1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| 食べすぎた自分のせい | 原因は、不健康な食生活というよりも、もともとインスリンの働きが弱めといった体質的な部分が大きい |
| 太っていなければ検査はいらない | ハイリスクの人だけでは見逃しが出るため、検査は全妊婦に、初期と中期(24〜28週)の2回 |
| 食事療法=食事を減らすこと | 単なる食事制限ではなく、赤ちゃんのためにきちんと栄養をとる。1日の食事を4〜6回に分けるなどで血糖を管理 |
| インスリン注射は赤ちゃんに悪い | インスリン注射は赤ちゃんに影響しない。よほどのことがない限り出産後に中止できる |
| 出産したら治まって終わり | 将来、糖尿病を発症するリスクが約7倍。産後6〜12週の再検査と、その後の定期的な検査が強く推奨されている |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
妊娠糖尿病は、妊娠中に注意すれば、母児ともにほとんどのトラブルを避けられます。食事は主治医や管理栄養士の指導のもとで、減らすのではなく分けてとる。そして出産後は、6〜12週に75gブドウ糖負荷試験を受け、その後も定期的に血糖を確かめてください。
2. 妊娠糖尿病とは——妊娠中の3つの「高血糖」
日本産科婦人科学会によると、血糖値を下げるホルモン(インスリン)の働きは、妊娠が進むにつれて弱まるといわれています。もともとインスリンの働きが弱めの方が妊娠すると、妊娠の後半に血糖値が上がり、妊娠糖尿病になることがあります。
糖尿病診療ガイドライン2024(第17章 妊婦の糖代謝異常)は、妊娠中に扱う糖代謝異常を次の3つに分けています。
| 種類 | どんな状態か |
|---|---|
| 妊娠糖尿病 | 妊娠中に初めて見つかった糖の代謝異常(日本産科婦人科学会の説明) |
| 妊娠中の明らかな糖尿病 | 妊娠中に見つかったが、糖尿病と同じレベルの高血糖。妊娠前から糖尿病だった場合もある |
| 糖尿病合併妊娠 | もともと糖尿病がある女性の妊娠。お母さんや赤ちゃんがより深刻な状態になることがあり、計画的な妊娠が大切 |
3. なりやすい人
ガイドラインは、妊娠糖尿病のリスク因子として次のものを挙げています。
| リスク因子 | ガイドラインで紹介されている報告 |
|---|---|
| 以前の妊娠糖尿病 | 次の妊娠で再び発症しやすい。日本の報告では再発は47.2〜76.4%程度 |
| 肥満 | BMI25超で2.14倍、BMI30超で3.56倍。妊娠中の過度な体重増加もリスク |
| 年齢 | 20〜24歳を基準に、30〜34歳で2.73倍、35〜39歳で3.54倍、40歳以上で4.86倍。アジア人はヨーロッパ人より年齢による増え方が大きい |
| 糖尿病の家族歴 | 父・母・きょうだいが2型糖尿病だと、それぞれ3.3倍・3.0倍・7.1倍 |
| そのほか | 多胎妊娠、多嚢胞性卵巣症候群(2.44倍)、巨大児を出産したことがある、人種(アジア系など) |
ガイドラインは、管理できるリスク因子には妊娠前から取り組むことが重要だとしています。とはいえ日本産科婦人科学会が書いているとおり、原因は体質的な部分が大きい病気です。
4.【核心】検査は全員に、初期と中期の2回
ガイドラインは、肥満や家族歴などのハイリスクの妊婦さんだけを対象にすると見逃しが生じるため、検査は全妊婦を対象に、妊娠初期と中期(24〜28週)に行うとしています。
- 妊娠初期:妊娠前から糖尿病だった「妊娠中の明らかな糖尿病」を見つけることに重点を置く。日本人は2型糖尿病になりやすい人種であり、妊娠初期の高血糖は赤ちゃんの先天異常、流産などとの関連が指摘されている
- 妊娠中期(24〜28週):妊娠が進んでインスリンの働きが弱まる時期に、妊娠糖尿病が潜んでいないかを確かめる
- まず簡単な検査(スクリーニング)を行い、陽性なら診断のための検査(75gブドウ糖負荷試験など)に進む
妊娠中の明らかな糖尿病の診断には、HbA1cなども使われます。
5. お母さんと赤ちゃんの合併症
日本産科婦人科学会によると、お母さんの血糖値が高いと、おなかの赤ちゃんの血糖値も高くなり、母児ともにさまざまな合併症を起こします。
| 起こりうる合併症(日本産科婦人科学会) | |
|---|---|
| お母さん | 妊娠高血圧症候群、羊水の量の異常(多すぎ・少なすぎ)、難産、糖尿病による網膜症・腎症など |
| 赤ちゃん | 流産、巨大児、心臓の肥大、低血糖、多血症、電解質の異常、黄疸、胎児死亡など |
ガイドラインは、糖代謝異常のある妊婦さんへの妊娠中の血糖コントロールの強化は、母児の予後を改善するとしています(推奨グレードA)。また、こうしたお母さんから生まれた子どもは、小児期以降も肥満や2型糖尿病のリスクが高くなるため、定期的なフォローアップが重要だとしています。
6. 血糖の目標と、食事・インスリン
日本産科婦人科学会は、妊娠中は血糖値の管理が最も重要だとしています。ガイドラインが示す目標は次のとおりです。
| 項目 | 妊娠中の血糖コントロールの目標(ガイドライン) |
|---|---|
| 空腹時の血糖値 | 95mg/dL未満 |
| 食後の血糖値 | 食後2時間値120mg/dL未満(または食後1時間値140mg/dL未満) |
| HbA1c | 6.0〜6.5%未満(6.0%未満が理想的。重い低血糖の有無などで一人ひとり検討) |
- 食事療法:1日の食事を4〜6回に分けて食べるなどで、高血糖にも低血糖にもならないようにする。単なる食事制限ではなく、赤ちゃんのためにきちんと栄養をとる必要があるので、主治医や管理栄養士の指導を聞く(日本産科婦人科学会)
- 体重:妊娠中の体重増加が多すぎると早産や巨大児などが増え、少なすぎると低出生体重児が増えるため、適正な体重増加を目指す(ガイドライン)
- 運動:一般に妊娠中の運動には、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などを防ぐ効果が示されており、健康増進に役立つ可能性がある(ガイドライン)
- インスリン:食事療法で血糖をうまく管理できない場合は、インスリン注射で治療する。インスリン注射は赤ちゃんに影響せず、よほどのことがない限り出産後に中止できるので、不安に思う必要はない(日本産科婦人科学会)
7. 糖尿病がある人は、妊娠前から準備を
もともと糖尿病がある女性について、ガイドラインは妊娠前からの管理(プレコンセプションケア)を重視しています。
- 妊娠前の血糖コントロールは母児の予後を改善する。メタ解析では、妊娠前管理によって先天異常が71%、周産期死亡が54%低下した(推奨グレードA)
- 妊娠初期の血糖コントロール不良による先天異常、流産などを防ぐため、低血糖を避けながら、できるだけ正常に近い血糖(理想的にはHbA1c 6.5%未満)を目指す
- 糖尿病網膜症や腎症、高血圧、肥満なども、妊娠前から評価と管理を行う
- 良好なコントロールを達成できたら、1日400μgの葉酸サプリメントの摂取を勧める
日本産科婦人科学会も、糖尿病がある方は血糖値をきちんと管理し、目や腎臓の合併症を評価したうえで計画的に妊娠することが大切だとしています。
この章で扱った葉酸サプリメントです。糖尿病診療ガイドライン2024は、糖尿病がある女性の妊娠前管理について、「良好なコントロールを達成できたら1 日400μg/日の葉酸サプリメントの摂取を勧める」としています。
※ 当サイトは、記事のなかで根拠を示したうえで推奨したものに限り広告を掲載しています。ここで紹介しているのは、1日1粒で葉酸400μgの葉酸含有食品です(販売ページの栄養成分表示。ビタミンB2・B6・B12も含みます)。ガイドラインが勧めているのは、糖尿病がある女性が良好な血糖コントロールを達成したあとの、妊娠前からの摂取です。サプリメントは血糖の管理の代わりにはなりません。糖尿病の治療中の方、妊娠中の方は、始める前に主治医に相談してください。
8.【内科医の視点】産後の再検査が、いちばん大事
内科医として最も伝えたいのは、出産後のことです。日本産科婦人科学会によると、妊娠糖尿病になった方は、将来、糖尿病を発症するリスクが7倍高いといわれています。ガイドラインは次のように推奨しています。
「妊娠糖尿病既往の女性において,産後6~12 週に糖代謝異常評価のために75g OGTT を行い,糖尿病と診断されなかった女性については,その後も定期的に糖代謝異常の評価を行うことが強く推奨される.」(糖尿病診療ガイドライン2024 第17章 ステートメント17-10、推奨グレードA)
- 空腹時血糖やHbA1cだけでは見つけにくいため、産後の検査は75gブドウ糖負荷試験で行うことが強く推奨されている(推奨グレードA)
- 2型糖尿病を防ぐために、生活習慣への介入と、母乳で育てることが有効とされている(推奨グレードB)
- 日本産科婦人科学会も、母乳で育てると母児ともに将来の糖尿病のリスクが下がることが分かっているとし、長い目で食事や運動、体重管理に気を配ってほしいとしている
糖尿病の手前の段階については糖尿病予備軍の記事で書いています。
9. 相談・受診したいとき
資料にあるもの
・妊婦健診の血糖の検査で再検査を勧められた(75gブドウ糖負荷試験など)
・妊娠糖尿病と診断された(食事は主治医や管理栄養士の指導のもとで)
・もともと糖尿病があり、妊娠を考えている(妊娠前から血糖と合併症の管理を)
・妊娠糖尿病で出産した(産後6〜12週に75gブドウ糖負荷試験、その後も定期的に)
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 妊娠糖尿病は妊婦さんの7〜9%。原因は体質が大きい
② 検査は全妊婦に、初期と中期(24〜28週)の2回
③ 75gブドウ糖負荷試験で92・180・153mg/dLのどれかを超えると診断
④ 食事は減らさず分けて。必要ならインスリン(赤ちゃんに影響しない)
⑤ 将来の糖尿病リスクは約7倍。産後6〜12週の再検査と、その後も定期的に
10. よくある質問
妊娠糖尿病の原因は、食べすぎですか?
日本産科婦人科学会によると、妊娠糖尿病の原因は、不健康な食生活というよりも、もともとインスリンの働きが弱めといった体質的な部分が大きいとされています。インスリンの働きは妊娠が進むにつれて弱まるため、もともと働きが弱めの方は妊娠の後半に血糖値が上がることがあります。
妊娠糖尿病の診断基準は?
日本産科婦人科学会によると、75gのブドウ糖液を飲む検査で、飲む前92mg/dL、飲んで1時間後180mg/dL、2時間後153mg/dLのどれかを超えると、妊娠糖尿病と診断されます。糖尿病診療ガイドライン2024は、検査を全妊婦を対象に、妊娠初期と中期(24〜28週)に行うとしています。
食事はどうすればいいですか?
日本産科婦人科学会は、1日の食事を4〜6回に分けて食べるなどの食事療法で、高血糖にも低血糖にもならないようにするとしています。単なる食事制限ではなく、赤ちゃんのためにきちんと栄養をとる必要があるので、主治医や管理栄養士の指導を聞いてください。
インスリン注射は赤ちゃんに影響しませんか?
日本産科婦人科学会によると、インスリンの注射は赤ちゃんに影響せず、よほどのことがない限り出産後に中止できるので、不安に思う必要はないとされています。食事療法で血糖値をうまく管理できない場合に使います。
出産したら、もう心配はいりませんか?
妊娠糖尿病になった方は、将来、糖尿病を発症するリスクが7倍高いといわれています。糖尿病診療ガイドライン2024は、産後6〜12週に75gブドウ糖負荷試験を行い、糖尿病と診断されなかった場合もその後定期的に検査することを強く推奨しています。生活習慣への介入や母乳で育てることも、2型糖尿病を防ぐのに有効とされています。
糖尿病があっても妊娠できますか?
糖尿病診療ガイドライン2024は、もともと糖尿病がある女性は、妊娠前から低血糖を避けながら、できるだけ正常に近い血糖(理想的にはHbA1c 6.5%未満)を目指し、網膜症や腎症なども評価・管理する妊娠前管理を重視しています。良好なコントロールを達成できたら、1日400μgの葉酸サプリメントの摂取を勧めています。計画的な妊娠について、主治医と相談してください。
参考にした主な資料
- 日本産科婦人科学会「妊娠糖尿病」(2025年1月30日更新)
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024 第17章 妊婦の糖代謝異常」