1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| 手のしびれは、血行が悪いだけ | すぐ治まるしびれは心配ないが、手根管症候群では朝方に目が覚めたときにしびれや痛みが強くなる |
| 指全部がしびれる | しびれるのは親指から薬指の親指側半分まで。小指はしびれないのが手がかり |
| 年のせいだから仕方ない | 妊娠・出産期や更年期の女性に多い。女性ホルモンの乱れによる腱鞘のむくみが原因と考えられている |
| サポーターを着ければ良くなる | 夜の装具はしびれの改善に「提案」。痛みや日常生活の動作には差がなく、「根本的な治癒は困難」 |
| しびれだけなら様子見でよい | 進むと親指の付け根の筋肉がやせ、元に戻らない変化に進む可能性がある |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
明け方のしびれは、しびれる指を確認してください。親指〜薬指の半分なら手根管症候群が最も疑われます。そして、親指の付け根がやせてきた、OKサインがきれいに作れないとなったら、装具やサポーターで様子を見ず、整形外科を受診してください。
2. 手首の「トンネル」で、神経が圧迫される病気
この記事で主に使う資料は、日本理学療法学会連合がまとめた「理学療法ガイドライン 第2版」の第10章(手関節・手指機能障害)と、日本整形外科学会の一般向けの解説です。
手首の手のひら側には、骨と靱帯に囲まれた手根管というトンネルがあります。日本整形外科学会によれば、ここは伸び縮みのできないトンネルで、その中を1本の正中神経と、指を動かす9本の腱が通っています。このトンネルの中で正中神経が圧迫され、そこに手首の動きが加わって起こるのが手根管症候群です。
ガイドラインは、症状をこう説明しています。
正中神経の領域のしびれや痛みが多く、「夜間,特に明け方に増強する.」手首を動かすとしびれが強くなる。痛みが手首から前腕、ときには二の腕まで広がることもある。
日本整形外科学会は、特徴的な一文を加えています。「手を振ったり、指を曲げ伸ばしするとしびれ、痛みは楽になります。」明け方にしびれて目が覚め、手を振ると楽になる——これが典型的な経過です。手のこわばり感を伴うこともあります。
3.【核心】なぜ更年期の女性に多いのか
手根管症候群は、はっきりした原因がない「特発性」のものが多いとされています。そして、女性に多い病気です。
ガイドラインは、日本での有病率・発症率は大規模な調査がなく不明としています。女性と男性の値は1980年代のオランダの調査の推定です。
ガイドラインは「わが国における有病率・発症率については大規模調査が行われておらず不明であるが」と断ったうえで、オランダの調査で成人女性9.2%、男性0.6%と推定されていることを紹介しています。女性は男性の約15倍です。
なぜ女性、それも更年期に多いのか。日本整形外科学会は、こう説明しています。
「妊娠・出産期や更年期の女性が多く生じるのが特徴です。」
妊娠・出産期や更年期の女性に一番多い、はっきりした原因のない手根管症候群は、「女性のホルモンの乱れによる滑膜性の腱鞘のむくみが原因と考えられています。」
伸び縮みしないトンネルの中で、腱を包む膜(腱鞘)がむくむと、トンネルの中の圧が上がり、圧迫に弱い正中神経が押しつぶされる——という仕組みです。ガイドラインの流れ図でも、なりやすい背景として「妊娠・閉経」が挙げられています。
ほかには、骨折などのけが、仕事やスポーツでの手の使いすぎ、透析、腫瘍などのできものでも起こります。更年期の体の変化全体については40代からの体の変化にまとめています。
手首の骨折(橈骨遠位端骨折)のあとに、遅れて手根管症候群が起こることもあります(→手首の骨折)。
4. しびれる場所で、ある程度見分けられる
手のしびれの原因は、手根管症候群だけではありません。日本整形外科学会は、しびれる場所によってある程度予測がつくとしています。
しびれではなく、指の関節や付け根、手首の親指側の痛みが中心の場合は指と手首の痛みで整理しています。
あくまで目安です。いずれの場合も整形外科医への相談が勧められています。
首の骨の病気によるしびれの特徴と、首の痛みへのガイドラインの推奨は、首の痛み・肩こりにまとめています。
日本整形外科学会は、自分でできる確認の方法も紹介しています。両手の手首を直角に曲げて、手の甲どうしを合わせた形で1分間保ちます。その間にいつものしびれが強くなれば、手根管症候群の可能性が高まります。医療機関ではこれをファレンテストと呼び、手首を軽くたたいて指先にしびれが響くか(ティネル様サイン)もあわせて診ます。補助の検査として、神経の伝わる速さを測る電気の検査が行われます。
一方、朝起きたときに体の下になっていた手がしびれ、すぐに治まるのは、一時的に血行が悪くなったためで心配ないとされています。違いは、手根管症候群では朝方に目が覚めたときにしびれや痛みが強くなり、手指を動かすと軽くなることです。
5. 進むと、親指の付け根がやせてくる
手根管症候群でいちばん注意したいのは、しびれの先です。日本整形外科学会は、ひどくなると母指の付け根(母指球)がやせて、親指と人さし指できれいな丸(OKサイン)ができなくなると書いています。縫い物がしづらくなり、細かいものがつまめなくなります。
ガイドラインも、進むと親指を動かす筋肉の力が落ち、「これらの筋が筋萎縮による不可逆的変化へ進行する可能性がある.」としています。「不可逆的」とは、元に戻らないという意味です。
だからこそ、治療の選び方は筋肉がやせているかどうかで分かれます。ガイドラインは、痛みやしびれが我慢できる範囲で、筋肉のやせを伴わない軽症の場合は、手首の安静を目的とした保存療法を選ぶとしています。親指の付け根のふくらみを、反対の手と見比べてみてください。
6. 夜の手首の装具——しびれには「提案」、痛みには差なし
保存療法の代表が、夜に手首の装具(スプリント)を着ける方法です。ガイドラインはこう説明しています。
「夜間カックアップスプリントの装着による良肢位保持によりしびれの緩和が期待される」
カックアップスプリントとは、手首を曲がりすぎない位置に保つ装具です。眠っているあいだに手首が曲がったままになると、トンネルの中の圧が上がるためです。日本整形外科学会も、保存療法の一つとしてシーネ固定などの局所の安静を挙げています。
ガイドラインは、装具療法を行うかという問い(CQ3)に、「知覚異常の改善に装具療法を行うことを提案する.」と答えました(作成班の合意率100%)。17本のランダム化比較試験を調べた結果は、次のとおりです。
比べた相手には、何もしない場合だけでなく、ほかの治療も含まれています。装具の有無だけを純粋に比べた研究は少ないとされています。
しびれ(知覚異常)と、神経の反応時間は改善しました。一方で、痛みと日常生活の動作には差がありませんでした。ガイドラインは、装具療法は「機能を低下させる可能性は低いと考えられるが,改善させるとは言えず,益と害のバランスは明確ではない.」としつつ、夜に着けることでしびれが軽くなるため患者満足度は高いと書いています。そして、こう付け加えています。「根本的な治癒は困難である.」
まとめると、夜の装具は明け方のしびれを和らげる手段であって、病気の原因を取り除く手段ではない、ということです。
この章で扱った手首を一定の角度に保つ装具です。理学療法ガイドライン第2版は、手根管症候群の人に、しびれ(知覚異常)を対象として装具療法を「提案」しています。日本整形外科学会も、保存療法の一つとしてシーネ固定などの局所の安静を挙げています。
※ 当サイトは、記事のなかで根拠を示したうえで推奨したものに限り広告を掲載しています。ガイドラインの研究のまとめで良くなったのは、しびれ(知覚異常)と神経の反応時間です。痛みと日常生活の動作には差がありませんでした。ガイドラインは「根本的な治癒は困難である.」としています。ガイドラインが想定しているのは、夜間に手首を良い位置に保つ装具です。親指の付け根がやせてきた、OKサインがきれいに作れない場合は、装具で様子を見ずに整形外科を受診してください。しびれの原因が手根管症候群かどうかは、自分では区別できません。きつく締めると血行を妨げることがあるので、指先の色やしびれが悪くなる場合は外してください。ここで紹介しているのは、ミューラーの手首サポーター「フィッテッド リストブレイス」です。販売店の説明によると、手のひら側のアルミの支えで手首を一定の角度に保ち、手の甲側にもプラスチックの支えが入っています。左右別で、サイズは手首回り12〜20cm(S〜M)と20〜25cm(L〜XL)です。医療機関で処方される装具(スプリント)とは別の、市販のサポーターです。
7. 運動・薬・注射・手術
運動療法(CQ2)について、ガイドラインは、手術をしていない手根管症候群の人に、関節を動かす運動、筋力をつける運動、神経滑走運動(神経を滑らせるように動かし、圧迫された部分の負担を減らす運動)を行うことを「提案」しています。21本のランダム化比較試験のまとめでは、痛みと感覚の検査は改善しましたが、握力・つまむ力・日常生活の動作には差がなく、根拠の強さはすべて「非常に弱い」でした。自己流ではなく、医療機関で教わって行うのが確実です。
薬と注射について、日本整形外科学会は、診断がついたら消炎鎮痛剤やビタミンB12などの飲み薬、塗り薬、運動や仕事の軽減、注射(手根管の中への注射)などの保存療法を行うとしています。ガイドラインは、痛みに対してはステロイドの手根管内への注射やステロイドの内服が有効とされているとしています。
手術は、保存療法で良くならないもの、親指の付け根の筋肉がやせたもの、できもの(腫瘤)があるものなどが対象です。日本整形外科学会によれば、現在は内視鏡を使う方法や、小さな切開で行う方法が行われています。ガイドラインは、手術を受けた人について主な症状であるしびれは改善すると報告され、患者満足度も高いとしています。
8.【内科医の視点】糖尿病の人に多い
内科医として見逃してほしくないのが、全身の病気との関係です。ガイドラインは、発症のきっかけとして、手根管を狭める局所の原因、神経の弱さ、全身の要因の3つを挙げています。
- 糖尿病:多発神経炎を伴う場合の発症率は30%、伴わない糖尿病の人でも14%
- 透析:9年以上透析を受けている人の30%に生じている
- 関節リウマチ:発症率が高いとされている
また、局所の圧迫や片側の使いすぎがきっかけでない場合は、両側に起こることが多いとされています。両手がしびれる方、しびれが手だけでなく足にもある方は、糖尿病による神経障害など、全身の病気が隠れていないかも確認してください。健康診断の血糖値・HbA1cを一度見直すことをお勧めします。数値の読み方は糖尿病予備軍、腎臓はeGFRと尿蛋白の記事で書いています。
糖尿病は、五十肩の最大のリスクでもありました。肩も手も、という方は特に、一度血糖を確認してください。
9. 🚨 受診したほうがよいとき
日本整形外科学会は、手根管症候群について「上記の症状があるときは整形外科医に相談してください。」、手のしびれ全般について「一過性のもの以外は、放置しないで整形外科医にご相談ください。」としています。特に次のような場合は、早めに受診してください。
受診したいとき(資料の記述から)
・明け方のしびれや痛みが続いている(一時的に治まるしびれではない)
・親指の付け根(母指球)がやせてきた、親指と人さし指できれいなOKサインが作れない、細かいものがつまめない
・手の甲・前腕・二の腕までしびれる、両手がしびれる、手足の両方がしびれる(首の骨や神経全体の病気のことがあります)
・手首やひじにしこり(できもの)がある
すぐに救急を受診してほしいとき
日本整形外科学会は、「片側の手足がしびれる場合や上肢のほかに口の周りなどがしびれる場合などには、頭の中の病気(脳腫瘍や脳血管障害などの頭蓋内病変)を考えます。」としています。突然、片側の手足や口のまわりがしびれた場合は、様子を見ずに救急を受診してください。
最後に、この記事の要点をもう一度。
① 手首のトンネルで正中神経が圧迫される病気。明け方にしびれ、手を振ると楽になる
② しびれるのは親指〜薬指の親指側半分。場所である程度見分けられる
③ 妊娠・出産期や更年期の女性に多い。海外の調査で女性9.2%、男性0.6%
④ 夜の手首の装具はしびれの改善に「提案」。痛み・日常生活の動作には差なし
⑤ 進むと親指の付け根がやせ、元に戻らないことがある。OKサインを確認
⑥ 糖尿病の人に多い。両手のしびれなら血糖も確認を
10. よくある質問
明け方に手がしびれて目が覚めます。手根管症候群でしょうか?
可能性があります。日本整形外科学会によれば、手根管症候群では朝方に目が覚めたときにしびれや痛みが強くなり、手を振ったり指を曲げ伸ばしたりすると楽になるのが特徴です。しびれる場所が親指・人さし指・中指と薬指の親指側半分(手のひら側)であれば、手根管症候群が最も疑われます。一方、体の下になっていた手がしびれ、すぐに治まる場合は、一時的に血行が悪くなったためで心配ないとされています。一時的なもの以外は、整形外科医に相談してください。
なぜ更年期の女性に多いのですか?
日本整形外科学会は、手根管症候群は妊娠・出産期や更年期の女性が多く生じるのが特徴で、はっきりした原因のない手根管症候群は、女性のホルモンの乱れによる滑膜性の腱鞘のむくみが原因と考えられているとしています。伸び縮みしない手首のトンネル(手根管)の中で腱鞘がむくむと、中の圧が上がり、正中神経が圧迫されます。理学療法ガイドライン第2版でも、オランダの調査で有病率は成人女性9.2%、男性0.6%と推定されていることが紹介されています。
手首のサポーターや装具は効きますか?
理学療法ガイドライン第2版は、手根管症候群の人に対して、知覚異常の改善に装具療法を行うことを提案しています。夜間に手首を良い位置に保つ装具(カックアップスプリント)で、しびれの緩和が期待されるとしています。ただし、研究のまとめでは、しびれや神経の反応時間は改善した一方、痛みや日常生活の動作には差がありませんでした。ガイドラインは「根本的な治癒は困難である」とも書いています。親指の付け根がやせてきた場合は、装具で様子を見ずに受診してください。
放っておくとどうなりますか?
日本整形外科学会によれば、ひどくなると親指の付け根(母指球)がやせて、親指と人さし指できれいな丸(OKサイン)ができなくなり、縫い物や細かいものをつまむことが難しくなります。理学療法ガイドライン第2版も、進行すると親指を動かす筋肉の力が落ち、筋萎縮による元に戻らない変化へ進む可能性があるとしています。筋肉のやせを伴わない軽症のうちは、手首の安静を目的とした保存療法が選ばれます。
糖尿病と関係がありますか?
関係があります。理学療法ガイドライン第2版は、糖尿病で多発神経炎を伴う場合の手根管症候群の発症率は30%、伴わない糖尿病の人でも14%と紹介しています。9年以上透析を受けている人の30%に生じていること、関節リウマチでも発症率が高いことも書かれています。両手がしびれる方、足にもしびれがある方は、健康診断の血糖値やHbA1cも確認してください。
参考にした主な資料
- 日本理学療法学会連合 理学療法標準化検討委員会ガイドライン部会 編「理学療法ガイドライン 第2版」医学書院、2021年(第10章 手関節・手指機能障害理学療法ガイドライン〈日本運動器理学療法学会〉:手根管症候群の疾患総論、BQ1〜BQ3、CQ1〜CQ3)。Minds ガイドラインライブラリで本文公開中
- 日本整形外科学会「手根管症候群」「しびれ(上肢のしびれ)」(症状・病気をしらべる)