1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| CTのほうが細かく見えるから、誰でもCTのほうがいい | 重喫煙者以外の低線量CTは推奨グレードI。利益の有無は不明で、不利益が利益を上回る可能性が高い |
| 胸部X線はもう古い | 胸部X線は喫煙に関係なく推奨グレードA(40〜79歳・年1回が望ましい) |
| 見つかるがんは、すべて治療が必要 | CTで見つかる肺がんには、進行が遅く治療の必要性に疑問のあるものがある(過剰診断) |
| 検診を受けていれば、たばこを吸っても大丈夫 | 検診で肺がんになるリスクを減らすことはできない。禁煙が何よりも重要 |
| 痰が出るなら、検診の痰の検査を受ければいい | 痰がある人はがん検診ではなく、速やかに医療機関を受診 |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
たばこを吸わない方の肺がん検診は、胸部X線を年1回が基本です。人間ドックで低線量CTを勧められたら、「死亡を減らす根拠はまだない」「過剰診断などの不利益がある」ことを知ったうえで、自分で選んでください。
2. 2025年度版、4つの推奨
この記事で使う資料は、国立がん研究センター がん対策研究所の「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン 2025年度版」(2025年4月25日、2025年9月12日修正版)です。2006年度版から約20年ぶりの更新で、4つの検診方法を評価しています。
「市区町村の検診」は対策型検診、「人間ドックなど」は任意型検診のことです。
このガイドラインは、国立がん研究センターがん対策研究所による政策提言の位置づけです。5つのがん検診の全体像はがん検診の記事、大腸がん検診は便潜血検査と大腸がん検診で書いています。
子宮頸がん検診は子宮頸がん検診で紹介しています。
3.【核心】吸わない人の低線量CTは、なぜ「I」なのか
ガイドラインは、重喫煙者以外への低線量CTについてこう書いています。
「現時点で、重喫煙者以外に対する低線量CT の死亡率減少効果を示す科学的根拠はなく、国内でRCT が進行中であるが、検診による利益は不明である。一方、重喫煙者と同等あるいはそれ以上の不利益があると考えられ、不利益が利益を上回る可能性が高い。対策型検診としては実施しないことを勧める。任意型検診としては利益と不利益に関する適切な情報を提供し、個人の判断に委ねる。」
理由は大きく3つあります。
| 理由 | ガイドラインの記述 |
|---|---|
| 死亡を減らす根拠がない | 吸わない人・あまり吸わない人を対象にしたランダム化比較試験は、世界で唯一、日本で進行中(JECS研究)で、結果が出るまでには年数を要する |
| 過剰診断が多い可能性 | 国内で見つかるがんの過半数は、置換性増殖を伴った腺がんで、その割合は海外より大きい。そのため過剰診断の割合が高くなる可能性がある |
| 海外の実例 | 「台湾では非喫煙女性に対する低線量CT 検査の普及に伴い、肺がん罹患率は増加したが死亡率は変化しなかった(発見がんの多くが過剰診断)という報告がある。」 |
台湾の例は、40〜50代の吸わない女性にとって特に示唆的です。CTで見つかる「がん」は増えたのに、肺がんで亡くなる人は減らなかった——つまり、見つけなくても命に関わらなかったがんを、たくさん見つけて治療していた可能性があるということです。
それでも、吸わない人の肺がんを軽く見てよいわけではありません。ガイドラインは、日本では非喫煙者の肺がん死亡リスクが欧米より高く、喫煙者と非喫煙者の肺がん死亡リスクは4:1で差が小さい(欧米では非喫煙者は喫煙者の20〜30分の1)として、非喫煙者の肺がん死亡を無視できないと書いています。だからこそ、日本で研究が進められているのです。
そして、現実はガイドラインより先に進んでいます。ガイドラインによると、厚生労働省の調査(令和5年度)で、全国の約14%の市区町村が、国の指針に基づかない形で低線量CTの肺がん検診を行っており、対象や撮影の線量などが統一されておらず「混乱した状態にある」とされています。
4. 吸わない人は、胸部X線を年1回
では、たばこを吸わない人は何を受ければよいのか。ガイドラインの答えは胸部X線検査です。
「胸部X 線検査(推奨グレードA)」……「対策型検診・任意型検診として実施を勧める。対象年齢は40-79 歳、検診間隔は1 年に1 回が望ましい。」
胸部X線は、喫煙状況にかかわらず推奨されています。米国の大規模試験(PLCO)を、胸部X線で見つけられる期間を考えて評価し直すと死亡率を減らす効果が示唆され、国内の研究の結果とも矛盾しないとされました。
ガイドラインは、胸部X線検査を行う側の課題として、二重読影・比較読影(2人の医師が読む、前の年と比べる)と、読影技術の研鑽が必須としています。市区町村の検診では、こうした精度管理のもとで行われています。
5. 重喫煙者は、低線量CT——そして禁煙
ご家族やパートナーが喫煙者という方もいると思います。ガイドラインは重喫煙者を、喫煙指数(1日の平均本数×喫煙年数)が600以上の人と定義しています。禁煙してから15年以内の人も含みます。1日20本を30年なら600です。
重喫煙者に対しては、低線量CTが推奨グレードAで、50〜74歳・年1回が望ましいとされました。複数のランダム化比較試験で死亡率を減らす効果が示され、米国の試験では胸部X線より有意に死亡率が下がったため、重喫煙者には胸部X線より低線量CTのほうが利益が大きいと考えられています。
そして、ガイドラインはこう書いています。
「対象となる重喫煙者は肺がん罹患・死亡の高リスク群であるが、検診受診によって罹患リスクを減らすことはできない。検診を受診すると同時に禁煙し、本検診の対象者から外れるよう努力することが何よりも重要である。」
この章で扱った禁煙を手助けする市販薬です。肺がん検診ガイドライン2025年度版は、重喫煙者について「検診を受診すると同時に禁煙し、本検診の対象者から外れるよう努力することが何よりも重要である。」としています。この市販薬は、ガイドラインに名前の出ている製品ではありません。
※ 当サイトは、記事のなかで根拠を示したうえで推奨したものに限り広告を掲載しています。ここで紹介しているのは、ニコチンを皮膚から補う禁煙補助薬「ニコチネル パッチ20」(第1類医薬品・販売元 佐藤製薬)です。添付文書の効能は「禁煙時のイライラ・集中困難・落ち着かないなどの症状の緩和」で、肺がんの検診や治療の薬ではありません。購入時には薬剤師による確認があります。添付文書では、妊娠中・授乳中の人、3か月以内に心筋梗塞を起こした人、重い狭心症や重い不整脈と診断された人、急性期の脳梗塞・脳出血と診断された人、うつ病と診断されたことのある人などは使用しないこととされています。使い方は、最初の6週間はパッチ20、次の2週間はパッチ10を1日1枚で、連続して8週間を超えて使用しないこととされています。使用中の喫煙はしないでください。持病のある方、治療中の病気がある方は、使う前に医師または薬剤師に相談するか、禁煙外来を利用してください。禁煙しても、禁煙してから15年以内は重喫煙者として低線量CT検診の対象に含まれます。
重喫煙者に対する胸部X線と喀痰細胞診の併用は、推奨グレードD(実施しないことを勧める)になりました。喫煙率の低下で、痰の検査で見つかるタイプの肺がんが激減し、喀痰細胞診で追加的に見つかる肺がんは全国で年間20〜30人程度にとどまる一方、侵襲の大きい気管支鏡の検査が増えるためです。
6. 低線量CTの不利益を、数字で見る
ガイドラインが検討した低線量CTの不利益を、主なものに絞って整理します。
| 不利益 | ガイドラインの記述 |
|---|---|
| 要精密検査 | 研究により幅が大きい。国内研究では最初の検査で5〜12%。米国の初期の研究では20%以上 |
| 放射線被ばく | 低線量でも胸部X線より被ばくは大きい。実効線量の報告は0.65〜2.36mSv(米国の大規模試験の平均は1.5mSv) |
| 過剰診断 | ドイツの試験(LUSI)では、約10年の追跡で過剰診断が個人ベースで25.4%、腺がんに限ると50.0% |
| 精密検査の負担 | 肺がんの確定診断は、気管支鏡やCTを見ながらの針生検、胸腔鏡など侵襲的な検査が多く、ほかの臓器に比べて診断に伴う偶発症が多い |
| そのほか | 精神的な不安、肺がん以外の病変がついでに見つかること(incidental findings)など |
CTですりガラスのような淡い影(すりガラス型結節)が見つかることもあります。ガイドラインは、日本CT検診学会の判定基準(2024年改訂)を紹介し、進行の遅いタイプが推定される結節は、大きさや経過を見たうえで確定診断に進むこと、5年間変わらなければ経過観察の終了が提案されていることを紹介しています。見つかった影の多くは、すぐに手術をするものではないということです。
7.【内科医の視点】人間ドックでCTを勧められたら
内科医として、ここはぜひ知っておいてほしいところです。重喫煙者以外への低線量CTは、人間ドックなど(任意型検診)では「個人の判断に委ねる」とされています。受けてはいけない、という意味ではありません。ただ、判断の材料をもってから選んでほしいのです。
CTを勧められたときに確かめたいこと(ガイドラインの内容から)
・自分は重喫煙者(喫煙指数600以上、禁煙15年以内を含む)に当てはまるか
・吸わない人のCT検診は、死亡を減らす根拠がまだない(推奨グレードI)と理解したか
・過剰診断・被ばく・精密検査の負担について説明を受けたか
・低線量で撮影されるか(ガイドラインは、通常の診療用の線量で検診をしないよう求めている)
・影が見つかったとき、どこで、どう経過を見るか
2006年度版のガイドラインでも、臨床現場の撮影条件を用いた低線量でないCTは、被ばくの面から健常者への検診として用いるべきではないとされていました。2025年度版も、重喫煙者の低線量CTについて診療線量による撮影は行わず、専門的なトレーニングを受けた放射線技師による低線量撮影の遵守が必須としています。
また、ガイドラインは日本の課題として、かかりつけ医の制度(GP制度)がないため重喫煙者を把握して受診を勧める方法の開発が必要としています。逆に言えば、本当にCT検診の利益が大きい人ほど、検診にたどり着いていない可能性があるということです。ご家族に重喫煙者がいる方は、低線量CTの対象になることと、禁煙のことを伝えてあげてください。
8. 痰が続く人は、検診ではなく受診を
喀痰細胞診について、ガイドラインはこう書いています。
「喀痰がある人にとって喀痰細胞診は有用な検査である。しかし、喀痰がある人は有症状者であるため、がん検診ではなく、速やかに医療機関を受診するように勧めるべきである。」
がん検診は、症状のない人が受けるものです。痰が続くなど症状がある方は、検診の時期を待たずに医療機関を受診してください。
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 胸部X線は喫煙に関係なく推奨A(40〜79歳・年1回が望ましい)
② 重喫煙者以外の低線量CTは推奨I。利益は不明で、不利益が上回る可能性が高い
③ 台湾では、吸わない女性へのCT検診で、見つかるがんは増えたが死亡は減らなかった
④ 重喫煙者(喫煙指数600以上)は低線量CTがA。そして禁煙が何より重要
⑤ CTの不利益は過剰診断・被ばく・精密検査の負担
⑥ 痰が続くなど症状があれば、検診ではなく受診
9. よくある質問
たばこを吸わない人も、肺がん検診でCTを受けたほうがいいですか?
国立がん研究センターの「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン 2025年度版」は、重喫煙者以外に対する低線量CTを推奨グレードIとしています。死亡率を減らす科学的根拠はなく、国内でランダム化比較試験が進行中で、利益は不明である一方、不利益が利益を上回る可能性が高いとされています。市区町村の検診では実施しないことを勧め、人間ドックなどでは利益と不利益の説明を受けたうえで個人の判断に委ねるとしています。
肺がん検診は何を受ければいいですか?
ガイドラインは、胸部X線検査を喫煙状況にかかわらず推奨グレードAとし、対象は40〜79歳、間隔は1年に1回が望ましいとしています。重喫煙者(喫煙指数600以上、禁煙して15年以内を含む)には、50〜74歳で年1回の低線量CTが推奨グレードAとされています。
CTのほうがレントゲンより早く見つかるのに、なぜ勧められないのですか?
ガイドラインによると、CTで見つかる肺がんには進行が遅く治療の必要性に疑問のあるものがあり、過剰診断が問題になります。台湾では、たばこを吸わない女性に低線量CTが広まったことで肺がんと診断される人は増えたものの、肺がんで亡くなる人は変わらなかったという報告が紹介されています。被ばくや、侵襲的な精密検査の負担もあります。
重喫煙者とは、どのくらい吸っている人ですか?
ガイドラインは、喫煙指数(1日の平均喫煙本数×喫煙年数)が600以上の人を重喫煙者とし、禁煙してから15年以内の人も含むとしています。重喫煙者には低線量CTが推奨されますが、検診を受けても肺がんになるリスクは減らせないため、検診と同時に禁煙することが何よりも重要だとしています。
痰が出るので、検診で痰の検査を受けたほうがいいですか?
ガイドラインは、痰がある人は症状のある人なので、がん検診ではなく速やかに医療機関を受診するよう勧めています。また、重喫煙者に対する胸部X線と喀痰細胞診の併用は、追加で見つかる肺がんが全国で年間20〜30人程度と少なく、気管支鏡の検査が増える不利益があるため、推奨グレードD(実施しないことを勧める)とされました。
参考にした主な資料
- 国立がん研究センター がん対策研究所「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン 2025年度版」(2025年4月25日、2025年9月12日修正版)
- 国立がん研究センター がん対策研究所「がん検診ガイドライン 肺がん」(2006年度版の推奨を含む)