1. 先に結論
| よくある思い込み | ガイドの記述 |
|---|---|
| 持病があるなら運動は控えたほうがいい | 状態が落ち着いていて、制限する状態でなければ成人の目安(1日60分・約8,000歩)を勧める |
| いきなり8,000歩を目指す | まず意識して体を動かす30分+生活の中の30分。体力が低い人は合計40分から |
| 週末にまとめて運動すればいい | 高血圧はなるべく毎日。糖尿病は運動しない日が2日以上続かないように |
| 血圧が高い日もがんばって歩く | 運動前に160/100以上なら散歩程度、180/110以上なら運動は控えて休む |
| 膝が痛いから動かないほうがいい | 変形性膝関節症では、運動は痛みの軽減と身体機能の改善に強いエビデンス |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
持病は、運動をあきらめる理由ではありません。主治医に一度確認したうえで、今より少しだけ動く時間を増やす。そして運動する日は、出かける前に血圧と体調を確かめる。それだけで、安全に続けられる運動になります。
2. 対象は「状態が落ち着いている人」
この記事で使う資料は、厚生労働省が2024年1月に公表した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」の2つの章、「慢性疾患を有する人の身体活動のポイント」と「身体活動・運動を安全に行うためのポイント」です。成人全体の目安については、座りすぎと歩数の記事で書きました。
ガイドは、この章の対象をはっきり書いています。
「特に本ガイドは、高血圧、2型糖尿病、脂質異常症、変形性膝関節症を有する人で、かつ状態が落ち着いている人が対象である。」
「身体活動によって悪化する可能性のある合併症・運動器の痛みや変形がある場合があるため、事前に医師等の専門家に相談する。」
この4つが選ばれたのは、有病率が高く、運動が効果的な病気だからです。ガイドによれば、日本の高血圧の有病者は4,300万人で、その約3分の1は治療を受けておらず、自分が高血圧だと気づいてもいません。糖尿病の有病者と予備群を合わせると約2,000万人。レントゲンで膝に変形がある人は2,000万〜2,500万人、そのうち痛みなどの症状がある人は800万人と推定されています。
そして、運動が足りていません。変形性膝関節症では、推奨される身体活動量を満たす人は2割未満。日本の調査でも、膝が痛い人で週150分以上体を動かしている人は35.6%と、痛くない人(51.2%)より少ないことが示されています。
3. 目安は意識して動く30分+生活の30分
ガイドは、持病がある人にも、基本的には成人や高齢者と同じ目安が使えるとしたうえで、こう書いています。
「慢性疾患を有する人では、年齢よりむしろその人の健康状態、身体活動状況・体力レベルにより取り組む内容を選ぶのが現実的です。」
具体的な目安は次のとおりです。
- 病気の改善を目的とした、中くらいの強さの運動を1日30分(「楽である~ややきつい」程度。意識して体を動かす30分)
- それ以外の生活の中の活動を30分。合わせて成人の目安の1日60分(約8,000歩)になる
- 筋力トレーニングを週2〜3日
- 高齢の人や体力が低い人は、合計40分(約6,000歩)を目標に、無理のない強さで始める
- 座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する
根拠として紹介されているのが、2型糖尿病の患者さんを追った日本の研究(JDCS)です。余暇の身体活動がいちばん多いグループは、いちばん少ないグループに比べて、脳卒中の発症と死亡のリスクが有意に低かったと報告されています。そのグループの下限は、中くらいの強さでほぼ1日30分に相当する量でした。
大切なのは、今の自分から始めることです。ガイドは、強さはふだんの日常生活のレベルから始め、無理のない強さ・時間・頻度から少しずつ増やすよう勧めています。
4.【核心】4つの病気で、やり方が違う
ガイドには、4つの病気ごとに、運動の根拠の強さ・目安・注意点をまとめた表があります。
「膝の痛み」は変形性膝関節症のことです。根拠の強さは、ガイドが整理したレビューの結果です。
高血圧——なるべく毎日
ガイドは、「運動による急性効果(すぐに現れる効果)の持続時間はほぼ1日なので、なるべく毎日実施します。」としています。運動の降圧効果は、その日のうちに薄れていく。だから週末にまとめるより、毎日少しずつのほうがよいということです。一方で、「高強度・高用量で出血性脳卒中のリスクの可能性あり、推奨量以上は慎重にする。」とも書かれています。たくさんやるほどよい、ではありません。家庭血圧の測り方は家庭血圧の記事で書いています。
2型糖尿病——2日以上あけない
糖尿病では、インスリンの効きを良くすること(インスリン抵抗性の改善)を期待して、「運動を行わない日が2日以上続かないようにします。」。有酸素運動と筋力トレーニングは、禁忌でなければ両方行い、日常の座る時間を長くしない、軽い活動を合間に入れる、と表にあります。血糖の数値の読み方は糖尿病予備軍の記事をご覧ください。
脂質異常症——有酸素運動が中心
ガイドは、「週150分以上の定期的な中強度の有酸素性身体活動は脂質異常症を改善させる。」としています。筋力トレーニングについては、脂質を改善させるかどうかは不明瞭だが、筋力と身体機能を高め、生活機能の維持・向上が期待できるという位置づけです。閉経後に数値が上がる仕組みは閉経とコレステロールの記事で書きました。
膝の痛み——動いたほうがいい
変形性膝関節症では、運動は痛みの改善や身体機能の改善に強いエビデンスがあるとされ、陸上でも水中でも、有酸素運動・筋トレ・柔軟運動・太極拳やヨガなどの心身の運動のいずれも痛みの軽減や身体機能の向上に効果があるとしています。目安は「指導下の運動では週に3回以上の実施が疼痛軽減に効果的。8~12週計24回以上が目安。」。ただし、運動で悪化する痛みがある、変形が強い、歩くのが不安定な人は事前の確認が必要です。膝については変形性膝関節症の記事も参考にしてください。
5. 始める前に、医師に確認したいこと
ガイドの「安全に行うためのポイント」は、新しく運動を始めるときには、病気の有無や状態、何をしたいのか、ふだんの活動量をふまえて判断し、必要に応じて医療機関で運動前の健康チェック(メディカルクリアランス)を受けるよう勧めています。病気ごとに、特に注意が書かれているのは次の点です。
- 高血圧:III度高血圧(診察室で180/110以上、家庭で160/100以上)の場合は、薬で血圧をコントロールしてから運動を始める必要がある
- 糖尿病:「糖尿病では、仮に冠動脈疾患があっても典型的な胸痛などの症状が出ない場合があるため、丁寧な確認が必要です。」腎症や自律神経障害がある場合は、症状がなくても運動負荷試験が推奨される
- 糖尿病で運動が禁忌になる場合:増殖性網膜症がある、血糖が極端に悪い(例えば空腹時血糖250mg/dL以上、尿ケトン体が中等度以上の陽性)、高度の神経障害や壊疽がある
- 運動で悪化する腰痛・膝痛・関節の変形:あらかじめ医師に相談し、低い強度・短い時間から、その場所に負荷がかからない運動を選び、筋トレやバランス運動を加える
ガイドには、運動を始める前の健康チェックシートも載っています。心臓病や高血圧と言われて運動制限があるか分からない、慢性疾患の薬を飲んでいて運動時に注意が必要か分からない、安静時や運動中に胸の痛みを感じることがある、といった場合は、受診して確認してください。チェックシートの詳しい項目は座りすぎと歩数の記事でも紹介しています。
6. 飲んでいる薬で、気をつけること
持病がある人の運動で見落とされやすいのが、薬との関係です。ガイドは、薬ごとに注意点を挙げています。
β遮断薬などで脈が上がりにくい人は、脈拍ではなく「楽である~ややきつい」という自分の感覚(主観的運動強度)を目安にします。
特に覚えておきたいのは、スタチンを飲み始めてから筋肉痛や力が入りにくい感じが出た場合です。運動のせいだと思い込まず、主治医に伝えてください。また、薬が変わったり追加されたりしたときは、運動の指導を受けている人にも伝えるようガイドは勧めています。
7. 運動の日は、まず血圧を測る
ガイドは、毎回の運動の前に、家を出る前の体調確認を習慣にするよう勧めています。そして、血圧についてはこう書いています。
「血圧が高めの人は、体調を確認するとともに、血圧(脈拍も)を測り、記録することを習慣化しましょう。」
「運動前の血圧が160/100mmHg以上のときは、運動を行う場合であっても、散歩程度の軽い運動にとどめます。180/110mmHg以上のときは、運動は控えて休養をとります。」
過度に血圧が高いときに運動すると、さらに血圧が上がり、心血管の病気のリスクになることがあるため、とガイドは説明しています。
ガイドの体調確認のチェックリストには、足腰の痛みが強い、熱がある、体がだるい、頭痛やめまいがする、睡眠不足で体調が悪い、少し動いただけで息切れや動悸がする、胸が痛い、(夏は)熱中症警報が出ているなどの15項目が並んでいます。1つでも当てはまれば、無理をせず休む。必要なら医療機関を受診します。
この章で扱った運動前に血圧を測る道具です。厚生労働省の身体活動・運動ガイド2023は、血圧が高めの人に「血圧(脈拍も)を測り、記録することを習慣化しましょう。」としています。
※ 当サイトは、記事のなかで根拠を示したうえで推奨したものに限り広告を掲載しています。ここで紹介しているのは、タニタの上腕式血圧計 BP-222(医療機器認証番号 227AABZX00085000)です。この型番は、日本高血圧学会の「血圧計の試験結果に関する集計」(2025年)に、臨床試験の規格による試験結果とともに掲載されています。メーカーによると、直近2回の測定値の平均を表示する機能と、60回分の記録機能があります。脈の乱れを知らせるマークは、メーカーも不整脈の診断・判定をするものではないとしています。腕の太さによってはカフが合わないことがあるので、購入前に確認してください。測るのは5分以上安静にしてからです。測った値は記録して受診のときに見せ、自己判断で降圧薬を減らしたりやめたりしないでください。
8. 🚨 すぐに運動をやめるサイン
運動中に次の症状が出たら、ただちに中止(ガイドの記述から)
・胸の痛み ・動悸 ・冷や汗
・強い空腹感やふるえ(低血糖のことがあります)
・めまいやふらつき ・いつもと違う強い疲れ
・関節や筋肉の強い痛み
胸の痛みや冷や汗が休んでも治まらない場合は、すぐに医療機関を受診してください。糖尿病の人は、心臓の病気があっても典型的な胸の痛みが出ないことがあるため、いつもと違う息切れや疲れにも注意が必要です。
ほかにも、ガイドは次のことを勧めています。
- ある程度の強さの運動の前には準備運動、後には5〜10分の整理運動(クールダウン)。急にやめると血圧が下がり、めまいや失神、不整脈が起こることがある
- 運動中も15分に1回程度の水分・塩分の補給
- 「翌日の日常生活に支障が出るような疲れが生じるときは、強度や量が過剰となっています。」次からは控えめに
9. どこで、誰に相談するか
ガイドは、この章を運動療法そのものに使えるかという問いに、基本的な考えや目安を知るには有用だが、個別の状況に合わせた最も効果的な方法を考えるにはさらにきめ細かい運動処方が必要だと答えています。相談先として挙げられているのは次のとおりです。
- かかりつけの医師や、地域の健康スポーツ医:ガイドは、詳しくはこうした医師に相談するよう勧めている
- 指定運動療法施設:厚生労働大臣認定の健康増進施設のうち、運動療法を行うのに適した施設
- 医療法42条施設:医療法人が運営する、病気の予防のための運動施設
また、ガイドは、運動を始めて新たに病気が疑われた場合は医療機関を受診し、その場合も通常は日常生活レベルの活動はできるので、できることは続けながら受診するのがよいとしています。座っている時間が長い人は、30分に1回、短時間でも体を動かすことも効果的です。
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 高血圧・糖尿病・脂質異常症・膝の痛みがあっても、状態が落ち着いていれば運動は勧められる
② 目安は意識して動く30分+生活の30分。筋トレは週2〜3日。体力が低ければ合計40分から
③ 高血圧はなるべく毎日、糖尿病は2日以上あけない、脂質は有酸素運動、膝は動いたほうがいい
④ 糖尿病の薬・降圧薬・利尿薬・血液をサラサラにする薬・スタチンは、それぞれ注意点がある
⑤ 運動前の血圧が160/100以上なら散歩程度、180/110以上なら休む
⑥ 胸の痛み・動悸・冷や汗・ふるえが出たら、ただちに中止
10. よくある質問
高血圧の薬を飲んでいますが、運動しても大丈夫ですか?
状態が落ち着いていれば、運動は勧められます。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、高血圧は運動による改善に強いエビデンスがあるとし、効果の持続がほぼ1日なので、なるべく毎日行うよう勧めています。ただし、診察室で180/110mmHg以上(家庭で160/100mmHg以上)の場合は、まず薬で血圧をコントロールしてから運動を始めます。β遮断薬などで脈が上がりにくいことがあるため、脈拍ではなく自分の感覚で強さを調整してください。始める前に主治医に確認しましょう。
運動する日の朝、血圧が高いときはどうすればいいですか?
ガイドは、運動前の血圧が160/100mmHg以上のときは、運動を行う場合であっても散歩程度の軽い運動にとどめ、180/110mmHg以上のときは運動を控えて休養をとるとしています。血圧は5分以上安静にしてから測ります。血圧が高めの人は、体調の確認とあわせて血圧と脈拍を測り、記録することを習慣にするよう勧められています。高い値がくり返す場合は受診してください。
糖尿病の人は、どのくらいの頻度で運動すればいいですか?
ガイドは、2型糖尿病では、インスリン抵抗性の改善を期待して、運動を行わない日が2日以上続かないようにするとしています。週150分以上(1日30分以上)の中強度の運動に加え、筋力トレーニングを週2〜3日、禁忌でなければ有酸素運動と筋トレの両方を行います。インスリンやインスリンの分泌を促す薬を使っている人は低血糖に注意が必要です。増殖性網膜症がある場合や、血糖が極端に悪い場合などは運動が禁忌になるため、主治医に確認してください。
膝が痛いのですが、運動したほうがいいですか?
ガイドは、変形性膝関節症について、運動は痛みの改善や身体機能の改善に強いエビデンスがあるとしています。陸上や水中での有酸素運動、筋力トレーニング、柔軟運動、太極拳やヨガなどのいずれも効果があり、指導を受けて行う運動では週3回以上、8〜12週で計24回以上が目安です。ただし、運動で悪化する痛みがある人、変形が強い人、歩行が不安定な人は、あらかじめ医師に相談し、低い強度・短い時間から始めてください。
コレステロールの薬(スタチン)を飲んでいます。運動で気をつけることはありますか?
ガイドは、スタチン系の脂質異常症治療薬を使っているときに、筋力低下や筋肉痛をきたすことがあるため注意が必要としています。運動を始めてから筋肉の痛みや力の入りにくさが出た場合は、運動のせいと決めつけず主治医に伝えてください。脂質異常症では、週150分以上の定期的な中強度の有酸素運動が改善につながるとされています。
参考にした主な資料
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」2024年1月(慢性疾患を有する人の身体活動のポイント〈高血圧、2型糖尿病、脂質異常症、変形性膝関節症〉、身体活動・運動を安全に行うためのポイント)
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