1. 先に結論
ドライアイ診療ガイドラインから読み取れることを、先にまとめます。
| よく聞く話 | ガイドラインが書いていること |
|---|---|
| 涙の量が少ないのがドライアイ | 2016年に涙の量は診断基準から外れました。いまは「涙が5秒ももたない」+症状で診断します |
| 目薬はたくさん差すほどいい | 「回数が多すぎると涙液層の安定性を低下させてしまいます」。1日7回程度が目安 |
| 市販の目薬で十分 | 人工涙液は「弱い:提案する」。ヒアルロン酸・ジクアホソル・レバミピドは「強い:推奨する」で、いずれも処方薬 |
| 効く治療はどんどん使う | 「実施しないことを推奨する」(血清点眼)と「実施しないことを提案する」(シクロスポリン点眼)があります |
| 目薬は続けて差せばいい | 2剤以上なら5分あける。「すぐに点眼すると,先に点眼した液が,後に点眼した液によって洗い流されてしまいます」 |
| そのうち治る | 「現段階では,ドライアイを完治させる治療法はありません」 |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
ドライアイは「市販の目薬で様子を見る病気」から「診断して、層ごとに薬を選ぶ病気」へ変わりました。強い推奨がついている治療は4つあり、そのすべてが眼科で処方されるものです。市販の目薬を2〜3週間使って変わらないなら、それは受診の合図です。
なお、目の疲れ・老眼・アイフレイルといった目全体の話は目の健康|老眼・ドライアイと「アイフレイル」で扱っています。この記事はドライアイの診断と治療だけを、学会のガイドラインに沿って深く掘ります。
2. 2016年、診断基準が変わりました
いまのドライアイの定義は、2016年に改訂されたものです。
ドライアイは「様々な要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある」
読み飛ばしたくなる一文ですが、ここに大きな変更が含まれています。「涙液層の安定性」が中心に据えられ、涙の量が消えているのです。
| 2006年版 | 2016年版 | |
|---|---|---|
| 自覚症状 | 必要 | 必要 |
| 涙の量(シルマー試験) | 基準に含む | 外れた |
| 角膜・結膜の傷 | 基準に含む | 外れた |
| 涙が壊れるまでの時間(BUT) | 基準に含む | 中心になった |
BUTというのは涙液層破壊時間のことで、まばたきをやめてから涙の膜が破れるまでの秒数です。5秒以下が異常とされます。
なぜ変えたのか。ガイドラインは2つの理由を挙げています。ひとつは「Schirmer Ⅰ法値の低値は涙液層破壊時間(BUT)に反映されるうえに,ドライアイ診断における感度が必ずしも高くないこと」。もうひとつが重要です。
「角結膜上皮障害を認めなくても,涙液層の安定性低下があるだけで,角結膜上皮障害を有するドライアイと同程度の症状を呈しうることが分かってきたこと」
目に傷がなくても、同じだけつらい。これが分かったので、傷を条件から外したわけです。
影響を受けたのが、BUT短縮型ドライアイと呼ばれる一群です。症状があってBUTが5秒以下、しかし角膜や結膜に傷はない。こういう人たちがいます。
「2006年版の診断基準では,BUT の異常とドライアイ症状だけを示すBUT 短縮型ドライアイは,ドライアイ疑いと診断されて,ドライアイの確定診断がなされないために,治療対象とはなっていなかった可能性があるが,2016年版の診断基準によって確定診断されるようになった」
「検査では異常なしと言われたが、つらい」。そう言われ続けてきた人が、2016年から診断がつくようになったということです。心当たりがあって、しばらく眼科にかかっていない方は、いま行く価値があります。
3. 40歳以上の女性の21.6%。何が危険因子か
頻度から見ていきます。日本で最も大規模な住民ベースの調査(小海スタディ、40歳以上の3,294人)では、男性12.5%、女性21.6%がドライアイと報告されています。
海外の報告は3.3%から48.0%まで大きくばらつきますが、これは「ドライアイをどう定義したか」の違いが大きいとガイドラインは説明しています。共通しているのは、女性に多いことと加齢が危険因子であることです。
生活習慣についてはCQ4がまとめています。
| 要因 | 報告されている数字 |
|---|---|
| 画面作業(VDT作業) | 小海スタディ:女性の作業者は2.33倍/大阪スタディ:1日8時間超で1.94倍 |
| 喫煙 | 過去の喫煙歴で1.22倍、現在の喫煙で1.82倍 |
| 脂肪酸のバランス | オメガ3の摂取が1g増えると発症リスクが30%低下。オメガ6の比が高いとリスク増 |
| 睡眠 | 睡眠の質が悪いと発症しやすいと報告されています |
| コンタクトレンズ | 「症状を呈するリスクを高めるが,発症の危険因子となるかどうかは不明」 |
| 季節 | 冬から春にかけて有病率が高く、最も高かった月は4月(米国の研究) |
コンタクトレンズの評価は意外に感じるかもしれません。ガイドラインは「コンタクトレンズはドライアイ症状を引き起こす原因とはなり得るが,ドライアイの診断に至る状態を引き起こすものではないと考えられる」としています。多くの疫学研究では危険因子とされてきましたが、日本の診断基準できちんと診断した大阪スタディでは有意な危険因子になりませんでした。
睡眠の項目も見逃せません。目の乾きが睡眠とつながっている——これは睡眠の真実で扱ったテーマとも重なります。
4.【核心】治療を、推奨度で1枚に並べる
このガイドラインの価値は、治療ごとに推奨の強さがついていることにあります。しかもその区分は4段階で、「実施しない」側にも「強い」と「弱い」があるのが特徴です。
いちばん上の4つは、すべて眼科で処方される治療です。
| 推奨の強さ | 意味 |
|---|---|
| 強い:実施することを推奨する | 行うことが勧められます |
| 弱い:実施することを提案する | 行ってもよい、という程度です |
| 弱い:実施しないことを提案する | 行わないほうがよい、という程度です |
| 強い:実施しないことを推奨する | 行わないことが勧められます |
そして注意していただきたいのは、「強い:推奨する」に並んだ4つが、すべて眼科で処方される治療だということです。ヒアルロン酸点眼、ジクアホソルナトリウム点眼、レバミピド点眼、涙点プラグ。市販で手に入るものは、ひとつもありません。
5. 市販の目薬と、眼科の目薬は評価が違います
CQ8は、人工涙液とヒアルロン酸を同じ土俵で比べています。結果は、こうでした。
「人工涙液は,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する.ヒアルロン酸点眼は,自覚症状,涙液の安定性,角膜障害を改善し,治療の選択肢として推奨する」
人工涙液が「提案」にとどまった理由も、はっきり書かれています。
「ドライアイ患者への人工涙液点眼は,自覚症状を改善するが,治療の選択肢としては提案にとどめた.重大な有害事象はないものの,眼表面の滞留時間が短く,頻回に点眼が必要になることから眼表面への影響や患者負担を考慮した」
すぐ流れてしまうから何度も差すことになり、その回数が目にとって負担になる。——効かないから、ではありません。ここが次の章につながります。
一方のヒアルロン酸にも、正直な但し書きがついています。「重大な有害事象はないものの,涙液安定性への効果は軽微であり,また高濃度の製剤では粘稠度が高くなるため,さし心地に影響をもたらすこともあり,低濃度のものから試みることが望ましい」。
さらにガイドラインは、自分たちが使った論文について、こう書いています。
「ただし,利益相反に伴うバイアスリスクの存在が否定できず,アウトカムに重大な影響を与えている可能性があると考えられる」
製薬企業が関わった研究が含まれているため、効果が実際より大きく見えている可能性がある——と、ガイドライン自身が注意書きを添えているわけです。こういう記述があるガイドラインは、信頼できます。
そしてもうひとつ、市販の目薬を選ぶときに知っておきたいのが防腐剤です。CQ18が扱っています。
「ドライアイでは点眼回数が多くなり,また高度な涙液分泌減少を伴う場合は涙液クリアランス低下のため防腐剤の影響を受けやすく,特にBAK を含まない点眼を選択する必要があると思われる」
BAKは塩化ベンザルコニウムという防腐剤のことです。涙が少ない人ほど、差した薬が目の表面にとどまり続けます。つまり防腐剤にさらされる時間も長くなる。だから回数が多くなるドライアイでは、防腐剤のないものを選ぶ意味があります。ガイドラインは「BAKを含まない人工涙液は安価であり」とも書いています。
6. 差しすぎてはいけません——回数・順序・間隔
ガイドラインの末尾には「患者さんからの質問」という項目があり、ここがいちばん実用的です。
「たくさん差すほどよい」は、この病気では成り立ちません。
「ドライアイ治療における人工涙液の頻回点眼は,回数が少ないと水分補充効果が不十分で,回数が多すぎると涙液層の安定性を低下させてしまいます.その結果,ドライアイの悪化を招くこともありうるため,点眼回数に気を配ることが重要です.1日10回点眼するだけで,防腐剤が入っていなくても上皮が障害される可能性が指摘されているため,1日7回程度(多くても10回まで)が適当ではないかと思われます」
差せば差すほどよい、ではありません。差しすぎると涙の膜がかえって不安定になり、防腐剤が入っていなくても目の表面が傷む。これは、市販の目薬を手放せなくなっている方に、いちばん知っていただきたい一文です。
処方薬の回数の目安も書かれています。ヒアルロン酸は1日5〜6回、ジクアホソルナトリウムは1日6回、レバミピドは1日4回。そして「人工涙液,ヒアルロン酸,ジクアホソルナトリウム,レバミピドは,継続して使用しても問題ありません」とされています。
次に順序です。2種類以上出されたときのルールがあります。
「点眼薬の使用順序としては,基本的に水性点眼剤→懸濁性点眼剤→油性点眼剤→眼軟膏の順に点眼してください.また,2剤以上の場合は,各々5分間は間隔を空けてください.すぐに点眼すると,先に点眼した液が,後に点眼した液によって洗い流されてしまいます」
組み合わせによる細かい指示もあります。ジクアホソルナトリウムとヒアルロン酸を併用するなら、ジクアホソルナトリウムを先に、5分以上あけてからヒアルロン酸。ただしジクアホソルナトリウムで刺激を感じる場合は、順序を逆にします。人工涙液とヒアルロン酸なら、滞留性の高いヒアルロン酸を先に差し、後から人工涙液で保水させる方法が挙げられています。
薬をもらうときに「順番と間隔はどうすればいいですか」と聞いてください。それだけで効き方が変わります。
7.「実施しない」とされた治療が2つあります
ガイドラインの誠実さが出ているのが、この2つです。
ひとつめは血清点眼。自分の血液から作る点眼薬で、重症のドライアイに使われてきました。推奨は「強い:実施しないことを推奨する」です。
「血清点眼は,涙液の安定性ならびに上皮障害の改善に対する効果は明らかでないが,自覚症状を改善する.自家調剤であるため,すべての施設で使用することはできず,使用施設においても汚染に対する対策や費用徴収などで特別の考慮が必要である」
症状は改善する、と認めたうえで「実施しない」としています。理由は効果ではなく、どこでも安全に作れるわけではないことです。
ふたつめはシクロスポリン点眼。推奨は「弱い:実施しないことを提案する」です。
「抗炎症点眼療法としてシクロスポリン(CsA)点眼は,自覚症状と上皮障害を改善する.しかしながら,本邦では保険適用外であることを考慮して,治療の選択肢としては実施しないことを提案する」
こちらも効果は認めています。「実施しない」理由は、日本では保険が利かないからです。
この2つは、推奨度の読み方を教えてくれます。「実施しない」は「効かない」という意味ではありません。費用、安全に提供できるか、制度——そうした要素を含めた総合判断です。逆に言えば、海外の情報で「効く」とされている治療が、日本では勧められないことがあるということでもあります。
なお非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の点眼も「弱い:実施しないことを提案する」です。こちらは理由が違い、「自覚症状,涙液の安定性,上皮障害の改善に対し有効と判断する根拠はなく」とされています。
8. 涙は層でできている——層別治療という考え方
なぜ点眼薬がこれほど何種類もあるのか。答えは涙の構造にあります。
「目薬」とひとくくりにできません。狙っている層が違います。
日本で提唱されている考え方が眼表面の層別治療(TFOT)です。涙の膜のどの層が足りないのかを見分け、その層を補う薬を選ぶという発想です。見分ける方法のほうは眼表面の層別診断(TFOD)と呼ばれ、フルオレセインという色素を使って涙の膜がどう壊れるか(破壊パターン)を観察します。
ガイドラインによれば、この方法は「2016年版のドライアイの診断基準で欠けていたドライアイのサブタイプ分類(涙液減少型,水濡れ性低下型,および蒸発亢進型)を可能にする」ものです。
患者の側からすると、こういうことになります。「目薬が効かない」のではなく、「層が合っていない」ことがある。だから、1種類試して効かなかったからといって諦める必要はありません。
ガイドラインはさらに、ドライアイの仕組みを2つに整理しています。ひとつは目を開けているときの「涙液層の安定性低下」。もうひとつはまばたきのときの「摩擦亢進」です。後者は、まぶたの裏と眼球がこすれることによる症状で、異物感(ゴロゴロする感じ)を説明します。
「乾く感じはないのに、ゴロゴロする」という訴えが説明できるようになったのは、この2つめの仕組みが加わったからです。ガイドラインは、ドライアイの症状として「乾燥感以外に,異物感,霧視,羞明,眼疲労感,眼重感,眼痛,開瞼困難,充血,流涙,眼掻痒感,眼脂」を挙げています。涙が出る(流涙)も、ドライアイの症状のひとつです。
9. まぶたのふち——マイボーム腺のこと
涙の表面を覆う油は、まぶたのふちにあるマイボーム腺から出ています。まつ毛の生え際に、出口が一列に並んでいます。
ここが詰まると油が足りなくなり、涙が蒸発しやすくなります。これがマイボーム腺機能不全(MGD)です。
「マイボーム腺機能不全(MGD)は,ドライアイの原因の一つとして広く認識され,ドライアイ患者の過半数でMGD がみられるという報告もある」
ただしガイドラインは、ここで踏みとどまります。「MGD とドライアイのかかわりについては,未だ不明な点が多く,広く研究者のコンセンサスを得ているとは言い難い」。理由として第一に挙げられているのが、「広く受け入れられているMGDの診断基準がない」ことです。血管が拡張しているかだけで判断するもの、開口部の詰まりを見るもの、まぶたを押して出てくる脂を見るもの——研究によってばらばらだ、というのです。
そのため、MGDへの対処である温罨法(まぶたを温めること)と眼瞼清拭(ふちを清潔にすること)にはCQが設けられておらず、推奨度もついていません。層別治療の図に、油層への対処として名前が挙がっているだけです。
ただし、まったく根拠がないわけでもありません。患者さん向けの項目では、最も軽い段階(レベル1)の治療指針として、生活習慣・職場環境の変更、原因になる薬剤の中止、人工涙液点眼と並んで「眼瞼縁の清拭」が挙げられています。
まつ毛の生え際に何かを塗ったり、人工毛を接着したりすることが、この出口にどう影響するか——それについてはまつ毛美容液とまつ毛エクステで、眼科医会の調査をもとに書きました。調査に寄せられた眼科医のコメントには、まつ毛エクステを「長くやるとマイボーム腺炎を生じてドライアイ,巨大乳頭結膜炎もできる」という指摘があります。
10. 目の乾きが、全身のサインになるとき
ドライアイは目だけの問題とは限りません。CQ20とCQ21が、全身の病気や治療との関係を調べています。
「傾向としては免疫(膠原病)が関連する疾患がドライアイに罹患するリスクを挙げている.一方,肥満,糖尿病,高血圧などいわゆる生活習慣病とドライアイの関連は明らかでなかった.また,B型肝炎はドライアイのリスクを上げないが,C型肝炎ではドライアイのリスクを上げる結果となった」
生活習慣病との関連が「明らかでなかった」というのは、意外かもしれません。一方で、膠原病——なかでもシェーグレン症候群は、ドライアイと強く結びついています。目と口の両方が乾く、関節が痛む、といった症状があれば、眼科だけでなく内科・リウマチ科の評価が必要です。
治療のほうはどうか。CQ21には、突出した数字が2つあります。
| 治療 | オッズ比 |
|---|---|
| 頭頸部の放射線治療 | 16.34倍 |
| 骨髄移植 | 4.06倍 |
| その他の調査された薬物や治療 | おおむね1〜2倍程度 |
薬についても記述があります。抗うつ薬・抗不安薬との関連を示す報告が目立ち、ほかに抗コリン薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、ARB、エストロゲンが挙げられています。パーキンソン病の患者が抗コリン薬の服用後に重いドライアイを起こし、休薬で軽快したという報告も紹介されています。
ただし自己判断で薬をやめないでください。ガイドライン自身が、病気そのものが原因なのか治療薬が原因なのかは「判断が難しく,この検討もさらに必要」と書いています。目の乾きが気になるなら、お薬手帳を持って眼科へ、あるいは処方している医師に相談するのが正しい順序です。
なお、ビタミン剤の内服はドライアイ発症を抑える効果がなく、オメガ脂肪酸には抑える効果が期待できる、とメタ解析で評価されています。ただしオメガ3の推奨は「弱い:提案する」で、エビデンスの強さはD(非常に弱い)。日本人成人の摂取目標量は1日1.8〜2.4gで、4g以上では出血時間の延長や血小板の減少を来すことがあるとされています。サプリで増やすなら、この上限を意識してください。
11. 🚨 受診の目安と、眼科で行われること
いつ眼科へ行くか。ガイドラインの記述から、目安を整理します。
受診をおすすめする目安
① 市販の目薬を2〜3週間使っても変わらない
② 目薬が1日7回では足りないと感じる(差しすぎは目を傷めます)
③ かすむ・まぶしい・目が開けにくいといった、乾燥感以外の症状がある
④ 目だけでなく口も乾く、関節が痛む(シェーグレン症候群の可能性)
⑤ 新しい薬を飲み始めてから乾くようになった
⑥ 目の手術(白内障、レーシックなど)のあとから乾くようになった
⑥について補足します。CQ22によれば、角膜の傷と涙が壊れるまでの時間の低下は、前眼部の手術全般で起こりうるとされ、涙の分泌量の低下は角膜を切る手術(白内障、レーシック)で起こりうると報告されています。手術後の乾きは、よくある経過です。
眼科での流れも書かれています。「問診の後,視力・眼圧などの一般的な検査を行う.ドライアイは,自覚症状に加えて細隙灯顕微鏡による他覚的所見をもとに診断が下される.涙液検査や角結膜上皮の他覚的検査が診断の補助として用いられる」。
そして、治療の到達点についても正直です。
「現段階では,ドライアイを完治させる治療法はありません.これは,ドライアイ発症メカニズムや,発症の危険因子が多岐にわたるため,すべてに効く治療法はないためです」
ただし同じ項目は、こうも書いています。「軽度ドライアイでは,ドライアイ発症の危険因子の回避,人工涙液点眼の処方や眼瞼縁の清拭で改善がみられることが多い」。改善が見られない場合に、専門の医療機関を受診しましょう、と続きます。
この記事のまとめ
① 2016年に診断基準が変わりました。涙の量と傷が外れ、「涙が5秒ももたない」が中心に
② 「強い推奨」は4つ。ヒアルロン酸・ジクアホソル・レバミピド・涙点プラグ。すべて処方薬です
③ 市販でも買える人工涙液は「弱い:提案する」。差す回数の負担が理由です
④ 1日7回程度(多くても10回)。差しすぎは目の表面を傷めます
⑤ 2剤以上なら5分あける。順序は水性→懸濁性→油性→眼軟膏
⑥ 「実施しない」は「効かない」ではありません。費用や提供体制を含めた判断です
⑦ 完治させる治療法はありません。整えて付き合う病気です
12. よくある質問
市販の目薬をずっと使っていますが、よくなりません。
ガイドライン自身が、その流れを書いています。「患者の多くは,眼科を受診する前に市販の点眼薬を購入し,満足な結果が得られないときに医療機関を訪れる」。つまり珍しいことではありません。評価の面でも差があります。市販でも買える人工涙液は「弱い:実施することを提案する」にとどまるのに対し、眼科で処方されるヒアルロン酸点眼は「強い:実施することを推奨する」です。人工涙液が提案どまりな理由も書かれていて、「重大な有害事象はないものの,眼表面の滞留時間が短く,頻回に点眼が必要になることから眼表面への影響や患者負担を考慮した」とされています。さらに日本には、ジクアホソルナトリウムとレバミピドという、どちらも「強い推奨」の点眼薬があります。どちらも処方薬です。数週間で変わらなければ、眼科で相談してください。
目薬は1日に何回まで差していいですか?
差しすぎは、それ自体が目の表面を傷めます。ガイドラインの患者向けの項目には、こう書かれています。「回数が少ないと水分補充効果が不十分で,回数が多すぎると涙液層の安定性を低下させてしまいます.その結果,ドライアイの悪化を招くこともありうる」。具体的な目安として、「1日10回点眼するだけで,防腐剤が入っていなくても上皮が障害される可能性が指摘されているため,1日7回程度(多くても10回まで)が適当ではないか」とされています。処方薬の回数の目安は、ヒアルロン酸が1日5〜6回、ジクアホソルナトリウムが1日6回、レバミピドが1日4回です。「もっと差せばよくなる」は成り立ちません。回数が足りていて効かないなら、薬の種類を変える相談をしてください。
目薬を2種類もらいました。続けて差していいですか?
いけません。5分以上あけてください。ガイドラインは「2剤以上の場合は,各々5分間は間隔を空けてください。すぐに点眼すると,先に点眼した液が,後に点眼した液によって洗い流されてしまいます」としています。順序にも決まりがあります。水性点眼剤→懸濁性点眼剤→油性点眼剤→眼軟膏の順です。組み合わせによる細かい指示もあり、ジクアホソルナトリウムとヒアルロン酸を併用するときはジクアホソルナトリウムを先に、5分以上あけてからヒアルロン酸がよいとされています(ジクアホソルナトリウムで刺激を感じる場合は逆の順序)。人工涙液とヒアルロン酸なら、滞留性の高いヒアルロン酸を先に差す方法が挙げられています。
ドライアイは治りますか?
ガイドラインは、患者さんからの質問に対してはっきり答えています。「現段階では,ドライアイを完治させる治療法はありません」。理由も書かれていて、「ドライアイ発症メカニズムや,発症の危険因子が多岐にわたるため,すべてに効く治療法はないため」です。ただし、悲観する内容ばかりではありません。同じ項目には、軽いドライアイでは「危険因子の回避,人工涙液点眼の処方や眼瞼縁の清拭で改善がみられることが多い」とあります。改善しない場合は「発症メカニズムの解明とメカニズムに基づいた治療法の追加,関与している危険因子の探索が必要となるため,専門の医療機関を受診しましょう」とされています。治すのではなく、整えて付き合う——それが現時点の到達点です。
パソコンやスマホの使いすぎが原因ですか?
危険因子のひとつです。ガイドラインは長時間のVDT作業(パソコンなどの画面作業)を危険因子として挙げています。日本の研究では、小海スタディで女性の画面作業者は非作業者の2.33倍、大阪スタディで1日8時間を超える画面作業者は1.94倍と報告されています。ほかに喫煙(過去の喫煙歴で1.22倍、現在の喫煙で1.82倍)、加齢、女性であること、オメガ3脂肪酸に対してオメガ6脂肪酸の摂取が多いこと、睡眠の質が悪いことが挙げられています。なおコンタクトレンズは「症状を呈するリスクを高めるが,ドライアイ発症の危険因子となるかどうかは不明」という、やや意外な評価です。
参考にした主な資料
- ドライアイ研究会診療ガイドライン作成委員会「ドライアイ診療ガイドライン」日本眼科学会雑誌 123(5): 489-592, 2019(2016年版の定義と診断基準、BUT短縮型ドライアイ、有病率と危険因子、CQ1〜23の推奨の強さとエビデンスレベル、人工涙液・ヒアルロン酸・ジクアホソルナトリウム・レバミピド・血清点眼・シクロスポリン・涙点プラグ・防腐剤の各CQ、眼表面の層別診断と層別治療、マイボーム腺機能不全、全身疾患・薬剤との関係、患者さんからの質問)
- ドライアイ研究会「ドライアイ研究会ウェブサイト」(層別治療の概念図の出典)