1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| 傷は消毒液で消毒するのがいちばん | 感染予防には水道水による洗浄が有効。消毒薬は必ずしも必要ではない(1B) |
| 貼るタイプの絆創膏のほうが必ず早くよくなる | 被覆材と軟膏は、傷の状態に応じて選べばどちらも有用。どちらが優れているとは結論できない |
| 化膿しないよう、抗生物質を飲んでおく | 持病がなく深い組織の損傷もない単純な傷では、予防の抗生物質は有効とはいえない |
| 破傷風のワクチンは子どものときに打った | 抗体を持つ人は40代後半〜50代後半で平均25%前後、60代以降で約11% |
| かまれた傷も、まず消毒 | 動物にかまれた傷も早く洗うことが基本。消毒は推奨されない |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
けがをしたら、まず水道水でよく洗う。そして、土や錆で汚れた傷、深い傷、動物にかまれた傷は、受診して破傷風の予防が必要かどうかを相談してください。40代以上の方は、子どものころのワクチンだけでは足りないことが多いからです。
2. けがをしたら、まず水道水で洗う
この記事で主に使う資料は、日本形成外科学会・日本創傷外科学会・日本頭蓋顎顔面外科学会の「形成外科診療ガイドライン 3 2021年版 創傷疾患」のうち、急性創傷(けが)の章です。切り傷・すり傷・刺し傷の手当てから、動物やダニ・ハチまで、臨床の問い(CQ)に答えています。
まず、傷を何で洗うか(CQ2)。ガイドラインの答えはこうです。
「創傷部の感染予防には水道水による洗浄が有効であり,消毒薬や生理食塩水を洗浄に用いることは必ずしも必要ではない。」(推奨の強さと根拠 1B:強い推奨,中程度の根拠)
根拠として、複数のランダム化比較試験が紹介されています。
| 比べたもの | 結果 |
|---|---|
| 生理食塩水・ポビドンヨード(消毒液)・別の洗浄液(531人) | 感染率は6.9%・4.3%・5.6%で、差はなかった |
| 水道水と生理食塩水(625人) | 感染率は3.5%と6.4%で、差はなかった |
| 水道水と生理食塩水(3施設・715人) | 感染率は4%と3.3%で、差はなかった |
日本の水道水については、水質基準で大腸菌群は検出されないことなどが定められていて、ガイドラインは「本邦の水道水中に含まれる細菌の量は他国と比較して多いことはないと考えられる。」としています。
やけどの応急手当も、まず水道水で冷やすことから始まります(→やけど)。
家庭では、流水で、砂や土などの汚れをよく洗い流すことが第一歩です。ただし、ガイドラインは今後の課題として、流水がよいか、圧をかけるかなど具体的な洗い方はまだ検討が必要としています。洗っても取れない異物や、深くて血が止まらない傷は受診してください(10章)。
3.【核心】40代からは、破傷風の抗体が少ない
破傷風は、けがをきっかけに起こる感染症です。ガイドラインは、成人の破傷風はほとんどがけがによるもの(創傷性破傷風)で、「極めて些細な外傷からの感染が多い。」としています。大きなけがだけの病気ではありません。
日本では、破傷風のワクチン(三種混合など)を子どものころに定期接種で受けます。では、大人になってからの抗体はどうか。ガイドラインが紹介している国内の調査(2008年度)の結果です。
棒の長さは、ガイドラインに書かれた数値(40代後半〜50代後半は「平均25%前後」)をもとに描いています。
子どもから30代までは高い抗体が保たれている一方、40代以上でがくんと下がっています。ガイドラインは、日本で破傷風の予防接種が始まった1968年より前に生まれた人や、何らかの理由で接種を中断して基礎免疫を持っていないと考えられる人、糖尿病を合併している人、傷の状態から必要と考えられる人には、破傷風の予防を行うことは有効としています(CQ5)。
参考として、米国の予防接種諮問委員会(ACIP)の基準も紹介されています。きれいで小さな傷でも、過去の接種回数が分からない・3回未満、または最後の接種から10年以上たっている場合は、破傷風トキソイド(ワクチン)の接種を勧めています。米国の調査では、破傷風で亡くなった人は全員55歳以上でした。
自分が何回、いつ破傷風のワクチンを受けたか、覚えている方は少ないと思います。汚れた傷や深い傷で受診したときは、「破傷風の予防は必要ですか」と聞いてみてください。大人のワクチンについては大人の肺炎球菌ワクチンでも書いています。
4. 貼るか、塗るか——被覆材と軟膏はどちらも有用
洗ったあと、傷をどう覆うか。ガイドラインは、貼るタイプの創傷被覆材と、軟膏をつけたガーゼを比べています(CQ3)。
「創部の状態に応じて適切に選択すれば,皮膚外用剤と創傷被覆材のどちらも有用である。」(2C:弱い推奨,弱い根拠)
研究の結果は分かれています。創傷被覆材のほうが治癒までの期間や治癒率で優れていたという試験がある一方、治癒までの期間や交換時の痛みに差がなく、材料費や手間を含めるとガーゼのほうが安いという試験もありました。ガイドラインは「どちらが優れていると結論づけることはできない。」とまとめています。
ガイドラインは、動物にかまれた傷の章でも、傷を乾かさずに覆う湿潤療法について、「創傷全般に対する湿潤療法については,従来のガーゼドレッシングに比べ感染を増悪させることはないとの報告は多く」と書いています。
野外で皮膚に食い込んだマダニの取り方と、受診したい症状についてはマダニに刺されたらで書いています。
この章で扱った貼るタイプの創傷被覆材です。形成外科診療ガイドラインは、切り傷・すり傷について「創部の状態に応じて適切に選択すれば,皮膚外用剤と創傷被覆材のどちらも有用である。」としています。どちらかが優れているという結論ではありません。
※ 当サイトは、記事のなかで根拠を示したうえで推奨したものに限り広告を掲載しています。ガイドラインは特定の銘柄を推奨しているわけではありません。ここで紹介しているのは、ハイドロコロイド素材の絆創膏「バンドエイド キズパワーパッド」(ふつうサイズ・60mm×20mm)で、販売店の表示では管理医療機器(承認番号 225ADBZI00048000)です。販売店に掲載されている注意事項では、貼る前に傷を水道水などでよく洗浄すること、感染がみられる傷、かさぶたができている傷には使用しないこと、傷より大きいサイズを選ぶこと、糖尿病や血行障害の治療を受けている人は使用について医師に相談すること、2歳以下の乳幼児には使用しないこととされています。にきび・湿疹・虫さされ・皮膚炎には使用できません。深い傷、汚れが取れない傷、動物にかまれた傷は、貼る前に受診してください。感染が疑われる様子が出てきたら使用をやめ、受診してください。
5. 抗生物質は、単純な傷には要らない
「化膿しないように、抗生物質を飲んでおきたい」と考える方もいます。ガイドラインの答えは次のとおりです(CQ4)。
「基礎疾患を伴わない骨や深部組織などの損傷がない単純な創傷では,予防的抗生物質投与によって感染の発生率には差を認めず,有効とはいえない。」
持病がなく、骨や深いところに傷が及んでいない切り傷なら、抗生物質を飲んでも化膿の予防にはならない、ということです。大切なのは、よく洗うことのほうです。汚れた傷についても、ガイドラインは塗る抗生剤だけでは有効でないとしています(CQ10)。
6. 汚れた傷・動物にかまれた傷
土や錆で汚れた傷、つぶれたような傷(挫滅創・汚染創)でも、ガイドラインは「水道水による洗浄は有効である。」(CQ9、1B)としています。そのうえで、明らかな壊死した組織や異物は取り除くことが望ましく(CQ11、1B)、縫うかどうかは、けがから6〜8時間以内に十分な洗浄などが行われたかが目安の一つになっています(CQ12)。汚れた傷は、自分で洗ったうえで早めに受診してください。
犬や猫にかまれた傷について、ガイドラインはこう書いています。
「動物咬傷で創部消毒が細菌感染率を低下させるというエビデンスはない。また,消毒薬あるいは殺菌薬による組織障害が懸念されるため,推奨されない。ただし,狂犬病感染が危惧される場合は使用してもよい。受傷早期に洗浄することが基本である。」
動物の口の中には多くの種類の菌がいるため、洗浄が有効とされています(CQ45)。動物にかまれた傷でも、予防接種歴や傷の汚れに応じて破傷風の予防接種を行うことが有効とされています(CQ42)。かまれた傷は、洗ったあとに受診してください。
7.【内科医の視点】糖尿病の方は、小さな傷でも
内科医として、ここはぜひ知っておいてほしいところです。ガイドラインは、破傷風の予防を考えるときの条件として、年齢・傷の状態・ワクチン接種歴と並んで糖尿病の合併を挙げています(CQ5)。米国の調査でも、糖尿病や免疫が抑えられた状態は破傷風のリスクファクターとされています。
抗生物質についても、ガイドラインが「有効とはいえない」としたのは基礎疾患を伴わない単純な傷の場合でした。持病がある方は、自己判断せずに受診して相談してください。また、貼るタイプの被覆材の注意書きにも、糖尿病や血行障害の治療を受けている人は使用について医師に相談するよう書かれています。
糖尿病の方、健診で血糖値を指摘されている方は、小さな傷でも様子を見すぎないことが大切です。血糖値の読み方は糖尿病予備軍で書いています。
8. ダニとハチ——庭仕事・山歩きの季節に
ガイドラインの急性創傷の章には、虫による傷も含まれています。
ダニ(CQ54)。ガイドラインは、ダニにかまれた疑いがある場合は「早期の医療機関受診を行い創状態の評価,専門医の診察を受けることが望ましい。」としています。ダニにかまれるのは春から夏に多いとされ、ダニが媒介する感染症として、ライム病、日本紅斑熱、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などが挙げられています。
ハチ(CQ55)。ガイドラインは、ハチに刺されたときのステロイドの塗り薬はかゆみや腫れなどの局所の対症療法にとどまるとし、「治療の重心はアナフィラキシーショックの有無,治療である。」としています。治療の第一選択はアドレナリン(エピペン)です。刺されたあとに具合が悪くなった場合は、アナフィラキシーのおそれがあるので、すぐに救急を受診してください。
9. 推奨の強さを一覧で見る
| 問い | 答え | 強さ |
|---|---|---|
| 傷を洗うのは、消毒薬より水道水? | 水道水による洗浄が有効。消毒薬は必ずしも必要ではない | 1B |
| 汚れた傷を水道水で洗う | 有効 | 1B |
| 貼る被覆材か、軟膏か | 状態に応じてどちらも有用 | 2C |
| 破傷風の予防 | 年齢・傷・接種歴・糖尿病を考えて行うことは有効 | 2C |
| 単純な傷に予防の抗生物質 | 有効とはいえない | — |
| 動物にかまれた傷の消毒 | 推奨されない。早く洗う | 2D |
| ダニにかまれた疑い | 早く受診するのが望ましい | 2C |
数字は推奨の強さ(1=強い、2=弱い)、英字は根拠の強さ(B=中程度、C=弱い、D=とても弱い)です。水道水で洗うは、この章の中でも根拠のしっかりした推奨です。
10. 🚨 受診したほうがよいとき
医療機関で診てもらいたいとき(資料の記述から)
・土や錆で汚れた傷、洗っても汚れや異物が取れない傷(早めの洗浄・処置が大切。縫うかどうかは時間も目安に)
・深い傷、骨や深いところまで及んでいそうな傷、刺し傷
・犬や猫などにかまれた傷(洗ったあとに受診)
・汚れた傷・深い傷で、破傷風のワクチンを最後に受けた時期が分からない、1968年より前に生まれた
・糖尿病がある方のけが
・ダニにかまれた疑いがある
・ハチに刺されて具合が悪くなった(アナフィラキシーのおそれ。すぐに救急へ)
縫ったあとの傷あとを目立たなくするためのテープ固定については、傷あと・ケロイドで書いています。
最後に、この記事の要点をもう一度。
① けがをしたら、まず水道水で洗う。消毒薬は必ずしも必要ない(1B)
② 貼る被覆材と軟膏は、どちらも有用
③ 単純な傷に、予防の抗生物質は有効とはいえない
④ 破傷風の抗体は40代後半〜50代後半で平均25%前後。患者の94%は40歳以上
⑤ 汚れた傷・深い傷・かまれた傷は、受診して破傷風の予防を相談
⑥ 糖尿病の方は、小さな傷でも様子を見すぎない
11. よくある質問
切り傷やすり傷は、消毒したほうがいいですか?
日本形成外科学会など三学会の形成外科診療ガイドライン(2021年版)は、傷の感染予防には水道水による洗浄が有効で、消毒薬や生理食塩水を洗浄に用いることは必ずしも必要ではないとしています(推奨の強さ1B)。複数のランダム化比較試験で、水道水と生理食塩水、消毒液の間で感染率に差がなかったと紹介されています。まず流水で汚れをよく洗い流してください。
破傷風のワクチンは、大人も受けたほうがいいですか?
形成外科診療ガイドラインが紹介している国内の調査では、破傷風を防げる抗体を持つ人は40代後半〜50代後半で平均25%前後、60代以降で約11%と低く、破傷風を発症した人の94%は40歳以上でした。ガイドラインは、1968年より前に生まれた人、基礎免疫を持っていないと考えられる人、糖尿病のある人などに、けがのあと破傷風の予防を行うことは有効としています。汚れた傷や深い傷で受診したときに相談してください。
傷には、貼るタイプの絆創膏と軟膏のどちらがいいですか?
形成外科診療ガイドラインは、切り傷・すり傷について、傷の状態に応じて適切に選べば、軟膏などの外用剤と創傷被覆材のどちらも有用としています(2C)。研究の結果はさまざまで、どちらが優れていると結論づけることはできないとしています。貼るタイプを使う場合は、製品の注意書きに従い、感染がみられる傷には使わないでください。
化膿しないように抗生物質を飲んだほうがいいですか?
形成外科診療ガイドラインは、持病がなく、骨や深い組織に損傷がない単純な傷では、予防的に抗生物質を投与しても感染の発生率に差がなく、有効とはいえないとしています。糖尿病などの持病がある方や、深い傷、汚れた傷、動物にかまれた傷は、受診して相談してください。
犬や猫にかまれたら、どうすればいいですか?
形成外科診療ガイドラインは、動物にかまれた傷では消毒が感染率を下げるというエビデンスはなく、組織を傷める心配もあるため推奨されないとし、受傷早期に洗浄することが基本としています。予防接種歴や傷の汚れに応じて破傷風の予防接種を行うことも有効とされています。よく洗ったあと、医療機関を受診してください。
参考にした主な資料
- 日本形成外科学会・日本創傷外科学会・日本頭蓋顎顔面外科学会「形成外科診療ガイドライン 3 2021年版 創傷疾患」(改訂第2版・金原出版、2021年9月30日発行。第Ⅰ編 急性創傷診療ガイドライン:CQ2〜CQ5・CQ9〜CQ12・CQ42・CQ45・CQ46・CQ54・CQ55・CQ57)。Minds ガイドラインライブラリで本文公開中