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MEDICALLY REVIEWED BEAUTY & HEALTH
体型と代謝

サルコペニア
——筋肉の衰えは家で測れます。いちばん根拠が強いのは、サプリではなく筋トレでした

「最近、親の足が細くなった」「ペットボトルのふたが開けにくい」。気になっても、年のせいで片づけてしまいがちです。
加齢による筋肉の衰えにはサルコペニアという名前があり、学会の診断基準があります。そして、その入り口のチェックは家でもできます。ふくらはぎを指で囲む、椅子から5回立ち上がる——それだけです。
一方で、対策として勧められているものを推奨の強さで並べてみると、世の中でお金がかかりがちなものほど評価が弱い、という逆転が見えてきました。
学会と国のガイドラインだけを使って、測り方から備え方までを整理します。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年9月30日 読了:約16分

1. 先に結論

ガイドラインから読み取れることを、先にまとめます。

よく聞く話ガイドラインが書いていること
筋肉が減るのは年のせいで、仕方がない加齢がいちばんの要因ですが、活動不足・病気・栄養不良も危険因子です。変えられる部分があります
筋肉が減ったかは、病院で測らないと分からない2019年の基準改訂で、筋肉量を測る機械がなくても「可能性あり」と判断できるようになりました
太っているから筋肉は足りている筋肉が減って脂肪が増えた「サルコペニア肥満」があり、死亡リスクとの関連が指摘されています
サプリやEMSで手軽に筋肉をつけたい栄養補充もEMSも推奨は「提案」(弱い)。EMSで筋肉量が増えたとは示されていません
いちばん大事なのは何か筋トレです。推奨の強さ・根拠の確かさとも「強い」と評価されています
いずれ薬で治せる「現時点で承認された薬剤はない。」

この記事でいちばんお伝えしたいこと。

筋肉の衰えは、気づいたときに測れるものです。そして備え方の順番は、筋トレ、食事のたんぱく質、そのあとで道具やサプリ。7章の表を持ち帰っていただければと思います。

2. サルコペニアとは——「量」と「力」の両方で決まります

日本サルコペニア・フレイル学会と国立長寿医療研究センターがまとめた「サルコペニア診療ガイドライン2017年版 一部改訂」(2020年発行)は、次のように定義しています。

「サルコペニアは高齢期にみられる骨格筋量の減少と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下により定義される。」

ポイントは、筋肉の量だけでは決まらないことです。量が減っていることに加えて、握る力が弱い、あるいは歩くのが遅いといった「力」の低下がそろってはじめて、サルコペニアと呼ばれます。

いつから始まるのでしょうか。厚生労働省のe-ヘルスネットには、こう書かれています。「骨格筋量の低下は25~30歳頃から始まり、生涯を通して進行します。」高齢者だけの話ではなく、いまの生活が数十年後につながる話です。40代からの筋肉の変化は「痩せにくい」の正体の記事で詳しく扱いました。

原因について、ガイドラインのまとめはこうです。

「サルコペニアは,加齢が最も重要な要因であるが,活動不足,疾患(代謝疾患,消耗性疾患など),栄養不良が危険因子である。」

加齢は変えられません。けれど動く量と食べるものは変えられます。この記事の後半は、その話です。

どれくらいの人が当てはまるのか。ガイドラインは、調査によって数字の幅がとても大きいとしたうえで、地域で暮らす65歳以上では1〜29%、施設に入っている高齢者では14〜33%という報告をまとめています。1,000人以上の大規模な研究に限ると6〜12%で、「おおむねこの程度が代表的な有病率になると考えられる。」としています。日本人の大規模調査では7.5〜8.2%でした。65歳以上の10人に1人弱、という見当です。

3. 何が困るのか——転ぶこと、そして病気や手術のとき

筋肉が減って困るのは、見た目や体力だけではありません。ガイドラインは、予後についてこう書いています。

「サルコペニアでは転倒,骨折,フレイルとなるリスクが高い。」

フレイルは、体や心の働きが弱って、介護が必要になる手前の状態のことです。筋肉が減ると転びやすくなり、転ぶと骨が折れ、骨が折れると動けなくなって、さらに筋肉が減る——という悪循環が起こります。とくに骨粗鬆症とサルコペニアは「併存しやすく」、両方があると歩行障害やバランスの低下と関連するとされています。骨の話は骨粗鬆症の記事をご覧ください。

もうひとつ、あまり知られていないのが病気や手術のときの影響です。ガイドラインのステートメントには次の2つが並んでいます。

「サルコペニアを合併すると癌患者の生存率が低下する。」

「サルコペニアを合併すると手術の死亡リスクが高くなる。」

筋肉は、体を動かすだけでなく、病気と闘うときの体の貯金のような役割も果たしています。元気なうちに貯金を保っておくことが、いざというときの備えになります。

病気の側から見ると、2型糖尿病や慢性腎臓病(CKD)、COPDなどでは、サルコペニアの割合が高いことも分かっています。糖尿病については糖尿病予備軍の記事で、握力が発症リスクと関連していたことにも触れました。

4.【核心】家でできる4つのチェック

サルコペニアの診断には、本来は筋肉の量を測る機械(DXA や BIA という体組成の測定装置)が必要です。けれど2019年、アジアの専門家グループ(AWGS)が診断基準を改訂しました。ガイドラインはその改訂のポイントを、地域や診療所では筋肉量を測るのが難しいため、筋肉量を測る装置なしでリスクのある人を見つけ、早くから対策を始められるようにした、と説明しています。

その結果、握力か、椅子からの立ち上がりの速さが落ちていれば、「サルコペニアの可能性あり」と判断できるようになりました。

筋肉量を測る機械がなくても、ここまで分かります AWGS2019「一般の診療所や地域での評価」の流れ ①ふるい分け どれか1つに当てはまる ふくらはぎの周囲長 男性34cm未満 女性33cm未満 SARC-F 4点以上 SARC-CalF 11点以上 ②力を測る どちらかが低い 握力 男性28kg未満 女性18kg未満 椅子から5回立つ 12秒以上かかる ③可能性あり この時点で勧められること 食事と運動の 見直しを始める あわせて 医療機関で 確定診断へ 医療機関では、これに筋肉量の測定(DXA・BIA)を加えて診断します。 転倒のくり返し、意図しない体重減少、慢性の病気なども「ふるい分け」のきっかけに挙げられています。 SARC-CalFは、ふくらはぎが基準未満のときにSARC-Fの点数へ10点を加える指標です。

サルコペニア診療ガイドライン2017年版 一部改訂「サルコペニア診断基準(AWGS2019)について」図1をもとに簡略化して作成

家でできるものを4つ紹介します。

チェック① 指輪っかテスト

東京大学高齢社会総合研究機構が考案したテストです。長寿科学振興財団の健康長寿ネットは、「指で輪っかをつくり、ふくらはぎを囲んでチェックする」と紹介しています。両手の指で輪をつくり、ふくらはぎのいちばん太いところを囲んでみてください。結果は「囲めない」「ちょうど囲める」「隙間ができる」の3つに分かれ、隙間ができるほどサルコペニアの危険度が高いとされています。

ガイドラインも、スクリーニング方法として下腿周囲長(ふくらはぎの周囲長)に注目した「指輪っかテスト」を挙げ、「有用である」としています。道具はいりません。離れて暮らす親に電話で頼むこともできます。

チェック② ふくらはぎの周囲長

メジャーがあれば、数字で確かめられます。AWGS2019の基準は男性34cm未満、女性33cm未満です。ガイドラインによると、研究で報告された基準値は男性32〜34cm、女性32〜33cmでしたが、見逃しを減らすために高いほうの値が採用されています。ふくらはぎのいちばん太いところを、メジャーで一周測ります。

ただし、むくみがあると太く測れてしまいます。夕方に脚がむくみやすい方は、朝に測るほうが実態に近くなります。

チェック③ SARC-F(5つの質問)

海外で作られ、ガイドラインにも日本語で載っている質問票です。次の5つの動作がどのくらい大変かを、それぞれ0〜2点でつけます。

項目たずねる内容(要約)
握力4〜5kgのものを持ち上げて運ぶ
歩行部屋の中を歩く
椅子から立ち上がる椅子やベッドから移動する
階段を昇る階段を10段昇る
転倒この1年で何回転んだか(なし0点・1〜3回1点・4回以上2点)

「全く大変ではない」が0点、「少し大変」が1点、「とても大変・できない」が2点です。合計10点のうち4点以上で、サルコペニアの可能性が高いとされます。4〜5kgは、2リットルのペットボトル2本と少しです。

チェック④ 椅子から5回立ち上がる

いちばん「力」を直接見られるのがこれです。椅子に座った状態から、立ち上がって座る動作を5回くり返すのにかかる時間を、ストップウォッチで測ります。ガイドラインでは「5回椅子立ち上がりテスト」と呼ばれています。

AWGS2019では、12秒以上かかると身体機能の低下とされます。ガイドラインによると、この12秒は、歩く速さ1.0m/秒に相当する値(11.6秒)から決められました。

安全のために

チェック④は、壁につけた安定した椅子で、そばに人がいるときに行ってください。ふらつく方、膝や腰に強い痛みがある方は無理をしないでください。転んでしまっては元も子もありません。

当てはまるものがあったらどうするか。ガイドラインは、AWGS2019が「食事・運動などの生活習慣の改善を推奨しているが,確定診断のために医療機関や専門病院に紹介することも推奨している。」と説明しています。生活の見直しを始めつつ、医療機関にも相談する。どちらか一方ではありません。

5. 診断の基準——握力は男性28kg・女性18kg

医療機関では、次の3つを測って診断します。

測るもの低下とされる基準(AWGS2019)
筋力(握力)男性28kg未満、女性18kg未満
身体機能6mの通常歩行で1.0m/秒未満、または5回椅子立ち上がり12秒以上、またはSPPB9点以下
筋肉量(手足の筋肉量を身長の2乗で割った値)DXA:男性7.0kg/m²未満、女性5.4kg/m²未満
BIA:男性7.0kg/m²未満、女性5.7kg/m²未満

筋肉量が少なく、さらに握力か身体機能が低いとサルコペニア、3つすべてが低いと重症サルコペニアです。SPPBは、バランス・歩く速さ・椅子からの立ち上がりをまとめて点数にする検査です。

握力について、ひとつ知っておいていただきたい変化があります。2019年の改訂で、男性の基準が26kgから28kgへ上がりました。ガイドラインは「AWGS2014と比べて,男性の基準が2kg引き上げられることとなり,サルコペニアの基準を満たす症例が増えることが予想される。」としています。基準はアジアの26,344人のデータをもとに決められました。

歩く速さの基準も、0.8m/秒以下から1.0m/秒未満に変わりました。アジア人のデータで、歩く速さの下位2割とその上の境目が約1.0m/秒だったためです。ふだんの歩き方で、1秒に1m進めるかどうかが目安です。

対象の年齢について、ガイドラインは65歳以上を原則としながら、病気によって若くても基準を満たす人がいるため、「65歳未満でもサルコペニアの診断は可能である。」としています。

6. 太っていても起こる——サルコペニア肥満

「体重は重いほうだから、筋肉は足りているはず」。そう考える方は多いと思います。けれど、筋肉が減り、同時に脂肪が増えている状態があります。サルコペニア肥満です。

ガイドラインは、サルコペニア肥満について次のように書いています。

「サルコペニア肥満では脂質異常症となるリスクが高く,また心血管疾患による死亡,総死亡のリスクが高い。」

解説には、サルコペニア肥満は女性に多く、空腹時血糖が高くインスリンが効きにくい傾向があること、骨密度が低いことなども挙げられています。

ただし、正直な限界も書かれています。サルコペニア肥満をどう測るかについては「評価方法やカットオフ値は定まっていない。」とされ、診断についても「統一された診断コンセンサスはない。」としています。まだ研究の途中にある概念です。

それでも、日常で気をつけられることははっきりしています。体重計の数字だけで安心しないこと。そして食事だけで減量しないことです。ガイドラインが紹介している研究では、65歳以上のサルコペニア肥満の女性がカロリーを制限した食事を3か月続けたとき、たんぱく質が通常量(体重1kgあたり0.8g)の群では筋肉の指標が下がり、多めにとった群(1.2g)では上がりました。減量するときほど、たんぱく質と筋トレが大切になります。

7.【重要】推奨の強さを並べると、順番が逆でした

ここがこの記事の中心です。サルコペニアの対策について、2つのガイドラインを並べて読みました。

1つは、先ほどから引用している学会のガイドライン。もう1つは、日本医療研究開発機構(AMED)の研究班が2025年3月にまとめた「サルコペニア・フレイルの予防・改善に関するデジタルヘルスのためのガイドライン」です。日本サルコペニア・フレイル学会や日本老年医学会が協力し、医療者だけでなく一般の利用者やヘルスケア事業者も読み手に想定しています。

「強い」がついたのは、筋トレと食事のたんぱく質 2つのガイドラインの推奨を、同じ表に並べました 推奨の強さ 根拠の確かさ 出典 筋トレ レジスタンストレーニング(高齢者の予防) 強く推奨 強い 国 2025 食事のたんぱく質 体重1kgあたり1日1.0g以上(予防) 推奨(強) 低 学会 運動+栄養の組み合わせ サルコペニアの人の改善 推奨(弱) 非常に低 学会 栄養補充 サプリなど(高齢者の予防) 提案(弱い) 中 国 2025 EMS(電気的筋刺激) 高齢者の予防 提案(弱い) 弱い 国 2025 薬 SARMなど 承認薬なし 非常に低 学会 「学会」はサルコペニア診療ガイドライン2017年版 一部改訂、「国 2025」はAMEDの研究班によるガイドライン。 2つは推奨の決め方が同じではないため、並べるのは目安としてです。

サルコペニア診療ガイドライン2017年版 一部改訂(第3章・第4章)と「サルコペニア・フレイルの予防・改善に関するデジタルヘルスのためのガイドライン」(HQ9〜11)をもとに作成

並べてみると、はっきりした傾向があります。

いちばん強く勧められているのは、筋トレと、食事でとるたんぱく質です。お金はほとんどかかりません。

一方、サプリなどの栄養補充、EMS、アプリなどのデジタルサービスは、いずれも「提案」、つまり弱い推奨にとどまっています。広告でよく目にするのは、むしろこちらです。お金をかけがちなものほど、評価は弱い——これが、2つのガイドラインを並べて見えたことです。

誤解のないように書き添えると、「弱い」は「効かない」「やってはいけない」という意味ではありません。現時点では根拠が十分にそろっていない、という意味です。国のガイドラインの序文も、デジタル機器について「強く推奨するエビデンスを得ることはできませんでしたが」と書いたうえで、それは「デジタルサービス全体の推奨を否定しているものではありません。」と続けています。すでに使っている方が、やめる必要はありません。順番の問題です。土台に筋トレとたんぱく質があって、その上に道具やサプリを足す、という順番です。

8. 筋トレ——「強く推奨」の中身

国のガイドラインの推奨文です。

「高齢者のサルコペニアの発症・進展を予防するために、レジスタンストレーニング単独、またはレジスタンストレーニングを含む複合(多成分)運動を行うことを強く推奨する。」

推奨の強さ:強い/エビデンスの確実性:強い

レジスタンストレーニングは、筋肉に負荷をかける運動、いわゆる筋トレのことです。複合運動は、筋トレにバランス運動、有酸素運動、歩行の練習などを組み合わせたものを指します。根拠になった9編のシステマティックレビューでは、筋肉の量、握力や膝を伸ばす力、歩く速さなどのいずれかが改善していました。害についても「採用された文献では、有害事象の報告はなかった。」とされています。

何を、どれくらいやればいいのか

ここは正直にお伝えします。ガイドラインは「運動介入の頻度や強度に関しては一定した結論に至っていない。」としています。「週に何回、何分」という決まった正解は、まだありません。

参考になる数字はあります。学会のガイドラインが治療の根拠として分析した試験では、「レジスタンス運動が含まれている包括的な訓練プログラムを60 分,週2 回,3 ヵ月間実施する」という方法で、手足の筋肉量が0.38kg、ふだんの歩く速さが0.11m/秒改善しました。一方で「包括的な訓練プログラムの握力への効果はみられなかった」とも書かれていて、何でも改善するわけではありません。

家でできる例として、国のガイドラインが紹介している研究には、座ったまま脚を持ち上げる運動、壁を背にしたスクワット、ダンベルを使う運動、「ゴムバンドを利用した運動」などが挙がっています。4章のチェックで使った椅子からの立ち上がりも、そのまま筋トレになります。

40代・50代にとっての意味

動いてきた人ほど、なりにくい 日本人高齢者を対象にした2つの研究(1.0が比べる基準) ① 20〜50歳のころの運動習慣(65歳以上1,000人) 運動習慣なし 1.0 運動習慣あり 0.53 ② 歩数(65〜84歳468人を5年間追跡) 最も多い群 1.0 最も少ない群・男性 2.33倍 最も少ない群・女性 2.99倍 ①はオッズ比、②は相対リスク。どちらも観察研究で、因果関係を示すものではありません。 別の10年間の研究(3,608人)では、65歳以上に限ると歩数との有意な関係は認められていません。

サルコペニア診療ガイドライン2017年版 一部改訂 第3章 CQ2の解説をもとに作成

予防について、学会のガイドラインは「運動習慣ならびに豊富な身体活動量はサルコペニアの発症を予防する可能性があり,運動ならびに活動的な生活を推奨する。」としています(推奨レベル:強、エビデンスレベル:低)。

その根拠のひとつが、図の①です。65歳以上の日本人1,000人を調べた研究で、「中年時代(20 ~50 歳)の運動習慣の存在は,年齢,性別,BMIで調整後もサルコペニア発症と有意な関連を認めた」とされています。いま40代・50代の方にとって、いまの運動が20年後の筋肉への備えになりうる、ということです。

ただし、観察研究なので「運動したからなりにくかった」とまでは言えません。もともと元気な人が運動を続けられた、という可能性もあります。それでもガイドラインは、運動でサルコペニアのリスクが高まることを示すデータはなかったとし、運動が筋力や筋肉量の維持に役立つことは生理学的に明らかだとして、予防の基本として強く推奨しています。

ひざの痛みで動きにくい方は、変形性膝関節症の記事で、痛みがあってもできる運動の考え方を紹介しています。

9. たんぱく質——体重1kgあたり1日1.0g

学会のガイドラインの、予防についての推奨文です。

「適切な栄養摂取,特に1日に(適正体重)1kgあたり1.0g以上のタンパク質摂取はサルコペニアの発症予防に有効である可能性があり,推奨する。」

エビデンスレベル:低/推奨レベル:強

体重50kgの方なら1日50g以上、60kgの方なら60g以上です。グラムを計算するより、毎食に主菜(肉・魚・卵・大豆製品)が1品あるかを見るほうが続けやすいと思います。

令和6年の国民健康・栄養調査では、20歳以上の平均摂取量は男性78.0g、女性65.9gで、平均で見れば多くの方が届いています。たんぱく質は足りているかの記事で詳しく確かめました。気をつけたいのは、食が細くなった高齢の親や、食事を減らしてダイエットしている方です。

サプリで補うことについて

では、足りないぶんをサプリやプロテインで補えばよいのか。国のガイドラインの推奨は「提案する」(弱い推奨、エビデンスの確実性:中)で、利用者向けの解釈として次のように書いています。

「既存のシステマティックレビューで栄養介入がサルコペニアの発症・進展を予防する効果が示されているが、現時点では結論づけることはできない。」

研究の結果が割れているからです。HMB、ロイシン、ビタミンD、オメガ3脂肪酸で筋肉量や筋力のいずれかが改善したという報告がある一方、「3編ではたんぱく質、ロイシンによる介入、もしくは栄養教育によっても筋量、筋力、身体機能の改善が認められず」、筋トレに上乗せした場合も「他の3編ではホエイたんぱくやビタミンDを含めた介入によって同効果が認められなかった。」とされています。

一方で、学会のガイドラインは、すでにサルコペニアがある人については、筋トレを含む運動と栄養療法を組み合わせると「単独介入に比べサルコペニアの改善に有効であり,推奨される。」としています(推奨レベル:弱)。e-ヘルスネットも「栄養摂取と運動は、それぞれ単独よりも、両者を併用で実践することがより効果的です。」としています。

まとめると、まず食事、足りなければ補う、そして必ず筋トレとセットで、です。

10. EMS・サプリ・薬はどう書かれているか

EMS(電気的筋刺激)

おなかや太ももに貼って、電気で筋肉を動かす機器です。国のガイドラインは、高齢者のサルコペニア予防として「EMSを行うことを提案する。」としていますが、推奨の強さもエビデンスの確実性も「弱い」です。

根拠になったシステマティックレビューは1編(508人)だけでした。その結果はこう書かれています。

「メタアナリシスの結果、EMSによって有意な筋力増加が認められたが、筋量や身体機能の有意な変化は認められなかった。」

筋力は少し増えたものの、筋肉の量と、歩く速さなどの身体機能は変わらなかったということです。大きな安全上の問題は報告されていません。膝や腰の痛みで体を動かしにくい方が補助として使うことは考えられますが、筋トレの代わりにはなりません。心臓ペースメーカーなどを使っている方は、必ず事前に主治医に確認してください。

アプリ・ウェアラブル機器

国のガイドラインは、アプリなどのデジタルサービスを使った介入についても調べています。高齢者のサルコペニア予防では「提案する」(推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:非常に弱い)、すでにサルコペニアがある高齢者の改善については、試験が乏しいため推奨を保留しています。歩数を記録するなど、続けるための道具として使うのがよいと思います。

薬

学会のガイドラインは、薬について「現時点で承認された薬剤はない。」としています。男性ホルモンに似た働きをもつ薬(SARM)などが研究されていますが、エビデンスレベルは「非常に低」です。「筋肉を増やす薬」をうたう個人輸入品などには手を出さないでください。

11. 🚨 受診・相談の目安

AWGS2019は、サルコペニアを疑うきっかけとして、ふくらはぎやSARC-Fのほかに、いくつかの状態を挙げています。これを受診・相談の目安として整理しました。

かかりつけ医に相談したい状態

① 4章のチェックで、ふくらはぎ・SARC-F・椅子の立ち上がりのどれかが基準に当てはまった

② ダイエットをしていないのに体重が減った

③ 転ぶことが増えた、つまずきやすくなった

④ 歩く、立ち上がる、階段を昇るといった日常の動作が以前よりつらい

⑤ 食欲が落ちた、気分が沈む、物忘れが増えた

⑥ 心不全・COPD・糖尿病・慢性腎臓病などの持病がある

②は特に大切です。意図しない体重減少には、筋肉の衰えだけでなく、ほかの病気が隠れていることがあります。「年のせい」と決めつけずに、一度受診してください。

ご家族のことで相談するときは、チェックの結果をそのまま伝えるのがいちばんです。「ふくらはぎを囲むと隙間ができる」「椅子から5回立つのに15秒かかった」「この1年で2回転んだ」。具体的な数字があると、医師も判断しやすくなります。地域の地域包括支援センターでも、介護予防の運動教室などを紹介してもらえます。

この記事のまとめ

① サルコペニアは筋肉の量と力の両方の低下。筋肉量の低下は25〜30歳ごろから始まります

② 転倒・骨折・フレイルのリスクが高く、病気や手術のときの予後にも関わります

③ 指輪っか・ふくらはぎの周囲長・SARC-F・5回椅子立ち上がりは家でできます

④ 握力の基準は男性28kg未満・女性18kg未満。2019年に男性の基準が上がりました

⑤ 太っていても起こるサルコペニア肥満があります

⑥ いちばん強く勧められているのは筋トレと食事のたんぱく質(体重1kgあたり1日1.0g以上)

⑦ 栄養補充・EMSは「提案」(弱い)。承認された薬はまだありません

12. よくある質問

離れて暮らす親の足が細くなった気がします。何から確かめればいいですか?

ご家族が一緒にできる簡単なチェックがあります。まず、指で輪っかをつくってふくらはぎのいちばん太いところを囲む「指輪っかテスト」です。ガイドラインは、下腿周囲長に注目したこのテストによるスクリーニングを「有用である」としています。輪っかに隙間ができるほど、筋肉が減っている可能性が高くなります。次に、椅子から立ち上がって座る動作を5回くり返す時間を測ります。診断基準のAWGS2019では、12秒以上かかると身体機能の低下とされます。転倒が増えた、意図せず体重が減った、階段がつらくなった、という変化も手がかりです。当てはまるものがあれば、ガイドラインは生活習慣の改善を勧めたうえで、「確定診断のために医療機関や専門病院に紹介することも推奨している。」としています。かかりつけ医に、チェックの結果をそのまま伝えてください。

40代です。まだ気にしなくていいですか?

気にし始めるのに早すぎることはありません。厚生労働省のe-ヘルスネットは「骨格筋量の低下は25~30歳頃から始まり、生涯を通して進行します。」としています。ガイドラインが診断の対象とするのは原則65歳以上ですが、「65歳未満でもサルコペニアの診断は可能である。」とも書かれています。そして40代にとって心強いデータがあります。65歳以上の日本人1,000人を調べた研究で、20〜50歳のころに運動習慣があった人は、年齢・性別・BMIをそろえて比べても、サルコペニアになりにくいという関連がありました(オッズ比0.53)。いまの運動習慣は、20年後の筋肉への備えになる可能性があります。

太っているので、筋肉は足りていると思うのですが。

体重が多いことと、筋肉が足りていることは別の話です。筋肉が減り、同時に脂肪が増えている状態は「サルコペニア肥満」と呼ばれます。ガイドラインは「サルコペニア肥満では脂質異常症となるリスクが高く,また心血管疾患による死亡,総死亡のリスクが高い。」としています。ただし、評価の方法や基準値については「定まっていない」とも書かれていて、まだ研究が続いている分野です。体重計の数字だけで安心せず、握力や椅子からの立ち上がりといった「力」のほうも確かめてみてください。減量するときは、食事を減らすだけでなく、筋トレとたんぱく質を組み合わせることが大切です。

プロテインやHMBのサプリは飲んだほうがいいですか?

まず食事で、体重1kgあたり1日1.0gのたんぱく質がとれているかを確かめてください。ガイドラインは「適切な栄養摂取,特に1日に(適正体重)1kgあたり1.0g以上のタンパク質摂取はサルコペニアの発症予防に有効である可能性があり,推奨する。」としています。一方、サプリなどによる栄養補充については、2025年の国のガイドラインの推奨は「提案する」(弱い推奨)にとどまり、「現時点では結論づけることはできない。」とされています。HMBやロイシンで改善が示された研究がある一方で、たんぱく質やロイシンで改善が認められなかった研究もあり、結果は一定していません。食事で足りない方が補う手段として使うのはよいと思いますが、筋トレとセットで考えてください。腎臓の病気でたんぱく質を控えるよう言われている方は、自己判断で増やさず主治医に相談してください。

お腹や太ももに巻くEMSで、筋肉はつきますか?

国のガイドラインは、EMS(電気的筋刺激)を高齢者のサルコペニア予防として「提案する」としていますが、推奨の強さもエビデンスの確実性も「弱い」です。根拠になったシステマティックレビューは1編だけで、「メタアナリシスの結果、EMSによって有意な筋力増加が認められたが、筋量や身体機能の有意な変化は認められなかった。」とされています。つまり、筋肉の量が増えたとは示されていません。これに対して、筋トレ(レジスタンストレーニング)は推奨の強さ・エビデンスの確実性とも「強い」と評価されています。膝や腰が痛くて体を動かしにくい方が補助として使うことは考えられますが、筋トレの代わりにはなりません。心臓ペースメーカーなどの医療機器を使っている方は、使用前に必ず主治医に確認してください。

参考にした主な資料

凪
なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。本文で紹介した診断基準・推奨・数値は、日本サルコペニア・フレイル学会・国立長寿医療研究センター「サルコペニア診療ガイドライン2017年版 一部改訂」(2020年)と「サルコペニア・フレイルの予防・改善に関するデジタルヘルスのためのガイドライン」(2025年)などにもとづくもので、公開時点の情報です。家庭でのチェックや家庭用機器で測った値は目安であり、診断ではありません。チェックや運動は安全な環境で行い、ふらつき・痛みがある場合は中止してください。心臓・腎臓・関節などに持病のある方、たんぱく質の制限を受けている方、医療機器を体内に使用している方は、運動・サプリメント・EMSを始める前に主治医にご相談ください。意図しない体重減少、転倒の増加、日常動作のつらさがある場合は、医療機関を受診してください。掲載内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。