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からだの変化

認知症の予防
——発症を減らす方法として「提案」されたのは運動だけ。脳トレもサプリも「保留」でした

親のもの忘れが気になり始めた。自分も50代になって、名前がすぐに出てこない。脳トレのアプリやサプリメントの広告を見るたびに、何か始めたほうがいいのかと迷う——そんな方に向けた記事です。
日本の認知症に関わる6つの学会は、2024年12月に「認知症に対する非薬物療法指針」をまとめました。運動・栄養・脳トレ・音楽など8種類の方法について研究を集め、効果を評価したものです。読者には、医療者だけでなく本人や家族も想定されています。
その結果、認知症の発症リスクを減らす目的で「行うことを提案する」とされたのは、運動療法だけでした。脳トレも、栄養・サプリメントも、音楽も、評価は「保留」です。
この「保留」が何を意味するのか。いま根拠をもって言えることと、まだ言えないことを分けて整理します。

執筆:なぎ先生(内科医) 公開:2026年10月8日 読了:約13分

1. 先に結論

よくある思い込み指針の評価(認知症の発症リスクを減らすか)
運動は認知症予防になる運動療法は「行うことを提案する」。ただし根拠は主に観察研究で、介入研究で発症が減った証拠はまだない
脳トレで認知症を防げる「保留」。発症を調べた介入研究は1本だけで、発症率に明らかな差はなかった
サプリで脳を守れる「保留」。WHOのガイドラインは、発症リスクを減らす目的で特定のサプリメントを推奨していない
全部組み合わせれば確実認知機能には「強く推奨」だが、発症そのものを減らす証拠は不十分で「保留」
「保留」なら意味がない保留は「効果が無いという結論ではない」。研究がまだ足りない、という意味

この記事でいちばんお伝えしたいこと。

いま、認知症の発症リスクを減らす方法として指針が勧めているのは体を動かすことです。脳トレやサプリメントにお金をかける前に、まず毎日の身体活動を見直してください。

2. 「認知機能を保つ」と「認知症を防ぐ」は別の目標です

この指針を読むうえで、最初に押さえておきたい区別があります。指針の用語解説は、認知症をこう定義しています。

認知症とは「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し,日常生活全般に支障をきたすようになった状態」のことである。

一方の「認知機能」は、記憶・注意・判断・言葉などの働きのことです。つまり、

この2つは別の目標です。そして指針は、「一般的には,認知機能低下の予防の方が認知症の予防よりも達成しやすい.」と書いています。

広告で「脳の健康に」「記憶力を維持」とうたわれていても、それは認知症を防ぐという意味とは限りません。この記事では、2つを分けて見ていきます。

3. 8つの方法の評価を、1枚の表に

指針の「推奨度一覧表」のうち、この記事に関わる2つの列(認知機能・認知症発症リスク低減)を抜き出しました。

8つの方法の評価——認知機能と、認知症の発症 認知症関連6学会「認知症に対する非薬物療法指針」の推奨度一覧表から 認知機能 認知症の発症リスク低減 運動療法 提案する 提案する 栄養療法 保留する 保留する 認知訓練(脳トレ) 提案する 保留する 現実見当識訓練 保留する 保留する 包括介入(組み合わせ) 強く推奨する 保留する 音楽療法 提案する 保留する 回想療法・精神療法 回想は提案・精神は保留 保留する 発症リスク低減の列で「提案する」がついたのは、運動療法だけでした。 出典:「認知症に対する非薬物療法指針」(AMED研究班、2024年12月)本指針における推奨度一覧表

一覧表には、ほかに日常生活機能・運動機能・行動心理症状の列もあります。研究の対象には、認知症の前段階の人や認知症の人も含まれています。

指針は推奨度の注で、各療法の推奨度は研究の対象者(認知症の原因となる病気や重症度など)が異なる可能性があると断っています。「認知機能」の列の評価には、すでに認知症やその前段階の方を対象にした研究も多く含まれます。健康な人が予防のために行う場合に一番参考になるのは、右の「発症リスク低減」の列です。

4.【核心】発症リスクで「提案」は運動だけ

運動療法について、指針の回答はこうです。

HQ5「運動療法は,認知症発症のリスクを低減させるか?」
回答:「身体活動は認知症発症リスクを低減する可能性があり,運動療法を推奨してもよい.」
推奨:行うことを提案する

根拠は、25万人を超える観察研究のメタ解析です。身体活動と、すべての原因による認知症・アルツハイマー型認知症・血管性認知症の発症率との間に、統計学的に有意な低〜中等度の関連が見られました。65歳以下の健康な人を20年以上観察した質の良い研究でも関連が示されていて、「認知症になりかけて動かなくなったから」という逆の因果関係では説明しにくい、とされています。

ただし、指針は同時にこう書いています。

「介入研究において運動療法が認知症やMCIの発症リスク低減に有効であったというエビデンスはない」

「運動する習慣のある人は認知症になりにくい」ことは分かっていても、「運動を始めさせたら発症が減った」と確かめた試験はまだない、ということです。それでも、ほかの方法がすべて「保留」のなかで、運動だけが一段上の評価を受けました。

どんな運動を、どのくらい?

指針は、運動療法にはウォーキング・水泳などの有酸素運動、スクワットなどのレジスタンス運動、ストレッチやバランス訓練などがあるとし、「運動種類の違いによる効果には明確な差はない.」としています。認知機能についての解析では、「1回当たり45〜60分の中等度の運動が効果的であった」という結果も紹介されています。

具体的な運動の例や安全に行うためのポイントは、厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」を参照するよう書かれています。筋肉を保つ運動についてはサルコペニアの記事でも整理しています。

広告

この章で扱った身体活動を記録するための機器です。「認知症に対する非薬物療法指針」は、運動療法について「身体活動は認知症発症リスクを低減する可能性があり,運動療法を推奨してもよい.」とし、認知症の発症リスク低減を目的に「行うことを提案する」としています。

※ 当サイトは、記事のなかで根拠を示したうえで推奨したものに限り広告を掲載しています。活動量計そのものに認知症を防ぐ働きがあるわけではありません。指針は、新しい技術を使った運動療法に、認知症の発症リスクを減らす効果は示されていないとしています。歩数や活動量を記録して、体を動かす習慣を続けるための道具として紹介しています。ここで紹介しているのは、タニタの活動量計 カロリズムSlim AM-122(税込6,600円)で、メーカーは1時間ごとの活動量の変化が分かるグラフを備えているとしています。表示される消費カロリーなどは推定値です。心臓や膝・腰に不安のある方、治療中の病気がある方は、運動量を増やす前に主治医にご相談ください。

5. 脳トレ(認知訓練)——認知機能には「提案」、発症予防は「保留」

計算や記憶のドリル、タブレットやゲーム機のアプリ。指針はこれらを「認知訓練」として評価しています。

認知機能については「行うことを提案する」。軽度から中等度の認知症の人を対象にした33の研究のまとめなどで、全般的な認知機能に小〜中等度の効果がありました。ただし、長い期間効果が続くかについてはエビデンスが不足しているとされています。

そして、認知症の発症を防ぐかについては「保留」です。調べた介入研究は1本だけでした。認知症のない平均74歳の2,802人を、5〜6週間の認知訓練を行うグループと行わないグループに分け、5年間追跡した研究です。結果は、「認知訓練群と非介入群の間で認知症の発症率に明らかな差を認めなかった.」

指針は、認知訓練には認知機能やうつ・意欲低下への効果が少なからずあるため、発症リスクを下げる可能性は残るとも書いています。一方で、ゲームを使った訓練について、「ゲーム性の高い認知訓練は抑うつを軽減しうるが,課題によってはうつ症状を悪化させるなどストレス負荷に繋がるというリスクがある」と注意しています。楽しめる範囲で、負担になったらやめる、くらいがちょうどいいと思います。

6. サプリメントと食事——WHOも推奨していません

栄養療法(食事の傾向やサプリメント)は、認知機能でも発症リスクでも「保留」でした。指針が引いているWHOのガイドラインの立場は、はっきりしています。

地中海食について:「地中海食は心血管リスクを軽減するが,認知症発症への効果は否定されている.」
サプリメントについて:「認知症発症リスク低減を目的として特定のサプリメントを摂取することを推奨していない.」

個別の成分については、次のような報告がまとめられています。

成分・食事指針のまとめ(発症リスク)
葉酸50歳以上の認知症のない13,529人で、葉酸の摂取量が多い人は発症リスクが有意に低かったという報告
ビタミンB6・B12発症リスクへの効果は実証されていない
オメガ3(DHA・EPA)発症を抑えるという報告がある一方、週2回以上の魚の摂取で統計的に有意な差はなかったという報告も。必要な期間は一致した見解がない
ポリフェノール・ベリー類方法や期間がまちまちで、エビデンスレベルは低い
加糖飲料飲む習慣のある人で認知症の有病率が高いという報告があり、関連が示唆されている

どれも「食べている人・飲んでいる人で多かった(少なかった)」という観察が中心で、サプリメントとして追加して発症が減ったと言える段階ではありません。葉酸やDHAのサプリメントを選ぶより、食事全体の質と、甘い飲み物を習慣にしないことのほうが、指針の内容に沿っています。腸内細菌の話題(プロバイオティクス)も、認知機能について効果が期待される報告はあるもののエビデンスレベルは低いとされています。

7. 運動・食事・脳トレの組み合わせ——認知機能には「強く推奨」

8つの方法のなかで唯一「強く推奨する」がついたのが、包括介入(運動・栄養指導・認知訓練・社会的活動などを組み合わせたプログラム)の認知機能への効果です。

代表は、フィンランドのFINGER研究。健康な高齢者に、運動・栄養指導・認知訓練・社会的活動を組み合わせた介入を行い、認知機能の改善が示されました。日本でもJ-MINT PRIME Tamba研究で、高血圧や耐糖能異常(血糖が高め)はあるが認知機能は正常な高齢者に18か月の包括介入を行い、介入群で有意な認知機能の改善が示されています。

ところが、認知症の発症そのものについては「保留」でした。指針は「認知症発症そのものを低下したとするエビデンスは不十分である.」と書き、9つのランダム化比較試験のまとめで発症に差がなかったこと、3,454人に6年間、血管の危険因子の管理を行った試験でも認知症の発生率は下がらなかったことを挙げています。

ここでも2章の区別が効いてきます。組み合わせると認知機能は保てる。でも、認知症を防げたとまでは確かめられていない。それでも、運動・食事・脳トレなどを組み合わせた生活全体の見直しが認知機能によいことは、強い根拠で示されたと言えます。血圧の管理については家庭血圧の測り方で整理しています。

8. 音楽・カラオケは?

音楽療法も、発症リスクについては「保留」です。ただ、日本の研究で興味深い結果が紹介されています。

日本老年学的評価研究(JAGES)のデータで、65歳以上の52,601人(平均74.1歳)を追跡したところ、音楽活動をしている人は、していない人に比べて認知症の発症率が低い傾向がありました。そして女性では、楽器の演奏とカラオケの練習が、認知症のリスクの低さと有意に関連していました(男性では有意な関連はなし)。

指針はこれについて、統制された研究ではないため、音楽活動と発症リスクの低下を直接結びつけるものではないと注意しつつ、発症リスクが低減する可能性はあると考えられた、としています。楽しみとして続ける理由にはなる、という位置づけでしょう。

9. 「保留」をどう受け止めるか

ここまで「保留」が続きました。指針は、この言葉の意味をこう説明しています。

保留する:現時点では、エビデンスが不足しているため、さらなる研究結果が集積するまで判断を保留するという意味。「効果が無いという結論ではないため,個々の判断で実施することが可能である.」

つまり、脳トレや音楽、食事の工夫をやめる必要はありません。楽しめて、負担にならず、ほかの大事なこと(運動・睡眠・持病の管理)を押しのけない範囲で続けるのは自由です。

気をつけたいのは、「認知症を防ぐ」とうたう商品やサービスに高いお金を払うことです。指針は冒頭で、新しい技術を使った非薬物療法が考案され商業サービスも開始されている一方、効果が増強するのかは明らかになっていないと書いています。迷ったら、まず歩くことから。それが、いま指針が勧めているいちばん確かな一歩です。

なお、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、難聴を「認知症の予防可能な因子の中で最大の危険因子」ともいわれるとしています(→めまい・耳鳴り・聞こえにくさ)。

最後に、この記事の要点をもう一度。

① 「認知機能を保つ」と「認知症を防ぐ」は別。後者のほうが難しい

② 認知症の発症リスクを減らす目的で「提案」されたのは運動療法だけ

③ 運動の根拠は25万人超の観察研究。介入研究で発症が減った証拠はまだない

④ 脳トレは認知機能には「提案」、発症予防は「保留」。試験は1本で差がなかった

⑤ WHOは発症予防のための特定のサプリメントを推奨していない

⑥ 「保留」は効果がないという意味ではない。楽しめる範囲で続けるのは自由

10. よくある質問

脳トレのアプリやドリルで、認知症は防げますか?

今のところ、防げるとは言えません。「認知症に対する非薬物療法指針」は、認知訓練(脳トレ)が認知症の発症リスクを減らすかについて「エビデンス不十分のため推奨・提案を保留する」としています。調べた介入研究は1本だけで、認知症のない平均74歳の2,802人に5〜6週間の訓練を行い5年間追跡しましたが、発症率に明らかな差はありませんでした。一方で、認知機能そのものには「行うことを提案する」とされていて、発症リスクを下げる可能性も残るとされています。楽しめる範囲で続けるのはよいですが、ゲームによってはストレスやうつ症状の悪化につながることもあると注意されています。

認知症予防のサプリメントは飲んだほうがいいですか?

指針が引いているWHOのガイドラインは、認知症の発症リスクを減らす目的で特定のサプリメントを摂取することを推奨していません。指針の評価も「保留」です。葉酸の摂取量が多い人で発症リスクが低かったという報告や、DHA・EPAについての報告はありますが、ビタミンB6・B12の効果は実証されておらず、魚の摂取では有意な差がなかったという報告もあります。サプリメントを足すより、食事全体の質を見直し、甘い飲み物を習慣にしないことのほうが、指針の内容に沿っています。持病で薬を飲んでいる方は、サプリメントを始める前に医師・薬剤師に相談してください。

どんな運動を、どのくらいすればいいですか?

指針は、ウォーキングや水泳などの有酸素運動、スクワットなどのレジスタンス運動、ストレッチやバランス訓練などを挙げ、「運動種類の違いによる効果には明確な差はない」としています。認知機能についての解析では「1回当たり45〜60分の中等度の運動が効果的であった」という結果も紹介されています。具体的な運動の例や安全のポイントは、厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」を参照するよう書かれています。まずは続けられる種類を選ぶことが大切です。持病がある方や、膝・腰・心臓に不安のある方は、運動量を増やす前に主治医に相談してください。

「保留」と書かれた方法は、やっても意味がないのですか?

そうではありません。指針は「保留」について、エビデンスが不足しているため判断を保留するという意味で、「効果が無いという結論ではないため,個々の判断で実施することが可能である.」と説明しています。脳トレ、音楽、食事の工夫などは、楽しめて負担にならない範囲で続けて構いません。ただし、「認知症を防ぐ」とうたう商品やサービスに高い費用をかける前に、指針が唯一「提案」している運動・身体活動を優先することをおすすめします。

カラオケや楽器は、認知症の予防になりますか?

可能性はありますが、確かめられてはいません。日本の65歳以上約5万人を追跡した研究(JAGES)では、音楽活動をしている人で認知症の発症率が低く、女性では楽器の演奏とカラオケの練習が、認知症のリスクの低さと有意に関連していました。ただし指針は、これは統制された研究ではないため、音楽活動と発症リスクの低下を直接結びつけるものではないとしていて、音楽療法の発症リスクへの評価は「保留」です。楽しみとして続ける理由にはなる、と考えてください。

参考にした主な資料

凪
なぎ先生

内科系の臨床に15年ほど携わる医師。生活習慣病・ホルモン・栄養の相談を日常的に受けています。中立性の担保と診療継続のため、ペンネームで執筆しています。→ 運営者について

この記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。本文で紹介した推奨度と研究結果は、AMED研究班「認知症に対する非薬物療法指針」(2024年12月)にもとづくもので、公開時点の情報です。もの忘れなどの症状が気になる場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。持病のある方が運動やサプリメントを始めるときは、主治医・薬剤師にご相談ください。掲載内容の誤りにお気づきの際はお問い合わせからお知らせください。