1. 先に結論
| よくある思い込み | 資料の記述 |
|---|---|
| アキレス腱を痛めるのはスポーツ選手だけ | 活動量が高くない仕事の人にも起こる。平均の発症年齢は30〜50歳 |
| 痛いなら、動かさずに安静にする | かかとを段差からゆっくり下ろす筋トレを条件付きで推奨 |
| 足の使いすぎだけの問題 | 肥満・高血圧・脂質異常症・糖尿病も関連する |
| テーピングで支えればよい | テーピングを調べた研究は採用されず、米国の学会は「使用すべきではない」という専門家の意見 |
| かかとの上の痛みは、どこでも同じ | 腱のつけ根(かかとの骨)付近の痛みは、手術をしない治療で改善する割合が低いという報告がある |
この記事でいちばんお伝えしたいこと。
アキレス腱の痛みは、まず3〜6か月は手術をしない治療で様子を見るのが基本です。その中心は、ふくらはぎの筋肉を使う運動と靴・中敷きの見直し。そして、健診で体重・血圧・コレステロール・血糖を指摘されている方は、それもアキレス腱の負担に関わっていると知っておいてください。
2. アキレス腱障害は、運動しない人にも起こる
この記事で主に使う資料は、日本理学療法学会連合がまとめた「理学療法ガイドライン 第2版」の第14章(足関節・足部機能障害)のうち、アキレス腱障害の部分です。基本的な疑問(BQ)への答えと、4つの臨床の問い(CQ)への推奨が載っています。
アキレス腱障害は、アキレス腱のまわりの痛み・腫れ・動かしにくさをまとめた呼び方で、使いすぎによる障害に分類されます。症状について、ガイドラインはこう書いています。
「明らかな外傷歴がなく症状が出現し,活動を制限する疼痛が持続し,運動パフォーマンスを低下させる.朝や歩行開始時のこわばり,アキレス腱に沿った圧痛や肥厚,スポーツ動作時の疼痛,筋力低下などの症状が徐々に発症する」
初めは運動を始めるときの痛みが中心で、進行すると安静にしていても痛み、歩くのが難しくなることもあるとされています。
どんな人に多いのか。陸上の長距離選手や、バスケットボール・バレーボールのようにジャンプの多い競技の選手に多い一方で、ガイドラインは「活動量が高くない仕事に従事している場合でも発症することがある」とし、「年齢の上昇に伴い有病率が増加するが,平均罹患年齢は30~50 歳である」と書いています。
痛む場所によって、2つに分けて考えます。
| 腱の途中(実質部) | 腱のつけ根(付着部) | |
|---|---|---|
| 場所 | かかとの骨のつけ根から2cmより上 | かかとの骨のつけ根から2cm以内 |
| 手術をしない治療の結果(運動療法の報告) | 89%が満足のいく結果 | 32% |
ガイドラインは、手術をしない治療の結果は全体として良好という報告が多いとしつつ、つけ根の障害は改善する割合が低いという報告があることを紹介しています。かかとの骨のすぐ上が痛む場合は、長引く可能性があることを知っておいてください。
3.【核心】4つの推奨を一覧で見る
ガイドラインの流れ図では、アキレス腱障害は痛みや機能障害に応じて「少なくとも3~6 か月の保存療法」を行い、効果を判定するとされています。その保存療法の中身について、4つの推奨が出ています。
根拠の強さは、ガイドラインではC(弱い)、D(とても弱い)と表されています。4段階のうち、Cは下から2番目、Dはいちばん下です。
4つの中で、根拠の強さが一段高かったのが中敷き(足底挿板)でした。ただ、どれも「強い根拠がある」わけではありません。ガイドラインは、たとえば物理療法について「研究の質と数(規模)に課題が残されている.」と書いています。
4. 段差でかかとを「ゆっくり下ろす」筋トレ
筋トレについての問い(CQ1)への答えは、「足関節底屈筋の筋力強化運動を行うことを条件付きで推奨する.」。足関節底屈筋は、つま先立ちをするときに働くふくらはぎの筋肉です。条件として、遠心性運動(筋肉が伸ばされながら力を出す運動)か、高負荷低速度抵抗運動(重い負荷でゆっくり行う運動)を行うことが挙げられています。
研究でよく使われてきた遠心性運動のやり方を、ガイドラインはこう紹介しています。
「階段などの段差の端に立ち,片脚で最大底屈位から最大背屈位まで底屈筋の遠心性運動を行う.膝伸展位と膝屈曲位で,それぞれ15 回3 セットを毎日2 回ずつ,12 週間継続する.」
段差の端に立って、つま先立ちの位置から、痛む側の脚でかかとを段差より下までゆっくり下ろしていく運動です。膝を伸ばした姿勢と、膝を曲げた姿勢の両方で行います。もう一つの高負荷低速度抵抗運動は、トレーニング機器を使って週3回を12週間行う方法です。
一般向けの要約によると、遠心性運動は痛みと自覚的な症状を改善する報告があり、高負荷低速度抵抗運動とは3か月〜1年の効果に差がありませんでした。また、筋肉を縮めながら力を出す運動(求心性運動)と比べて、ジョギングやウォーキングを再開できた割合は遠心性運動のほうがよかったという報告もあります。
ただし、大事な注意が2つ書かれています。
ガイドラインの注意点
・研究の対象の多くは、発症から3か月以上(少なくとも4週以上)たった人
・多くの研究では、糖尿病や関節リウマチなどの全身の病気、変形性関節症、アキレス腱の手術歴がある人は対象から外されている。こうした人では効果やリスクがわかっていない
糖尿病のある方は、自己流で始めず、主治医や整形外科で相談してからにしてください。ガイドラインは、自宅でできる一方で続けにくいという指摘があるため、定期的なフォローが望ましいとも書いています。
5. ストレッチは、段差でかかとを下げて15秒
ストレッチと手技による治療(徒手療法)についての問い(CQ2)では、自分の体重を使ったストレッチが条件付きで推奨されました。根拠になった研究は、次のような方法です。
「荷重位において段差の端から踵を下げた状態で下腿部に伸張感を感じながら最低15 秒間保持する方法を6 週間続けることで疼痛軽減に有効であったと報告されており」
ただし、これは1つの研究で、実施する前と後を比べただけのものです。一般向けの要約は、安静だけの場合や、ほかの方法と比べた研究は「現在まで行われていないのが現状」としています。手技による治療(関節モビライゼーション)については、採用された論文が1つもありませんでした。
6. 中敷き(足底挿板)は根拠C。テーピングは勧められていない
4つの中で根拠が一段強かったのが、装具療法(CQ4)です。結論は「装具療法を行うことを条件付きで推奨する.」で、条件は足底挿板による装具療法。足底挿板について、ガイドラインは「靴に入れる治療用の中敷きである.」と説明しています。
一般向けの要約はこう答えています。
「アキレス腱障害患者に対して,足底挿板による装具療法を行うことで,痛みの軽減や活動復帰率などの有効性が示されています.しかしながら,わずかではありますが装具の適合不良により,装具の使用を中断する患者もいました.」
採用された研究は3本で、通常の理学療法や、4章の筋トレと同程度の効果を示す可能性がありました。そのうち1本は、土踏まず(足のアーチ)とかかとに空気のクッションを持つ海外製の装具を調べたもので、足のアーチに働きかける仕組みが同じことから、中敷きとして扱われています。
費用についても書かれています。日本では、医師が治療に必要と認めて装具を処方した場合、購入費用が医療保険から療養費として支給される仕組みがあり、ガイドラインは「医療保険下で処方された装具のコストはわずかである.」としています。一方で、医療保険が使えない装具もあるので注意が必要としています。
この章で扱った中敷き(インソール)です。理学療法ガイドラインは、アキレス腱障害に足底挿板(靴に入れる治療用の中敷き)による装具療法を条件付きで推奨しています(根拠C)。研究には、足のアーチとかかとに働きかける装具も含まれていました。
※ 当サイトは、記事のなかで根拠を示したうえで推奨したものに限り広告を掲載しています。ガイドラインが推奨しているのは、医師が処方する「治療用の中敷き」です。市販のインソールそのものを調べた研究は、ガイドラインには含まれていません。整形外科を受診すると、医療保険を使って治療用の中敷きを作れる場合があります。まずは受診して相談するのが確実です。市販品を使う場合は、ガイドラインにある「装具の適合不良」に注意し、足や靴に合わない、痛みが強くなるといった場合は使用をやめてください。糖尿病で足の感覚が鈍い方は、靴ずれや傷に気づきにくいため、使う前に主治医にご相談ください。ここで紹介しているのは、ザムスト(ZAMST)のインソール「フットクラフト スタンダード」です。販売店の説明によると、土踏まずの高さ(LOW・MIDDLE・HIGH)を3種類から選び、サイズはS〜3Lで、素材はポリエステル・EVA・ナイロン・ポリウレタンです。医療機器ではありません。
テーピングについては、研究が採用されませんでした。ガイドラインは、米国理学療法協会のガイドライン(2018)が専門家の意見として「痛みの軽減や機能的パフォーマンスの向上のために治療用弾性テープを使用すべきではない」としていることを紹介しています。
7. 医療機関で受ける物理療法
物理療法(CQ3)では、研究で調べられていたレーザー治療、拡散型体外衝撃波治療、低出力パルス超音波治療、微弱電流治療、電磁波治療の5種類が検討されました。電磁波治療の機器は国内で販売されておらず、それ以外は医師の処方で実施でき、保険適用が可能とされています。
一般向けの要約は、発症から3か月以上たった慢性のアキレス腱障害に対して、「第一に拡散型体外衝撃波治療,第二にレーザー治療,低出力パルス超音波治療,微弱電流治療のいずれかを推奨します.」としています。皮膚に軽い赤みが出ることはあるものの、問題となる副作用は報告されていません。いずれも医療機関で受ける治療で、家庭用の機器の話ではない点に注意してください。
8.【内科医の視点】肥満・高血圧・脂質・血糖とのつながり
内科医として、ここはぜひ知っておいてほしいところです。アキレス腱障害の危険因子について、ガイドラインはこう答えています。
「内因性要因として足関節・足部の可動域制限,足関節底屈筋の筋力低下,足部のアライメント不良,腱の滑走不全,股関節機能の低下が挙げられる.肥満や高血圧,脂質異常症,糖尿病などの全身性基礎疾患の有無も関連する.外因性要因としては,スポーツによるオーバーユース,不適切な運動方法,急激な運動量の増加,靴の不適合などが挙げられる」
アキレス腱の痛みは足の問題に見えて、健診で毎年チェックしている4つの項目——体重、血圧、脂質、血糖——とつながっています。日本スポーツ整形外科学会も、アキレス腱断裂の解説で、運動や体重増加による負担に加え、コレステロール値の高い人やステロイド薬を使用している人も腱が変性しやすく注意が必要としています。
| 健診で指摘されていること | あわせて読みたい記事 |
|---|---|
| 体重・おなかまわり | 40代の代謝と筋肉 |
| 血圧 | 家庭血圧の記事 |
| LDLコレステロール | コレステロールと家族性高コレステロール血症(アキレス腱が厚くなることが診断の手がかりの一つ) |
| 血糖値・HbA1c | 糖尿病予備軍 |
もう一つ気をつけてほしいのが、「急激な運動量の増加」と「靴の不適合」です。健診をきっかけに急にウォーキングやジョギングを始めた、歩く量を一気に増やした——そんなときにアキレス腱を痛めることがあります。運動は少しずつ増やすこと、足に合った靴を選ぶことが、アキレス腱を守ることにもつながります。歩数の増やし方は座りすぎと歩数、持病がある方の運動は持病がある人の運動で書いています。
合わない靴は、足の裏や指のウオノメ・タコの原因にもなります(→ウオノメとタコ)。
親指の付け根や足の指の間、内くるぶしの下の痛みについては足の痛み(外反母趾・モートン病・大人の扁平足)で書いています。
9. 「蹴られた」と感じたら、アキレス腱断裂を疑う
アキレス腱障害と区別しなければならない病気として、ガイドラインはアキレス腱断裂、足関節の後ろの障害、足底筋膜炎、全身性の炎症性疾患などを挙げています。なかでも、すぐに受診してほしいのがアキレス腱断裂です。
日本スポーツ整形外科学会の解説によると、アキレス腱断裂は腱の変性(いわゆる老化現象)を基盤に発生します。そして受傷したときの感じ方に特徴があります。
「受傷時に、アキレス腱部を蹴られた、後方からボールをぶつけられたなどと感じることが多いです。アキレス腱断裂部には陥凹(へこみがある)を認めます。」
若い人はスポーツ中に、高齢の人はスポーツ以外の日常の活動中に切れることが多いとされています。治療には、ギプスや装具を使って自然にくっつける保存療法と、手術で縫い合わせる方法があり、どちらを選ぶかは主治医と相談して決めます。
10. 🚨 受診したほうがよいとき
ガイドラインの流れ図では、アキレス腱の痛みにはまず注意深い問診と身体検査を行い、アキレス腱障害以外の病気でないかを確かめます。そして、少なくとも3〜6か月の保存療法で改善しなければ、手術療法を含むほかの治療を検討するとされています。次のような場合は、整形外科を受診してください。
整形外科で診てもらいたいとき(資料の記述から)
・アキレス腱を蹴られた・ぶつけられたように感じ、そこにへこみがある(アキレス腱断裂のことがあります。すぐに受診)
・安静にしていても痛む、痛みで歩くのが難しい
・手術をしない治療を3〜6か月続けても改善しない
・糖尿病・関節リウマチなどの病気がある方(筋トレの効果やリスクがわかっていないため、運動を始める前に相談)
あわせて、健診で体重・血圧・脂質・血糖を指摘されている方は、アキレス腱の痛みをきっかけに、そちらも見直してください。足の痛みで運動ができなくなると、生活習慣病の管理にも響くからです。
最後に、この記事の要点をもう一度。
① アキレス腱障害は平均30〜50歳。運動しない人にも起こる。朝や歩き始めのこわばりが特徴
② まずは3〜6か月の保存療法。4つの推奨はすべて条件付き
③ 筋トレは、段差でかかとをゆっくり下ろす運動(1日2回・12週間)
④ 根拠がいちばん強いのは中敷き(足底挿板)。医療保険で作れる場合がある
⑤ 肥満・高血圧・脂質異常症・糖尿病、急な運動量の増加、合わない靴も関わる
⑥ 「蹴られた」感じとへこみは、アキレス腱断裂を疑ってすぐ受診
11. よくある質問
運動をしていないのに、アキレス腱が痛むのはなぜですか?
理学療法ガイドライン第2版は、アキレス腱障害は活動量が高くない仕事の人にも起こることがあり、平均の発症年齢は30〜50歳としています。危険因子として、足首の動きの硬さやふくらはぎの筋力低下、足のアライメントの不良に加え、肥満・高血圧・脂質異常症・糖尿病などの全身の病気、急激な運動量の増加、靴の不適合が挙げられています。
アキレス腱が痛いときは、安静にしたほうがいいですか?
理学療法ガイドライン第2版は、ふくらはぎの筋力強化運動を条件付きで推奨しています。研究でよく使われたのは、段差の端に立ってかかとをゆっくり下ろす遠心性運動を、膝を伸ばした姿勢と曲げた姿勢でそれぞれ15回3セット、毎日2回、12週間続ける方法です。ただし研究の多くは発症から3か月以上たった人が対象で、糖尿病や関節リウマチのある人は除外されていたため、こうした方は医師に相談してから行ってください。
インソール(中敷き)は効果がありますか?
理学療法ガイドライン第2版は、足底挿板(靴に入れる治療用の中敷き)による装具療法を条件付きで推奨し、根拠の強さは4つの推奨の中で最も高いC(弱い)でした。痛みの軽減や活動への復帰に有効性が示された一方、装具が合わずに使用を中断する人もいました。医師が処方した装具は医療保険から療養費が支給される仕組みがあるため、まず整形外科で相談するのが確実です。
テーピングはしたほうがいいですか?
理学療法ガイドライン第2版では、テーピングの効果を調べた研究は採用されませんでした。ガイドラインは、米国理学療法協会のガイドライン(2018)が専門家の意見として「痛みの軽減や機能的パフォーマンスの向上のために治療用弾性テープを使用すべきではない」としていることを紹介しています。
アキレス腱が切れたかどうかは、どうやってわかりますか?
日本スポーツ整形外科学会によると、アキレス腱断裂では、受傷時にアキレス腱のあたりを蹴られた、後ろからボールをぶつけられたと感じることが多く、切れた部分にへこみがみられます。腱の変性(いわゆる老化現象)を基盤に起こり、高齢の人ではスポーツ以外の日常の活動中に切れることが多いとされています。疑わしいときは、すぐに整形外科を受診してください。
参考にした主な資料
- 日本理学療法学会連合 理学療法標準化検討委員会ガイドライン部会 編「理学療法ガイドライン 第2版」医学書院、2021年(第14章 足関節・足部機能障害理学療法ガイドライン〈日本運動器理学療法学会〉:アキレス腱障害の疾患総論、BQ1〜BQ6、CQ1〜CQ4)。日本理学療法学会連合のサイトで章ごとに全文公開中
- 日本整形外科スポーツ医学会(現 日本スポーツ整形外科学会)広報委員会 監修「スポーツ損傷シリーズ 9.アキレス腱断裂」(2022年3月作成。日本整形外科学会「アキレス腱断裂」から案内)