1. 先に結論
| よくある思い込み | 手引きの記述 |
|---|---|
| 膿があるから、ばい菌の病気 | 膿疱は無菌性。膿疱の中で細菌が増えているわけではない |
| 皮膚の病気だから塗り薬だけ | 悪化に関わるのは体のどこかの感染(歯・扁桃など)と喫煙。これらの治療が治療の主軸 |
| 歯は痛くないから関係ない | 原因になる歯の病巣は無症状のことが多い |
| 金属アレルギーだから、歯の金属を外せばよい | 金属の除去は、歯の病巣や扁桃を治療しても良くならない場合に検討する(推奨度C1) |
| たばこは関係ない | 患者の喫煙率は70〜90%。続けると治療が効きにくいので禁煙を勧める(推奨度B) |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
掌蹠膿疱症は、皮膚科で塗り薬をもらって終わりにしないでください。たばこをやめること、そして歯科(必要なら耳鼻咽喉科)で隠れた感染を探してもらうことが、手引きが推奨度Bで勧めている対策です。
2. どんな病気か——膿疱の中に細菌はいない
この記事で主に使う資料は、日本皮膚科学会の「掌蹠膿疱症診療の手引き2022」です。日本で初めての、この病気の診療の手引きです。
手引きは、掌蹠膿疱症を手のひらと足の裏、あるいはそのどちらかに、新旧の無菌性の膿疱が多発する病気と定義しています。膿疱にまじって水疱(水ぶくれ)がみられることもあり、出ては消えをくり返しながら、慢性に経過します。膿疱をくり返すうちに、赤み(紅斑)や皮むけ(鱗屑)を伴うようになり、爪が厚くなるなどの変化や、手足以外(ひじ・ひざ・すねなど)に皮疹が出ることもあります。
ここで大事なのは、膿疱が「無菌性」だという点です。黄色い膿に見えますが、その中で細菌が増えているわけではありません。
手引きによれば、厚生労働省のレセプトデータから日本の患者は約14万人と推定され、男性より女性に多く、中年以降に発症のピークがあります。手のひらや足の裏は人目につきやすく、ひび割れて痛みを伴うことも多いため、患者の生活の質(QOL)が損なわれやすい病気だとも書かれています。
似た見た目の病気として、乾癬、かぶれ(接触皮膚炎)、汗疱(異汗性湿疹)、手や足の水虫(白癬)などがあり、診断ではこれらを除外します。手荒れについては手湿疹、水虫は足白癬・爪白癬の記事も参考にしてください。
乾癬については乾癬の記事で書いています。決してうつらない病気です。
また、手引きは「PPP が自然消退するという確固たるエビデンスはない.」としています(PPPは掌蹠膿疱症の略)。自然に消えるのを待つだけでは、良くなる保証はないということです。
3.【核心】悪化に関わる2つ——隠れた感染と、たばこ
手引きは、掌蹠膿疱症の発症や悪化に関わるものとして病巣感染と喫煙習慣の2つを特に重要とし、これらの治療がPPPまたはPAOの治療の主軸を成すと書いています(PAOは後で説明する骨や関節の症状)。
「病巣感染」とは、体のどこかに無症状か軽い感染があり、その慢性の炎症が離れた場所(ここでは手足の皮膚や骨・関節)に影響を及ぼす状態をいいます。
病巣感染について、手引きは、日本の患者では病巣扁桃、歯の病巣、慢性副鼻腔炎など無症状の病巣が発症に関わる例が多いとし、何らかの感染病巣が見つかる頻度は80%以上とする報告が多いと書いています。ただし、病巣の多くは無症状で気づかれにくく、ふつうの問診や、耳鼻咽喉科・歯科のふだんの受診では見つからないことがあるとも注意しています。
病巣を治療すると、皮膚の症状は1〜2年という早い段階で治癒する、または軽くなること、骨や関節の症状も軽くなることが報告されています。対症療法だけでは、治癒までに7〜13年かかるという報告もあります。
4. 禁煙は「推奨度B」
手引きは、禁煙について2つの問いを立て、どちらも推奨度B(行うよう勧められる)としました。
禁煙は皮疹の改善のために勧めるべきか(CQ1-7)——「喫煙を継続した場合には,治療効果が得られにくいことも明らかとなっており,治療効果を高めるためにも,禁煙を勧めるべきである.」
禁煙した喫煙患者を追った前向きの研究は1件しかないものの、禁煙後、数か月で明らかな症状の軽減がみられたと紹介されています。また、たばこの煙の成分が体の免疫の仕組みを通じて発症に関わる経路も明らかになってきた、としています。
一方で、手引きは率直にこうも書いています。「禁煙のみで治癒する例はむしろ稀である一方で,喫煙は治療反応性に関わり」。禁煙だけで解決するわけではない。けれど、吸い続けていると、ほかの治療が効きにくい——だから禁煙が土台になる、ということです。後で説明する扁桃の摘出でも、吸わない人・禁煙した人のほうが改善率が高いことが報告されています。
骨や関節の症状についての問い(CQ1-8)では、禁煙を推奨したうえで、こう付け加えています。「必要に応じて医療的な介入(禁煙外来)を検討する.」ニコチン依存があるため、自力での禁煙は難しいことが多いからです。禁煙外来は、条件を満たせば健康保険で受けられます。かかりつけの医師に相談してみてください。
この章で扱った禁煙を手助けする市販薬です。掌蹠膿疱症診療の手引き2022は、禁煙を推奨度B(行うよう勧められる)としています。手引きが挙げているのは禁煙外来で、この市販薬は手引きに名前の出ている製品ではありません。
※ 当サイトは、記事のなかで根拠を示したうえで推奨したものに限り広告を掲載しています。ここで紹介しているのは、ニコチンを皮膚から補う禁煙補助薬「ニコチネル パッチ20」(第1類医薬品・販売元 佐藤製薬)です。添付文書の効能は「禁煙時のイライラ・集中困難・落ち着かないなどの症状の緩和」で、掌蹠膿疱症の薬ではありません。購入時には薬剤師による確認があります。添付文書では、妊娠中・授乳中の人、3か月以内に心筋梗塞を起こした人、重い狭心症や重い不整脈と診断された人、急性期の脳梗塞・脳出血と診断された人、うつ病と診断されたことのある人などは使用しないこととされています。使い方は、最初の6週間はパッチ20、次の2週間はパッチ10を1日1枚で、連続して8週間を超えて使用しないこととされています。使用中の喫煙はしないでください。掌蹠膿疱症の皮疹がある場所や、かぶれ・傷のある場所には貼らないでください。持病のある方、治療中の病気がある方は、使う前に医師または薬剤師に相談するか、禁煙外来を利用してください。
5. 歯の治療で、70〜90%に改善
手引きは、歯の病巣の治療(CQ2-1-1)も推奨度Bとしました。
「本邦例において歯性病巣感染は発症契機として最多であり,治癒も含めた高い有効性が報告されているため,皮疹の重症度と歯科治療の侵襲を考慮したうえで行うよう勧められる.」
原因になる歯の病巣には、次の3種類があり、いずれも無症状のことが多いとされています。
- 根尖性歯周炎:むし歯が進み、歯の根の先に炎症が及んだもの(神経を取った歯の根の先にできることも多い)
- 中等症以上の歯周炎:歯を支える骨が溶けるほどの歯周病(いわゆる歯槽膿漏)
- 智歯周囲炎:親知らずのまわりの炎症
手引きによれば、「本邦例の70~90%で歯性病巣の治療により皮膚症状の治癒または改善がみられる」。掌蹠膿疱症の患者で歯の病巣が見つかる割合は47〜96.7%、歯の病巣の治療の有効率は64.5〜80.0%と報告されています。
ただし、注意点があります。痛みのない病巣は、パノラマのエックス線写真で骨が溶けた影として見つけますが、歯科では治療が必要な病巣はないと判断されることが少なくないと手引きは指摘しています。歯科を受診するときは、掌蹠膿疱症で、病巣の検索を勧められたことをはっきり伝えてください。歯周病については歯と口の健康の記事で書いています。
6. 扁桃の摘出という選択肢
扁桃の摘出(CQ2-1-2)も推奨度Bです。ただし位置づけは、「保存的治療に反応しない症例に対して,治療選択肢のひとつとして挙げることができる.」です。
- 摘出後の皮疹の改善率は、報告によって80%前後(60.8〜89%)と高い
- 効果は術後1か月から現れ、術後1年で消える例が多い。再燃は少ない
- 吸わない人・禁煙した人のほうが改善率が高いため、手術の前後の禁煙が推奨されている
- 扁桃が大きいといった見た目では、有効かどうかは予測できない(CQ2-1-3)
全身麻酔の手術で、術後の出血などの合併症もあるため、手引きは耳鼻科医との十分な連携のもとで考える治療としています。かぜをひいたあとに皮疹が明らかに悪化する方は、皮膚科で相談してみてください。
7. 歯の金属は、すぐに外さない
「金属アレルギーが原因だから、歯の詰め物の金属を全部外したほうがいい」という話を聞いたことがあるかもしれません。手引きの立場は慎重です(CQ2-6・推奨度C1)。
「扁桃摘出,歯周病を含めた歯性病巣の治療をしても改善しない場合に,歯科金属の除去もしくは食事により経口摂取される金属の制限を検討してもよい.」
理由として、手引きは次のことを挙げています。
- 金属の除去と同時に歯の病巣の治療も行われることが多く、金属を外したから良くなったのか、歯の治療が効いたのか区別が難しい
- 金属の除去だけで良くなった例は数%にすぎないという報告がある
- 金属のパッチテストが陽性でも、それが原因とは限らない。パッチテストの結果だけで金属を外すべきではない
- 金属の除去は経済的・身体的な負担が大きく、食事の制限は生活の質を下げるおそれがある
順番は、禁煙と歯の病巣の治療が先、金属はその後です。金属アレルギーそのものについては接触皮膚炎(かぶれ)の記事で書いています。
8. 塗り薬と、そのほかの治療
症状を抑える治療の中心は、皮膚科で処方される塗り薬です。
禁煙・歯の病巣の治療・扁桃の摘出・歯科金属の除去の推奨度には、委員会の合意で決めたことを示す印(*)がついています。紫外線療法は、PUVA・NB-UVB・エキシマライトの3つがいずれもC1です。
ステロイドの塗り薬(推奨度B)は、手のひらや足の裏は角質が厚く薬が浸透しにくいため、一般に強いランク(very strong以上)が必要とされます。皮膚が薄くなるなどの局所の副作用に注意しながら使います。活性型ビタミンD3の塗り薬(推奨度B)は、ステロイドとの併用や、良くなってきたときの切り替えに使われます。
サプリメントとしても売られているビオチンについては、推奨度C1で、「病巣感染など他の発症契機に関わる要因の検索と治療を行ったうえで,補助的療法として高用量療法が有効なことがある.」という位置づけです。研究で使われたのは医師の管理のもとでの高用量で、自己判断で始めるものではありません。
膿疱が気になってつぶしたくなるかもしれませんが、手引きは中身を出したほうが経過が良くなるという明らかな根拠はないとしています(推奨度C2)。
9.【内科医の視点】糖尿病・甲状腺も確認を
手引きは、掌蹠膿疱症の治療に影響しうる病気として自己免疫性甲状腺炎(バセドウ病・橋本病)、糖尿病などを挙げ、コントロールすべきとしています。そして、「PPP に甲状腺疾患や糖尿病のスクリーニングを行うことを考慮する.」(推奨度C1)としました。
糖尿病の併存率は、スウェーデンの女性の患者では28%、日本とドイツの患者では10%程度と報告されています。
手引きは、甲状腺の病気と同じように、コントロール不良の糖尿病を治療することで掌蹠膿疱症の症状が良くなることがあるとし、内科と連携した治療が必要だとしています。掌蹠膿疱症と言われた方は、健康診断の血糖値・HbA1cを一度確認し、甲状腺の検査を受けたことがなければ相談してみてください。甲状腺については甲状腺の記事、血糖については糖尿病予備軍の記事で書いています。
また手引きは、精神的なストレスがしばしば発症や病勢に影響すること(ドイツの患者では56.4%がストレスによる悪化を経験)にも触れています。
10. 🚨 受診したほうがよいとき
掌蹠膿疱症では、皮膚だけでなく骨や関節に炎症が起こることがあり、掌蹠膿疱症性骨関節炎(PAO)と呼ばれます。手引きの定義でも、前胸部(胸の前、鎖骨のつけ根あたり)の痛みをはじめとする骨関節症状を伴うことがある、とされています。手引きは、PAOは皮膚症状と違って自然に良くなることは期待できず、年々進んで元に戻らない骨や関節の破壊をきたすことがあるため、早くから感染病巣の検索と治療、禁煙指導が必要としています。
皮膚科を受診したいとき(手引きの記述から)
・手のひら・足の裏に、膿疱や水疱が出ては消えをくり返す(水虫やかぶれとの区別が必要です)
・胸の前(鎖骨のつけ根)や背中・腰、手足の関節が痛む(骨関節炎のことがあります)
・かぜや扁桃炎のあとに、皮疹や関節の痛みが明らかに悪化する
・ひび割れや痛みで、歩く・物を持つなど日常生活に支障がある
皮膚科で掌蹠膿疱症と診断されたら、歯科(パノラマのエックス線写真での病巣の確認)、必要に応じて耳鼻咽喉科への受診を相談してください。そして、たばこを吸っている方は、禁煙が最初の一歩です。
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 手のひら・足の裏に無菌性の膿疱をくり返す病気。日本の患者は約14万人
② 中年女性に多く、喫煙者が多い(喫煙率70〜90%)
③ 悪化に関わるのは隠れた感染(歯・扁桃など)とたばこ。その治療が主軸
④ 禁煙・歯の病巣の治療・扁桃の摘出は推奨度B。歯の治療で70〜90%に改善の報告
⑤ 歯の金属は、歯と扁桃の治療のあとに検討(C1)。パッチテストだけで外さない
⑥ 胸の前の痛みは骨関節炎のサイン。糖尿病・甲状腺も確認を
11. よくある質問
掌蹠膿疱症は、人にうつりますか?
日本皮膚科学会の「掌蹠膿疱症診療の手引き2022」は、掌蹠膿疱症を、手のひらと足の裏に新旧の無菌性の膿疱が多発する病気と定義しています。膿疱は黄色い膿に見えますが、その中で細菌が増えているわけではありません。似た見た目の病気に手や足の水虫(白癬)があり、診断ではこれらを除外します。自己判断せず、皮膚科で診断を受けてください。
たばこをやめれば治りますか?
禁煙だけで治癒する例はむしろまれとされています。ただし手引きは、喫煙を続けると治療の効果が得られにくいことが明らかになっているとして、禁煙を推奨度B(行うよう勧められる)で勧めています。患者の喫煙率は70〜90%と高く、禁煙後数か月で症状が軽くなったという研究もあります。扁桃の摘出も、吸わない人や禁煙した人のほうが改善率が高いと報告されています。自力で難しい場合は、禁煙外来の利用が勧められています。
歯医者に行く必要があるのはなぜですか?
手引きによれば、日本の患者では歯の病巣(むし歯が進んだ根の先の炎症、中等症以上の歯周病、親知らずのまわりの炎症)が発症のきっかけとして最も多く、いずれも無症状のことが多いとされています。歯の病巣の治療で70〜90%に皮膚症状の治癒または改善がみられると報告され、推奨度Bで勧められています。痛みのない病巣は歯科で治療不要と判断されることもあるため、掌蹠膿疱症で病巣の検索を勧められたことを伝えて受診してください。
歯の金属を外したほうがいいですか?
すぐに外す必要はありません。手引きは、扁桃の摘出や歯周病を含めた歯の病巣の治療をしても良くならない場合に、歯科金属の除去を検討してもよい(推奨度C1)としています。金属の除去だけで良くなった例は数%にすぎないという報告があること、パッチテストが陽性でもそれが原因とは限らないこと、除去には経済的・身体的な負担があることが理由です。
胸の痛みと関係がありますか?
関係があることがあります。掌蹠膿疱症では、前胸部(胸の前、鎖骨のつけ根あたり)の痛みをはじめとする骨や関節の症状を伴うことがあり、掌蹠膿疱症性骨関節炎(PAO)と呼ばれます。手引きは、PAOは自然に良くなることは期待できず、進むと元に戻らない骨や関節の破壊をきたすことがあるため、早くから感染病巣の検索と治療、禁煙指導が必要としています。胸の痛みがある場合は皮膚科で伝えてください。なお、胸の痛みには心臓の病気など別の原因もあるため、強い痛みや息苦しさを伴う場合はすぐに医療機関を受診してください。
参考にした主な資料
- 日本皮膚科学会 掌蹠膿疱症診療の手引き策定委員会「掌蹠膿疱症診療の手引き2022」日本皮膚科学会雑誌 132(9):2055-2113, 2022(定義と診断、併存症、CQ1-1〜CQ1-10、CQ2-1〜CQ2-6)
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「ニコチネル パッチ20 添付文書情報」(広告の注意書きの出典)