1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| 水ぶくれの病気だから、看病するとうつる | 感染症のように他人にうつることはない。看病して自分が天疱瘡になることはない |
| 家族から遺伝する | 遺伝しない。家族内に発症した報告はあるが、きわめてまれ |
| 皮膚の病気だから、塗り薬で済む | 自己抗体を作る細胞は全身にあるので、全身の治療が必要。もっとも中心なのはステロイドの飲み薬で、軽症を除いて入院して治療する |
| 調子がよければ、薬をやめてもよい | 急に飲むのをやめるとショック状態になることがある。決して自己判断でやめたり変えたりしない |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
学会は、皮膚のただれや、歯ぐき・頬の内側などのただれが1週間以上続くようなら天疱瘡を疑うとしています。見た目だけでは簡単に診断できず、血液検査と生検が必要なので、疑わしい症状があったら皮膚科専門医を受診することが大切です。
2. 天疱瘡とは——細胞どうしの接着が壊れる
日本皮膚科学会の皮膚科Q&Aによると、天疱瘡は次のようにして起こります。
- 免疫は通常、外から来るウイルスや細菌などを排除するために働いている。それが間違って自分を攻撃してしまうのが自己免疫疾患
- 天疱瘡では、皮膚や口の中、食道などの粘膜にある、接着をつかさどる蛋白デスモグレインに対する自己抗体(IgG)ができる
- 自己抗体がデスモグレインの接着する働きを邪魔するので、表皮の細胞どうしがばらばらになり、表皮の中に水ぶくれができる。水ぶくれは簡単に破れて、ただれ(びらん)になる
3. 2つの病型——尋常性と落葉状
学会によると、天疱瘡と診断された患者さんの大体10人に6人が尋常性天疱瘡、3人が落葉状天疱瘡で、残りの1人はそれ以外のまれな型です。
| 尋常性天疱瘡 | 落葉状天疱瘡 | |
|---|---|---|
| 自己抗体の標的 | デスモグレイン3(主に粘膜にあり、少しだけ皮膚にもある) | デスモグレイン1(主に皮膚にある) |
| 口の中 | かならずただれが見られる。しみて飲食がしにくくなり、重症では飲み物もとれなくなることがある | できることはない |
| 皮膚 | 半分くらいの患者さんで、水ぶくれ・ただれがある。体のどこにでもできる | 皮膚だけに水ぶくれ・ただれができる。水ぶくれが少し浅いところにできるのですぐ破れ、水ぶくれを見ることがまれなこともある |
出典:日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「天疱瘡」Q2〜Q4をもとに整理。
尋常性天疱瘡を治療せずに放置すると、体の広い範囲にただれができることがあり、二次感染や体液が漏れ出ることで重い症状が起こります。
4.【核心】どんなときに疑うか
学会は、次のような場合に天疱瘡を疑うとしています。
| 資料の記述 | |
|---|---|
| 皮膚 | 皮膚の表面がはがれ、ただれが広い範囲に広がって、1週間以上も長く続く。ただれが広がると、表面に何かが触れるだけでも痛む。皮疹はかゆくない。一見正常なところを強くこすると、水ぶくれになることもある(ニコルスキー徴候) |
| 口の中 | 歯ぐき、頬の内側、口蓋などに、固いものを食べたあとなどにただれができ、1週間以上もなかなかよくなる様子がない |
出典:日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「天疱瘡」Q5をもとに整理。
口内炎全般の受診の目安は口とのどの不調の記事で書いています。
5. 診断——3つが揃って確定する
学会によると、天疱瘡は次の3つが揃って診断されます。
- 目で見える症状:皮膚や粘膜の水ぶくれ・ただれ
- 顕微鏡で見える所見:局所麻酔をして皮膚や粘膜の一部を切り取り(生検)、表皮の中に水ぶくれができていることを確かめる
- 自己抗体があることの証明:表皮の細胞の表面にIgG自己抗体がついていることを確かめる(直接蛍光抗体法)。血液検査でも、抗デスモグレイン抗体を調べる
確定診断には組織の検査が欠かせません。学会は、治療を始める前に正しく診断をつけることが大切だとしています。
6. 治療と経過
学会によると、自己抗体を作るB細胞は、骨髄、脾臓、リンパ節など全身にあります。そのため治療には、自己免疫反応を抑える全身の治療が必要で、治療は皮膚科専門医が行うべきものとされています。初期治療が不十分だと、のちに再発することがあります。
| 資料の記述 | |
|---|---|
| ステロイドの飲み薬 | もっとも一般的な第一選択薬で、多くの患者さんに必要。副作用として、肥満、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、高脂血症などに注意する |
| 免疫抑制剤 | ステロイドだけでは不十分な場合や、ステロイドを減らせない場合に加える(アザチオプリン、シクロスポリン、シクロフォスファミドなど) |
| 速効性が期待できる治療 | 大量γグロブリン療法、血漿交換療法、ステロイドパルス療法。ステロイドの飲み薬とうまく組み合わせる |
| 入院 | 重症・中等症では必要。治療を始めた時期の副作用に迅速に対応でき、結核や肝炎ウイルスなどの感染症、胃潰瘍、高血圧、糖尿病の合併も含めたケアができる |
出典:日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「天疱瘡」Q7〜Q10をもとに整理。薬の量は主治医の判断によります。
経過について、学会は重症であっても、適切な治療をすることで、1年以内に8割以上の多くの患者さんが、水ぶくれやただれのない寛解状態になるとしています。ステロイドは徐々に減らしていき、少ない量で寛解を保てるように治療を続けます。
7. 抗体価の意味
学会によると、抗デスモグレイン抗体は保険診療で測ることができ、その量(抗体価)は次のように役立ちます。
- 抗体の有無は診断に役立ち、抗体価はその後の病気の勢いの評価にも役立つ
- 水ぶくれやただれが消えたあとは、ステロイドを減らす計画を考えるよい指標になる。抗体価が下がってくれば、安心して減らせる
- ただし、別の人と比べて抗体価が高いからといって、かならずしもその人のほうが重症とは限らない
8. 日常生活の注意
| 資料の記述 | |
|---|---|
| 服 | 皮膚に水ぶくれやただれがあるときは、柔らかい素材の、脱ぎ着しやすい服を着る |
| 食事・口のケア | 固いものを塊で食べると、口の中や食道にただれができやすくなるので、できるだけ細かくきざんでから食べる。歯磨きも注意深く優しく行う |
| ステロイド | 決まった量を毎日忘れずに飲む。急にやめるとショック状態になることがあり大変危険なので、決して自己判断でやめたり変えたりしない |
| 生活 | 早寝早起きなど生活リズムを整える。退院後は散歩など適度な運動も大切。人混みでは、インフルエンザなどの感染症がうつらないようにマスクを着ける |
出典:日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「天疱瘡」Q14をもとに整理。
9. 医療費の助成
学会によると、天疱瘡は医療費の助成を受けることができます。病気ごとに認定基準があり、主治医の診断にもとづいて都道府県に申請します。申請については最寄りの保健所に相談でき、詳しくは難病情報センターのホームページで確認できます。
なお、資料のこの項目は「特定疾患」という表現で書かれていて、対象の疾患数なども当時のものと考えられます。最新の制度は難病情報センターや保健所で確認してください。
10. 類天疱瘡との違い
学会によると、天疱瘡と類天疱瘡は、どちらも水ぶくれ・ただれができる自己免疫の病気ですが、異なる病気です。類天疱瘡は、表皮と真皮の間にある基底膜の蛋白に対する自己抗体が原因で起こり、高齢の方に発症する傾向があります。基本的な治療法は同じですが、薬の量などは症例によって異なるので、正しく診断を受けることが大切です(類天疱瘡の記事)。
受診したいとき(資料にあるもの)
・皮膚の表面がはがれ、ただれが広がって1週間以上続く
・歯ぐき、頬の内側、口蓋などのただれが、1週間以上よくならない
・口の中がしみて、飲んだり食べたりしにくい
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 天疱瘡は、デスモグレインに対する自己抗体で水ぶくれ・ただれができる病気。うつらず、遺伝もしない
② 尋常性はかならず口の中にただれが出る。落葉状は皮膚だけ
③ ただれが1週間以上続くなら皮膚科専門医へ。診断には血液検査と生検が必要
④ 治療の中心はステロイドの飲み薬。重症でも1年以内に8割以上が寛解
⑤ 薬を自己判断でやめない。食べ物は細かくきざみ、歯磨きは優しく
11. よくある質問
天疱瘡とはどんな病気ですか?
日本皮膚科学会によると、免疫が自分自身を攻撃してしまう自己免疫疾患のひとつで、皮膚や口の中の粘膜などに水ぶくれ・ただれができる病気です。細胞どうしの接着をつかさどる蛋白デスモグレインに対する自己抗体ができることで起こります。
どんな症状があれば疑いますか?
学会によると、皮膚の表面がはがれてただれが広がり1週間以上続く場合や、歯ぐき、頬の内側、口蓋などのただれが1週間以上よくならない場合に疑います。皮疹はかゆくありません。疑わしい症状があれば、皮膚科専門医の受診が大切です。
他人にうつりますか?遺伝しますか?
学会によると、感染症のように他人にうつることはなく、看病して自分が天疱瘡になることもありません。遺伝もしません。家族内に発症した報告はありますが、きわめてまれです。
どんな治療をしますか?
学会によると、自己免疫反応を抑える全身の治療が必要で、もっとも中心になるのがステロイドの飲み薬です。ほかに免疫抑制剤、血漿交換療法、大量γグロブリン療法などがあります。軽症を除いて、入院して治療することが必要です。
症状は落ち着きますか?
学会によると、重症であっても、適切な治療をすることで、1年以内に8割以上の多くの患者さんが、水ぶくれやただれのない寛解状態になります。ステロイドは徐々に減らし、少ない量で寛解を保てるように治療を続けます。
日常生活で気をつけることはありますか?
学会によると、柔らかい素材の脱ぎ着しやすい服を着る、食べ物はできるだけ細かくきざむ、歯磨きは優しく行うことなどが挙げられています。ステロイドを急にやめるとショック状態になることがあるので、決して自己判断でやめたり変えたりしないでください。
参考にした主な資料
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「天疱瘡」(Q1〜Q17)