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MEDICALLY REVIEWED BEAUTY & HEALTH
髪と頭皮

まつ毛美容液とまつ毛エクステ
——「2週間で2mm伸びる」は、国の処分を受けました

まつ毛を伸ばしたい、濃くしたい。——その気持ちに応える商品とサービスは、いま驚くほどたくさんあります。
ですが、この分野には国が作った資料が、ふつうでは考えられないほど揃っています。国民生活センターの報道発表、消費者庁の措置命令、日本眼科医会の全国調査、厚生労働省の通知、そして医薬品の承認審査資料。
それらを並べると、広告では見えないことが見えてきます。まつ毛について国が承認している市販品は、ひとつもありません。そして国が承認した唯一の薬でさえ、伸びた長さは4か月で平均1.62mmでした。
この記事は、商品を選ぶための記事ではありません。広告の言葉と、国の資料を並べて読むための記事です。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年9月18日 読了:約15分

1. 先に結論

長い記事になるので、国の資料から読み取れることを先にまとめます。

テーマ国の資料が書いていること
まつ毛美容液医薬部外品として承認されたものは存在しません(2019年7月末時点)。危害相談は2015年度以降で381件、2018年度だけで281件
「伸びる」という広告「2週間で2mm伸びる!」という表示に対し、消費者庁が2021年に措置命令。裏づけ資料は「合理的な根拠を示すものであるとは認められない」
承認された薬1つだけあります(睫毛貧毛症の薬・処方せん医薬品)。国内試験では4か月で長さ+1.62mm。中止すれば4〜6か月で元に戻ります
頭髪用の育毛剤国民生活センターが「まつ毛に使用しないようにしましょう」と明記
まつ毛エクステ全国の眼科57施設のうち53施設(93.0%)が眼障害の患者を診た経験あり。角膜潰瘍も11.3%
エクステの接着剤瞬間接着剤と同じ系統の成分。眼科医会の報告は「法的規制を一切受けておらず,全て雑貨として製造・輸入されていると思われ」と記載
施術する人まつ毛エクステは美容師免許がいる美容行為(厚生労働省通知)
まつ毛パーマ頭髪用パーマ液の目的外使用にあたると、1985年から国が通知しています

この記事でいちばんお伝えしたいこと。

まつ毛を伸ばすという話には、国が確かめた数字がひとつだけ存在します。それは医師が処方する薬の、4か月で1.62mmです。この数字を物差しとして持っていれば、広告の言葉の大きさが自分で測れるようになります。

そしてもうひとつ。この記事にはおすすめできる商品がありません。当サイトは一次資料で裏づけられる商品だけを紹介する方針で運営していますが、今回は資料を全部読んだうえで、条件を満たすものが1つも見つかりませんでした。そのことも含めて、正直にお伝えします。

2. まつ毛美容液の相談は、2018年度に急増した

国民生活センターは2019年8月8日、「まつ毛美容液による危害が急増!」という報道発表を行いました。全国の消費生活センターに寄せられた相談を集めたデータベース(PIO-NET)の集計です。

まつ毛美容液に関する相談は、2015年度以降で2,140件。そのうち、体にけがや病気などの被害を受けたという「危害」の相談が381件ありました。

まつ毛美容液の危害相談件数(年度別) 全国の消費生活センターに寄せられた、体に被害を受けたという相談 0 100 200 300 4 2015 8 2016 18 2017 281 2018 70 2019 2015〜2019年度の合計381件。2019年度は5月31日までの登録分のため、2か月分のみの数字です 出典:国民生活センター「まつ毛美容液による危害が急増!」2019年8月8日

2017年度の18件から、2018年度は281件へ。1年で15倍以上に増えました。

2017年度の18件から、2018年度は281件。1年で15倍以上になっています。

この急増には、別の見え方もあります。国民生活センターの集計では、それまで危害相談の1位は「健康食品」でしたが、2018年度は「化粧品」が1,819件で1位になりました。そして、この年のまつ毛美容液の281件は「化粧品」の約15%を占めています。化粧品全体の順位を押し上げるほどの量だった、ということです。

被害を受けた人の内訳も特徴的です。

項目内訳
性別(n=381)女性378件・男性2件・不明等1件
年代(n=360)50歳代41.9%(151件)/60歳代20.0%(72件)/40歳代19.7%(71件)=40〜60歳代で約8割
症状(n=381)皮膚障害78.7%(300件)。赤み・かゆみ・痛み・腫れが中心
程度(n=291)医者にかからず79.7%/治療1週間未満13.7%/1〜2週間4.1%/3週間〜1か月1.7%/1か月以上0.7%
発生月(n=139)11月から2月が86件で約6割。冬の乾燥する時期に集中

「8割は医者にかからずに済んでいる」と読むこともできます。ですが、実際に報告された事例を読むと、印象が変わります。

「スーパー内の化粧品コーナーで美容部員に誘われ、まつ毛美容液を試し、現金約2,000円で購入した。帰宅後、しばらくして視界がぼやけてきて痛くなった。後刻、眼科で医師の診断を受けたところ、角膜潰瘍を起こしており眼球の表面がただれていると言われた。すぐに手術を行い、現在も投薬中である」(50歳代・女性、2019年3月受付)

角膜潰瘍は、黒目の表面がえぐれる状態です。治ったあとに濁りが残れば視力に影響します。約2,000円の買い物から、手術に至ることがある。これが幅の広さです。

3.「承認されたまつ毛美容液」は、存在しません

ここが、この分野でいちばん誤解されている点です。

化粧品・医薬部外品・医薬品は、法律上まったく別の扱いを受けます。ざっくり言えば、国がどこまで中身を確かめたかが違います。

分類国の関わり方まつ毛に関して言えること
化粧品成分の規制はあるが、製品ごとの効果は審査されない「まつ毛にはり、こし、つやを与える」までは表示できる
医薬部外品効能効果を決めて製品ごとに承認まつ毛用として承認されたものはありません
医薬品臨床試験を経て承認・審査報告書も公開睫毛貧毛症の薬が1つ(処方せんが必要)

国民生活センターは、こう書いています。

「化粧品では、医薬品等適正広告基準により毛髪にはり、こし、つやを与える等の効能をうたうことができますが、まつ毛の育毛の効能効果をうたうことは認められていないと考えられます。また、現時点(2019年7月末時点)では医薬部外品として承認されたまつ毛美容液はありません

つまり、市販の「まつ毛美容液」はすべて化粧品であり、化粧品として言えるのは「はり、こし、つやを与える」までです。「伸びる」「育毛」「発毛」は、その線を越えています。

実際、国民生活センターが20銘柄を調べたところ、化粧品15銘柄のうち約半数に、化粧品の効能の範囲を超えると考えられる表示がありました。具体例として資料に載っているのは、こういう文言です。

資料はこれらを「医薬品医療機器等法上問題となるおそれがある表示」と評価し、業界と行政に対して改善を要望しています。

ちなみに、成分表示は9〜57成分と幅がありました。20銘柄すべてにオタネニンジン根エキス、ナツメ果実エキス、センブリエキスといった植物由来の成分が入っており、一部にはエタノールなどのアルコール類も含まれていました。これが、後で出てくる「かぶれやすさ」につながります。

4.【核心】「2週間で2mm伸びる」は、国の処分を受けた

広告の表現が行き過ぎたとき、国はどう動くのか。実例があります。

消費者庁は2021年(令和3年)6月3日、あるまつ毛美容液について、景品表示法第7条第1項にもとづく措置命令を出しました。措置命令は、違反行為をやめさせ、再発防止策をとらせ、一般消費者に周知させる行政処分です。

問題とされた表示は、命令書にそのまま列挙されています。

2週間で2mm伸びる!まつ毛美容液<○○>」
「たった2週間でこんなにまつ毛が伸びてきた」
「伸びすぎてまつ毛にいろいろのせる人も!」
「1ヵ月も使用すると、ここまでまつ毛が濃くなってきました。」

そして、いちばん重要なのが次の一文です。景品表示法には、行政が事業者に対して「その表示の裏づけとなる合理的な根拠を示す資料を出しなさい」と求められる仕組みがあります。出せなければ、優良誤認表示とみなされます。

「当該期間内に表示に係る裏付けとする資料を提出したが、当該資料は、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められないものであった」(命令書より。主語の社名は省略しました)

資料は出た。しかし根拠にならなかった。——これが国の判断です。「根拠がないと証明された」のではなく、「根拠を出せなかった」だけで処分になる。それが景品表示法のつくりです。

なお命令書には、「ヒト幹細胞培養液は厚生労働省も認定している成分ですのでかなり安心して使えるのも大人気の理由なのではないでしょうか」という表示も問題の対象として記載されています。「厚生労働省」「認定」といった言葉が、根拠のように使われていたわけです。権威の名前が出てきたら、それが何を認定したのかを確かめる。ここは覚えておいて損がありません。

5. 国が承認した唯一の薬は、4か月で1.62mm

では、本当に伸ばそうとしたら、どこまでいくのか。ここに比較できる数字があります。

日本で睫毛貧毛症(まつ毛が少ない・短いという状態)の治療薬として承認されている医薬品が、1つだけあります。ビマトプロスト外用液剤0.03%(商品名:グラッシュビスタ)で、2014年3月24日に承認されました。処方せん医薬品なので、医師の診察と処方が必要です。

もともとは緑内障・高眼圧症の点眼薬として開発された成分でした。まつ毛が伸びるという作用は、緑内障の治療薬として試験をしている途中で見つかったものです。

日本人を対象にした国内第3相試験の結果は、PMDA(医薬品医療機器総合機構)のサイトで公開されています。

国が確かめた数字と、処分を受けた広告の数字 承認された医薬品(処方せんが必要) 国内第3相試験・4か月塗布・88人 +1.62mm 上まつ毛の長さの平均変化(24.01%) 偽薬は −0.04mm 措置命令を受けた広告表示(化粧品) 2021年6月3日・消費者庁 2週間で2mm 裏づけ資料は「合理的な根拠を示す ものであるとは認められない」 医師の管理下で4か月かけて1.62mm。それが、いま確かめられている上限の目安です。 出典:PMDA グラッシュビスタ承認申請資料概要、消費者庁 措置命令(令和3年6月3日)

同じ「mm」でも、確かめられ方がまったく違います。

評価項目(4か月後)偽薬
まつ毛の「際立ち度」が1段階以上改善した人77.3%(68/88例)17.6%(15/85例)
上まつ毛の長さの変化(平均)+1.62mm(+24.01%)−0.04mm(−0.54%)
上まつ毛の豊かさの変化(平均)+0.35mm2(+44.82%)−0.03mm2(−1.12%)

差ははっきりしています。統計的にもすべて有意でした(いずれもp<0.001)。4か月、毎晩、まつ毛の生え際に塗り続けて、平均1.62mm。これが、いま日本で確かめられている数字です。

ここで4章に戻ってください。処分を受けた広告は「2週間で2mm」でした。医師が処方する薬が4か月かけて到達する長さを、化粧品が2週間で超えると書いていたことになります。

もうひとつ、承認資料には冷静な記述があります。

「本剤投与中止後も約1ヵ月は効果が持続するが、4〜6ヵ月程度で「睫毛の長さ、豊かさ、色の濃さ」は投与前の元の状態に戻る

やめれば戻ります。そして添付文書には、効能効果に関する注意として「発毛可能な毛包が存在しない部位における本剤の有効性は期待できない」とも書かれています。毛の工場そのものがなくなっている場所には、薬でも届かないということです。

6. その薬にも、消えない副作用があります

承認された薬なら安心か、というとそうではありません。むしろ、承認された薬だからこそ副作用が数字で公開されています

国内試験では、87例中14例(16.1%)に副作用が出ました。内訳は結膜充血3例、眼脂3例、皮膚色素過剰3例などです。がんの化学療法によるまつ毛の減少を対象とした試験でも、18例中3例(16.7%)でした。

そして添付文書の「重要な基本的注意」には、こう書かれています。

「本剤の投与により、虹彩や眼瞼への色素過剰(メラニンの増加)があらわれることがある。これらは投与の継続により徐々に進行し、投与中止により停止する。眼瞼色素過剰については、投与中止後徐々に消失、あるいは軽減する可能性があるが、虹彩色素過剰については投与中止後も消失しないことが報告されている

虹彩は、瞳のまわりの茶色い部分です。ここの色が濃くなる変化は、やめても戻らない可能性があると書かれています。しかも「暗褐色の単色虹彩の患者(日本人に多い)においても変化が認められている」と、わざわざ日本人に触れています。

さらに、液が広がった場所に毛が生えることもあります。添付文書は「眼瞼色素過剰、接触皮膚炎、眼周囲の多毛化等の予防あるいは軽減のため、投与の際に液が上眼瞼辺縁部以外に付着した場合には、よくふき取るか洗い流すよう患者を指導すること」としています。だから、片眼ごとに使い捨ての専用アプリケータを使い、上まぶたの生え際だけに塗る、という細かい決まりがあるのです。

ここから読み取れることは、シンプルです。

まつ毛を伸ばすという作用には、必ず目の周りへの影響がついてきます。作用が本物であればあるほど、副作用も本物になる。だからこの薬は、医師が診察して処方し、定期的に診る仕組みになっています。

7. なぜ、まぶたはトラブルが起きやすいのか

国民生活センターの報道発表には、皮膚科の専門家(東邦大学医療センター大森病院 皮膚科臨床教授)のコメントが載っています。ここが、この記事でいちばん実用的な部分かもしれません。

「顔や頭皮の部位によって皮膚の構造は大きく異なります。特にまぶたなど、目の周りは皮膚が薄く外界から物質が経皮吸収される率が最も高い部位となっています。また皮脂分泌能力は通常年齢と共に減少し40歳代を過ぎると洗顔後の皮脂分泌回復力が衰えてきます。特に秋から春にかけて乾燥する時期は刺激等の影響を受けやすく眼周囲のトラブルが多くなるようです」

これで、2章の数字がつながります。

偶然ではなく、皮膚の生理から説明がつく分布だったわけです。同じコメントは、成分についてもこう述べています。

「多くの成分が含まれる医薬部外品の育毛剤や化粧品のまつ毛美容液を使用すると、使用者の体質や、使用時期によっては、刺激またはアレルギーによる赤み、かゆみ、痛み、腫れ等が生じることがあります。特に、植物由来の成分やエタノールなどのアルコール類は、使用部位による刺激・アレルギー反応を起こし易いと考えられます」

3章で見たとおり、調査した20銘柄すべてに植物由来のエキスが入っていました。「自然のもの」「植物由来」という言葉は安心の理由になりそうですが、かぶれという観点では逆です。植物エキスは接触アレルギーの原因として、皮膚科では古くから知られています。

そして最後に、専門家はこう締めています。

「医薬部外品や化粧品は、使用する人の体質や体調、季節や年齢によって肌に合わないということがあり、また、誰にでも効能効果があるとは限らないので、慎重に自分にあった商品選びをしていくことが大切です」

8. 頭髪用の育毛剤を、まつ毛に塗らない

国民生活センターが調べた20銘柄のうち、5銘柄は「医薬部外品」「薬用」と表示されていました。ここだけ聞くと、承認されたまつ毛美容液があるように思えます。

ところが中身は違いました。この5銘柄は、頭髪用として承認された育毛剤が、まつ毛美容液のカテゴリで販売されていたものでした。

医薬部外品の育毛剤は、脱毛の防止・育毛・毛生促進・発毛促進といった効能効果について承認を受けています。ただし、それは頭髪についての承認です。まつ毛については承認されていません。

皮膚科の専門家は、これを皮膚の性質から説明しています。

「本来医薬部外品の育毛剤は、皮脂分泌が多い頭皮への使用を考慮して処方された商品と考えられます。その育毛剤をまつ毛に使用することは本来の目的には合わないことです。まぶたは皮脂分泌が欠乏し易い部位なので、頭皮とは皮膚の環境が大きく異なります。そのため、育毛剤をまつ毛に使用すると皮膚トラブルが起こる可能性が高いのです」

頭皮向けに作られた処方を、皮脂が乏しくて薄いまぶたに塗る。設計の前提が違います。国民生活センターは消費者へのアドバイスとして、はっきり書いています。「医薬部外品の育毛剤はまつ毛に使用しないようにしましょう」と。

同時に、業界には「医薬部外品の育毛剤について、まつ毛の育毛の効能効果に関する表示をしないよう要望」し、通販モールの運営会社には出品者の指導を依頼しています。行政・業界・売り場の3方向に要望を出した、という点で、この報道発表はかなり強い部類に入ります。

9. まつ毛エクステ——眼科の93%が眼障害を診ている

ここから、まつ毛エクステの話に移ります。

まつ毛エクステ(まつ毛エクステンション)は、シルクや化学繊維などの人工毛を接着剤でまつ毛に付ける施術です。1990年代後半から2000年代前半に韓国で生まれ、日本には2003年から2004年頃に導入されました。つけまつ毛より長持ちすることから、施術数が年々増えていきました。

その頃から、眼科の現場では変化が起きていました。日本眼科医会は、全国の会員に対してまつ毛エクステによる眼障害の調査を行い、その結果を2011年に報告しています。

2005年1月から2010年12月までの6年間について尋ねたところ、57の眼科医療機関から回答があり、患者総数は206人でした。

まつ毛エクステによる眼障害の傷病名 全国の眼科57施設の回答。診た経験のある施設の割合(複数回答) 角膜びらん 52.8% 眼瞼皮膚炎 50.9% 急性結膜炎 49.1% 眼瞼縁炎 39.6% 点状表層角膜症 37.7% その他 15.1% 角膜潰瘍 11.3% 睫毛脱落 9.4% 回答した57施設のうち53施設(93.0%)が、診た経験があると答えました 出典:日本眼科医会「平成22年度まつ毛エクステンション眼障害調査の集計結果報告」

角膜びらんが最多。重い障害である角膜潰瘍も、6施設から報告されています。

回答した57施設のうち、53施設(93.0%)が「まつ毛エクステによる眼障害の患者を診た経験がある」と答えています。傷病名で多かったのは角膜びらん52.8%、眼瞼皮膚炎50.9%、急性結膜炎49.1%。そして角膜潰瘍も6施設(11.3%)から報告されました。

報告書は、原因をこう推定しています。

「発症している傷病名から考え,エクステンションに使用していた人工まつ毛の接着不良による物理的な角膜表面への刺激あるいは,人工まつ毛の接着の際に使用している接着剤による科学的刺激・アレルギー反応が原因と考えられた」
(引用中の読点と「科学的刺激」は原文のままです)

物理的にこすれるか、化学的にかぶれるか。この2つです。

あわせて行われた2011年1〜3月の詳細調査では、16例が報告されました。全員が女性で、20歳代37.5%・30歳代43.8%・40歳代18.8%。まつ毛の脱落を除けば、残りの眼障害は全例が14日以内に治癒していました。ただし1例(6.3%)には角膜実質混濁という後遺症が残っています。

そして、現場の眼科医が書いたコメントに、この調査でいちばん重い一文があります。

眼障害のリスクがあるということを事前に説明されている患者さんは一人もいなかった。まつ毛エクステンションを美容室,自宅サロンで行っているところがとても多くなっており危機感を覚える」

別の医師は、長期の影響についても書いています。「長くやるとマイボーム腺炎を生じてドライアイ,巨大乳頭結膜炎もできる」。マイボーム腺はまぶたのふちにある、涙の油の層を作る器官です。ここが詰まると涙が蒸発しやすくなり、ドライアイにつながります。まつ毛の生え際は、ちょうどその出口にあたります。

10. 接着剤には、成分の決まりがありません

眼科医会の報告で、もうひとつ驚かされるのが接着剤についての記述です。

「まつ毛エクステンションに使用される接着剤は,瞬間接着剤の成分であるシアノアクリレート系接着剤が使用されており,一部には医療用接着剤として使用実績のあるブチルシアノアクリレートやオクチルシアノアクリレートも使用されている。これらの接着剤は法的規制を一切受けておらず,全て雑貨として製造・輸入されていると思われ,成分表示もなされていないことが多い

瞬間接着剤と同じ系統の成分を、まぶたのふちで使う。しかも成分表示がないことが多い。実際、報告書に載っている患者の声には、こんなものもあります。

「42歳女性。エステ担当者に成分を聞くも即答なし。数日後,上司来訪。成分の詳細は分からないとのこと。角膜上皮剥離は,1週間位で治癒したが,点状表層角膜症が数週残った。下方に角膜混濁が少し残った」

さらに対比として、報告書はつけまつ毛用の接着剤に触れています。つけまつ毛用の接着剤は家庭用品規制法(有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律)の対象製品に指定されており、ホルムアルデヒドの含有量が規制されているのです。使う場所も方法も似ているのに、エクステ用だけが規制の外にある。報告書はこの状態を踏まえて、こう結論しています。

「この様に法的整備が十分とは言えない環境下でのまつ毛エクステンション施術は危険であり,眼障害発生のリスクが高いと言わざるを得ない

学会が自分たちの領域について「危険であり」と書き切るのは、かなり強い表現です。

11. エクステは、美容師免許がいる行為です

意外に知られていないのが、法律上の位置づけです。

厚生労働省は2008年(平成20年)3月7日、健衛発第0307001号という通知を出し、まつ毛エクステが美容師法にいう「美容」に該当することを明確にしました。美容師法第2条第1項は、美容を「パーマネントウエーブ、結髪、化粧等の方法により容姿を美しくすること」と定めています。

厚生労働省のサイトは、もっと平たく書いています。

「まつ毛エクステンションは美容行為であり、業として行うに当たっては美容師の免許が必要です。美容師ではない人が施術をしていると思われたら、最寄りの保健所や都道府県の衛生担当部署へ情報提供してください

つまり、施術を受ける側には「この人は美容師免許を持っていますか」と聞く正当な理由があるということです。そして無資格の疑いがあれば、保健所に伝える先が用意されています。

国は、この件について2008年・2010年・2012年・2013年と4回も通知を出しています。4回も出すというのは、裏を返せば徹底されなかったということでもあります。眼科医会の報告書も、「現時点においてもエステ店やネイルサロンなどの美容院以外の施設における施術や美容師以外の施術者による施術がなされているようである」と書き、さらに自分でまつ毛エクステを行う方法を宣伝・指導する業者まで現れていると警告しています。

2015年には、消費者庁と厚生労働省が連名で自治体に事務連絡を出し、どういう場合に国へ通知すべきかまで具体的に示しました。

国への通知が原則必要とされる情報
① 目や目の回りの皮膚の治療に30日以上を要する危害が生じており、まつ毛エクステの施術が影響していると疑われる情報
同一の美容所で複数の被害相談がある美容師以外の者の施術による被害相談がある等、被害拡大が懸念される情報
③ まつ毛エクステ用の接着剤に一定の有害物質が含有しているとの情報

この3つは、そのまま「相談したほうがいい状況」のチェックリストとして使えます。

12. まつ毛パーマは、パーマ液の「目的外使用」

まつ毛パーマについては、さらに古い通知があります。1985年(昭和60年)7月1日、衛指第117号。40年前の文書ですが、いまも有効です。

「最近、マツ毛パーマと称して医薬部外品であるパーマネント・ウエーブ用剤を使用し、マツ毛に施術を行う技法が現われ、流行の兆しを見せているが、この施術を行う個所が目に非常に近いところからパーマネント・ウエーブ用剤が容易に目に入る可能性があり、薬剤の成分による視力障害等の被害が懸念されるところである。
また、医薬部外品であるパーマネント・ウエーブ用剤は頭髪にウエーブをもたせ、保つために使用する目的で製造承認がなされているものであり、かかる施術に使用することは、薬事法に基づく承認内容を逸脱した目的外使用となる

構造は、8章の育毛剤とまったく同じです。頭髪用として承認されたものを、目のそばで使っている。通知はさらに踏み込んでいます。

「これを美容師が顧客に対し目的外使用し、その結果として何らかの事故を生ぜしめるなどは美容師の社会的責務に背くものであり、厳に慎まねばならないものである」

現在は、まつ毛専用として販売されている製品もあります。ただし少なくとも、頭髪用のパーマ液をまつ毛に転用することは、国が40年前から明確に否定しているという事実は知っておいてください。サロンで使われている薬剤が何なのかを尋ねるのは、失礼な質問ではありません。

13. 🚨 異常が出たときに、すること

最後に、実際に困ったときの手順をまとめます。国民生活センターと国の資料に書かれていることを、そのまま並べました。

① まず、使用や施術を直ちにやめる

肌の赤み・かゆみ・痛み・腫れ、目の痛みや違和感。どれか1つでも出たら、その時点で中止します。「もう少し様子を見る」で悪化した事例が繰り返し報告されています。

② 目に入ったら、すぐ水などで洗い流す

③ 皮膚の症状なら皮膚科、目の症状なら眼科へ

まぶたの赤み・ほてり・かゆみ・痛み・腫れは皮膚科。目の痛みや違和感は眼科です。両方あるなら、まず眼科で角膜を診てもらってください。

④ 受診のときは、使っていた商品そのものを持っていく

あわせて、症状が出たときの体調・食事内容・使っている薬の種類・生活全般の様子を伝えます。原因を絞り込むのに役立ちます。

⑤ 消費生活センターに相談する(局番なしの188)

治療に30日以上かかった場合、同じ店で複数の被害が出ている場合、美容師でない人の施術による被害の場合は、行政が国に通知する仕組みがあります。あなたの相談が、次の人を守ります。

そして、契約の面も忘れないでください。まつ毛美容液の相談2,140件のうち、「契約・解約」が1,897件(88.6%)「販売方法」が1,597件(74.6%)を占めています。体の被害より、定期購入の解約トラブルのほうが件数としては多いのです。

報告された事例には、健康被害で解約したいのに次の商品が届き続けたお試し価格との差額を請求された解約の電話がつながらないといったものが並んでいます。体の症状と契約のトラブルは、同じ窓口(188)で相談できます

この記事のまとめ

まつ毛美容液で国が効果を承認したものは1つもありません

「伸びる」「育毛」は化粧品が言える範囲を超えています

「2週間で2mm」は国の処分を受けた表示です

承認された薬でさえ、4か月で1.62mm。やめれば戻ります

まぶたは経皮吸収が体でいちばん高い場所。40歳を過ぎた冬に集中するのは偶然ではありません

エクステは美容師免許がいる行為。接着剤には成分の決まりがありません

異常が出たら直ちに中止し、商品を持って受診。そして188

14. よくある質問

まつ毛美容液は使ってはいけないのですか?

「使ってはいけない」と決めた法律はありません。ただし前提として、2019年7月末の時点で、医薬部外品として承認されたまつ毛美容液は1つもありませんと国民生活センターが公表しています。つまり、まつ毛に対する効果を国が確かめた市販品はない、ということです。そのうえで、全国の消費生活センターには2015年度以降で381件の危害相談が寄せられ、2018年度だけで281件と急増しました。危害の内容は78.7%が皮膚障害で、赤み・かゆみ・痛み・腫れが中心です。角膜潰瘍で手術を要した事例も報告されています。使うのであれば、目に入れないこと、異常が出たら直ちに中止すること、そして「伸びる」「育毛」といった表示を根拠として受け取らないこと。この3点を持っておいてください。

「2週間で2mm伸びる」という広告を見ました。本当ですか?

その表現そのものが、国の行政処分の対象になった実例です。消費者庁は2021年6月3日、あるまつ毛美容液について「2週間で2mm伸びる!」などの表示が景品表示法第5条第1号(優良誤認表示)に当たるとして措置命令を出しました。命令書には、事業者が資料を提出したものの「当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められないものであった」と書かれています。比較のために書いておくと、まつ毛について国が承認している唯一の薬(処方せん医薬品)の国内試験では、4か月続けて平均1.62mmでした。医師の管理下で4か月かけて1.62mmの世界に、「2週間で2mm」は入ってきません。

市販の育毛剤をまつ毛に塗るのはどうですか?

やめてください。国民生活センターは消費者へのアドバイスとして、「医薬部外品の育毛剤は、まつ毛への効能効果が承認されたものではないので、まつ毛に使用しないようにしましょう」と明記しています。調査した20銘柄のうち5銘柄は、まつ毛美容液として売られていた頭髪用の育毛剤でした。皮膚科の専門家は同じ資料の中で、育毛剤は「皮脂分泌が多い頭皮への使用を考慮して処方された商品」であり、まぶたは皮脂が欠乏しやすく頭皮とは環境が大きく異なるため、「育毛剤をまつ毛に使用すると皮膚トラブルが起こる可能性が高い」と述べています。

まつ毛エクステは、どのくらい目のトラブルが起きていますか?

日本眼科医会が全国の眼科に行った調査では、回答した57施設のうち53施設(93.0%)が、まつ毛エクステによる眼障害の患者を診た経験があると答えました。患者の総数は206人です。内訳(施設数ベース・複数回答)は、角膜びらん52.8%、眼瞼皮膚炎50.9%、急性結膜炎49.1%、眼瞼縁炎39.6%、点状表層角膜症37.7%と続き、重い障害である角膜潰瘍も6施設(11.3%)から報告されています。報告書の考察は、原因を人工まつ毛の接着不良による角膜表面への物理的な刺激接着剤による刺激・アレルギー反応と推定しています。現場の眼科医のコメントには、「眼障害のリスクがあるということを事前に説明されている患者さんは一人もいなかった」という一文もありました。

まぶたが腫れました。どうすればいいですか?

まず直ちに使用や施術をやめること。そのうえで、肌の赤み・かゆみ・痛み・腫れなら皮膚科、目の痛みや違和感なら眼科を受診してください。目に入ってしまった場合はすぐ水などで洗い流します。受診のときは使っていた商品そのものを持参し、症状が出たときの体調・食事内容・使っている薬の種類・生活の様子を伝えてください。国民生活センターが挙げている手順です。もうひとつ知っておいてほしいのは、目や目の周りの皮膚の治療に30日以上を要した場合、行政は消費者安全法にもとづき国に通知する仕組みになっていることです。同じ店で複数の被害が出ている場合や、美容師でない人の施術による被害も同じ扱いです。お住まいの自治体の消費生活センター(局番なしの188)や保健所への連絡が、次の人を守ることにつながります。

参考にした主な資料

なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。本文で紹介した件数・割合・試験結果・通知の内容は、国民生活センター、消費者庁、日本眼科医会、PMDA、厚生労働省の公表資料にもとづくもので、公開時点の情報です。特定の商品・サービス・事業者の是非を判断するものではありません。まつ毛美容液やまつ毛エクステの使用中・使用後に、まぶたの赤み・かゆみ・痛み・腫れがあらわれたときは皮膚科を、目の痛みや違和感があらわれたときは眼科を受診してください。目に入った場合は、すぐに水などで洗い流してください。医薬部外品の育毛剤は頭髪用であり、まつ毛には使用しないでください。医薬品による治療を検討される場合は、必ず医師の診察を受けてください。契約や解約のトラブルは、お住まいの自治体の消費生活センター(消費者ホットライン 局番なしの188)にご相談ください。掲載内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。