1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| 検査で異常がないなら、気のせい | 異常がないのに症状が続く病気。健診受診者の11〜17%にみられる、ありふれた病気 |
| 胃もたれは「慢性胃炎」 | 慢性胃炎は胃に炎症がある状態。炎症と症状は必ずしも関連せず、FDと慢性胃炎は異なった次元の病気 |
| 薬を飲めばすぐに完全によくなる | どんな治療でもすぐに完全によくなるとは限らない。最初は症状が今より軽くなることを目指す |
| 胃の症状は、必ず胃カメラを受けるべき | 胃潰瘍や胃がんなどが疑われないときは、FDの診断に胃カメラは必須ではない。疑われるときは受けることが重要 |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
胃もたれやみぞおちの痛みが続くとき、まず確かめたいのは嘔吐の繰り返し・発熱・体重減少がないか。そのうえで、腹いっぱいまで食べない、脂肪の多い食事・お酒・コーヒーを控える、禁煙するといった生活の見直しが治療の基本です。症状が強い人は、がまんせずに早めに受診してください。
2. 機能性ディスペプシアとは
「ディスペプシア」とは、胃の痛みやもたれなどの不快な腹部の症状を指す医学用語です。ガイドは、胃カメラなどで調べても胃がんや胃潰瘍などのはっきりした病気が見つからない場合が少なくないこと、そのような人では胃のはたらき(機能)がわるくなったことが症状の原因ではないかと考えられたことから、「機能性ディスペプシア」という病名が生まれたと説明しています。
「FD とは、「症状の原因となる明らかな異常がないのに、慢性的にみぞおちの痛み(心窩部痛)や胃もたれなどのディスペプシア症状を呈する病気」を指します。」(日本消化器病学会「患者さんとご家族のための機能性ディスペプシアガイド2023」)
症状は人によってさまざまですが、専門的には次のように分けられます。
- 食後のもたれ感
- 早期飽満感(食事を始めてすぐにお腹がいっぱいに感じ、それ以上食べられなくなる)
- 心窩部痛(みぞおちの痛み)
- 心窩部灼熱感(みぞおちの焼けるような感じ)
ガイドは、FDの人は日ごろの生活の質(QOL)が障害されていること、治療で症状がよくなればQOLも回復するので、症状の強い人はがまんせずに早めに治療を受けることを勧めています。
3.【核心】原因はひとつではない
ガイドは、FDの原因はとても複雑で、ひとつだけの原因でFDになるわけではないとしています。次のような原因がひとつ、あるいはいくつか組み合わさって症状が起こると考えられ、とくに重要なのは①〜④です。
⑦の生活習慣は、自分で見直せる部分です。
ピロリ菌もFDの原因のひとつと考えられています。ガイドによると、ピロリ菌に感染している人で、除菌治療のあと半年から1年たって症状がよくなった場合は、ピロリ菌が原因だったと考え、「ピロリ関連ディスペプシア」として本来のFDと区別します。ピロリ菌に感染している場合は、除菌治療が行われます。
ピロリ菌の検査と除菌治療については胃潰瘍・十二指腸潰瘍とピロリ菌で書いています。
4. 胃カメラが必要なサイン
FDは、胃の痛みやもたれが慢性的に続き、検査で胃がんや胃潰瘍・十二指腸潰瘍などが見つからない場合に診断されます。ガイドは、症状に加えて年齢やこれまでの病歴、受けたことのある検査などから総合的に診断するとしています。
「嘔吐を繰り返す場合や発熱を伴う場合、体重減少を認める場合、治療を開始しても症状が軽快しない場合などには、必要に応じて胃がん、胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの疾患を除外するための胃の内視鏡検査(胃カメラ)、ピロリ菌感染の検査、血液検査や超音波検査、腹部CT 検査などを行います。」(同ガイド)
ガイドは、胃潰瘍や胃がんなどが疑われないときは、FDの診断に胃カメラは必須ではない一方、これらが疑われるときには胃カメラを受けることが重要だとしています。胃がん検診についてはがん検診の記事で書いています。
5. 生活の見直しが、治療の基本
ガイドは、FDの人では睡眠不足、運動不足、不規則な食事時間やかたよった食事内容など、生活習慣や食習慣が乱れていることがあり、これらを見直すことで症状がよくなることがあるとしています。
| ガイドが挙げていること | 内容 |
|---|---|
| 食べ方 | お腹いっぱいまで食べず、少しずつ分けて食べる |
| 食事の内容 | カロリーが高く脂肪の多い食事は胃もたれや胃の痛みを起こすことがあるので、避ける |
| 嗜好品 | お酒やコーヒーを控え、禁煙することで症状が軽くなることが期待される |
| ストレス | 症状のきっかけになるストレスがはっきりしている人は、ストレスの原因をできるだけ少なくする、受け止め方を変えるといった予防策をとる |
ガイドは、主治医との信頼関係もFDの治療に大切だとしています。そして、FDは治療で症状がなくなったあとでも、数か月のあいだに5人に1人くらいが再発するとされています。睡眠については睡眠の記事、お酒についてはお酒と肝臓の数値の記事で書いています。
6. 最初に使われる3種類の薬
FDの治療は主に飲み薬です。ガイドは、まず最初に使われる薬として3種類を勧めています。
| 薬 | ガイドの説明 |
|---|---|
| ① 胃酸が出るのを抑える薬 (プロトンポンプ阻害薬、H2受容体拮抗薬) | 胃酸に敏感に反応して痛みが出る場合に、胃酸を抑えて症状をよくする |
| ② 胃の動きをよくする薬 (アコチアミド) | 胃の動きが悪く食べ物が胃に長く残り、胃もたれや食事がとれない症状を改善する |
| ③ 漢方薬 (六君子湯) | 胃の動きをよくするだけでなく、精神的な不安も改善することがわかっている |
これらでよくならないときは、抗不安薬・抗うつ薬、ほかの胃の動きをよくする薬、ほかの漢方薬が使われます。それでもよくならない場合は、ほかの病気が隠れていないか検査を追加したり、心療内科で心理的なトレーニングなどの治療を行ったりすることがあります。
六君子湯など多くの漢方薬に含まれる甘草(かんぞう)は、量によって血圧が上がる「偽アルドステロン症」を起こすことがあります(→高血圧の陰に隠れたホルモンの病気)。
この章で扱った六君子湯の市販品です。日本消化器病学会のガイドは、FDでまず最初に使われる薬の3種類のひとつとして、漢方薬の六君子湯を挙げています。
※ 当サイトは、記事のなかで根拠を示したうえで推奨したものに限り広告を掲載しています。ガイドが書いているのは、医療機関で診断を受けたうえでの治療です。嘔吐を繰り返す、発熱がある、体重が減っているといった場合は、市販薬を使う前に必ず受診してください。ここで紹介しているのは、ツムラの六君子湯エキス顆粒(第2類医薬品・10包=5日分)です。添付文書に書かれた使い道(効能)は「体力中等度以下で、胃腸が弱く、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすいもの」の胃炎・胃腸虚弱・消化不良・食欲不振・胃痛などです。添付文書は、医師の治療を受けている人、妊娠中の人は服用前に相談すること、1か月くらい服用してもよくならない場合は服用をやめて相談すること、まれに肝機能障害(発熱・発疹・黄疸・褐色尿・全身のだるさなど)が起こることがあり、その場合は直ちに医師の診療を受けることとしています。
7.【内科医の視点】ほかの病気と重なることも多い
内科医として、ここはぜひ知っておいてほしいところです。ガイドによると、FDの人では次の病気が10〜50%の人に重なってみられます。
- 過敏性腸症候群(下痢や便秘を伴うお腹の張りや痛み)→過敏性腸症候群の記事
- 胃食道逆流症(胸やけ、すっぱいものが口まで上がってくる)→逆流性食道炎の記事
- 機能性便秘→便秘の記事
また、うつや不安などの気分障害もしばしば重なり、FDと診断される人のなかには胆のうや膵臓の病気が隠れている場合もあるとされています。「胃だけの問題」と決めつけず、症状が続くときは主治医と相談しながら、必要な検査を受けてください。
胆のうの病気のひとつ、胆石については健診で「胆石」と言われたらで書いています。
8. 受診したほうがよいとき
早めに受診したいとき
・嘔吐を繰り返す
・発熱を伴う
・体重が減っている
・治療を始めても症状が軽くならない
相談したいとき
・胃もたれやみぞおちの痛みが慢性的に続き、生活に支障がある(がまんせずに早めに)
・ピロリ菌の検査や除菌を受けたことがない
・胃の症状に加えて、下痢や便秘、胸やけ、気分の落ち込みや不安がある
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 検査で異常がないのに続く胃もたれ・みぞおちの痛み=機能性ディスペプシア。健診受診者の11〜17%
② 原因はひとつではない。胃の動き、知覚過敏、ストレス、胃酸、生活習慣など
③ 嘔吐の繰り返し・発熱・体重減少があれば、胃カメラなどの検査を
④ 腹いっぱいまで食べない、脂肪の多い食事・お酒・コーヒーを控える、禁煙
⑤ 最初の薬は、胃酸を抑える薬・胃の動きをよくする薬・六君子湯の3種類
9. よくある質問
胃カメラで異常がないのに、胃もたれが続きます。
日本消化器病学会の患者さん向けガイドによると、症状の原因となる明らかな異常がないのに、慢性的にみぞおちの痛みや胃もたれが続く病気を機能性ディスペプシア(FD)と呼びます。健康診断を受けた人の11〜17%、胃の症状で病院にかかった人の45〜53%にみられる、ありふれた病気です。症状の強い人は、がまんせずに早めに治療を受けることが勧められています。
機能性ディスペプシアと慢性胃炎は違うのですか?
ガイドによると、慢性胃炎は文字どおり胃に炎症がある状態で、胃の炎症の多くはピロリ菌によって起こります。しかし、胃に炎症がなくても症状があることや、炎症があっても症状がないことも多く、胃の炎症は必ずしも症状と関連しないことが明らかになってきました。FDと慢性胃炎は異なった次元の病気とされています。
食事で気をつけることはありますか?
ガイドは、お腹いっぱいまで食べずに少しずつ分けて食べること、カロリーが高く脂肪の多い食事は胃もたれや胃の痛みを起こすことがあるので避けること、お酒やコーヒーを控え、禁煙することを挙げています。睡眠不足や運動不足、不規則な食事時間などの生活習慣を見直すことで、症状がよくなることがあるとされています。
どんな薬が使われますか?
ガイドは、まず最初に使われる薬として、胃酸が出るのを抑える薬(プロトンポンプ阻害薬、H2受容体拮抗薬)、胃の動きをよくする薬(アコチアミド)、漢方薬(六君子湯)の3種類を勧めています。これらでよくならないときは、抗不安薬・抗うつ薬や、ほかの胃の動きをよくする薬、ほかの漢方薬が使われます。
どんなときに胃カメラを受けたほうがいいですか?
ガイドは、嘔吐を繰り返す場合や発熱を伴う場合、体重減少がある場合、治療を始めても症状が軽くならない場合などには、胃がんや胃潰瘍・十二指腸潰瘍などを除外するために、必要に応じて胃カメラやピロリ菌の検査、血液検査、超音波検査、CT検査などを行うとしています。胃潰瘍や胃がんなどが疑われるときには、胃カメラを受けることが重要とされています。
参考にした主な資料
- 日本消化器病学会「患者さんとご家族のための機能性ディスペプシアガイド2023」(2023年10月20日発行、Q1〜Q8)