1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| ホルモンの病気による高血圧はまれ | かつては高血圧の1%程度と考えられていたが、近年は約5%。重症の高血圧ではさらに割合が上がる |
| 血圧さえ下がっていれば同じこと | 一般の高血圧として治療した場合も、脳卒中や虚血性心疾患などの合併症のリスクが上がる。この病気を適切に診断・治療することが求められる |
| 高血圧は一生治らない | 副腎腫瘍が原因のタイプは手術で根治が期待でき、約半数は高血圧も改善する。高血圧の期間が短い人や若年女性に多い |
| 漢方薬は自然のものだから安心 | 漢方薬の成分の甘草で、高血圧や低カリウム血症が起こる(偽アルドステロン症) |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
高血圧と言われたら、一度は原発性アルドステロン症の検査(血液のアルドステロンとレニン)を受けられるか主治医に相談してください。そして、漢方薬を飲んでいて血圧が上がった・手足に力が入らないときは、甘草の影響も考えて相談してください。
2. 原発性アルドステロン症とは
「副腎からアルドステロンが自律的に過剰分泌される病気です。」(日本内分泌学会「原発性アルドステロン症」)
アルドステロンは、腎臓の上にある副腎から出るホルモンで、塩分を体内に保持し、血圧を維持するはたらきがあります。ふだんは、腎臓から出るレニンによってコントロールされています。原発性アルドステロン症は、このコントロールを受けずに、副腎がアルドステロンを出しすぎてしまう病気です。
人間ドックのCTなどで副腎の腫瘍が偶然見つかった場合については健診で偶然見つかった「しこり」で書いています。
| 項目 | 資料の記述 |
|---|---|
| どのくらいいるか | 高血圧の人の約5%。重症の高血圧の人ではさらに割合が上がる |
| 2つのタイプ | ①副腎の腫瘍が原因のタイプ、②左右両側の副腎から出すぎるタイプ(過形成)。見分けるには副腎静脈サンプリング検査が必須 |
| 症状 | アルドステロンが多すぎると血圧上昇は必発。ほとんどは健診などで高血圧を指摘されて見つかる |
| 低カリウム血症 | 重症度の高い人で起こる。5割未満とされるが、この病気に特異性の高い、非常に重要な症状 |
学会は、もともと低血圧ぎみの人は、血圧が上がっても高血圧の診断に至らないことがあるとも書いています。
3.【核心】ふつうの高血圧として治療していては足りない
「注目すべきは、上述のようなアルドステロン過剰に対する治療を行わずに一般の高血圧として治療した場合も、これらの合併症のリスクが上昇するという点であり、そのため、高血圧患者の中からこの病気を適切に診断・治療することが求められます。」(日本内分泌学会「原発性アルドステロン症」)
スクリーニングの基準値は測定方法によって異なり、最新のガイドラインを参照するとされています。
無治療のままだと、脳卒中や虚血性心疾患など、高血圧に関連した合併症のリスクが増えます。学会は、かつては高血圧の人に占める割合は1%程度と考えられていたものの、近年は高血圧の人全体を対象としてスクリーニング検査を行うことが推奨されるようになったため、割合が増えたとしています。
4. 検査:アルドステロンとレニンを測る
スクリーニング検査では、血液のアルドステロンとレニンを測り、アルドステロン/レニン比(ARR)が高いと、この病気を疑います。
学会の説明によると、レニンは塩分をとりすぎると分泌が抑えられるため、ふつうは塩分が多い状態ではアルドステロンも低くなります。原発性アルドステロン症は、塩分を多くとっているにもかかわらず、副腎からアルドステロンが出すぎている状態と言い換えることもできます。
家庭で測る血圧については家庭血圧の記事で書いています。血液検査でカリウムが低いと言われたことがある方は、そのことも主治医に伝えてください。
5. 治療:手術か、薬か
| タイプ | 資料の記述 |
|---|---|
| 副腎の腫瘍が原因 | 手術治療で病気の根治が期待できる。病気がよくなると同時に高血圧も改善する人は約半数。高血圧の期間が短い人や若年女性では改善が多い。高齢者や手術のリスクが高い人、手術を望まない人では薬の選択も可能 |
| 左右両側の副腎が原因 | 手術の対象にならず、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン、エサキセレノンなど)で治療する。アルドステロン自体は下がらないため、根治の治療ではない |
手術で病気がよくなった場合は、合併症のリスクから解放されるとされています。薬で治療する場合も、治療を続ければ同じように合併症のリスクから解放されるとされていますが、腫瘍が原因のタイプを薬で治療した場合の長期の経過については、心血管のリスクを十分に抑えられていない可能性を示した報告もあり、より注意深い経過観察が必要とされています。
6. 偽アルドステロン症:漢方薬の甘草で起こる
「高血圧や低K血症など、原発性アルドステロン症と同様の臨床所見を呈するにもかかわらず、アルドステロン高値を示さない病態です。」(日本内分泌学会「偽アルドステロン症」)
- 原因は、漢方薬の一成分である甘草に含まれるグリチルリチン酸。腎臓でのコルチゾールの不活性化が妨げられ、アルドステロンと同じような作用が出る
- 甘草を含む漢方薬を飲んでいる人は多いが、すべての人に起こるわけではなく、グリチルリチン酸の量に依存して起こる
- 症状は原発性アルドステロン症と同様に高血圧、低カリウム血症。高度の低カリウム血症では不整脈や脱力
- グリチルリチン酸は、漢方薬のほかに一部の肝臓の薬にも含まれる
治療は、漢方薬などが原因であればその薬の中止を試みることです。学会は、グリチルリチン酸の効果は一般に数か月続くと考えられ、原因の薬をやめたあともしばらく高血圧や低カリウム血症が続く場合があるものの、いずれよくなるとしています。また、軽い場合はこの病気と診断されずに原因の薬が続けられていることもあり、そのような人では、強いストレスなどをきっかけに重い低カリウム血症とそれに伴う症状が出ることがあるとされています。
7.【内科医の視点】市販の漢方薬を飲む人へ
内科医として、ここはぜひ知っておいてほしいところです。甘草は、多くの漢方薬に含まれている生薬です。たとえば、胃もたれの記事で紹介した市販の六君子湯も、添付文書の成分にカンゾウ(甘草)が入っています。
漢方薬は、自然由来でも薬です。複数の漢方薬を同時に飲んでいる、長く飲み続けているという方は、甘草の量が重なっていないか、医師や薬剤師に確認してもらってください。血圧が上がってきた、手足に力が入らない、脈が乱れるといった変化があれば、飲んでいる漢方薬を持って受診してください。更年期の漢方薬については更年期の治療の選択肢でも書いています。
8. 相談・受診したほうがよいとき
主治医に相談したいとき
・高血圧と言われたが、アルドステロンとレニンの検査を受けたことがない
・血圧がかなり高い(重症の高血圧ほど、この病気の割合が上がる)
・血液検査でカリウムが低いと言われたことがある
・甘草を含む漢方薬を飲んでいて、血圧が上がってきた
早めに受診したいとき
・漢方薬を飲んでいて、手足に力が入らない(脱力)、動悸・脈が乱れる(低カリウム血症による不整脈の可能性)
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 高血圧の人の約5%は原発性アルドステロン症
② ふつうの高血圧として治療していても合併症のリスクが上がるので、見つけることが大切
③ 検査は血液のアルドステロンとレニン。腫瘍が原因なら手術で根治が期待でき、約半数は高血圧も改善
④ 漢方薬の甘草で、同じような高血圧・低カリウム血症(偽アルドステロン症)
⑤ 漢方薬を飲んでいて血圧上昇や脱力があれば、薬を持って相談を
9. よくある質問
原発性アルドステロン症はどのくらい多い病気ですか?
日本内分泌学会によると、かつては高血圧の人に占める割合は1%程度と考えられていましたが、近年は高血圧の人全体を対象にスクリーニング検査を行うことが推奨されるようになり、約5%と考えられています。重症の高血圧の人では、その割合はさらに上がります。
血圧の薬で血圧が下がっていれば、それでいいのではありませんか?
学会によると、アルドステロンの出すぎに対する治療を行わずに一般の高血圧として治療した場合も、脳卒中や虚血性心疾患などの合併症のリスクが上がるとされています。そのため、高血圧の人の中からこの病気を適切に診断・治療することが求められています。
どんな検査で見つかりますか?
学会によると、スクリーニング検査では血液のアルドステロンとレニンを測り、アルドステロン/レニン比が高い場合にこの病気を疑います。副腎の腫瘍が原因のタイプか、左右両側の副腎が原因のタイプかを見分けるには、副腎静脈サンプリング検査が必須とされています。
手術で高血圧はよくなりますか?
学会によると、副腎の腫瘍が原因のタイプは手術で病気の根治が期待でき、同時に高血圧も改善する人は約半数とされています。高血圧の期間が短い人や若年女性で改善が多くみられます。左右両側の副腎が原因のタイプは手術の対象にならず、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬で治療します。
漢方薬で血圧が上がることはありますか?
学会によると、漢方薬の一成分である甘草に含まれるグリチルリチン酸の作用で、高血圧や低カリウム血症が起こる偽アルドステロン症という病態があります。すべての人に起こるわけではなく、量に依存して起こります。原因の薬の中止を試みますが、効果は数か月続くと考えられ、やめたあともしばらく高血圧などが続く場合があります。
参考にした主な資料
- 日本内分泌学会「一般の皆様へ」:「原発性アルドステロン症」「偽アルドステロン症」(いずれも2026年9月8日更新)