1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| 健診で疑われたら、そのまま前置胎盤 | 妊娠週数が進むと子宮の下部も伸びるので、最終的に胎盤が子宮口から離れて「前置胎盤でない」と診断されることがほとんど |
| 痛くなければ出血は心配ない | 妊娠28週頃を過ぎると、痛みもないのに急に出血する「警告出血」が出現する。約半数が経験し、ときに大量出血になることもある |
| 赤ちゃんが出血している | 警告出血はお母さんの出血。ただし大出血になると、胎盤への血液や酸素の供給が低下し、母児ともに危険な状態になる |
| 状況によっては経腟分娩もできる | 現在は、すべてのタイプの前置胎盤で帝王切開が選択される |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
日本産科婦人科学会は、妊婦健診で前置胎盤が疑われている方は、少しでも性器出血を認めたら、直ちにかかりつけの産婦人科へ連絡するよう呼びかけています。
2. どんな状態か——胎盤が子宮の出口を塞ぐ
日本産科婦人科学会によると、胎盤は子宮の中で赤ちゃん(胎児)に栄養や酸素を届けていて、子宮の内面(内膜)に付着しています。この胎盤が通常より低い位置に付着し、子宮の出口(子宮口)を覆ってしまうと、前置胎盤という状態になります。
- 頻度は、すべての分娩の1%弱といわれている
- 胎盤が子宮の出口を塞いでいるので、経腟分娩することができない
- 途中で胎盤が剥がれて大出血を起こし、赤ちゃんに血液や酸素を届けられなくなる。そのため、分娩は帝王切開が原則
3. なりやすい人
学会によると、前置胎盤の原因はよく分かっていませんが、いくつかのリスク因子が報告されています。
- 年齢が高い
- 喫煙している
- 分娩回数が多い(多産)
- 双子などの多胎妊娠
- 以前に子宮の手術(帝王切開、流産・妊娠中絶、子宮筋腫核出術)を受けたことがある
- 体外受精や顕微授精で妊娠した
- 子宮内膜症・子宮腺筋症を合併している
学会は、最近はこれらのリスクを抱える妊婦さんが増えており、前置胎盤の頻度も増加しているとしています。子宮内膜症については子宮内膜症の記事、子宮筋腫と子宮腺筋症については子宮筋腫・子宮腺筋症の記事、体外受精については不妊症の記事で書いています。
4.【核心】痛みのない「警告出血」
学会は、前置胎盤の症状について次のように書いています。
「最初は無症状で、妊婦健診の経腟超音波検査でたまたま発見される方がほとんどです。ただ、妊娠28週頃を過ぎると、痛みもないのに急に出血する、いわゆる警告出血が出現するようになります。」(日本産科婦人科学会「前置胎盤」)
- 最初は少量の警告出血でも、1〜2週おきに性器出血を繰り返すうちに、徐々に出血量が増え、ときに大量出血になることもある
- 前置胎盤の方の約半数が警告出血を経験する
- 警告出血はお母さんの出血で、赤ちゃんが出血するわけではない。しかし大出血になると、お母さんの血圧が下がり、胎盤への血液や酸素の供給が低下するので、母児ともに危険な状態になる
5. 診断——妊娠32週がひとつの区切り
学会によると、経腟超音波検査で、胎盤が子宮口を塞ぐ位置に見えると、前置胎盤が疑われます。
警告出血を繰り返す場合は、妊娠10か月を待たずに、早い時期で帝王切開をせざるをえないことも多いとされています。
- 妊娠の早い時期に疑われても、妊娠週数が進むと子宮の下部も伸びるので、最終的に胎盤が子宮口から離れて「前置胎盤でない」と診断されることがほとんど
- 妊娠の中期に疑われた場合は、経腟超音波検査を繰り返して胎盤の位置を確認する。子宮口から離れたことを確認できたら、再び子宮口を塞ぐ心配はない
- 妊娠32週までに解消していなければ、それ以降に胎盤が子宮口から離れることは難しい。32週の時点で前置胎盤と診断されたら、本格的に前置胎盤として対応する
- 胎盤の状況を正確に把握するために、MRI検査を追加することもある
6. 4つの分類
学会は、胎盤と子宮口の位置関係による分類を示しています。
| 名称 | 胎盤の状態 | 子宮口を覆う胎盤の端から内子宮口までの距離 |
|---|---|---|
| 全前置胎盤 | 開いた内子宮口の全部を覆う | 2cm以上 |
| 部分前置胎盤 | 開いた内子宮口の一部を覆う | 2cm未満 |
| 辺縁前置胎盤 | 開いた内子宮口の端に達する | ほぼ0cm |
| 低置胎盤 | 開いた内子宮口を覆っていない | 胎盤の端と内子宮口との最短距離が2cm以内 |
出典:日本産科婦人科学会「産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第4版」一部改変(学会「前置胎盤」のページより)
現在は、すべてのタイプの前置胎盤で帝王切開による分娩が選択されます。胎盤の位置が低めの低置胎盤の方は、経腟分娩と帝王切開のどちらにするか慎重な判断が必要なので、担当医とよく相談してくださいと、学会は書いています。
7. 癒着胎盤を合併することがある
学会によると、赤ちゃんが産まれると、胎盤も自然に剥がれて子宮から出てきます。このとき胎盤がうまく剥がれないのが癒着胎盤で、出産時の大量出血(産科危機的出血)の危険性が非常に高い状態です。
- 前置胎盤があると癒着胎盤になりやすく、前置胎盤の5〜10%で癒着胎盤を合併する(前置癒着胎盤)といわれている
- 原因として、子宮の下部は胎盤が剥がれにくいこと、帝王切開などの手術部位で子宮内膜がうまく修復されないと癒着胎盤になりやすいことが挙げられている
- 前置癒着胎盤では多くの場合、帝王切開で赤ちゃんを出したあと、胎盤を剥がさないまま子宮を摘出する(帝王切開時子宮摘出)
- 出産の前に癒着胎盤を正確に診断するのは難しく、最適な治療法(標準医療)も確立されていない
学会は、日本の産科医療は世界有数のレベルにあり、「前置癒着胎盤イコール生命の危機」というわけではないものの、注意深い管理が必要だとしています。
8. 妊娠中の管理と、出産の時期
| 場面 | 資料の記述 |
|---|---|
| どこで管理するか | 妊娠32週までに診断を確定し、早産の時期でも帝王切開や新生児の管理ができる施設で、妊婦健診と分娩管理を受ける |
| 入院 | 警告出血があったら入院し、出産まで入院を続けることが多い。警告出血がない方も、帝王切開に備えて前もって入院することがある |
| 自己血貯血 | 大量出血に備えて、妊娠33〜34週頃から自分の血液を貯めておくことがある |
| 出産の時期 | 警告出血がなければ、妊娠37〜38週に予定帝王切開。警告出血を繰り返す方は、早い時期に帝王切開をせざるをえないことも多い |
| 時期の決め方 | 赤ちゃんの成熟を待っている間に大量出血が起こると母児に危険が迫るため、産婦人科医・小児科医・麻酔科医が相談しながら、最適と思われる時期を決める |
学会は、前置胎盤には帝王切開以外の選択肢がなく、早産期の帝王切開や帝王切開時子宮摘出など、難しい判断を迫られるケースも多いとして、担当医や家族とよく相談するよう呼びかけています。早産については早産の記事で書いています。
9. すぐ連絡したいとき
資料にあるもの
・妊婦健診で前置胎盤が疑われていて、少しでも性器出血があった(直ちにかかりつけの産婦人科へ)
・痛みがないのに、急に出血した(警告出血のことがある)
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 前置胎盤は、胎盤が子宮口を覆う状態。すべての分娩の1%弱で、分娩は帝王切開
② 妊娠中期に疑われても、ほとんどは解消する。32週までに解消しなければ、本格的に対応
③ 28週頃から、痛みのない警告出血に注意。約半数が経験する
④ 前置胎盤の5〜10%で癒着胎盤を合併する
⑤ 警告出血がなければ37〜38週に予定帝王切開。出血を繰り返せば早まることも
10. よくある質問
前置胎盤とは、どんな状態ですか?
日本産科婦人科学会によると、胎盤が通常より低い位置に付着し、子宮の出口(子宮口)を覆ってしまう状態です。頻度はすべての分娩の1%弱といわれています。胎盤が子宮の出口を塞いでいるので経腟分娩はできず、分娩は帝王切開が原則です。
妊婦健診で前置胎盤かもしれないと言われました。このまま前置胎盤ですか?
学会によると、妊娠の早い時期に疑われても、妊娠週数が進むと子宮の下部も伸びるので、最終的に「前置胎盤でない」と診断されることがほとんどです。経腟超音波検査を繰り返して胎盤の位置を確認し、子宮口から離れたことを確認できたら、再び塞ぐ心配はありません。妊娠32週までに解消していなければ、それ以降に離れることは難しいとされています。
警告出血とは何ですか?
学会によると、妊娠28週頃を過ぎると、痛みもないのに急に出血することがあり、これを警告出血といいます。最初は少量でも、1〜2週おきに出血を繰り返すうちに量が増え、ときに大量出血になることもあります。前置胎盤の方の約半数が経験します。少しでも出血したら、直ちにかかりつけの産婦人科へ連絡してください。
どんな人がなりやすいのですか?
学会によると、原因はよく分かっていませんが、年齢が高い、喫煙している、分娩回数が多い、多胎妊娠、以前に子宮の手術(帝王切開、流産・妊娠中絶、子宮筋腫核出術)を受けた、体外受精や顕微授精で妊娠した、子宮内膜症・子宮腺筋症を合併しているといった方は、リスクが高いといわれています。
癒着胎盤とは何ですか?
学会によると、出産後に胎盤がうまく剥がれない状態で、出産時の大量出血の危険性が非常に高い状態です。前置胎盤の5〜10%で合併するといわれ、多くの場合、帝王切開のあとに子宮を摘出する手術が必要になります。
出産はいつになりますか?
学会によると、警告出血がなければ、妊娠37〜38週に予定帝王切開を計画します。警告出血を繰り返す方は、早い時期に帝王切開をせざるをえないことも多いです。産婦人科医・小児科医・麻酔科医が、前置胎盤の状況や妊娠週数を相談しながら時期を決めます。
参考にした主な資料
- 日本産科婦人科学会「前置胎盤」(更新日 2025年1月30日)