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MEDICALLY REVIEWED BEAUTY & HEALTH

多汗症
——10人に1人が悩み、受診を続けているのは0.7%

『原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版』は、いちばん最初の段落でこう書いています。
「原発性局所多汗症は、本邦では難治性疾患として認識されておらず、未治療もしくは美容クリニック、エステティックサロンなどで不適切な処置がなされている」
日本人の有病率は10.0%。ところが医療機関への受診経験率は4.6%で、受診を継続できている人は0.7%です。
汗の悩みは「体質」でも「気にしすぎ」でもありません。6項目からなる診断基準があり、保険が使える薬があります。そのことをお伝えするために、この記事を書きました。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年8月27日 読了:約18分

1. 先に結論

よくある思い込みガイドライン2023年改訂版の記述
汗が多いのは体質6項目中2項目以上で診断される病気です。有病率は10.0%
病院に行っても何もない2020年11月に外用抗コリン薬が保険適用。2023年6月には手のひら用も追加
気にしすぎと言われた46.8%が重症(HDSS 3〜4)。学会が重症度スケールを定めています
市販の制汗剤しかない塩化アルミニウムは「まず行ってよい治療」(推奨度B)。ただし院内製剤は20〜50%
手術すれば解決する「代償性発汗を無くすことは現時点ではできず、有効な治療法もない」
まずエステで相談しよう学会が「エステティックサロンなどで不適切な処置がなされている」と明記
汗の悩みは大人になってから発症の平均年齢は手のひら13.8歳・足の裏15.9歳

この記事でいちばんお伝えしたいこと。

多汗症は、皮膚科で保険診療の対象になる病気です。そして治療は部位ごとに違います——わきに有効なものが手のひらにも同じとは限りません。

だから「汗が多い」ではなく「どこの汗で困っているか」を伝えることが、いちばんの近道になります。

2. 【核心】10人に1人。続けて通えているのは0.7%

まず、この記事を書こうと思った理由からお話しさせてください。ガイドラインのいちばん最初の段落が、これです。

「原発性局所多汗症は、本邦では難治性疾患として認識されておらず、未治療もしくは美容クリニック、エステティックサロンなどで不適切な処置がなされている。しかし、欧米ではすでに原発性局所多汗症に対する適切な診断基準、診療ガイドラインが作成され重症度に応じた段階的な治療がなされている。」

——日本皮膚科学会『原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版』1. ガイドライン作成の背景より

学会が、作成の動機としてこれを書いている。それだけ、この病気は行き場を失っています。

数字を見てください。2020年に日本国内で60,969人を対象に行われたweb調査の結果です。

悩んでいる人と、治療にたどり着いた人 原発性局所多汗症の有病率(日本・60,969人調査) 10.0%(10人に1人) 医療機関への受診経験率 4.6% 受診を継続できている割合 0.7% ※同じ調査で、医師の58.2%が「治療選択肢が少なく積極的な治療ができない」と回答 ※米国の調査では受診率51%。日本の低さは際立っています

『原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版』9. 疫学の記述より作成。

もうひとつ、日本の別の報告では受診率6.2%で、全体の46.8%がHDSS 3または4の重症を訴えていました。

海外と比べると、日本の低さが際立ちます。同じガイドラインが引く数字です——ドイツでは27%、米国では51%が医療機関を受診しています。

「病院に行っても何もしてもらえない」は、以前は当たっていました。

同じ2020年の調査では医師にも質問しており、「治療選択肢が少なく積極的な治療ができない」と答えた医師が58.2%いたと報告されています。患者さんの側だけの問題ではなかったということです。

けれど、そのあと状況が変わりました。2020年11月に外用抗コリン薬が保険適用となり、2023年6月には手のひらの多汗症に対する薬が追加されています。ガイドラインが2023年に改訂され、同年12月にも一部改訂されているのは、まさにこの変化を反映するためです。

そして、この病気がいつ始まるかを見てください。

部位発症の平均年齢有病率(日本)
手のひら13.8歳2.9%
足の裏15.9歳2.3%
わき19.5歳5.9%
頭部・顔面21.2歳3.6%

手のひらは平均13.8歳。ガイドラインは掌蹠多汗症について「多汗症の中では比較的早期、小学校就学時期くらいから自覚することが多い」とも書いています。

年代別の有病率は20〜49歳で10%以上、20〜39歳がピーク。手のひらに限れば15〜29歳がピークです。いちばん困っているのは、いちばん人と会う年代です。

ガイドラインは、その影響をこう書いています——「掌部の多汗は社交活動(握手など)やペーパーワーク、電子機器の操作等に多大なる支障をきたすため、学校生活や社会生活上の様々な場面で生活の質や労働能率を低下させる大きな要因となる」。

3. 汗は、なぜそこから出るのか

治療の話に入る前に、体の側の事情を共有させてください。ここが分かると、なぜ部位によって治療が違うのかがつながります。

ガイドラインの解説がとても面白いので、そのまま紹介します。

手のひら・足の裏の汗は、動物の「肉球」と同じものです。

ガイドラインはこう書いています——「手掌・足底の発汗は、発生学的にはマウスやイヌ、ネコの足裏の肉球における発汗と同一である。動物の足裏の発汗は敵から逃げるときや高いところに飛び移るときなどの『滑り止め』の役割を持つ」。

ヒトでは暗算、恐怖、痛み、不安などの精神的負荷や深呼吸、触刺激で誘発されるため、精神性発汗と呼ばれます。

ここが決定的なところです。手のひら・足の裏は、温熱刺激では汗が出ません。そして睡眠中は止まります。だからガイドラインは「温熱性発汗中枢(視床下部体温調節中枢)とは別の中枢支配と考えられる」としています。

つまり手汗は「暑いから出る汗」ではないのです。緊張したときに出るのは、気の持ちようではなく、そういう回路があるからです。

部位体にとっての意味(ガイドラインの説明)
手のひら・足の裏動物の肉球と同じ「滑り止め」。精神的な緊張で出る(精神性発汗)。温熱では出ず、睡眠中は止まる
頭部・顔面「脳冷却」——高温に弱い脳を守るため。辛いもの(カプサイシン)がTRPV1を刺激して出る味覚性発汗もここ
わき体温調節が主体。ただし発汗開始の体温閾値が全身でもっとも低く、腕でふさがれて汗が蒸発しにくいため、少量でも「汗が多い」と自覚されやすい

わきの説明は、悩んでいる方には少し救いになるかもしれません。「わきは、もともと少しの汗でも目立ちやすい場所」だと学会が書いているということです。

もうひとつ、掌蹠多汗症の方に知っておいてほしい記述があります。「汗で長時間湿潤した皮膚は汗疹を生じやすく、表皮が浸軟して剝脱する。さらに真菌や細菌、そしてウイルスの感染を起こしやすいため、足白癬や尋常性疣贅を認めることがある」

汗が多いと、水虫やイボができやすくなります。足の汗で悩んでいて、皮がむけている——という場合は、両方が同時に起きているかもしれません(→足白癬・爪白癬の記事)。

4. 【チェック】診断基準は、6項目のうち2つ

ここが、この記事でいちばん実用的なところです。診断基準は、自分でも確認できます。

ガイドラインが採用しているのはHornbergerらの基準です。局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま6か月以上認められ、次の6症状のうち2項目以上あてはまる場合を多汗症と診断します。

多汗症の診断基準(6項目のうち2つ以上) 前提:明らかな原因がないまま、6か月以上つづいている 1 最初に症状が出たのが 25歳以下 2 左右そろって(対称性に)汗が出る 3 睡眠中は汗が止まっている 4 1週間に1回以上、多汗のエピソードがある 5 家族にも同じ人がいる(家族歴) 6 そのために日常生活に支障が出ている ※3が緑なのは、ここが「別の病気ではない」ことの重要な手がかりだからです(6章)

『原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版』11. 臨床症状と検査(Hornbergerらの診断基準)より作成。

この6項目を眺めると、多汗症という病気の姿が見えてきます。

左右そろって出る。寝ているあいだは止まる。家族にも同じ人がいる。若いうちから始まる。

これは「気にしすぎ」でも「汗っかき」でもなく、体質として受け継がれた発汗の回路が過剰に働いている状態だということです。ガイドラインも「遺伝的に生じた発汗系交感神経の病的な過活動と考えられる」と書いています。

診察では、これに発汗の検査が加わることがあります。ヨウ素とでんぷんを使って汗を色で見るヨード紙法・Minor法、ろ紙の重さで測る重量計測法などです。ガイドラインは「簡便な定性的測定のみでも日常診療では十分対応できる」としています。大がかりな検査は必要ありません。

5. 重症度は、4段階で決まります

治療を決めるうえで、もうひとつ大事なのが重症度です。HDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)という4段階のスケールが使われます。

スコア状態
1発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
2発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある
3発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
4発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある
3・4を重症の指標とします。

注目してほしいのは、このスケールが測っているのが「汗の量」ではなく「生活への支障」だということです。

汗の量は人と比べられません。けれど「日常生活に頻繁に支障があるか」なら、自分で答えられます。そして日本の調査では、多汗症の方の46.8%がHDSS 3または4でした。

受診のとき、この数字を伝えてください。

「汗が多くて」と言うより、「HDSSでいうと3です。手のひらの汗で書類が濡れて、仕事に頻繁に支障が出ています」と言えると、話が一気に進みます。

重症度によって、使える治療が変わるからです。たとえばわきのボツリヌス毒素注射は、重症例に限って保険が使えます。

6. 【重要】まず「汗以外の病気」を除きます

ここは安全に関わる章です。汗が増えることが、別の病気のサインであることがあります。

ガイドラインは多汗症をこう分類しています。

分類内容
全身性多汗症全身の発汗が増加するもの。原発性(特発性)と、他の疾患に合併して起きる続発性がある
局所性多汗症体の一部のみ発汗量が増加するもの。この記事の主題である原発性局所多汗症はここ

そして続発性全身性多汗症の原因として、ガイドラインが挙げているのがこちらです。

見分けの手がかりは、診断基準の3つめにあります。

「睡眠中は発汗が止まっていること」——原発性局所多汗症は、寝ているあいだは止まります。

逆に言えば「寝汗がひどい」「寝間着を替えるほど濡れる」という場合は、原発性ではない可能性を考えます。左右のどちらか片方だけに出る場合も、対称性という基準から外れます。

目安を整理します。次のような場合は、汗そのものより背景を調べる必要があります。

こんなとき考えること
大人になってから急に始まった原発性は25歳以下の発症が基準のひとつです
寝ているあいだも汗が出る原発性局所多汗症は睡眠中に止まります
体全体から出る全身性多汗症の可能性。原因のある続発性かどうかを調べます
体重が減った・動悸がする甲状腺機能亢進症で汗が増えることがあります(→甲状腺の記事
微熱が続く感染症などの可能性
片側だけに出る対称性という基準から外れます。神経の問題を考えます
新しい薬を始めてから増えた薬剤性の可能性。お薬手帳を持参してください

「汗が多いだけ」で片づけないほうがよい場合がある——ここは覚えて帰ってください。

7. 【核心】治療を、推奨度で並べる

ここがこの記事の中心です。ガイドラインは10の臨床疑問(CQ)それぞれに推奨度をつけています。推奨度の意味は次のとおりです。

推奨度意味
A行うよう強く勧められる
B行うよう勧められる
C1行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない
C2根拠がないので勧められない
D行わないよう勧められる

そして、このガイドラインのいちばんの特徴がこれです。推奨度が、部位ごとに違います。

多汗症の治療:部位によって推奨度が違います 治療 わき 手のひら 足の裏 頭・顔 塩化アルミニウム外用 B B C1 C1 外用抗コリン薬(保険適用) B B C1 C2 水道水イオントフォレーシス C1 B B C2 ボツリヌス毒素の局所注射 B C1 C1 C1 内服薬(抗コリン薬など) 局所多汗症に対して C1 交感神経遮断術(手術) C1 B(重症) C1 機器による治療(マイクロ波・高周波など) C1(わきに対して) 神経ブロック C1 B=行うよう勧められる  C1=考慮してもよいが十分な根拠がない C2=根拠がないので勧められない ※精神(心理)療法は、催眠療法・バイオフィードバック・自律訓練法がC1、認知行動療法がC2です ※イオントフォレーシスの手のひら・足の裏は「掌蹠多汗症」としてまとめて評価されています

『原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版』CQ1〜CQ10の推奨度より作成。

この表から読み取ってほしいこと。

推奨度Bがついているものは、部位ごとに違います。わきなら塩化アルミニウム・外用抗コリン薬・ボツリヌス。手のひらなら塩化アルミニウム・外用抗コリン薬・イオントフォレーシス。同じ「多汗症の治療」でも、有効性が確かめられている部位は決まっています。

そして頭部・顔面はC1とC2ばかりです。ここは正直に書きます——顔と頭の汗は、いまのところ手立てが乏しい部位です。

だからこそ、受診のときは「どこの汗で困っているか」から伝えてください。それで道筋が決まります。

8. 第一歩は、塩化アルミニウムです

ガイドラインが最初に置いているのが、これです。

CQ1:塩化アルミニウム外用療法は多汗症に有効か?

推奨文「原発性局所多汗症において、塩化アルミニウム外用療法はまず行ってよい治療である。重症度に応じて、単純外用から密封療法(ODT)まで指導するとよい」

推奨度:わき B/手のひら B/足の裏 C1/頭部顔面 C1

塩化アルミニウムは、制汗剤の成分として100年以上使われてきたものです(1916年に最初の記載があります)。仕組みも解説されています——角層のなかの汗の通り道(汗管)に沈着して、そこを塞ぐ

そして、続きが大事です。「汗の分泌細胞自体は障害をうけないが、長年表皮内汗管がダメージを受け続けることで分泌細胞の機能的、構造的な変性がおこり廃用性萎縮の結果、分泌機能を失う」——だから「継続した外用が望ましい」とされています。

状況ガイドラインがすすめる塗り方
わきの多汗症/手足の軽症/頭部顔面単純外用(そのまま塗る)
手のひら・足の裏の中等症〜重症ODT療法(塗ったうえから覆って密封する)が望ましい

医療機関で使う濃度も具体的に示されています。一般的な院内製剤は20%角層の厚い手のひら・足の裏には50%。エタノールを含まないタイプは刺激が少なくODTに適する、といった使い分けまで書かれています。

ここは正直にお伝えします。

ガイドラインには「塩化アルミニウムは現在、保険診療に適用のある外用薬がなく、院内製剤として一般的に処方されている」と書かれています。つまり保険がきく既製の薬はなく、医療機関がその場で調製しているということです。

また副作用として刺激性接触皮膚炎が起こりえます。しみる、赤くなる、かゆくなる場合は続けないでください。ガイドラインも「十分な説明と同意を得ることが必要」としています。

9. 市販の制汗剤を選ぶときに見るところ

前章のとおり、塩化アルミニウムは市販の制汗剤にも使われている成分です。「まず行ってよい治療」と学会が書いている以上、最初の一手として市販品から試すのは理にかなっています。

そのうえで、選ぶときと使うときに見ていただきたい点を3つ挙げます。

見るところ理由
成分に塩化アルミニウムがあるかガイドラインが推奨度をつけているのはこの成分です。制汗剤にはほかの成分のものもあります
濃度院内製剤は20%(手足は50%)。市販品はこれより低濃度のことが多く、同じ成分でも同じ効果とは限りません
塗る時間帯と方法ガイドラインが引く研究では夜間にODTで行われたものが多く、20%外用の効果は48時間以内と報告されています

そして、いちばん大事なこと。

市販の制汗剤は「最初の一手」であって、そこで行き止まりではありません。

ガイドラインは重症度に応じた段階的な治療を示しています。市販品で足りなければ、皮膚科でより高濃度の院内製剤保険が使える塗り薬イオントフォレーシスボツリヌス注射——と、次の段階が用意されています。

この記事でお伝えしたいのは、「制汗剤でだめだったから、もう打つ手がない」ではないということです。0.7%という数字は、その次の段階にたどり着けていない人が多いことを表しています。

10. 【2020年以降の新顔】保険が使える塗り薬

ここが、この5年でいちばん変わったところです。

CQ2:外用抗コリン薬は多汗症に有効か?

推奨文「原発性腋窩多汗症と原発性手掌多汗症において、保険適用の外用抗コリン薬による治療は行うことが勧められる。現在のところ、腋窩と手掌部位以外の投与については十分検証されておらず現状では適応はない」

推奨度:わき B/手のひら B/足の裏 C1/頭部顔面 C2

2020年11月にわき用が、2023年6月に手のひら用が保険適用になりました。汗の分泌を指示する神経の伝達を、塗った場所で抑える薬です。

根拠として引かれているのは、697人を対象とした多施設共同・無作為化・二重盲検・基剤対照比較試験(ATMOS-1/ATMOS-2)と、それに続く44週間の長期投与試験です。日本国内でも497人の試験が行われています。

お子さんにも使われています。

ガイドラインは、この試験に9歳から16歳の小児も含まれていたことに触れ、「有効性については成人と同様に有意差をもって効果を認めた」としています。

3章で見たとおり、手のひらの多汗症は平均13.8歳、小学校就学時期から始まります。「大人になってから考えよう」ではなく、いま困っているなら相談できるということです。

副作用も具体的に示されています。抗コリン作用によるもので、口渇16.9%、霧視(かすみ目)6.7%、散瞳5.3%、排尿障害4.2%、鼻腔の乾燥3.6%、ドライアイ2.9%。ガイドラインは「内服と比較して全身性の副作用が少なく」としつつ、「投与にあたり十分説明を行った上適切に使用することが望まれる」としています。

塗った手で目をこすらない——これは実際の使用でとても大事な点になります。使い方は必ず処方時に確認してください。

11. 水道水イオントフォレーシス——手足の選択肢

あまり知られていませんが、手のひら・足の裏に対しては推奨度Bがついている治療です。

CQ3:水道水イオントフォレーシス療法は多汗症に有効か?

推奨文「水道水イオントフォレーシス療法は掌蹠多汗症に対しては行うことが勧められる。腋窩多汗症に関しては行うことを考慮しても良い。頭部顔面多汗症に対して行うことは根拠がないので勧められない

推奨度:手のひら・足の裏 B/わき C1/頭部顔面 C2

水を張った容器に手や足をひたし、弱い電流を20〜30分間流す治療です。ガイドラインは5〜15mAの直流電流、0〜20mAの交流電流という条件を挙げています。薬を使わないため、薬が合わない方や、飲み薬を避けたい方の選択肢になります。

手足の多汗で困っている方には、覚えておく価値のある名前です。すべての施設にあるわけではないので、受診の際に「イオントフォレーシスはできますか」と聞いてみてください。

12. ボツリヌス——わきは保険が使えます

シワの治療で知られるボツリヌス毒素ですが、多汗症では汗の分泌を抑える目的で使われます。

部位推奨度ガイドラインの記述
わきB「海外を含め本邦でも大規模な比較試験が行われており、その有用性が示されている」。2012年11月から重症型に対して保険診療の適用
手のひら・足の裏C1発汗量を減少させ有効であるが、投与量や有効期間にばらつきがある
頭部・顔面C1QOLの改善に有効。ただし本邦では現在保険診療として認められていない

ポイントは2つです。

1つめ。わきの重症多汗症には、2012年から保険が使えます。13年以上前からです。それでも知られていません。

2つめ。手のひら・顔は保険適用ではありません。美容クリニックで自由診療として提供されていることがありますが、ガイドライン上の推奨度はC1(考慮してもよいが十分な根拠がない)だと知ったうえで判断してください。

13. 飲み薬という選択肢と、その限界

飲み薬もありますが、局所多汗症に対する推奨度はC1です。

ガイドラインが挙げているのはプロパンテリン臭化物(プロ・バンサイン)などの抗コリン薬です。塗り薬と違って全身に作用するため、複数の部位で困っている方や、行事の前など限られた場面で使われることがあります。

ただし、注意点がガイドラインに明記されています。

抗コリン薬については認知症のリスクの増加に関する記述があり、ガイドラインは日本老年医学会の『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』を参照しています。

塗り薬が「内服と比較して全身性の副作用が少ない」と評価されているのは、この裏返しです。だから順番としては、外用が先、内服は次になります。

14. 【要注意】手術の前に知ってほしいこと

この章が、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。

手のひらの多汗症に対する胸部交感神経遮断術(ETS)は、確かに強力です。ガイドラインは「手掌多汗症に対する交感神経遮断術の有効率はほぼ100%である」と書いています。

けれど、同じ文が続きます——「しかし中等度以上の代償性発汗の合併は患者の満足度を低下させる」

そして、ガイドラインはこの問題に独立した臨床疑問(CQ9)を割いています。

CQ9:代償性発汗は必ず起こるのか?治療法は?

推奨文「胸部交感神経遮断術後の合併症として、代償性発汗(CH)を無くすことは現時点ではできず、有効な治療法もない。このため術前のインフォームドコンセントは必ず行わなくてはならない

代償性発汗とは、手術のあとに体幹など別の場所から汗が出るようになる現象です。手のひらは乾くけれど、背中や胸から汗が出る。

ガイドラインの記述を、そのまま並べます。

原因が分かっておらず、元に戻す方法もない。

これが、手のひらの汗と引き換えに受け入れることになるものです。ここを知らずに手術を選ぶことがないように、と思ってこの章を書いています。

一方で、ガイドラインは減らす工夫にも触れています。「T2領域の遮断を避けることで不快なCHを減ずる可能性がある。手掌多汗症はT3以下の遮断でも十分な効果が期待できるためT2領域の遮断は避けるべきである」どこを切るかで結果が変わるということです。手術を検討する際は、この点を執刀医に確認してください。

顔面の多汗症についてはT2領域の遮断が必要になるため、「十分なるインフォームドコンセントを行い、理解と承諾を得たうえでなければ安易にETSを行うことは避けるべきである」と、さらに強い調子で書かれています。

推奨度も確認しておきます。交感神経遮断術は「既存治療に抵抗を示し、生活の質を大きく損なう重症手掌多汗症」に対してBわきと顔面はC1です。

「既存治療に抵抗を示し」——ここが条件です。塗り薬も、イオントフォレーシスも、注射も試したうえで、それでも生活が成り立たない。そこではじめて出てくる選択肢だということです。

15. エステや美容クリニックに行く前に

2章で引用したガイドラインの一文に、もう一度戻ります。

「未治療もしくは美容クリニック、エステティックサロンなどで不適切な処置がなされている」

学会がこう書く背景には、順番の問題があると思います。

多汗症は皮膚科で保険診療の対象になる病気です。診断基準があり、重症度スケールがあり、部位ごとに推奨度のついた治療があります。それを飛ばして自由診療から入ると、費用も、選択肢の順番も、まったく違うものになります。

治療保険の扱い(ガイドラインの記載より)
外用抗コリン薬保険適用(わき2020年11月〜/手のひら2023年6月〜)
ボツリヌス毒素(わき保険適用(2012年11月〜、重症型に限る
ボツリヌス毒素(手のひら・顔)保険適用外。推奨度C1
塩化アルミニウム保険適用のある外用薬はなく、院内製剤として処方
機器による治療(マイクロ波など)保険適用外。推奨度C1。ガイドラインは「有効性と安全性に関する結論を引き出すには不十分」と評価
交感神経遮断術保険適用だが代償性発汗への十分なインフォームドコンセントが前提

機器による治療(CQ8)について、ガイドラインの評価をそのまま引きます。「マイクロ波、超音波、高周波、レーザーを利用した少数の小規模なエビデンスレベルIIの報告があるが、良質な報告とは言えず、システマティックレビューもないため、有効性と安全性に関する結論を引き出すには不十分と考えられる」。

広告で見かけることの多い機器治療が、ここに位置づけられています。選ぶなとは申しません。ただ、順番は保険診療が先です。

16. 🚨 受診の目安と、上手なかかり方

こんなときおすすめの行動
4章の6項目のうち2つ以上あてはまる皮膚科へ。診断基準を満たす可能性があります
HDSSで3または4(頻繁に/常に支障がある)皮膚科へ。重症の指標です。使える治療の幅が変わります
市販の制汗剤で足りない皮膚科へ。より高濃度の院内製剤や、保険が使える塗り薬があります
お子さんが汗で悩んでいる受診できます。外用抗コリン薬の試験には9〜16歳も含まれています
寝汗がひどい・体全体から出る別の病気の可能性。汗そのものより背景を調べます(6章)
体重減少・動悸を伴う甲状腺の検査を含めて相談を(→甲状腺の記事
手術をすすめられている代償性発汗の説明を必ず受けてください(14章)。既存治療を試したかを確認
足の汗で皮がむける・かゆい足白癬の合併かもしれません(→足白癬・爪白癬の記事

診察室で伝えると話が早いこと、5つ。

  1. どこの汗で困っているか(手のひら/足の裏/わき/頭・顔)。これがいちばん大事です。部位で治療が変わります
  2. HDSSでいくつか(5章の4段階で。「日常生活にどれくらい支障があるか」で答えます)
  3. いつから始まったか(何歳ごろか。25歳以下かどうかが診断基準のひとつです)
  4. 睡眠中はどうか(止まるか、寝汗があるか。これで方向が変わります)
  5. 家族に同じ人がいるか今使っている薬(お薬手帳を)

最後に、この記事の要点を3つだけ。

1. 多汗症は、診断基準のある病気です。6項目のうち2つ以上。10人に1人が経験しています。

2. この5年で、選択肢が増えました。2020年11月にわき、2023年6月に手のひらの塗り薬が保険適用になりました。「治療がない」は、もう正確ではありません。

3. 手術は最後です。代償性発汗は、原因も分かっておらず、元に戻す方法もありません。順番を飛ばさないでください。

17. よくある質問

汗が多いのは体質ですか。それとも病気ですか?

診断基準のある病気です。ガイドライン2023年改訂版は、Hornbergerらの基準を採用しています。

局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま6か月以上認められ、次の6項目のうち2項目以上あてはまる場合を多汗症と診断します。①最初に症状が出るのが25歳以下 ②対称性に発汗がみられる ③睡眠中は発汗が止まっている ④1週間に1回以上多汗のエピソードがある ⑤家族歴がみられる ⑥それらによって日常生活に支障をきたす

この基準を見ると、多汗症がどういう病気かが分かります。左右そろって出る。寝ているあいだは止まる。家族にも同じ人がいる。若いうちから始まる。

実際、発症年齢の平均は手のひらで13.8歳、足の裏で15.9歳、わきで19.5歳と報告されています。つまり多くの方が子どもや10代のころから困っています。そして日本人の有病率は10.0%です。

病院に行っても、どうせ何もしてもらえないのではありませんか?

その心配は、以前は当たっていた面があります。

2020年に日本国内で60,969人を対象に行われた調査では、多汗症の方の医療機関への受診経験率は4.6%、受診を継続できている人は0.7%でした。同じ調査で医師にも質問しており、「治療選択肢が少なく積極的な治療ができない」と答えた医師が58.2%いたと報告されています。つまり患者さんの側だけでなく、医療者の側にも手立てが乏しかったのです。

ただ、状況は変わりました。2020年11月に外用抗コリン薬が保険適用となり、さらに2023年6月には手のひらの多汗症に対する薬が保険適用で追加されました。ガイドラインが2023年に改訂され、同年12月にも一部改訂されているのは、この変化に対応するためです。

現在、推奨度Bがついている治療には塩化アルミニウム外用、外用抗コリン薬、水道水イオントフォレーシス、わきへのボツリヌス毒素注射などがあり、このうち外用抗コリン薬とわきのボツリヌス注射(重症例)は保険が使えます。「何もしてもらえない」は、もう正確ではありません。

市販の制汗剤で対応してもいいですか?

ガイドラインは塩化アルミニウム外用療法について「原発性局所多汗症において、塩化アルミニウム外用療法はまず行ってよい治療である」としています。推奨度はわき・手のひらがB、足の裏・頭部顔面がC1です。市販の制汗剤にも塩化アルミニウムを配合したものがあり、最初の一手としては理にかなっています。

ただし、知っておいていただきたいことが3つあります。

1つめは濃度です。ガイドラインが挙げる院内製剤の例は20%、角層の厚い手のひらや足の裏には50%が使われます。市販品はこれより低濃度のことが多く、同じ成分でも同じ効果とは限りません。

2つめは塗り方です。ガイドラインは重症度に応じて、単純に塗る方法から密封療法(ODT)まで指導するとよいとしています。わきや手足の軽症は単純外用、手のひら・足の裏の中等症から重症にはODTが望ましい、という書き分けです。

3つめは副作用で、刺激性接触皮膚炎が起こりえます。しみる、赤くなるといった場合は続けないでください。

なお塩化アルミニウムは保険適用のある外用薬がなく、医療機関では院内製剤として調製されています。市販品を試して足りなければ、次の段階が用意されている、という順番で考えてください。

手術で汗が止まると聞きました。受けたほうがいいですか?

急がないでください。ガイドラインは手掌多汗症に対する交感神経遮断術について「有効率はほぼ100%」としながら、同時に重大な問題を明記しています。代償性発汗です。

CQ9の推奨文はこうです。「胸部交感神経遮断術後の合併症として、代償性発汗(CH)を無くすことは現時点ではできず、有効な治療法もない。このため術前のインフォームドコンセントは必ず行わなくてはならない」

代償性発汗とは、手術のあとに体幹など別の場所から汗が出るようになる現象です。ガイドラインは「術後の多くの患者に発症することを認識した上で、十分なインフォームドコンセントが必要」とし、さらに「CHがなぜ発症するのかについても仮説のみで、科学的な論証は全くない」とも書いています。原因も分からず、元に戻す方法もありません。

手のひらの汗は止まっても、背中や胸から汗が出るようになり、それは元に戻せない。これが手術の実際です。

ガイドラインが交感神経遮断術に推奨度Bをつけているのは「既存治療に抵抗を示し、生活の質を大きく損なう重症手掌多汗症」に限られ、わきと顔面はC1です。塗り薬も注射も試したうえで、それでも生活が成り立たないときの選択肢だと考えてください。

急に汗が増えました。多汗症でしょうか?

その場合は、まず別の病気を除く必要があります。

ガイドラインは多汗症を、全身の発汗が増える全身性多汗症と、体の一部だけ増える局所性多汗症に分けています。そして全身性には、原因のない原発性のものと、他の疾患に合併して起きる続発性のものがあるとしています。

続発性の原因として挙げられているのは、結核などの感染症、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫などの内分泌代謝異常、神経疾患、そして薬剤性です。

ここで思い出していただきたいのが、診断基準の3つめ「睡眠中は発汗が止まっていること」です。原発性局所多汗症は寝ているあいだは止まります。逆に言えば、寝汗がひどい、寝間着を替えるほど濡れるという場合は、原発性ではない可能性を考えます。また、左右のどちらか片方だけに汗が出る場合も、対称性という基準から外れます。

目安としては、大人になってから急に始まった/体全体に出る/寝ているあいだも出る/体重が減った/動悸がする/微熱が続く/片側だけに出る——こうした場合は、汗そのものより背景を調べる必要があります。甲状腺の病気については別の記事にまとめました。

手のひらの汗と、手の湿疹は隣り合っています。

手湿疹診療ガイドラインは、5つの病型のひとつ「再発性水疱型(汗疱型)手湿疹」について、小水疱が出て夏期に増悪するとし、ニッケルなど金属アレルギーを伴うこともあるとしています。
また多汗症のガイドラインは、汗で湿った皮膚が感染を起こしやすいことにも触れています。汗の対策と、湿疹の対策は別のものです(→手湿疹(手荒れ)の記事)。

参考資料

なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。本文で述べたとおり、発汗の増加には甲状腺機能亢進症をはじめとする他の疾患が背景にある場合があり、診断には医師の診察が必要です。本文で紹介した推奨度・推奨文・診断基準・数値は日本皮膚科学会「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」にもとづくもので、個々の患者さんに適した治療は診察のうえで決まります。本文で挙げた外用薬・内服薬にはそれぞれ副作用や使用上の注意があり、すべての方に適するわけではありません。市販の制汗剤についても、刺激性接触皮膚炎などが生じる場合は使用を中止してください。処方されている薬を自己判断で中止・変更しないでください。保険適用の範囲は変更されることがあります。掲載内容は公開時点の情報にもとづいており、内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。