1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| 肝臓が悪いなら、食事は控えめに | 肝硬変は蛋白質とエネルギーの不足に陥りやすい。アルブミン値が低い人は適切な食事量と十分な蛋白質を。分割食や約200kcalの寝る前の補食が勧められている |
| 寝る前の補食は自分で始めてよい | 自己判断で行うと肥満になり、かえって病状を悪化させる可能性も。主治医や管理栄養士の指導のもとで |
| 肝臓が悪いなら、安静にしているのがいちばん | サルコペニアを防ぐには適度な運動が必要。ただし黄疸や腹水があれば安静。始める前に主治医に相談 |
| お酒を飲まない人は肝硬変にならない | 飲酒量が多くないのに、食べ過ぎや運動不足による脂肪肝から肝硬変になる人が増えている |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
肝硬変と言われたら、肝がんの定期検査を欠かさず受け、アルブミン値と握力を手がかりに、栄養と運動を主治医と一緒に整えてください。寝る前の補食や運動は、自己判断で始めずに主治医に相談を。
2. 肝硬変とは——硬く小さくなった肝臓
日本消化器病学会・日本肝臓学会のガイドによると、肝障害が起こると肝細胞が壊れ、それを補うように線維がたまって肝臓の中に壁ができていきます。肝臓は再生力のある臓器ですが、肝硬変では再生力が落ち、最終的に硬く小さくなります。
- 原因:B型・C型肝炎ウイルス、多量・長期の飲酒、過栄養、自己免疫など
- アルコール性肝硬変は、男性では日本酒1日3〜5合を20年間続けると起こるとされ、女性ではその半量でも起こる
- 最近は、飲酒量が多くないのに、食べ過ぎや運動不足による脂肪肝から脂肪性肝炎、肝硬変へと進む人が増えている
脂肪肝と線維化については脂肪肝とALTの記事、お酒の量についてはお酒とγ-GTPの記事で書いています。
3. 症状——代償性と非代償性
| 状態・合併症 | 資料の記述 |
|---|---|
| 代償性肝硬変 | 肝臓の機能が保たれていて、症状がない |
| 非代償性肝硬変 | 黄疸、腹水、肝性脳症が認められる |
| 食道・胃静脈瘤 | 肝臓に入れなくなった門脈の血液が回り道をつくり、食道や胃の静脈が膨れる。破れると大出血で血を吐いたり、黒い便が出たりする |
| そのほか | 出血しやすくなる、むくみや腹水、筋力の低下、睡眠障害、かゆみ、こむら返りなど |
4. 検査で見る値と、肝がんの定期検査
診断ではまず、大量の飲酒や過去の輸血、糖尿病などの原因がないかを聞き、みぞおちに硬い肝臓が触れる、お腹に水がたまっている、胸にクモが這うような赤い斑点がある、白目が黄色いなどのサインを診察します。
| 血液検査の値 | 肝硬変での変化(資料の記述) |
|---|---|
| アルブミン・総コレステロール | 合成する働きが弱くなると低下する。血液を固める蛋白も減り、血液が固まりにくくなる |
| ビリルビン・ヒアルロン酸 | 処理する働きが落ちると上昇する |
| 血小板 | 腫れた脾臓に壊されて減少する |
これらの値は単独では肝硬変と診断できず、いくつかを組み合わせ、腹部超音波検査やCT、肝生検、肝臓の硬さを測る超音波エラストグラフィなどを総合して診断します。
「肝硬変には肝がんが合併しやすいので、定期的に超音波検査やCTあるいはMRIで肝がんの有無をチェックします。小さいうちに肝がんを見つければ治療が可能です。」(日本消化器病学会・日本肝臓学会「患者さんとご家族のための肝硬変ガイド2023」Q2)
血液では、肝がんのマーカーとされるAFPやPIVKAⅡなども調べます。原因によって肝がんの合併頻度が違うため、検査の間隔も異なります。医師の指示に従って定期的な検査を受けてください。
5.【核心】栄養——アルブミンと、寝る前の補食
肝硬変の患者さんは、蛋白質とエネルギーの不足を特徴とした低栄養状態に陥りやすいとされています。
肝臓は体の「化学工場」で、蛋白質の合成やエネルギーの貯蔵を担っています。肝硬変では、栄養状態の指標である血液中のアルブミン値が低下し、むくみや腹水が出やすくなります。また、エネルギーをためておくグリコーゲンが減り、エネルギー不足になりやすくなります。
- 寝る前の補食(LES:late evening snack)は、就寝中に起こる長時間の飢餓状態の改善に有用で、就寝中のこむら返りや健康感の改善にも効果があることが知られている
- ただし、自己判断で行うと肥満になり、かえって病状を悪化させる可能性もある。主治医や管理栄養士の指導のもとで
- 肝硬変では蛋白質の合成に重要な分岐鎖アミノ酸(BCAA:ロイシン、イソロイシン、バリン)が不足している。分割食や補食で栄養状態が良くならない場合は、BCAAを補う薬物治療が勧められている
6. 握力と運動——筋肉は「第二の肝臓」
筋力の低下と筋肉の萎縮(サルコペニア)は、肝硬変の患者さんの寿命に関わる重要な合併症とされています。筋肉は蛋白質の合成やアンモニアの解毒を行うことから第二の肝臓とも呼ばれます。
- 握力が男性28kg未満、女性18kg未満ならサルコペニアの可能性があり、CTなどによる筋肉量の測定を主治医に相談する
- サルコペニアの予防や改善には筋肉トレーニングが効果的で、ウォーキングなど軽い汗をかく程度の有酸素運動でも効果がある
- 運動のメニューは主治医と相談しながら決める。黄疸や腹水があれば安静が必要
- 運動で食道・胃静脈瘤が破れる危険が高まる可能性もあるため、運動療法を始める前に主治医に相談する
サルコペニアの測り方と筋トレについてはサルコペニアの記事で書いています。
7. 食生活・睡眠・便秘の注意
| 項目 | 資料の記述 |
|---|---|
| 肥満と果糖 | 肥満を伴う肝硬変が増えている。肥満は肝がんを増やすため、食事は適切な量をバランスよく。飲酒を控え、清涼飲料水などの果糖のとりすぎに注意 |
| 生の魚介類 | ビブリオ・バルニフィカス菌の感染で敗血症など重い状態になることがある。とくに非代償性肝硬変では、魚介類は十分に加熱する |
| コーヒー | 肝硬変の進展や肝がんの発症を抑えることが報告されており、有用な食品と考えられている |
| 睡眠 | 睡眠障害が起こることがある。脳が睡眠導入薬に過敏になっていることがあるため、不用意な睡眠薬の服用は慎む |
| 便秘 | 便秘は肝性脳症の原因になるため、軟らかい便が毎日出るのが望ましい。野菜など食物繊維、適度な運動、お腹のマッサージ |
8. 原因ごとの治療
| 原因 | 資料の記述 |
|---|---|
| B型 | 飲み薬の核酸アナログ製剤でウイルスの増殖を抑える。期間を決めずに続けて飲む必要があり、自己判断で中止してはいけない |
| C型 | 飲み薬の抗ウイルス薬で、9割以上でウイルスを排除できると報告されている。公費の医療費助成制度がある。ウイルスが消えても肝がんの定期検査は続ける |
| アルコール性 | 肝硬変になる前にお酒をやめるのが最善。依存症では飲酒量を減らす薬が使われることもある |
| 脂肪肝炎による | 脂肪肝が見つかった時点で、適切な食事療法と運動療法 |
9.【内科医の視点】肝硬変では、食べないことが良いとは限らない
内科医として、ここはぜひ知っておいてほしいところです。資料は、肝硬変の患者さんは蛋白質とエネルギーの不足に陥りやすく、アルブミン値が低い人には十分な蛋白質や寝る前の補食を勧めています。肝臓が悪いからと食事を減らしすぎると、かえって栄養状態が悪くなることがあります。一方で、肥満は肝がんを増やすともされています。どのくらい食べるかは、主治医や管理栄養士と決めることが大切です。
もう一つは、握力です。資料は、男性28kg未満・女性18kg未満をサルコペニアの可能性の目安にしています。握力が落ちてきたと感じたら、主治医に相談してください。お酒による膵臓の病気については慢性膵炎の記事で書いています。
10. 受診したいとき
すぐに受診したいとき
・血を吐いた、黒い便が出た(静脈瘤からの出血のことがある)
主治医に相談したいとき
・白目が黄色い、お腹が張る、むくむ
・握力が男性28kg・女性18kg未満、体重や筋力が落ちてきた
・寝る前の補食や運動を始めたい
・眠れない、便秘が続く(睡眠薬は自己判断で飲まない)
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 原因はB型・C型肝炎、お酒、食べ過ぎ・運動不足など
② 肝がんが合併しやすい。超音波・CT・MRIで定期的にチェック
③ アルブミン3.5g/dL以下なら十分な蛋白質、分割食、約200kcalの寝る前の補食(指導のもとで)
④ 握力でサルコペニアをチェック。運動は主治医と相談して
⑤ 生の魚介類は加熱、果糖のとりすぎ注意、睡眠薬は慎重に、便秘を防ぐ
11. よくある質問
肝硬変の原因は何ですか?
日本消化器病学会・日本肝臓学会の患者さん向けガイドによると、B型・C型肝炎ウイルスの感染、多量・長期の飲酒、過栄養、自己免疫などによる慢性の肝障害が進むことで起こります。最近は、飲酒量が多くないのに、食べ過ぎや運動不足による脂肪肝から肝硬変になる人が増えているとされています。
肝硬変ではどんな検査を定期的に受けますか?
日本消化器病学会・日本肝臓学会の患者さん向けガイドによると、肝硬変には肝がんが合併しやすいため、定期的に超音波検査やCT、MRIで肝がんの有無をチェックし、血液検査で肝がんのマーカー(AFPやPIVKAⅡなど)を肝機能とともに調べます。小さいうちに肝がんを見つければ治療が可能とされています。
寝る前に何か食べたほうがいいのですか?
日本消化器病学会・日本肝臓学会の患者さん向けガイドによると、肝硬変ではエネルギー不足になりやすく、約200kcalの寝る前の補食(LES)や、食事を1日4〜5回に分ける分割食が勧められています。ただし、自己判断で行うと肥満になり、かえって病状を悪化させる可能性もあるため、主治医や管理栄養士の指導のもとで行うよう勧められています。
肝硬変でも運動していいですか?
日本消化器病学会・日本肝臓学会の患者さん向けガイドによると、サルコペニアを防ぐには適度な運動が必要で、筋肉トレーニングやウォーキングなどの有酸素運動に効果があると報告されています。ただし黄疸や腹水がある場合は安静が必要で、運動により食道・胃静脈瘤が破れる危険が高まる可能性もあるため、始める前に主治医に相談するよう勧められています。
食べ物で気をつけることはありますか?
日本消化器病学会・日本肝臓学会の患者さん向けガイドによると、食事は適切な量をバランスよくとり、飲酒を控え、清涼飲料水などの果糖のとりすぎに注意します。生の魚介類でビブリオ・バルニフィカス菌に感染すると重い状態になることがあるため、十分に加熱して食べるよう勧められています。コーヒーは有用な食品と考えられています。
参考にした主な資料
- 日本消化器病学会・日本肝臓学会「患者さんとご家族のための肝硬変ガイド2023」