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MEDICALLY REVIEWED BEAUTY & HEALTH

シワ・タルミの美容医療
——10の施術のうち「強く推奨」は、1つだけです

日本皮膚科学会・日本形成外科学会・日本美容皮膚科学会・日本美容外科学会(JSAPS)・日本美容外科学会(JSAS)。この5つの学会が合同で、厚生労働科学研究費補助金の事業として『美容医療診療指針』をつくっています。
そして、それは誰でも無料で、全文を読むことができます。
そこには、シワ・タルミに対する10の施術それぞれについて、推奨度国内での承認状況が書かれています。「行うことを強く推奨する」は1つだけ「行わないことを強く推奨する」も、1つあります。
広告ではまず目にしない情報を、一次資料から整理します。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年9月3日 読了:約19分

1. 先に結論

広告や口コミで見かける話『美容医療診療指針』の記述
美容医療にガイドラインはない5学会が合同でつくり、全文が無料公開されています(厚生労働科学研究費補助金の事業)
「弱く推奨」=効果はあるが控えめ推奨度2の定義は「利益の大きさは不確実である、または害や負担と拮抗している」
どれも一長一短10項目のうち「行わないことを強く推奨する」が1つあります(非吸収性フィラー)
最新の機器ほど良いHIFUは「すべて国内未承認」、スレッドリフトは承認された糸が1種類もありません
糸のリフトは長持ちする「12か月後にはほとんど効果が失われる」。客観評価では「術後の浮腫と炎症によるもの」
自分の血液だから安全PRPは生理食塩水より有意に優れた結果は得られませんでした。失明例の報告もあります
成長因子を足すと効果が高まるbFGF添加PRPは「行わないことを弱く推奨」。硬結・膨隆の合併症の約4割がこれでした
合併症はすぐ分かる実態調査では重度後遺症の3分の1が、施術から5年以上たって発生していました

この記事でいちばんお伝えしたいこと。

美容医療は、広告が最も派手で、公的な情報が最も届いていない医療分野です。

けれど実際には、5つの学会が合同でつくった診療指針が、無料で全文公開されています。そこには推奨度も、承認状況も、重篤な合併症も、そして「その研究はメーカーから資金を受けていた」という記述まで書かれています。

受けるか受けないかは、ご自身が決めることです。この記事は、決める前に読める資料が存在するということをお伝えするために書きました。

2. 【核心】5学会がつくった指針が、無料で公開されています

美容医療は自由診療です。保険が使えないぶん価格は医療機関が決め、広告も比較的自由に打てます。そのため「学会の指針のようなものは、この領域にはないのだろう」と思っている方が少なくありません。

あります。しかも、かなりしっかりしたものが。

『美容医療診療指針(令和3年度改訂版)』は、令和3年度厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)として作成されました。参加したのは次の5学会です。

指針の冒頭には、これがつくられた理由が書かれています。わが国の美容医療の課題として挙げられているのは、次の3つです。

1)合併症・後遺症の実態把握に関する信頼性の高い調査が行われていない
2)未承認医薬品・材料および医療機器が数多く使用されているが、質を担保し重大な合併症を回避するための共通の診療指針がない
3)再発防止のためのシステムの未整備

学会自身が、こう書いているということです。

そして注目すべきは、この指針が実際に医療現場を動かしたと報告されている点です。指針には、こうあります。「日本美容外科学会(JSAPS)が行っている美容医療実態調査においても、診療指針公表後は充填剤注入による乳房増大術等の施術件数が減少するなど、効果がデータとして示されるようになった」。

公表された指針を読んで、医師の側の行動が変わった。同じ資料を、受ける側も読めます。

この指針が扱っているのはシワ・タルミだけではありません。シミ・イボ、乳房増大術、腋窩多汗症、そして脱毛治療にも章が設けられています。脱毛の章については医療脱毛——学会は「脱毛」ではなく「減毛」と書いています、乳房増大術の章についてはバストの悩み——「行わないことを強く推奨する」と書かれた施術が2つありますにまとめました。

どこで読めるのか。

学会間の取り決めにより、各学会のホームページのみでの掲載となっています。日本皮膚科学会の一般公開ガイドラインのページから、PDFで全文が読めます(記事末尾に直接リンクを置いています)。

冊子体は『日本美容外科学会会報 Vol.44 特別号』として全日本病院出版会から4,400円で販売されていますが、PDFは無料です。

3. 【最重要】「推奨度2」の、本当の意味

この記事でいちばん知っていただきたいのが、この節です。

診療指針では、それぞれの施術に推奨度がつきます。1・2・0の3段階です。数字だけを見ると「1がいちばん良くて、2はそこそこ、0はダメ」のように読めてしまいますが、指針が定義している内容は、それとはかなり違います。

指針が定めている「推奨度」の意味 推奨度 1 行うことを強く推奨する / 行わないことを強く推奨する 得られる利益が、生じ得る害や負担を 明らかに上回る(あるいは下回る) 推奨度 2 行うことを弱く推奨する / 行わないことを弱く推奨する 得られる利益の大きさは 不確実である、または生じる害や負担と拮抗している =「効果はあるが控えめ」という意味ではありません 推奨度 0 決められない 有効性と安全性に関する根拠が不十分で、判断できない シワ・タルミの10項目のうち、8つが「推奨度2」でした。 出典:美容医療診療指針(令和3年度改訂版)「CQ作成作業 2.推奨度」

推奨度2は「利益と害が釣り合っている」または「利益の大きさが不確実」という判定です。

もう一度、指針の原文を引用します。

2:(治療を希望する患者には・条件によって)行うことを弱く推奨する(提案する)または、行わないことを弱く推奨する(提案する)
  推奨した治療によって得られる利益の大きさは不確実である、または治療によって生じる害や負担と拮抗していると考えられる

「拮抗している」。つまり、プラスとマイナスが釣り合っているということです。

カウンセリングで「学会のガイドラインでも推奨されています」と説明されたとき、それが推奨度2であれば、指針が言っているのは「利益と害が拮抗している」あるいは「利益の大きさがはっきりしない」ということになります。嘘をつかれているわけではありません。ただ、言葉の重みが、受け取る側の想像とかなり違うのです。

そしてもうひとつ。推奨度2には「行わないことを弱く推奨する」も含まれます。同じ「2」でも、意味は正反対です。数字だけを見ても分からないので、必ず推奨文とセットで確認する必要があります。

4. 【一覧】10の施術を、推奨度で並べる

『美容医療診療指針』第2章「シワ・タルミ」は、10のクリニカルクエスチョン(CQ)で構成されています。それぞれに推奨度と承認状況がついています。まず、全体を一枚にしてみます。

シワ・タルミ:10の施術と、その推奨度 施術 推奨度 国内の承認 ボツリヌス菌毒素製剤(表情ジワ) 1 | 強く推奨する 承認品あり ヒアルロン酸製剤の注入(シワ) 2 | 弱く推奨する 承認品あり ボツリヌス+ヒアルロン酸の併用 2 | 弱く推奨する 承認品あり フラクショナルレーザー(FLSR) 2 | 弱く推奨する 一部のみ 高周波(RF)による治療 2 | 弱く推奨する 1種類のみ 高密度焦点式超音波(HIFU) 2 | 弱く推奨する すべて未承認 スレッドリフト(糸のリフト) 2 | 弱く推奨する すべて未承認 PRP療法(多血小板血漿・単独) 2 | 弱く推奨する 未承認 bFGF添加PRP療法 2 | 行わないことを弱く推奨 適応外使用 非吸収性フィラーの注入 1 | 行わないことを強く推奨 未承認 「強く推奨する」は1つだけ。「行わないことを強く推奨する」も1つ。残る8つはすべて推奨度2でした。 出典:美容医療診療指針(令和3年度改訂版)第2章「シワ・タルミ」CQ2-1-1〜CQ2-6

同じ「2」でも、いちばん下から2番目は「行わない」ほうの2です。

この一覧が示していることは、シンプルです。

ここから先は、ひとつずつ見ていきます。

5. たった1つの「強く推奨」——ボツリヌス菌毒素製剤

CQ2-4「顔面の表情ジワの改善にボツリヌス菌毒素製剤による治療は有効か?」に対する推奨度は1(治療を希望する患者には、行うことを強く推奨する)。推奨文は「ボツリヌス菌毒素製剤注入により、顔面の表情ジワの改善が期待できる」です。

強く推奨された理由は、指針の言葉ではこうです。「ボツリヌス菌毒素菌製剤は重篤な副作用の報告がなく、また副作用が生じても可逆性であることから、安全性の高い治療と言える」。

可逆性、つまり時間がたてば元に戻る。これがこの治療の性格を決めています。効果が続くのも一時的ですが、副作用が出ても一時的です。指針が推奨度1をつけたのは、利益が害を明らかに上回ったという判断です。

歴史も書かれています。1977年にScottらが斜視の治療にA型ボツリヌス菌毒素を臨床応用し、1992年にCarruthersらが眼瞼痙攣の治療中に表情ジワも消えたことから眉間のシワへの効果を報告しました。もともと、まぶたのけいれんの治療から生まれた使い方です。現在では80か国以上で使われています。

ただし、いちばん多い「副作用」は、意外なものでした。

指針は、2005年に報告された米国FDA(食品医薬品局)の副作用集計を紹介しています。美容目的と治療目的の両方を集計したもので、重篤な副作用は認められませんでした。

そして最も多かった報告は——「効果が認められなかった」で63%。次いで注射部位の局所反応が19%、眼瞼下垂が11%でした。

つまりFDAに寄せられた声のうち、6割以上は「危険だった」ではなく「変化がなかった」という内容だったということです。

国内の臨床試験のデータも具体的に載っています。目尻の表情ジワを対象にした試験(24単位および12単位)では、294例中70例(23.8%)に初回治療後90日以内の有害事象が報告されましたが、副作用と判断されたものはありませんでした。目尻と眉間を同時に治療した試験では、100例中28例(28.0%)に有害事象があり、44単位を投与した群では47例中4例(8.5%)に眼瞼下垂が、32単位の群では53例中2例(3.8%)に眼瞼下垂が生じました。

量が増えると、まぶたが下がる方が増える。単位数は、効果だけでなくこの数字にも関わります。

2016年のメタアナリシスでは、眉間のシワに対する治療でのプラセボに対する副作用の相対リスクは1.47(95%信頼区間 1.23〜1.77)で、内容は著明な頭痛、眼瞼下垂、まぶたの重さでした。

指針は最後にこう付け加えています。「短時間で効果を得られる可逆的治療であるためニーズが高くなる一方で、全ての患者に対して適応になるとは限らないため、厳格に適応を見極めていけば顔面の表情ジワの改善に有効であると言える」。

推奨度1の治療にも、適応の見極めという前提がついています。

6. たった1つの「行わないことを強く推奨」——非吸収性フィラー

CQ2-3「顔のシワに、非吸収性フィラー製剤の注入治療は有効か?」に対する推奨度は1(行わないことを強く推奨する)。推奨文はたった一行です。

「非吸収性フィラー製剤の注入を推奨しない。晩期合併症の危険性があり、除去が困難である。長期経過での安全性が確立されていない」

非吸収性フィラーとは、体内で分解・吸収されない充填剤のことです。ポリアクリルアミドハイドロジェル(PAAG)やシリコンゲルなどがこれにあたります。ずっと残るため、繰り返し入れ直す必要がない——それが売りでした。

指針の「有効性・安全性・承認状況」の欄には、こう書かれています。

「有害事象を生じなかった場合に限り」という限定つきの有効性。医学文書としては、かなり強い表現です。

解説文には、実際に報告された経過が並んでいます。

研究結果
315人・二重盲検の非劣性試験(12か月)吸収性フィラーと同程度の効果、有害事象も同じ発生率。ただし12か月以降の中長期合併症は不明
251人を5年間追跡した多施設前向き研究53件の有害事象(硬結・発赤・疼痛・感染)と2件の重篤な有害事象(膿瘍形成・慢性肉芽腫)
104名の後ろ向き調査皮下移動3%、浮腫2%、疼痛1%。顔面への5mL以上の注入を避けるべきとされた
4年間で15症例の合併症を経験した施設短期は腫脹・血腫・発赤・疼痛・搔痒。長期は肉芽腫・輪郭変形・陥凹・皮下移動
組織生検による調査中長期の合併症として肉芽腫。マクロファージ・異物巨細胞・注入フィラーの混合物だった
世界約4万人へのアンケート調査注入から発症まで2〜364日(中央値12日)と幅広い。腫脹・硬結・潰瘍・麻痺

とくに重いのがシリコンゲルについての記述です。「シリコンゲルは細胞膜に対して高い親和性を持ち、細網内皮系に沿って所属リンパ節、肝臓、および脾臓に移動する。シリコノーマと言われる炎症性結節を呈すると治療が困難であり、永久的な人体の損傷をもたらす」。

そしてラットでの比較試験では、ヒアルロン酸フィラーが薄い被膜に囲まれたままだったのに対し、PAAGフィラーは周辺組織に浸潤し、除去が必要になった場合に手術が困難になることが示されました。

指針の結論はこうです。「非吸収性フィラーの顔面への使用は、異物遺残に由来する合併症リスクが中長期的に高まること、および有害事象発生後の摘出が極めて困難であることから、顔のシワ治療に非吸収性フィラーの注入は勧められない」。

ここが大事なところです。

非吸収性フィラーの問題は、「入れた直後に何か起きる」ではありません。12か月の試験では、吸収性フィラーと同じ成績でした。

問題が出るのはそのあとです。数年後の肉芽腫、輪郭の変形、皮下への移動。そして取り出すのが極めて難しい。

「ずっと残る」という売り文句は、そのまま「問題が起きても、ずっと残る」という意味でもあります。

7. ヒアルロン酸——年間14万件と、失明が起きる場所

CQ2-2-1「顔のシワ治療に、ヒアルロン酸製剤注入は勧められるか?」の推奨度は2(治療を希望する患者には、行うことを弱く推奨する)です。

推奨文はこうです。「ヒアルロン酸製剤注入は、簡便な施術で顔のシワの改善が期待でき、合併症は軽微なものがほとんどであるため、推奨することができる。ただし血管内への誤注入による皮膚壊死や失明などの重篤な合併症の報告があるため、十分な注意が必要である」。

件数はきわめて多い施術です。日本美容外科学会(JSAPS)の全国美容医療実態調査によれば、国内で年間14.9万件(2017年)、12.4万件(2018年)。指針も「すでに一般的な施術となっている」と書いています。

そして合併症のほとんどは軽微です。腫れ、痛み、発赤。ヒアルロン酸はムコ多糖類の一種で身体の構成成分でもあるため、器官や種の特異性がなく、理論上はアレルギー反応のリスクはないとされ、注入前の皮内テストは不要とされています(対照的に、ウシ由来のコラーゲン製剤は約3%に遅延型アレルギー反応の可能性があり、皮内テストと4週間の経過観察が必要です)。

問題は、まれに起きる重篤なほうです。

なぜ、顔への注入で目に届いてしまうのか 顔の皮膚を流れる動脈(外頸動脈系)と、眼や脳を養う動脈(内頸動脈系)のあいだには 吻合(=つながり)があります。 誤って血管内に注入された製剤が、この吻合を逆流し、 網膜中心動脈などを詰まらせると考えられています。 失明の報告が集中している部位 鼻部 / 眉間部 / 前額部 失明の報告が集中している = 顔のなかの「危険部位」 顎 / 口唇(顔面下部) 失明の報告は少ない ※ 他の合併症がないという意味ではありません 施術総数の把握が困難なため、発生率や有病率は明らかになっていません。 出典:美容医療診療指針(令和3年度改訂版)CQ2-2-1 解説文

同じヒアルロン酸でも、注入する場所によってリスクの質が変わります。

指針の記述を引用します。「最近の症例集積研究では、ヒアルロン酸製剤の注入を原因とする失明は鼻部、眉間部、および前額部への注入に集中しており、顎や口唇といった顔面下部へのヒアルロン酸製剤の注入を原因とする失明の発症の報告は少ないことから、顔面内でも危険部位とそうでない部位の存在が明らかになりつつある」。

治療についても正直に書かれています。ヒアルロン酸の分解酵素であるヒアルロニダーゼの投与が、動脈内投与や球後注射など様々な経路で試みられており、有効例も報告されていますが、「改善した症例数も少なく治療法が確立されたとは言えない」。

なお、そのヒアルロニダーゼ製剤自体が本邦未承認です。「入れたものを溶かせるから安心」という説明を受けたときは、そこも含めて確認する価値があります。加えて指針は、「吸収までに長期間を要したり、ヒアルロニダーゼ製剤に抵抗性を有するヒアルロン酸製剤は、可逆性であるというヒアルロン酸製剤の長所を失っていることに他ならない」と注意を促しています。持ちが良いことは、そのまま長所とは限らないということです。

ボツリヌス菌毒素製剤との併用(CQ2-2-2)も推奨度2で、「併用することで新たな合併症が生じたという報告は見られない」とされています。ただし「併用療法の合併症のほとんどはヒアルロン酸製剤によるもの」であることは変わりません。

8. 機器の治療——レーザー・高周波・HIFU

切らない、注射もしない。だから安心——という印象で選ばれることが多いのが、機器による治療です。指針は3つのCQを立てています。フラクショナルレーザー療法(FLSR)、高周波(RF)、高密度焦点式超音波治療法(HIFU)。

3つとも推奨度は2で、推奨文もほぼ同じ文章です。

「効果は外科手術や注入剤を用いた治療に及ばないが、瘢痕形成は稀であり体内に異物を残さないため、非外科的な方法でシワ、タルミの改善を希望する患者の選択肢の1つとして行うことを弱く推奨できる」(CQ2-1-1 フラクショナルレーザー)

ここに書かれている推奨の理由をよく読むと、「有効性が大きいから」ではありません。「効果は外科手術や注入剤を用いた治療に及ばない」と最初に認めたうえで、「瘢痕が残りにくく、体内に異物を残さないから」選択肢のひとつになる、という論理です。

言い換えれば、これらの機器治療が指針に推奨されている理由は、効果の大きさではなく、害の小ささです。

治療推奨度安全性・承認状況(指針の記述)
フラクショナルレーザー(FLSR)2色素沈着・熱傷・瘢痕形成などの副作用に注意。CO₂レーザー本体は承認済みが多いが、フラクショナル照射に必要なアタッチメントは1種類のみ承認
高周波(RF)2比較的安全だが熱傷・瘢痕形成に注意。現段階では1種類のみが医療機器として国内承認
高密度焦点式超音波(HIFU)2副作用として瘢痕形成、神経麻痺。十分な注意が必要。すべて国内未承認

HIFUについては、もう少し踏み込んだ記述があります。「レーザーのように選択的に組織を破壊することができないため、解剖学的な知識がないと皮下の神経や血管、筋肉などを傷害し、それに対応した副作用を発症する恐れがある」。

実際、施術後に眼窩上神経の支配領域にしびれや過敏性を生じた3名、下顎にしびれを生じた4名の報告が引かれています。顔面の運動神経麻痺の報告もあります(症例報告レベル)。

効果のデータは決して悪くありません。HIFUでは90日後に86%の患者で著明改善という報告があり、二重盲検の検討では90%に客観的な改善が見られています。下顎ライン、頬部、口囲は差が出やすい部位だと分かっています。RFではモノポーラRFを6か月で6回施術した結果、直後に約50%の改善率、最終施術から6か月後でも約30〜50%の改善率が維持されていました。

ただ、指針の推奨文は「外科手術や注入剤を用いた治療に及ばない」から動いていません。機器で得られる変化がどのくらいのものかは、この一文が端的に表しています。

もうひとつ、覚えておくと役に立つこと。

17名の眼周囲のシワを対象にした半顔ランダム化試験では、フラクショナルレーザーとHIFUを比べています。結果は「両者とも同等の高い有効性がみられたが、有意差はみられなかった」

別の試験では、Er:YAGレーザーの1回の施術が、Er:glassレーザーの3回の施術と同等でした。

「この機械でなければ」という説明を受けたときは、機種の違いが結果の違いとして確認されているのかどうか、聞いてみてください。

9. スレッドリフト——12か月後には、ほとんど失われる

糸で顔の組織を引き上げる、いわゆる糸リフトです。CQ2-6の推奨度は2(治療を希望する患者には、行うことを弱く推奨する)

ただし推奨文には、他のCQにはない条件がついています。

「スレッドリフトにより、一時的に顔のシワ・タルミの改善が期待できる。その効果が大きなものではなく、効果の持続期間が短期間なものであることを十分に説明の上、行うことを弱く推奨できる」

「効果が大きなものではなく」「持続期間が短期間」。推奨文そのものに、この2つが書き込まれています。

解説文はさらに具体的です。

最後の一文は、そのまま引用しました。指針が自ら書いています。

「溶ける糸が溶けるときにできる瘢痕が、引き上げを維持する」という説明を聞いたことがある方もいるかもしれません。指針はこれについても触れ、そうした報告はあるものの「それを客観的に示すデータは存在しないため、その意見を支持することは難しい」としています。

そして、この節でおそらく最も実務的な記述がこれです。

「最も有効と考えられる糸の種類、手技、糸の配置、使用する糸の数に関するコンセンサスは得られていない

どんな糸を使い、どう入れ、どこに配置し、何本入れるのがよいのか。その基本的な問いに、まだ答えが出ていないということです。「当院独自の入れ方」という説明が成り立ってしまう背景には、これがあります。

合併症の多くは軽微です。皮膚のくぼみ、左右差、皮下出血、糸が触れる感じ、痛み。多くは一時的で経過とともに改善します。ただし重篤なものとして、肉芽腫形成や感染のために糸の除去が必要になった例、顔面神経麻痺、まれに耳下腺管の損傷、浅側頭動脈の仮性動脈瘤の報告があります。

糸の種類による差も検証されており、知覚異常と糸の露出は、統計学的に有意に非吸収糸で多く認められました。

そして指針は、説明すべき事項のなかにこう書いています。「定期的な治療を行った場合には高額なコストが発生する可能性があること」。診療指針が費用について言及するのは、めずらしいことです。

最後に、承認状況です。「我が国でスレッドリフト用に承認された糸は1種類もなく、すべてが未承認品である」。

10. PRP——生理食塩水と、差が出なかった試験

PRP(多血小板血漿)療法は、自分の血液を採って遠心分離し、血小板を濃縮した血漿を注入する治療です。「自分の血液だから安全」「再生医療」という言葉とともに説明されることが多い施術です。

CQ2-5-1の推奨度は2(治療を希望する患者には、行うことを弱く推奨(提案)する)。推奨の理由は「シワに対して有効性ありと判断できるエビデンスのある論文が多くあること」です。

ただし解説文を読むと、その「多くある論文」の中身が見えてきます。

指針が引用している内容結果
信頼性の高いランダム化臨床試験(split face研究)コントロールの生理食塩水より有意に優れた結果は得られませんでした
欧米・国内をあわせた効果の程度いずれも50%未満とするものがほとんど
包括的レビューでの客観的測定研究の95%が有効性を主張していたが、客観的測定がなされたのは47%のみ
同レビューの結論調製および効果判定法に統一性がなく、美容外科領域でのPRP療法は推奨の判断には至らないとした
本邦での状況評価方法は写真によるものが主体で、ランダム化比較試験は行われていない

指針自身が「PRP単独療法の有効性の評価は明確ではない」と書いています。それでも推奨度2がついたのは、「比較的安全性が高い」ことと、質感や下眼瞼の色調・シワが改善したという報告が散見されることが理由です。

安全性についても、そのまま書かれています。多くの文献で重篤な合併症はなく、一過性の発赤、浮腫、熱感、痛み、圧痛、皮下出血などが認められました。頻度の高い合併症は圧痛23.4%、顔の圧迫感20.0%、腫脹20.0%。皮下出血や溢血斑が生じた場合、色が消えるまで1〜2週間かかるため、術前の説明が重要とされています。

ただし、2017年に世界で初めての報告がありました。

イエール大学の眼科アイセンターから、自家PRP注射後に視力を失った1例が報告されました。これは無資格施術者が眉間領域に注射した症例です。

指針はこう続けています。「専門医師が行っても、血管内に誤注入された場合はその血管の支配領域に皮膚壊死や、支配領域を超えて眼動脈の医原性閉塞が生じる可能性はある。特に眉間や前額部へのPRPの注入は注意が必要である」。

自分の血液であっても、血管に誤って入れば詰まります。「自家由来だから安全」という説明は、この点をカバーしません。

そしてもうひとつ。PRPは再生医療等安全性確保法の第三種にあたり、シワ・タルミの治療に用いる場合は認定再生医療等委員会の審査を経て厚生労働省への届け出が必須です。これは法律上の要件です。受ける前に確認できる、数少ない客観的なチェックポイントのひとつです。

そして、bFGFを足したものは「行わないことを弱く推奨」

CQ2-5-2は、PRPにヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、トラフェルミン)を添加する方法についてのCQです。推奨度は2(行わないことを弱く推奨(提案)する)

「bFGF(トラフェルミン)を添加した自家由来PRPの注入療法は安易には勧められない。注入部の硬結や膨隆などの合併症の報告も多く、bFGFの注入投与は適正使用とは言えない」

bFGF(商品名フィブラストスプレー)は、褥瘡や皮膚潰瘍に保険適用がある医薬品です。皮膚に噴霧する薬であって、注入するための薬ではありません。指針は「同製品のヒトへの注入投与についての有効性・安全性は確立されておらず、適正使用とは言い難い」と書き、製造元である科研製薬の「適正使用に関するお願い」を参照文献に挙げています。

そして数字があります。日本美容外科学会(JSAPS)会員へのアンケート調査で、注入部の硬結や膨隆などの合併症の約4割が、PRPとbFGFの混合注入によるものでした。

エビデンスの内訳も特徴的です。この項目はA(ランダム化臨床試験)が0本、B(非ランダム化臨床試験・観察コホート研究)も0本、C(専門家の意見)が9本。ランダム化された研究も、コホート研究も、1本もありません。

指針は、委員会での議論の様子まで書いています。「適正なプロトコール下での施術であれば安全かつ効果的であるという見解も出たが、bFGFが適応外使用であること、エビデンスレベルの高い論文がないこと、そして施術後の合併症を危惧するなど、実施を推奨するには依然として時期尚早であるとの見解が多数を占めた」。

硬結や膨隆が生じた場合、ステロイドの局所注射が日常的に行われますが、指針は「安全かつ確実な対処法とは言い切れない」としています。

11. 【論文の中身】26本のうち19本が「専門家の意見」

指針は、それぞれのCQについて根拠になった論文の本数を、種類別に明記しています。これは、あまり他のガイドラインでは見ない親切な書き方です。

分類は3つです。

なお、この本数には非臨床試験(ヒトを対象にしない論文)は含まれません。指針は「治療や施術の有効性のエビデンス・根拠としては非臨床試験を入れない」と明記しています。動物実験や試験管の実験は、有効性の根拠には数えないということです。

その内訳を並べてみます。

根拠になった論文は、何本で、どんな種類か A:無作為化試験 B:非無作為化・コホート C:専門家の意見 フラクショナルレーザー 3 6 5 計14本 高周波(RF) 3 7 計10本 HIFU 3 3 5 計11本 ヒアルロン酸注入 4 計5本 ボツリヌス+ヒアルロン酸 4 9 計14本 非吸収性フィラー 4 3 計7本 ボツリヌス菌毒素製剤 2 4 計6本 PRP(単独) 4 3 19 計26本 bFGF添加PRP 9 計9本 スレッドリフト 2 2 8 計12本 PRPは26本中19本が「専門家の意見」。bFGF添加PRPはA・Bが1本もありません。 出典:美容医療診療指針(令和3年度改訂版)各CQの「エビデンス」欄。非臨床試験は含みません。

論文の本数が多いことと、質の高い研究が多いことは、別のことです。

この図が示すことは、いくつかあります。

まずPRP。合計26本と、10項目のなかで最も多い本数です。しかしその内訳はA(ランダム化臨床試験)が4本、B が3本、C(専門家の意見)が19本。7割以上が専門家の意見です。「論文がたくさんあります」という説明は事実ですが、その中身はこうなっています。

次にbFGF添加PRPAもBも0本、Cが9本のみ。ランダム化試験も、コホート研究も、1本もありません。指針が「行わないことを弱く推奨」とした背景には、この空白があります。

そしてボツリヌス菌毒素製剤。合計6本と本数は少ないのですが、内訳はA2本・B4本で、Cが0本です。10項目のなかで唯一、専門家の意見に頼っていない項目でした。推奨度1がついたのは、偶然ではありません。

覚えておくと役に立つ見方。

「論文が何本あるか」ではなく「Aが何本あるか」。これが、ガイドラインを読むときの基本です。

本数が多いのに推奨が弱い項目は、たいていCが多い。本数が少なくても推奨が強い項目は、Aがある。指針が本数を公開しているのは、読む人にこの区別をしてほしいからです。

12. 【核心】「未承認」という言葉が意味すること

ここまで何度も「未承認」という言葉が出てきました。整理しておきます。

まず、未承認の医薬品・医療機器を医師が使うこと自体は、違法ではありません。医師が自らの責任において使用することは認められています。指針も未承認品の使用を前提として書かれており、フィラー製剤についてこう述べています。

「承認品だけでは、多様な施術をカバーしきれないことも事実であり、承認外の製剤も使用されている。承認外の製剤については、その成分構成、製造メーカーおよび安全性に関するデータが豊富であることに加え、米国食品医薬品局(FDA)の承認や欧州連合加盟国基準適合マーク(CEマーク)取得の有無なども考慮し、慎重に使用すべきである

そして指針は、承認された製剤について「第一選択として承認品を選択すべきである」とはっきり書いています。承認品は「高度管理医療機器」に分類されており、使用中に障害が起こった場合に生命や健康に重大な影響を与える恐れがあるため適正な管理が必要とされる区分です。

では、承認されているかどうかで何が違うのか。3つあります。

承認されている未承認・適応外使用
審査日本の審査機関が有効性と安全性を確認済み日本では確認されていません(海外で承認されている場合もあります)
健康被害の救済医薬品副作用被害救済制度などの対象になり得ます原則として、これらの救済の対象外です
情報の質添付文書があり、副作用や使用上の注意が公開されていますまとまった公的な情報が存在しないことがあります

2つめが、とくに知られていません。未承認の医薬品・医療機器や適応外使用によって健康被害が生じた場合、公的な救済制度は原則として使えません。

「未承認」は効果の話であると同時に、何かあったときに誰がどう補償するのかという話でもあります。

シワ・タルミの10項目でいえば、HIFUは「すべて国内未承認」、スレッドリフトは「承認品はなく、未承認品のみが使用可能」、PRPは「未承認」、bFGF添加PRPは「未承認(適応外使用)」、非吸収性フィラーは「未承認」。10項目のうち5項目です。

フラクショナルレーザーと高周波も、部分的です。CO₂レーザーの本体は承認されているものが多いものの、フラクショナル照射に必要なアタッチメントは1種類のみが国内承認を取得。高周波も現段階では1種類のみです。

この情報は、施術の名前ではなく使う機器・製剤の名前で決まります。「HIFU」という施術名ではなく、目の前の機械が承認されているかどうかです。だからこそ、製品名を聞くことに意味があります。

13. 【データ】有害事象の実態調査——回答率2.3%が語ること

指針の冒頭には、この事業の前身にあたる令和元年度の特別研究で行われた有害事象(合併症・後遺症)の実態調査の結果が載っています。美容医療で実際に何が起きているのかを、学会が合同で調べた数少ないデータです。

学会が合同で行った、美容医療の有害事象調査 3,093 施設 に調査を依頼 72 施設 が回答(回答率 2.3%) 1,535 件 の重度合併症・後遺症 回答したのは全体の2.3%。その72施設だけで、1施設あたり21.3件の有害事象を診療していました。 報告された内容の内訳 非外科的手技での 有害事象のうち 非吸収性充填剤+ヒアルロン酸で 8割 重度後遺症のうち 発生した時期は 1/3 は5年以上後 残りは5年以内 重度有害事象は高齢者に多く、後遺症では非吸収性異物注入後の異物肉芽腫が最多でした。 外科的手技では眼瞼手術が最も多い起因施術でした。 出典:美容医療診療指針(令和3年度改訂版)「A 研究の背景」

回答率2.3%。この数字自体が、実態把握の難しさを示しています。

この調査から読み取れることを、順に見ていきます。

1つめ。回答率は2.3%でした。3,093施設に依頼して、答えたのは72施設。指針自身が「全体の回答率は2.3%と低かった」と書いています。つまり1,535件という数字は、氷山の一角ですらないかもしれないということです。有害事象の全体像は、いまだ分かっていません。

2つめ。非外科的手技での有害事象は、非吸収性充填剤とヒアルロン酸製剤の注入によるものが8割を占めました。切らない施術のなかで問題が起きているのは、圧倒的に注入です。

3つめ。重度後遺症の3分の1は、施術から5年以上たって発生していました。これがこの調査でいちばん重要な数字だと、私は思います。

「受けたあと何ともなかった」は、まだ結論ではありません。

非吸収性の異物を入れた場合、異物肉芽腫は何年もあとに出てくることがあります。実態調査で重度後遺症の3分の1が5年以上たってからだったのは、そのためです。

だからこそ記録を残してください。いつ、どこで、何という製品を、どこに、どれだけ入れたか。同意書と明細を保管しておくことです。

数年後に別の医療機関を受診したとき、その紙が診断を大きく助けます。とくに顔のしこりや腫れで受診したときに「過去に注入歴があるか」は決定的な情報になります。MRIやCTで異物が見つかっても、何を入れたか分からないと対応が難しくなります。

なお、外科的手技で有害事象の起因となった施術は眼瞼手術が最多でした。そして重度有害事象は高齢者に多く、それを診療しているのは主に形成外科(日本形成外科学会基幹施設からの回答率は44.3%と高い)でした。問題が起きた場所と、それを引き受ける場所が違っているという構図も、この調査は示しています。

14. 指針が、自分で書いている利益相反のこと

この指針を読んでいて、私がいちばん誠実だと感じた部分を紹介します。

CQ2-2-2(ボツリヌス菌毒素製剤とヒアルロン酸製剤の併用療法)の解説文の末尾に、こう書かれています。

「ボツリヌス菌毒素製剤とヒアルロン酸製剤の併用療法についての報告は、その大半が製剤メーカーからの資金援助を受けていたり、著者が製剤メーカーの役職を務めているなど何らかの利益相反を有していた。利益相反を有した研究は、診療指針作成には相応しくなく、不採用も検討されたが、多くの専門家が製剤メーカーの役職を務めている現状を鑑みて採用する方針とした」

使った論文の大半に利益相反があった。捨てることも考えたが、この分野ではそれをやると何も残らないので採用した——そう書いているのです。

同じことは、スレッドリフトの節でも書かれています。「スレッドリフトの有効性について高い満足度の結果を示しているものは、いずれもスレッドリフト糸の製造会社からの財政的支援を受けた研究であった」。

そして指針の作成者自身については、こうあります。「研究代表者、共同研究者、研究協力者の全てにおいて、それぞれの担当項目に関して申告すべき利益相反はなかった」。申告の基準も公開されています(企業からの役員・顧問職としての収入100万円以上/年、全株式の5%以上または100万円以上/年の株式利益、特許権使用料100万円以上/年、寄付講座への所属)。

ここから学べる、ひとつの見方。

「よく効いたという論文があります」と言われたとき、その論文に誰がお金を出したかは、結論と同じくらい大事な情報です。

この指針は、それを自ら書きました。同じ姿勢で情報に触れることが、受ける側にできるいちばん現実的な自衛だと思います。

15. シワ・タルミの最大の原因は、加齢ではありません

ここまで施術の話をしてきましたが、最後にいちばん大事なことを書きます。

顔のシワ・タルミの主な原因は、加齢そのものよりも紫外線による光老化です。同じ年齢でも、日光にあたってきた顔や首、手の甲と、ふだん服に隠れている腕の内側では、皮膚の状態がまったく違います。年齢の差ではなく、浴びた紫外線の量の差です。

ここが施術と決定的に違うところは、光老化への対策は今日から始められて、費用がほとんどかからず、そして推奨度が高いという点です。

指針のシミ・肝斑の章にも、同じ趣旨の記述があります。肝斑について「紫外線曝露および女性ホルモンが主たる悪化因子であることが知られており、特に紫外線曝露が発症要因として重要である」「肝斑の対処法としては遮光に留意することが必須で、この指導が最も重要である」。

レーザーで消してもまた出てくる、という悩みの背景には、この構造があります。原因が続いているかぎり、結果だけを消しても追いつきません。これはシワ・タルミでも同じです。

日焼け止めの選び方(SPFとPAの本当の意味、必要な使用量、塗り直しの間隔)については、別の記事で詳しく書いています。

順番のこと。

美容医療を否定したいのではありません。指針が推奨度1をつけた治療もありますし、必要な方には意味のある選択肢です。

ただ順番があります。日々の遮光と保湿を続けたうえで、それでも気になるところに対して施術を検討する。この順番だと、施術に求めるものが具体的になり、説明を受けるときの目が変わります。

逆に、遮光をしないまま施術だけを重ねると、同じ施術を繰り返すことになります。

日焼け止めの選び方については、日焼け止めの選び方・塗り方——SPF・PAの本当の意味と「量」の話で、必要な使用量と塗り直しの間隔まで書いています。シミの種類の見分け方はシミと肝斑——「消えるシミ」と「消えないシミ」の見分け方をご覧ください。

16. 🚨 受ける前に確認する5つと、困ったときの相談先

ここまでの内容を、そのまま使える形にまとめます。カウンセリングの場で確認できる5つです。

確認することなぜ、それを聞くのか
1. 診療指針での推奨度はいくつですか推奨度2は「利益と害が拮抗している」または「利益の大きさが不確実」。言葉の重みが変わります
2. 使う機器・製剤の製品名を教えてください承認されているかどうかは施術名ではなく製品で決まります。記録としても残ります
3. それは国内で承認されていますか未承認・適応外使用による健康被害は、公的な救済制度の対象外です
4. 効果はどのくらい続きますかスレッドリフトは12か月でほとんど失われると指針にあります。繰り返す費用も含めて考えるためです
5. 起こりうる重篤な合併症と、その対処法は注入なら皮膚壊死・失明、HIFUなら瘢痕・神経麻痺。指針はどのCQでも説明を求めています

この5つは、意地悪な質問ではありません。すべて診療指針に書かれていることで、指針は繰り返し「十分なインフォームド・コンセントの上、施術することが求められる」と述べています。答えられるのが本来の姿です。

受けたあとに、必ずしておくこと。

記録を残してください。施術日、医療機関名、施術名、製品名、注入した部位と量。同意書・明細書・領収書をまとめて保管します。

理由は13章に書いたとおりです。重度後遺症の3分の1は、施術から5年以上たって発生していました。そのとき、その紙が何より役に立ちます。

こんなときは、すぐに医療機関へ

どこに相談すればいいのか

指針は第6章を医療安全にあて、公的な相談先を明記しています。

「医療(美容医療を含む)に関する苦情や相談に対応する行政機関として、都道府県等が設置している医療安全支援センターがある。医療安全支援センターは、設置している都道府県等の区域内に所在する医療機関における医療に関する苦情や相談の対応や医療機関の管理者に対し、必要に応じ、助言を行うこととされている」

美容医療も明確に対象です。全国に設置されており、お住まいの都道府県・保健所設置市の窓口が利用できます(厚生労働省「医療安全支援センター総合支援事業」のサイトから探せます)。

順番としては、まず施術を受けた医療機関に連絡することです。そのうえで対応に納得できないとき、あるいはどこに相談してよいか分からないときに、この窓口があります。

なお、予期しなかった死亡という重大な事案については、医療機関の管理者が医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)に報告する義務があります。指針は「これまでに美容外科による医療事故の事例も報告されている」と記しています。

17. よくある質問

カウンセリングで「効果があります」と言われたとき、何を確認すればいいですか?

確認する言葉は2つです。ひとつめは推奨度、ふたつめは承認状況です。美容医療診療指針は、シワ・タルミに対する10の施術それぞれについて、この2つを明記しています。推奨度は1・2・0の3段階で、1は「利益が害や負担を明らかに上回る(あるいは下回る)」、2は「利益の大きさは不確実である、または治療によって生じる害や負担と拮抗している」と定義されています。ここが大事なところです。推奨度2は「効果があるが控えめ」という意味ではなく、「利益が害と釣り合っている、あるいは利益の大きさがはっきりしない」という意味です。シワ・タルミの10項目のうち8つが、この推奨度2でした。承認状況のほうは、その機器や薬剤が日本で医療機器・医薬品として承認されているかどうかです。指針には「すべて国内未承認」「承認品はなく、未承認品のみが使用可能である」と書かれた施術が実際にあります。この2つは指針の本文に書かれており、誰でも無料で読めます。カウンセリングの場で「この施術は診療指針では推奨度いくつですか」「承認品ですか」と尋ねてみてください。答えられるかどうかも、ひとつの判断材料になります。

未承認の機器や薬を使うのは、違法ではないのですか?

違法ではありません。医師が自らの責任で未承認の医薬品・医療機器を用いること自体は認められています。美容医療診療指針も、未承認品の使用を前提として書かれており、たとえばフィラー製剤について「承認品だけでは、多様な施術をカバーしきれないことも事実であり、承認外の製剤も使用されている」と述べたうえで、「その成分構成、製造メーカーおよび安全性に関するデータが豊富であることに加え、米国食品医薬品局(FDA)の承認や欧州連合加盟国基準適合マーク(CEマーク)取得の有無なども考慮し、慎重に使用すべきである」としています。ただし、承認されていないということは、日本の審査機関が有効性と安全性を確認していないということです。そして重要な違いがもうひとつあります。承認された医薬品・医療機器による健康被害には医薬品副作用被害救済制度・医療機器の同種の制度がありますが、未承認品や適応外使用による被害は、原則としてこれらの救済の対象になりません。国内で承認されているかどうかは、効果の話であると同時に、何かあったときに誰がどう補償するかの話でもあります。施術前に確認しておく価値があります。

ヒアルロン酸の注入で失明することが、本当にあるのですか?

あります。ただし頻度は不明で、起こる部位には偏りがあることが分かってきています。美容医療診療指針は、ヒアルロン酸製剤が血管内へ誤注入された場合について「その支配領域に皮膚壊死などの障害を引き起こすが、時に支配領域を越えて失明や脳梗塞などの重篤な合併症を生じることが報告されている」と記しています。仕組みも説明されています。顔の皮膚を流れる動脈は外頸動脈系ですが、これと脳や眼を養う内頸動脈系のあいだには吻合、つまりつながりがあります。外頸動脈系の枝に誤って注入された製剤が、この吻合を逆流して網膜中心動脈などを詰まらせると考えられています。そして指針は、症例をまとめた研究から分かってきたことを書いています。「ヒアルロン酸製剤の注入を原因とする失明は鼻部、眉間部、および前額部への注入に集中しており、顎や口唇といった顔面下部へのヒアルロン酸製剤の注入を原因とする失明の発症の報告は少ない」。つまり顔のなかでも危険な部位とそうでない部位があるということです。なお発生率や有病率は、施術総数の把握が困難なため明らかになっていません。指針は同時に、合併症のほとんどは腫れ・痛み・発赤などの軽微なものだとも述べています。鼻・眉間・額への注入を検討するときは、この記述をご存じのうえで説明を受けてください。

糸のリフト(スレッドリフト)の効果は、どのくらい続きますか?

美容医療診療指針の記述は、かなりはっきりしています。「効果の持続性を長期間にわたって観察した報告では、6か月後には効果は減弱しており、12か月後にはほとんど効果が失われるとされている」。さらに厳しい指摘が続きます。「ほとんどの研究は、スレッドリフトの有効性を主観的に評価したものであり、客観性に乏しいものであった」。そして「客観的に評価した研究では、その効果は短期的な結果しかもたらさず、その効果は術後の浮腫と炎症によるものであると結論づけている」。つまり客観評価では、引き上がって見えるのは腫れと炎症のためだとされたということです。加えて指針は、「スレッドリフトの有効性について高い満足度の結果を示しているものは、いずれもスレッドリフト糸の製造会社からの財政的支援を受けた研究であった」と書いています。それでも推奨度は2、行うことを弱く推奨するとされました。手技が簡便でダウンタイムが短く、合併症の多くが軽微だからです。ただし指針は、定期的に繰り返した場合に「高額なコストが発生する可能性があること」まで説明すべき事項に含めています。そして日本でスレッドリフト用に承認された糸は1種類もなく、すべてが未承認品です。

施術を受けたあとトラブルが起きたら、どこに相談すればいいですか?

公的な窓口があります。美容医療診療指針は第6章を医療安全にあて、そのなかで相談先を明記しています。「医療(美容医療を含む)に関する苦情や相談に対応する行政機関として、都道府県等が設置している医療安全支援センターがある」。医療安全支援センターは、その区域内の医療機関における医療に関する苦情や相談に対応し、必要に応じて医療機関の管理者に助言を行うこととされています。美容医療も明確にその対象です。全国に設置されており、お住まいの都道府県・保健所設置市の窓口を利用できます。また、予期しなかった死亡という重大な事案については、医療機関の管理者が医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)に報告する義務があり、指針は「これまでに美容外科による医療事故の事例も報告されている」と述べています。まず大切なのは、施術を受けた医療機関にきちんと連絡することです。そのうえで対応に納得できないとき、あるいはどこに相談してよいか分からないときに、医療安全支援センターがあります。なお、異物肉芽腫のように施術から何年も経ってから出てくる後遺症もあります。実態調査では重度後遺症の3分の1が施術から5年以上たって発生していました。過去に受けた施術の記録は、製品名まで含めて残しておいてください。

参考資料

なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。本文で紹介した推奨度・推奨文・承認状況・エビデンス論文数・合併症の記述および実態調査の数値は、すべて「美容医療診療指針(令和3年度改訂版)」(令和3年度厚生労働科学研究費補助金/日本皮膚科学会・日本形成外科学会・日本美容皮膚科学会・日本美容外科学会(JSAPS)・日本美容外科学会(JSAS)共同作成)にもとづくもので、公開時点の情報です。承認状況は変わることがありますので、実際の施術にあたっては医療機関にご確認ください。本記事は特定の施術・医療機関を推奨するものでも、否定するものでもありません。個々の方に適した選択は診察のうえで決まります。注入後に強い痛み・皮膚の色の変化・視力や視野の異常が生じた場合は、ただちに医療機関を受診してください。掲載内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。