1. 先に結論
一次資料から読み取れることを、先にまとめます。
| よく聞く話 | 資料が書いていること |
|---|---|
| 肺炎のワクチンはニューモバックス | 2026年4月から変わりました。「使用するワクチンは沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)とする。」PPSV23は「使用するワクチンから除く。」 |
| 65歳を過ぎても、5歳ごとに機会がある | その経過措置は2023年度で終わりました。今回も「現時点では65歳を超える方に対する経過措置を設けないこととしてはどうか」という案が了承されています |
| 23価のほうが20価より優れている | 実際に見つかる菌を拾える割合はほぼ同じ。違いは免疫の覚え方です |
| 一度受ければ一生もつ | PCV13の有効性は「少なくとも4〜5年間持続し、有効性は高齢になるほど低下する」と報告されています |
| 5年たったら、もう一度 | 「現時点でPCV20およびPCV21接種後の再接種の免疫原性、安全性のデータはない。」 |
| 案内が来るはず | B類疾病なので「接種勧奨および努力義務はない」。届かないことがあります |
| 予防はワクチンだけ | 成人肺炎診療ガイドライン2024は「肺炎の予防に口腔ケアを弱く推奨する」としています |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
肺炎球菌ワクチンは、「いつか受ける」ができない種類の予防になりました。公費で受けられるのは原則65歳の1年間だけで、そこを過ぎると全額自己負担になります。そして——案内が届かないことがあります。65歳の誕生日が近い方、そのご家族は、市区町村の予防接種の窓口を一度確認してください。
2.【核心】2026年4月、定期接種のワクチンが変わりました
いちばん大きな変更から書きます。2026年4月に高齢者の定期接種ワクチンがPPSV23からPCV20に切り替わりました。
厚生労働省の第74回予防接種基本方針部会(2025年12月19日)は、省令で定める内容としてこう整理しています。「使用するワクチンは沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)とする。」そして「沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)の定期接種化に合わせて、肺炎球菌ワクチン(PPSV23)は使用するワクチンから除く。」
ニューモバックスという名前で長く親しまれてきたワクチンが、定期接種の枠から外れたということです。2014年10月に始まってから、ちょうど11年半でした。
| 項目 | 2026年4月以降 |
|---|---|
| 使うワクチン | PCV20(沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン/プレベナー20) |
| 対象 | 65歳の方/60歳以上65歳未満で、心臓・腎臓・呼吸器の機能またはHIVによる免疫の機能に重い障害がある方 |
| 回数と打ち方 | 「沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)を0.5mLを1回筋肉内に注射する。」 |
| 制度上の分類 | 予防接種法のB類疾病(現行どおり) |
| ほかのワクチンとの間隔 | 「他のワクチンとの接種間隔の定めは置かないこととする。」 |
ここで、制度の性格を知っておいてください。高齢者の肺炎球菌感染症はB類疾病に分類されます。子どもの定期接種(A類)とは扱いが違います。「考え方」第8版は、はっきりこう書いています。
「B類疾病のワクチン接種には、接種勧奨および努力義務はない。」
接種勧奨がない、というのは実務的にはこういうことです。自治体から個別の案内が必ず届くとは限りません。実際、過去10年間の接種率は概ね40%前後にとどまっています。「考え方」は、2014年から2018年度の定期接種率を「36.3〜39.5%であった」と記録しています。
6割の人が受けていない。その理由の一つが、この「知らされない」という構造です。受けないと決めた人が6割いるのではなく、そもそも決める機会がなかった人が含まれています。
3. 今回は「経過措置」がありません
ここが、この記事でいちばん急いでお伝えしたい部分です。
2014年10月に定期接種が始まったとき、すでに65歳を過ぎていた人のために5歳刻みの経過措置が置かれました。70歳、75歳、80歳……という年齢の年度に、定期接種の対象になる仕組みです。これが5年ずつ2回、合計10年間続き、2023年度で終わりました。
そして今回の切り替えでは、同じ救済は用意されませんでした。厚生労働省の事務局案はこうです。
「現時点では65歳を超える方に対する経過措置を設けないこととしてはどうか。」
理由は資料に4つ挙げられています。すでにPPSV23の接種機会が10年間確保されていたこと。「有効性は高齢になるほど低下する」こと。自治体の事務負担が増えること。そして、次に述べるPCV21の議論がこれから始まる見込みであることです。
ただし——ここでページを閉じないでください。同じ資料に、続きがあります。
「65歳を超える年齢の者については、70歳で接種機会を設けることを軸に、今後、あらためて本部会において検討する。」
また、経過措置についても「今後PCV21の定期接種化に係る検討を行う際に、その必要性を含め、あらためて検討することとしてはどうか」とされています。いまは対象外でも、数年のうちに枠が開く可能性があります。
なぜ70歳という数字が出てくるのか。費用対効果の分析結果です。資料はこう書いています。「PCV20について、接種年齢を上昇させた場合、65歳のみならず70歳での接種も費用対効果は良好であり、75歳及び80歳では費用対効果が悪化した。」
審議会では、この線引きに対する率直な意見も記録されています。「有効性を考えると65歳から74歳までというデータが出ており、現場でもかなり多くの方が希望していると聞いており、対象者の拡大を考えるべきではないか」。一方で「市町村として、70歳は費用対効果が良いが、75歳は費用対効果が悪いというのは一般住民への説明としては苦しい」という声もありました。議論の途中である、というのが正確な現在地です。
なお、病気で接種できなかった場合の救済は残っています。厚生労働省の制度ページは、「接種対象年齢において、長期に渡り療養を必要とする病気にかかっていたために、定期接種を受けることができなかったと認められた場合、長期療養特例として定期接種を受けることができます」としています。この特例には「特例の対象となる上限年齢は設けず」、事情がなくなってから1年以内、という条件がつきます。入院や治療が重なって65歳の1年を逃した方は、この特例が使えないか市区町村に確認してください。
4. なぜ、そこまでして勧めるのか
そもそも、どのくらい重い話なのか。令和6年(2024年)の人口動態統計(確定数)を見ます。
| 死因順位 | 死因 | 死亡数 |
|---|---|---|
| 第1位 | 悪性新生物(がん) | 384,111人 |
| 第2位 | 心疾患 | 226,388人 |
| 第3位 | 老衰 | 206,887人 |
| 第4位 | 脳血管疾患 | 102,821人 |
| 第5位 | 肺炎 | 80,176人 |
| 第6位 | 誤嚥性肺炎 | 63,667人 |
肺炎と誤嚥性肺炎を足すと143,843人。第4位の脳血管疾患を上回ります。しかも前年からどちらも増えています(肺炎は4,423人増、誤嚥性肺炎は3,477人増)。
肺炎球菌は、その肺炎の代表的な原因菌です。成人肺炎診療ガイドライン2024は、この菌の性質をこう説明しています。「成人の保菌率は5~10%とそれほど高くないが,小児では20~40%と高率に保菌しており,小児から成人へ伝播することで肺炎を発症することが多い」。
つまり、持っているのは主に子どもで、もらうのが大人という構図です。お孫さんと過ごす機会が増える年代と、肺炎で重症化しやすくなる年代が、ちょうど重なります。
とくに重いのが侵襲性肺炎球菌感染症——菌が血液や髄液に入ってしまう状態です。国内で2013年から2022年に行われた調査では、「IPD患者2,483例中、65歳以上は1,740例(70.0%)であった」と報告されています。7割が65歳以上でした。
成人肺炎診療ガイドライン2024は、ワクチンの位置づけについてこう明記しています。「本ガイドラインでは肺炎球菌ワクチン接種はすでに確立された肺炎の予防策と位置付けている」。有効かどうかを議論する段階ではなく、どれを、いつ受けるかを決める段階にある、ということです。
5. 23価より20価が「格上げ」された理由
ここが、いちばん質問を受けるところだと思います。23種類から20種類へ。数が減ったのに、なぜ格上げなのか。
答えは2つあります。1つ目は、数字は種類の数であって、実際に拾える割合ではないということです。
「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第8版)」に引用された数値をもとに作成
厚生労働省の研究班は、全国10道県で集めた成人の侵襲性肺炎球菌感染症の菌3,034株を調べています。65歳以上について、2022年から2024年に検出された菌のうち、PCV20が含む型は約50%、PPSV23が含む型は約51%。ほとんど差がありません。種類は3つ少ないのに、実際に見つかる菌をどれだけ拾えるかは同じくらいなのです。
なぜそうなるかというと、肺炎球菌には約100種類の型があり、実際に人を病気にする型は偏っているからです。数をそろえることと、よく出る型を押さえることは、別の話です。
2つ目の理由が、覚え方の違いです。この2つのワクチンは、作り方からして別物です。
| PPSV23(莢膜多糖体型) | PCV20(結合型) | |
|---|---|---|
| 仕組み | 菌の外側の糖だけを使う | 糖にタンパクをつないである |
| 免疫の記憶 | なし | あり |
| 打ち方 | 筋肉内または皮下 | 筋肉内 |
成人肺炎診療ガイドライン2024は、この差をこう書いています。「PPSV23は23種類と広範囲の莢膜型をカバーできる反面,免疫機序はB細胞依存性であるため,PCV13/PCV15と比較して免疫効果が低い」。
同じくらいの範囲を、より強く、より長く覚える。それが切り替えの中身です。厚生労働省の小委員会は、判断をこうまとめています。「各ワクチンにおける、カバーする血清型の割合、有効性、安全性、及び費用対効果の知見を踏まえ、定期接種で使用するワクチンを、PPSV23からPCV20に変更することが妥当である。」
そして、切り替えを後押しした事実が、もう一つあります。「考え方」第8版は、10年間の定期接種の成績についてこう書いています。
「2014年から実施された65歳以上を対象としたPPSV23による定期接種によって、同年代のIPD症例の実質的な減少は認められなかった。」
厳しい評価です。ただし、これを「ワクチンは無意味だった」と読むのは誤りです。接種率が4割前後だったこと、そして同じ時期に子どもへの結合型ワクチンの導入が、大人の菌の型を大きく変えてしまったことが背景にあります。成人肺炎診療ガイドライン2024は、この現象をこう説明しています。「小児のPCV接種率が向上したことで,小児,成人ともにPCVがカバーする莢膜型の肺炎球菌感染が激減したが,PCVでカバーされない莢膜型が増加している(莢膜型の置換)」。
敵の顔ぶれが入れ替わり続けている。だからワクチンのほうも入れ替える——それがこの10年で起きたことです。
6. どのくらい防げるのか——数字で並べる
「予防できる」とだけ言われても判断できません。資料に出ている数字を並べます。
| 研究 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| 日本・高齢者施設の入所者1,006例(二重盲検) | PPSV23 | 肺炎球菌性肺炎を63.8%、すべての原因による肺炎を44.8%減らした |
| 日本・65歳以上の市中肺炎 | PPSV23 | すべての肺炎球菌性肺炎に27.4%、ワクチンの型に33.5% |
| 日本・侵襲性肺炎球菌感染症(2013〜2017年) | PPSV23 | 有効性42.2%(65歳以上では39.2%) |
| オランダ・健常高齢者84,496例(プラセボ対照) | PCV13 | ワクチンの型の市中肺炎を45.6%、侵襲性感染症を75.0%予防 |
| 米国・1,650万人の後ろ向き調査 | PCV20 | すべての侵襲性感染症に25.6%、すべての肺炎に15.2% |
数字の幅が大きいのは、測っているものが違うからです。「ワクチンが含む型による肺炎」を見れば高く、「原因を問わないすべての肺炎」を見れば低くなります。どちらも正しい数字です。
日本の高齢者施設の試験は、二重盲検で行われた貴重なものです。ここで大事なのは、全体の99%がインフルエンザワクチンも接種していたという条件です。成人肺炎診療ガイドライン2024も、日本で行われた3つの試験について「いずれの研究でも,ほぼ全例にインフルエンザワクチンが接種されており,これらの結果はインフルエンザワクチンとPPSV23の併用効果と考えられている」としています。2つセットの数字だと理解しておいてください。
そして、この記事でぜひ覚えていただきたいのが、年齢と効果の関係です。「考え方」第8版が引用している解析はこうです。
「65歳時点でのPCV13接種後のワクチン血清型の市中肺炎あるいはIPDに対する予防効果は65%であったが、75歳時点での接種では予防効果が40%に低下する」
厚生労働省の小委員会も、「PCV13のワクチンの有効性は少なくとも4〜5年間持続し、有効性は高齢になるほど低下すると報告されている」としています。
65歳で受ければ65%、75歳まで待つと40%。「もう少し歳をとってから」は、理屈のうえで不利な選択だということです。定期接種が65歳に置かれているのも、費用対効果が65歳と70歳で良好だったのも、この性質が理由です。
7. すでに受けたことがある人は、どうするか
「以前ニューモバックスを打った気がする」という方は少なくないはずです。10年の経過措置がありましたから、65歳以上の4割前後が該当します。
「考え方」第8版は、2026年4月以降の流れを1枚の図にまとめています。
「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第8版 一部修正 2026年6月15日)」の図をもとに作成
読み方を整理します。
① まだ一度も受けていない、いま65歳の方。これが定期接種の本流です。PCV20を1回、筋肉内に接種します。
② まだ一度も受けていないが、65歳ではない方。定期接種の対象外なので、任意接種になります。選択肢はPCV20とPCV21のどちらかです。全額自己負担です。
③ すでに受けたことがある方。まず、公費の枠についてはこう書かれています。「過去に定期接種としてPPSV23を接種した者は、原則として定期接種の対象外となる」。もう使った、という扱いです。
そのうえで、追加で受けること自体は認められています。「PPSV23あるいはPCV13/PCV15/PCV20を接種した場合、接種から1年以上の間隔を置いて、PCV20あるいはPCV21を接種することができる」。図に添えられた注意にも「PCV13/PCV15/PCV20既接種者については、安全性の観点からは1年以上の間隔で接種することができる。」とあります。キーワードは「1年以上あける」です。
逆に、はっきり否定されている選択肢もあります。「PPSV23の再接種は選択肢としない。」第8版は本文でも「PPSV23接種後の同ワクチンの再接種を原則として選択肢としない」と書いています。同じニューモバックスをもう一度、という方針は、いまは取らないということです。
もう一つ、見落とされやすい大事な一文があります。
「過去に任意接種による肺炎球菌ワクチン接種歴のある65歳の方で、個別通知が送付されていない場合は、定期接種を受けることができるかどうかについて、居住する市区町村へ問い合わせすることが望ましい。」
自費で受けた記録があると、案内が止まっていることがあります。通知が来ないこと自体は、対象外である証明になりません。
なお、PPSV23をまだ受けていない方向けに、別の組み立てもあります。図の注意はこう書いています。「PPSV23未接種者に対して連続接種をすることも考えられる。その場合はPCV15→PPSV23の順番で連続接種する。」間隔は1年から4年が適切とされています。順番が決まっている点に注意してください。
8.【正直な話】5年後の再接種は、データがありません
この記事で、いちばん誠実に伝えるべき部分だと思っています。
「考え方」第8版の図には、注意書きが5つ添えられています。その5番目が、これです。
「PCV20およびPCV21接種後のワクチン効果の持続は5年程度と考えられるため、免疫原性の観点からはPCV20あるいはPCV21接種後5年以降の再接種が必要と考えられる。しかしながら、現時点でPCV20およびPCV21接種後の再接種の免疫原性、安全性のデータはない。」
2つのことが、同じ注意書きの中に並んでいます。理屈のうえでは5年後に必要かもしれない。しかし、確かめたデータがない。
ここを曖昧にしないことが大切です。もし「5年たったらもう一度受けましょう」と勧められたら、それは確立した方針ではなく、まだ根拠が示されていない領域です。逆に「一度受けたからもう大丈夫」と言い切るのも、同じくらい根拠がありません。わかっていない、というのが現時点の正確な答えです。
関連して、PPSV23については早すぎる再接種の注意が古くから知られています。審議会の議事にも「PPSV23を5年以内に再接種すると局所反応が強くなるというのは添付文書に書かれており」という発言が残っています。腫れや痛みが強く出ることがある、という意味です。
もう一つ、期待しすぎないほうがよい点があります。子どもへの結合型ワクチンは、まわりの大人の感染も減らす効果(間接効果)が知られています。では大人どうしではどうか。厚生労働省の小委員会の評価はこうです。「小児へのPCV接種による、高齢者に対する間接効果(※)は報告されている一方で、成人へのPCV接種が他の成人に及ぼす間接効果を示した報告はない。」
つまり大人が受けるワクチンは、基本的に自分自身を守るためのものです。「まわりのために」という動機づけは、この場合は当てはまりません。
9. PCV21——承認されていますが、定期接種ではありません
図にもう一つ出てきたPCV21(キャップバックス)について整理します。2025年8月に、高齢者とハイリスク者に対して薬事承認されました。
まず、成績を見てください。5章の血清型カバー率の図のとおり、65歳以上の侵襲性肺炎球菌感染症でPCV21が含む型は約78%。PCV20の約50%、PPSV23の約51%を大きく上回ります。しかも安定しています。「考え方」第8版はこう書いています。
「PCV21以外のワクチンの血清型カバー率は、小児PCV13の定期接種導入後の間接効果に伴い、減少傾向であった。」一方で「PCV21の血清型カバー率は約80%と高く、全期間を通じて、大きな変化は認められなかった」。
ほかのワクチンが子どもの接種の影響でじりじり下がっていくなかで、PCV21だけが下がっていません。もともと子どものワクチンが手をつけていない型を狙って作られたワクチンだからです。
さらに、薬が効きにくい菌への強みもあります。国内の髄膜炎から分離された菌の解析では、ペニシリン耐性の菌に多い型として23A(47%)、15A(19%)、35B(13%)が挙げられ、いずれもPCV21に含まれています。
では、なぜ定期接種ではないのか。手続きが追いついていないからです。厚生労働省の部会は「現時点ではPCV21を議論の対象とはせず、今後の同委員会における技術的な観点からの議論の結果を踏まえ」検討するとしています。審査の列に並んだところ、という段階です。
ただし、PCV21が万能というわけでもありません。「考え方」第8版の表を見ると、PCV21には血清型1と5、そして昔のPCV7が含んでいた7つの型が入っていません。総合すると、委員会の評価はこうなります。
「PCV13、PCV15、PCV20、PCV21は安全性、免疫原性には大きな違いが認められないものの、IPDにおける血清型カバー率については、PCV20はPCV13及びPCV15より高く、PCV21はさらにPCV20より高いと考えられた。」
まとめると、こうなります。公費で受けるならPCV20。自費でより広くを望むならPCV21という選択肢がある。どちらを選ぶかは、費用と、かかりつけ医との相談次第です。
10. 受けたほうがよい人——1位は糖尿病でした
「考え方」第8版は、実際に重い肺炎球菌感染症になった1,740人が、どんな持病を持っていたかを表にしています。
数字は、この病気にかかった人のうち何%がその持病を持っていたかを示すもので、持病ごとの発症しやすさそのものではありません
内訳はこうでした。「基礎疾患のあるIPD患者は1,011例(58.1%)、免疫不全状態のあるIPD患者は543例(31.2%)であった」。
基礎疾患で最も多かったのは糖尿病(17.8%)です。次いで慢性の肺の病気、アルコール依存症、慢性の心臓の病気が、いずれも15%前後で並びます。免疫不全では固形がん、抗がん剤治療、ステロイド療法、慢性腎臓病・透析の順でした。
数字の読み方に注意してください。これは「その持病があると何倍なりやすいか」ではなく、「なった人のうち何%がその持病を持っていたか」です。それでも、誰に優先して勧めるべきかの手がかりにはなります。委員会も、こうした人たちをハイリスク者と位置づけています。
そのうえで、方針が2段階で書かれています。
基礎疾患がある方について。「これらの基礎疾患を有する患者ではその重症度に応じてPCV20またはPCV21の接種、あるいはPCV15-PPSV23による連続接種を検討することが望ましい。」
免疫不全がある方について。「免疫不全状態のある患者ではPCV20またはPCV21、あるいはPCV15-PPSV23による連続接種が推奨される。」
「検討することが望ましい」と「推奨される」。免疫不全のほうが一段強い書き方になっています。がんの治療中、ステロイドを続けている、透析を受けている——そうした状況にある方は、65歳を待たずに主治医に相談する価値があります。血糖の数値が気になっている方は糖尿病予備軍の記事を、腎臓の数値を指摘された方は腎臓の数値(eGFR・尿蛋白)の記事もあわせてご覧ください。
なお、60歳から64歳の方の定期接種の条件は、かなり限定されています。「心臓、腎臓又は呼吸器の機能に自己の身辺の日常生活活動が極度に制限される程度の障害を有する者及びヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に日常生活がほとんど不可能な程度の障害を有する者」。持病があるだけでは該当しません。身体障害者手帳の等級が目安になりますので、市区町村にご確認ください。
11. ワクチンのほかにできること——口腔ケア
肺炎の予防について、日本呼吸器学会の成人肺炎診療ガイドライン2024が正面から扱っているテーマが、もう一つあります。口腔ケアです。20あるクリニカルクエスチョンのうち、予防に関するものは1つだけ。それが「肺炎の予防に口腔ケアは推奨されるか」でした。
結論は、こうです。「肺炎の予防に口腔ケアを弱く推奨する」。エビデンスの確実性はC(弱い)です。
ただし——この「弱く」の理由を知ると、受け取り方が変わります。あとで触れます。
まず、数字を見てください。人工呼吸器を使っていない患者さん、つまり私たちに近い状況での結果です。
| アウトカム | 結果 | エビデンスの確実性 |
|---|---|---|
| 初めての肺炎の発症 | 口腔ケアをした群で有意に減少(RR 0.57、95%CI 0.40〜0.80) | D(とても弱い) |
| 肺炎による死亡 | 口腔ケアをした群で有意に減少(RR 0.53、95%CI 0.30〜0.95) | D(とても弱い) |
いずれもクロルヘキシジンを使わない、ふつうの口腔ケアでの結果です。確実性はとても弱い——観察研究が多く含まれるためです。それでも、日本のデータもあります。ガイドラインは「本邦の高齢者施設の入所者を対象としたRCTからは,質の高い口腔ケアによって肺炎の発症,発熱日数,さらには肺炎による死亡率を減少させることが報告されている」としています。
では、どうするのか。ガイドラインは手順まで書いています。ここがとても実用的です。
「食物残渣は,うがいなどで除去が可能であるが,細菌塊は非常に粘着力の強い物質で歯や義歯に付着しているために物理的に擦り取る必要がある。」
「歯や義歯には歯ブラシや義歯ブラシを用い,舌などの粘膜は舌ブラシや粘膜ブラシなどを用いて除去する。」
読み取れることは、はっきりしています。うがいでは落ちません。食べかすは流せますが、肺炎に関わるのは細菌の塊(バイオフィルム)のほうで、これは擦り取るしかない。洗口液だけで済ませている方は、ここを変える価値があります。
そして、忘れられがちなのが入れ歯です。ガイドラインは細菌の塊が付く場所として「歯や義歯」と並べて書いています。天然の歯が少ない方ほど、入れ歯の清掃が口の中の清潔さを決めます。
洗口液について、日本特有の注意もあります。海外の研究の多くは高濃度のクロルヘキシジンを使っていますが、ガイドラインはこう書いています。「本邦ではアナフィラキシーショックに対する懸念から,粘膜面に高濃度のクロルヘキシジンを使用することは禁忌であるため,洗口液はポピドンヨードやベンゼトニウム塩化物などを使用することが多い」。海外の研究の数字を、日本の洗口液にそのまま当てはめることはできません。
最後に、さきほど保留した話です。なぜ「強く」ではなく「弱く」推奨なのか。ガイドラインは、投票の経緯をそのまま公開しています。作成委員会に最初に示された草案は、実は「強く推奨する」でした。理由は「副作用の少ない簡便な手技にもかかわらず,肺炎発症の抑制および,それに伴う医療費削減効果が期待される」から。ところが、こういう反論が出ます。
「マンパワーの問題や,認知症や精神疾患を有する症例では必ずしもすべての医療機関,すべての症例で実施できるわけではないことが考慮され」——投票の結果、18人中13人(72%)が「弱く推奨する」を選びました。
つまり「弱く」の理由は、効果への疑いではなく、現場で全員には実施しきれないという事情でした。自分で歯が磨ける人にとっては、この割引はあまり当てはまりません。——ここは、推奨度という言葉だけを見ていると読み落とすところです。
ただし、道具をそろえれば十分というわけでもありません。ガイドラインは「質の高い口腔ケアを実施することは難しく,歯科口腔の専門家(歯科医師,歯科衛生士)が実施することが望ましい」とも書いています。歯と口については歯と口の健康で、失う原因から検診まで詳しく整理しました。
12. 🚨 費用のことと、相談の目安
お金の話を避けずに書きます。定期接種でも、無料とは限りません。
「考え方」第8版は、B類疾病の性格をこう説明しています。「B類疾病に対するワクチン接種には一定額の個人による費用負担が生じる。」自己負担額は市区町村ごとに決められていて、全国一律ではありません。
そして、今年から負担が上がる可能性があります。第8版が明記しています。
「高齢者の定期接種ワクチンが結合型ワクチンに切り替わることで、個人による定期接種の費用負担が増加すると考えられる。」
結合型ワクチンは、多糖体型より製造にコストがかかります。自治体の補助額が変わらなければ、その分は自己負担に乗ります。「去年の知り合いはこのくらいだった」は、今年は当てになりません。
市区町村の予防接種の窓口か、接種を受ける医療機関に、先に金額を確認してください。自治体によっては、住民税非課税世帯などへの減免があります。
| こんなとき | すること |
|---|---|
| 今年65歳になる/なった | 今年度が唯一の機会です。案内が届いていなくても市区町村へ問い合わせを |
| 66歳以上で、まだ受けていない | いまは定期接種の対象外。自治体独自の助成がないか確認を。70歳での枠は今後の検討課題です |
| 自費で受けたことがあり、今年65歳 | 定期接種を受けられる可能性があります。市区町村に確認を |
| 病気の療養で65歳の機会を逃した | 長期療養特例が使えるか市区町村に確認を(事情がなくなってから1年以内) |
| がん治療中・ステロイド・透析を受けている | 年齢に関係なく主治医に相談を。連続接種など別の組み立てが推奨されています |
| いま熱がある/体調が悪い | 日を改めてください。接種の可否は医師が当日判断します |
副反応についても触れておきます。PCV20の臨床試験で報告された反応は、接種した場所の痛み・赤み・腫れといった局所の反応と、だるさ・頭痛・筋肉痛・関節痛といった全身の反応です。「考え方」第8版は、3つの第Ⅲ相試験についてこうまとめています。「いずれも軽度~中等度、重篤な副反応は少なく、従来のPCV13やPCV13/PPSV23と比較し、安全性、免疫原性ともに同等と報告されている。」ただし、どのワクチンにもまれに重いアレルギー反応は起こりえます。接種後しばらくは医療機関で様子を見てから帰宅してください。
インフルエンザワクチンとの関係も整理しておきます。厚生労働省の部会は「同時接種については、医師が特に必要と認めた場合に行うことができる」「他のワクチンとの接種間隔の定めは置かないこととする」としています。同じ日でも、別の日でも構いません。なお2026年10月からは、高用量のインフルエンザワクチンも定期接種で使えるワクチンのひとつに加わることが決まっています。50歳を過ぎたら検討する帯状疱疹のワクチンもあわせて、この年代は予防接種の選択肢が増えています。
そして最後に、これは予防の話であって、治療の話ではありません。息が苦しい、高い熱が続く、ぐったりしている、いつもと違って反応が鈍い——こうしたときは、ワクチンを受けたかどうかに関係なく、すぐに受診してください。ワクチンを受けていても肺炎にはなります。数字が示しているのは「減る」であって「ゼロになる」ではありません。
この記事のまとめ
① 2026年4月、定期接種のワクチンがPPSV23からPCV20に切り替わりました
② 対象は65歳の1年間だけ。今回、65歳を超えた人への経過措置はありません
③ ただし「70歳で接種機会を設けることを軸に」今後検討される予定です
④ 23価より20価が格上げされたのは、拾える割合は同じで、覚え方が強いから
⑤ 65歳で受ければ65%、75歳まで待つと40%。早いほうが有利です
⑥ 5年後の再接種にはデータがありません。わかっていない、が正確な答えです
⑦ 口腔ケアも予防策。ただしうがいでは落ちません。擦り取る必要があります
13. よくある質問
ニューモバックスを受けたことがあります。今回のPCV20も受けられますか?
受けられます。ただし定期接種としてではありません。「考え方」第8版は「過去に定期接種としてPPSV23を接種した者は、原則として定期接種の対象外となる」としています。つまり公費の枠はもう使っているという扱いです。一方で、追加で受けること自体は認められていて、「PPSV23あるいはPCV13/PCV15/PCV20を接種した場合、接種から1年以上の間隔を置いて、PCV20あるいはPCV21を接種することができる」と書かれています。間隔は1年以上。費用は全額自己負担になります。なお同じPPSV23をもう一度、という選択については、第8版は「PPSV23接種後の同ワクチンの再接種を原則として選択肢としない」としています。また、定期接種ではなく自費で受けた接種歴しかない65歳の方は、案内が届いていなくても対象になる可能性があります。「考え方」は「過去に任意接種による肺炎球菌ワクチン接種歴のある65歳の方で、個別通知が送付されていない場合は、定期接種を受けることができるかどうかについて、居住する市区町村へ問い合わせすることが望ましい」としています。
23価より20価のほうが数が少ないのに、どうして格上げなのですか?
とても自然な疑問で、ここがいちばん誤解されやすいところです。数字は種類の数であって、強さの順位ではありません。厚生労働省の研究班が集めた65歳以上の侵襲性肺炎球菌感染症の菌を調べると、2022年から2024年に検出された菌のうちPCV20が含む型は約50%、PPSV23が含む型は約51%で、ほとんど差がありません。種類は3つ少ないのに、実際に見つかる菌をどれだけ拾えるかは同じくらいなのです。違いは覚え方のほうにあります。PPSV23は莢膜の糖だけを使うワクチンで、成人肺炎診療ガイドライン2024は「PPSV23は23種類と広範囲の莢膜型をカバーできる反面,免疫機序はB細胞依存性であるため,PCV13/PCV15と比較して免疫効果が低い」と説明しています。結合型は糖にタンパクをつないであり、免疫の記憶が残ります。同じくらいの範囲を、より強く覚える。それが切り替えの理由です。
私は68歳です。今年は定期接種の対象になりますか?
残念ですが、2026年度は対象外です。定期接種の対象は65歳の方と、60歳以上65歳未満で心臓・腎臓・呼吸器の機能またはHIVによる免疫の機能に重い障害がある方に限られます。これまで10年間は5歳刻みの経過措置がありましたが、2023年度で終わりました。今回の切り替えでも経過措置は設けられていません。厚生労働省の部会は「現時点では65歳を超える方に対する経過措置を設けないこととしてはどうか」という案を了承しています。ただし、あきらめる前に2つ確認してください。1つは、同じ部会が「65歳を超える年齢の者については、70歳で接種機会を設けることを軸に、今後、あらためて本部会において検討する」としていることです。70歳という枠が将来つくられる可能性があります。もう1つは、お住まいの市区町村が独自に助成をしていないかです。国の定期接種とは別に、自治体が独自の補助を出している例があります。急ぐ理由がなければ、まず市区町村の予防接種の窓口に確認してみてください。
5年たったら、もう一度受けたほうがいいですか?
いまのところ、はっきりした答えがありません。それを一次資料が正直に書いています。「考え方」第8版の図に添えられた注意書きにこうあります。「PCV20およびPCV21接種後のワクチン効果の持続は5年程度と考えられるため、免疫原性の観点からはPCV20あるいはPCV21接種後5年以降の再接種が必要と考えられる。しかしながら、現時点でPCV20およびPCV21接種後の再接種の免疫原性、安全性のデータはない。」理屈のうえでは5年後に必要かもしれないが、確かめたデータがない、ということです。5年後にもう一度という説明を受けたときは、それが確立した方針ではなく、現時点では根拠のない領域だと知っておいてください。なお、PPSV23については早すぎる再接種の注意が知られていて、審議会でも「PPSV23を5年以内に再接種すると局所反応が強くなるというのは添付文書に書かれており」という発言が記録されています。
インフルエンザのワクチンと同じ日に打てますか?
打てます。厚生労働省の部会資料は、接種方法に関するその他の事項として「同時接種については、医師が特に必要と認めた場合に行うことができる」「他のワクチンとの接種間隔の定めは置かないこととする」と整理しています。別々の日に分けても、間隔の決まりはありません。実際、日本で行われた肺炎球菌ワクチンの臨床試験は、ほとんどの参加者がインフルエンザワクチンも受けた状態で行われています。高齢者施設で行われた二重盲検の試験では全体の99%がインフルエンザワクチンを接種していて、その条件のもとで肺炎球菌性肺炎が63.8%、すべての原因による肺炎が44.8%減ったと報告されました。2つを組み合わせた状態での数字だと理解しておくとよいと思います。なお2026年10月からは、高用量のインフルエンザワクチンも定期接種で使えるワクチンのひとつに加わることが決まっています。
参考にした主な資料
- 日本呼吸器学会 感染症・結核学術部会ワクチンWG/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第8版 一部修正 2026年6月15日)」(PPSV23の有効性と血清型カバー率、PCV13・PCV15・PCV20・PCV21の位置づけ、PCV15-PPSV23連続接種、2026年4月以降の接種の流れの図と注意、定期接種率の課題、ハイリスク者への接種、表1・表2)
- 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会「高齢者に対する肺炎球菌ワクチンについて(第74回 2025年12月19日 資料1)」(定期接種の対象者・使用ワクチン・接種方法、経過措置を設けない事務局案、70歳での接種機会の検討、費用対効果、諸外国の導入状況、侵襲性肺炎球菌感染症の疾病負荷と血清型分布)
- 厚生労働省「高齢者の肺炎球菌ワクチン」(定期接種の対象者、使用するワクチン、長期療養特例)
- 日本呼吸器学会 成人肺炎診療ガイドライン2024作成委員会「成人肺炎診療ガイドライン2024」(SCOPE 肺炎予防:肺炎球菌ワクチン・インフルエンザワクチン・口腔ケア、CQ20「肺炎の予防に口腔ケアは推奨されるか」の推奨文・解析結果・投票結果)
- 厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」(第8表 性別にみた死因順位別 死亡数・死亡率・構成割合)