1. 先に結論
| 論点 | この記事で言えること |
|---|---|
| どれくらいの人が | 60歳以上の約78%が何らかの下部尿路症状を持っています。尿失禁は決してまれではありません |
| 受診率 | 女性はわずか9.0%(男性27.4%)。10人に9人が相談していません |
| 治療の第一選択 | 骨盤底筋訓練(推奨グレードA)。「副作用はほとんどみられない」とガイドラインが明記 |
| どのくらい効くのか | コクランレビューで、腹圧性尿失禁の治癒 56% 対 6%(質の高いエビデンス)。治癒または改善は74% 対 11% |
| もうひとつのA | 体重減少。生活指導のなかで、大規模RCTで有効性が示されたのはこれだけです |
| 市販サプリ | 推奨グレードC1〜C2。「適切な摂取量が明確でなく、効果の一貫性が十分でない」 |
| 受診先 | かかりつけ医・婦人科・泌尿器科のどこでも構いません。まず相談することが出発点です |
尿もれは、恥ずかしいことでも、年齢のせいで諦めることでもありません。
ただ、多くの方が誰にも言えず、パッドを買い足すことで対処されています。年間にすれば、決して小さくない金額です。そのお金と時間の一部を、評価がいちばん高い方法に回せます。骨盤底筋訓練は、道具も費用も要りません。
この記事は「一度、誰かに相談してみよう」と思っていただくために書きました。便秘の記事でも書きましたが、恥ずかしさで受診しないことのほうが、ずっともったいないのです。
2. 【核心】受診率9.0%——相談されないまま終わっている
まず、この症状の「現状」からお話しします。
日本で唯一の、包括的な全国調査
日本排尿機能学会が2002〜2003年に行った住民ベースの調査があります。全国75地点から40歳以上の男女を無作為に選び、10,096例に調査票を郵送、4,570例を解析したものです。女性下部尿路症状診療ガイドライン第2版は、この調査を「包括的な下部尿路症状の住民ベース疫学調査として現時点でも唯一のもの」と位置づけています。
その結果が、これです。
数字を並べると、こうなります。
- 60歳以上の約78%が、何らかの下部尿路症状を持っている
- それなのに、受診率は全体で18.0%
- 女性は9.0%。男性の27.4%と比べて、著しく低い
ガイドラインの表現は「著しく低率であった」です。学術的な文書としては、かなり踏み込んだ書き方だと思います。
なぜ、相談されないのか
診察室で感じることを、正直に書きます。
- 恥ずかしい。これがいちばん大きいと思います。とくに「尿」に関することは、家族にも言いにくい
- 歳のせいだと思っている。「みんなそうだろう」「治るものではない」と諦めている
- どこに行けばいいか分からない。婦人科なのか、泌尿器科なのか、内科なのか
- パッドで足りてしまう。対処できてしまうぶん、受診の必要を感じにくい
最後の点が、いちばんもったいないところです。パッドは症状を隠しますが、症状そのものには何もしていません。そして次章から見るとおり、この症状には、副作用のほとんどない、評価の高い治療法があります。
3. まず、種類を見分ける
尿もれには種類があり、種類によって対処が変わります。ここを知っておくと、相談するときに話が早くなります。
| 種類 | こんなとき、もれる | 背景にあるもの |
|---|---|---|
| 腹圧性尿失禁 (約49%) |
咳・くしゃみ・笑ったとき/重いものを持ったとき/走ったり跳んだりしたとき | おなかに力が入った瞬間、尿道を締める力が追いつかない。骨盤底筋のはたらきが関わります |
| 切迫性尿失禁 (約21%) |
急に強い尿意がきて、トイレまで間に合わない/水の音を聞くと我慢できない | 膀胱が勝手に収縮してしまう。過活動膀胱という状態と重なります |
| 混合性尿失禁 (約29%) |
両方ある | 上の2つが混ざっている状態。実は、かなり多いタイプです |
腹圧性と混合性を合わせると約8割。つまり大多数の方が、骨盤底筋訓練の効きやすいタイプに当てはまります。
見分けるコツ。「どんなときにもれるか」を思い出してください。力が入った瞬間なら腹圧性、我慢できずに間に合わないなら切迫性です。
ただし、自己診断で決めつける必要はありません。受診したときに「咳やくしゃみでもれます」「急に来て間に合いません」「両方あります」のどれかを伝えられれば、それで十分に話が進みます。
4. 骨盤底筋訓練は「第一選択」——推奨グレードA
ここからが本題です。
ガイドラインの評価
日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会が編集した「女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版]」の記述を引用します。
推奨グレード:A
「骨盤底筋訓練は女性の尿失禁治療の第一選択である。骨盤底筋訓練の方法は様々で、対象とした尿失禁の種類、併用療法の有無、治療期間、評価方法なども報告により異なるが、腹圧性尿失禁に対する有用性を支持する RCT は多く、切迫性、混合性尿失禁にも有効である。副作用はほとんどみられない。」(レベル1)
——女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版] 8章 治療
読み落とさないでいただきたいのは、「副作用はほとんどみられない」という一文です。睡眠の記事やがん検診の記事で見てきたとおり、たいていの医療には利益と不利益の両方があります。不利益がほぼない治療で、しかも推奨グレードAというのは、かなり珍しい組み合わせです。
どのくらい効くのか——数字を見ます
コクランレビュー「Pelvic floor muscle training versus no treatment, or inactive control treatments, for urinary incontinence in women」(2019年)は、14か国・31試験・1,817人の女性を統合しました。
興味深いのは、日本のガイドラインが引用しているシステマティックレビュー(18試験)でも、治癒例56%対6%、改善例55%対3.2%とほぼ同じ数字が出ていることです。日本と海外で結論が一致している、数少ない領域だと思います。
コクランの著者らの結論は、こうです。「入手できるデータにもとづけば、骨盤底筋訓練が腹圧性尿失禁および他のすべてのタイプの尿失禁の症状を治癒または改善しうることを、私たちは確信できる」。そして「骨盤底筋訓練は、尿失禁のある女性に対する第一選択の保存的管理プログラムに含めうる」としています。
限界も、正直に書きます
同じコクランレビューは、こうも述べています。
- 試験の規模は小〜中程度で、追跡期間は概ね12か月未満
- 多くの試験がバイアスのリスク中程度
- 介入の内容・期間、対象集団、評価方法にかなりのばらつきがあった
- 混合性尿失禁のみ、切迫性尿失禁のみを対象とした研究はそれぞれ1件だけ
- 長期の有効性と費用対効果については、さらなる研究が必要
つまり——「短期的にはよく効く。長く続けたときのことは、まだ十分に分かっていない」。これが現在地です。
それでも、副作用がほとんどなく、費用もかからないという条件を考えれば、まず試してみる価値は十分にあると言えます。
5. 実際に、どうやるのか
どの筋肉を動かすのか
骨盤底筋は、骨盤の底でハンモックのように内臓を支え、尿道・腟・肛門を締めている筋肉です。ふだん意識することがないので、「どこに力を入れればいいか分からない」という方が多いところです。
- 排尿を途中で止めるときに使う筋肉(※これは感覚をつかむためのもので、実際に排尿を止める練習を繰り返すのは勧められません)
- 肛門と腟を、締めて体の中へ引き上げる感じ
- おならを我慢するときの感覚——これがいちばん伝わりやすいかもしれません
やってはいけないこと:おなか・お尻・太ももに力を入れること。息を止めること。手をおなかに当てて、おなかが硬くならないか確かめながら行うとうまくいきます。
姿勢と、進め方
| 段階 | やり方 |
|---|---|
| まずは仰向けで | 膝を立てて仰向けになるのが、いちばん分かりやすい姿勢です。骨盤底に余計な圧がかからないので、筋肉の動きを感じやすくなります |
| 締める・ゆるめる | ゆっくり締めて数秒保ち、しっかりゆるめる。「ゆるめる」ほうも大切です。締めっぱなしにはしません |
| 慣れたら姿勢を変える | 座った姿勢、立った姿勢でもできるようになります。ここまで来ると、家事や通勤の合間にできます |
| 日常に組み込む | 咳やくしゃみの直前に締める——これができるようになると、腹圧性尿失禁には実践的です |
ガイドラインによれば、訓練の作用機序は「骨盤底筋の筋線維の大きさを増し(筋肥大)、腹圧時に骨盤底筋を収縮させる強度と収縮のタイミングを向上させること」。力そのものだけでなく、「タイミング」も鍛えられるのです。切迫性尿失禁に対しては、骨盤底筋を収縮させることで膀胱の収縮が反射的に抑えられる、と説明されています。
どのくらい続けるのか
ここが、いちばん現実的な問題です。ガイドラインが引用する研究では——
- 治療期間は8〜12週。脱落した人は0〜12%
- ある試験(ATLAS Trial)では、治療中は86%以上の人が週5日以上訓練を行っていた
- そして3か月後に95%、6か月後に88%、12か月後に80%の人が訓練を継続していた
数日で結果が出るものではありません。少なくとも2〜3か月は続ける前提で始めてください。逆に言えば、8割の人が1年後も続けられている——それだけ負担の少ない方法だということでもあります。
できれば、一度は指導を受けてください。ガイドラインは、口頭指導やパンフレットだけの方法から、医療専門職の監督下で行う方法(内診で骨盤底筋の収縮を確認するフィードバック訓練など)まで様々あるとしたうえで、生活指導・理学療法・膀胱訓練を組み合わせた「行動療法統合プログラム」は、無治療や薬物療法(抗コリン薬)、単独療法より優れていた(推奨グレードA)と記しています。
正しい筋肉を使えているかどうかは、自分では確かめにくいところです。「効いている実感がない」という方は、たいてい別の筋肉に力が入っています。一度プロに見てもらうと、そこから先の数か月が変わります。
6. もうひとつのA——体重減少
生活習慣の改善についても、ガイドラインは評価を示しています。そして、ここには驚くべき一文があります。
「生活指導では、重症の便秘、過度のコーヒーやアルコール摂取、水分摂取制限や、排尿障害につながる薬剤に関する情報提供、長時間の坐位や下半身の冷えを避け適度な運動を促すことなども行われている。しかし、大規模 RCT によりその有効性を示したのは、体重減少のみである(レベル1)。」
——同ガイドライン 8章 治療 1. 行動療法
生活指導のなかで推奨グレードAは体重減少だけです。ほかの項目(身体活動、禁煙、飲水制限、便秘の改善)は、いずれもC1——「行うよう勧められるだけの根拠はまだ十分でない」という位置づけです。
どのくらいの効果か
ガイドラインが引用するPRIDE studyという研究があります。尿失禁のある肥満女性を対象に、食事と運動療法を行った群と、パンフレットのみの対照群を比べたものです。
- 体重は8.0%減少(対照群は1.6%)
- 6か月後、尿失禁の回数は47%減少(対照群は28%)
別の大規模RCT(378例の肥満女性)でも、体重減少行動療法群は6か月後に9.4%の体重減少と、腹圧性・切迫性尿失禁の有意な減少が認められました。
ただし、ガイドラインは正直に書いています——「減量した体重を維持することは困難である」。ここは、40代からの「痩せにくい」の正体やたんぱく質の記事で扱ってきたテーマとつながります。
骨盤底筋訓練(A)+ 体重が気になる方は減量(A)。この2つが、いま最も評価の高い組み合わせです。
水分を減らす、コーヒーをやめる——といった工夫は、よく勧められますし、実際に楽になる方もいます。ただし「大規模な研究で証明されたもの」ではないことは知っておいてください。とくに水分制限は、脱水や便秘を招くことがあるので、やりすぎは禁物です。
7. 【検証】市販の「尿もれサプリ」はどうか
ドラッグストアや通販で、「尿トラブル」「トイレの悩み」をうたうサプリメントを見かけます。この記事は効かないものは効かないと書くと約束していますので、正直に整理します。
ガイドラインの評価
ガイドラインには、まさにこの問いのクリニカルクエスチョンがあります——「女性下部尿路症状に対して、健康食品・サプリメントなどの代替療法は推奨されるか?」。
「適切な摂取量が明確でなく、効果の一貫性が十分でない。」〔推奨グレード C1〜C2〕
——同ガイドライン CQ17
個別に見ると、こうです。
| 成分 | グレード | ガイドラインの記述 |
|---|---|---|
| ペポカボチャ (薬用ペポカボチャ種子抽出エキス) |
C1 | 過活動膀胱症状の改善に有効だったとの報告はあるが(レベル4)、「有効性を支持する根拠は十分ではない」 |
| ビタミン | C2 | ビタミンCの過剰摂取は下部尿路症状を悪化させるとの報告がある。ビタミンDは改善させるとの報告がある一方、相関はないとの報告も。ビタミンB12は尿失禁と関係がなかった |
市販の「尿もれサプリ」で最もよく使われている成分のひとつがペポカボチャ種子エキスです。そしてその評価がC1——効果を示す報告はあるが、根拠としては十分でない、という位置づけです。
とくに注意していただきたいのがビタミンCです。「体にいいから」と多めに摂っている方がいらっしゃいますが、過剰摂取が下部尿路症状を悪化させるという報告があると、ガイドラインに明記されています。
骨盤底筋訓練:A(第一選択・副作用はほとんどなし・費用ゼロ)
体重減少:A(生活指導のなかで唯一)
膀胱訓練など:B
ペポカボチャ:C1/ビタミン:C2/腟コーン・鍼治療:C1
サプリメントの記事で使った物差しが、ここでも効きます。「同じお金と時間で、もっと確かなものが手に入らないか」。骨盤底筋訓練は、無料です。
誤解のないように書き添えます。飲むこと自体を否定しているのではありません。ただ、サプリを飲んでいるから安心、と受診を先送りにしてしまう——それがいちばん避けたい形です。
8. 薬と手術という選択肢
訓練だけで十分でない場合、次の選択肢があります。「訓練がだめだったら終わり」ではありません。
| 選択肢 | 内容 |
|---|---|
| 膀胱訓練・計画療法 (推奨グレードB) |
尿意を感じてもすぐ行かず、少しずつ間隔を延ばしていく方法など。切迫性尿失禁・過活動膀胱に用いられます |
| 薬物療法 | 過活動膀胱には抗コリン薬やβ3受容体作動薬が使われます。ガイドラインは、行動療法と薬物療法の併用について「併用療法の有効性が認められている」(抗コリン薬との併用:推奨グレードA)としています |
| 手術 | 腹圧性尿失禁には中部尿道スリング手術があります。訓練と比較したRCTでは、症状改善90.8%対64.4%、主観的治癒85.2%対53.4%と手術が上回りましたが、有害事象が手術群の9.8%にみられました |
手術のほうが数字は良いのに、なぜ訓練が第一選択なのか。答えは「副作用がほとんどない」からです。訓練を試して十分でなければ、そこから手術を検討しても遅くありません——実際、上記の試験でも、行動療法のあとに手術を受けた方の結果は同様だったと報告されています。
薬について、ひとつ注意を。ガイドラインには「過活動膀胱治療薬は、認知機能に影響を与えるか?」というクリニカルクエスチョンが設けられています。とくにご高齢の方では、この点を含めて医師と相談されるとよいと思います。また「重度の過活動膀胱に対する抗コリン薬とβ3作動薬の併用療法は排尿症状の悪化(残尿量増加)や他の副作用の可能性があるので、専門医に委ねるのが好ましい」とも記されています。
そして——飲んでいる薬が原因で症状が出ていることもあります。便秘の記事や歯と口の記事でも書いたとおり、お薬手帳を持って相談するのが確実です。
9. 妊娠・出産の前後にできること
この記事を、若い世代の方にも読んでいただきたい理由がここにあります。
ガイドラインの行動療法の一覧には、「妊婦または産後に対する骨盤底筋訓練の尿失禁予防効果」という項目があり、推奨グレードAが与えられています。
つまり——すでに困っている人の治療としてだけでなく、これから起こることを予防する方法としても、評価が高いということです。
- 妊娠・出産は、骨盤底に大きな負担がかかる出来事です
- 産後に尿もれを経験する方は少なくありませんが、「そういうもの」と諦めてしまうことが多い
- 妊娠中・産後に骨盤底筋訓練を行うことには、予防効果の裏づけがあります
産後健診や母親学級で説明を受ける機会もありますが、この時期は目の前のことで精一杯で、後回しになりがちです。もしお心当たりがあれば、あるいはご家族に該当する方がいれば、この項目だけでも伝えてあげてください。
10. 🚨 こういうときは、早めに受診を
尿もれの多くは命に関わるものではありません。ただし、別の病気が隠れていることがあります。ガイドラインは、専門医への紹介を考慮すべき場合を明示しています。
- 問題のある症状・病歴・所見がある場合
- 適切な抗菌薬を使っても尿路感染症が改善しない、または再発する場合
- 排尿症状・排尿後症状が主体の場合(出にくい、残る感じ など)
- 頻尿のみで、尿意切迫感がない場合
- 行動療法や薬物療法で十分な効果が得られない場合
とくに①については、具体的に挙げられています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 病歴 | 尿閉(出せなくなる)、繰り返す尿路感染症、肉眼的血尿、骨盤部の手術・放射線治療、神経疾患 |
| 症状 | 重度の下部尿路症状、膀胱・尿道・会陰部の痛みや不快感(とくに尿がたまったときに強くなる場合) |
| 身体所見 | 下腹部のふくらみ、生殖器の異常、腟から突出する骨盤臓器脱 |
| 検査所見 | 血尿、発熱を伴う膿尿、尿細胞診陽性、腎機能障害、残尿が多い(100mL以上が目安)、膀胱結石など |
とくに、血尿は必ず受診してください。そして発熱を伴う場合は、腎盂腎炎などの可能性があるため、ガイドラインは「速やかに専門医へ紹介する」としています。
夜間の頻尿だけが気になる方へ。ガイドラインは、夜間頻尿のみでほかの症状に乏しい場合は、夜間多尿や睡眠障害が原因である可能性が高いとしています。原因として挙げられているのは、飲水過多、心不全、腎機能障害、高血圧、糖尿病などの疾患、そして睡眠時無呼吸症候群や不眠症です(→睡眠時無呼吸の記事)。
睡眠の記事でも触れたとおり、「夜中に何度も起きる」の原因が、膀胱ではなく眠りのほうにあることがあります。
11. 受診のハードルを下げるために
最後に、いちばん実用的なことを書きます。
どこに行けばいいのか
かかりつけ医・婦人科・泌尿器科——どこでも構いません。ガイドラインも、初期診療は一般医が担い、必要な場合に専門医へ紹介するという流れを想定しています。
「泌尿器科は男性が行くところ」というイメージをお持ちの方もいますが、そんなことはありません。女性外来や女性医師のいる施設もあります。まずは相談しやすいところからで構いません。
何を伝えればいいのか
言葉にしにくい症状です。だから、これだけ言えれば十分というものを挙げておきます。
| 伝えること | 言い方の例 |
|---|---|
| どんなときにもれるか | 「咳やくしゃみでもれます」/「急に来て間に合いません」/「両方あります」 |
| どのくらいの頻度か | 「週に何回くらい」「毎日」 |
| パッドを使っているか | 「1日◯枚くらい使っています」——これは重症度を伝える大事な情報です |
| いつからか | 「出産のあとから」「ここ1〜2年で」 |
| 飲んでいる薬 | お薬手帳を出すだけで済みます |
ガイドラインでは排尿日誌(いつ・どのくらい排尿したかの記録)が診断に有用とされています。数日分でも記録があると、診療がぐっと具体的になります。ただし、なくても受診できます。準備が整わないことを理由に先延ばしにしないでください。
今日からできること
- 骨盤底筋訓練を始める。仰向けで膝を立てて、締める・ゆるめる。おなかに力を入れず、息を止めない
- 2〜3か月は続ける前提で。数日で結果は出ません。研究でも治療期間は8〜12週です
- 体重が気になる方は、そこも一緒に。生活指導で唯一グレードAです
- サプリを買い足す前に、一度相談する。訓練はA、サプリはC1〜C2です
- 血尿・発熱・強い痛み・尿が出せないときは、すぐに受診
- ご家族に、この話をしてみる。言い出せずにいる方が、身近にいるかもしれません
12. よくある質問
とても少ないのが実情です。日本排尿機能学会が全国で行った住民ベースの調査(40歳以上・4,570例を解析)によれば、下部尿路症状による医療機関の受診率は全体で18.0%。そして女性では9.0%で、男性の27.4%と比べて著しく低い水準でした。つまり10人に9人が相談しないまま過ごしています。
一方で、60歳以上では約78%が何らかの下部尿路症状を持っていました。多くの人が経験しているのに、ほとんど相談されていない――それがこの症状の現状です。恥ずかしいことでも、我慢すべきことでもありません。
日本の診療ガイドラインは「骨盤底筋訓練は女性の尿失禁治療の第一選択である」とし、推奨グレードAを与えています。「副作用はほとんどみられない」とも明記されています。
コクランレビュー(2019年、31試験・1,817人・14か国)でも、腹圧性尿失禁の女性で治癒を報告した割合は訓練群56%に対し対照群6%(リスク比8.38)で、質の高いエビデンスとされました。治癒または改善では74%対11%です。ガイドラインが引用する18試験のシステマティックレビューでも治癒例56%対6%と、ほぼ同じ数字が出ています。日本と海外で結論が一致している、数少ない領域です。
診療ガイドラインの評価は、健康食品・サプリメントなどの代替療法について「適切な摂取量が明確でなく、効果の一貫性が十分でない」(推奨グレードC1〜C2)です。よく使われるペポカボチャ(薬用ペポカボチャ種子抽出エキス)については「有効性を支持する根拠は十分ではない」(C1)とされています。
ビタミンについては推奨グレードC2で、とくにビタミンCは過剰摂取が下部尿路症状を悪化させるという報告があると記載されています。
一方、骨盤底筋訓練はグレードAです。同じお金と時間を使うなら、評価が最も高いところに使うほうが確実です。
排尿を途中で止めるときに使う筋肉、あるいは肛門と腟を締めて引き上げる感覚が目安です。おなかやお尻、太ももに力が入らないようにするのがコツで、息は止めません。仰向けで膝を立てた姿勢が最も分かりやすく、慣れたら座位や立位でも行えます。
ガイドラインは方法が一定でないとしつつ、指導を受けた形(監督下の訓練、内診でのフィードバックなど)を組み合わせるとより効果が高まると述べています。実際の研究では治療期間は8〜12週で、ある試験では3か月後に95%、6か月後に88%、12か月後に80%の人が訓練を継続していました。効果が出るまでに数か月かかるので、続けられる形にすることが大切です。
診療ガイドラインは専門医への紹介を考慮すべき5つの場合を挙げています。①問題のある症状・病歴・所見がある場合 ②適切な抗菌薬でも尿路感染症が改善しない、または再発する場合 ③排尿症状・排尿後症状が主体の場合 ④頻尿のみで尿意切迫感がない場合 ⑤行動療法や薬物療法で十分な効果が得られない場合。
とくに、肉眼的血尿、尿閉、繰り返す尿路感染症、骨盤部の手術や放射線治療の既往、神経疾患、膀胱や尿道の痛み、腟から何かが出てくる感じ、発熱を伴う場合は早めの受診が必要です。
まずは、かかりつけ医・婦人科・泌尿器科のいずれでも構いません。
この記事のまとめ。下部尿路症状で受診している女性はわずか9.0%(男性27.4%)。一方で60歳以上の約78%が何らかの症状を持っています。多くの人が経験しているのに、ほとんど相談されていない——それがこの症状の現状です。
尿もれには種類があり、腹圧性49%・混合性29%・切迫性21%。腹圧性と混合性で約8割を占め、いずれも骨盤底筋訓練が効きやすいタイプです。
そして——診療ガイドラインは「骨盤底筋訓練は女性の尿失禁治療の第一選択である」(推奨グレードA)とし、「副作用はほとんどみられない」と明記しています。コクランレビューでは腹圧性尿失禁の治癒56%対6%、治癒または改善74%対11%。日本と海外で結論が一致しています。
生活指導のなかで大規模RCTで有効性が示されたのは体重減少だけ(グレードA)。市販サプリはC1〜C2で、ペポカボチャは「根拠は十分ではない」、ビタミンCはむしろ悪化の報告があります。
訓練は無料です。道具も要りません。そして2〜3か月続ける前提で始めれば、8割の人が1年後も続けられています。
パッドは症状を隠しますが、症状そのものには何もしていません。一度だけ、誰かに相談してみてください。かかりつけ医でも、婦人科でも、泌尿器科でも構いません。
参考にした主な資料
- 日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会編「女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版]」(2019年、リッチヒルメディカル/学会サイトで公開)——疫学(受診率・有病率・尿失禁のタイプ別割合)、骨盤底筋訓練(推奨グレードA)、体重減少(A)、行動療法統合プログラム(A)、健康食品・サプリメント(CQ17/C1〜C2)、専門医への紹介基準(CQ20)、薬物療法・手術
- Mindsガイドラインライブラリ「女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版]」——クリニカルクエスチョン一覧と書誌情報
- Dumoulin C, Cacciari LP, Hay-Smith EJC. Pelvic floor muscle training versus no treatment, or inactive control treatments, for urinary incontinence in women. Cochrane Database Syst Rev. 2019——31試験・1,817人・14か国。腹圧性尿失禁の治癒56%対6%(リスク比8.38、質の高いエビデンス)、治癒または改善74%対11%、および著者らによる限界の記述