1. 先に結論
長い記事なので、要点を先にまとめます。
| よく言われること | ガイドライン2024の記述 |
|---|---|
| ステロイドは怖い薬 | 推奨度1・エビデンスレベルA。「適切な使用を前提とすれば副作用も少なく、すすめられる」 |
| 妊娠中は使えない | 「胎児・乳児への影響を心配することなく使用してよい」 |
| 卵や乳製品をやめれば良くなる | 妊娠中・授乳中の食事制限は「発症予防に有用ではない」(エビデンスレベルA) |
| 脱ステロイドで体質から治す | 学会が「アトピービジネス」と明記。入院例の44%は民間療法による不適切治療が原因 |
| 一生つきあう病気 | 16歳を過ぎると約90%が自然寛解という報告。大人も40歳代までに約3分の2が改善 |
| 薬は少なめに塗るほうが安全 | 塗る量には目安(FTU)があります。足りない量では効かず、それが不信感の原因になります |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
ステロイドが怖いと感じるのは、あなたの不注意でも思い込みでもありません。そう思わせる情報が、それだけ多く流れてきたということです。ガイドライン自身が「情報が溢れており」と書いています。
お伝えしたいのは、怖いのは薬そのものではなく、強さ・量・期間を自己判断で決めてしまうことだということです。そしてその3つは、すべてガイドラインに書いてあります。
2. アトピー性皮膚炎とは——診断と、年齢による姿の違い
日本皮膚科学会の診断基準は、次の3つを満たすものです。
- かゆみがある
- 特徴的な皮疹と分布(左右対称。前額、眼のまわり、口のまわり・口唇、耳のまわり、首、手足の関節部、体幹)
- 慢性・反復性の経過——乳児では2か月以上、その他では6か月以上を慢性とする
年齢によって、出る場所が変わるのが特徴です。
| 年齢 | 出やすい場所 |
|---|---|
| 乳児期 | 頭・顔から始まり、しばしば体幹・四肢に下降していく |
| 幼小児期 | 首、ひじの内側やひざの裏など関節の内側 |
| 思春期・成人期 | 上半身(頭・首・胸・背中)に皮疹が強い傾向 |
大人になってから「顔や首だけがずっと赤い」という形をとることがあるのは、このためです。
有症率は、1992年から2002年の国内調査14編の解析で、乳児6〜32%、幼児5〜27%、学童5〜15%、大学生5〜9%。報告によって幅がありますが、加齢とともに減っていく傾向が共通しています。
似ているけれど違うもの。ガイドラインは、除外すべき診断として接触皮膚炎、手湿疹、脂漏性皮膚炎、皮膚リンパ腫、乾癬、疥癬、汗疹、膠原病などを挙げています(合併することもあります)。
「ずっとアトピーだと思っていたら別の病気だった」ということも起こります。長く続いている湿疹は、一度きちんと診断をつけてもらう価値があります。
頭に湿疹が続きフケと脱毛を伴う場合は、頭部白癬(かびの感染症)のこともあります。この場合ステロイドは事態を悪くします(→頭部白癬の記事)。
とくにじんましんとは経過がはっきり違います。じんましんの発疹は30分〜24時間以内に跡を残さず消えるのが特徴で、治療も塗り薬ではなく飲み薬が主役です(→じんましんの記事)。
3. 【希望の話】年齢とともに、どうなっていくのか
先に、明るい話をします。ガイドラインのCQ1(臨床疑問1)がこれです。
CQ1 アトピー性皮膚炎は年齢とともに寛解することが期待できるか
アトピー性皮膚炎は年齢とともにある程度の割合で寛解することが期待できる。ただし、寛解率は症状の程度などによって異なる。(エビデンスレベルB)
紹介されている数字を並べます。
大人の方にも数字があります。患者数は20歳代をピークに次第に減っていき、40歳代までに約3分の2が皮膚科を受診しなくてもよい程度に改善していたという報告です。
ここで注目していただきたいのが、寛解しやすい要素です。「軽症であること」が入っています。
つまり——今きちんと治療して軽い状態を保つことが、将来の見通しにもつながるということです。これが、この記事全体を貫く考え方になります。
4. 【核心】なぜ「ステロイドは怖い」と思われたのか
ここが、この記事の中心です。
まずガイドラインの評価を見てください。
CQ4 アトピー性皮膚炎の治療にステロイド外用薬はすすめられるか
推奨度1(強い推奨)/エビデンスレベルA
アトピー性皮膚炎の治療にステロイド外用薬は有効と考えられ、適切な使用を前提とすれば副作用も少なく、すすめられる。
38ある臨床疑問のなかで、最上位の評価です。では、なぜこれほど怖がられているのか。ガイドラインは、その理由まで書いています。
ステロイド外用薬に対する誤解から、ステロイド外用薬への恐怖感や忌避が生じ、アドヒアランス(治療の続けやすさ)の低下がしばしばみられる。具体的にはステロイド内服薬による副作用との混同、およびアトピー性皮膚炎そのものの悪化とステロイド外用薬の副作用との混同などである。
2つの取り違えが起きている、という指摘です。順に見ていきます。
取り違え① 飲み薬と塗り薬の混同
「ステロイド」と一口に言っても、飲む・注射するのと、皮膚に塗るのとでは、体に入る量がまったく違います。
ムーンフェイス(顔が丸くなる)、骨粗鬆症、糖尿病——こうした話として語られる副作用の多くは、全身に投与したときのものです。塗り薬の話と混ざってしまっている。
取り違え② 「やめて悪化した」を副作用と受け取ってしまう
こちらのほうが根深いかもしれません。
塗るのをやめる → もともとの病気が戻ってくる → 前より悪く見える → 「ステロイドのせいでひどくなった」と受け取ってしまう。
ガイドラインが言っているのは、それは薬の副作用ではなく、アトピー性皮膚炎そのものの悪化かもしれないということです。
そしてガイドラインは、こうも書いています。
また使用方法を誤ることにより、効果を実感できず、ステロイド外用薬に対する不信感を抱くこともある。その誤解を解くためには十分な診察時間をかけて説明し指導することが必要である。
効かなかったから信じられなくなった。——これも大きな理由です。7章で「塗る量」の話をしますが、多くの方が少なすぎる量で塗っています。効かないのは当然で、そこから不信が生まれる。
副作用がないという話ではありません。ステロイド外用薬には、皮膚が薄くなる、毛細血管が広がる、にきびのようなものが出る、といった局所の副作用があります。ガイドラインも、診察のたびに副作用の有無を丁寧に観察するよう求めています。
大切なのは、それが起きているかどうかは、皮膚科で確認できるということです。心配だから塗らない、ではなく、心配だから診てもらう。順番はこちらです。
5. 学会が「アトピービジネス」と書いています
ガイドラインの文章を、そのまま引用します。学会がここまで書くのは、かなりのことです。
情報が溢れており、いわゆるアトピービジネスが問題となっている。
そして、数字が続きます。
入院した人の44%。この数字の重さを、少し考えてみてください。
ここで書いておきたいことがあります。
民間療法を試したことのある方へ。
67.4%という数字は、むしろ「ほとんどの人が通る道」だということを示しています。それだけ、つらくて、情報が多くて、何かにすがりたくなる病気だということです。
そして責められるべきは、藁にもすがる思いの人に高額なものを売る側であって、試した方ではありません。ガイドラインが名指ししているのも「ビジネス」のほうです。
ただ、ひとつだけ。「これを続けているから」と思って皮膚科から足が遠のくこと——それが44%につながる道です。並行してでいいので、診てもらう場所は持っておいてください。
6. 【重要】治療を、推奨度で並べる
ガイドライン2024は、38の臨床疑問すべてに推奨度とエビデンスレベルをつけています。主なものを1枚に並べます。
この図で、いちばん見ていただきたいのはいちばん下の枠です。
良かれと思ってやりがちなことが並んでいます。食物除去、母親の食事制限、消毒、沐浴剤、乳酸菌。しかも「妊娠中・授乳中の食事制限」と「抗菌外用薬」は、エビデンスレベルA——最も確かな根拠をもって「有用ではない」とされています。10章で詳しく扱います。
7. ステロイド外用薬の実際——ランクと、塗る量
ここが実務です。強さと量、2つに分けて説明します。
強さ——5段階のランクがあります
ステロイドの塗り薬は、5段階に分かれています。同じ「ステロイド」でも、いちばん強いものといちばん弱いものでは別物です。
| ランク | 代表的な薬(商品名) |
|---|---|
| I群 ストロンゲスト (最も強い) | デルモベート、ダイアコート |
| II群 ベリーストロング | フルメタ、アンテベート、トプシム、リンデロンDP、マイザー、ネリゾナ、パンデル ほか |
| III群 ストロング | — |
| IV群 ミディアム | — |
| V群 ウィーク (最も弱い) | — |
そして、皮疹の重症度によって選ぶランクが決まっています。
| 皮疹の重症度 | 第一選択 |
|---|---|
| 重症(高度の腫れ・浸潤を伴う紅斑、丘疹の多発、びらんなど) | ベリーストロング(II群)。それでも不十分なら、その部位に限定してストロンゲスト(I群)を使うこともある |
| 中等症(中等度までの紅斑、鱗屑、少数の丘疹など) | ストロングないしミディアム |
| 軽症(軽度の紅斑、鱗屑など) | ミディアム以下 |
| 軽微(炎症に乏しく乾燥が主体) | ステロイドを含まない外用薬 |
大事なのは、「弱い薬をだらだら」より「必要なランクで、しっかり抑えて、減らしていく」という考え方だということです。ガイドラインは「アトピー性皮膚炎の炎症は速やかに、かつ確実に鎮静させることが重要」と書いています。
量——FTUという目安があります
ここは、多くの方が誤解しているところです。
ガイドラインの原文はこうです。
チューブから押し出された量(約0.5g)が英国成人の手掌で2枚分、すなわち成人の体表面積のおよそ2%に対する適量であることが示されている(finger-tip unit)。
お子さんの場合は年齢によって変わります。たとえば顔と首なら、3〜6か月で1FTU、1〜2歳で1.5FTU、6〜10歳で2FTUが目安です。
塗る回数は、急性増悪のときは1日2回(朝と、夕方=入浴後)とされています。
「少なめに塗る」がいちばん損な選び方です。
量が足りないと炎症が抑えきれず、良くならない。良くならないから薬を信用できなくなる。信用できないからさらに減らす——この輪に入ってしまうと、結果的にステロイドを使っている期間だけが長くなります。
しっかり抑えて、早く減らす。そのほうが、生涯の使用量はむしろ少なくなります。
ただし、ステロイド外用が「どの皮膚病にも良い」わけではありません。
同じ日本皮膚科学会でも、ニキビ(尋常性痤瘡)に対するステロイド外用は推奨度C2(推奨しない)です。ガイドラインは「ステロイド外用薬が痤瘡を誘発することはよく知られており」とまで書いています。
アトピーで処方された軟膏が余っているからと、顔の赤いブツブツに転用しないでください。同じ「赤み」でも、皮膚のなかで起きていることが違います(→ニキビ(尋常性痤瘡)の記事)。
8. プロアクティブ療法と、ステロイド以外の塗り薬
プロアクティブ療法(推奨度1・エビデンスレベルA)
CQ11 プロアクティブ療法は、湿疹病変の寛解維持に有用かつ比較的安全性の高い治療法である。(推奨度1/エビデンスレベルA)
これは「良くなってから、間隔をあけて塗り続ける」方法です。皮疹が消えたところに、週2回など決めた頻度で塗っておく。悪くなってから塗る(リアクティブ)のではなく、悪くなる前に手を打つ、という考え方です。
「治ったら塗るのをやめる」を繰り返して、そのたびに再燃してきた方には、相談する価値のある選択肢です。推奨度は最上位で、エビデンスレベルもAです。
ステロイド以外の塗り薬——3つあります
いずれも推奨度1・エビデンスレベルAです。
| 薬 | 特徴 |
|---|---|
| タクロリムス軟膏 | ガイドラインは「皮膚萎縮を来さず、経皮吸収も少なく、眼圧上昇も起こさない」とし、眼のまわりにも安全に使用できるとしています。使い始めに刺激感(ほてり・ひりひり)が出ることがありますが、皮疹の改善とともに消えることが多いとされます |
| デルゴシチニブ軟膏 | 比較的新しい非ステロイドの塗り薬 |
| ジファミラスト軟膏 | 同上 |
ガイドラインは、「ステロイド外用薬で炎症を抑えた後、タクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏、ジファミラスト軟膏に移行することもよい方法である」とし、実際にタクロリムスの使用でステロイドの使用量が減り、それに伴って局所の副作用も明らかに軽減したという報告を紹介しています。
「ステロイドを減らしたい」という願いは、正しい方法で叶えられます。やめるのではなく、置き換える。それがガイドラインの道筋です。
タクロリムスとがんの関係について。心配される方が多いので触れておきます。ガイドラインのCQ8はこう答えています——「タクロリムス軟膏の使用は皮膚癌やリンパ腫の発症リスクを高めるとはいえない」(エビデンスレベルB)。
9. 【妊娠中・授乳中の方へ】
この章は、短くはっきり書きます。
CQ21 妊娠中・授乳中のステロイド外用は安全か
妊娠中、授乳中ともステロイド外用薬は通常の使用であれば安全であり、胎児・乳児への影響を心配することなく使用してよい。ただし、高ランクのステロイド外用薬を大量・長期使用することは出生時体重を低下させる可能性がある。(エビデンスレベルB)
根拠として挙げられているのは、160万人以上を対象とした14件の観察研究のシステマティックレビューです。妊娠中のステロイド外用薬の使用と、分娩様式、先天奇形(口唇口蓋裂、尿道下裂を含む)、低出生体重、早期産、胎児死亡、低アプガースコアとの関連はないと報告されています。2021年のデンマークの出生レジストリー解析でも同様でした。
注意点は2つだけです。
- 高いランクのものを、大量に、長期に使うのは避ける(低〜中ランクの使用はむしろ胎児死亡に対して保護的である可能性も示されています)
- 授乳中、乳房に塗る場合は授乳の直前を避け、授乳前に清拭する
我慢しているうちに悪化するほうが心配です。
妊娠がわかった時点で薬を全部やめてしまう方がいらっしゃいます。お気持ちはとてもよくわかります。ですが皮膚の状態が悪くなれば、かゆみで眠れず、掻いて傷をつくり、そこから感染することもあります。
やめる前に、まず伝えてください。「妊娠しました」「授乳中です」——それだけで、主治医は薬の強さや部位を調整できます。
なお抗ヒスタミン薬についても、CQ22で「妊娠中の抗ヒスタミン薬使用と先天異常、流産などの胎児リスク増加との関連は認められていない」とされています(ただしエビデンスは十分ではないとの但し書きがあります)。こちらも自己判断ではなく、相談のうえで決めてください。
10. 食事制限——学会の結論は明快です
ここも、多くの方が悩まれるところです。ガイドラインには2つの臨床疑問があります。
CQ28 乳児アトピー性皮膚炎の治療にアレルゲン除去食は有用か
特定食物によるアトピー性皮膚炎の悪化が確認されている場合を除き、一般的にアレルゲンになりやすいという理由で特定食物を除去することは推奨されない。(エビデンスレベルB)
CQ29 妊娠中・授乳中の食事制限は児のアトピー性皮膚炎発症予防に有用か
妊娠中・授乳中における母の食事制限は、児のアトピー性皮膚炎の発症予防に有用ではない。(エビデンスレベルA)
2つめはエビデンスレベルAです。ガイドラインのなかで最も確かな根拠に支えられた結論のひとつが、「お母さんの食事制限は、子どものアトピー予防にならない」ということです。
卵を食べるのを我慢してきたお母さんへ。
妊娠中も授乳中も、好きなものを食べてよかったのです。それを我慢したことは、お子さんのアトピーとは関係がありませんでした。
そして——お子さんがアトピーになったのは、あなたが何かを食べたせいでも、食べなかったせいでもありません。ここは、はっきりお伝えしておきたいところです。
ただし、例外はあります。「特定食物によるアトピー性皮膚炎の悪化が確認されている場合」です。ここが重要で、確認されているというのは、血液検査の数値が高いというだけでは足りません。医師が経過や負荷試験を含めて判断するものです。
自己判断の食物除去は、お子さんの成長に必要な栄養が足りなくなるおそれがあります。除去するかどうかは、必ず医師と決めてください。
関連して、意外な結果を2つ。
新生児期からの保湿剤で、アトピーを予防できるか(CQ25)——「現時点においてアトピー性皮膚炎の発症予防に新生児期からの保湿剤外用は一概にはすすめられない」(推奨度2)。一時期とても期待された方法ですが、その後の研究で評価が変わりました。
乳酸菌などのプロバイオティクス(CQ38)——「発症予防目的でのプロバイオティクスおよびプレバイオティクスの投与は推奨しない」。症状改善についても「全ての患者に一律に推奨することはできない」(CQ37)。
腸内環境の話が好きな方は、腸内細菌の記事もあわせてどうぞ。期待も限界も含めて書いています。
11. 保湿・入浴・石鹸——毎日のこと
地味ですが、ここは推奨度が高い領域です。
| やること | ガイドラインの評価 |
|---|---|
| 保湿剤 | 推奨度1/エビデンスレベルA。「ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏と併用して保湿剤を外用することがすすめられる。また、急性期の治療によって皮膚炎が沈静化した後も、保湿剤の外用を継続することがすすめられる」 |
| シャワー浴 | 推奨度1/B。「アトピー性皮膚炎の症状改善にシャワー浴は有用である」 |
| 石鹸・洗浄剤 | 推奨度1/C。「皮膚の状態、使用する石鹸・洗浄剤の種類、洗浄方法を考慮すれば、管理に有用である」 |
| 沐浴剤(乳児) | 推奨されない。「使用で湿疹が改善するというエビデンスはない。保湿効果のエビデンスもない」 |
| 抗菌外用薬 | すすめられない(エビデンスレベルA)。症状改善が目的の場合 |
| 消毒(ポビドンヨード) | 推奨するだけの医学的根拠はない。「安全性が懸念されるので安易に行うべきではない」 |
読み取っていただきたいのは、「洗ってはいけない」わけではないということです。石鹸もシャワーも、推奨度1に入っています。汗や汚れ、黄色ブドウ球菌を落とすことには意味があります。
一方で消毒はすすめられていません。刺激で皮膚炎が悪化したり、かぶれたりする可能性が挙げられています。
ペットについて(CQ31)。「発症予防を目的として、妊婦と小児に対してペット・動物との接触を回避する指導は有用とはいえない」。
ただし、すでにペットに感作していて接触で明らかに悪くなる場合は、回避が有用とされます。
そしてガイドラインには、こういう一文があります——「ペットはヒトの精神的な支えになりうることから、患者個々のペットとの関わりの強さに応じて指導の是非を考える必要がある」。医学の文書としては、やさしい書き方だと思います。
12. つらい方へ——新しい注射と飲み薬
塗り薬では抑えきれない中等症から重症の方には、この10年ほどで選択肢が大きく増えました。
| 種類 | 評価 |
|---|---|
| 注射薬 デュピルマブ/ネモリズマブ/トラロキヌマブ | いずれも推奨度1・エビデンスレベルA |
| 飲み薬(JAK阻害薬) バリシチニブ/ウパダシチニブ/アブロシチニブ | いずれも推奨度1・エビデンスレベルA |
| シクロスポリン内服 | 推奨度2(外用やスキンケア、悪化因子対策を十分に行ったうえで) |
| 紫外線療法 | 推奨度2 |
いずれも共通の条件があります。「外用療法で寛解導入や寛解維持が困難な」中等症から重症の方が対象です。つまり塗り薬をきちんとやったうえで、それでも難しいときの選択肢です。
ネモリズマブは少し性格が違い、かゆみに対するものとして「外用療法および抗ヒスタミン薬で寛解導入や寛解維持が困難な中等症から重症のアトピー性皮膚炎の瘙痒に対して」すすめられる、とされています。
これらは専門的な管理が必要で、費用も安くはありません。ただ「もう打つ手がない」と諦めておられる方には、確かめる価値のある選択肢です。皮膚科で「注射や内服の適応になりますか」と聞いてみてください。
抗ヒスタミン薬(かゆみ止めの飲み薬)について。推奨度2です。推奨文は「抗炎症外用薬と保湿外用薬による治療との併用で瘙痒を軽減する可能性があり、これらの外用療法の補助療法として提案される」。
つまり主役ではなく脇役です。「かゆみ止めだけ飲んで塗り薬を使わない」は、順番が逆ということになります。なお選ぶ際は眠くなりにくい第二世代が推奨されています。
13. 見落とされやすい「目」のこと
短いですが、大切な章です。
CQ6 アトピー性皮膚炎およびその治療に伴って眼病変が生じることがあるので、重症なアトピー性皮膚炎、特に、顔面の皮疹が重症な症例では適宜眼科医の診察を受けさせることが望ましい。また、眼合併症の予防のために顔面、特に眼囲の皮疹を早期に十分にコントロールすることが重要である。(エビデンスレベルB)
主な眼の合併症として、眼瞼炎、角結膜炎、円錐角膜、白内障、緑内障、網膜剥離が挙げられています。
ここで、誤解を解いておきたいことがあります。
「アトピーの白内障はステロイドのせいだ」と言われることがあります。ガイドラインの記述はこうです——ステロイドは白内障や緑内障のリスクとなる可能性がある一方で、「ステロイドは白内障と必ずしも関連せず、ステロイド治療薬の登場以前にすでにアトピー性皮膚炎に白内障がみられている」。
そして顔面の皮疹や罹患年数と関連し、炎症自体と、目を擦ったり叩いたりする物理的刺激の両方が関与しているとされています。
つまり、目を守るためにこそ、顔の皮疹を早く抑えたほうがいいということです。目のまわりにはタクロリムス軟膏という選択肢もあります(眼圧を上げないとされています)。
目のことは目の健康の記事でも扱っていますが、顔の湿疹が長い方は、一度眼科でも診てもらってください。
14. 🚨 受診の目安と、上手なかかり方
こんなときは皮膚科へ
| サイン | 理由 |
|---|---|
| 湿疹が長く続いている(乳児で2か月以上、その他で6か月以上) | 診断基準の「慢性」の目安です |
| 塗っているのに良くならない | ランクか量が合っていない可能性。診断が違うこともあります |
| 良くなってはぶり返すのを繰り返す | プロアクティブ療法の相談どきです |
| 顔、特に目のまわりの皮疹が長い | 眼の合併症のリスク。眼科での確認も |
| かゆくて眠れない | 治療の強化を検討する状況です |
| 急に広い範囲が悪化した/発熱がある/水ぶくれが出た | 細菌やウイルスの感染が起きている可能性。早めに |
| 妊娠がわかった/授乳中 | やめる前に相談を(9章) |
診察で伝えること
- いつから、どこに出ているか
- 今使っている薬と、実際にどのくらいの頻度で塗れているか——正直に言って大丈夫です。塗れていない理由(怖い・面倒・効かない)こそ、伝える価値があります
- 市販薬や、試している民間療法があれば、それも——責められることはありません。組み合わせで困ることを避けるためです
- 妊娠中・授乳中かどうか
- 喘息やアレルギー性鼻炎、家族の体質
聞いてよい質問
- 「この薬はどのランクですか」
- 「1回にどのくらいの量を塗ればいいですか」——FTUで教えてもらえます
- 「良くなったあとは、どう減らしていきますか」
- 「プロアクティブ療法は私に向いていますか」
- 「ステロイド以外の塗り薬に移行できますか」
- (つらい方)「注射や飲み薬の適応になりますか」
最後に。
この病気は、年齢とともに良くなっていくことが期待できる病気です。そして寛解しやすい要素のひとつが「軽症であること」でした。
だから、今しっかり抑えることには意味があります。ステロイドを使う期間を短くしたいなら、いま、きちんと使う。逆説的ですが、それがいちばんの近道です。
もし今、塗る手が止まっているなら——その迷いを、そのまま皮膚科でお話しください。ガイドラインは医師に対して「十分な診察時間をかけて説明し指導することが必要である」と書いています。説明を求めるのは、患者さんの当然の権利です。
15. よくある質問
ステロイドの塗り薬は、やはり怖い薬なのでしょうか?
ガイドライン2024で、ステロイド外用薬は推奨度1(強い推奨)・エビデンスレベルAという最上位の評価です。推奨文は「アトピー性皮膚炎の治療にステロイド外用薬は有効と考えられ、適切な使用を前提とすれば副作用も少なく、すすめられる」。
ガイドラインは、なぜ怖いと思われるのかにも踏み込んでいて、原因を2つ挙げています。ひとつは「ステロイド内服薬による副作用との混同」、もうひとつは「アトピー性皮膚炎そのものの悪化とステロイド外用薬の副作用との混同」です。飲み薬と塗り薬では体に入る量がまったく違いますし、塗るのをやめて悪化したものを副作用と受け取ってしまうことも起こります。
怖いのは薬そのものではなく、強さ・量・期間を自己判断で決めてしまうことです。その3つはすべてガイドラインに書かれていますので、皮膚科で確認してください。
塗り薬はどのくらいの量を塗ればいいですか?
FTU(フィンガーチップユニット)という目安があります。チューブから大人の人差し指の先端から第一関節まで押し出した量が約0.5gで、これが1FTU。ガイドラインには「チューブから押し出された量(約0.5g)が英国成人の手掌で2枚分、すなわち成人の体表面積のおよそ2%に対する適量である」と書かれています。
成人の場合、顔と首で2.5FTU、腕は片側で4FTU、脚は片側で8FTU、体の前面と背面はそれぞれ7FTUとされています。
多くの方が少なすぎる量で塗っています。薄く伸ばすのではなく、しっかりのせる。効果が出ないままステロイドへの不信感を持ってしまう原因の一つが、この量の誤解です。
妊娠中や授乳中でも、ステロイドの塗り薬を使って大丈夫ですか?
ガイドラインの推奨文は明快です。「妊娠中、授乳中ともステロイド外用薬は通常の使用であれば安全であり、胎児・乳児への影響を心配することなく使用してよい」。
160万人以上を対象としたシステマティックレビューでも、妊娠中のステロイド外用薬の使用と、先天奇形、低出生体重、早期産、胎児死亡との関連はないと報告されています。
ただし条件があり、高ランクのステロイド外用薬を大量・長期に使用することは出生時体重を低下させる可能性があるため避けることが望ましいとされています。また授乳中は、乳房への外用は授乳直前を避け、授乳前に清拭するよう指導されます。
我慢して悪化させるほうが心配です。妊娠がわかったら、その時点で皮膚科の主治医に伝えて相談してください。
食べ物を制限すれば良くなりますか?
ガイドラインの結論ははっきりしています。乳児について「特定食物によるアトピー性皮膚炎の悪化が確認されている場合を除き、一般的にアレルゲンになりやすいという理由で特定食物を除去することは推奨されない」。
そして妊娠中・授乳中の母親の食事制限については「児のアトピー性皮膚炎の発症予防に有用ではない」とされ、これはエビデンスレベルA、つまり最も確かな根拠に支えられた結論です。
卵や乳製品を控えれば子どもがアトピーにならずに済む、という考えは支持されていません。むしろ自己判断の除去は栄養不足を招くおそれがあります。特定の食物で明らかに悪化するとわかっている場合は別ですが、それは検査の数値だけでは決められず、医師の判断が必要です。
子どものアトピーは、大きくなったら治りますか?
かなりの割合で良くなります。ガイドラインのCQ1は「アトピー性皮膚炎は年齢とともにある程度の割合で寛解することが期待できる」としています。
具体的な数字も紹介されていて、ある調査では自然寛解は2〜3歳ごろから認められ、50%が自然寛解に到達する年齢は8〜9歳、16歳を過ぎると全体の約90%が自然寛解したと報告されています。小学1年生でアトピー性皮膚炎だった子の4分の3が中学校入学時には寛解していたという報告もあります。
大人になってからも、20歳代をピークに患者数は減っていき、40歳代までに約3分の2が皮膚科を受診しなくてもよい程度に改善していたとされています。
寛解率が高くなる要素として、軽症であること、発症年齢が高いこと、食物アレルギーがないことが挙げられています。つまり今しっかり治療して軽い状態を保つことが、将来の見通しにもつながります。
参考資料
- 日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024年版」日本皮膚科学会雑誌 134(11): 2741-2843, 2024(本記事の推奨度・推奨文・疫学・数値は、すべてこの資料にもとづいています)
- 公益社団法人日本皮膚科学会「一般公開ガイドライン」