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検査と数値

便潜血検査と大腸がん検診
——推奨は「A」。陽性なら、もう一度の便検査ではなく大腸内視鏡へ

健診の便潜血検査で「陽性」と書かれていた。でも痔があるし、もう一度便の検査をして陰性なら大丈夫——そう考えていませんか。
国立がん研究センターの「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン 2024年度版」は、便潜血検査(免疫法)を推奨グレードAとしました。そのうえで、「検診陽性者が確実に精密検査(全大腸内視鏡検査)を受ける体制を作ることが必須である。」と書いています。
日本の大腸がん検診の課題として、ガイドラインは検診の受診率と、精密検査の受診率の低さを挙げています。
対象年齢や間隔、陽性になったときのこと、内視鏡の不利益まで、内科医の目で整理します。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年10月18日 読了:約10分

1. 先に結論

よくある思い込み資料の記述
便の検査では、たいしたことは分からない便潜血検査(免疫法)は推奨グレードA。死亡率を減らす効果が期待できる
陽性なら、もう一度便の検査をすればいい検診陽性者が確実に精密検査(全大腸内視鏡検査)を受けることが必須
最初から内視鏡を受けたほうが確実全大腸内視鏡による検診は推奨グレードC。対策型検診では実施しないことを推奨
毎年受けなければ意味がない間隔を1年から2年にすることも可能
陰性だったから、しばらく安心検査と検査の間にがんが見つかること(中間期がん)もある。症状が出たら検診を待たずに受診

この記事でいちばんお伝えしたいこと。

40歳を過ぎたら、便潜血検査を定期的に受ける。そして陽性になったら、必ず大腸内視鏡の精密検査を受ける。この2つがそろって、はじめて大腸がん検診は意味を持ちます。

2. 2024年度版ガイドラインの結論

この記事で使う資料は、国立がん研究センター がん対策研究所の「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン 2024年度版」(2023年1月初版、2024年7月修正版)です。2005年版からの更新で、日本で行われている便潜血検査(免疫法)と全大腸内視鏡検査について、大腸がんで亡くなる人を減らす効果と、不利益を検討しています。

検査推奨グレードガイドラインの評価
便潜血検査(免疫法)A死亡率減少効果が期待でき、証拠の信頼性は中等度以上。不利益は中等度で、利益が不利益を上回る。市区町村の検診(対策型検診)でも、人間ドックなど(任意型検診)でも実施を推奨
全大腸内視鏡検査C死亡率減少効果を示す科学的根拠はあるが、証拠の信頼性は低い。対策型検診では実施しないことを推奨。任意型検診では、利益と不利益の情報を共有して本人の判断を支援する

なお、このガイドラインは「国立がん研究センターがん対策研究所による政策提言であり、厚生労働省の見解や政策を示すものではない。」と書かれています。5つのがん検診の全体像はがん検診の記事で書いていますが、そこで紹介したとおり、女性のがんの死亡数で最も多いのは大腸がんです。

同じ国立がん研究センターの肺がん検診ガイドライン(2025年度版)は肺がん検診で紹介しています。

3. 何歳から、何年ごと、何回とる?

2024年度版では、便潜血検査の対象年齢・間隔・採便回数が新たに示されました。

「検診対象は40-74 歳を推奨するが、45 歳または50 歳開始も許容しうる。検診間隔を1 年から2 年にすることも可能である。採便回数も1 回法でも2 回法でも可能である。」

ガイドラインの考え方
開始年齢40歳を推奨。委員会では40・45・50歳が議論され、40歳開始は若い世代の大腸がんを早く見つけて死亡を防ぐ利益を重視した意見だった。45・50歳開始も許容
終了年齢74歳が望ましい。精密検査の内視鏡では、年齢が上がると重い偶発症が増えるという報告がある
間隔1年から2年にすることも可能。続けて受けると、累積で陽性になる人(要精密検査)が増えるため
採便回数1回法でも2回法でも可能

お住まいの市区町村の検診がどの方法かは、自治体の案内で確認してください。間隔や採便回数を変えるかどうかは、検診を行う側(自治体など)が決めることです。

4.【核心】陽性になったら、全大腸内視鏡へ

この記事でいちばん伝えたいのが、ここです。ガイドラインは、便潜血検査を推奨するうえで、こう念を押しています。

「検診陽性者が確実に精密検査(全大腸内視鏡検査)を受ける体制を作ることが必須である。」

便潜血検査から、精密検査までの流れ 陽性になったら、もう一度の便検査ではなく全大腸内視鏡へ 便潜血検査(免疫法) 40〜74歳・1〜2年ごと 陰性 次の検診も受け続ける 検診の間に症状が出たら 検診を待たずに受診 陽性(要精密検査) 必ず精密検査を受ける 精密検査=全大腸内視鏡検査 もう一度の便検査は代わりにならない 前がん病変(腺腫)や大腸がんを 見つけて治療につなげる 陽性の割合は研究により さまざま(中央値5.5%など) 出典:有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン 2024年度版(国立がん研究センター)をもとに作図

陽性率5.5%は、化学法と免疫法を直接比べた試験をまとめたときの、免疫法の陽性率の中央値(範囲3.4〜12.7%)です。

大腸がん検診は、便潜血検査で「精密検査が必要な人」を選び、その人が全大腸内視鏡を受けて、はじめて病変が見つかるしくみです。陽性になったのに精密検査を受けなければ、検診を受けた意味の大半が失われてしまいます。

ガイドラインは、日本の大腸がんの死亡率がほかの先進国に比べてはっきり下がっていない理由として、こう書いています。

「大腸がん検診受診率が低いことに加えて、精密検査としての内視鏡検査の受診率が低いことも要因として考えられる。そこで、日本における大腸がん検診の最優先課題として、検診受診率・精検受診率向上に早急に取り組む必要がある。」

「痔があるから、その出血だろう」と自己判断して精密検査を受けない方もいます。痔の記事でも、便潜血が陽性のときは大腸の病変を見分ける必要があることを紹介しました。痔があっても、陽性なら精密検査を受けてください。

5. 内視鏡で検診をすればいいのでは?——推奨はC

「どうせ陽性なら内視鏡なのだから、最初から内視鏡で調べたほうが確実では」という疑問もあると思います。ガイドラインの答えは推奨グレードCでした。

観察研究では死亡率を減らす効果が示されているものの、診療(症状があって受ける検査)と検診の区別が明確でなく、確実な証拠が得られなかったこと、全大腸内視鏡が便潜血検査などの成績を上回るという確定的な証拠も得られなかったことが理由です。いま国内外で全大腸内視鏡の効果を確かめるランダム化比較試験が進んでいて、結果が出たら再評価するとしています。

人間ドックなどで内視鏡を受ける場合について、ガイドラインはこうも書いています。

「初回全大腸内視鏡検査で腫瘍性病変を認めない場合、その後も頻回に検査を継続すると利益は小さく不利益は大きくなるため、頻繁な検査を控えるべきである。」

6. 知っておきたい不利益

がん検診には、利益だけでなく不利益もあります。ガイドラインが挙げているものを整理します。

不利益ガイドラインの記述
偽陽性・累積の陽性1回の陽性率は低くても、続けて受けると累積の陽性率は高くなる。10年間のモデル推計(化学法)では、毎年の検診で23.0%、2年ごとで10.4%
過剰診断命に関わらないがんを見つけてしまうこと。化学法のデータからの推計で2.0〜9%
内視鏡の偶発症便潜血陽性者の全大腸内視鏡で、穿孔0.13%、出血0.3%、死亡0.01%(統合解析)
前処置(下剤)の偶発症腸管洗浄剤の内服は負担の大きい処置。国内の報告では腸閉塞・虚血性腸炎・低ナトリウム血症など。高齢者に多い傾向
精神的負担検査やがんへの不安

前処置の偶発症について、ガイドラインは国内で集められた78例を紹介し、併存症には高血圧、おなかや骨盤の手術後、心臓の病気が多かったとしています。精密検査を受けるときは、持病や手術歴を必ず伝えてください。

不利益があるからといって、検診を受けないほうがよいという意味ではありません。ガイドラインは、便潜血検査について「利益が不利益を上回る」と判断したうえで、利益と不利益の情報を医療者と受ける人が共有し、本人の判断を支える仕組みが必要だとしています。

7.【内科医の視点】症状がある人は、検診ではなく受診を

内科医として、ここはぜひ知っておいてほしいところです。ガイドラインは、がん検診の対象を無症状の健常者としています。つまり、症状がある人が受けるものではありません。

痔の記事で紹介した肛門疾患のガイドラインは、暗い赤色の出血、粘液のまじった血、貧血、持続する出血があれば、大腸の病変を見分ける検査が必要としています。こうした症状があるなら、検診の時期を待たずに医療機関を受診してください。そのときに受ける大腸内視鏡は「検診」ではなく「診療」です。また、ガイドラインは、陰性だったあとの検査と検査の間にがんが見つかる中間期がんについても検討しています。陰性は「安心のお墨付き」ではないので、症状が出たら受診してください。

便秘や下痢、おなかの張りが続いている方は、便秘の記事や過敏性腸症候群の記事も参考にしてください。腸内細菌については腸内細菌の記事で書いています。ただし、こうした不調があること自体が、精密検査や受診の代わりにはならない点は覚えておいてください。

8. 郵送の便潜血検査について

ガイドラインは補足として、便潜血検査の郵送法も検討しています。郵送法の利点として受診率の向上が指摘されており、英国などではすでに検診プログラムに取り入れられ、受診率対策として有望なツールとなりうるとしています。

ただし、どの方法で受けても大切なのは同じです。陽性なら、全大腸内視鏡の精密検査を受けること。郵送で受けた場合も、結果の通知と、その後の精密検査の案内を必ず確認してください。

9. 🚨 受診したほうがよいとき

医療機関で相談・受診したいとき(資料の記述から)

・便潜血検査で陽性(要精密検査)と言われた → 全大腸内視鏡の精密検査を受ける

・痔があっても、便潜血が陽性だった(自己判断で済ませない)

・暗い赤色の出血、粘液のまじった血、貧血、持続する出血など症状がある(検診ではなく受診)

・精密検査を受ける前に、高血圧、おなかや骨盤の手術歴、心臓の病気などがある(前処置について医師に相談)

最後に、この記事の要点をもう一度。

① 便潜血検査(免疫法)は推奨グレードA。全大腸内視鏡による検診はC

② 対象は40〜74歳を推奨。間隔は1〜2年、採便は1回でも2回でも可能

③ 陽性なら全大腸内視鏡の精密検査が必須。もう一度の便検査は代わりにならない

④ 日本の課題は検診と精密検査の受診率の低さ

⑤ 不利益(累積の陽性、内視鏡や前処置の偶発症)も知ったうえで受ける

⑥ 症状がある人は、検診ではなく受診

10. よくある質問

便潜血検査は何歳から、何年ごとに受ければいいですか?

国立がん研究センターの「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン 2024年度版」は、便潜血検査(免疫法)の対象を40〜74歳と推奨し、45歳または50歳開始も許容しうるとしています。検診間隔は1年から2年にすることも可能、採便回数は1回法でも2回法でも可能とされています。お住まいの市区町村の検診の方法は、自治体の案内で確認してください。

便潜血検査で陽性でした。もう一度便の検査をすればいいですか?

ガイドラインは、検診陽性者が確実に精密検査(全大腸内視鏡検査)を受ける体制を作ることが必須としています。精密検査は全大腸内視鏡検査で、もう一度便潜血検査を受けることは代わりになりません。日本では精密検査の受診率が低いことが、大腸がんの死亡率がはっきり下がらない要因の一つと考えられています。

最初から大腸内視鏡で検診を受けたほうがいいですか?

ガイドラインは、全大腸内視鏡による検診を推奨グレードCとしています。死亡率を減らす効果を示す根拠はあるものの証拠の信頼性は低く、市区町村などの対策型検診では実施しないことを推奨しています。人間ドックなどで受ける場合は、利益と不利益の情報を共有して本人が判断することとされ、初回の内視鏡で腫瘍性の病変がなければ、頻繁な検査は控えるべきとしています。

大腸内視鏡検査に危険はありますか?

ガイドラインによると、便潜血陽性者の全大腸内視鏡の偶発症は、統合解析で穿孔0.13%、出血0.3%、死亡0.01%でした。また、検査前に腸をきれいにする下剤(腸管洗浄剤)の内服でも、腸閉塞などの偶発症が報告されていて、高齢者に多い傾向があるとされています。持病や手術歴は必ず医師に伝えてください。

痔があるので、便潜血が陽性でも心配ないですか?

痔があっても、便潜血検査で陽性になった場合は、全大腸内視鏡の精密検査を受けてください。大腸がん検診ガイドラインは、検診陽性者が確実に精密検査を受けることを必須としています。出血の原因が痔なのか大腸の病変なのかは、自分では区別できません。

参考にした主な資料

凪
なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。本文で紹介した推奨と数値は、国立がん研究センター がん対策研究所の「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン 2024年度版」にもとづくもので、公開時点の情報です。このガイドラインは政策提言であり、厚生労働省の見解や政策を示すものではありません。お住まいの市区町村の検診の方法は、自治体の案内を確認してください。便潜血検査で陽性になった場合や、便に血が混じるなどの症状がある場合は医療機関を受診してください。掲載内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。