1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| 大きく転ばなければ折れない | 骨粗鬆症があると、ちょっと脚をひねったぐらいでも起こる。屋内の軽い転倒や、突然脚を動かしただけで起こる例もある |
| 折れたらすぐ分かる | 数日前から脚の付け根を痛がっていて、あるとき急に立てなくなることがよくある。認知症などで分かりにくいことも |
| 高齢だから、安静にして様子を見る | 安静の間に認知症や筋力の衰えが進み、寝たきりになることがある。そのため手術を考えることが増えている |
| 骨粗鬆症は自覚症状が出てから | 女性は正常でも更年期以後、年に1%ずつカルシウム量が減るといわれ、ふだんから検診などでチェックすることが大切 |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
高齢の方が転んだあとに立てなくなったら、まずこの骨折を考えて受診してください。予防の柱は、骨粗鬆症の治療と、転びにくい環境を整えることの2つです。骨折したあとは、もう一度歩けるようになることが、その後の生活と命にも関わります。
2. どんな骨折か——曲がった部分に力が集まる
日本整形外科学会によると、太ももの骨(大腿骨)は、股関節からすぐのところ(大腿骨頸部)で曲がっています。この曲がったところは、転倒や転落のときに力が集中しやすく、骨折しやすいのです。
- 股関節部(脚の付け根)が痛み、ほとんどの場合、立つことや歩くことができなくなる
- 骨粗鬆症で骨がもろくなった高齢者に多く、国内では年間10数万人がけがをしている(日本整形外科学会)。理学療法ガイドラインでは年間約15万例(2007年)で、年々増えていると推測されている
- 理学療法ガイドラインは、大腿骨の付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)を頸部骨折と転子部骨折に分けている
3.【核心】なぜ高齢の女性に多いのか
理学療法ガイドライン第2版は、次のように説明しています。
「大腿骨近位部は加齢に伴って,特に女性で脆弱となる部位である.ゆえに高齢な女性に多く,屋内での軽微な転倒でも発生しやすい.」(理学療法ガイドライン第2版 第11章 大腿骨近位部骨折 疾患総論)
- 年齢が進むほど起こりやすく、60歳以上の男女で著しく増える
- 60歳以上の男女の発生率の比は約1:2で、女性に多い
- 男性では頸部骨折、女性では転子部骨折が多い
- はっきりした外力(転倒や事故)がなくても、日常動作の中で突然脚を動かしただけで骨折する例もある
日本整形外科学会も、女性の場合は正常でも更年期以後、年率で1%ずつカルシウム量が減るといわれているとしています。閉経と骨の関係は骨粗鬆症の記事でも書いています。
4. 見逃したくないサイン
日本整形外科学会によると、関節の中で折れるタイプでは、こんな経過がよくあります。
「よくあるのは高齢者が何日か前から足の付け根を痛がっていたが、或る時急に立てなくなったというエピソードです。」(日本整形外科学会「大腿骨頸部骨折」)
- 立てなくなったときに、骨折した部分で「ずれ」が生じたと考えられる
- 認知症などのためにはっきり分からないこともある。高齢者が転んだあとに立てなくなったら、第一にこの骨折を考えて、痛む場所を確認しX線検査を行う
- ひび(亀裂骨折)でX線では分かりにくい場合は、MRIで診断できる
- 骨盤のひびと間違えられることがあるが、骨盤のひびでは多くの場合、何とか歩くことができる
5. 関節の中の骨折と、外の骨折
日本整形外科学会は、病態が大きく違うため、関節の中で折れる場合と、もう少し膝側の関節の外で折れる場合を分けて考えるとしています。
関節の中の骨折では、血流障害で後から骨がつぶれる「骨頭壊死」にも注意が必要です。
6. 治療——手術を考えることが増えている理由
日本整形外科学会によると、骨折が起きてしまった場合、安静にしている間に認知症や、動けないうちに運動機能が落ちる廃用萎縮が進み、寝たきりになってしまうことがあります。そのため、何らかの手術療法を考えることが増えています。
関節の中の骨折の場合は、骨頭壊死(血流障害で後から骨がつぶれてしまう合併症)にも注意が必要です。
理学療法ガイドラインは、高齢の患者さんはもともと体や心の機能が落ちていて、けがの前から病気を持っている方が多いため合併症が起こりやすく、骨折だけでなく全身状態の管理が重要だとしています。
7. リハビリ——歩けるようになることが大事
理学療法ガイドラインによると、大腿骨の付け根の骨折では、もう一度歩けるようになること(歩行の再獲得)が、その後の生命予後と関連します。
| ガイドラインの問い | 答え |
|---|---|
| 何を評価するか | 歩く力、脚の筋力(けがをしていない側も含めて)、バランス。再び転ぶのを防ぐため、バランスの評価も勧められる |
| リハビリの妨げになるもの | 痛み、精神機能(もともとの認知機能の低下、術後のせん妄、環境の変化)、全身状態 |
| 回復を左右するもの | 精神機能では認知機能の低下が圧倒的に強い影響力をもつ。環境では、退院後に同居する人がいるかどうかなどが影響する可能性がある |
| 手術後早くから体重をかけて動くと良いか | 有効な可能性はあるが、文献が少なく推奨には至らない |
| リハビリの回数を増やすと良いか | 機能や歩く力の改善に寄与する可能性もあるが、文献が少なく判断が困難 |
ガイドラインは、骨折が治って体の機能が良くなればよいというだけではなく、退院先や退院後の生活の見通し、キーパーソン(支える家族など)の確保なども把握する必要がある、対応の難しい病気だとしています。
8. 予防——骨を強くし、転びにくくする
日本整形外科学会は、予防は次の2点だとしています。
- 折れにくい骨を作る:骨粗鬆症の治療。治療は食べ物、薬、運動
- 転倒しにくい環境を整える
そして、とくに女性は正常でも更年期以後に年率1%ずつカルシウム量が減るといわれているため、ふだんから検診などでチェックすることが大切だとしています。骨密度の検査については骨密度の記事、転倒と筋力の衰えについてはフレイルの記事で書いています。
9. 受診したいとき
資料にあるもの
・高齢の方が転んだあとに立てなくなった(第一にこの骨折を考える)
・何日か前から脚の付け根を痛がっている(急に立てなくなることがある)
・更年期以後で、骨の状態を確かめたことがない(検診などでチェック)
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 大腿骨の付け根の骨折は年間約15万例。60歳以上では女性が男性の約2倍
② 骨粗鬆症があると、ちょっと脚をひねったぐらいでも折れる
③ 数日前から付け根を痛がり、急に立てなくなるのが典型的なサイン
④ 安静中の寝たきりを防ぐため、手術を考えることが増えている。もう一度歩けるかが予後を左右する
⑤ 予防は骨粗鬆症の治療と転びにくい環境。女性は更年期以後に検診でチェック
10. よくある質問
大腿骨頸部骨折とは、どんな骨折ですか?
日本整形外科学会によると、太ももの骨は股関節からすぐのところ(大腿骨頸部)で曲がっていて、転倒や転落のときに力が集中しやすく、骨折しやすい場所です。脚の付け根が痛み、ほとんどの場合、立つことや歩くことができなくなります。骨粗鬆症で骨がもろくなった高齢者に多い骨折です。
なぜ女性に多いのですか?
理学療法ガイドライン第2版によると、大腿骨の付け根は加齢に伴って、とくに女性でもろくなる部位で、60歳以上の男女の発生率の比は約1:2と女性に多いとされています。日本整形外科学会も、女性は正常でも更年期以後に年率1%ずつカルシウム量が減るといわれているとしています。
転んでいなくても骨折することはありますか?
あります。日本整形外科学会によると、関節の中で折れるタイプは、骨粗鬆症があればちょっと脚をひねったぐらいでも起こります。理学療法ガイドラインも、明らかな外力がなくても、日常動作の中で突然脚を動かしただけで骨折する例があるとしています。
どんなときに、この骨折を疑えばいいですか?
日本整形外科学会は、高齢者が転んだあとに立てなくなったら、第一にこの骨折を考えるとしています。何日か前から脚の付け根を痛がっていて、あるとき急に立てなくなったという経過もよくあります。X線で分かりにくいひびはMRIで診断できます。
高齢でも手術をするのですか?
日本整形外科学会によると、骨折後の安静期間中に認知症や、動けないうちに運動機能が落ちる廃用萎縮が進んで寝たきりになることがあるため、何らかの手術療法を考えることが増えています。理学療法ガイドラインは、もう一度歩けるようになることがその後の生命予後と関連するとしています。
予防するにはどうすればいいですか?
日本整形外科学会は、予防は、骨粗鬆症の治療(食べ物、薬、運動)で折れにくい骨を作ることと、転倒しにくい環境を整えることの2点だとしています。とくに女性は、ふだんから検診などで骨の状態をチェックすることが大切です。
参考にした主な資料
- 日本整形外科学会「大腿骨頸部骨折」
- 日本理学療法学会連合「理学療法ガイドライン第2版 第11章 股関節機能障害」(大腿骨近位部骨折)