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MEDICALLY REVIEWED BEAUTY & HEALTH

乾燥肌とかゆみ
——飲むかゆみ止めは「十分な根拠が無い」とされています

すねを掻くと、白い粉がつく。夜、布団に入るとむずむずして目が覚める。——毎年この季節に戻ってくる不調です。
この乾燥肌とかゆみには、日本皮膚科学会の公式な文書が2つあります。「皮脂欠乏症診療の手引き2021」と「皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020」。どちらも全文が無料で読めます。
中を開くと、世間で言われていることといくつも食い違います。飲むかゆみ止めは推奨度C1で「十分な根拠が無い」。お風呂上がりにすぐ塗る必要はない。ナイロンタオルは名指しで否定されている。
そして保湿剤については、「いずれが優れているかについてはエビデンスがない」と書かれています。では、何を基準に選べばいいのか。——学会の答えまで、順に見ていきます。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年9月21日 読了:約17分

1. 先に結論

日本皮膚科学会の2つの文書から読み取れることを、先にまとめます。

よく聞く話学会の文書が書いていること
かゆみには、飲むかゆみ止め推奨度C1。「使用を考慮しても良いが十分な根拠が無い」。二重盲検試験は行われていません
保湿剤は「いい成分」を選ぶ「いずれが優れているかについてはエビデンスがない」。基準は続けられるかどうか
お風呂上がり5分以内に塗る入浴1分後と1時間後で角層の水分量に有意差なし。都合のいい時間でかまいません
1日1回塗っている1日2回のほうが有意に高い値でした。回数のほうが効きます
ナイロンタオルでさっぱり洗う「角層からの水分蒸散を増加させ,皮膚の乾燥を助長するため使用せず」と名指しで否定
かゆいところにステロイドを塗る発疹がなければC2(根拠がないので勧められない)。湿疹になっていればB
乾燥肌は皮膚だけの問題発疹がないのに痒いときは腎臓・肝臓・甲状腺・糖尿病・血液疾患・悪性腫瘍を除外します

この記事でいちばんお伝えしたいこと。

乾燥によるかゆみで、いちばん確かな手は「保湿剤を、十分な量、1日2回」です。派手さはありませんが、学会が推奨度をつけているのはこちらで、飲み薬のほうではありません。そして続けられない製品は、どんなにいい成分でも効果になりません

2. その乾燥には、2つの名前がついています

「乾燥肌」「かゆみ」という言い方は、医学の世界では2つに分かれます。この区別を知っておくと、自分に必要な対処が見えてきます。

皮脂欠乏症(乾皮症)皮膚瘙痒症
何を指すか皮膚が乾いて粗くなり、鱗屑(細かい皮むけ)が出ている状態発疹がないのに痒い状態
学会の文書皮脂欠乏症診療の手引き2021皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020
主な対処保湿剤(CQ6本すべて推奨度1=強い推奨)原因検索+スキンケア・保湿剤(推奨度B)
関係重なります。皮膚瘙痒症のかゆみで最も多いのが、乾燥(ドライスキン)に由来するものです

手引きは、皮脂欠乏症を「乾皮症と同義」とし、こう定義しています。

「一般的には皮膚表面が光沢を失い,粗造になった状態のことを称し,粃糠様の鱗屑および浅い亀裂を生じ,魚鱗癬様の外観を呈して瘙痒を訴えることがある」

粃糠様の鱗屑というのは、ふすまのような細かい皮むけのことです。進行するとさざ波状・菱形模様の亀裂になります。すねを見て、白い線が網目に見えるなら、その段階です。

原因は大きく3つに分けられています。

分類中身
生理的要因高齢者では皮脂腺や汗腺などの皮膚機能の低下。乳幼児・小児では皮膚生理機能の未成熟
環境要因外気の乾燥や室内暖房による低湿度(冬期乾皮症)、紫外線、過度の入浴、脱脂作用の強い洗浄料や擦り洗いなど不適切なスキンケア
非生理的要因皮膚疾患(アトピー性皮膚炎など)、全身性疾患(糖尿病、慢性腎臓病など)、抗がん剤や放射線治療(医原性)

注目していただきたいのは、「不適切なスキンケア」が環境要因として正式に挙げられていることです。よかれと思ってやっていることが、原因の側に分類されている。この記事の8章は、そこを扱います。

3. 高齢者の7割以上。そして増え続けています

どれくらいの人が抱えているのか。手引きは、こう書いています。

「皮脂欠乏症は高齢者では高い頻度で発症することが知られており,高齢者の 7 割以上で皮膚の乾燥が認められているとの報告がある」

そして、患者が増える理由を人口統計から説明しています。65歳以上の高齢者人口は3,617万人(総人口の28.7%)、糖尿病は1,000万人と予備群1,000万人、透析患者は34万人、がんの罹患数は約98万人。いずれも皮脂欠乏症を起こしやすい背景です。手引きは「潜在患者も含め,高齢者を中心に皮脂欠乏症の患者は今後もさらに増加することが推察される」と結んでいます。

かゆみのほうの数字も見ておきます。皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020によれば、ノルウェーの成人調査で皮膚瘙痒症は8.4%で、皮膚疾患のなかで最も一般的でした。ドイツの研究では点有病率13.9%・生涯有病率22.6%。日本の皮膚科受診者での診断率は6.8%です。女性のほうが男性より多い傾向も共通しています。

できやすい場所にも決まりがあります。

生理的要因による皮脂欠乏症の好発部位は、両下肢の伸側——つまりすねです。背中や腕にも出ますが、皮脂の分泌や汗の多い顔面や、わきの下などの間擦部では発症頻度が低いとされています。

「顔は問題ないのに、すねだけ粉をふく」。これは典型的な出方であって、おかしなことではありません。

4.【核心】飲むかゆみ止めは「十分な根拠が無い」

ここが、この記事でいちばん知っていただきたい部分です。

かゆいときに、多くの方がまず手に取るのが飲むかゆみ止め(抗ヒスタミン薬)です。市販でも買えますし、皮膚科でも処方されます。では、ガイドラインはこれをどう評価しているか。

かゆみ(皮膚瘙痒症)の治療法と推奨度 A=行うよう強く勧められる B=行うよう勧められる C1=考慮してもよいが十分な根拠がない C2=根拠がないので勧められない A 該当する治療はありません B 保湿剤 紫外線療法 ナルフラフィン塩酸塩 乾燥を伴うかゆみに 腎障害を伴う場合。他はC1 透析・慢性肝疾患に限る C1 抗ヒスタミン薬の内服(飲むかゆみ止め) 鎮痒性外用薬(クロタミトン)/漢方薬/プレガバリン/ガバペンチン ほか C2 ステロイド外用(ただし湿疹を伴う場合はB)/免疫抑制薬の外用・内服 出典:日本皮膚科学会「皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020」CQ1〜14

いちばん上の段が空いています。そして、いちばん使われている飲み薬はC1です。

推奨度C1。推奨文は、こうです。

CQ2:抗ヒスタミン薬は皮膚瘙痒症に有効か?
推奨度:C1
推奨文:「高いレベルで解析した研究は無く,使用を考慮しても良いが十分な根拠が無い」

C1の定義は、ガイドラインの表に書かれています。「行うことを考慮してもよいが,十分な根拠がない」。そして解説には、もっと踏み込んだ記述があります。

汎発性皮膚瘙痒症に対する抗ヒスタミン薬のランダム化二重盲検試験は認められない

比較試験そのものが存在しない、ということです。では、なぜ第一選択とされているのか。ガイドラインは正直に書いています。

「以上,エビデンスに乏しいがほとんどの症例で抗ヒスタミン薬が第一選択のひとつとして投与されているのが現状で,ガイドライン委員の総意に基づいたエキスパートオピニオンとして抗ヒスタミン薬が第一選択とした

データではなく、専門家の合意で第一選択になっている。——これは「飲んではいけない」という意味ではありません。実際、398症例のオープン試験では皮膚瘙痒症の52.8%に効果が認められたという報告もあります。ただし期待の大きさを調整すべきだということです。

理由は仕組みにあります。ガイドラインによれば、かゆみを起こす物質はヒスタミンだけではありません。トリプターゼ、サブスタンスP、インターロイキン(IL-1、2、6、31)、TSLP、TNF-α、オピオイドなど多数が関わっています。抗ヒスタミン薬はそのうちのひとつを止める薬なので、乾燥によるかゆみには届きにくいのです。

高齢の方には、別の注意もあります。ガイドラインは「臨床上,本疾患は高齢者が少なくないこと,緑内障や前立腺肥大に留意が必要であること,また肝障害や腎機能低下を伴う症例が非常に多いことから,薬剤の選択には十分な配慮が求められる」としています。眠気だけの問題ではありません。

ついでに、市販の塗るかゆみ止めについても確認しておきます。日本でよく使われるクロタミトン(オイラックスなどの成分)はCQ4で推奨度C1。そして解説には、こうあります。

「クロタミトン単独での制痒効果をアトピー性皮膚炎と虫刺症の31例について,プラセボ対照二重盲検試験で検討した報告では,基剤との間に有意差を認めなかった

基剤というのは、有効成分を除いた土台部分のことです。有効成分ありとなしで差がつかなかった、ということになります。

5. 保湿剤——どれが優れているかのエビデンスは、ありません

では、何が推奨されているのか。皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020のCQ1、保湿剤が推奨度B(行うよう勧められる)です。そして皮脂欠乏症診療の手引き2021では、6つのCQすべてで推奨度1(強い推奨)がついています。

CQ推奨度エビデンスレベル
CQ1 加齢による皮脂欠乏症に保湿剤は有用か1(強い推奨)A(高い)
CQ2 アトピー性皮膚炎に伴う皮脂欠乏症に1A
CQ3 分子標的薬による皮脂欠乏症に1B
CQ4 放射線治療に伴う皮脂欠乏症に1A
CQ5 透析治療に伴う皮脂欠乏症に1A

CQ1の推奨文は「加齢による皮脂欠乏症に保湿剤を外用することを強くすすめる」。解説では、ヘパリン類似物質、尿素、セラミド、グリセロール、尿素とセラミドNPと乳酸の配合、ヒアルロン酸やシアバターを含むものなど、多くの成分が臨床所見やかゆみ、角層の水分量を有意に改善させたと列挙されています。

ところが、そのあとに一行、こう書かれています。

ただし,保湿剤のいずれが優れているかについてはエビデンスがない

成分の比較試験がない、ということです。ですから「セラミドのほうが上」「ヘパリン類似物質でなければ」といった選び方には、根拠がありません

では何を基準にするのか。手引きは、別の場所で答えを書いています。

「剤形も豊富であり,価格の幅も大きいことから,患者が使用感で満足しつつ,安心かつ継続して使用できる製品を用いることが重要と考える」

続けられるかどうか。これが学会の答えです。ベタつきが苦手なら、無理に軟膏を選ぶ必要はありません。手引き自身が「エモリエントには,ワセリンなどがあるが,油脂膜を形成することで水分蒸発を防ぐことから,ベタつきがあり,使用感に難がある」と認めています。一方でヘパリン類似物質や尿素を含むモイスチャライザーは「エモリエントよりも角層の水分を増加させる効果が強く,剤形のバリエーションも豊富」とされています。

そして、市販品についてもはっきり書かれています。

「一過性や軽度の皮脂欠乏症に対しては,医療用保湿剤を使用せず,一般用医薬品,医薬部外品や化粧品の保湿剤を使用させたうえで,生活指導などをすることが重要である

軽い乾燥なら、まず市販のもので十分だというのが学会の立場です。実態調査でも、「美容目的で医療用保湿剤を処方している医師は多くなかった」と報告されています。

6. どれだけ塗るか——「少しテカテカする程度」

選び方の次は、量です。ここには実験データがあります。

手引きが引用している研究では、ヘパリン類似物質を1 mg/cm2塗った群よりも3 mg/cm2塗った群で、有意に高い角層水分含有量が示されました。つまり薄く伸ばすより、厚めに塗るほうがよいということです。

実用的な目安として、手引きはFTU(finger-tip unit)を紹介しています。

1回に塗る量の目安(FTU) 1 FTU=チューブから示指の先端〜第1関節まで出した量(約0.5g)=手のひら2枚分 片側の腕 3 FTU 約1.5g 背中 7 FTU 約3.5g 片側の脚 6 FTU 約3g 片足 2 FTU 約1g ローションなら、手のひらに1円玉大にとると約0.6gに相当します。 実際の目安は「少しテカテカする程度に塗る」。 すねは面積が広く、いちばん乾く場所です。ここを足りなくしないでください。 出典:日本皮膚科学会「皮脂欠乏症診療の手引き2021」3.2 外用方法

「多い」と感じる量が、だいたい適量です。

1 FTUは、チューブから軟膏を成人の示指の先端から第1関節まで押し出した量(約0.5g)。これを成人の手のひら2枚分、すなわち体表面積のおよそ2%の面積に塗ります。ローションの場合は、手のひらに1円玉大にとると約0.6gに相当します。

部位ごとの目安は、片側の腕3 FTU、背中7 FTU、片側の脚6 FTU、片足2 FTU。両脚だけで12 FTU、およそ6gになります。市販の保湿剤が1本200gだとすると、両脚に1日2回塗れば2週間ほどでなくなる計算です。「1本が何か月ももつ」という使い方だと、たぶん足りていません。

細かい注意もあります。1 FTUは口径5mmのチューブから押し出したときの量なので、チューブの太さが違えば変わります。そこで手引きは、実際上の指導としてこう書いています。

「実際上は,少しテカテカする程度に塗るなどの指導が有用である」

塗ったあとに皮膚がかすかに光る。それが目安です。すぐサラサラになるなら、量が足りていません。

7. いつ塗るか——お風呂上がりを急ぐ必要はありません

「お風呂から出て5分以内に塗らないと意味がない」という話を聞いたことがあるかもしれません。手引きは、これを検証した研究を引用しています。

「外用のタイミングの影響に関して,保湿剤を入浴1分後に塗った群と1時間後に塗った群とを比較した結果,保湿剤の種類によらず角層水分含有量に有意差はみられなかったという報告がある」

そして手引きは、こう続けます。「患者本人や家族,高齢者施設のケアスタッフなどの都合に合わせて塗布するよう指導するのが望ましい」。

急がなくていい。これは、介護をしている方にとって特に意味のある一文です。入浴介助のあとに慌てて全身を塗る必要はなく、落ち着いた時間にしっかり塗るほうが、結果として量も確保できます。

一方で、回数には差が出ています

「1日当たりの外用回数の効果について,2 mg/cm2のヘパリン類似物質を1日2回塗った群は,1回だけ塗った群よりも有意に高い皮膚の電導度を示したとの報告があり,1日1回だけより2回塗る方が高い保湿効果を期待できる」

まとめると、タイミングは自由、回数は2回、量は多め。この3つです。優先順位をつけるなら、タイミングを気にする労力を、量と回数に回してください。

なお入浴後については、手引きは「特に入浴後は角層から水分が蒸散するため,直後でなくても良いが,保湿剤を外用すべきである」としています。入浴後に塗ること自体は勧められています。急がなくていい、というだけです。

8. 洗い方——ナイロンタオルは名指しで否定されています

2章で「不適切なスキンケア」が乾燥の原因に分類されていたのを覚えているでしょうか。その中身が、ここです。

「石鹸・洗浄剤の主成分は界面活性剤であり,過度の使用やすすぎ残しは皮膚の乾燥を悪化させる可能性がある.また,ナイロンタオルやブラシによる清拭は角層からの水分蒸散を増加させ,皮膚の乾燥を助長するため使用せず,石鹸・洗浄剤をよく泡立てて泡を手のひらに取り優しく洗うよう指導する.特に乾燥の強い部位への石鹸・洗浄剤の使用は最小限にとどめるのが望ましい」

短い一段落に、4つの指示が入っています。整理します。

やめることやること
ナイロンタオル・ブラシで擦るよく泡立てて、泡を手のひらに取って優しく洗う
石鹸を使いすぎる乾燥の強い部位(すねなど)は最小限に
すすぎ残す十分にすすぐ
熱い湯につかるかゆみを生じるほどの高い温度の湯は避ける

最後の項目は、皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020のスキンケア表から採りました。同じ表には、ほかにもこうした項目が並んでいます。

「入浴後のほてりを感じさせる沐浴剤・入浴剤は避ける」は、見落とされやすい項目です。温感タイプの入浴剤は、あたたまった感じが続く分だけかゆみを呼びます。冬に使いたくなるものですが、かゆみがあるときは向きません。

9. 冬の環境——暖房、衣類、そして紫外線

皮膚の外側の話を続けます。手引きの「患者指導」の章には、環境についての記述がまとまっています。

冬期の暖房により室内の相対湿度が低下することから,適宜加湿器等による対策も必要である.羊毛素材やごわごわした素材などの衣類の刺激や,髪の毛の先端部の接触などの軽微な刺激でもかゆみを生じるため,そのような刺激のない衣類を選択するよう勧める」

髪の毛の先端が当たるだけでかゆい。これは大げさな表現ではなく、10章で説明する仕組みから当然に起こることです。首や背中がかゆい方は、髪をまとめるだけで変わることがあります。

衣類については、羊毛(ウール)とごわごわした素材が名指しされています。直接肌に触れる一枚を、綿などの柔らかいものに替えてください。セーターをやめる必要はなく、下に一枚着るだけで刺激は減ります。

そして、意外な項目があります。紫外線です。

長期間の日光曝露によって角層からの水分蒸散量が増加するという報告もあるため,過度の太陽光への曝露は避け,紫外線の強い5月から8月,特に紫外線量の多い10時から14時頃の外出の際には,帽子を着用する,なるべく日陰を歩くなどの配慮をし,紫外線への曝露が長くなるときにはサンスクリーンの使用を勧める」

乾燥肌の手引きに、日焼け対策が書かれている。——冬の話だと思っていたものが、夏の紫外線とつながっていました。引用されているのは、中年のゴルファーの手を調べた研究です。日焼け止めについては日焼け止めの選び方でSPF・PAの意味から整理しています。

10. 掻くと、かゆみが増える仕組み

「掻いてはいけない」と言われても止まらない。これには、はっきりした理由があります。

かゆみが、かゆみを呼ぶ仕組み 乾いた皮膚では、神経が本来より浅いところまで伸びてきます 皮膚が乾き、神経(C線維)が 表皮の中まで伸びてくる かゆみの閾値が下がり、 軽い刺激でもかゆくなる 掻く 衣類やわずかな接触でも起こります バリアがさらに壊れ、 湿疹になる(皮脂欠乏性湿疹) 保湿剤は、この輪の入口を塞ぎます。伸びてきた神経を抑える働きも報告されています。 出典:日本皮膚科学会「皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020」4.病態,発症機序

掻くほど掻きたくなるのは、気のせいではありません。

皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020は、こう説明しています。

「ドライスキンのかゆみの原因として神経線維(C線維)の表皮内侵入とsprouting(表皮内神経伸長)があり,このためかゆみ閾値の低下が生じ,軽度の刺激により容易にかゆみが惹起される

通常、かゆみを感じる神経の先端は表皮の下にあります。ところが皮膚が乾くと、その神経が表皮の中まで伸びてくるのです。センサーが表面近くに移動するようなもので、これまで何も感じなかった刺激——衣類のこすれ、髪の毛の接触——でかゆみが出るようになります。

これが9章で見た「軽微な刺激でもかゆみを生じる」の正体です。気のせいでも、気の持ちようでもありません。

そして重要なのは、この伸びた神経を戻す手段があることです。

保湿剤外用や紫外線療法は表皮内神経伸長を抑制し,かゆみを抑制する

保湿剤は、水分を足すだけの対症療法ではありません。かゆみが起きる仕組みそのものに働いていると考えられています。だから飲み薬より先に塗る、という順番になるわけです。

もう一方の向きも見ておきます。掻き続けるとどうなるか。手引きは「搔破の反復により炎症が引き起こされると湿疹化する(皮脂欠乏性湿疹)」とし、「湿疹が拡大すれば局面を形成して貨幣状湿疹となり,進行すれば丘疹や膿疱を生じ,苔癬化,色素沈着などもみられるようになる」と書いています。色素沈着は、掻いた跡が茶色く残るということです。

高齢の方では、もう一つ。「本症はしばしば瘙痒を伴うため,搔破痕や,高齢者では紫斑がみられることも多い」。腕やすねの青あざが、掻いたことによる場合があります。

11. 🚨 発疹がないのに痒いとき、探す病気

ここは、この記事でもう一つ重要な章です。

発疹がないのに全身が痒い——これが皮膚瘙痒症の定義です。原因として最も多いのは乾燥ですが、ガイドラインは、それだけで済ませないよう求めています。

「ドライスキンによる皮膚瘙痒症であるかどうかを診断するためには,実際の視診に頼る部分が大きく,また同時に汎発性皮膚瘙痒症の原因となる基礎疾患を除外しておく必要がある

挙げられている病気は、次のとおりです。

分類病気
腎臓慢性腎不全、血液透析
肝臓・胆道原発性胆汁性胆管炎、閉塞性胆道疾患、肝硬変、慢性肝炎
内分泌・代謝甲状腺機能異常、糖尿病、妊娠、閉経後、痛風、副甲状腺機能異常
血液真性赤血球増多症、鉄欠乏性貧血、悪性リンパ腫、ヘモクロマトーシス
悪性腫瘍悪性リンパ腫、慢性白血病、内臓悪性腫瘍
神経多発性硬化症、脳血管障害、脳腫瘍
その他AIDS、寄生虫疾患、心因性

調べ方も具体的に書かれています。

「具体的には,血液検査(血算,白血球分画,BUN,Cre,肝胆道系酵素,甲状腺ホルモン,血糖値)などでそれらの疾患を除外する」

健診で測っている項目とかなり重なります。健診結果の読み方で扱った肝機能・腎機能・血糖に加えて、甲状腺鉄・フェリチンが入っているのが特徴です。腎臓の数値についてはeGFRと尿蛋白で詳しく書いています。

さらにガイドラインは、こう続けます。「血液検査などで特に異常が見つからず,原因が不明で,頑固な瘙痒が長期間続く場合などは,内臓悪性腫瘍の合併も念頭におかねばならない」。その場合は便潜血、腫瘍マーカー、胸部X線、造影CTなどが検討されます。

薬も原因になります。ガイドラインの表には、オピオイド(モルヒネ、コデイン)、ベンゾジアゼピン系、カルバマゼピン、アスピリンやその他のNSAIDs、降圧薬(カプトプリル、エナラプリル、クロニジン、アミオダロン)、利尿薬(フロセミド、ヒドロクロロチアジド)、βラクタム系抗生物質、リファンピシン、ホルモン剤(プロゲステロン、エストロゲン、経口避妊薬)などが並んでいます。高齢の方は多くの薬を飲んでいることが多いため、原因を特定できない場合は薬の可能性も考えるよう明記されています。

受診をおすすめする目安

保湿剤を十分な量・1日2回・2週間続けても、かゆみが変わらない

発疹がないのに全身が痒い。とくに背中から始まった、夜間に強い

体重が減った、だるい、黄疸、むくみなどほかの症状をともなう

赤み・じくじく・ひっかき傷が広がっている(湿疹になっています

新しい薬を飲み始めてから痒くなった

12. 受診の目安と、そのとき出る薬

皮膚科を受診すると、何が起きるのか。予習しておきます。

まず保湿剤。医療用の保湿剤には、ヘパリン類似物質の製剤(ヒルドイドなど)と尿素製剤(ウレパール、ケラチナミン、パスタロンなど)があり、軟膏・クリーム・ローション・フォームといった剤形から選べます。市販品より安価になることも、保険の自己負担によってはあります。

ただし、注意が2つ。手引きの実態調査では、「美容目的で医療用保湿剤を処方している医師は多くなかった」と報告されています。乾燥やかゆみという症状があって処方されるものです。また、「温まると瘙痒が生じる場合のように,瘙痒が軽度な皮脂欠乏症」については、医療費を意識して市販薬での対応を勧める医師が多かったとも書かれています。

次にステロイド外用薬。ここは区別が必要です。

状態ステロイド外用の推奨度
発疹がなく、痒いだけ(皮膚瘙痒症)C2(根拠がないので勧められない)
掻いて湿疹になっているB(行うよう勧められる)

ガイドラインは「皮膚病変を認めない痒みに対する外用ステロイドの効果は不定であり,基本的にはエビデンスレベルの高い報告はない」とし、「長期外用による副作用の観点からもステロイド外用薬を皮膚瘙痒症の痒みに適応することは推奨できない」と書いています。

一方で、「アトピー性皮膚炎や皮脂欠乏性皮膚炎に代表される乾燥肌が基盤となり生じる痒みには有効である」とも明記されています。湿疹になっていれば使う、なっていなければ使わない。この線引きは、医師が診て判断する部分です。手引きも「保湿剤による治療にもかかわらず増悪して湿疹化した場合には,ステロイド外用薬などの抗炎症薬を用いた治療を併用する」としています。

予後についても、率直に書かれています。

「保湿剤による治療反応性は高く,一般的に予後は良好であるが,対症療法であり,治療の中止・中断あるいは季節変動等の環境要因,合併する疾患の悪化などの非生理的要因により再発する

よくなるけれど、やめれば戻る。だからこそ5章の「続けられる製品を選ぶ」が効いてきます。

この記事のまとめ

飲むかゆみ止めはC1「十分な根拠が無い」。二重盲検試験は行われていません

保湿剤は推奨度B/皮脂欠乏症では推奨度1。順番はこちらが先です

成分では選べません。続けられるかどうかで選んでください

量は「少しテカテカする程度」、回数は1日2回。タイミングは自由です

ナイロンタオルはやめる。泡を手に取って優しく洗う

髪の毛が当たるだけで痒いのは、神経が表皮まで伸びているから

発疹がないのに全身が痒いときは、腎臓・肝臓・甲状腺・糖尿病・貧血・悪性腫瘍を調べます

13. よくある質問

市販の飲むかゆみ止めを買いましたが、あまり効きません。

ガイドラインの評価と一致しています。皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020は、抗ヒスタミン薬(飲むかゆみ止め)に推奨度C1をつけ、推奨文をこう書いています。「高いレベルで解析した研究は無く,使用を考慮しても良いが十分な根拠が無い」。さらに解説には「汎発性皮膚瘙痒症に対する抗ヒスタミン薬のランダム化二重盲検試験は認められない」とあります。それでも第一選択とされているのは、エビデンスがあるからではなく「ガイドライン委員の総意に基づいたエキスパートオピニオン」としてです。乾燥によるかゆみは、ヒスタミン以外の仕組みが大きく関わっているため、飲み薬だけでは届きにくいのです。同じガイドラインで保湿剤は推奨度B。順番としては、まず塗るほうが理にかなっています。

保湿剤は、お風呂上がり何分以内に塗ればいいですか?

「何分以内」を気にする必要はありません。皮脂欠乏症診療の手引き2021が引用している研究では、保湿剤を入浴1分後に塗った群と1時間後に塗った群を比べて、保湿剤の種類によらず角層の水分量に有意差がありませんでした。手引きは「患者本人や家族,高齢者施設のケアスタッフなどの都合に合わせて塗布するよう指導するのが望ましい」としています。一方で回数には差が出ています。同じ量を1日2回塗った群は、1回だけの群より有意に高い値を示しました。「すぐ塗らなければ」と気負うより、1日2回続けられる時間帯を決めるほうが結果につながります。

保湿剤は、どの成分を選べばいいですか?

成分で選ぶ根拠は、実はありません。皮脂欠乏症診療の手引き2021のCQ1は、ヘパリン類似物質・尿素・セラミド・グリセロールなど多くの成分で効果が確認されたと述べたうえで、「ただし,保湿剤のいずれが優れているかについてはエビデンスがない」と明記しています。手引きが重視しているのは別のことです。「剤形も豊富であり,価格の幅も大きいことから,患者が使用感で満足しつつ,安心かつ継続して使用できる製品を用いることが重要と考える」。つまりベタつきが苦手ならローション、乾きが強ければ軟膏というように、続けられるかどうかで選ぶのが正解です。なお軽い乾燥なら、手引きは市販の保湿剤で対応することを想定しています。ひび割れて出血する・しみる場合は、尿素配合のものが刺激になることがあるので避けてください。

体を洗うとき、何に気をつければいいですか?

ナイロンタオルとブラシは使わないでください。皮脂欠乏症診療の手引き2021は、これらによる清拭が「角層からの水分蒸散を増加させ,皮膚の乾燥を助長する」として、使用しないよう明記しています。代わりに「石鹸・洗浄剤をよく泡立てて泡を手のひらに取り優しく洗う」こと。石鹸の主成分は界面活性剤なので、過度の使用やすすぎ残しも乾燥を悪化させます。とくに乾燥の強い部位への石鹸の使用は最小限にします。皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020のスキンケア表も、かゆみを生じるほどの高い温度の湯を避ける入浴後のほてりを感じさせる沐浴剤・入浴剤は避ける、爪を短く切る、新しい肌着は使用前に水洗いする、といった項目を挙げています。

発疹がないのに全身が痒いです。皮膚の問題ではないのでしょうか。

その可能性があります。発疹がないのに痒い状態を皮膚瘙痒症と呼び、原因として最も多いのは乾燥(老人性乾皮症)です。ただしガイドラインは、基礎疾患を除外しておく必要があるとしています。挙げられているのは腎臓の病気(慢性腎不全・透析)、肝臓・胆道の病気、甲状腺の異常、糖尿病、鉄欠乏性貧血、血液の病気、内臓の悪性腫瘍などです。調べ方も具体的で、血算、白血球分画、BUN、クレアチニン、肝胆道系酵素、甲状腺ホルモン、血糖値といった血液検査が挙げられています。また、飲んでいる薬が原因のこともあります(オピオイド、降圧薬、利尿薬、抗菌薬、ホルモン剤など)。保湿剤を続けても改善しない場合は、皮膚だけの問題として扱わず、内科での検査も含めて相談してください。

参考にした主な資料

なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。本文で紹介した推奨度・エビデンスレベル・塗布量・試験結果は、日本皮膚科学会「皮脂欠乏症診療の手引き2021」および「皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020」にもとづくもので、公開時点の情報です。推奨度は集団に対する評価であり、個々の患者さんにとっての最適な治療と一致するとは限りません。赤み・じくじく・ひっかき傷が広がっている場合は湿疹になっている可能性があり、保湿剤だけでは不十分です。皮膚科を受診してください。発疹がないのに全身が痒い場合、腎臓・肝臓・甲状腺・血液の病気や悪性腫瘍が背景にあることがあります。保湿剤を続けても改善しないときは、血液検査を含めて医師にご相談ください。飲んでいる薬が原因のこともあるため、自己判断で薬を中止せず、処方した医師・薬剤師にご相談ください。尿素を含む保湿剤は、ひび割れや傷のある部分では刺激になることがあります。掲載内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。