1. 先に結論
ガイドラインから読み取れることを、先にまとめます。
| よく聞く話 | ガイドラインが書いていること |
|---|---|
| 痔は血のうっ血でできる | 「その後の研究ではこの静脈還流阻害説については否定的な意見が多い」。いまは支持組織の減弱が主流 |
| 市販薬で治せる | 痛み・腫れ・出血は緩和できますが、「慢性的な脱肛症状を消失させる効能はない」 |
| 軟膏がいちばん | 切れ痔では「局所軟膏による治療よりも食物繊維の摂取と温坐浴による治療のほうが優れている」という報告も |
| あな痔も薬で様子を見る | 「痔瘻の自然治癒はまれであるため,基本的には手術が必要である」。抗菌薬も効果はあまり期待できません |
| 放っておいても変わらない | 脱出の段階は10年未満で次の段階へ進む割合が高いと報告されています |
| よく洗うほうが清潔 | 「過度な清浄による皮膚表面の微細な損傷が瘙痒感の原因となることもある」 |
| 出血したら痔だろう | 暗赤色・粘血液・便潜血陽性・貧血・持続する出血は、大腸の検査が必要なサインです |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
痔は「恥ずかしいから我慢する」より「段階を確かめる」ほうが得な病気です。脱出の程度で治療が変わり、10年という時間で段階は進みます。そして何より——その出血が本当に痔によるものかどうかは、見ただけでは決まりません。
2.「痔」は、3つの別の病気です
「痔」とひとまとめにされていますが、中身は別の病気です。ガイドラインも痔核・痔瘻・裂肛・直腸脱の4つを、それぞれ独立した章で扱っています。
同じ「痔」でも、治り方がまったく違います。
日本の肛門科を新しく受診した5,447例の内訳は、内外痔核が3,419例(62.8%)、次いで裂肛が1,355例(24.9%)、痔瘻が356例(6.5%)でした。
| いぼ痔(痔核) | 切れ痔(裂肛) | あな痔(痔瘻) | |
|---|---|---|---|
| 何が起きているか | 肛門クッションという組織が肥大して出てくる | 肛門の皮膚に亀裂・びらん・潰瘍ができる | 肛門の腺に細菌が入って膿の通り道ができる |
| 主な症状 | 出血、脱出、腫れ、かゆみ、粘液 | 排便中と排便後の痛み、少量の鮮血 | 膿の排出、腫れと痛み、発熱 |
| 多い年代 | 45〜65歳 | 20〜50歳代 | 30〜40歳代(30代30%・40代21%) |
| 男女 | 差はありません | 女性に多い | 男性が2.2〜5.7倍 |
| 治り方 | 保存療法から始め、段階により手術 | 保存療法が中心 | 基本的に手術 |
もうひとつ、混同されやすいのが直腸脱です。こちらは痔ではなく、直腸そのものが肛門の外へ出てくる病気で、骨盤臓器脱のひとつに分類されます。欧米では全人口の約0.5%にみられ、中高年では女性が男性の6〜9倍、ピークは60〜70歳代です。背景には「老化と出産による骨盤底筋の脆弱化」があるとされ、脱出に伴う症状として肛門痛100%、出血75〜100%、便失禁50〜75%が挙げられています。
見分け方も書かれています。「脱肛や粘膜脱では直腸粘膜が放射状に脱出するが,直腸脱では直腸粘膜が輪状に脱出する」。出てきたものにできる溝が、放射状か、輪っか状か。ここで区別できるということです。骨盤底筋については尿もれと骨盤底筋でも扱いました。
3. いぼ痔——「うっ血」ではなく「ゆるみ」
いちばん多いいぼ痔(痔核)から見ていきます。まず定義です。
「痔核とは肛門管内の粘膜下と肛門上皮下にある血管や結合織からなる柔らかい組織(肛門クッション)が次第に肥大化して出血や脱出などの症状を呈する状態になったものである」
重要なのは、肛門クッションは誰にでもある正常な組織だということです。便やガスをもらさないために、肛門を内側から柔らかく塞いでいる部分。それが肥大して症状を出すようになったものが痔核です。
では、なぜ肥大するのか。ここで従来の説明とのズレが出ます。
「痔核の病因については諸説あるが,支持組織の減弱であるとする説が最も支持されている」
「痔核の病因を静脈還流の阻害にあるとする説も古くから存在する。(中略)しかしその後の研究ではこの静脈還流阻害説については否定的な意見が多い」
「血がうっ滞してこぶになる」という説明は、いまの主流ではありません。クッションを支えている組織(結合織)がゆるみ、下がってくる——これが最も支持されている考え方です。加齢による結合織の脆弱化、支持組織の変性、線維組織の分断などが報告されています。
もうひとつ、関与が指摘されているのが内肛門括約筋の過緊張です。痔核の患者は肛門管の静止圧が高いことが示されており、「静止圧が高い肛門では排便時に脱出した痔核が肛門括約筋の緊張により絞扼され,肛門クッションにうっ血をきたして出血や浮腫を生じやすい」とされています。締まりすぎている肛門も、痔核の一因になりうるということです。
リスク因子として挙げられているのは、次のようなものです。
- 慢性便秘——排便回数の減少や怒責(いきむこと)
- 腹圧がかかりやすい、重い物を扱う職業
- 肛門のうっ血が生じやすい、長時間の坐業
- 食物繊維の摂取が少ない
- 妊娠、出産、慢性下痢
一方で、こう書かれてもいます。「痔核の遺伝的素因についての疫学的なエビデンスはない」。「家系だから仕方ない」という説明に、疫学的な裏づけはありません。
頻度についても触れておきます。症状からみた有病率は4.4〜13.3%ですが、肛門鏡で調べると21.6〜55%。痔核があっても無症状の人が非常に多いということです。便秘そのものについては便秘で詳しく扱いました。
4.【核心】脱出の段階と、10年という時間
いぼ痔の治療は、どこまで出てくるかで決まります。世界的に使われているのがGoligher分類で、4つのグレード(ガイドラインの表記では grade Ⅰ〜Ⅳ)に分かれます。
グレードⅢ以上の脱出は、外科的治療の対象になります。
ガイドラインは、この分類を「内痔核の脱出度分類であるGoligher分類は治療法選択の指標として有用である」(エビデンスの強さB)と評価しています。簡便で、患者の自覚症状だけで分けられるからです。
そして、この記事でいちばん知っていただきたいのが次の一文です。
「Goligher分類の時間的進行経過はほとんどが順行性にgradeが進んでいき,ⅡからⅢ,ⅢからⅣは10年未満に次のgradeに進行する割合が高いとの報告がみられる」
放っておくと、だいたい進みます。しかも10年という単位で。いま「排便のときに出るけれど、自然に戻る」(グレードⅡ)なら、それは手で押し戻す段階(グレードⅢ)になる前の時間です。
治療の分かれ目もはっきりしています。ガイドラインは、グレードⅢ以上の脱出症状と、「保存的治療でも改善しない出血症状」は外科的治療の適応になるとしています。
自分の段階を確かめる
グレードⅠ 出血はあるが、出てこない → 保存療法
グレードⅡ 出るが、自然に戻る → 保存療法。ここが動きどきです
グレードⅢ 手で押し戻さないと戻らない → 外科的治療の対象
グレードⅣ 常に出ていて、戻せない → 外科的治療の対象
ただしガイドラインは、この分類の限界も書いています。「Goligher分類は出血など他の内痔核による症状の重症度や全周性のものや血栓の合併などの病態が考慮されていないため治療法のアウトカムを評価するには適していない」(エビデンスの強さC)。段階を選ぶためのものさしであって、成績を比べるものさしではないということです。
5. 市販薬でできること、できないこと
薬局で買える痔の薬について、ガイドラインは効果と限界を1文ずつ書いています。
「薬物療法は腫脹,疼痛,出血の緩和に効果を認めるが,慢性的な脱肛症状を消失させる効能はない」
前半と後半、どちらも大事です。痛み・腫れ・出血の緩和には効果がある。出っぱりは戻らない。
成分ごとの役割も書かれています。
| 成分 | ガイドラインの記述 |
|---|---|
| ステロイド含有薬 | 「腫脹,疼痛,出血の強い急性炎症の時期に著効を示す場合が多い」。ただし長期間の使用でまれにステロイド性皮膚炎や肛門周囲白癬症 |
| トリベノシド、ブロメライン | 炎症性浮腫の緩和 |
| 局所麻酔薬 | 疼痛の緩和 |
| ビスマス系 | 出血症状の緩和 |
| フラボノイド類 | 疼痛・腫脹・出血に著明な改善効果の報告あり。ただし妊婦に対する安全性は保障されておらず、胎児の死亡1例、奇形1例が報告されているため安全性は十分ではない |
ステロイドを含む市販薬は多くあります。急性期に短く使うものであって、何年も塗り続けるものではありません。肛門周囲白癬症というのは肛門まわりの水虫のことで、ステロイドで悪化する代表的な病気です(→足白癬・爪白癬)。
6. 温坐浴——3週間で87%という数字
薬より先に、ガイドラインが挙げている対処があります。温めることです。
「局所の血流障害を伴う血栓性外痔核や嵌頓痔核には座浴や入浴で局所を暖めることが疼痛と腫脹の緩和に有効である」(痔核の生活指導)
「肛門衛生のためには,排便後は坐浴や水での洗浄を行い,紙などで強く拭くことは避ける。(中略)温坐浴により3週間後に急性裂肛の87%が治癒したとの報告もある」(裂肛の保存的療法)
3週間で87%。切れ痔についての報告ですが、お金のかからない方法としては十分に大きな数字です。
そして、こういう記述もあります。
「一般的には痔疾患用の局所麻酔薬合有軟膏やヒドロコルチゾン含有軟膏の局所塗布が用いられる.しかし,局所軟膏による治療よりも食物繊維の摂取と温坐浴による治療のほうが優れているとする報告もある」
軟膏より、食物繊維と温坐浴。薬を買う前に試す価値がある、ということです。
生活指導としてガイドラインが挙げているのは、次の項目です。
| やること | やめること |
|---|---|
| 十分な水分量と食物繊維をとる | 過度な怒責(強くいきむこと) |
| 便意が発現してから排便する | 長時間便器に座り続ける |
| 座浴や入浴で局所を暖める | アルコールの過剰摂取 |
| 便の性状を改善する | 長時間の座位、体の冷え |
2つ目の「便意が発現してから排便する」は見落とされがちです。便意がないのに時間を決めて座る、スマートフォンを見ながら長く座る——どちらもいきむ時間と座る時間を延ばします。ガイドラインが名指しで避けるよう書いているのは、まさにこれです。
7. 拭き方と洗い方——強く拭かない、洗いすぎない
ここは、ガイドラインの2か所を並べて読む必要があります。
裂肛の項:「裂肛を有する患者は,疼痛や肛門皮垂のために肛門の衛生を保てないことが多い.肛門衛生のためには,排便後は坐浴や水での洗浄を行い,紙などで強く拭くことは避ける」
痔核の項:「便や粘液による皮膚への刺激が瘙痒感の主な原因であるが,過度な清浄による皮膚表面の微細な損傷が瘙痒感の原因となることもある」
一見、逆のことを言っているようですが、両立します。
洗うのは、こすらないため。
紙で強く拭くのをやめる目的で、水で洗う。——ここまでがガイドラインの勧めです。
一方、洗うこと自体を長く強くやれば、今度はそれが皮膚を傷つけてかゆみを作ります。水勢は弱く、時間は短く。洗ったあとは押さえるように水気を取ってください。
かゆみが続いているなら、まず「洗いすぎていないか」を疑ってください。
もうひとつ、6章の生活指導にあった「過度な怒責や長時間便器に座り続けることを避け」も、この章とつながります。洗浄機能を使いながら長く座っていれば、両方の悪い条件がそろいます。
8. 切れ痔——女性に多く、原因は便秘だけではない
裂肛(切れ痔)は、肛門上皮に生じた亀裂、びらん、潰瘍の総称です。
特徴は痛みです。「排便中および排便後に出現する肛門痛が特徴的で,排便後に数時間続くこともある」。出血は少量で、鮮血がトイレットペーパーにつく程度のことが多いとされています。
疫学は、いぼ痔と対照的です。20〜50歳代に好発し、女性に多い。生涯発症率が11.1%だったという報告もあります。好発部位は肛門の後方で全体の約80%、前方の慢性裂肛は女性に多いとされています。
原因については、2つの説が挙げられています。
| 説 | 根拠として挙げられているもの |
|---|---|
| 肛門上皮損傷説 | 裂肛患者の20%が便秘だったという報告。便秘患者では裂肛が痔瘻より有意に多い |
| 肛門上皮虚血説 | 裂肛患者は肛門静止圧が健常者より有意に高く、内肛門括約筋の緊張亢進が末端動脈を圧迫して後交連の虚血を起こす |
注目したいのは「裂肛患者の20%が便秘」という数字です。裏を返せば8割は便秘ではありません。切れ痔=便秘、という理解では届かない部分があります。
もう一方の虚血説は、いまの治療の方向を決めています。ガイドラインは「最近の裂肛の治療に関する報告は,すべて高い肛門静止圧への対処法に集中している」と書いています。つまり締まりすぎている括約筋をゆるめることが治療の軸です。海外では硝酸薬、カルシウム拮抗薬(ジルチアゼム、ニフェジピン)、ボツリヌス毒素が使われています。
慢性化すると、3つの所見がそろいます。裂肛、肛門皮垂(見張り疣)、肛門ポリープ——これを慢性裂肛の3徴といいます。「いぼができた」と思っていたものが、実は切れ痔に伴う見張り疣だった、ということもあります。
食事についても具体的です。「便秘に関しては肉類の過剰摂取には注意し,繊維成分の摂取を十分するように指導する.また,下痢に関しては冷たい飲み物,アルコール,香辛料の過剰摂取には注意が必要である」。便秘だけでなく下痢も避ける対象です。
9. あな痔——自然には治りません
3つのなかで、最も扱いが違うのが痔瘻(あな痔)です。
「痔瘻の自然治癒はまれであるため,基本的には手術が必要である」
できる仕組みは、ほかの2つと根本的に違います。肛門の内側にある小さなくぼみ(肛門陰窩)から細菌が入り、肛門腺に感染を起こす(cryptoglandular infection)。それが膿をためて肛門周囲膿瘍になり、膿が外へ出たあとにトンネル(瘻管)が残ったものが痔瘻です。
つまり感染症です。組織のゆるみでも、皮膚の裂け目でもありません。
急性期の対応も明確です。「肛門周囲膿瘍の診断がつけば,基礎疾患の有無,抗血栓薬などの服用の有無にかかわらず,速やかに切開・排膿を行うことが原則である」。そして——
「抗菌薬の使用は一般の感染性疾患と異なり効果はあまり期待できないが,広範な蜂窩織炎を伴う場合や,糖尿病や心臓弁膜症などの併存疾患をもつ患者でドレナージだけでは改善しない場合には抗菌薬を投与すべきである」
抗生物質を飲んで様子を見る、では解決しません。膿は出す必要があります。
ひとつ、以前と変わった点も書かれています。「これまで肛門周囲膿瘍は必ず痔瘻に移行すると考えられていたが,最近の報告では,肛門周囲膿瘍の切開排膿後の痔瘻への移行率は30数%程度とされる」。膿瘍ができても、3人に1人ほどが痔瘻に進む、という理解に変わっています。
なりやすいのは30〜40歳代の男性です。日本では30歳代30%、40歳代21%。男女比は2.2〜5.7対1。下痢が関与することも指摘されています。
手術については、痔瘻の型ごとに推奨度がついています。低位筋間痔瘻・深部痔瘻の根治術がいずれも推奨度1(どちらも合意率71.4%)、乳児痔瘻の治療方針は推奨度1・合意率100%(14名全員一致)です。
なお、クローン病に合併した痔瘻は別章で扱われており、こちらでは「痔瘻の病態が長期化する例では癌化の危険性を常に念頭に置く」として、定期的な検査が求められています。膿が出る状態が何年も続いているなら、それは放置すべき状態ではありません。
10. 手術を、推奨度で並べる
このガイドラインの価値は、手術ごとに推奨度と合意率が公開されていることです。委員14名が無記名で投票し、合意率70%に達した場合にその推奨度に決定するという手続きまで書かれています。
「行わないことを提案する」まで示すのが、このガイドラインの特徴です。
| 治療 | 推奨度 | 投票の内訳 |
|---|---|---|
| 結紮切除術 | 1(強く推奨) | 「強く推奨」が92.9%(14名中13名) |
| ALTA療法(注射) | 2(提案する) | 「提案する」が71.4%(14名中10名) |
| 痔核を切除しない術式 | 2(提案する) | 「提案する」が85.7%(14名中12名) |
| 嵌頓痔核の急性期手術 | 行わないことを提案する | 1回目で合意に至らず、再討論のうえ第2回投票で決定 |
結紮切除術は痔核を切って取る手術で、グレードⅢ・Ⅳのあらゆる形態の内外痔核に対応でき、肛門ポリープや血栓性外痔核、痔瘻、裂肛を合併していても対応できるとされています。これが唯一の推奨度1です。
ALTA療法(ジオンなどの注射)はグレードⅡ・Ⅲの内痔核がよい適応で、切らずに脱出を改善します。ただし推奨度は2。有害事象として発熱、直腸潰瘍、下腹部痛、血圧低下・徐脈が挙げられています。
ゴム輪結紮法は外来でできる簡便な方法ですが、「血液凝固異常疾患または抗血栓薬を服用している場合は後出血の合併率が高いため,ゴム輪結紮療法の施行は控えるべきである」と注意されています。血をサラサラにする薬を飲んでいる方は、必ず申告してください。
そして、このガイドラインの誠実さが出ているのが最後の行です。「嵌頓痔核の急性期手術」は「行わないことを提案する」。嵌頓痔核とは、脱出した痔核が腫れて戻せなくなった状態で、突然の激しい痛みを伴います。つらい状態ですが、その場で急いで手術するのは勧められないという判断です。
もうひとつ、透明性の高い記述があります。パブリックコメントで痔核手術後の便・ガス失禁の発症率についての記載に懸念が寄せられたことが、そのまま注記として残されています。ガイドラインが外部の指摘を受けて修正した経緯を公開している、ということです。
11. 🚨 その出血、痔とは限りません
最後に、この記事でもっとも重要な章です。
ガイドラインは、痔核の出血の特徴をこう書いています。「出血症状の多くは排便時にみられ鮮明な赤色であることが多い」「通常は便と分離している」。そのうえで——
「暗赤色の出血,粘血液,便潜血陽性,貧血,持続的な出血症状がみられる場合は下部消化管精査による大腸病変の鑑別が必要である」
痔核と見分けが必要な病気として挙げられているのは、裂肛、粘膜脱、直腸脱、直腸潰瘍、直腸炎、直腸・肛門ポリープ、直腸肛門の腫瘍性疾患(肛門癌、直腸癌)です。
大腸の検査を受けたほうがよいサイン
① 暗い赤色の出血、または粘液がまじった血が出る
② 血が便に混じっている(痔核では通常、便と分離しています)
③ 健診の便潜血が陽性だった
④ 貧血を指摘された
⑤ 出血が持続している
⑥ 膿が出る、熱が出る、腫れて強く痛む(痔瘻・肛門周囲膿瘍の可能性。薬で様子を見る対象ではありません)
便潜血が陽性なのに「痔があるから」で終わらせない。これがいちばん危ない判断です。大腸がん検診については女性のがん検診で推奨グレードから整理しました。
診察についても書かれています。痔核の診断は肛門鏡で視認することと、ほかの病気を除外することで確定します。大腸内視鏡で直腸内を反転させれば内痔核は見えますが、「外痔核を含めた痔核の全体像を捉えることはできないのであくまでも肛門鏡で診察することが望ましい」とされています。大腸カメラを受けたから肛門も診てもらった、とは限りません。
この記事のまとめ
① 「痔」は3つの別の病気。いぼ痔62.8%、切れ痔24.9%、あな痔6.5%
② いぼ痔の原因はうっ血ではなく、支持組織のゆるみが主流の説です
③ 市販薬は痛み・腫れ・出血には効きますが、脱出は戻りません
④ 脱出の段階は10年未満で次へ進む割合が高いと報告されています
⑤ 温坐浴で3週間後に87%という報告。軟膏より食物繊維と温坐浴という報告も
⑥ 強く拭かない、洗いすぎない。どちらもかゆみの原因になります
⑦ あな痔は手術が必要。そしてその出血が痔によるものとは限りません
12. よくある質問
市販の痔の薬をずっと使っています。このままでいいですか?
症状をやわらげる目的なら、ガイドラインも効果を認めています。ただし限界がはっきり書かれています。「薬物療法は腫脹,疼痛,出血の緩和に効果を認めるが,慢性的な脱肛症状を消失させる効能はない」。つまり痛みや出血は抑えられても、出てきてしまうもの(脱出)は薬では戻りません。またステロイドを含む薬は、長期間の使用でまれにステロイド性皮膚炎や肛門周囲白癬症を生じることがあるとされています。市販薬を使いながら症状が続いている、あるいは出っぱりが気になるという状態なら、それは受診の合図です。なお、裂肛(切れ痔)については「局所軟膏による治療よりも食物繊維の摂取と温坐浴による治療のほうが優れているとする報告もある」と書かれています。
痔は「うっ血」が原因だと聞きました。
その説明は、いまのガイドラインの主流ではありません。痔核の原因を静脈の流れが滞ることに求める説は古くからありますが、ガイドラインは「しかしその後の研究ではこの静脈還流阻害説については否定的な意見が多い」と書いています。いま最も支持されているのは「支持組織の減弱」、つまり肛門のクッションを支えている組織がゆるんでくるという説です。痔核とは「肛門管内の粘膜下と肛門上皮下にある血管や結合織からなる柔らかい組織(肛門クッション)が次第に肥大化して出血や脱出などの症状を呈する状態」と定義されています。もともと誰にでもある組織が、支えを失って下がってくる——そう考えると、いきむ時間を短くする、長く座り続けないといった対策の意味も見えてきます。
温坐浴は、どのくらい効きますか?
ガイドラインが引用している報告では、温坐浴により3週間後に急性裂肛の87%が治癒したとされています。痔核についても「局所の血流障害を伴う血栓性外痔核や嵌頓痔核には座浴や入浴で局所を暖めることが疼痛と腫脹の緩和に有効である」と書かれています。特別な器具は必要ありません。湯船につかる、洗面器にお湯を張って座る——それだけです。熱すぎる湯は避け、心地よいと感じる温度で数分から十数分。痛みの強い時期ほど効果を感じやすい対処です。あわせてガイドラインは、生活指導として長時間の座位や体の冷えを避けることも挙げています。
トイレでウォシュレットを使ったほうがいいですか?
使い方によります。ガイドラインは裂肛について「肛門衛生のためには,排便後は坐浴や水での洗浄を行い,紙などで強く拭くことは避ける」としています。ここだけ読むと洗浄は推奨されます。ところが痔核の項には、逆向きの記述があります。かゆみについて「便や粘液による皮膚への刺激が瘙痒感の主な原因であるが,過度な清浄による皮膚表面の微細な損傷が瘙痒感の原因となることもある」。強く拭かないために洗う。ただし洗いすぎない。——これが両方の記述を満たす読み方です。水勢は弱く、時間は短く、洗ったあとは押さえるように水気を取る。かゆみが続いているなら、まず洗いすぎていないかを疑ってください。
痔だと思っていたのですが、受診したほうがよいのはどんなときですか?
ガイドラインが、大腸の病気との見分けが必要な出血の特徴を挙げています。「暗赤色の出血,粘血液,便潜血陽性,貧血,持続的な出血症状がみられる場合は下部消化管精査による大腸病変の鑑別が必要である」。痔核の出血は「排便時にみられ鮮明な赤色であることが多い」「通常は便と分離している」とされています。暗い赤、便に混じる、粘液がまじる、健診の便潜血が陽性、貧血を指摘された——このどれかがあれば、痔で説明せず大腸の検査を受けてください。また痔瘻(あな痔)は「自然治癒はまれであるため,基本的には手術が必要である」とされています。膿が出る、腫れて痛む、熱が出るといった症状は、薬で様子を見る対象ではありません。
参考にした主な資料
- 日本大腸肛門病学会 肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン作成委員会「肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版(改訂第2版)」(痔核・痔瘻・裂肛・直腸脱の各総論、疫学、病因、臨床所見、診断、治療、生活指導、痔核CQ1〜5、痔瘻CQ1〜5、裂肛CQ1〜3、直腸脱CQ1〜4の推奨度・合意率・エビデンスの強さ)
- 日本大腸肛門病学会「日本大腸肛門病学会ウェブサイト」