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MEDICALLY REVIEWED BEAUTY & HEALTH

シミ・イボのレーザー治療
——同じ茶色でも、正解が正反対になることがあります

5学会が合同でつくった『美容医療診療指針』の第1章は、シミ・イボにあてられています。4つの問いのうち2つが推奨度1(強く推奨する)2つが推奨度2
分かれ目は、はっきりしています。肝斑にはレーザーの前に「遮光と美白剤」。ところがADM(後天性真皮メラノサイトーシス)には「美白剤やケミカルピーリングが無効で、レーザーによる治療が必須」
どちらも頬にできる、左右対称の茶色い変化です。そして——ADMの患者さんの24%に、肝斑が合併していました。
ホクロ・イボについては、こう書かれています。「鑑別ができない場合は、レーザー治療を安易に行ってはいけない」。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年9月3日 読了:約18分

1. 先に結論

よくある思い込み『美容医療診療指針』の記述
シミはレーザーで消せる種類によって正解が正反対になります。肝斑は推奨度2、ADMは推奨度1
肝斑もレーザーで治療する「遮光、美白剤外用や内服などの保存的治療を行って、十分な効果の得られない場合に」
美白ケアをすればどれも薄くなるADMは「美白剤やケミカルピーリングが無効」。真皮に色素細胞があるためです
見分けはつくはずADM患者1,268人の24.0%に肝斑が合併し、レーザーで悪化したと報告されています
レーザーは薄くするだけADMでは脱色素斑50%・色素沈着12.5%。肝斑でも脱色素斑の報告があります
ホクロは気軽に取れる「鑑別ができない場合は、レーザー治療を安易に行ってはいけない」
取れば終わり蒸散では紅斑・ビランが必発取り残しによる再発もよくある合併症です
海外のデータどおりになる「特に東洋人ではエビデンスとして用いられている論文よりも頻度が高くなる可能性がある」

この記事でいちばんお伝えしたいこと。

シミの治療でいちばん大事なのは、機械選びでも価格でもなく——それが何であるかを先に確かめることです。

指針は、ADMについて「臨床的に肝斑と鑑別して正しく診断することが最も重要」と書き、ホクロ・イボについて「鑑別ができない場合は、レーザー治療を安易に行ってはいけない」と書いています。

どちらも治療法ではなく、診断についての記述です。そこがこの章の芯だと思います。

なお、シミそのものの見分け方(日光黒子と肝斑の違い、悪性を疑うサイン)についてはシミと肝斑——「消えるシミ」と「消えないシミ」の見分け方に書きました。この記事は、その先の「では治療はどうなるのか」を扱います。

2. 【一覧】4つの問いを、推奨度で並べる

まず全体を一枚にします。指針の推奨度は独自の3段階で、1は「得られる利益が害や負担を明らかに上回る(あるいは下回る)」、2は「利益の大きさは不確実である、または害や負担と拮抗している」という定義です。

シミ・イボ:4つの問いと、その推奨度 対象 推奨度 根拠論文(A/B/C) 日光黒子(老人性色素斑) CQ1-1-1 / レーザー・IPL 1 | 強く推奨する A 11 / B 5 / C 5 ADM(後天性真皮メラノサイトーシス) CQ1-2 / レーザー 1 | 強く推奨する A 3 / B 8 / C 7 肝斑 CQ1-1-2 / レーザー・IPL 2 | 条件によっては弱く提案 A 3 / B 2 / C 9 ホクロ・イボ(顔面・頚部の良性小腫瘍) CQ1-3 / レーザーによる蒸散 2 | 弱く推奨する 委員10名:1が7名・2が3名 A=無作為化臨床試験/B=非無作為化・観察コホート/C=専門家の意見(非臨床試験は含みません) 日光黒子はA が11本と章内で最多。肝斑はA 3本に対しC が9本でした。 出典:美容医療診療指針(令和3年度改訂版)第1章「シミ・イボ」CQ1-1-1〜CQ1-3

推奨度1が2つ、推奨度2が2つ。分かれ目は「何であるか」です。

ここで注目したいのが、ホクロ・イボの推奨度の決まり方です。指針としてはめずらしく、投票の内訳まで公開されています。

10名の委員中で推奨度1が7名。推奨度2が3名であった。小腫瘍の中にはレーザー機器による治療を強く推奨することができないものが含まれることを加味した結果、推奨度2とした

多数決なら1でした。それでも2にした。理由は「強く推奨できないものが混じっているから」です。この判断の仕方は、11章でもう一度出てきます。

3. 日光黒子——章内で最も研究されています

日光黒子(老人性色素斑)は、いちばんよく見られるシミです。指針の説明では「主として40歳以上で、日光露光部である顔、手背、前腕などに加齢とともに出現する」「境界が不鮮明で斑状の色素沈着症」とされています。

CQ1-1-1の推奨度は1(治療を希望する患者には、強く推奨する)。推奨文はこうです。

「日光黒子(老人性色素斑)の治療にレーザー、光治療は有効である。ただし、長期にわたる検討や他の治療法との比較が十分ではない。

根拠になった論文はA(無作為化臨床試験)11本、B 5本、C 5本。第1章のなかでAが最も多い項目です。実際の数字もいくつか載っています。

研究結果
3つのレーザーと液体窒素の比較(手背)最良はNd:YAGレーザー、以下クリプトン、Qスイッチ KTP 532nm、液体窒素の順
QスイッチNd:YAGレーザーの症例集積6〜10回の照射で12人中7人(58.3%)が著明改善またはほぼ完全に改善、3人(25.0%)が中等度改善。副作用なし
1回照射・多施設試験(37例)高フルエンスで治療された病変の60%で75%を超える色素除去
QスイッチアレキサンドライトとIPLの比較照射後の炎症後色素沈着はIPLのほうが少なかった
1927nmフラクショナルレーザー(40名)2回目の治療後1か月で約68%、3か月で51%に中程度以上の改善

ナノ秒とピコ秒の比較も行われています。アジア人の上肢の日光黒子で比べたところ、色素クリアランスに差はありませんでしたが、患者満足度ではピコ秒のほうが優れていました

ひとつ注意点があります。色の薄い日光黒子に対して併用療法が試みられていますが、QスイッチNd:YAGレーザー単独と、Er:YAGレーザーによるマイクロピールを組み合わせた併用療法を比べた研究では、炎症後色素沈着の発生率が単独40%に対し、併用73.3%でした。足し算が、常に良い結果になるとは限りません。

4. 【重要】それでも「診断を丁寧に」と書かれています

推奨度1がついた日光黒子でも、指針は最後にこう書いています。

診断を丁寧に行い、特に悪性腫瘍(悪性黒子など)との鑑別に注意を要する。施術者は、各機器の特性について習熟し、合併症や治療期間、費用まで含めた十分な説明と同意のもとに行うことが求められる」

そして、解説文のなかにこんな一文があります。

「日光黒子に対して1064nm QスイッチNd:YAGレーザー治療後に線維形成性黒色腫(desmoplastic melanoma)が生じた症例があり、治療前の病理組織検査を推奨している報告例がある」。

黒色腫は、皮膚の悪性腫瘍です。シミだと思って当てたところが、そうではなかった——そういう報告が実際にあるということです。

この記事を通して、繰り返し出てくる構図です。

レーザーで色素を壊すと、「それが何だったのか」を確かめる手がかりが減ります。

㉑の記事でも書きましたが、指針は別の箇所で「不適切なレーザー治療によりダーモスコピー像を修飾してしまい、悪性腫瘍の診断を困難にする危険性がある」と述べています。

だから順番が、まず診断なのです。

5. 肝斑——レーザーは、3番手だと書かれています

ここからが、この記事の中心です。

CQ1-1-2「シミ(肝斑)にレーザーや光治療(IPL)は有効か?」の推奨度は2(条件によっては、行うことを弱く提案する)。推奨文を、そのまま引用します。

「レーザーやIPL照射は、遮光、美白剤外用や内服などの保存的治療を行って、十分な効果の得られない場合に併用療法として行っても良い。施術者は、各々の機器の特性について習熟し、十分な説明と同意のもとに治療を行う必要がある」

読み解くと、条件が3つ入っています。

指針が引用している海外のレビューも、同じ方向です。

レビュー結論
7研究のメタ解析(2014年)「肝斑に対するレーザー療法は単独で行われた場合、安全性や効果に疑問が残り、一般的な外用療法より優るとは結論できない
9つの無作為化比較試験のメタ解析(346例)短期間で改善させる利点はあるが「肝斑を根治させる治療法ではなく、再燃することが多いため、長期間の使用は推奨されず、短期間の照射を推奨する
113論文6,897症例の検討「最も有効で十分に検討されてきたのはハイドロキノン単独外用療法とトリプルクリーム外用療法」。レーザー・IPLは「これらの外用療法に比べて同等かやや劣り、副作用の発現がより高い
欧州皮膚レーザー学会の見解美白剤治療がゴールドスタンダードで「レーザー治療はこれら治療でうまくコントロールできなかった時にのみ考慮すべき

4つとも、言っていることは同じです。肝斑では、外用が主役でレーザーは補助。

なお、欧州皮膚レーザー学会は「肝斑は光老化であると位置づけ、遮光が最も重要である」とし、真皮の線維芽細胞や血管内皮細胞が病態に関わっていることから、トラネキサム酸が肝斑に有効なのも血管に作用するからではないかと推察しています。

6. 【核心】順番は、遮光 → 美白剤 → それでも足りないとき

推奨文と各レビューを一枚にすると、こうなります。

肝斑:指針が示している順番 1 遮光 「遮光に留意することが必須で、この指導が最も重要である」 欧州皮膚レーザー学会も「肝斑は光老化であり、遮光が最も重要」としています 2 美白剤の外用・内服(保存的治療) 「最も有効で十分に検討されてきたのはハイドロキノン単独外用療法と トリプルクリーム外用療法である」(113論文6,897症例の検討より) 3 レーザー・IPL(推奨度2) 「十分な効果の得られない場合に、併用療法として行っても良い」 単独では「外用療法より優るとは結論できない」とされています 出典:美容医療診療指針(令和3年度改訂版)CQ1-1-2 推奨文および解説文

「まずレーザー」ではなく、「まず遮光」と書かれています。

この順番には、費用の面でも意味があります。1番目にあるのは、いちばん安く、今日から始められる方法です。

そして指針は、肝斑について繰り返し書いています。「紫外線曝露および女性ホルモンが主たる悪化因子であることが知られており、特に紫外線曝露が発症要因として重要である」。原因が続いているかぎり、結果だけを消しても追いつきません。

日焼け止めの選び方(SPFとPAの意味、必要な使用量、塗り直しの間隔)は日焼け止めの選び方・塗り方——SPF・PAの本当の意味と「量」の話に詳しく書きました。

7. 【危険】肝斑にレーザーを当てると起こること

推奨度が2にとどまっている理由は、効果が弱いからだけではありません。逆方向に振れることがあるからです。

報告されているのは、大きく3つです。

起こりうること指針の記述
再燃「レーザー治療が単独療法で用いられた場合、治療後一定期間後に再燃することが示されている」
炎症後色素沈着薄くするために当てた刺激で、かえって濃くなることがあります
脱色素斑やや高めのフルエンスで週1回・5回の照射を繰り返した研究で、22例中3例に小さな脱色素斑が生じました

3つめが、いちばん取り返しがつきません。色が抜けてしまうと、元に戻す方法がありません。

欧州皮膚レーザー学会の見解は、はっきりしています。低フルエンスQスイッチ1064nm Nd:YAGレーザーについて「長期フォローにおいて肝斑は再燃し、炎症後色素沈着の副作用を伴うことがあり、さらに脱色素斑を生じることがあるので推奨できない」

なぜ肝斑では色が抜けやすいのか。指針は仮説を書いています。

「肝斑は光老化のために基底膜に損傷を受け表皮メラノサイトが真皮側に偏在しているために、レーザー治療などで細胞死を起こしやすいためかもしれない」

日本国内からも、低フルエンスQスイッチNd:YAGレーザーによる脱色素斑発生の副作用が取り上げられており、指針は「慎重な対応が必要である」としています。そして「今後これら肝斑の病態生理を把握したうえで、日本人に適したレーザーおよびIPL治療の照射条件などを検討する必要がある」とも書いています。

つまり日本人向けの適切な設定は、まだ確立していないということです。

8. ADM——ここだけ、答えが正反対になります

ADM(後天性真皮メラノサイトーシス、acquired dermal melanocytosis)。両側性遅発性太田母斑とも呼ばれます。

CQ1-2の推奨度は1(治療を希望する患者には、強く推奨する)。推奨文は一行です。「後天性真皮メラノサイトーシス(ADM)にレーザー治療は有効である」。

そして、この記事でいちばん重要な一文がここにあります。指針が引用する欧州皮膚レーザー学会のポジションステートメントは、こう書いています。

「ADMの場合肝斑と異なり美白剤やケミカルピーリングが無効で、短パルスであるQスイッチレーザーによる治療が必須である

肝斑では美白剤が第一選択。ADMでは美白剤が無効。まったく逆です。

理由は、色素をつくる細胞がある深さです。肝斑は表皮の色素沈着が中心ですが、ADMでは真皮にメラノサイトそのものが存在します。外から塗る薬は、そこまで届きません。

ただし、レーザーなら簡単というわけでもありません。数字を並べます。

治療結果
Qスイッチアレキサンドライトレーザー7回以上の治療で完全治癒が34.4%(別の報告では75〜100%の治癒が37%)
同・治療後の合併症脱色素斑50%/色素沈着12.5%
QスイッチNd:YAGレーザー(高フルエンス)平均5.3〜6.5回で優れた効果が28〜40%
同(低フルエンス)45%に優れた効果。ただし治療回数が10〜15回必要
ピコ秒 vs ナノ秒(半顔比較・30人)ピコ秒のほうが改善に優れ、痛みや色素沈着も少なかった

治療期間はQスイッチルビーレーザーが最も早い(1〜6回)とされますが、色素異常の副作用が多い。メラニンに最も吸収されやすいためと考えられています。

指針は、ADMのレーザー治療について「レーザー後の色素異常(色素沈着および色素脱失)が唯一の問題点」とし、こう結んでいます。「太田母斑と異なり、色素沈着の副作用が高頻度で見られることに対し、あらかじめ十分に説明したうえで、対処できることが求められる」。

9. 【核心】そして、肝斑とADMは合併します

ここまで読んで、こう思われたかもしれません。「見分けてもらえばいいだけでは」と。

ところが、話はもう少し複雑です。

肝斑とADM:正解が正反対で、しかも合併します 肝斑 色素の場所:表皮が中心 第一選択:遮光と美白剤 レーザー:推奨度2(3番手) 当てると悪化・再燃・脱色素斑 ADM 色素の場所:真皮にメラノサイト 美白剤:無効 レーザー:推奨度1(必須) ただし脱色素斑50%の報告も ADM患者 1,268人を調べたところ 24.0% に肝斑が合併し、その肝斑はレーザー治療で悪化しました 同じ顔のなかに、当てるべきものと、当てると悪化するものが同時にあることがあります。 出典:美容医療診療指針(令和3年度改訂版)CQ1-1-2・CQ1-2 解説文

「どちらか」ではなく「どちらも」のことがある、というのがこの章の要点です。

QスイッチNd:YAGレーザーで治療した中国人のADM患者1,268人を検討した研究では、24.0%の患者で肝斑の合併がみられ、レーザー治療によって悪化したと報告されています。

さらに細かい観察もあります。当初ADM単独で肝斑が見られなかった患者のうち、レーザー後に肝斑を発症したのは35歳以上でADMの面積が10平方センチメートル未満の人に有意に多く、頬骨部に現れたとのことです。しかも肝斑はレーザーを当てていない部位にも現れていました

だから指針は、ADMについて「臨床的に肝斑と鑑別して正しく診断することが最も重要」と書き、そのうえでこう付け加えています。

「老人性色素斑や肝斑、雀卵斑などの合併や鑑別が難しい場合は、生検も1つの選択肢とし、治療に対する反応を注意深く見る必要がある」

組織を採って確かめることまで、選択肢に挙げられています。それだけ見分けが難しいということです。

受ける側にできること。

頬の左右対称の茶色い変化で治療を検討するときは、「これは肝斑ですか、ADMですか、それとも両方ありますか」と聞いてみてください。

この質問に具体的に答えられるかどうかで、診断の工程を踏んでいるかが分かります。そして「両方あります」という答えが返ってきたら、それは慎重な見立てです。

なお、色素沈着を減らす工夫も報告されています。トレチノインと5%ハイドロキノンの外用で表皮の状態を整えてからQスイッチルビーレーザーを行うことで、レーザー後の色素沈着が10.6%にまで有意に低下したという報告です。下ごしらえをしてから当てる、という考え方があるということです。

10. ホクロ・イボ——実際の診断名は、何通りもあります

「ホクロ」「イボ」は、日常の言葉です。指針は、その中身を医学的に分解しています。

「俗にホクロ、イボと呼ばれるのは、直径が1cm程度までの皮膚の良性小腫瘍である。顔面、頚部のホクロ、イボを主訴とする患者の場合、実際の医学的な診断は、母斑細胞母斑(色素性母斑)、表皮母斑、脂漏性角化症、尋常性疣贅、軟性線維腫(アクロコルドン、スキンタッグ)などのことが多く、時には神経線維腫、汗管腫、血管拡張性肉芽腫などのこともある」

ひとつの言葉のなかに、少なくとも8つの診断名が入っています。そのうち治療の現場で扱われる頻度が特に高いのは、母斑細胞母斑・表皮母斑・脂漏性角化症の3つだとされています。

よく言われる名前指針の説明
ホクロ(母斑細胞母斑)未分化なメラノサイト系細胞の増殖。メラニン色素の産生能があるため褐色〜黒色、時に常色。表面は平滑〜疣状で、時に硬毛を伴う
イボ(脂漏性角化症)ホクロを除けば最も頻度が高い。加齢や紫外線曝露による皮膚の老化に伴って生じる直径0.2〜2cmの灰褐色〜黒褐色の良性腫瘍。老人性色素斑が隆起して生じることも多い
イボ(尋常性疣贅)ヒト乳頭腫ウイルスが感染して生じる角化性病変。「視診やダーモスコピーでは脂漏性角化症との鑑別が困難なものも多くある

脂漏性角化症について、指針は「20歳代から出現し、80歳以上の老人ではほぼ全員に認めるようになる」と書いています。多くの方にとって、いずれ出てくるものだということです。

そして重要な性質があります。「これら皮膚の良性小腫瘍は、ウイルス性の尋常性疣贅を除いて自然消退は期待できないが悪性化もしない」。

放っておいても悪くなるわけではない。だから治療の位置づけは整容的なもの——推奨文にも「整容的な観点から」と明記されています。急ぐ必要はないということでもあります。

11. 【最重要】「安易に行ってはいけない」と書かれた一文

この記事でいちばん強い記述が、ここにあります。

「レーザー照射の対象とした小腫瘍の中には、皮膚悪性腫瘍が含まれている可能性があり、肉眼やダーモスコピーによる診断が困難な場合は、全切除あるいは部分生検を行い、組織学的検索を行うことを検討する必要がある。鑑別ができない場合は、レーザー治療を安易に行ってはいけない

診療指針で「〜してはいけない」という書き方が出てくるのは、それほど多くありません。

CQ1-3の推奨文にも、同じことが条件として組み込まれています。

「整容的な観点からホクロ、イボ病変の切除を承諾し難い患者などに対しては、レーザー機器による蒸散治療は有効である。ただし、治療後の長期にわたる経過観察や再発、その他の治療法との比較が十分ではない。また、術前には患者に小腫瘍の中に皮膚悪性腫瘍が含まれている可能性を十分説明する必要があり、肉眼やダーモスコピーで良性小腫瘍の診断が可能なものに限られるため、行うことを弱く推奨できるとした」

理由は、4章で書いたことと同じです。レーザーで蒸散させると、それが何だったのかを確かめる組織が残りません。

2章で紹介した投票の内訳——委員10名中7名が推奨度1に投票したにもかかわらず推奨度2になった——のは、まさにこの点を「加味した結果」でした。

市販の「イボ取り」「ホクロ除去」をうたう製品について。

この記事では、それらの有効性については書きません。指針が評価しているのは医療機関でのレーザー治療であって、市販品ではないからです。

ただ、はっきり言えることがひとつあります。自分で削る・溶かすという行為は、指針が求めている「診断してから」という順番を飛ばします。そして皮膚科なら、ダーモスコピーでその場で確かめられます。

とくに形がいびつ、色にムラがある、大きくなってきた、出血する、6mmを超える——こうしたホクロは、自己判断で処理せず受診してください。詳しくはシミと肝斑の「命に関わる見分け」の章に書いています。

12. レーザーのあとに起こりうること

ここまでに出てきた数字を、まとめて並べます。

レーザーのあとに起こりうること(報告された頻度) 対象・治療 起こったこと ADM/Qスイッチアレキサンドライト 脱色素斑 50% ADM/同上 色素沈着 12.5% 日光黒子/レーザー単独 炎症後色素沈着 40% 日光黒子/マイクロピール併用 炎症後色素沈着 73.3%(併用で増加) 肝斑/やや高めのフルエンス5回 22例中3例に小さな脱色素斑 ホクロ・イボ/蒸散 紅斑・ビランは必発/取り残しによる再発 指針の注意:これらの頻度には人種差があり、 「特に東洋人ではエビデンスとして用いられている論文よりも頻度が高くなる可能性がある」 出典:美容医療診療指針(令和3年度改訂版)第1章 各CQ 解説文

「薄くする」ための治療で、濃くなることも、抜けることもあります。

ホクロ・イボの蒸散については、指針が起こりうることを具体的に列挙しています。

そして、ここにジレンマがあります。「病変の病理組織を予想して、十分な深さまで削ると再発が少ないが、上皮化した後に瘢痕が目立つ可能性もあるので注意が必要である」。深く削れば再発は減るが、痕が残りやすい。どこで折り合うかは、術者の判断になります。

最後に、この章で必ず知っておいていただきたい注意があります。指針は副作用について、こう書いています。

「これらの副作用、合併症をレーザー照射後に生じるリスクについては、ケロイド・肥厚性瘢痕以外のものでも人種差があり、特に東洋人ではエビデンスとして用いられている論文よりも頻度が高くなる可能性がある

海外の論文の数字より、日本人では高く出るかもしれない。指針自身がそう断っています。

13. 機器の種類——ナノ秒・ピコ秒・蒸散

カウンセリングで機器の名前が並ぶと、何が違うのか分かりにくいと思います。指針の説明を、整理しておきます。

種類特徴と、主な使いどころ
Qスイッチレーザー
(ナノ秒)
光の照射時間がナノ秒単位。メラノソームの熱緩和時間(10〜500ナノ秒)の内側で照射することで、周囲へのダメージを最小にしながら標的を壊します現在の主流で、この機種の登場で太田母斑の治療が可能になりました
ピコ秒レーザー1ナノ秒未満の照射時間。日光黒子では色素クリアランスに差はなかったが患者満足度で優れたという報告、ADMでは改善に優れ痛みや色素沈着も少なかったという報告があります
IPL(光治療)幅のある光。日光黒子で一定の有効性があり、Qスイッチアレキサンドライトとの比較では炎症後色素沈着が少なかったという結果も。指針は「基本原理から見て、安全性が高い」としています
CO₂レーザー
(蒸散型)
波長10600nm。水に吸収されやすく、蒸散・切開に加えて凝固・止血作用を持ちます。ホクロ・イボの治療に多用されます
Er:YAGレーザー
(蒸散型)
水への吸収率がCO₂の10倍以上。周囲への熱作用が少なく薄く削れますが、凝固・止血ができず、出血が多い部位には不向き

蒸散型の2つについては、比較試験もあります。疣贅状表皮母斑の患者20名を無作為に割り付けた試験では、効果と副作用に差はありませんでした。ただし違いが出たのは治り方と再発です。上皮化までにCO₂レーザーは13.5日、Er:YAGレーザーは7.9日とEr:YAGのほうが有意に早い。一方で再発率はEr:YAGが30%、CO₂は再発なしでした。

また、指針はフラクショナルレーザーについて「日光黒子では通常使われない」と明記しています。名前が有名でも、対象が違えば出番がないということです。

そして、Qスイッチやルビー・アレキサンドライト・Nd:YAGといった色素を狙うレーザーは、ホクロ・イボのような厚みや深さのある病変には「単独照射での適応機会は少ない」とされています。同じ「レーザー」でも、狙うものが違えば別の道具です。

14. 🚨 受ける前に確認する5つと、困ったときの相談先

ここまでの内容を、そのまま使える形にします。すべて指針に書かれていることです。

確認することなぜ、それを聞くのか
1. これは何ですか(診断名)日光黒子・肝斑・ADM・ホクロ/イボで正解が変わります(2章)
2. 肝斑やADMの合併はありますかADM患者の24%に肝斑が合併し、レーザーで悪化した報告があります(9章)
3. 先に外用や遮光をしますか肝斑では「保存的治療を行って、十分な効果の得られない場合に」とされています(5・6章)
4. 悪性の可能性はどう確かめますかホクロ・イボは「鑑別ができない場合は、レーザー治療を安易に行ってはいけない」(11章)
5. 色素沈着や脱色素斑の説明をADMでは脱色素斑50%の報告。指針は東洋人で頻度が高い可能性にも触れています(12章)

とくに1番目を大事にしてください。「シミのレーザーですね」ではなく、診断名で答えが返ってくるか。これが、診断の工程を踏んでいるかどうかの目印になります。

受ける前後に、自分でできること

こんなときは、医療機関へ

どこに相談すればいいのか

同じ指針の第6章に、公的な相談先が明記されています。

「医療(美容医療を含む)に関する苦情や相談に対応する行政機関として、都道府県等が設置している医療安全支援センターがある」

美容医療も明確に対象で、全国に設置されています。まず施術を受けた医療機関に連絡し、そのうえで対応に納得できないときや、どこに相談してよいか分からないときに、この窓口があります。

同じ診療指針の他の章については、シワ・タルミの美容医療医療脱毛バストの悩みにまとめています。

15. よくある質問

シミにレーザーを当てれば、どれでも薄くなりますか?

種類によって答えが変わります。それも「効果が大きい・小さい」という程度の差ではなく、正解が正反対になることがあります。美容医療診療指針の第1章は、4つの問いを立てています。日光黒子(老人性色素斑)へのレーザー・光治療は推奨度1で「治療を希望する患者には、強く推奨する」。後天性真皮メラノサイトーシス(ADM)へのレーザー治療も推奨度1です。ところが肝斑は推奨度2で、推奨文はこうなっています。「レーザーやIPL照射は、遮光、美白剤外用や内服などの保存的治療を行って、十分な効果の得られない場合に併用療法として行っても良い」。つまり肝斑では、レーザーは最初の手段ではなく、遮光と美白剤のあとに来る3番手だということです。そして決定的な違いがもうひとつあります。指針が引用する欧州皮膚レーザー学会のポジションステートメントによれば、ADMは「肝斑と異なり美白剤やケミカルピーリングが無効で、短パルスであるQスイッチレーザーによる治療が必須」とされています。肝斑には美白剤が先で、ADMには美白剤が無効。どちらも頬にできる左右対称の茶色い変化で、しかも指針は「臨床的に肝斑と鑑別して正しく診断することが最も重要」としています。まず何であるかを確かめる。それが最初の一歩です。

肝斑にレーザーを当てると、どうなるのですか?

報告されているのは、大きく3つです。1つめは再燃です。指針が引用するメタ解析は「レーザー治療が単独療法で用いられた場合、治療後一定期間後に再燃することが示されている」とし、別のメタ解析も「肝斑を根治させる治療法ではなく、再燃することが多いため、長期間の使用は推奨されず、短期間の照射を推奨する」と結論しています。2つめは炎症後色素沈着です。もともと色素を薄くするために当てているのに、その刺激で色素沈着が起きることがあります。3つめが脱色素斑、つまり色が白く抜けてしまう変化です。やや高めのフルエンスで週1回、5回照射を繰り返した研究では22例中3例に小さな脱色素斑が生じたと報告されており、指針はこれを注意喚起として紹介しています。欧州皮膚レーザー学会は、低フルエンスQスイッチ1064nm Nd:YAGレーザーについて「長期フォローにおいて肝斑は再燃し、炎症後色素沈着の副作用を伴うことがあり、さらに脱色素斑を生じることがあるので推奨できない」としています。なぜ抜けやすいのかについて、指針は仮説を書いています。肝斑は光老化のために基底膜が損傷を受け、表皮のメラノサイトが真皮側に偏在しているため、レーザー治療などで細胞死を起こしやすいのかもしれない、と。だから肝斑では、まず遮光と外用・内服なのです。

ADMとは何ですか。肝斑とどう違うのですか?

ADMは後天性真皮メラノサイトーシス(acquired dermal melanocytosis)の略で、両側性遅発性太田母斑とも呼ばれます。肝斑との最大の違いは、色素をつくる細胞がある深さです。肝斑は表皮の色素沈着が中心ですが、ADMでは真皮にメラノサイトそのものが存在します。だから外から塗る薬が届きません。指針が引用する欧州皮膚レーザー学会のポジションステートメントは「ADMの場合肝斑と異なり美白剤やケミカルピーリングが無効で、短パルスであるQスイッチレーザーによる治療が必須である」としています。推奨度は1、強く推奨するです。ただし治療は簡単ではありません。Qスイッチアレキサンドライトレーザーでは7回以上の治療で完全治癒が34.4%という報告があり、治療後に脱色素斑がみられたのは50%、色素沈着は12.5%でした。Nd:YAGレーザーでは低フルエンスで10〜15回必要だったという報告もあります。そして最も大事なのが、肝斑との合併です。Qスイッチ1064nm Nd:YAGレーザーで治療した中国人のADM患者1,268人を調べた研究では、24.0%の患者で肝斑の合併がみられ、その肝斑がレーザー治療で悪化したと報告されています。つまり同じ顔の中に、レーザーを当てるべきものと、当てると悪化するものが同時にあることがある。指針が「正しく診断することが最も重要」と書いている理由は、ここにあります。

ホクロやイボは、レーザーで取ってしまって大丈夫ですか?

指針は、はっきりした条件をつけています。「レーザー照射の対象とした小腫瘍の中には、皮膚悪性腫瘍が含まれている可能性があり、肉眼やダーモスコピーによる診断が困難な場合は、全切除あるいは部分生検を行い、組織学的検索を行うことを検討する必要がある。鑑別ができない場合は、レーザー治療を安易に行ってはいけない」。推奨度も2にとどまっています。推奨文には「術前には患者に小腫瘍の中に皮膚悪性腫瘍が含まれている可能性を十分説明する必要があり、肉眼やダーモスコピーで良性小腫瘍の診断が可能なものに限られる」と書かれています。この推奨度の決まり方は、指針としてはめずらしく投票の内訳まで公開されています。10名の委員のうち推奨度1が7名、推奨度2が3名。それでも「小腫瘍の中にはレーザー機器による治療を強く推奨することができないものが含まれることを加味した結果、推奨度2とした」とされました。理由はひとつです。レーザーで蒸散させてしまうと、それが何だったのかを確かめる組織が残りません。実際、日光黒子にレーザー治療を行ったあとに線維形成性黒色腫が生じた症例があり、治療前の病理組織検査を推奨する報告があると指針は記しています。そして市販のイボ取り・ホクロ除去をうたう製品を自分で使うことは、この「診断してから」という順番を飛ばす行為です。まず皮膚科で見てもらってください。

レーザー治療のあとに、どんなことが起こりますか?

指針は、部位や病変ごとに具体的な数字を挙げています。まず炎症後色素沈着です。色素を薄くするために当てたのに、その刺激で一時的に濃くなることがあります。日光黒子でQスイッチNd:YAGレーザー単独と、Er:YAGレーザーによるマイクロピールを組み合わせた併用療法を比べた研究では、炎症後色素沈着の発生率が単独40%に対し併用73.3%でした。ADMでは、Qスイッチアレキサンドライトレーザーで色素沈着が12.5%に生じています。次に脱色素斑、つまり色が抜ける変化です。同じADMの研究では、治療後に脱色素斑がみられたのが50%と報告されています。肝斑でも、やや高めのフルエンスの照射で22例中3例に小さな脱色素斑が生じました。ホクロ・イボの蒸散治療では、指針は「照射直後には紅斑、ビランが必発」とし、創部の二次感染、上皮化遅延、一過性の炎症後色素沈着や色素脱失を挙げています。そして「取り残しによる再発もよくみられる合併症」であり、再発を減らそうと十分な深さまで削ると「上皮化した後に瘢痕が目立つ可能性もある」としています。さらに指針は、これらの副作用について人種差に触れ「特に東洋人ではエビデンスとして用いられている論文よりも頻度が高くなる可能性がある」と注意しています。海外の数字より高く出るかもしれない、ということです。

参考資料

なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。本文で紹介した推奨度・推奨文・根拠論文数・治療成績・合併症の頻度は、すべて「美容医療診療指針(令和3年度改訂版)」(令和3年度厚生労働科学研究費補助金/日本皮膚科学会・日本形成外科学会・日本美容皮膚科学会・日本美容外科学会(JSAPS)・日本美容外科学会(JSAS)共同作成)にもとづくもので、公開時点の情報です。本文で触れた外用薬(ハイドロキノン、トレチノインなど)や内服薬には、それぞれ副作用や使用上の注意があり、医師の診察のうえで適応が判断されます。自己判断での入手・使用はなさらないでください。シミ・ホクロ・イボの見た目が似ていても診断は異なり、なかには皮膚悪性腫瘍が含まれる可能性があります。形がいびつ、色にムラがある、大きくなってきた、出血するなどの変化がある場合は、自己処理をせず皮膚科を受診してください。本記事は特定の施術・機器・医療機関を推奨するものでも、否定するものでもありません。掲載内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。