で定義しています。

部位「体幹後面に存在し,第12肋骨と殿溝下端の間にある,少なくとも1日以上継続する痛み.」足に放散する痛みを伴うこともあります
有症期間急性(4週間未満)/亜急性(4週間以上3か月未満)/慢性(3か月以上)
原因脊椎由来・神経由来・内臓由来・血管由来・心因性・その他

この有症期間による3分類が、この記事でずっと効いてきます。同じ「腰痛」でも、4週間未満か3か月以上かで、推奨される治療が変わるからです。

原因の分類で注意したいのが内臓由来と血管由来です。ガイドラインは血管由来の例として腹部大動脈瘤、解離性大動脈瘤を挙げています。背中や腰の痛みとして出てくる、命にかかわる病気があるということです。次の章につながります。

そして、原因がはっきりしない腰痛については、こう書かれています。「非特異的腰痛は未確立の疾患群を詰め込んだ症候群であり,いまだ検討の余地が残る.」。「原因不明」ではなく「まだ分類できていない」——そういう扱いです。

4. 🚨 まず確かめること——危険信号

ここが、この記事でいちばん持ち帰っていただきたい部分です。

ガイドラインは、初診でまずすべきことをこう書いています。「腰痛患者の初診で最初に必要な診察手順は,注意深い問診と診察である.診断に際しては重篤な脊椎疾患を見逃さないように,危険信号(red flags:RFs)を念頭に置いた問診・診察を行い,複数のRFs がある場合は特に注意を払う.」

その危険信号が、これです。

これがあるときは、ただの腰痛と考えません 重篤な脊椎疾患(腫瘍,感染,骨折など)の合併を疑うべき危険信号(red flags) ・発症年齢が20歳未満、または55歳を超えている ・時間や活動性に関係のない腰痛(動かなくても、夜間でも痛い) ・胸部の痛みをともなう ・がん、ステロイド治療、HIV感染の既往がある ・栄養不良 ・体重が減っている ・広い範囲におよぶ神経症状(しびれ、力が入らない) ・背骨の形が変わっている/発熱がある ガイドラインは「複数のRFs がある場合は特に注意を払う」としています。

「腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)」表1をもとに、日常の言葉に置きかえて作成

いくつか補足します。

① 年齢。20歳未満と55歳超が挙がっています。若すぎても、高齢でも、注意が必要という意味です。

② 動かなくても痛い。ふつうの腰痛は、姿勢や動作で痛みが変わります。時間や活動性に関係なく痛む——たとえば横になっても、夜中でも同じように痛むときは、別の原因を考えます。

③ 体重が減っている、熱がある。腰痛と結びつけにくい症状ですが、腫瘍や感染のサインとして並んでいます。

④ がん、ステロイド治療、HIV感染の既往。とくにがんの既往は重要です。骨に転移した病変が腰痛として出ることがあります。また長期のステロイド治療は骨をもろくします。

ガイドラインは、この危険信号をもとに腰痛を3つに振り分ける(トリアージする)としています。「腫瘍,感染,骨折などの重篤な腰痛疾患,神経症状を伴う腰痛,神経症状を伴わない腰痛に分類しトリアージする.」

なお、背骨の骨折は痛みが出ないことも多いことが知られています。骨粗鬆症については骨粗鬆症の記事で、背骨が折れても3分の2は痛くないという数字を扱いました。痛みの強さと、体の中で起きていることは、必ずしも比例しません。

5.【意外】画像は、急いで撮らなくていい

「腰が痛いから、まずレントゲン」と思っている方は多いと思います。ガイドラインの記述は、こうです。

「腰痛患者に対するX線撮影は,腰痛の原因の初期診断に意義がある.しかし,神経症状を伴わない非特異的腰痛患者に対する初診時の撮影は必ずしも行う必要はない.」

撮らないほうがいい、ではありません。「必ずしも行う必要はない」です。しびれや脱力といった神経症状がなく、危険信号もないなら、初診で急いで撮る必然性は高くない、ということです。

一方で、撮るべき場面もはっきり書かれています。「危険信号(red flags)や神経症状を呈する患者では,X線撮影に引き続いて,MRI撮像が推奨される.」。危険信号があるなら、X線で止めずにMRIまで進む、という流れです。

興味深いデータもあります。65歳以上の高齢者を対象にした観察研究で、発症後6週未満で撮影した群(1,174例)と6週以降に撮影した群(349例)を比べたところ、早期に単純X線やMRIを撮影しても1年後の成績改善とは必ずしも相関しなかったと報告されています。

早く撮っても、1年後の結果は変わらなかった。——ここが、画像を急がない根拠のひとつです。

ですから、レントゲンを撮ってもらえなかったことは、必ずしも手抜きではありません。むしろ気にしていただきたいのは、危険信号について聞かれたかどうかです。

6. 急性腰痛は、6週間で半分以下になります

見通しの話をします。ガイドラインの要約は、こうです。

「急性腰痛患者の自然経過は,自然軽快を示すことが多く,概ね良好である.」
「慢性腰痛患者の自然経過は,急性腰痛に比べて不良である.」
「心理社会的要因は,腰痛を遷延化させる.」
「身体的・精神的に健康な生活習慣は,腰痛の予後によい.」

数字も引かれています。33編のコホート研究・計11,166例をまとめたシステマティックレビューで、急性腰痛の痛みのスコア(最大100)は、平均52から最初の6週間で23まで下がり、26週後には12、52週後には6と、ゆるやかに改善が続きました。

6週間で、半分以下。これは、痛みの最中にいる方にとって大きな情報だと思います。

一方、慢性腰痛では平均51が6週間で33まで下がったものの、その後の改善はゆるやかでした。急性のうちに手を打つ意味が、ここにあります。

そして注目したいのが3つ目です。「心理社会的要因は,腰痛を遷延化させる.」。この点は13章で扱います。

7.【核心】「安静」は、もう第一選択ではありません

ぎっくり腰といえば、暗い部屋で寝ている——そんなイメージがあるかもしれません。ガイドラインの推奨文は、こうです。

「急性腰痛に対しては,安静よりも活動性維持のほうが有用である.一方,坐骨神経痛を伴う腰痛では,安静と活動性維持に明らかな差はない.」

推奨度2(行うことを弱く推奨する)、合意率88.9%、エビデンスの強さC

作成グループの説明はこうです。「急性腰痛では,安静より活動性維持のほうが,疼痛軽減と身体機能回復の観点で優っている.また,病欠の期間も,活動性維持のほうが短い.」

3つ、良くなっています。痛みの引き方、体の動きの戻り方、そして仕事を休む期間。

誤解しないでいただきたいのは、痛みを我慢して動けという話ではないことです。推奨度は2(弱く推奨)で、エビデンスの強さもCです。痛みに応じて、できる範囲で普段の生活を続ける——それが「活動性維持」の意味です。

そして後半に例外があります。坐骨神経痛を伴う腰痛——おしりから足にかけてしびれや痛みが走るタイプでは、安静と活動性維持に明らかな差はない、とされています。自分がどちらのタイプかで、話が変わります。

8. 唯一の推奨度1——運動療法

このガイドラインで、治療として推奨度1(行うことを強く推奨する)がついているのは、ひとつだけです。

「慢性腰痛に対する運動療法は有用である.」

推奨度1(行うことを強く推奨する)、合意率90.9%、エビデンスの強さB

ただし、正直な注釈がついています。「急性腰痛および亜急性腰痛に対してはエビデンスが不明である.」——推奨度は「なし」です。強く推奨されているのは、3か月以上続く慢性腰痛に対してだということです。

予防についても、運動療法が最も強く推奨されています。「腰痛予防に運動療法は有用である.」(推奨度1、合意率77.8%、エビデンスの強さB)。

予防の項には、ほかにも項目が並びます。

腰痛予防に推奨度合意率
運動療法177.8%
認知行動療法262.5%
運動と職場環境の改善(持ち上げ器具の使用や作業場の高さ調整など)250%
コルセット「腰痛に対する直接的な予防効果はない.」

どんな運動がよいのか、という問いへの答えは、このガイドラインにはありません。種目を限定していないからです。だからこそ、続けられるものを選ぶことが現実的です。膝に不安のある方は変形性膝関節症の記事を、筋肉量が気になる方は40代からの「痩せにくい」の正体もあわせてご覧ください。

生活習慣についても記述があります。「体重に関しては,標準(BMI 18.5〜25.0)より低体重あるいは肥満のいずれでも腰痛発症のリスクと弱い関連が認められ」——痩せすぎも、リスクの側にあります。そして「日常的な運動実施群に比べ,普段運動していない群に腰痛発症リスクは増大する.」とも書かれています。

9. 薬を、推奨度とエビデンスで並べる

薬物療法全体としては「薬物療法は疼痛軽減や機能改善に有用である.」推奨度1・エビデンスの強さBです。ただし薬の種類ごとに評価はかなり違います。

薬は、種類ごとに評価が違います 左が推奨度(1が最も強い)、右がエビデンスの強さ(Aが最も強い) 推奨度 エビデンス 急性腰痛(4週間未満) 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) 1 A 筋弛緩薬 2 C アセトアミノフェン 2 D 弱オピオイド 2 C 慢性腰痛(3か月以上) セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 2 A 弱オピオイド 2 A 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) 2 B アセトアミノフェン 2 D 強オピオイド 3 D 推奨度3は「行わないことを弱く推奨する」という意味です。 推奨薬として採択されたもののみ。三環系抗うつ薬は推奨薬に入りましたが推奨度は「なし」とされました。

「腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)」Clinical Question 2 の推奨表をもとに作成

読みどころを3つ挙げます。

① 急性腰痛のNSAIDsだけが、推奨度1・エビデンスA。市販薬ではロキソプロフェンやイブプロフェンがこれにあたります。このガイドラインの薬剤で、最も高い評価です。

② アセトアミノフェンは、エビデンスの強さD。急性でも慢性でもDでした。胃にやさしい薬として広く使われていますが、腰痛に関しては根拠が弱いという評価です。これは意外に思われるかもしれません。

③ 強オピオイドは、推奨度3。「行わないことを弱く推奨する」です。しかもガイドラインは推奨薬の一覧に載せたうえで、わざわざ「(過量使用や依存性の問題があり,その使用には厳重な注意を要する)」と書き添えています。

坐骨神経痛についても別建てで示されていて、NSAIDsが推奨度1・エビデンスB、Caチャネルα2δリガンド(プレガバリンなど)が推奨度2・エビデンスD、SNRIが推奨度2・エビデンスCでした。

副作用について、ガイドラインは控えめには書いていません。「短期間の調査が多く,患者の自覚症状のみの評価であるため腎機能障害や胃腸障害などの有害事象が実際よりも低く見積もられている可能性に留意する必要がある.」

もうひとつ、誠実だと思った記述があります。NSAIDsの評価に使った論文について「4編中3編に企業のCOIを認めた」と明記していることです。COIとは利益相反、つまり製薬企業との関係です。根拠となった論文が誰の資金で行われたかまで書いてある——こういう資料は信頼できます。

10. 物理・装具療法——温熱だけ合意率100%

牽引、超音波、TENS(低周波)、温熱、コルセット。整形外科や接骨院でおなじみのものが、まとめて評価されています。

全体の推奨文はこうです。「腰痛の治療に対する物理・装具療法のなかには有用なものも存在する.しかし,高品質な研究は少なく,推奨される治療法は限定的である.」

5つとも「弱く推奨」。ただし委員の一致度は違います 推奨度はすべて2(行うことを弱く推奨する)、エビデンスの強さはすべてC。下は合意率 温熱治療 100% 全員一致 牽引療法 90% 超音波療法 80% 腰椎サポート(コルセット) 80% TENS(経皮的電気神経刺激) 70% 3名が反対 CQ全体としては「明確な推奨ができない」とされ、個別に推奨度がつけられました。 TENSは3回目の投票で委員10名中7名が「弱く推奨」、3名が「行わないことを弱く推奨」を選びました。

合意率は、その推奨度に何%の委員が同意したかを示す数字です

5つとも推奨度2、エビデンスの強さCで横並びです。違いは合意率——その推奨度に何%の委員が同意したか、に出ています。

唯一の100%が温熱治療でした。ただし、内容を読むと条件があります。ガイドラインは「腰痛に対する温熱治療を推奨する高品質のエビデンスは存在しない.」と前置きしたうえで、「ラッピングによる温熱治療には,急性および亜急性の腰痛患者の短期間の疼痛および障害を軽減することを示すエビデンスが見出された」としています。

そして「慢性腰痛患者に対する温熱治療の効果に関するエビデンスはなかった.」。効くとされたのは急性・亜急性までです。害についても「害として皮膚の発赤を示した低品質の研究もあり,注意を要する.」と書かれています。

ガイドラインは温熱治療を「腰痛患者の主に急性および亜急性期に一般的に適用される安価な治療である.」とも説明しています。安価という言葉が入っているのが、この項目の性格をよく表しています。

いちばん合意率が低かったのがTENS(経皮的電気神経刺激)の70%です。議事の記録によれば、3回目の投票で委員10名のうち7名が「行うことを弱く推奨する」、3名が「行わないことを弱く推奨する」を選んでいます。3割の委員は、勧めない側に投票したということです。家庭用の低周波治療器を検討する際は、この温度差を知っておいてよいと思います。

11. コルセット——治療と予防で、話が違います

コルセットについては、2か所に別々のことが書かれています。ここを混同している方がとても多い部分です。

ガイドラインの評価
治療として
(すでに痛みがある)
腰椎サポート(コルセット)は推奨度2(行うことを弱く推奨する)、合意率80%、エビデンスの強さC
予防として
(痛くなる前に巻く)
「コルセットには,腰痛に対する直接的な予防効果はない.」

痛いときに使うのは弱く推奨される。痛くなる前に巻いておくことには、根拠がない。——これが、ガイドラインの整理です。

腰に負担のかかる仕事をしている方には、思い当たるところがあるかもしれません。ガイドラインは職業と腰痛の関係についてもデータを挙げていて、日本国内の疫学調査では運輸71〜74%、清掃69%、看護46〜65%、介護63%と報告されています。「身体的負荷の大きい重労働は,腰痛発症の危険因子であると考えられる」としたうえで、予防として推奨度がついているのは運動と職場環境の改善(持ち上げ器具の使用や作業場の高さ調整など)——つまり道具と作業環境のほうです。

12. 代替療法について、ガイドラインが書いたこと

整体、鍼、ヨガ、マッサージ。腰痛でいちばんお金が動いているのは、おそらくこの領域です。ガイドラインの推奨文は、独特です。

「本邦での代替療法のエビデンスは確立されていない.したがって,本ガイドラインでこれらの有用性を述べることは,基本的に不可能である.公的な資格制度が整備されている海外では以下の治療法が実施されているが,現在の日本の医療制度において推奨度を述べることは不可能である.」

対象:1)徒手療法、2)鍼治療、3)ヨガ、4)マッサージ 推奨度:なし

ここは、正確に読んでください。「効かない」とは書いていません。「判断できない」と書いています。

理由として挙げられているのが日本の制度の事情です。海外では公的な資格制度が整備されている一方、日本では同じ前提が成り立たないため、海外の研究結果をそのまま推奨度に翻訳できない、ということです。

この読み方を、実際の判断に落とすとこうなります。

✅ 試してみること自体を、ガイドラインは否定していません
⚠️ ただし「ガイドラインにも載っている」という説明は、推奨されている意味にはなりません
🚨 高額な回数券や長期契約を勧められたら、いったん立ち止まってください
✅ 同じ費用と時間を、推奨度1がついている運動療法に向ける選択肢もあります

手術についても触れておきます。「腰痛の原因が椎間板障害であると判明している場合は脊椎固定術が疼痛の軽減に有用となる可能性がある.しかし,手術適応は厳密に検討する必要がある.」(推奨度2、合意率88.9%、エビデンスB)。そして重要なのが、こちらです。

「慢性腰痛に対する脊椎固定術の疼痛軽減効果は認知行動療法や運動療法などの非手術治療と同等である.」

手術と、運動療法・認知行動療法が同等。手術を勧められたときに、思い出していただきたい一文です。

13. 🚨 心の要因と、受診の目安

最後に、見落とされやすい話をします。ガイドラインには、心理社会的因子だけを扱った項目があります。要約は一行です。

「腰痛の治療成績と遷延化には,心理社会的因子が強く関連する.」

予後を悪くする要因として挙げられているのは、うつ、心理的苦痛、仕事上の問題、仕事上の不満、補償問題の存在などです。そして職業の項にも「仕事や職場における心理社会的因子は,腰痛発症や予後に関連する.」とあります。

これは「気のせい」という意味ではありません。痛みの感じ方や治り方に、心の状態や職場の状況が実際に影響する、ということです。だからこそ、治療として患者教育と心理行動的アプローチ(認知行動療法)が推奨度2・合意率90%・エビデンスCで挙げられています。

長引く腰痛に「異常なし」と言われ続けている方は、画像に写らない要因が関わっている可能性を、責められているのではなく別の手があるという意味で受け取っていただきたいと思います。

受診をおすすめしたい状態

① 4章の危険信号にあてはまるものがある(とくに複数)

② おしりから足にかけてのしびれ・痛み、力が入りにくい

③ 尿が出にくい・漏れる、肛門まわりの感覚がおかしい(急いでください)

④ 市販薬を数日使っても改善しない

⑤ 3か月以上続いている(慢性腰痛として、別の手立てがあります)

⑥ 安静にしていても、夜間でも同じように痛む

受診したときに聞いてみるとよいことも挙げておきます。「危険信号はありませんでしたか」「急性ですか、慢性ですか」「神経の症状は出ていますか」。この3つが分かれば、自分がガイドラインのどこに位置しているかが見えます。

この記事のまとめ

① 2025年の調査で、男女とも訴えの1位が腰痛でした

② 急性腰痛では「安静よりも活動性維持のほうが有用」

③ 神経症状がなければ、初診のX線は必ずしも必要ではありません

④ 急性腰痛は6週間で痛みが半分以下になったという報告があります

⑤ 唯一の推奨度1は運動療法。治療でも予防でも

⑥ コルセットに予防効果はありません。治療としては弱く推奨です

⑦ 代替療法は「推奨度を述べることは不可能」。効かないではなく、判断できない、です

14. よくある質問

ぎっくり腰になりました。寝て安静にしたほうがいいですか?

いまのガイドラインは、そうは書いていません。急性腰痛について「急性腰痛に対しては,安静よりも活動性維持のほうが有用である.」としています(推奨度2、合意率88.9%、エビデンスの強さC)。作成グループの説明では、急性腰痛では安静より活動性維持のほうが疼痛軽減と身体機能回復の観点で優っており、病欠の期間も短いとされています。もちろん、痛くて動けないときに無理をしろという意味ではありません。痛みに応じて、できる範囲で普段の生活を続けるということです。ただし例外があります。同じ推奨文の後半に「一方,坐骨神経痛を伴う腰痛では,安静と活動性維持に明らかな差はない.」とあります。おしりから足にかけてしびれや痛みが走るタイプでは、活動性維持が優るとは言えません。そして急性腰痛の見通し自体は悪くありません。ガイドラインは「急性腰痛患者の自然経過は,自然軽快を示すことが多く,概ね良好である.」としていて、痛みのスコア(最大100)は平均52から6週間で23まで下がったという報告が引かれています。

病院でレントゲンを撮ってもらえませんでした。ちゃんと診てもらえたのでしょうか?

ガイドラインに沿った対応だった可能性が高いです。「腰痛患者に対するX線撮影は,腰痛の原因の初期診断に意義がある.しかし,神経症状を伴わない非特異的腰痛患者に対する初診時の撮影は必ずしも行う必要はない.」と書かれています。初診でいちばん大切なのは画像ではなく問診と診察で、「腰痛患者の初診で最初に必要な診察手順は,注意深い問診と診察である.」とされています。危険信号がないか確かめ、重い病気による腰痛・神経症状を伴う腰痛・神経症状のない腰痛の3つに振り分けることが先です。ただし「危険信号(red flags)や神経症状を呈する患者では,X線撮影に引き続いて,MRI撮像が推奨される.」ともあります。撮らない判断にも、撮る判断にも、基準があるということです。不安なときは「危険信号はありませんでしたか」と聞いてみてください。

コルセットは、腰痛の予防になりますか?

予防にはなりません。ガイドラインの腰痛予防の項に、はっきり書かれています。「コルセットには,腰痛に対する直接的な予防効果はない.」。一方で、すでに痛みがあるときの治療としては別の評価です。物理・装具療法の項で腰椎サポート(コルセット)は推奨度2(行うことを弱く推奨する)、合意率80%、エビデンスの強さCとされています。「治療としては弱く推奨、予防としては効果なし」——この2つを分けて考えてください。ちなみに腰痛予防で推奨度1(強く推奨する)がついているのは運動療法だけです。「腰痛予防に運動療法は有用である.」(合意率77.8%、エビデンスの強さB)。痛くなる前にできることは、巻くことではなく動くことだ、という整理になります。

市販の痛み止めは、どれを選べばいいですか?

ガイドラインは薬を種類ごとに評価していて、そこに手がかりがあります。急性腰痛では非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が推奨度1・エビデンスの強さAで、このガイドラインの薬剤のなかで最も高い評価です。市販薬ではロキソプロフェンやイブプロフェンがこれにあたります。一方で意外なのがアセトアミノフェンです。推奨薬には入っていますが、推奨度2・エビデンスの強さDで、急性でも慢性でもDでした。胃にやさしい薬として知られていますが、腰痛に関しては根拠が弱いという評価です。副作用についても注意書きがあります。「短期間の調査が多く,患者の自覚症状のみの評価であるため腎機能障害や胃腸障害などの有害事象が実際よりも低く見積もられている可能性に留意する必要がある.」。市販薬は数日試して改善しなければ受診、というのが安全な使い方です。なお慢性腰痛では強オピオイドが推奨度3(行わないことを弱く推奨する)とされています。

整体やマッサージ、鍼は効きますか?

ガイドラインは、効く・効かないのどちらとも言っていません。書かれているのは、判断する材料がないということです。代替療法の項の推奨文はこうです。「本邦での代替療法のエビデンスは確立されていない.したがって,本ガイドラインでこれらの有用性を述べることは,基本的に不可能である.」。対象として挙げられているのは、徒手療法、鍼治療、ヨガ、マッサージの4つです。海外では実施されているものの、「現在の日本の医療制度において推奨度を述べることは不可能である.」とされ、推奨度はつけられていません。つまり「やめなさい」ではなく「このガイドラインでは判断できない」という立場です。試すこと自体を否定するものではありませんが、高額な回数券や長期契約を勧められたときは、いったん立ち止まってください。その費用と時間を、推奨度1がついている運動療法に向けるという選択肢もあります。

参考にした主な資料

凪
なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。本文で紹介した推奨度・合意率・エビデンスの強さ・試験結果は、日本整形外科学会・日本腰痛学会「腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)」にもとづくもので、公開時点の情報です。推奨度は集団に対する評価であり、個々の患者さんにとっての最適な治療と一致するとは限りません。腰痛には、腫瘍・感染・骨折のほか、腹部大動脈瘤や尿路結石など内臓・血管の病気が原因のものがあります。本文4章の危険信号にあてはまる場合は、自己判断せず医療機関を受診してください。おしりから足にかけてのしびれや脱力、排尿・排便の障害、肛門周囲の感覚の異常をともなう場合は緊急性が高いことがあり、ただちに受診してください。市販の鎮痛薬は数日使用しても改善しない場合は使用を続けず受診してください。胃・腎臓・肝臓の持病がある方、ぜんそくのある方、高齢の方、妊娠中・授乳中の方、ほかの鎮痛薬や抗血栓薬を使用中の方は、購入前に薬剤師にご相談ください。温熱製品は低温やけどのおそれがあります。就寝時の使用や長時間の同一部位への貼付は避け、感覚が鈍くなる持病のある方は使用前に医師にご相談ください。運動療法を始める際は、痛みの強い時期や神経症状のある時期は無理をせず、医師や理学療法士にご相談ください。掲載内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。